説明

テトラヒドロピリジン誘導体及びその製造方法

【課題】テトラヒドロピリジン誘導体を合成する手法を確立すること。
【解決手段】
下記式(3)で示されるテトラヒドロピリジン誘導体。


(ここでRは、アリール基であり、Rはアリール基又はアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロピリジン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、触媒的不斉合成法は様々な金属触媒を用いることにより達成されているが、これら触媒には高度に立体選択的な反応場を構築すべく緻密に設計された配位子が用いられており、例えば、従来の技術として、イミダゾリン−アミノフェノール配位子が下記特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−044928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載のいずれにおいても、金属錯体を触媒として用いたピロールとニトロアルケンのマイケル反応を触媒的不斉合成法に応用した例は無く、反応基質の拡大のためには金属触媒を用いた反応系の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、金属触媒を用いたマイケル反応及びそれにより得られるピロール誘導体を出発原料とするテトラヒドロピリジン誘導体合成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、金属にイミダゾリン配位子を配位させた触媒の存在下で、ピロールとニトロアルケンを反応させることで、ピロール誘導体を合成し、ピロール誘導体の還元、続くアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応を行うことで(3)で示されるテトラヒドロピリジン誘導体を得ることができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の一手段に係るピロール誘導体を製造する方法は、下記式(1)で示される触媒の存在下で、ピロールとニトロアルケンを反応させる。
【化1】

【0009】
なおこの結果、下記式(2)で示されるピロール誘導体を得ることができる。
【化2】

(ここでRはアリ−ル基又はアルキル基である)
【0010】
また、上記式(2)で示されるピロール誘導体はニトロ基の還元し、続くアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応により下記式(3)で示されるテトラヒドロピリジン誘導体を合成することができる。なお、ここでの還元反応は限定されるわけではないが、例えばニッケルボライドと水素化ホウ素ナトリウムを用いることにより達成できる。
【化3】

(ここでRはアリール基であり、Rはアリール基又はアルキル基である)
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明により、金属触媒を用いたマイケル反応及びそれにより得られるピロール誘導体を用いて合成したテトラヒドロピリジン誘導体を提供することが可能となり、反応基質の拡大を行なうことができる。また、本発明によると非常に高い収率を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(実施形態1)
本実施形態に係るピロール誘導体の製造方法は、下記式(1)で示される触媒の存在下で、ピロールと、ニトロアルケンを反応させる。
【化4】

【0014】
本実施形態において用いられる触媒における配位子は、その構成中に窒素で架橋されたイミダゾリン骨格とフェニル骨格とを有しているため、反応場が広い。またフェノール環にニトロ基を有するため活性が高い。
【0015】
また、配位子を配位させる金属としては、配位させることができる限りにおいてこれに限定されるわけではないが、例えば銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。また配位子を金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属が銅である場合、CuCl、CuOAc、CuCl、Cu(OAc)、Cu(OTf)等を用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る触媒は、ピロールを用いた不斉Friedel−Crafts反応を行なうために用いることができる。具体的には、本実施形態に係る触媒の存在下で、下記式で示される反応のように、ピロールとニトロアルケンを反応させてピロール誘導体を合成することができる。
【化5】

【0017】
上記反応は、トルエン中において行なうことが好ましい。
【0018】
上記反応において、反応基質として用いられるニトロアルケンは下記式(4)で示される。ここにおいてRは限定されるわけではないが、例えばアリール基又はアルキル基を用いることができる。アリール基の場合、限定されるわけではないが、電子求引性基であることが好ましく、具体的にはフェニル基、トリル基、p−ブロモフェニル基、p−メトキシフェニル基、1−ナフチル基等を挙げることができるがこれに限定されない。またアルキル基の場合、炭素数3以上8以下の直鎖状の又は分岐を有するものであることが好ましく、具体的には、イソプロピル基、シクロヘキシル基、1−フェニルエチル基を挙げることができる。なお、上記反応において、用いるニトロアルケンの量は、ピロールを1モルとした場合、0.5モル以上1モル以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.5モル以上0.6モル以下の範囲内である。
【化6】

【0019】
この結果、本実施形態に係る方法によると、下記式(2)で示すピロール誘導体を得ることができる。
【化7】

(ここでRは、アリール基又はアルキル基である。)
【0020】
(配位子の合成)
また本実施形態に係る配位子は、限定されるわけではないが、合成によって製造することができる。合成方法も、上記配位子を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば以下に示す方法により合成することができる。
【0021】
まず、下記式(5)で示されるジアミンに対し、酸存在のもと、クロロオルト酢酸トリエチルを反応させることで、下記式(6)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンを得ることができる。
【化8】

【化9】

【0022】
次に、上記式(6)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンに対し、塩基として有機アミンのもと、スルホニルクロライド又はアルキルはライドを反応させることで、下記式(7)で示される化合物を得ることができる。
【化10】

【0023】
次に、上記式(7)で示される化合物に対し、アルキルアミンを反応させることで下記式(8)により示される第二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を得ることができる。特に、上記式(7)において、Xがクロル基の場合、ヨウ化ナトリウムの存在の元に行なうのが好ましい。
【化11】

