説明

テレスコープ型伸縮装置

【課題】片持状態の棹部材が大きな曲げモーメントを受けても、テレスコープ型シリンダーの良好な機能を損なうことがなく身体の不自由な使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせる介護用入浴補助具として活用できるテレスコープ型伸縮装置を提供する。【解決手段】棹部材12は、一端部が取付部11に片持状態に取り付けられ、他端部が使用者を乗せた椅子14を荷重部として負担するように設けられている。テレスコープ型シリンダー5の伸縮時、棹部材12に加わる曲げモーメントをスライダー10の幅方向に伝えるようにしている。このため、片持状態の棹部材12が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダー10により十分に受け止められてテレスコープ型シリンダー5の良好な機能を損なうことがなく維持できて介護用入浴補助具として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の不自由な使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせることに用いることができ、介護用入浴補助具として有効なテレスコープ型伸縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のテレスコープ型伸縮装置にあっては、複数の筒をテレスコープ状に嵌合して全体が伸縮自在に構成された多段伸縮エヤーシリンダーが代表例として登場している(例えば、特許文献1参照)。この多段伸縮エヤーシリンダーでは、ゴムベローズにエアーを供給した時、ゴムベローズの膨張変位により複数の筒が押し上げられて高い上昇位置に到達するようにしている。この場合、筒の伸張時の高さが収縮時の高さに比して4倍にもなる記録を達成して昇降効率の優れたエヤーシリンダーを実現させている。
【特許文献1】特開2000−170712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1の多段伸縮エヤーシリンダーでは、筒の先端に棹部材を片持状態に取り付けて、身体の不自由な使用者を椅子に乗せて吊り上げる機構に適用すると、棹部材が筒の先端を支点として大きな曲げモーメントを受けるようになる。この際、曲げモーメントは、互いに摺動し合う筒に伝わり大きな曲げ力を及ぼす。伸張時の筒は、互いに僅かな寸法の周縁部で重なり合っているだけなので、筒は大きな曲げ力を受けて変形し、筒が重なり合った周縁部から外れて大きく変形してしまう虞がある。
【0004】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その目的は片持状態の棹部材が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダーにより十分に受け止められて、身体の不自由な使用者を椅子に乗せながら浴槽に対して出入りさせる介護用入浴補助具として好適となるテレスコープ型伸縮装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1について)
テレスコープ型シリンダーは、互いに径寸法の異なる剛体筒を伸縮自在に重ね合わせて構成されている。台座は、テレスコープ型シリンダーの端部に取り付けられている。外套筒は、台座に固定されてテレスコープ型シリンダーを囲むように設けられている。
エラストマー製のベローズは、テレスコープ型シリンダー内に略同軸的に配されている。非弾性体製の布筒部はベローズの外周に被せられて、ベローズの横方向の膨張変位を抑制する。幅広なスライダーは、外套筒の左右前後に取り付けられて軸方向に伸縮変位する。取付部はスライダーの先端部に取り付けられ、テレスコープ型シリンダーの頭部に対向する状態に位置している。
棹部材は、一端部が取付部に片持状態に取り付けられ、他端部が荷重部を負担するように設けられている。給排部材はベローズ内に対して作動流体を給排するように設けられている。テレスコープ型シリンダーの伸縮時、荷重部により棹部材に加わる曲げモーメントをスライダーの幅方向に伝えるようにしている。このため、片持状態の棹部材が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダーにより十分に受け止められてテレスコープ型シリンダーの良好な機能を損なうことがなく維持でき、棹部材に設けた椅子に乗る身体の不自由な使用者を荷重部とした場合、使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせる介護用入浴補助具として好適である。
