説明

テラヘルツ帯光学素子

【課題】良好な光学特性を示す実用的なテラヘルツ帯光学素子を提供すること。
【解決手段】周波数が1〜6THzのテラヘルツ帯にあるテラヘルツ光の透過率が30%以上の値を示す基板11の少なくとも一方の表面に、前記テラヘルツ光に対して相対的に低い屈折率を示す低屈折率層と相対的に高い屈折率を示す高屈折率層とを交互に積層した構成の積層体14を配置してなるテラヘルツ帯光学素子であって、前記の積層体14が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と、この低屈折率層に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層13との組み合わせを含むことを特徴とするテラヘルツ帯光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタとして特に有利に用いることができるテラヘルツ帯光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ光は、物体を透過する性質を有することから、空港での所持品の検査、物品の非破壊検査、あるいは体内の病巣の検査などへの応用開発が進められている。テラヘルツ光の検出器には、例えば、その検出感度の向上のため、テラヘルツ光を選択的に透過させる光学フィルタ(光学素子)が用いられる。なお、本明細書において、テラヘルツ光とは、周波数が1〜6THz(波長が300〜50μm)の範囲にある光を意味する。
【0003】
特許文献1には、基板(素材)の表面に、プラズマCVD装置を用いてSi膜(屈折率:3.4)とSiO2膜(屈折率:1.9)とを交互に積層した構成のテラヘルツ帯光学素子が開示されている。同文献には、基板の材料の例として、ゲルマニウムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、Al23からなる第一のキャビティ層11の各表面に、TiO2(屈折率:10.4)からなる高屈折率層、Al23(屈折率:3.4)からなる低屈折率層、そしてTiO2からなる上記とは別のキャビティ層を積層した構成のテラヘルツ帯光学フィルタが開示されている。同文献には、上記高屈折率層と低屈折率層とからなる基本格子層は、両者の層の屈折率の比が大きな値(3.1)を示すことから光の干渉効果が高められ、従って、前記基本格子を備えるテラヘルツ帯光学フィルタは、少ない層数でも十分な波長選択性を示すと記載されている。このテラヘルツ帯光学フィルタは、上記各層を構成するシートを重ねて焼結することによって製造される。
【0005】
特許文献3には、赤外光(波長が0.7〜25μmの範囲にある光)を選択的に透過させる赤外光透過フィルタが開示されている。この赤外光透過フィルタは、基板の一方の表面に、硫化亜鉛(屈折率:2.1〜2.3)からなる低屈折率層とゲルマニウム(屈折率:4.0)からなる高屈折率層とを、最上部に高屈折率層が配置されるように交互に積層し、その上に更にダイヤモンドライクカーボン膜(屈折率:2.01〜2.3)を積層した構成を有している。同文献には、上記赤外光透過フィルタは、その最上部にダイヤモンドライクカーボン膜が備えられているため、機械的強度や耐水性に優れていると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−109827号公報(段落[0015])
【特許文献2】特開2007−178886号公報(第1図)
【特許文献3】特開2006−153976号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
テラヘルツ帯光学素子は、その光学特性のみでなく、実用的には、高屈折率層と低屈折率層との積層が容易に行なえること、そして両者の層が互いに十分な密着性を示すことも重要である。
【0008】
本発明の課題は、良好な光学特性を示す実用的なテラヘルツ帯光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、テラヘルツ帯光学素子を構成する低屈折率層と高屈折率層との組み合わせについて詳細に研究を行なった結果、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と、二酸化チタンからなる高屈折率層との組み合わせは、テラヘルツ光に対する屈折率の比が非常に大きな値(約5.0)を示し、更には両者の層が互いに十分な密着性を示すことから、良好な光学特性を示す実用的な光学素子の実現に極めて有用な組み合わせであることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明は、周波数が1〜6THzのテラヘルツ帯にあるテラヘルツ光の透過率が30%以上の値を示す基板の少なくとも一方の表面に、前記テラヘルツ光に対して相対的に低い屈折率を示す低屈折率層と相対的に高い屈折率を示す高屈折率層とを交互に積層した構成の積層体を配置してなるテラヘルツ帯光学素子であって、前記の積層体が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と、この低屈折率層に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層との組み合わせを含むことを特徴とするテラヘルツ帯光学素子にある。
