説明

テトラフェニルメタン骨格を複数有する化合物

【課題】本発明は、優れた耐熱性を示す材料として有用なテトラフェニルメタン骨格を複数有する化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記式(1)で表される化合物。


(式(1)中、Aは下記式(2−1)〜式(2−6)のいずれかで表される基、または単結合を表す。Xは、下記式(3)で表される基を表す。nは、2〜4までの整数を表す。Xは、同一であっても、異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性を示すテトラフェニルメタン骨格を複数有する化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テトラフェニルメタン骨格を有する化合物が、様々な分野において新しい機能材料として注目を集めている。例えば、光学材料への応用として、発光効率が高く、高輝度で色純度がよく、耐久性に優れた発光素子を提供する目的で、テトラフェニルメタン誘導体を発光物質として使用することが提案されている(特許文献1)。また、特許文献2では、低電圧で高輝度な発光、耐久性に優れた有機電界発光素子を実現するため、正孔輸送材料としてテトラフェニルメタン誘導体を使用することが提案されている。
【0003】
他の分野への応用として、特許文献3では、低誘電率と機械強度の両立した低誘電率材料の提供を目的として、テトラフェニルメタン化合物の三次元架橋反応で得られる高分子化合物が開示されている。このような化合物は、エレクトロニクス分野、特に大規模集積回路(LSI)の層間絶縁膜や液晶配向膜などへの使用が提案されている。
【0004】
一方、このようなエレクトロニクス分野においては近年の加速的な進歩に伴い、電気絶縁材料など使用される各種材料への要求性能が高くなり、より高機能な特性(耐熱性、機械的強度など)を有する材料の開発が望まれている。なかでも、耐熱性のより一層の向上が求められており、例えば、高温下で実施されるCVD工程などを含む半導体製造プロセスに適用できるような材料が必要とされている。現在までに、特許文献3などの種々の材料が提案されているものの、十分に満足できる結果は得られておらず、さらなる改良が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−206278号公報
【特許文献2】特開2004−59557号公報
【特許文献3】特開2005−60626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような実情に鑑みて、優れた耐熱性を示す材料として有用なテトラフェニルメタン骨格を複数個有する化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<7>の構成により達成できることを見出した
【0008】
<1> 下記式(1)で表される化合物。
【化1】


(式(1)中、Aは下記式(2−1)〜式(2−6)のいずれかで表される基、または単結合を表す。Xは、下記式(3)で表される基を表す。nは、2〜4までの整数を表す。Xは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【化2】


【化3】


(式(3)中、Lは式(4−1)で表される基、式(4−2)で表される基、または単結合を表す。Lは、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基、または単結合を表す。Yは、水素原子、または式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基を表す。ただし、Lが式(4−2)で表される基または単結合の際に、Lが単結合であることはない。式(5−1)および式(5−2)中の*は、Yとの結合位置を示す。式(6−1)〜式(6−4)中の**は、Lとの結合位置を示す。)
【化4】


【化5】


<2> 前記式(3)中のLが、式(4−1)で表される基である<1>に記載の化合物。
<3> 前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが単結合である<1>または<2>に記載の化合物。
<4> 前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが式(5−1)で表される基である<1>または<2>に記載の化合物。
<5> 前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが式(5−2)で表される基である<1>または<2>に記載の化合物。
<6> 前記式(3)中のLが単結合であり、Lが式(5−1)で表される基である<1>に記載の化合物。
<7> 前記式(3)中のLが単結合であり、Lが式(5−2)で表される基である<1>に記載の化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐熱性を示す材料として有用なテトラフェニルメタン骨格を複数個有する化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係る式(1)で表される化合物について詳細に説明する。
【0011】
<式(1)で表される化合物>
本発明のテトラフェニルメタン系化合物は、下記式(1)で表される。
【0012】
【化6】


(式(1)中、Aは下記式(2−1)〜式(2−6)のいずれかで表される基、または単結合を表す。Xは、下記式(3)で表される基を表す。nは、2〜4までの整数を表す。Xは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【化7】


