テンション装置
【課題】付勢部材の交換又は調整を行うことなく巻線に加えるテンションの変更ができるテンション装置を提供する。
【解決手段】テンション装置は、ボビンから導かれた巻線を巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、テンションプーリと巻線機との間で巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして回動自在なテンションアームと、アームプーリがテンションプーリ及び巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、テンションプーリに結合され、テンションプーリを回転させるモータと、角度検出部が検出したアーム角度と、入力される目標アーム角度と応じてモータの駆動を制御して、巻線の繰り出す速度を増減させる制御部とを具備する。
【解決手段】テンション装置は、ボビンから導かれた巻線を巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、テンションプーリと巻線機との間で巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして回動自在なテンションアームと、アームプーリがテンションプーリ及び巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、テンションプーリに結合され、テンションプーリを回転させるモータと、角度検出部が検出したアーム角度と、入力される目標アーム角度と応じてモータの駆動を制御して、巻線の繰り出す速度を増減させる制御部とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線に所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巻芯に巻線を巻き付ける巻線機に巻線を繰り出す際に、巻線にテンションを加えるテンション装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載のテンション装置は、巻線源から導かれた巻線をガイドプーリを介して繰り出し制御プーリに巻き付け、繰り出し制御プーリからテンションバー先端の巻線ガイドを介してコイルボビン等の巻芯に繰り出す構成である。繰り出し制御プーリには、サーボモータが連結され、テンションバーは、基端を支点として回動可能に保持されると共に、付勢部材により所定の回動方向に対して付勢力が与えられ巻線にテンションを加える構成となっている。巻線に加えられるテンションが変化すると、テンションの変化に応じてテンションバーが回動し、サーボモータがテンションバーの所定の角度になるように巻線の繰り出し速度を制御して巻線に過大なテンションが加わらないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−128433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のテンション装置では、サーボモータは、テンションバーが所定の角度によるように制御するのみで、巻線に加えるテンションの調節は、テンション装置が有する付勢部材により行う。このため、例えば、異なる太さ又は異なる材質の巻線を異なるテンションを加えて巻芯などに巻き付けて製品を大量に生産する場合、付勢部材の交換又は調整などの調節に時間を要するという問題がある。このような製造工程における作業時間の増加は、製造コストの増加をまねくという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、付勢部材の交換又は調整を行うことなく巻線に加えるテンションの変更ができるテンション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記問題を解決するために、本発明は、巻芯に巻線を巻回する巻線機にボビンから前記巻線を所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置であって、前記ボビンから導かれた前記巻線を前記巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、前記テンションプーリと前記巻線機との間で前記巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして前記アームプーリを前記テンションプーリ及び前記巻線機のそれぞれと近接離間させるように回動自在なテンションアームと、前記アームプーリが前記テンションプーリ及び前記巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、前記テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、前記テンションプーリに結合され、前記テンションプーリを回転させるモータと、前記角度検出部が検出した前記アーム角度と、入力される目標アーム角度とに応じて前記モータの駆動を制御して、前記巻線の繰り出す速度を増減させる制御部とを具備することを特徴とするテンション装置である。
【0007】