【0024】
次に、上記式(8)で示されるイミダゾリン化合物に対し、還元剤のもと3−ニトロ−5−ブロモサリチルアルデヒドを反応させることで上記式(1)の本実施形態に係る配位子を得ることができる。還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウムが好適である。
【化12】

【0025】
以上、本実施形態に係る触媒によると、不斉触媒を用いて不斉Friedel−Crafts反応と複数の化合物を一度に合成することが可能であり、より高効率で有用な不斉合成法、それに用いられる触媒更には配位子となる。
【0026】
(実施例)
ここで、上記実施形態に係る触媒の効果につき、実際に触媒を作成し、その効果を確認した。以下に具体的に説明する。なおもちろん、上記実施形態に係る触媒も多くの異なる実施が可能であり、以下に示す実施例に限定されるわけではない。
【0027】
(触媒の準備)
本実施例では、下記式(1)で示される配位子を合成し、その配位子を金属に配位させ、不斉Friedel−Crafts反応に用いた。
【化13】

【0028】
(配位子の合成)
まず(S,S)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミンを1g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で15時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでクロロメチル末端を有するイミダゾリンを1.01g得た。
【0029】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミン0.257mlの存在下、パラトルエンスルホニルクロライド0.248gと0℃で60分反応させ、シリカゲルクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.401g得た。
【0030】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリンを0.543g用い、ヨウ化カリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で14時間反応させ、シリカゲルクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を有するイミダゾリンを677g得た。
【0031】
次に、二級アミン部位を有するイミダゾリン0.509gを用い、3−ブロモ5−ニトロサリチルアルデヒド0.492gと1時間室温で攪拌した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて2時間かけて2.0ml加え、その後室温にて30分攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(1)で示される配位子を0.342g得た。
【0032】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(1)で示される化合物であることが確認できた。なおプロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(500MHz, CDCl)δ1.54(d、3H)、2.36(s、3H)、3.79−3.85(m、1H)、3.93−3.99(m、2H)、4.01−4.05(m、1H)、4.15(d、2H)、4.70−4.72(m、1H)、5.04−5.07(m、1H)、6.91−6.94(m、2H)、6.99−7.02(m、2H)、7.12−7.15(m、2H)、7.20−7.25(m、3H)、7.33−7.45(m、8H)、8.00−8.02(m、1H)、8.37−8.39(m,1H),12.7(br,1H)
【0033】
そしてこの得られた配位子を0.0122g用い、これにトリフロオメタンスルホンサン銅(I)を配位させることで触媒として不斉Friedel−Crafts反応を行なった。
【0034】
(実施例1)
本実施例は、トルエン中に無水トルエン0.375mlに溶解したトランス−β−ニトロスチレン0.022g、ピロール0.021mlを上記触媒の存在下、0℃、27時間反応させることで行なった。この結果、下記に示す化合物(2−1)を0.032g得ることができた。また(2−1)の収率は73%(90%ee)であった。
【化14】

H NMR (500MHz,CDCl)δ7.88(br,1H),7.29−7.38(m, 3H),7.21−7.25(m, 2H),6.67−6.68(m,1H),6.15−6.18(m,1H),6.07−6.09(m,1H),4.98(dd,J=11.8,7.2Hz,1H),4.86−4.92(m,1H),4.80(dd,J=11.8,7.6Hz,1H);13C NMR (125MHz,CDCl) δ 137.9,129.2,128.9,128.1,127.9,118.2,108.6,105.8,79.2,42.9,Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralcel OD−H column(70:30 hexane:2−propanol,0.8mL/min,254 nm);minor enantiomer t=9.6min,major enantiomer t=11.0min, 90%ee,[α]20=−67.6(c=0.5,CHCl,90%ee);IR(neat)3419,3029,1548,1369cm−1
【0035】
(実施例2)
本実施例は、上記実施例1と、反応時間以外同じ条件で行なった。この結果、下記化合物(2−2)を0.030g得ることができた。また(2−2)の収率は81%(83%ee)であった。
【化15】

H NMR (500MHz,CDCl)δ8.08(br, 1H),7.25−7.31(m,2H),7.18−7.22(m,1H),7.08−7.13(m,2H),6.68−6.71(m,1H),6.17−6.20(m,1H),6.03−6.07(m,1H),4.45−4.54(m,2H),3.44−3.52(m,1H),2.62−2.69(m,1H),2.49−2.56(m,1H),1.96−2.02(m,2H); 13C NMR (125MHz,CDCl)δ140.7,129.3,128.5,128.3,126.2,117.5,108.8,105.6,80.3,36.7,33.7,32.9、Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralcel OD−H column (70:30hexane:2−propanol,0.8 mL/min,254 nm);minor enantiomer t=16.7min,major enantiomer tr=18.8 min、83%ee;[α]20=−7.6(c=0.5,CHCl,83%ee);IR(neat)3421,2925,1549,1379cm−1
【0036】
(実施例3)
本実施例は、上記実施例1において得られたピロール誘導体(2−1)に対し還元反応を行ったものである。本反応は、メタノール中にピロール誘導体(2−1)0.022g、ニッケルクロライド0.024g、水素化ホウ素ナトリウム0.045gを0℃、20分反応させることで行った。この結果、下記(9)に示す化合物を0.019g得た。
【化16】