【化8】


(式(3)中、Lは式(4−1)で表される基、式(4−2)で表される基、または単結合を表す。Lは、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基、または単結合を表す。Yは、水素原子、または式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基を表す。ただし、Lが式(4−2)で表される基または単結合の際に、Lが単結合であることはない。式(5−1)および式(5−2)中の*は、Yとの結合位置を示す。式(6−1)〜式(6−4)中の**は、Lとの結合位置を示す。)
【化9】


【化10】

【0013】
式(1)中、Aは式(2−1)〜式(2−6)のいずれかで表される基、または単結合を表す。なかでも、合成が簡便であるという点から、式(2−1)で表される基、式(2−2)で表される基、式(2−5)で表される基、式(2−6)で表される基、または単結合が好ましく、さらに好ましくは式(2−1)で表される基、式(2−2)で表される基、式(2−6)で表される基である。
【0014】
式(1)中、Xは、式(3)で表される基を表す。式(1)中、Xは同一であっても、異なっていてもよい。
【0015】
【化11】


(式(3)中、Lは式(4−1)で表される基、式(4−2)で表される基、または単結合を表す。Lは、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基、または単結合を表す。Yは、水素原子、または式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基を表す。ただし、Lが式(4−2)で表される基または単結合の際に、Lが単結合であることはない。式(5−1)および式(5−2)中の*は、Yとの結合位置を示す。式(6−1)〜式(6−4)中の**は、Lとの結合位置を示す。)
【0016】
式(3)中、Lは式(4−1)で表される基、式(4−2)で表される基、または単結合を表す。なかでも、合成が簡便であるという点から、式(4−1)で表される基、または単結合が好ましい。
【0017】
式(3)中、Lは、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基、または単結合を表す。なかでも、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基が好ましい。式(5−1)で表される基において、L基とYを含む基とのベンゼン環上の結合配置は特に制限されず、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよく、メタ位、パラ位がより好ましい。式(5−2)で表される基において、L基とYを含む基とのベンゼン環上の結合配置は、特に制限されない。
【0018】
式(3)中、Yは水素原子、または式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基を表す。なかでも、化合物の耐熱性がより優れるという点から、水素原子、式(6−1)で表される基、式(6−3)で表される基が好ましく、さらに好ましくは水素原子、式(6−1)で表される基である。
なお、Yが式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基の場合、溶媒に対する溶解性が向上し、さらに化合物の保存安定性も向上する。
【0019】
式(3)で表される基の具体例を以下に示すが、本願はこれらに限定されない。
【0020】
【化12】

【0021】
式(3)で表される基の好ましい態様としては、以下の基が挙げられる。
【0022】
【化13】

【0023】
式(3)で表される基のより好ましい態様としては、以下の基が挙げられる。
【0024】
【化14】

【0025】
式(3)で表される基の特に好ましい態様としては、以下の基が挙げられる。
【0026】
【化15】

【0027】
式(1)で表される化合物は、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐、または環状のアルキル基(メチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、炭素数2〜10のアルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、炭素数2〜10のアルキニル基(エチニル基、フェニルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基、t−ブチルエチニル基等)、炭素数6〜20のアリール基(フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等)などが挙げられる。
【0028】
式(1)中、nは、2〜4の整数を表し、好ましくは2または3である。
【0029】
以下に、式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0030】
【化16】

【0031】
【化17】

【0032】
【化18】

【0033】
【化19】

【0034】
【化20】

【0035】
【化21】

【0036】
<式(1)で表される化合物の製造方法>
本発明の式(1)で表される化合物の製造は、特にその製造ルートは限定されず、どの様な製造方法でも採用することが可能である。例えば、Tetrahedron Letters, 38, 1485 (1997)、 Organic Letters, 4, 3631 (2002)などを参照して、これらに記載される具体的条件を必要に応じ、調整することにより所望の化合物を合成することができる。
【0037】
本発明の式(1)で表される化合物の合成方法について、下記反応スキームA、反応スキームB、および反応スキームCを参照して詳述する。なお、後述する反応スキームの中間体を市販品として購入してもよい。
【0038】
【化22】