(2)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、前記アーム角度と前記目標アーム角度との角度偏差、及び、入力される前記モータの回転子の位置を示す位置信号から該回転子の目標位置を示す目標位置信号を算出し、該目標位置信号から前記モータへの指令信号を生成して前記モータを駆動するPI制御を行うことを特徴とする。
【0008】
(3)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、前記PI制御における積分項に上限値及び下限値を設けることを特徴とする。
【0009】
(4)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、算出した前記目標位置信号が、前記巻線を繰り出す方向に前記モータを駆動するか否かを判定し、前記巻線を繰り出す方向の場合、算出した前記目標位置信号により前記指令信号を更新し、前記巻線を繰り出す方向でない場合、前記指令信号を更新しないことを特徴とする。
【0010】
(5)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションプーリと前記アームプーリとの間に設けられた第1のガイドプーリと、前記アームプーリと前記巻線機との間に設けられた第2のガイドプーリと、を備え、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ60度から80度であることを特徴とする。
【0011】
(6)また、本発明は、上記記載の発明において、前記巻線に前記所望のテンションが加わる場合、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、それぞれ鉛直方向であることを特徴とする。
【0012】
(7)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションプーリと前記第1のガイドプーリとの間に設けられた第3のガイドプーリと、前記第2のガイドプーリと前記巻線機との間に設けられた第4のガイドプーリとを備え、前記第3のガイドプーリから前記第1のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記第2のガイドプーリから前記第4のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ45度であることを特徴とする。
【0013】
(8)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションアームの素材は、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、テンションアームの角度を設定し、テンションアームの角度と設定した角度とに応じてモータを駆動して、巻線の繰り出し速度を制御することにより、スプリングの変更を行うことなく巻線に加えるテンションの変更ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態におけるテンション装置1の構成を示す概略図である。
【図2】同実施形態におけるアーム角度検出部22が検出するアーム角度θTの一例を示す概略図である。
【図3】同実施形態における制御部23の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】同実施形態における制御部23のモータ13への指令信号を生成する処理を示すフローチャートである。
【図5】同実施形態における目標アーム角度θTrefを変更した場合の巻線に加えられるテンション(巻線張力)の時間応答の一例を示す波形図である。
【図6】第2実施形態におけるテンション装置1Aの構成を示す概略図である。
【図7】第3実施形態におけるテンション装置1Bの構成を示す概略図である。
【図8】第4実施形態におけるテンション装置1Cの構成を示す概略図である。
【図9】第5実施形態におけるテンション装置1Dの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態によるテンション装置を図面を参照して説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態におけるテンション装置1の構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1は、巻線Wを供給する巻線源であるボビン2からガイドプーリ3に案内されて導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、巻線を巻芯、例えば、モータの電機子に巻回する装置であるフライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。
また、テンション装置1は、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
【0018】
バックテンショナ部11は、巻線Wを供給する巻線源であるボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに一定のテンションを加える。
テンションプーリ12は、バックテンショナ部11によりテンションを加えられた巻線Wが巻き付けられて、巻線Wとテンションプーリ12との間に摩擦力が発生するようになっている。また、テンションプーリ12は、方向a(図1においては、時計方向)に回転することにより巻線Wをフライヤ4に向けて繰り出す。