H NMR (500MHz,CDOD)δ7.15−7.29(m,5H),6.61−6.64(m,1H),6.02−6.04(m,1H),5.96−5.99 (m,1H),3.96−4.01(m,1H),3.18(dd,J=12.8,8.2Hz,1H),3.05(dd,J=12.8,7.3Hz,1H); 13C NMR(125MHz,CDOD)δ144.7,134.2,130.3,129.9,128.5,119.0,109.2,106.6,48.4,31.6;IR(neat)3361,3189,3095,2924,2854,1577,1452cm−1
【0037】
次に、上記得られた還元体(9)を用いてピクテット・スペングラー反応を行った。具体的に説明すると本反応は、1,2−ジクロロエタン中に還元体(9)0.015g、4−ブロモベンズアルデヒド0.022g、硫酸ナトリウム0.100g、トリフルオロ酢酸0.006mlを40℃、1.5時間反応させることで行った。この結果、下記(3−1)に示す化合物を0.026g得た。また(3−1)の収率は80%(83%ee)であった。
【化17】

H NMR(500MHz,CDCl)δ7.77(br,1H),7.42−7.48(m,2H),7.23−7.35(m,5H),7.14−7.19(m,2H),6.57−6.61(m,1H),5.71−5.75(m,1H),5.07−5.51(s,1H),4.13−4.18 (m,1H),3.44(dd,J=12.5,5.2 Hz,1H),3.13(br, 1H),2.99(dd,J=12.5,9.2Hz,1H); 13C NMR(125MHz,CDCl)δ143.0,141.8,131.4,130.1,128.8,128.3,127.2,121.2,119.9,116.8,105.8,58.1,52.3,42.0,29.7; HRMS calcd for C1918BrN(M+H):353.0653,found,m/z353.0626;Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralpak OD−H column (90:10 hexane:2−propanol,0.8 mL/min,254nm); minor enantiomer t=16.7min,major enantiomer t= 25.8min、91%ee.[α]20=+12.1(c=0.12,CHCl
【0038】
(実施例4)
本反応は、1,2−ジクロロエタン中に、上記実施例3と同様にして得られた還元体(9)0.016g、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド0.011ml、硫酸ナトリウム0.100g、トリフルオロ酢酸0.007mlを40℃、1時間反応させることで行った。この結果、下記(3−2)に示す化合物を0.023g得た。また(3−1)の収率は94%であった。
【化18】

H NMR (500MHz,CDCl)δ7.74(br,1H),7.24−7.33(m,3H),7.12−7.16(m,2H),6.61−6.64(m,1H), 6.16(br,1H),6.03−6.06(m,1H),4.18−4.23(m,1H),4.15−4.17(m,1H),3.56(dd,J=12.6,5.1 Hz,1H), 2.91−2.97(m,1H),1.60−2.00(m,6H),1.08−1.41(m,5H);13C NMR (125MHz,CDCl)δ140.7,128.8,128.4,127.8,127.4,118.3,117.1,104.9,58.9,51.4,42.3,41.0,29.8,27.2,26.7,26.68,26.5;HRMS calcd for C1925 (M+H):281.2018,found:m/z 281.2013;Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralpak AD−H column(90:10 hexane:2−propanol, 1.0 mL/min,254 nm);minor enantiomer t=43.4min,major enantiomer t=10.6min;80%ee.[α]20=+19.3(c=0.5,CHCl
【0039】
以上の通り、本実施例によると、不斉Friedel−Crafts反応を行なうことができる有用な触媒が実現できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、多環式のピロール化合物を非常に高い光学純度で供給できることから、医薬・農薬の開発と生産に有用であり、産業上の利用可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される配位子を金属に配位させた触媒を用いて下記式(2)で示されるピロール誘導体を合成し、更に、下記式(3)で示されるテトラヒドロピリジン誘導体を合成する方法。
【化1】

【化2】

(ここでRは、アリール基又はアルキル基である。)
【化3】

(ここでRはアリール基であり、Rはアリール基又はアルキル基である。)
【請求項2】
下記式(1)で示される配位子を金属に配位させた触媒を用いて下記式(2)で示されるピロール誘導体を合成する方法。
【化4】

【化5】

(ここでRはアリ−ル基又はアルキル基である。)
【請求項3】
下記式(3)で示されるテトラヒドロピリジン誘導体。
【化6】

(ここでRはアリール基であり、Rはアリ−ル基又はアルキル基である。)

【公開番号】特開2011−6363(P2011−6363A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152586(P2009−152586)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年4月24日 The Royal Society of ChemistryのChemical Communications,2009,3285−3287としてインターネット上にて発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】