【0039】
反応スキームAは、所望のXを有するテトラフェニルメタン部分構造の合成例である。出発物質である4−トリチルアニリンと、所定量の臭化水素酸および臭化銅(I)を、室温(−5〜10℃)下、溶媒中で反応させることのより、所望のブロモ化された化合物(a)を得ることができる。溶媒としては、反応促進を阻害しない溶媒ならどのような溶媒でもかまないが、反応原料に対する溶解度が高いものが好ましい。例えば、アセトンが挙げられる。反応雰囲気は、特に限定されず、空気下、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス)下などが挙げられる。
【0040】
化合物(a)と、所定量の[ビス(トリアセトキシ)ヨード]ベンゼンおよびヨウ素を溶媒中に加え、所定時間(12〜72時間)還流することにより所望の化合物(b)を得ることができる。
【0041】
さらに、化合物(b)と、化合物(X)、パラジウム触媒、ヨウ化銅、およびアミン化合物とを溶媒中に加え、所定の温度下(10〜40℃)で、所定時間(1〜5時間)反応させることにより所望の化合物(c)を得ることができる。パラジウム触媒としては、例えば、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)などが挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどが挙げられる。化合物(b)と反応する化合物(X)を適宜選択することにより、所望のXで表される基を有するテトラフェニルメタン部分構造体を得ることができる。なお、そのような部分構造体は、上記以外の公知の出発物質および公知の合成方法を組み合わせて合成してもよい。
【0042】
上記反応条件(温度、反応時間、反応雰囲気など)は、使用される化合物によって適宜最適な条件が選択される。
【0043】
【化23】

【0044】
反応スキームBでは、反応スキームAで得られた化合物(c)を用いて、所望の式(1)で表される化合物が得られる。化合物(c)と、トリメチルシリルアセチレン、パラジウム触媒、ヨウ化銅、およびアミン化合物とを溶媒中に加え、所定の温度下(50〜90℃)で、所定時間(2〜10時間)反応させることにより所望の化合物(d)を得ることができる。パラジウム触媒としては、例えば、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)などが挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどが挙げられる。
【0045】
化合物(d)と、アルカリ金属炭酸塩を溶媒中に加え、所定の温度下(0〜40℃)で、所定時間(0.1〜5時間)反応させることにより所望の化合物(e)を得ることができる。アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0046】
化合物(e)と銅触媒とを塩基溶媒中に加え、所定の温度下(0〜120℃)で、所定時間(0.5〜12時間)反応させることにより所望の式(1)で表される化合物である化合物(A)を得ることができる。銅触媒としては、例えば、酢酸銅(II)が挙げられる。塩基溶媒としては、例えば、ピリジンが挙げられる。
【0047】
化合物(A)と、塩基とを溶媒中に加え、所定時間(1〜12時間)還流させることにより化合物(B)を得ることができる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどが挙げられる。
【0048】
化合物(e)と、テトラキス(4−ヨードフェニル)メタン、パラジウム触媒、ヨウ化銅、およびアミン化合物とを溶媒中に加え、所定の温度下(50〜90℃)で、所定時間(1〜24時間)反応させることにより所望の化合物(E)を得ることができる。パラジウム触媒としては、例えば、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)などが挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどが挙げられる。
【0049】
化合物(E)と、塩基とを溶媒中に加え、所定時間(1〜12時間)還流させることにより化合物(F)を得ることができる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどが挙げられる。
【0050】
上述のように反応スキームAで得られるテトラフェニルメタン部分構造を、公知の方法で適宜最適な化合物とカップリング反応させることにより所望の式(1)で表される化合物を得ることができる。反応条件(温度、反応時間、反応雰囲気など)は、使用される化合物によって適宜最適な条件が選択される。
【0051】
【化24】

