説明

テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法

【課題】試料溶液の置換がスムーズであると共に、テラヘルツ波長帯に対応した高い透過率特性を備え、しかも作業性に優れたテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法を提供する。
【解決手段】液体セル1は、テラヘルツパルス光を透過する2枚の透光性基材2,3を重ね合わして貼着され、透光性基材の界面に試料溶液(液体)が注入される液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)、導液口部3aおよび流出口部3bを有し、板厚方向の両面にモスアイ構造より成る反射防止構造を有する。この流路構成部および反射防止構造は、ウエットエッチング法を用いた一つの工程で両面の同時加工により形成される。この液体セル1は、分光計測装置などを用いて、液体流路2A内に液体を注入し、集光エリアCAにテラヘルツパルス光を照射して、液体の物性などを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法に関し、特に反射防止構造を備えたテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ周波数領域(0.1THz〜10THz程度)の光(パルス状の電磁波)を試料に照射して、試料を透過した透過光または試料から反射した反射光を検出するテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS:THz-Time Domain Spectroscopy)が注目されている。
THz−TDS法は、テラヘルツパルス分光計測装置を用い、テラヘルツ光(パルス状の電磁波)の時間に依存した試料の電場強度を測定し、その時間に依存した時系列データをフーリエ変換処理することにより、そのパルスを形成する電場強度や位相などの周波数依存性などを得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、こうしたTHz−TDS法を用いて液体(試料溶液)を測定する場合、THz光の透過性を有する三角プリズム上に溶液試料を載置して、三角プリズム底面で全反射することで発生するエバネッセント光を利用して測定する反射測定法(全反射減衰分光法)が用いられている(非特許文献1参照)。
三角プリズムを用いた反射測定法は、空気中の水分の影響を受け易く、窒素雰囲気などで用いる必要があると共に、試料溶液の置換毎に試料溶液を三角プリズム底面に完全密着させる必要があり、試料溶液の置換および測定作業に煩雑さが伴うと言う不具合が存在する。
【0004】
こうした不具合を解決するために、Si基板上にコプレーナストリップライン構造をした伝送線路およびアンテナが形成されたチップ表面に検査物体を塗布して、伝送線路を伝搬するTHz電磁波との相互作用を、空気中に染み出しているエバネッセント波を用いた反射測定法で、検査物体の物性などをセンシングするセンシング装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、さまざまな用途で用いられている光学素子は、表面反射による戻り光を減少させ、且つ透過光を増加させるために、光学機能面に反射防止処理を施したり、反射防止構造を形成したりしている。一般的な反射防止処理として、光学素子の光学機能面に低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した誘電体多層膜を形成する方法が行われている。このような反射防止膜は、波長依存性が大きく、しかも入射角が大きくなると反射防止性能が低減するという入射角依存性を有している。また、広い波長域の光、例えば可視光波長域に対応する場合であっても、数十層におよぶ多層膜を形成する必要がある。
【0006】
これに対して、光学素子の光学機能面に、使用波長以下の周期でアスペクト比(周期に対する高さの比)が1以上の微細な凹凸形状をアレイ状に配列して、屈折率を連続的に変化させることによって光の反射を抑制する反射防止構造、すなわちモスアイ構造は、不要な回折光が発生せずに高い反射防止効果が得られると共に、波長依存性や入射角依存性の課題を解消することができる。例えば、アスペクト比が1以上の六角錐形状を単位として、光の波長以下のピッチでアレイ状に配列されており、六角錐形状が、各底辺の六角形の外接円が2次元の細密構造をなし、且つ隣接する六角形の頂点同士が接するように配列された無反射構造が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2006−266908号公報
【特許文献2】特開2006−64691号公報
【特許文献3】特開2006−171229号公報
【非特許文献1】西沢潤一著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、初版、株式会社工業調査会、2005年4月1日、p.245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に示される検査物体をチップ表面に塗布して行う反射測定法は、検査物体の濡れ性や重力などで検査物体の厚みが決定されるために、表面張力や経時変化などによって厚みを制御するのが難しく、精度が高い安定した解析結果が得られ難く、しかも試料溶液の交換(置換)に困難さを伴う。また、特許文献3に示される反射防止構造は、可視光波長域に対応したものであり、数百nmレベルの超微細な加工を必要とする。したがって、試料溶液の置換がスムーズで測定作業が容易であると共に、テラヘルツ波長帯に対応した高い透過率特性を備え、高いシグナルが得られることが可能で、しかも作業性に優れたテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
本適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法は、テラヘルツ光を照射して液体の分光分析に用いられるテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、前記テラヘルツ分光分析用液体セルは、前記テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層され、積層された前記透光性基材の界面に液体が流動する流路構成部と、積層された前記透光性基材の両面に多数の微細構造の突起をアレイ状に配列した反射防止構造と、を有し、前記透光性基材の一方の面に形成された前記流路構成部と、前記透光性基材の他方の面に形成された前記反射防止構造とが、ウエットエッチング法を用いたエッチング工程で同時に形成されたことを特徴とする。
【0011】
これによれば、テラヘルツ光を照射して液体の分光分析に用いられるテラヘルツ分光分析用液体セルが、テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層され、積層された透光性基材の界面に液体が流動する流路構成部と、積層された透光性基材の両面に多数の微細構造の突起をアレイ状に配列した反射防止構造とを有し、透光性基材の一方の面に形成された流路構成部と、透光性基材の他方の面に形成された反射防止構造とが、ウエットエッチング法を用いたエッチング工程で同時に形成されることによって、加工工程が増加することはなく、作業性に優れた加工を行うことができる。よって、リードタイムを大幅に短縮することができる。また、ウエットエッチング法を用いて加工された流路構成部および反射防止構造は、加工精度が高く、しかもブラスト加工法などを用いた場合に比べて流路構成部のチッピング、あるいは微細な反射防止構造の欠陥率を大幅に減らすことができる。よって、高い精度のシグナルを得ることが可能となる。