【0011】
本発明のテラヘルツ帯光学素子の好ましい態様は、次の通りである。
(1)積層体が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と二酸化チタンからなる高屈折率層とを交互に積層した構成にある。更に好ましくは、積層体が低屈折率層と高屈折率層との二層からなる。
(2)基板が、ゲルマニウム、シリコン、石英、あるいはサファイアからなる。
(3)光学フィルタ用の光学素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のテラヘルツ帯光学素子は、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と、この低屈折率層に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層との組み合わせを含む積層体を備えていて、この組み合わせの層が、テラヘルツ光に対して非常に大きな屈折率比を示し、かつ互いに十分な密着性を示す。このため、良好な光学特性を示す実用的なテラヘルツ帯光学素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のテラヘルツ帯光学素子の構成例を示す断面図である。
【図2】本発明のテラヘルツ帯光学素子の別の構成例を示す断面図である。
【図3】実施例1のテラヘルツ帯光学素子の光透過率特性を示す図である。
【図4】比較例1のテラヘルツ帯光学素子の光透過率特性を示す図である。
【図5】比較例2のテラヘルツ帯光学素子の光透過率特性を示す図である。
【図6】実施例2のテラヘルツ帯光学素子の光透過率特性を示す図である。
【図7】実施例3のテラヘルツ帯光学素子の光反射率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のテラヘルツ帯光学素子を、添付の図面を用いて説明する。図1は、本発明のテラヘルツ帯光学素子の構成例を示す断面図である。
【0015】
図1のテラヘルツ帯光学素子10は、周波数が1〜6THzのテラヘルツ帯にあるテラヘルツ光の透過率が30%以上の値を示す基板11の各々の表面に、前記テラヘルツ光に対して相対的に低い屈折率を示す低屈折率層12と相対的に高い屈折率を示す高屈折率層13とを交互に積層した構成の積層体14を配置した構成を有している。
【0016】
本発明のテラヘルツ帯光学素子10は、低屈折率層12がダイヤモンドライクカーボン(屈折率:2)から形成され、そして高屈折率層13が二酸化チタン(屈折率:10)から形成されていて、従って上記積層体14が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と、低屈折率層12に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層13との組み合わせを含むことに特徴がある。
【0017】
テラヘルツ帯光学素子を構成するためには、基板上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層する必要がある。低屈折率層と高屈折率層との組み合わせは、その光学特性(例えば、両者の層の屈折率比)のみに着目すれば、各層の材料として様々な材料を採用して良好な光学特性を示す組み合わせを実現することができる。しかしながら、低屈折率層と高屈折率層とを積層した際に生じる内部応力によって両者の層が剥離する(両者の層の密着性が不十分である)、あるいは各層を形成する工程が複雑であるなどの理由により、実用的な低屈折率層と高屈折率層との組み合わせには限りがあり、これがテラヘルツ帯光学素子の自由な光学特性の設計を妨げる原因にもなっている。
【0018】
本発明のテラヘルツ帯光学素子10が備える積層体14には、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と低屈折率層12に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層13との新規な組み合わせが採用されていて、この組み合わせの層が、テラヘルツ光に対して非常に大きな屈折率比を示し、かつ互いに実用的に十分な密着性を示す。このため、良好な光学特性を示す実用的なテラヘルツ帯光学素子が実現される。
【0019】