【0052】
出発物質であるパラローズアニリン塩酸塩と、濃硫酸およびヨウ化カリウムとを溶媒中に加え、所定の温度下(−5〜80℃)で、所定時間(6〜12時間)反応させることにより化合物(i)を得ることができる。
【0053】
化合物(i)と、フェノールおよび酸触媒とを溶媒中に加え、所定の温度下(80〜90℃)で、所定時間(4〜12時間)反応させることにより化合物(j)を得ることができる。酸触媒としては、例えば、濃硫酸が挙げられる。
【0054】
化合物(j)と、化合物(X)、パラジウム触媒、ヨウ化銅、およびアミン化合物とを溶媒中に加え、所定の温度下(10〜40℃)で、所定時間(1〜5時間)反応させることにより所望の化合物(k)を得ることができる。パラジウム触媒としては、例えば、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)などが挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどが挙げられる。化合物(j)と反応する化合物(X)を適宜選択することにより、所望のXで表される基を有するテトラフェニルメタン部分構造体を得ることができる。なお、そのような部分構造体は、上記以外の公知の出発物質および公知の合成方法を組み合わせて合成してもよい。
【0055】
化合物(k)と、トリメソイルクロリドおよび塩基とを溶媒中に加え、所定の温度下(0〜30℃)で、所定時間(0.5〜3時間)反応させることにより所望の化合物(G)を得ることができる。塩基としては、例えば、トリエチルアミンが挙げられる。トリメソイルクロリドの代わりに化合物(k)と反応する化合物を適宜選択することにより、所望の式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0056】
化合物の精製方法としては、公知の技術を利用可能である。具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶媒からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー、移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー)などが挙げられる。
【0057】
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(有機化合物)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)、質量分析(MS、LC/MS,GC/MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(HNMR、13CNMR))、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)、蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS、GF−AAS、GD−MS)などを必要に応じ、適用可能である。
【0058】
<用途>
本発明に係る式(1)で表される化合物は優れた耐熱性を示し、耐熱性が必要な様々な用途に用いることができる。具体的には、電子材料、繊維、プリント回路、粘着テープ、磁気記録媒体、電線、耐熱絶縁紙、塗料、注型材料、プリント配線板、成型材料などである。また、自由体積を多く含むテトラフェニルメタン構造を複数個有しているため、低密度な膜の形成にも適している。例えば、半導体集積回路などに使用される低誘電率層間絶縁膜などの絶縁膜や低屈折率膜などにも用いることが可能であり、CVD工程などを含む既存の半導体製造プロセスなどへの親和性も高い。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0060】
<実施例1:化合物(A)および化合物(B)の合成>
【0061】
【化25】