【0012】
[適用例2]
上記適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法において、前記反射防止構造を形成する前記突起のアスペクト比(高さ/周期)が略2であるのが好ましい。
【0013】
これによれば、積層された透光性基材の両面に形成された反射防止構造が、アスペクト比(高さ/周期)が略2の微細構造の多数の突起をアレイ状に配列していることにより、THz−TDS法など用いて液体の物性などを測定する際、テラヘルツ帯の広い周波数領域において、界面での多重反射を抑制した高い透過率特性が得られる。すなわち、高い反射防止効果が得られるので、高い精度のシグナルが得られる。なお、アスペクト比が2より大きくなるに従って、対応できる波長域が広くなるが、エッチング法を用いた場合であっても欠陥率が大幅に増加して、所定形状の突起の形成が困難となる。一方、アスペクト比が2より小さくなるに従って、対応できる波長域が急激に狭くなる。
【0014】
[適用例3]
上記適用例に係るテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法において、前記透光性基材が、水晶、サファイア、透光性セラミックの内のいずれかより成ることが好ましい。
【0015】
これによれば。積層される透光性基材が、水晶、サファイア、透光性セラミックの内のいずれかより成ることによって、照射されるテラヘルツ光を高い透過率特性で透過するテラヘルツ分光分析用液体セルが容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る分光分析用液体セルの一例を、図1に基づいて説明する。
なお、本実施形態の分光分析用液体セルは、LC分析(液体クロマトグラフィー分析)などの際に、透過測定法により試料溶液の周波数依存性などの解析を行うために用いられる。
【0017】
図1は、本実施形態に係る分光分析用液体セルの構成を模式的に示す説明図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は断面図である。なお、以下に示す各図面においては、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率を実際のものとは異ならせてある。
【0018】
図1において、分光分析用液体セル(以後、液体セルと表す場合がある)1は、テラヘルツ光を透過する2枚の第1の透光性基材2および第2の透光性基材3と、マイクロチューブ4を含み構成されている。
【0019】
第1の透光性基材2および第2の透光性基材3(以後、透光性基材2,3と表す場合がある)は、共にZ板水晶より成り、外形形状が長方形の平板状を成している。例えば、平面サイズ(外形サイズ)は略10mm×17mm、板厚は略1.35mmである。なお、テラヘルツ光を透過する透光性基材2,3として、水晶の他にサファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、透光性セラミック、ルミセラ(登録商標、(株)村田製作所)などを用いることができる。また、これらを組み合わせて積層することもできる。
【0020】
透光性基材2は、一方の面に液体の通路となる流路構成部としての液体流路2Aが形成されている。また、他方の面に反射防止機能を付与するモスアイより成る反射防止構造(図示せず)を備えている。
透光性基材3は、一方の面に長方形状の一方の短辺に開口して長辺に沿う所定長さの凹部(溝)より成る流路構成部としての導液口部3aと、流出口部3bとが形成されている。また、他方の面には、透光性基材2と同様に反射防止機能を付与するモスアイより成る反射防止構造(図示せず)を備えている。なお、反射防止構造についての説明は後述する。
【0021】
そして、透光性基材2および透光性基材3の外形形状を略一致させて、透光性基材2の液体流路2Aが形成された一方面と、透光性基材3の導液口部3aおよび流出口部3bが形成された一方面同士を相対して重ね合わせて、接着剤(図示せず)を用いて接合されている。すなわち、透光性基材2と透光性基材3との界面に流路構成部としての液体流路2A、導液口部3aおよび流出口部3bが形成され、さらに相対して重ね合わされた板厚方向の両面となる透光性基材2,3の表面に、反射防止構造が形成されている。
【0022】
透光性基材2に形成された液体流路2Aは、渦巻状流路部2aと、導液流路部2bと、流出流路部2cとから成る一本の流路で構成されている。液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)は、例えば、幅100μm、深さ100μm程度の同一サイズの凹部(溝)で形成されている。
【0023】
なお、透光性基材2の一方の面(液体流路2Aが形成された面)には、液体流路2Aとなる凹部(溝)に掛からず、且つ透光性基材3に形成された導液口部3aおよび流出口部3bとなる凹部に掛からない領域に接着剤の落とし溝として機能する多数の凹部がマトリックス状に形成されている。落とし溝として機能する多数の凹部は、液体流路2Aとなる凹部の形成と同時に加工される。したがって、接着剤落とし溝の深さも略100μmである。なお、接着剤落とし溝(凹部)は、透光性基材2と透光性基材3とを重ね合わせて接着する際に、余分な接着剤を内部に落とし込んで接着剤貯めとなる。
【0024】
渦巻状流路部2aは、渦巻状に配置した流路であり、二つのスパイラルがスパイラルの略中心部で結合し、その結合部を互いの基点とする所定間隔(ピッチ)の二重スパイラルが、例えば左周りに形成されている。なお、二重スパイラルの所定間隔は、例えば200μmである。この渦巻状流路部2aは、後述するテラヘルツパルス分光計測装置より照射されるテラヘルツ光の少なくとも集光エリアCA(図中に二点鎖線で示す円形内領域)を包含する領域に形成されている。集光エリアCAの直径は、3mm程度である。
【0025】
また、渦巻状流路部2a(二重スパイラル)は、一方端が長方形形状の一方の長辺に沿って短辺側に延伸する導液流路部2bに結合し、他の一方端が導液流路部2bと同様に、長方形形状の他方の長辺に沿って同じ短辺側に延伸する流出流路部2cに結合している。
【0026】
導液口部3aおよび流出口部3bは、幅500μm、深さ500μm程度の凹部(溝)より成り、それぞれ導液流路部2bおよび流出流路部2cに一部が重なるようにして、透光性基材2の外形形状の一方の短辺から長辺に沿って形成されている。なお、導液口部3aおよび流出口部3bの短辺からの長さは、5mm程度である。
【0027】
導液口部3aは、導液流路部2bに連通すると共に、導液流路部2bを介して渦巻状流路部2a内に液体を供給するためのマイクロチューブ4aが挿入して取付けられている。一方、流出口部3bは、流出流路部2cに連通すると共に、渦巻状流路部2aを通過した液体を流出流路部2cを介して外部に流出するためのマイクロチューブ4bが、導液口部3aと同様に取付けられている。
【0028】
マイクロチューブ4(4a,4b)は、例えば、外径0.4mm、内径0.2mm程度のPFAやETFEなどのフッ素系プラスチックより成り、導液口部3aおよび流出口部3bのそれぞれの孔内に挿入されて、シリコーン系の接着剤5により透光性基材2と透光性基材3との間に接着固定されている。
【0029】