基板11としては、周波数が1〜6THz(波長が300〜50μm)のテラヘルツ帯にあるテラヘルツ光の透過率が30%以上の値を示す基板が用いられる。
【0020】
基板11の材料の例としては、ゲルマニウム、シリコン、石英、サファイア、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびフッ素樹脂が挙げられる。
【0021】
積層体14は、上記のダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と、二酸化チタン(TiO2)からなる高屈折率層13との組み合わせを含んでいれば、別の材料から形成された層、例えば、Si層、SiO2層、あるいはAl23層を含んでいてもよい。
【0022】
なお、積層体が互いに異なる屈折率を有する三層以上の層を含む場合、低屈折率層及び高屈折率層は、それぞれ次のように定義される。すなわち、低屈折率層とは、その上下の一方にのみ隣接する層を有する場合には、この隣接する層の屈折率よりも低い屈折率を示す層であることを意味し、その上下の各々に隣接する層を有する場合には、隣接する各層の屈折率よりも低い屈折率を示す層であることを意味する。そして高屈折率層とは、その上下の一方にのみ隣接する層を有する場合には、この隣接する層の屈折率よりも高い屈折率を示す層であることを意味し、その上下の各々に隣接する層を有する場合には、隣接する各層の屈折率よりも高い屈折率を示す層であることを意味する。
【0023】
積層体の層数は、通常2〜15層、好ましくは2〜10層、好ましくは2〜5層、特に好ましくは2〜3層の範囲内の数に設定される。積層体の層数が少ないほど、テラヘルツ帯光学素子10の製造が容易になる。
【0024】
積層体は、基板の側に低屈折率層を備える構成であってもよいし、基板の側に高屈折率層を備える構成であってもよい。
【0025】
ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と二酸化チタンからなる高屈折率層13との組み合わせは、上記のように互いに十分な密着性を示すのみでなく、両者の層の何れもが、上記の各種材料から形成された基板との密着性にも優れているため、テラヘルツ帯光学素子の積層体を構成するために極めて有用であるという利点も有している。
【0026】
従って、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と二酸化チタンからなる高屈折率層13との組み合わせは、両者の層の何れかが基板11の表面に接触して配置されていることが好ましい。
【0027】
この場合、基板11としては、上記組み合わせの各層との密着性に優れることから、ゲルマニウム、シリコン、石英、あるいはサファイアから形成された基板を用いることが好ましく、ゲルマニウムから形成された基板を用いることが特に好ましい。ゲルマニウムから形成された基板は、テラヘルツ光の吸収が少ないという利点も有している。
【0028】
そして、上記組み合わせの層は、テラヘルツ光に対して非常に大きな屈折率比を示すこと、互いに十分な密着性を示すこと、更には上記のように基板との密着性にも優れていることから、積層体は、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と二酸化チタンからなる高屈折率層とを交互に積層した構成にあることが更に好ましい。
【0029】
図1のテラヘルツ帯光学素子10は、特定波長のテラヘルツ光を選択的に透過させる狭帯域フィルタ(バンドパスフィルタの一種)として用いられる。そして、テラヘルツ帯光学素子10は、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層12と二酸化チタンからなる高屈折率層13との組み合わせが、極めて大きな屈折率比を示すことから、少ない積層数(例えば、二層)にて良好な光学特性(例、高い透過率、高い波長選択性)を実現することができ、その製造も容易に行なうことができる。
【0030】
本発明のテラヘルツ帯光学素子は、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と二酸化チタンからなる高屈折率層との組み合わせを有していないテラヘルツ帯光学素子と比較して、同じ光学特性を実現する場合には、積層体の層数を少なくすることができるという利点、言い換えれば、同じ層数の積層体を用いる場合には、優れた光学特性を実現できるという利点を有している。
【0031】
本発明のテラヘルツ帯光学素子は、光学フィルタ用の光学素子であることが好ましい。光学フィルタ用の光学素子とは、光学素子に入射する光のうちで所定の性質を持つ光(例えば、特定の波長範囲の光)を透過し、それ以外の光を透過しない素子を意味する。
【0032】