【0062】
以下の反応スキームに従って、化合物(A)および(B)を合成した。
【0063】
【化26】

【0064】
<合成例1:化合物(a)の合成>
4−トリチルアニリン25重量部、アセトン400重量部および臭化水素酸162重量部を反応容器に入れて撹拌した。その容器を氷浴下で冷却しながら、水100重量部に亜硝酸ナトリウム7重量部を溶解させた溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴下で30分撹拌した。その溶液に、氷浴下で臭化水素酸31.5重量部に臭化銅(I)17.4重量部を溶解させた溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後、室温で2時間撹拌した。反応後、反応液中に析出した沈殿をろ取することにより、4−トリチルブロモベンゼン(化合物(a))25.8重量部(収率:86%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 7.00(d, 2H), 7.10-7.30(m, 15H), 7.38(d, 2H))
【0065】
<合成例2:化合物(b)の合成>
4-トリチルブロモベンゼン(化合物(a))40重量部、[ビス(トリアセトキシ)ヨード]ベンゼン90.3重量部およびヨウ素58.4重量部、クロロホルム800重量部を反応容器に入れて6時間還流した。さらに、その反応溶液に[ビス(トリアセトキシ)ヨード]ベンゼン90.3重量部加えて12時間還流した。反応後、反応液中に析出した沈殿をろ取することにより、4-ブロモフェニル-トリス(4−ヨードフェニル)メタン(化合物(b))65重量部(収率:85%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 6.88(d, 6H), 7.01(d, 2H), 7.38(d, 6H), 7.58(d, 2H))
【0066】
<合成例3:化合物(c)の合成>
窒素気流下、三口フラスコに化合物(b)5.1重量部、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)0.6重量部、ヨウ化銅0.3重量部、テトラヒドロフラン53.3重量部、トリエチルアミン43.6重量部を加え均一になるまで撹拌し、10分間窒素バブリングを行った。それに、化合物(m)4.0重量部をテトラヒドロフラン8.9重量部に溶解させた溶液を加えた。室温で3時間撹拌後、溶媒を減圧留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製することにより、化合物(c)3.2重量部(収率:52%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =1.61(s, 18H),7.08(d, 2H), 7.17(d, 6H), 7.25-7.49(m, 17H), 7.58(s, 3H))
【0067】
<合成例4:化合物(d)の合成>
窒素気流下、三口フラスコに化合物(c)5.0重量部、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)0.4重量部、ヨウ化銅0.2重量部、テトラヒドロフラン26.7重量部、ジイソプロピルアミン14.4重量部を加え均一になるまで撹拌した。それに、トリメチルシリルアセチレン5.2重量部を加え、1時間還流した。その後、再度ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)0.4重量部、ヨウ化銅0.2重量部、テトラヒドロフラン8.9重量部、ジイソプロピルアミン7.2重量部を加え2時間還流し、溶媒を減圧留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により精製することにより、化合物(d)4.6重量部(収率:90%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 0.24(s, 9H), 1.61(s, 18H), 7.12-7.18(m, 8H), 7.25-7.45(m, 17H), 7.58(s, 3H))
【0068】
<合成例5:化合物(e)の合成>
化合物(d)2.0重量部をテトラヒドロフラン8.9重量部に溶解させ、それに炭酸カリウムの飽和メタノール溶液を3.0重量部加えて、室温で2時間撹拌した。反応溶液に酢酸エチルを加え、蒸留水で洗浄した。溶媒を減圧留去することにより、化合物(e)1.7重量部(収率:92%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 1.62(s, 18H), 3.08(s, 1H), 7.17-7.20(m, 8H), 7.28-7.44(m, 17H), 7.59(s, 3H))
【0069】
<合成例6:化合物(A)の合成>
化合物(e)1.2重量部をピリジン39重量部に溶解させ、それに酢酸銅(II)0.2重量部を加え、室温で2時間撹拌した。反応溶液に蒸留水500重量部を加え、2時間室温で撹拌した。析出した固体をろ取することにより、化合物(A)1.1重量部(収率:92%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 1.61(s, 36H), 7.15-7.21(m, 16H), 7.25-7.45(m, 34H), 7.58(s, 6H))
【0070】
<合成例7:化合物(B)の合成>
窒素気流下、化合物(A)0.8重量部をトルエン26重量部に溶解させた。それに、水酸化ナトリウム0.2重量部を加え、5時間還流した。不溶物をろ別後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を蒸留水により洗浄することにより、化合物(B)0.5重量部(収率:78%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =3.09(s, 6H), 7.18-7.21(m, 16H), 7.24-7.50(m, 34H), 7.64(s, 6H))
【0071】
<実施例2:化合物(C)および化合物(D)の合成>
【0072】
【化27】

【0073】
以下の反応スキームに従って、化合物(C)および(D)を合成した。
【0074】
【化28】

【0075】
<合成例8:化合物(f)の合成>
化合物(m)を化合物(n)に変更した以外は、上記合成例3と同様の方法を用いて、化合物(f)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =1.62(s, 18H),7.10(d, 2H), 7.19(d, 6H), 7.38-7.55(m, 26H), 7.67(s, 3H) , 7.74(s, 3H))
【0076】
<合成例9:化合物(g)の合成>
出発物質である化合物(c)を化合物(f)に変更した以外は、上記合成例4と同様の方法を用いて、化合物(g)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =0.23(s, 9H), 1.62(s, 18H), 7.15-7.21 (m, 8H), 7.39-7.55(m, 26H), 7.67(s, 3H) , 7.72(s, 3H))
【0077】
<合成例10:化合物(h)の合成>
出発物質である化合物(d)を化合物(g)に変更した以外は、上記合成例5と同様の方法を用いて、化合物(h)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =1.62(s, 18H), 3.06(s, 1H), 7.17-7.20 (m, 8H), 7.39-7.55(m, 26H), 7.68(s, 3H) , 7.73(s, 3H))
【0078】
<合成例11:化合物(C)の合成>
出発物質である化合物(e)を化合物(h)に変更した以外は、上記合成例6と同様の方法を用いて、化合物(C)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =1.62(s, 36H), 7.18 -7.22 (m, 16H), 7.39-7.55(m, 52H), 7.67(s, 6H) , 7.73(s, 6H))
【0079】
<合成例12:化合物(D)の合成>
出発物資である化合物(A)を化合物(C)に変更した以外は、上記合成例7と同様の方法を用いて、化合物(D)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =3.09(s, 6H),7.20-7.22 (m, 16H), 7.44-7.60(m, 52H), 7.73(s, 6H) , 7.79(s, 6H))
【0080】
<実施例3:化合物(E)および化合物(F)の合成>
【0081】
【化29】