このマイクロチューブ4(4a,4b)は挿入されるそれぞれの孔の奥壁とチューブ先端との間に、少なくとも液体が流動可能な広さの空間が形成される位置に、接着固定されている。この導液口部3aおよび流出口部3bに形成された空間が、液体流路2Aに液体を供給(注入)する導液口および液体流路2Aから液体を外部に流出する流出口となる。 したがって、液体流路2A内にマイクロチューブ4aから導液口を介して注入された液体は、導液流路部2b、渦巻状流路部2a、流液流路部2cの順に通過して、流出口を介してマイクロチューブ4bから外部に流出することができる。
【0030】
なお、液体は、流出口部3b(マイクロチューブ4b)から供給し、流出流路部2c、渦巻状流路部2a、導液流路部2bの順に通過して、導液流路部2bに連通する導液口部3a(マイクロチューブ4a)から外部に流出するように用いても良い。
【0031】
図2は、透光性基材の表面に形成された反射防止構造を模式的に示す斜視図である。
図2において、透光性基材2,3の表面には、底面形状が正方形の四角錐台で、底面から頂点までの高さHより成る多数の微細構造の突起Tが、テラヘルツ波長以下の周期Pでアレイ状に配列して形成されている。すなわちモスアイ構造が形成されている。
透光性基材2,3の表面に形成された多数の微細構造の突起Tのアスペクト比(H/P)は、略2であり、例えば、H(底面から頂点までの高さ)が100μm、P(周期)が50μmである。
【0032】
突起Tがアレイ状に配列して形成された反射防止構造は、透過測定法によるLC分析などの際に、テラヘルツ帯の広い周波数領域の光に対応して高い反射防止効果が得られる。それは、突起Tが屈折率を連続的に変化させることによって光の反射を抑制し、回折光の発生を防ぐことによる。また、突起Tを透光性基材2および透光性基材3の表面に隙間なく形成することが可能であり、より高い透過率特性が得られる。なお、液体セル1の透過率特性については、後述する。
【0033】
なお、反射防止構造を形成する突起Tは、底面形状が正方形の四角錐台より成る場合で説明したが、これに限定されない。底面形状が正六角形または正三角形の台形状の突起であっても良い。すなわち、台形状の六角錐台または台形状の三角錐台の突起であっても良い。また、反射防止構造は、少なくとも集光エリアCAとなる領域に形成されていれば良い。
【0034】
次に、液体セルの製造方法を説明する。
液体セル1は、準備工程、第1のウエットエッチング工程、第2のウエットエッチング工程、透光性基材接合工程、マイクロチューブ取付け工程により製造される。
第1のウエットエッチング工程は、透光性基材2を加工する工程であり、第2のウエットエッチング工程は透光性基材3の加工を行う工程である。
【0035】
図3は、第1のウエットエッチング工程のプロセス概要を示す工程フロー図であり、図4は第2のウエットエッチング工程のプロセス概要を示す工程フロー図である。なお、液体セル1の製造方法は、図3および図4と共に、図1を参照しながら説明する。
【0036】
液体セル1の製造は、先ず、予め切断加工された板厚が略1.35mm、平面サイズが略10mm×17mmの長方形の平板状を成した水晶板(Z板水晶)を準備する(準備工程)。
そして、第1のウエットエッチング工程または第2のウエットエッチング工程に移行する。すなわち、第1のウエットエッチング工程と第2のウエットエッチング工程との加工順は、どちらから先であっても良い。
【0037】
図3に示す第1のウエットエッチング工程は、エッチングマスク形成工程と、エッチング工程と、剥離工程とを有し、準備工程において準備した第1の水晶板の一方の面に流路構成部としての液体流路2Aおよび接着剤の落とし溝、他方の面にモスアイ構造より成る反射防止構造を形成して、透光性基材2(図1参照)を得る。
【0038】
エッチングマスク形成工程は、Au/Cr膜成膜、レジストコート、露光(両面露光)、現像のプロセスを有する。
Au/Cr膜成膜プロセスでは、第1の水晶板の両面に、それぞれAu/Cr膜を成膜する。Au/Cr膜の成膜は、第1の水晶板の一方の面にスパッタリング法を用いて膜厚が50nm程度のCr膜を下地層として成膜した後、Cr膜上に表面層として膜厚が50nm程度のAu膜を積層して成膜する。そして、第1の水晶板の他方の面に、同様に、膜厚が50nm程度のCr膜と、膜厚が50nm程度のAu膜を積層して成膜する。Au膜およびCr膜の成膜は、例えば、アルゴン(Ar)ガスを45sccmで導入した真空度10-2Pa程度のスパッタリング装置内で、第1の水晶板に1KWの負電圧を印加して行う。
【0039】
そして、両面にそれぞれAu/Cr膜が成膜された第1の水晶板は、レジストコートプロセスにおいて、Au/Cr膜の表面に感光性レジストを塗布する。
感光性レジスト(以後、レジストと表す)の塗布は、Au/Cr膜の表面にスピンコート法を用いて膜厚が略1μmのレジスト膜を形成する。例えば、スピンコート装置を2000rpmで回転しながら、回転台に載置した第1の水晶板のAu/Cr膜の表面に、レジスト(例えば、東京応化(株)製のOFPR800、粘度30CP)を滴下してコートする。
なお、レジストの塗布後、90℃程度の温度に設定したベーク炉中に、30分程度投入してレジストを乾燥・硬化するプリベークを行うのが好ましい。
【0040】
そして、Au/Cr膜の表面にレジストが塗布された第1の水晶板は、露光プロセスにおいてレジストの露光を行う。
露光プロセスでは、レジストが塗布された第1の水晶板の一方の面上に、液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2bおよび流出流路部2c、図1参照)およびマトリックス状の接着剤の落とし溝を形成するためのマスクを配置すると共に、第1の水晶板の他方の面上に、モスアイ構造より成る反射防止構造(図2参照)を形成するためのマスクを配置した後、マスクを介して紫外線を照射して両面同時露光を行う。
【0041】
両面同時露光は、両面同時露光機(例えば、ウシオ電機(株)製、USHIO UX-4130)を用い、高圧水銀ランプより露光量100mj/cm2の光を照射する。
なお、液体流路2Aおよび接着剤の落とし溝を形成するマスクは、形成する形状と反対のレジストが残るネガレジストのマスクパターンを用いる。また、反射防止構造(図2参照)を形成するためのマスクは、多数がマトリックス状に配置された底面形状が正方形の四角錐台の上面に対応する正方形形状のポジレジストのマスクパターンを用いる。また、反射防止構造を形成するためのマスクパターンの正方形形状の開口部の一辺の長さは、略22μmである。
【0042】
そして、両面同時露光が行われた第1の水晶板は、現像プロセスにおいてレジストに紫外線が照射された領域を溶解する現像を行う。
現像は、温度が23℃程度のアルカリ性の現像液(例えば、東京応化(株)製のMPM−E)中に、1分間程度浸漬する。
【0043】
この現像プロセスにより、第1の水晶板の一方の面にコートされたレジストは、液体流路2A(渦巻状流路部2a、導液流路部2b、流出流路部2c)およびマトリックス状の接着剤の落とし溝に対応した形状にパターニングされる。すなわち、液体流路2Aおよびマトリックス状の接着剤の落とし溝に対応した領域のレジスト膜が除去される。一方、他方の面にコートされたレジストは、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面に対応した形状にパターニングされる。すなわち、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面形状に対応した以外の領域のレジスト膜が除去される。
【0044】
なお、現像プロセス後、リンス液や純水でレジストを定着するリンス処理や、140℃程度の温度に設定したベーク炉中に、30分程度投入してレジストの硬化を行うポストベークを行うのが好ましい。
そして、現像プロセスで現像が行われた第1の水晶板は、エッチングマスク形成工程を終了し、エッチング工程に移行する。
【0045】