光学フィルタ用の光学素子は、その光学特性により、例えば、バンドパスフィルタ、ロングパスフィルタ、ショートパスフィルタ、反射防止膜、ビームスプリッタ、そして全反射ミラーなどに分類される。光学素子の設計は、公知の方法、例えば、基板や積層体の各層の材料(屈折率)や厚みをパラメータとして、その光学特性の計算機シミュレーションを実施することにより行なわれる。光学素子の設計方法は周知であるため、これ以上の説明は行なわない。
【0033】
図2は、本発明のテラヘルツ帯光学素子の別の構成例を示す断面図である。
【0034】
図2のテラヘルツ帯光学素子20の構成は、基板11の一方の表面に、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層22aと、二酸化チタンからなる高屈折率層23と、そしてダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層22bとの三層が積層されてなる積層体24が備えられていること以外は、図1のテラヘルツ帯光学素子10と同様である。図2のテラヘルツ帯光学素子20は、反射防止膜として用いられる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
実施例1においては、図1のテラヘルツ帯光学素子10を作製する。テラヘルツ帯光学素子10は、狭帯域フィルタとして用いられる。
【0036】
先ず、直径が24mm、そして厚みが1mmの円盤状のゲルマニウム基板(屈折率4.0)の表面を、ジエチルエーテルを含浸させた布で拭いて洗浄した。このゲルマニウム基板の周波数1〜6THz(波長300〜50μm)における光透過率は約47%であった。
【0037】
次に、上記のゲルマニウム基板を、プラズマ化学蒸着装置のチャンバの内部に設置したのち、チャンバの内部を真空度が5×10-4Pa以下となるまで排気した。そして、チャンバにダイヤモンドライクカーボン膜の原料となるエチレンガスを120sccm(standard cubic centimeters per minute)の流量にて導入し、チャンバ内部に設置された高周波供給電極に1.3kWの高周波電力(周波数:13.56MHz)を供給してエチレンガスのプラズマを発生させることにより、基板の表面に厚みが11.4μmのダイヤモンドライクカーボン膜(低屈折率層、屈折率:2)を形成した。同様にして、基板の裏面にも厚みが11.4μmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成した。
【0038】
次に、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成された基板を電子ビーム蒸着装置のチャンバの内部に設置し、チャンバ内部に備えられたるつぼ(蒸着材料の容器)に二酸化チタン粉末を収容したのち、チャンバの内部を真空度が5×10-4Pa以下となるまで排気した。そして、チャンバの内部に設置されたフィラメントに1800Wの直流電力(電圧:6kV、電流:300mA)を供給し、これにより発生した電子ビームによって上記二酸化チタン粉末を加熱蒸発させることにより、基板の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の表面に、厚みが5.0μmの二酸化チタン膜(高屈折率層、屈折率:10)を形成した。同様にして、基板の裏面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の表面にも厚みが5.0μmの二酸化チタン膜を形成した。
【0039】
このようにして、図1に示すテラヘルツ帯光学素子(狭帯域フィルタ)10を作製した。作製したテラヘルツ帯光学素子10の基板11と低屈折率層12との密着性、そして低屈折率層12と高屈折率層13との密着性には何ら問題がないことを確認した。
【0040】
次に、作製したテラヘルツ帯光学素子10について、その光透過率特性の計算機シミュレーションを実施した。図3に、計算機シミュレーションにより得られた光透過率特性を示す。図3に示すように、作製したテラヘルツ帯光学素子は、波長100μmのテラヘルツ光に対して優れた波長選択性(半値幅:約9μm)を示すことがわかる。
【0041】
[比較例1]
低屈折率層として厚みが12.5μmのSiO2膜(屈折率:2)を、そして高屈折率層として厚みが14.7μmのSi膜(屈折率:3.4)を用いること以外は実施例1と同様の構成を有するテラヘルツ帯光学素子について、その光透過率特性の計算機シミュレーションを実施した。図4に、計算機シミュレーションにより得られた光透過率特性を示す。図4に示すように、SiO2膜とSi膜とを用いたテラヘルツ帯光学素子は、実施例1のテラヘルツ帯光学素子と比較して、波長100μmのテラヘルツ光に対する波長選択性が低い(半値幅:約25μm)ことがわかる。
【0042】
[比較例2]