【0082】
以下の反応スキームに従って、化合物(E)および(F)を合成した。
【0083】
【化30】

【0084】
<合成例13:化合物(E)の合成>
窒素気流下、三口フラスコにテトラキス(4-ヨードフェニル)メタン0.15重量部、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)0.025重量部、ヨウ化銅0.014重量部、テトラヒドロフラン8.9重量部、トリエチルアミン7.3重量部を加え、10分間窒素バブリングを行った。そこに、化合物(e)0.8重量部を加え、室温で3時間撹拌後、溶媒を減圧留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製することにより、化合物(E)0.4重量部(収率:57%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =1.61(s, 18H),7.15-7.21(m, 40H), 7.25-7.45(m, 76H), 7.58(s, 12H))
【0085】
<合成例14:化合物(F)の合成>
窒素気流下、化合物(E)0.5重量部とトルエン26重量部を混合し、還流して均一溶液とした。それに、水酸化ナトリウム0.5重量部を加え、5時間還流した。不溶物をろ別後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を蒸留水により洗浄することにより、化合物(F)0.18重量部(収率:45%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ =3.09(s, 12H),7.18-7.21(m, 40H), 7.24-7.50(m, 76H), 7.64(s, 12H))
【0086】
<実施例4:化合物(G)の合成>
【0087】
【化31】

【0088】
以下の反応スキームに従って、化合物(G)を合成した。
【0089】
【化32】

【0090】
<合成例15:化合物(i)の合成>
パラローズアニリン塩酸塩10重量部、濃硫酸35.4重量部および水56重量部を反応溶液に入れて撹拌した。その容器を氷浴下で冷却しながら、水23重量部に溶解させた亜硝酸ナトリウム7重量部を溶解させた溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴下で30分撹拌した。その溶液に、水31.5重量部にヨウ化カリウム56重量部を溶解させた溶液を氷浴下でゆっくり滴下した。滴下終了後、室温で5時間撹拌、80℃で30分加熱撹拌した。反応後、反応液中に析出した沈殿をろ取することにより、トリス(4-ヨードフェニル)メタノール(化合物(i))13.7重量部(収率:70%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 6.7(d, 6H), 7.7(d, 6H))
【0091】
<合成例16:化合物(j)の合成>
トリス(4-ヨードフェニル)メタノール(化合物(i))10重量部、フェノール4.4重量部および濃硫酸2重量部を反応容器に入れ、80℃で4時間加熱撹拌した。冷却後、反応溶液に10パーセントの水酸化ナトリウム溶液を加え、2時間撹拌した。析出した沈殿をろ取することにより、トリス(4-ヨードフェニル)-4-メチルフェノール(化合物(j))8.5重量部(収率:76%)を得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 6.71(d, 2H), 6.88(d, 6H), 6.96(d, 2H), 7.57(d, 6H))
【0092】
<合成例17:化合物(k)の合成>
出発物質である化合物(b)を化合物(j)に変更した以外は、上記合成例3と同様の方法を用いて、化合物(k)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR(CDCl3) δ = 1.62(s, 18H), 6.77(d, 2H), 7.04(d, 2H), 7.19(d, 6H), 7.28-7.45(m, 15H), 7.58(s, 3H))
【0093】
<合成例18:化合物(G)の合成>
窒素気流下、三つ口フラスコに化合物(k)1.8重量部、乾燥テトラヒドロフラン4.4重量部およびトリエチルアミン0.27重量部を反応容器に入れ、均一になるまで攪拌した。その容器を氷浴下で冷却しながら、トリメソイルクロリド0.18重量部を滴下した。滴下後、室温で1時間撹拌した。反応後、反応液に酢酸エチルを加え、1N HNO水溶液および水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することにより、化合物(G)1.6重量部(収率:86%)得た。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR((CD3)2CO) δ = 1.55(s, 54H), 7.20-7.58 (m, 84H), 9.14(s, 3H))
【0094】
<実施例5:化合物(H)および化合物(I)の合成>
【0095】
【化33】