エッチング工程は、Au/Cr膜エッチング、水晶エッチングのプロセスを有する。
Au/Cr膜エッチングプロセスでは、第1の水晶板の一方の面に残存したレジストおよび他方の面に残存したレジストパターンをマスクとして、ウエットエッチング法を用いてAu/Cr膜のエッチングを行う。
【0046】
Au/Cr膜のエッチングプロセスでは、先ず、第1の水晶板を溶媒の水にヨウ化カリウム(KI)とヨウ素(I)とを添加したヨウ素ヨウ化カリウム溶液(エッチング液)中に30sec程度浸漬して、Au膜のエッチングを行う。
その後、Au膜がエッチングされた第1の水晶板を、過塩素酸(HCl04)と硝酸第2セリウムアンモニウム(Ce(NO342NH4NO3)を含むエッチング液(例えば、ザ・インクテック(株)製のクロムエッチング液、MPM−E)中に15sec程度浸漬して、Cr膜のエッチングを行う。
【0047】
そして、Au/Cr膜のエッチングが行われた第1の水晶板は、水晶エッチングプロセスにおいて、Au/Cr膜のエッチングプロセスと同様に、第1の水晶板の両面に残存したレジストパターン(下層にAu/Cr膜を含む)をマスクとして、ウエットエッチング法を用いて第1の水晶板の水晶エッチングを行う。
【0048】
水晶エッチングプロセスは、Au/Cr膜がエッチングされた第1の水晶板を、緩衝フッ酸(BHF)液中に100min程度浸漬してエッチングを行う。なお、BHFは、フッ化アンモニウム(NH4F)40%水溶液とフッ化水素酸(HF)47%水溶液とを混合して調整した溶液である。
【0049】
このエッチング処理により、第1の水晶板の一方の面に深さが略100μmの渦巻状流路部2a、導液流路部2bおよび流出流路部2cより成る液体流路2Aと、接着剤落とし溝が形成される。同時に、第1の水晶板の他方の面には、底面形状が略正方形で高さHが略100μm、周期Pが50μmの四角錐台より成る多数の突起T、すなわちアスペクト比(H/P)が略2の多数の突起Tが、アレイ状に配列した反射防止構造が形成される。
【0050】
反射防止構造は、マスクに対するサイドエッチングや、第1の水晶板の平面方向に除去される速度よりも板厚方向に除去される速度の方が速いエッチングレート差により、四角錐台形状に形成される。また、液体流路2Aは、形成する形状と反対のレジストが残るネガレジストのマスクパターンを用いて形成されるので、水晶板に結晶性欠陥などがあった場合でも、流路幅(凹部の幅)が細ることなく、しかもクラックなどが発生することなく、所定形状の流路構成部を形成することができる。
そして、剥離工程に移行する。
【0051】
剥離工程は、レジストを剥離(除去)するレジスト剥離と、レジストの下層に残存するAu/Cr膜を剥離(除去)するAu/Cr膜剥離プロセスを有する。
レジスト剥離プロセスでは、エッチング工程において水晶エッチングされた第1の水晶板を、水酸化カリウム(KOH)水溶液中に20min程度浸漬してレジストの剥離を行う。
【0052】
そして、Au/Cr膜剥離プロセスでは、レジストが剥離された第1の水晶板を、Au/Cr膜エッチングプロセスにおいてAu膜のエッチングに用いたのと同じヨウ素ヨウ化カリウム溶液中に10min程度浸漬して、Au膜の剥離を行う。
その後、Au膜が剥離された第1の水晶板を、これも同様にAu/Cr膜エッチングプロセスにおいてCr膜のエッチングに用いたのと同じ「MPM−E」液中に10min程度浸漬して、Cr膜の剥離を行う。
【0053】
以上の第1のウエットエッチング工程により、水晶板の一方の面に液体流路2Aと接着剤落とし溝が形成され、他方の面に多数の突起Tがアレイ状に配列した反射防止構造が形成された透光性基材2が完成する。
こうした透光性基材2を加工する第1のウエットエッチング工程では、全ての加工工程の加工プロセスにおいて、水晶板の両面の同時加工が行われる。したがって、加工工程が増加することはなく、作業性に優れた加工を行うことができる。特に、エッチング工程においては、一つの工程で液体流路2Aと微細な反射防止構造とが同時に形成することができる。その結果、リードタイムを大幅に短縮することができる。
【0054】
一方、図4に示す第2のウエットエッチング工程は、第1エッチングマスク形成工程、Au/Cr膜エッチング工程、第1レジスト剥離工程と、第2エッチングマスク形成工程、水晶片面エッチング工程、第2レジスト剥離工程と、水晶両面エッチング工程、Au/Cr膜剥離工程とを有し、準備工程において準備した第2の水晶板の一方の面に流路構成部としての導液口部3aおよび流出口部3b、他方の面にモスアイ構造より成る反射防止構造を形成して、透光性基材3(図1参照)を得る。
【0055】
なお、以下に説明する第2のウエットエッチング工程は、各工程および各工程のプロセスでの加工方法において、第1のウエットエッチング工程における加工方法と同一部分の説明は簡略化する。
【0056】
第1エッチングマスク形成工程は、Au/Cr膜成膜、第1レジストコート、両面同時露光、現像のプロセスを有する。
Au/Cr膜成膜プロセスでは、第2の水晶板の両面に、それぞれAu/Cr膜を成膜する。Au/Cr膜の成膜は、第2の水晶板の一方の面および他方の面に、スパッタリング法を用いて膜厚が50nm程度のCr膜を下地層として成膜した後、Cr膜上に表面層として膜厚が50nm程度のAu膜を積層して成膜する。成膜は、アルゴン(Ar)ガスを45sccmで導入した真空度10-2Pa程度のスパッタリング装置内で、第2の水晶板に1KWの負電圧を印加して行う。
【0057】
そして、両面にそれぞれAu/Cr膜が成膜された第2の水晶板は、第1レジストコートプロセスにおいて、Au/Cr膜の表面にスピンコート法を用いて感光性レジスト(例えば、東京応化(株)製のOFPR800)を塗布して、膜厚さが略1μmのレジスト膜をコートする。
【0058】
そして、Au/Cr膜の表面に感光性レジスト(以後、レジストと表す)が塗布された第2の水晶板は、露光プロセスにおいてレジストの露光を行う。
露光プロセスでは、レジストが塗布された第2の水晶板の一方の面上に、後のマイクロチューブ取付け工程においてマイクロチューブ4a,4bが取付けられる導液口部3aおよび流出口部3b(図1参照)を形成するためのマスクを配置すると共に、第2の水晶板の他方の面上に、モスアイ構造より成る反射防止構造(図2参照)を形成するためのマスクを配置した後、マスクを介して紫外線を照射して両面同時露光を行う。両面同時露光は、両面同時露光機を用い、高圧水銀ランプより露光量が100mj/cm2の光を照射する。
【0059】
なお、導液口部3aおよび流出口部3bを形成するマスクは、形成する形状と反対のレジストが残るネガレジストのマスクパターンを用いる。また、反射防止構造を形成するためのマスクは、多数がマトリックス状に配置された底面形状が正方形の四角錐台の上面に対応する正方形形状のポジレジストのマスクパターンを用いる。
【0060】
この両面同時露光プロセスにより、第2の水晶板の一方の面に、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状にパターニングが行われる。一方、他方の面上には、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面に対応した形状のパターニングが行われる。
【0061】
そして、両面同時露光が行われた第2の水晶板は、現像プロセスにおいてレジストに紫外線が照射された領域を溶解する現像を行う。
現像は、第2の水晶板を、温度23℃程度のアルカリ性の現像液中に、1分間程度浸漬する。
【0062】