【0006】
(請求項2について)
棹部材は取付部を中心にして回動可能に設けられており、荷重部は棹部材に設けられた椅子に乗る使用者であり、棹部材の回動変位により使用者は休止位置と使用位置との間で移動可能に配されている。このため、棹部材を休止位置と使用位置との間で回動するといった簡単な操作で使用者を浴槽に対して出入れすることができ、介護負担を大幅に軽減することができる。
【0007】
(請求項3について)
浴室に断面略L字状のブラケットを介して取り付けられ、棹部材の回動変位に伴って、身体の不自由な使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせるようになっている。 この場合、テレスコープ型伸縮装置は、断面略L字状のブラケットにより浴室に簡易に取り付けられるので、必要が生じた時に家庭や個人用の浴室に後付けできる便宜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のテレスコープ型伸縮装置では、棹部材は、一端部が取付部に片持状態に取り付けられ、他端部が使用者の体重を負担するように設けられている。給排部材はベローズ内に対して作動流体を給排するように設けられている。テレスコープ型シリンダーの伸縮時、使用者の体重により棹部材に加わる曲げモーメントをスライダーの幅方向に伝えるようにしている。これにより、片持状態の棹部材が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダーにより十分に受け止められてテレスコープ型シリンダーの良好な機能を維持でき、身体の不自由な使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせる介護用入浴補助具として好適となる。
【実施例1】
【0009】
図1ないし図6に基づいて本発明の実施例1を説明する。
本発明のテレスコープ型伸縮装置1は、図1に示すように台座2上に伸縮可能なエラストマー製のベローズ3を気密あるいは液密状態に設けている。ベローズ3の外周には、織布あるいは不織布などからなる非弾性体製の布筒部3aが適宜の被覆手段により被せられており、後述する水道水の供給を受けた場合、ベローズ3が横方向に不必要に膨張変位することを抑制している。台座2の中央環部2aには、連通孔4がベローズ3の内部と連通するように設けられている。連通孔4は、給排部材を水道の蛇口とする水源(いずれも図示せず)に接続されており、蛇口から延出された三方向弁(いずれも図示せず)の操作により作動流体としての水道水の給排を受けるようになっている。
【0010】
テレスコープ型シリンダー5は、図2に示すように台座2上にベローズ3を略同軸的に囲むように設けられており、互いに径寸法の異なる剛体筒6、7、8を伸縮摺動自在に重ね合わせて構成されている。最外側の剛体筒6および中間の剛体筒7の上端部は、ストッパS1、S2を備えている。中間の剛体筒7および最内側の剛体筒8の下端部は、下方に漸次拡開するテーパ部7a、8aを形成する一方、ストッパS1、S2に対向する当接部T1、T2を取り付けている。テーパ部7a、8aの形成により、ベローズ3が伸縮変位する際にベローズ3が剛体筒7、8の下端部に不用意に引っ掛からないようにしている。矩形の外套筒9は、台座2に固定されてテレスコープ型シリンダー5を略同軸的に囲繞するように設けられている。外套筒9の先端開口部は、互いに重なり合って収縮した剛体筒6、7、8の外部に位置するように配されている。
【0011】
外套筒9における四カ所の各内側面部(左右前後)には、図3にも示すように二本ずつのスライダー10が軸方向に沿って並列状態に設けられている。各スライダー10は、長さ寸法に比較して幅広に設定されており、外側スライド部10a、中間スライド部10bおよび内側スライド部10cからなっている。外側スライド部10aに対して中間スライド部10bおよび内側スライド部10cが伸縮摺動可能に設けられている。外側スライド部10aに対して中間スライド部10bおよび内側スライド部10cが上下方向に摺動変位することにより全体の高さ寸法を大小調節できるようになっている。取付部11は、外套筒9に対して出没可能に設けられており、上半部を円筒状の枢支部11aとし、下半部を先端部としての内側スライド部10cに固定するとともに、テレスコープ型シリンダー5の頭部に対向させている。
【0012】