【0019】
また、テンションプーリ12は、回転軸12aがモータ13の回転子に結合され、モータ13が駆動されると、モータ13の回転子と共に回転する。すなわち、モータ13の駆動により、テンションプーリ12が回転して巻線Wが繰り出され、モータ13の駆動を制御することにより巻線Wの繰出速度を制御する。モータ13には、例えば、ブラシレスDCモータが用いられる。また、バックテンショナ部11は、フェルト、モータ及びプーリを組み合わせたものなどを用いて、バックテンショナ部11とテンションプーリ12との間の巻線Wに弛みが生じないようにある程度の摩擦を生じさせる。
【0020】
また、モータ13には、モータ13が有する回転子の位置(回転角)を検出し、回転子の位置を示す位置信号を出力する位置検出部13aが付設されている。ここで、位置検出部13aには、例えば、磁気式位置検出装置であるレゾルバ、ホールIC、又は、光学エンコーダなどが用いられる。
テンションアーム14は、基端14aを支点に回動するように回転自在にテンション装置に保持されている。また、テンションアーム14は、先端14bにアームプーリ15が回転可能に支持され、基端14aから先端14bに向かって離間した位置に設けられた引掛け部14cに、一端がテンション装置1の固定部16に係止されたバネ(付勢部材)17の他端が、係止されている。また、テンションアーム14は、アームプーリ15がテンションプーリ12及びフライヤ4と近接する方向となる上方向への回動がストッパ18により制限され、アームプーリ15がテンションプーリ12及びフライヤ4と離間する方向となる下方向への回動がストッパ19により制限される。また、テンションアーム14は、質量が軽く、応力により変形しない素材、例えば、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックにより構成される。
【0021】
ガイドプーリ20、21は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15に対して巻線を供給する側と、巻線を送り出す側とそれぞれに設けられ、巻線Wの移動方向を変え、アームプーリ15に対する巻線Wの巻き付ける長さを保つためのものである。すなわち、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に設けられ、アームプーリ15から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。符号20a、21aは、ガイドプーリ20、21それぞれの回転軸である。
【0022】
また、ガイドプーリ20は、テンションアーム14の配設方向14d(基端14aと先端14bとを結ぶ直線方向)が水平方向と平行となるとき、ガイドプーリ20とアームプーリ15との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向(図面において上下方向)となる位置に配設される。
また、ガイドプーリ21は、ガイドプーリ20と同様に、テンションアーム14の配設方向が水平方向と平行となるとき、ガイドプーリ21とアームプーリ15との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向となる位置に配設される。
【0023】
アーム角度検出部22は、例えば、抵抗式ポテンションメータ、光学式ポテンションメータ、光学式エンコーダなどにより構成され、テンションアーム14の基端14aに設けられ、基端14aとアームプーリ15の回転軸15aを結ぶ直線が水平方向(図面の左右方向、鉛直方向に対して垂直方向)に対してなす角度であるアーム角度θTを計測し、計測したアーム角度θTを示すアーム角度信号を出力する。
制御部23は、アーム角度検出部22が出力したアーム角度信号と、入力される目標アーム角度θTrefを示す目標アーム角度信号とから、アーム角度θTと目標アーム角度θTrefの差である角度偏差ΔθTを算出し、算出した角度偏差ΔθTが0(零)になるように、算出した角度偏差ΔθTと、位置検出部13aが出力する位置信号とに応じてモータ13をPI制御により駆動させる。すなわち、制御部23は、角度偏差ΔθTと位置信号とにより、モータ13及びテンションプーリ12を介して、巻線Wの繰出速度を制御することにより、アーム角度θTと目標アーム角度θTrefとが一致させる制御を行う。また、制御部23は、モータ13を駆動するモータ駆動制御部23aを備える。
【0024】
図2は、同実施形態におけるアーム角度検出部22が検出するアーム角度θTの一例を示す概略図である。なお、図2においては、アーム角度θTに係る一部の構成を示している。図示するように、アーム角度検出部22は、テンションアーム14の回動支点である基端14aと、アームプーリ15の回転軸15aとを結ぶ直線が、水平方向(鉛直方向(重力方向)に対して垂直な方向)に対してなすアーム角度θTを検出する。アーム角度θTは、アームプーリ15がガイドプーリ20、21に近づく方向を正の値とし、アームプーリ15がガイドプーリ20、21から遠ざかる方向を負の値とする。また、アーム角度θTが増加すると(テンションアーム14が上方に回動すると)、バネ17が伸びることにより、テンションアーム14とアームプーリ15とを介して、巻線Wに加えられるテンションが増加する。一方、アーム角度θTが減少すると(テンションアーム14が下方に回動すると)、バネ17が縮むことにより、テンションアーム14とアームプーリ15とを介して、巻線Wに加えられるテンションが減少する。