この現像プロセスにより、第2の水晶板の一方の面にコートされたレジストは、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状にパターニングされる。すなわち、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した領域のレジストが除去される。一方、他方の面にコートされたレジストは、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面に対応した形状にパターニングされる。すなわち、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面形状に対応した以外の領域のレジストが除去される。
そして、現像プロセスで現像が行われた第2の水晶板は、第1エッチングマスク形成工程を終了し、Au/Cr膜エッチング工程に移行する。
【0063】
Au/Cr膜エッチング工程では、第2の水晶板の一方の面に残存したレジストおよび他方の面に残存したレジストパターンをマスクとして、ウエットエッチング法を用いてAu/Cr膜のエッチングを行う。
先ず、第2の水晶板をヨウ素ヨウ化カリウム溶液(エッチング液)中に30sec程度浸漬して、Au膜のエッチングを行う。その後、Au膜がエッチングされた第2の水晶板を、MPM−E(ザ・インクテック(株)製のクロムエッチング液)中に15sec程度浸漬して、Cr膜のエッチングを行う。
そして、第1レジスト剥離工程に移行する。
【0064】
第1レジスト剥離工程では、Au/Cr膜エッチング工程においてマスクとして用いたレジストパターン(レジスト)の剥離を行う。
レジスト剥離は、Au/Cr膜がエッチングされた第2の水晶板を、水酸化カリウム(KOH)水溶液中に20min程度浸漬して、第2の水晶板の表面(Au/Cr膜の上層)に残存したレジストを除去(剥離)する。
【0065】
この第1レジスト剥離工程によって、第2の水晶板の一方の面に、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状以外の領域がパターニングされたAu/Cr膜が残存する。また、他方の面には、反射防止構造を形成するための多数の四角錐台の上面に対応した形状がパターニングされたAu/Cr膜が残存する。
【0066】
以上の第1エッチングマスク形成工程、Au/Cr膜エッチング工程および第1レジスト剥離工程(図4中に範囲Aで括った加工工程)は、第2の水晶板のAu/Cr膜パターニング工程と言える。
そして、Au/Cr膜がパターニングされた第2の水晶板は、第2エッチングマスク形成工程に移行する。
【0067】
第2エッチングマスク形成工程は、第2レジストコート、片面露光、現像のプロセスを有する。
第2レジストコートプロセスでは、Au/Cr膜がパターニングされた第2の水晶板の両面に、それぞれスピンコート法を用いて感光性レジスト(東京応化(株)製のOFPR800)を塗布して、膜厚さが略1μmのレジスト膜を再びコートする。
【0068】
そして、片面露光プロセスにおいて、Au/Cr膜の表面に感光性レジスト(以後、レジストと表す)が塗布された第2の水晶板の露光を行う。
片面露光プロセスでは、レジストの下層に第2の水晶板の導液口部3aと流出口部3bを形成するためのAu/Cr膜がパターニングされた一方の面上に、導液口部3aおよび流出口部3bの形状と反対のレジストが残るネガレジストのマスクパターンより成るマスクを、位置合わせして配置した後、レジスト面にマスクを介して紫外線を照射して露光を行う。露光は露光機を用い、高圧水銀ランプより露光量100mj/cm2の光を照射する。この片面露光プロセスにより、第2の水晶板の一方の面に、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状にパターニングが行われる。
【0069】
そして、片面露光が行われた第2の水晶板は、現像プロセスにおいてレジストに紫外線が照射された領域を溶解する現像を行う。
現像は、第2の水晶板を、温度23℃程度のアルカリ性の現像液中に、1分間程度浸漬する。この現像プロセスにより、第2の水晶板の一方の面にコートされたレジストは、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状にパターニングされる。すなわち、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した領域のレジストが除去される。
そして、現像プロセスで現像が行われた第2の水晶板は、第2エッチングマスク形成工程を終了し、水晶片面エッチング工程に移行する。
【0070】
水晶片面エッチング工程では、導液口部3aおよび流出口部3bに対応した形状にパターニングされたレジストパターンをマスクとして、ウエットエッチング法を用いて水晶板のエッチングを行う。エッチングは、第2の水晶板を緩衝フッ酸(BHF)液中に400min程度浸漬する。なお、BHFは、40%フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液と47%フッ化水素酸(HF)水溶液とを混合して調整した溶液である。
このエッチング処理により、第2の水晶板の一方の面に深さが略400μmの凹部より成る導液口部3aおよび流出口部3bが形成される。
そして、第2レジスト剥離工程に移行する。
【0071】
第2レジスト剥離工程では、水晶片面エッチング工程においてエッチングされた第2の水晶板を、水酸化カリウム(KOH)水溶液中に20min程度浸漬して、第2の水晶板の表面に残存するレジストパターンを含む全てのレジストを除去(剥離)する。これにより、第2の水晶板の両面には、前記第1レジスト剥離工程後と同じ態様にパターニングされたAu/Cr膜がそれぞれ露出して残存する。
【0072】
以上の第2エッチングマスク形成工程、水晶片面エッチング工程および第2レジスト剥離工程(図4中に範囲Bで括った加工工程)は、第2の水晶板の一方の面に導液口部3a、流出口部3bを形成する加工工程である。なお、導液口部3a、流出口部3bは、後の水晶両面エッチング工程において、さらに所定の深さにエッチングされる。したがって、範囲Bで括った加工工程は、第2の水晶板の一次形状形成工程と言える。
そして、水晶両面エッチング工程に移行する。
【0073】
水晶両面エッチング工程では、第2の水晶板の両面にそれぞれ残存するパターニングされたAu/Cr膜をマスクとして、ウエットエッチング法を用いて水晶板のエッチングを行う。エッチングは、水晶片面エッチング工程の場合と同じ緩衝フッ酸(BHF)液中に、100min程度浸漬する。
【0074】
このエッチング処理により、第2の水晶板の一方の面に既に形成された凹部より成る導液口部3aおよび流出口部3bが、板厚方向にさらに略100μmエッチングされて、深さが略500μmの導液口部3aおよび流出口部3bが形成される。同時に、第2の水晶板の他方の面には、底面形状が略正方形で高さHが略100μm、周期Pが50μmの四角錐台より成る多数の突起T、すなわちアスペクト比(H/P)が略2の多数の突起Tが、アレイ状に配列した反射防止構造が形成される。
そして、Au/Cr膜剥離工程に移行する。
【0075】
Au/Cr膜剥離工程では、両面エッチングされた第2の水晶板の両面に残存するAu/Cr膜を除去(剥離)する。
Au/Cr膜の剥離は、第2の水晶板を前記Au/Cr膜エッチング工程においてAu膜のエッチングに用いたのと同じヨウ素ヨウ化カリウム溶液中に10min程度浸漬して、Au膜の剥離を行う。その後、Au膜が剥離された第2の水晶板を、これも同様にAu/Cr膜エッチング工程においてCr膜のエッチングに用いたのと同じ「MPM−E」液中に10min程度浸漬して、Cr膜の剥離を行う。
【0076】
こうした水晶両面エッチング工程、Au/Cr膜剥離工程(図4中に範囲Cで括った加工工程)は、第2の水晶板の二次形状形成工程と言える。