【0096】
以下の反応スキームに従って、化合物(H)および化合物(I)を合成した。
【0097】
【化34】

【0098】
<合成例19:化合物(l)の合成>
出発物資である化合物(b)の代わりに化合物(j)を、化合物(m)の代わりに化合物(p)を用いた以外は、上記合成例3と同様の方法を用いて、化合物(l)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR((CD3)2CO) δ = 1.61(s, 18H), 6.75(d, 2H), 6.92(d, 2H), 7.15(d, 6H), 7.32(d, 6H), 8.39(s, 1H))
【0099】
<合成例20:化合物(o)の合成>
出発物質である化合物(A)を化合物(l)に変更した以外は、上記合成例7と同様の方法を用いて、化合物(o)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR((CD3)2CO) δ = 3.65(s, 3H), 6.79(d, 2H), 6.99(d, 2H), 7.21(d, 6H), 7.44(d, 6H), 8.42(s, 1H))
【0100】
<合成例21:化合物(H)の合成>
出発物質である化合物(k)を化合物(l)に変更した以外は、上記合成例18と同様の方法を用いて、化合物(H)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR((CD3)2CO) δ = 1.53(d, 54H), 7.20(d, 18H), 7.30-7.38(d, 30H), 9.14(s, 3H))
【0101】
<合成例22:化合物(I)の合成>
出発物質である化合物(k)を化合物(o)に変更した以外は、上記合成例18と同様の方法を用いて、化合物(I)を合成した。なお、H−NMR測定よりその構造を同定した。(1H-NMR((CD3)2CO) δ = 3.67(s, 9H), 7.27(d, 18H), 7.34-7.37(m, 12H), 7.49(d, 18H), 9.14(s, 3H))
【0102】
<実施例6:耐熱性の評価>
合成例1-22で得た化合物(A)-(I)について、TA Instruments社のSDT Q600(N2 100 ml/min, 20℃/min)にて耐熱性の評価を行い、5%重量減少温度を測定した。表1には、それぞれの化合物の5%重量減少温度を示した。ただし、化合物(A)、化合物(C)、化合物(E)、化合物(G)、化合物(H)の場合は、保護基(水酸基)がほぼ消失する350℃からの5%重量減少温度を示した。
【0103】
【表1】

【0104】
いずれの化合物も5%重量減少温度が500℃以上であり、非常に高耐熱であることが明らかとなった。特に、化合物(B)、化合物(D)、化合物(E)、化合物(F)の場合は、600℃を超える5%重量減少温度を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】


(式(1)中、Aは下記式(2−1)〜式(2−6)のいずれかで表される基、または単結合を表す。Xは、下記式(3)で表される基を表す。nは、2〜4までの整数を表す。Xは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【化2】


【化3】


(式(3)中、Lは、式(4−1)で表される基、式(4−2)で表される基、または単結合を表す。Lは、式(5−1)で表される基、式(5−2)で表される基、または単結合を表す。Yは、水素原子、または式(6−1)〜式(6−4)のいずれかで表される基を表す。ただし、Lが式(4−2)で表される基または単結合の際に、Lが単結合であることはない。式(5−1)および式(5−2)中の*は、Yとの結合位置を示す。式(6−1)〜式(6−4)中の**は、Lとの結合位置を示す。)
【化4】


【化5】

【請求項2】
前記式(3)中のLが、式(4−1)で表される基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが単結合である請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが式(5−1)で表される基である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記式(3)中のLが式(4−1)で表される基であり、Lが式(5−2)で表される基である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
前記式(3)中のLが単結合であり、Lが式(5−1)で表される基である請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記式(3)中のLが単結合であり、Lが式(5−2)で表される基である請求項1に記載の化合物。

【公開番号】特開2010−24179(P2010−24179A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186916(P2008−186916)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】