金属製の棹部材12は、図4および図5に示すように取付部11に片持状態で支持されるもので、一端部に段付き円柱状の支軸部13を備え、他端部には使用者(図示せず)が座る椅子14を荷重部として設けている。棹部材12の支軸部13は、図5に示すようにベアリング13a、13b、13cを介して取付部11の枢支部11aに回動可能に嵌め込まれている。
テレスコープ型伸縮装置1は、家庭あるいは個人用の浴室Btに後付け可能に設けられており、後付け時に縦板部15aおよび横板部15bから成る断面略L字状のブラケット15を用いる。この際、ブラケット15の縦板部15aを浴槽16の擁壁部16aにクランプ部Kで固定し、上面部にテレスコープ型伸縮装置1の台座2を固定した横板部15bを床部17に設置する。
【0013】
入浴時には、介護者(図示せず)の手助けを借りて、例えば身体の不自由な使用者を浴槽16の外部となる休止位置で椅子14に座らせる(図5の二点鎖線参照)。この時、使用者の体重により生じる曲げモーメントは、支軸部13および取付部11を介して前後のスライダー10の幅方向に加わっている(図4の矢印M1−M2参照)。
三方向弁の操作により蛇口の水道水を連通孔4を介してべローズ3内に供給すると、べローズ3が水圧を受けて軸方向に伸張し、テレスコープ型シリンダー5の剛体筒8、7を上方に摺動させる。剛体筒8、7の摺動変位は、当接部T1がストッパS1に当接し、当接部T2がストッパS2に当接した位置で止まり(図2参照)、これらの当接力がべローズ3内の水圧と平衡する状態で拮抗する(図5参照)。
【0014】
剛体筒8、7の摺動変位に伴い、スライダー10の内側スライド部10c、中間スライド部10bが外側スライド部10aに対して上方摺動し、取付部11がスライダー10に支えられながら上昇するため、椅子14に乗せられた使用者が休止位置から棹部材12を介して上昇変位する。この時、介護者の補助により棹部材12を浴槽16内に向けて使用位置に略90度だけ回動する。
【0015】
この状態では、図6に実線で示す位置に至っており、使用者の体重による曲げモーメントは、支軸部13および取付部11を介して左右のスライダー10の幅方向に加わり(図4の矢印N1−N2参照)、椅子14に乗せられた使用者が浴槽16内の湯面上に位置している。そして、三方向弁の操作により、べローズ3内の水道水を連通孔4を介して外部に排出すると、ベローズ3が収縮してテレスコープ型シリンダー5の剛体筒8、7を下方に摺動させる。このため、取付部11がスライダー10の下方摺動を伴って下降し、棹部材12を下方に降ろして使用者を椅子14とともに浴槽16の湯船に漬ける(図6の二点鎖線参照)。
【0016】
なお、枢支部11aには、棹部材12の支軸部13に対して螺進退可能に設けたストッパ螺子18が取り付けられており(図5および図6参照)、使用位置および休止位置でストッパ螺子18を締め付けることにより、棹部材12を固定して棹部材12の不必要な回動変位を防ぐことができる。また、使用者を浴槽16の湯船から休止位置に戻すには、上記と逆の手順を辿ればよい。
【0017】
このように、上記構成では、テレスコープ型伸縮装置1を家庭や個人用の浴室Btに後付けした後、べローズ3、テレスコープ型シリンダー5、スライダー10および取付部11を介して棹部材12を昇降変位させて使用者を湯船に漬けることができ、介護用入浴補助具として利用することができる。
また、テレスコープ型シリンダー5の伸縮時、使用者の体重による曲げモーメントは、棹部材12から取付部11を介してスライダー10の幅方向に伝えるようにしている。このため、片持状態の棹部材12が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダー10により十分に受け止められてテレスコープ型シリンダー5の良好な機能を損なうことがなく維持でき、身体の不自由な使用者を椅子14に乗せたまま浴槽16に対して出入りさせる介護用入浴補助具として好適となる。
しかも、ベローズ3の伸縮作動に水道水を作動流体として用いているので、油圧駆動装置や油圧シリンダーを適用するものと異なり、油汚れがなく油漏れ止めシール、パッキンや洗浄装置を使用することなく清潔・衛生状態を維持することができて好都合である。
【0018】