以上の第2のウエットエッチング工程により、水晶板の一方の面に導液口部3aおよび流出口部3bが形成され、他方の面に多数の突起Tがアレイ状に配列した反射防止構造が形成された透光性基材3が完成する。
【0077】
こうした透光性基材3を加工する第2のウエットエッチング工程では、深さの深い凹部(導液口部3aおよび流出口部3b)を形成するために、一次形状形成工程と二次の形状形成工程を有するが、全ての加工工程において水晶板の両面の加工が行われる。したがって、加工工程が増加することはなく、作業性に優れた加工を行うことができる。その結果、リードタイムを大幅に短縮することができる。
そして、第1のウエットエッチング工程において完成した透光性基材2および第2のウエットエッチング工程において完成した透光性基材3は、透光性基材接合工程に移行する。
【0078】
透光性基材接合工程では、透光性基材2と透光性基材3とを接合する。
透光性基材2と透光性基材3との接合は、透光性基材2の液体流路2Aおよび落とし溝として機能する多数の凹部(溝)がマトリックス状に形成された一方面と、透光性基材3の導液口部3aおよび流出口部3bが形成された一方面同士を相対して重ね合わせて、接着固定する。
【0079】
接着固定は、透光性基材2の液体流路2Aが形成された面に、例えばスクリーン印刷法を用いて、熱硬化性接着剤を塗布する。そして、透光性基材2の熱硬化性接着剤が塗布された面に、透光性基材3の外形形状を略一致させて、導液口部3aおよび流出口部3bが形成された面を重ね合わせる。
【0080】
その後、重ね合わされた透光性基材2と透光性基材3を、外側両面から加圧した状態で、温度が75°程度に設定した加熱炉中に2.5時間程度投入して、熱硬化性接着剤の硬化処理を行う。こうした接着固定の際、透光性基材同士を外側両面から加圧することによって、透光性基材2の面に塗布された余分な接着剤は、接着剤落とし溝の内部に落とし込まれて、厚さが数μm程度の硬化した接着剤層によって、透光性基材2と透光性基材3とが接着固定される。なお、接着剤として、熱硬化性接着剤に代えて、紫外線硬化接着剤を用いても良い。
【0081】
これにより、相対して重ね合わされた透光性基材2と透光性基材3との界面に、液体流路2A、導液口部3aおよび流出口部3bが位置し、重ね合わされた板厚方向の両面となる透光性基材2,3の表面に、反射防止構造が形成された液セルブロックが完成する。
そして、マイクロチューブ取付け工程に移行する。
【0082】
マイクロチューブ取付け工程では、透光性基材3の導液口部3aおよび流出口部3bと、透光性基材2の一方面とから形成されたそれぞれの孔内に、マイクロチューブ4(4a,4b)を挿入して、シリコーン系の接着剤5により透光性基材2と透光性基材3とに接着固定する。マイクロチューブ4は、挿入されるそれぞれの孔の奥壁とチューブ先端との間に少なくとも液体が流通可能な広さの空間が形成される位置に接着固定する。
これにより、液体セル1(図1参照)が完成する。
【0083】
こうしたウエットエッチング工程を備えた液体セルの製造方法によれば、液体セル1を構成する透光性基材2および透光性基材3の一方面の流路構成部(液体流路2Aおよび導液口部3a、流出口部3b)と、他方面のモスアイ構造より成る反射防止構造とを、一つの工程で両面の同時加工ができるため、作業性に優れ、リードタイムを大幅に向上することができる。こうした製造方法は、可視光域や近赤外線域に用いられる超微細な反射防止構造に適用することは困難であるが、液体セル1に形成された反射防止構造が、周期Pが100μm程度の突起Tで構成されていることによって可能となる。
また、凹部(溝)より成る液体流路2Aなどが、ウエットエッチング法を用いて加工された液体セル1は、加工精度が高く、しかもブラスト加工法などを用いた場合に比べて液体流路2Aのチッピング、あるいは微細なモスアイ構造より成る反射防止構造の欠陥率を大幅に減らすことができる。よって、高い精度のシグナルを得ることが可能となる。
【0084】
以上のようにして製造された液体セル1は、液体流路2A内に液体(試料溶液)を注入して、透過測定法により液体(試料溶液)の周波数依存性などを解析するのに用いることができる。
【0085】
次に、液体セル1(図1参照)を用いて試料溶液を測定するテラヘルツパルス分光計測装置100について説明する。
図5は、テラヘルツパルス分光計測装置の概略構成を示す模式図である。なお、テラヘルツパルス分光計測装置には液体セル1がセットされた態様で示す。
【0086】
図5において、テラヘルツパルス分光計測装置100は、試料溶液が注入された液体セル1にテラヘルツ光をパルス状に照射し、液体セル1(試料溶液)を透過したテラヘルツパルス光の電場強度の時間に依存した波形(振動電場の時間波形)を測定し、その振動電場の時間波形に基づく時系列データをフーリエ変換処理することにより、電場強度の周波数特性、分光透過率や吸収率などの周波数依存性などが得られる。
【0087】
テラヘルツパルス分光計測装置100は、ポンプ・プローブ方式の分光計測装置であり、パルス光L1を射出するレーザ発生装置30と、ビームスプリッタ31と、ミラー32,41,43,44,45と、テラヘルツ光発生素子33と、集光レンズ34,46と、軸外し放物面鏡35,36と、時間遅延装置42と、テラヘルツ光検出素子47とを備えている。
【0088】
また、テラヘルツパルス分光計測装置100は、テラヘルツ光検出素子47に接続する電流増幅器50と、ロックインアンプ51と、コンピュータ52と、液体セル1を保持固定するホルダー60とを備えている。
【0089】
レーザ発生装置30は、フェムト秒(10-15秒)パルスレーザ光源を備え、繰り返し周期が数kHz〜数10MHz程度、パルス幅が10〜150fs程度の直線偏光のパルス光L1を放射する。
ビームスプリッタ31は、レーザ発生装置30より放射されるパルス光L1をポンプ光L2とプローブ光L11に分割する。
【0090】
テラヘルツ光発生素子33は、半導体基板33aと、超半球レンズ33bなどを備えている。
半導体基板33aは、低温成長ガリウムヒ素などから成る基板上に、合金製の平行伝送線路間に微少ギャップ33cを有する光伝導アンテナが形成されており、平行伝送線路(微少ギャップ33c)間に数10Vの電圧(33d)を印加することにより、集光レンズ34を介して微少ギャップ33cに集束入射するポンプ光L2からテラヘルツ光を発生させる機能を有する。超半球レンズ33bは、半導体基板33aで発生したテラヘルツパルス光をコリメートする機能を有する。
【0091】
軸外し放物面鏡35および軸外し放物面鏡36は、共に回転放物面を有する2つの凹面鏡を備えている。
軸外し放物面鏡35は、テラヘルツ光発生素子33から発したテラヘルツ光L3(パルス状)を反射して、液体セル1に向かって集束して照射する機能を有する。軸外し放物面鏡36は、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4を反射して、テラヘルツ光検出素子47に集束して照射する機能を有する。
【0092】
時間遅延装置42は、折り返しミラー42bを備えた可動ステージ42a、可動ステージ42aを図中に矢印で示すβ方向に移動するための移動装置(図示せず)などを備えている。時間遅延装置42は、ビームスプリッタ31において分割されて可動ステージ42aの折り返しミラー42bに入射するプローブ光L11に時間遅延を付与する機能を有する。
【0093】
テラヘルツ光検出素子47は、テラヘルツ光発生素子33と同様に、半導体基板47aと、超半球レンズ47bを備えている。
半導体基板47aは、ガリウムヒ素などから成る基板上に、合金製の平行伝送線路間に微少ギャップ(光伝導アンテナ)47cが形成されており、平行伝送線路(微少ギャップ47c)間に微少電流計47dが接続されている。