低屈折率層として厚みが7.6μmのAl23膜(屈折率:3.3)を、そして高屈折率層として厚みが5.0μmのTiO2膜(屈折率:10)を用いること以外は実施例1と同様の構成を有するテラヘルツ帯光学素子について、その光透過率特性の計算機シミュレーションを実施した。図5に、計算機シミュレーションにより得られた光透過率特性を示す。図5に示すように、Al23膜とTiO2膜とを用いたテラヘルツ帯光学素子は、実施例1のテラヘルツ帯光学素子と比較して、波長100μmのテラヘルツ光に対する波長選択性が低い(半値幅:約15μm)ことがわかる。また、前記テラヘルツ光に対する透過率も低い値(65%)を示すことがわかる。
【0043】
[実施例2]
基板の各表面に高屈折率層と低屈折率とをこの順に積層すること以外は実施例1と同様にしてテラヘルツ帯光学素子を作製した。
【0044】
作製されたテラヘルツ帯光学素子の基板と高屈折率層との密着性、そして高屈折率層と低屈折率層との密着性には何ら問題がないことを確認した。
【0045】
次に、作製したテラヘルツ帯光学素子について、その光透過率特性の計算機シミュレーションを実施した。図6に、計算機シミュレーションにより得られた光透過率特性を示す。図6に示すように、作製したテラヘルツ帯光学素子は、波長100μmのテラヘルツ光に対して優れた波長選択性(半値幅:約14μm)を示すことがわかる。
【0046】
なお、実施例2のテラヘルツ帯光学素子は、実施例1のテラヘルツ帯光学素子と比較して、波長選択性が低いものの、最上層の低屈折率層がダイヤモンドライクカーボン膜から形成されているため、機械的強度や耐薬水性に優れる利点を有している。
【0047】
[実施例3]
実施例3においては、図2のテラヘルツ帯光学素子20を作製する。テラヘルツ帯光学素子20は、反射防止膜として用いられる。
【0048】
基板11の一方の表面に、厚みが2.04μmのダイヤモンドライクカーボン膜22a、厚みが0.21μmの二酸化チタン膜23、そして厚みが9.07μmのダイヤモンドライクカーボン膜22bからなる積層体24を形成すること以外は、実施例1と同様にしてテラヘルツ帯光学素子20を作製した。作製したテラヘルツ帯光学素子20の基板11と低屈折率層22aとの密着性、低屈折率層22aと高屈折率層23との密着性、そして高屈折率層23と低屈折率層22bとの密着性には何ら問題がないことを確認した。
【0049】
次に、作製したテラヘルツ帯光学素子20について、その光反射率特性の計算機シミュレーションを実施した。図7に、計算機シミュレーションにより得られた光反射率特性を示す。図7に示すように、作製したテラヘルツ帯光学素子は、波長50〜100μmのテラヘルツ光に対して低い反射率(8%以下)を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0050】
10、20 テラヘルツ帯光学素子
11 基板
12、22a、22b ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層
13、23 二酸化チタンからなる高屈折率層
14、24 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が1〜6THzのテラヘルツ帯にあるテラヘルツ光の透過率が30%以上の値を示す基板の少なくとも一方の表面に、該テラヘルツ光に対して相対的に低い屈折率を示す低屈折率層と相対的に高い屈折率を示す高屈折率層とを交互に積層した構成の積層体を配置してなるテラヘルツ帯光学素子であって、
上記積層体が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と、該低屈折率層に隣接する二酸化チタンからなる高屈折率層との組み合わせを含むことを特徴とするテラヘルツ帯光学素子。
【請求項2】
積層体が、ダイヤモンドライクカーボンからなる低屈折率層と二酸化チタンからなる高屈折率層とを交互に積層した構成にある請求項1に記載のテラヘルツ帯光学素子。
【請求項3】
積層体が、低屈折率層と高屈折率層との二層からなる請求項2に記載のテラヘルツ帯光学素子。
【請求項4】
基板が、ゲルマニウム、シリコン、石英、あるいはサファイアからなる請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載のテラヘルツ帯光学素子。
【請求項5】
光学フィルタ用の光学素子である請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載のテラヘルツ帯光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−42726(P2012−42726A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183990(P2010−183990)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000231475)日本真空光学株式会社 (9)
【Fターム(参考)】