なお、上記の実施例1では、外套筒9を矩形状に形成したが、円形、楕円形、五角形、六角形あるいは多角形に形成してもよい。スライダー10は、外套筒9の左右前後に二本づつ設ける代わりに、幅寸法が倍尺となる幅広な単一のスライダーを外套筒9の左右前後に一個づつ取り付けるようにしてもよい。また、スライダー10は、外側スライド部10a、中間スライド部10bおよび内側スライド部10cの三段摺動に限らず、二段摺動あるいは四段摺動など使用状況に応じて所望の摺動段に設定することができる。また、ベローズ3に対して水道水を給排するようにしたが、水道水に代わって圧搾空気や窒素などのガス体を給排するようにしてもよい。また、テレスコープ型シリンダー5、外套筒9、スライダー10や棹部材12などの構成部品には、亜鉛鍍金やパーカライジングなどにより防錆処理を施すことができるものである。さらには、外套筒9の高さ寸法は、浴槽16の擁壁部16aの高さ寸法と略同一になるように設定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のテレスコープ型伸縮装置における棹部材は、一端部が取付部に片持状態に取り付けられ、他端部が使用者の体重を負担するように設けられている。テレスコープ型シリンダーの伸縮時、使用者により棹部材に加わる曲げモーメントをスライダーの幅方向に伝えるようにしている。片持状態の棹部材が大きな曲げモーメントを受けても、その曲げモーメントは幅広なスライダーにより十分に受け止められてテレスコープ型シリンダーの良好な機能を維持でき、身体の不自由な使用者を椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせる介護用入浴補助具として好適となる。このため、入浴時の介護負担を軽減できる利便性を求める需要者の増加に伴い、機械加工部品などの流通を介して機械産業界へ広く適用することがきる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】テレスコープ型伸縮装置の分解斜視図である(実施例1)。
【図2】テレスコープ型伸縮装置の側面図である(実施例1)。
【図3】棹部材を取り外した状態で示すテレスコープ型伸縮装置の平面図(実施例1)。
【図4】テレスコープ型伸縮装置の斜視図である(実施例1)。
【図5】浴槽に後付けしたテレスコープ型伸縮装置の縦断面図である(実施例1)。
【図6】浴槽に後付けしたテレスコープ型伸縮装置の側面図である(実施例1)。
【符号の説明】
【0021】
1 テレスコープ型伸縮装置
2 台座
3 ベローズ
3a 布筒部
5 テレスコープ型シリンダー
6〜8 剛体筒
9 外套筒
10 スライダー
10a 外側スライド部
10b 中間スライド部
10c 内側スライド部
11 取付部
12 棹部材
14 椅子
15 ブラケット
16 浴槽
16a 擁壁部
Bt 浴室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径寸法の異なる剛体筒を伸縮自在に重ね合わせたテレスコープ型シリンダーと、 このテレスコープ型シリンダーの端部に取り付けた台座と、
この台座に固定されて前記テレスコープ型シリンダーを囲むように設けられた外套筒と、
前記テレスコープ型シリンダー内に略同軸的に配されたエラストマー製のベローズと、 このベローズの外周に被せられて横方向の膨張変位を抑制する非弾性体製の布筒部と、 前記外套筒の左右前後に取り付けられて軸方向に伸縮変位する幅広なスライダーと、 このスライダーの先端部に取り付けられて、前記テレスコープ型シリンダーの頭部に対向する状態に位置する取付部と、
一端部が前記取付部に片持状態に取り付けられ、他端部が荷重部を負担するように設けられた棹部材と、
前記ベローズ内に対して作動流体を給排するための給排部材とを備え、
前記テレスコープ型シリンダーの伸縮時、前記荷重部により前記棹部材に加わる曲げモーメントを前記スライダーの幅方向に伝えるようにしたことを特徴とするテレスコープ型伸縮装置。
【請求項2】
前記棹部材は前記取付部を中心にして回動可能に設けられており、前記荷重部は前記棹部材に設けられた椅子に乗る使用者であり、前記棹部材の回動変位により前記使用者は休止位置と使用位置との間で移動可能に配されることを特徴とする請求項1に記載のテレスコープ型伸縮装置。
【請求項3】
浴室に断面略L字状のブラケットを介して取り付けられ、前記棹部材の回動変位に伴って、身体の不自由な使用者を前記椅子に乗せたまま浴槽に対して出入りさせるようになっていることを特徴とする請求項2に記載のテレスコープ型伸縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−158680(P2006−158680A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354864(P2004−354864)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(503303075)
【Fターム(参考)】