【0094】
このテラヘルツ光検出素子47は、軸外し放物面鏡36から超半球レンズ47bを介して微少ギャップ47cに集束して照射されるテラヘルツ光L4と、集光レンズ46を介してテラヘルツ光L4と反対側から光伝導アンテナ47cに集束して照射される時間遅延装置42で時間遅延されたプローブ光L12とから、微少電流計47dにおいて、テラヘルツ光L4の振動電場に比例した瞬時電流(瞬時電流波形)を計測する機能を有する。すなわち、テラヘルツ光L4の振動電場の時間波形(時間に依存した時系列データ)を計測する。
【0095】
電流増幅器50は、テラヘルツ光検出素子47において検出された瞬時電流を増幅する。
ロックインアンプ51は、電流増幅器50において増幅された振動電場の時間波形のノイズ成分を減少させるために、光チョッパーの変調をかけて同期検波を行う。
【0096】
コンピュータ52は、記憶回路、演算回路およびディスプレイなどを備え、ロックインアンプ51を介して検波されたテラヘルツ光L4の時間波形をフーリエ変換することによって、テラヘルツ光L4の分光透過率の周波数特性を得ることができる。
【0097】
ホルダー60は、液体セル1を保持固定する着脱チャックであり、2つの保持具60aが、透光性基材2,3が重ね合わされた液体セル1を、板厚方向の両面(表裏面)側から挟み込んで保持固定する。ホルダー60は、軸外し放物面鏡35と軸外し放物面鏡36との間の、テラヘルツ光L3が略集束する位置に配設されている。
【0098】
また、2つの保持具60aには、テラヘルツ光L3が通過する窓として機能する貫通孔60bがそれぞれ形成されている。それぞれの貫通孔60bは、液体セル1の集光エリアCAよりも広い大きさを有する同一形状の円形孔を成している。
ホルダー60に保持固定された液体セル1は、導液口部3a(図1参照)に取付けられたマイクロチューブ4aが、例えば、液クロマトグラフィー61に接続され、流出口部3b(図1参照)に取付けられたマイクロチューブ4bが廃液容器(図示せず)に接続されている。
【0099】
液クロマトグラフィー61は、例えば、モータを動力源とする注射筒型のポンプを備え、移動相として液体を用い、混合物の成分を例えば分子量に基づいた成分毎に分離する装置である。この成分毎に分離した液体(試料溶液)を、液体セル1を用いて解析する試料溶液として、ポンプを稼動することによって、マイクロチューブ4aを介して液体セル1の液体流路2A内に注入したり、マイクロチューブ4bを介して廃液容器に排出したりすることができる。
【0100】
次に、テラヘルツパルス分光計測装置100の動作について簡単に説明する。なお、ホルダー60には、予め液クロマトグラフィー61からマイクロチューブ4aを介して液体流路2A内に液体(試料溶液)が注入された液体セル1が保持固定される。
【0101】
先ず、レーザ発生装置30からフェムト秒パルスレーザのパルス光L1が射出される。レーザ発生装置30から射出されるパルス光L1は、例えば、繰り返し周期が10MHz、パルス幅が100fsである。
そして、レーザ発生装置30から放射(射出)されたフェムト秒パルスレーザのパルス光L1は、ビームスプリッタ31に入射する。ビームスプリッタ31では、入射するパルス光L1が、ポンプ光L2とプローブ光L11に分割される。
【0102】
ビームスプリッタ31で分割された一方のポンプ光L2は、ミラー32で反射された後、集光レンズ34を介してテラヘルツ光発生素子33に入射する。テラヘルツ光発生素子33に入射するポンプ光L2は、半導体基板33a上に形成され、数10Vの電圧が印加された平行伝送線路間の微少ギャップ(光伝導アンテナ)33cに集束して入射する。
【0103】
テラヘルツ光発生素子33では、半導体基板33a中に光励起キャリアが生成され、微少ギャップ33c間の電圧で光励起キャリアが加速されて、瞬時電流が流れることによって、パルス幅が1ピコ秒程度のテラヘルツ光L3が放射される。
【0104】
そして微少ギャップ33c間から放射されたテラヘルツ光L3(パルス状)は、超半球レンズ33bでコリメートされて、軸外し放物面鏡35に入射する。
軸外し放物面鏡35では、回転放物面を有する2つの凹面鏡によって、テラヘルツ光発生素子33から発したテラヘルツ光L3を反射して、ホルダー60に保持固定された液体セル1に向かって集束して照射する。
【0105】
液体セル1に向かって集束して照射されたテラヘルツ光L3は、ホルダー60の一方の保持具に形成された貫通孔60bから液体セル1に入射して、液体セル1を透過する。この時テラヘルツ光L3は、液体セル1(液体流路2A)内に注入された液体(試料溶液)に対して集光エリアCA(図1参照)に集束して透過する。集光エリアCAの直径は、例えば、2mm程度である。
【0106】
液体セル1を透過したテラヘルツ光L4(パルス状)は、試料溶液における特性情報を含んでいる。
そして、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4は、軸外し放物面鏡36に入射する。
【0107】
軸外し放物面鏡36では、回転放物面を有する2つの凹面鏡によって、液体セル1を透過したテラヘルツ光L4を反射して、テラヘルツ光検出素子47に入射する。テラヘルツ光L4は、超半球レンズ47bを介して微少ギャップ47cに集束して入射する。
【0108】
一方、ビームスプリッタ31において分割されたプローブ光L11は、ミラー41で反射されて時間遅延装置42に入射する。
時間遅延装置42では、移動装置を稼動して可動ステージ42aを図中に矢印で示すβ方向に移動して、折り返しミラー42bに入射するプローブ光L11に時間遅延を付与したプローブ光L12を反射する。この時間遅延装置42において付与される時間遅延は、プローブ光L11の繰り返し周期が10MHzであることから、入射光の光路長の0.3mmの変化が、1ピコ秒の変化に相当する。
【0109】
そして、時間遅延装置42において時間遅延が付与されたプローブ光L12は、ミラー43、ミラー44、ミラー45の順に順次反射された後、集光レンズ46を介してテラヘルツ光検出素子47に集束して入射する。テラヘルツ光検出素子47に入射するプローブ光L12は、半導体基板47a上に形成され、微少電流計47dが接続された平行伝送線路間の微少ギャップ(光伝導アンテナ)47cに集束して入射する。
【0110】
テラヘルツ光検出素子47では、液体セル1を透過して入射するテラヘルツ光L4が光伝導アンテナ47cに入射した状態で、光伝導アンテナ47cにプローブ光L12が入射すると、プローブ光L12が入射する間、テラヘルツ光L4によって半導体基板47a中に生成された光励起キャリアが、テラヘルツ光L4に伴う振動電場で加速されて、振動電場に比例する瞬時電流が流れる。そして、この瞬時電流が微少電流計47dで計測される。すなわち、テラヘルツ光L4の振動電場の時間に依存した時系列データ(振動電場の時間波形)が計測される。
【0111】
このように、テラヘルツ光検出素子47では、時間遅延によってプローブ光L12がテラヘルツ光検出素子47に到達するタイミングを変えることによって、プローブ光L12とテラヘルツ光L4の間に光学的な時間遅延を設定して、10MHzの繰り返し周期で入射するテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形の計測が行われる。
【0112】
そして、テラヘルツ光検出素子47で計測されたテラヘルツ光L4の電場強度の時間波形は、電流増幅器50に出力されて増幅された後、電流増幅器50からロックインアンプ51に出力される。
ロックインアンプ51では、電流増幅器50において増幅された振動電場の時間波形のノイズ成分を減少させるために、光チョッパーで数KHzの変調をかけて同期検波が行われる。この数KHzの変調に対してテラヘルツ光L4の繰り返し周期が10MHzであることによって、同期検波されたテラヘルツ光L4の時間波形は、連続波形として扱うことができる。
【0113】
そして、同期検波されたテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形は、コンピュータ52に出力される。
コンピュータ52では、ロックインアンプ51において同期検波されたテラヘルツ光L4の振動電場の時間波形をフーリエ変換することによって、テラヘルツ光L4の電場強度の周波数特性、分光透過率や吸収率などの周波数依存性などデータ、すなわち、試料溶液の特性情報が得られる。この後、これらの得られた周波数特性や周波数依存性などを解析することにより、試料溶液の物理的、化学的な性質を探求することができる。
【0114】
また、液体セル1は、マイクロチューブ4aを液クロマトグラフィー61に結合し、テラヘルツパルス分光計測装置100のホルダー60に取付けて、液クロマトグラフィー61において成分毎に分離した液体を試料溶液として、順次、液体セル1の液体流路2A内に注入して、試料溶液の振動電場の時間波形などを測定することができる。
【0115】
このように、液体セル1は、液クロマトグラフィー61に直結して使用することが可能であり、試料溶液の置換がスムーズで、しかも測定作業を容易に行うことができる。なお、この液体セル1は、こうしたテラヘルツ分析の他に、赤外分光分析やラマン分光分析などに利用することもできる。また、用いられる試料溶液としては液体であれば限定されない。例えば、有機溶剤、血液などが挙げられる。
【0116】
次に、液体セル1における反射防止性能について説明する。
反射防止性能は、上記製造方法で製造した液体セル1を、テラヘルツパルス分光計測装置にセットして、透過率特性を測定した。なお測定は、液体セル1の流路構成部内に液体を注入しない状態で行った。
【0117】
図6は、本実施形態に係る液体セルの透過率特性を示すグラフである。
図6に示すグラフは、横軸に波長(μm)、縦軸に透過率(%)を示し、0μm〜500μmの波長領域における透過率を、透過率80%以上の範囲で示す。
図6において、実線の線図で示す液体セル1の透過率は、波長が略90μm(周波数3.3THz)〜略770μm(周波数0.39THz、図示せず)の広い波長範囲において90%以上の透過率特性を備えている。また、波長が略105μm(周波数2.86THz)〜略305μm(周波数0.98THz)の範囲において98%以上の高い透過率特性を備えている。
【0118】
なお、液体セル1に形成された反射防止構造は、多数の微細構造の突起Tのアスペクト比(高さH/周期P)は、略2であり、図6中に図示しないが、アスペクト比が2より大きくなるに従って、対応波長域(対応周波数域)が急激に狭くなり、透過率99%以上の上限周波数位置が1.7THz程度になる。一方、アスペクト比が2より小さくなるに従って、対応波長域が広くなるが、透過率99%以上の下限周波数位置が1.3THz程度になる。
【0119】
以上のことから、透光性基材2と透光性基材3とが相対して重ね合わされた板厚方向の両面に、多数の突起Tがアレイ状に配列した反射防止構造を、ウエットエッチング法を用いて製造された液体セル1は、THz−TDS法など用いて液体(試料溶液)の物性などを測定する際、テラヘルツ帯の広い周波数領域において、界面での多重反射を抑制した高い透過率特性が得られる。すなわち、高い反射防止効果が得られるので、高い精度のシグナルを得ることが可能となる。
【0120】
また、凹部(溝)より成る液体流路2Aが、ウエットエッチング法を用いて加工された液体セル1は、加工精度が高く、しかもチッピングなどの形状欠陥を大幅に減らすことができるので、液クロマトグラフィーなどに直結して、低い圧力で液体の交換(置換)を迅速に行うことができる。
【0121】
以上の実施形態において、液体セル1の液体流路2Aを形成する凹部(溝)の幅(流路幅)、あるいは流路形状(平面視形状)については、どんな寸法やどんな形状の場合であっても良い。例えば、凹部の幅は、30μm〜5mm程度であっても良い。また、液体流路2Aの流路形状は、直線形状、直線形状が所定角度で屈折した屈折形状、円弧状の曲線を有する曲線形状、あるいはこれらを組み合わせた形状であっても良い。なお、液体流路2Aを形成する凹部(溝)の深さは、100μmの場合で説明したが、凹部(溝)の深さに対応して、突起Tのアスペクト比(高さH/周期P)が略2の反射防止構造が形成されれば、これに限定されない。
【0122】
また、液体セル1を構成する透光性基材2,3として、水晶(Z板)を用いた場合で説明したが、水晶に代えてサファイア、ダイヤモンド、透光性セラミック、ルミセラ(登録商標、(株)村田製作所)などであっても、同様の製造プロセスを適用することができる。さらに、樹脂の金型成形法などを用いれば、同様な形状をポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本実施形態に係る分光分析用液体セルの構成を模式的に示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は断面図。
【図2】透光性基材の表面に形成された反射防止構造を模式的に示す斜視図。
【図3】第1ウエットエッチング工程のプロセス概要を示す工程フロー図。
【図4】第2ウエットエッチング工程のプロセス概要を示す工程フロー図。
【図5】テラヘルツパルス分光計測装置の概略構成を示す模式図。
【図6】本実施形態に係る液体セルの透過率特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0124】
1…テラヘルツ分光分析用液体セル(液体セル)、2…第1の透光性基材、2A…流路構成部としての液体流路、2a…渦巻状流路部、2b…導液流路部、2c…流液流路部、3…第2の透光性基材、3a…流路構成部としての導液口部、3b…流路構成部としての流出口部、4(4a,4b)…マイクロチューブ、5…接着剤、33…テラヘルツ光発生素子、35,36…軸外し放物面鏡、42…時間遅延装置、47…テラヘルツ光検出素子、60…ホルダー、61…液クロマトグラフィー、100…テラヘルツパルス分光計測装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ光を照射して液体の分光分析に用いられるテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、
前記テラヘルツ分光分析用液体セルは、前記テラヘルツ光を透過する透光性基材が積層され、積層された前記透光性基材の界面に液体が流動する流路構成部と、積層された前記透光性基材の両面に多数の微細構造の突起をアレイ状に配列した反射防止構造と、を有し、
前記透光性基材の一方の面に形成された前記流路構成部と、前記透光性基材の他方の面に形成された前記反射防止構造とが、ウエットエッチング法を用いたエッチング工程で同時に形成されたことを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、
前記反射防止構造を形成する前記突起のアスペクト比(高さ/周期)が略2であることを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法であって、
前記透光性基材が、水晶、サファイア、透光性セラミックの内のいずれかより成ることを特徴とするテラヘルツ分光分析用液体セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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