【0025】
ここで、テンションプーリ12の動作について説明する。
フライヤ4への巻線速度が、テンションプーリ12により繰り出される巻線の繰出速度より速い場合、速度の差により巻線Wに加えられるテンションは大きくなり、テンションアーム14は、上方に回動する。この場合、テンションプーリ12の回転速度(回転角)を増加させることにより、巻線の繰出速度を速くして巻線Wに加えられるテンションを減少させる。
一方、フライヤ4への巻線速度が、テンションプーリ12により繰り出される巻線Wの繰出速度より遅い場合、速度の差により巻線Wに弛みが生じ、この弛みにより、テンションアーム14がバネ17の弾性力により下方に回動する。この場合、テンションプーリ12の回転速度(回転角)を減少させることにより、巻線Wの繰出速度を遅くして巻線Wに加えられるテンションを増加させる。
【0026】
図3は、同実施形態における制御部23の構成を示す概略ブロック図である。図示するように制御部23は、減算部231、ローパスフィルタ部232、PI(Proportional Integral;比例積分)演算部233、加算部234、逆回転検出部235、及び、モータ駆動制御部23aとを備える。また、PI演算部233は、乗算部241、244と、積分演算部242と、リミッタ部243と、加算部245とを有する。
減算部231は、外部から入力される目標アーム角度信号と、アーム角度検出部22が出力するアーム角度信号との差である角度偏差ΔθTを示す角度偏差信号を生成する。ローパスフィルタ部232は、減算部231が生成した角度偏差信号に含まれる高周波成分、例えば、カットオフ周波数fc=200Hz以上の周波数成分を除去し、高周波成分を除去した角度偏差信号をPI演算部233に出力する。
【0027】
乗算部241は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号と、予め定められた比例ゲインKθPとを乗算して出力する。
積分演算部242は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号を予め定められた期間において累算する累積演算により時間積分を行い、累積演算結果を積分値として出力する。なお、積分演算部242の出力する積分値の初期値は、0(零)とする。リミッタ部243は、積分演算部242が出力した積分値が、予め定められた上限値及び下限値により定められる範囲内の値であるか否かを判定し、積分値が範囲内の値である場合、積分値を出力し、積分値が下限値より小さい場合、下限値を出力し、積分値が上限値より大きい場合、上限値を出力する。
【0028】
乗算部244は、リミッタ部243の出力と、予め定められた積分ゲインKθIとを乗算して出力する。加算部245は、乗算部241が出力する乗算結果と、乗算部244が出力する乗算結果を加算して出力する。ここで、加算部245が出力する加算結果は、角度偏差ΔθTに応じたモータ13の回転子に対する進角(PI演算値)であり、この進角は、テンションプーリ12を回転させる角度である。すなわち、PI演算部233において、乗算部241が比例項の算出を行い、積分演算部242、リミッタ部243、及び、乗算部244が積分項の算出を行う構成としている。
ここで、比例ゲインKθP、積分ゲインKθI、及び、角度偏差信号を累算する期間は、シミュレーションや、実験などから統計的に算出した値を用いる。
【0029】
加算部234は、位置検出部13aが出力する位置信号と、加算部245が出力する加算結果とを加算し、加算結果をモータ13が有する回転子の位置(回転角)を示す目標位置信号として出力する。ここで、目標位置信号は、モータ13を駆動する際の回転子の目標位置を示す。
逆回転検出部235は、加算部234が出力する目標位置信号と、位置検出部13aが出力する位置信号とから、モータ13が逆転方向に回転させない指令信号を出力する。モータ駆動制御部23aは、逆回転検出部235が出力した指令信号に応じて、モータ13を駆動する。ただし、テンションプーリ12から巻線Wが繰り出される方向をモータの位置(回転角)の正の方向とする。
【0030】
図4は、同実施形態における制御部23のモータ13への指令信号を生成する処理を示すフローチャートである。
減算部231に、アーム角度検出部22から出力されたアーム角度信号が入力されると(ステップST101)、アーム角度信号及び入力された目標アーム角度信号から、角度偏差信号を算出してローパスフィルタ部232に出力する(ステップST102)。このとき、加算部234と逆回転検出部235とには、位置検出部13aから位置信号が入力される。
ローパスフィルタ部232は、減算部231から出力された角度偏差信号から高周波成分を除去して、乗算部241と積分演算部242とに出力する(ステップST103)。
【0031】
積分演算部242は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号を時間積分してリミッタ部243に出力する(ステップST104)。
リミッタ部243は、積分演算部242が算出した積分値に対して、予め定めた範囲内の値か否かを判定し、積分値が当該範囲内の値である場合、積分値を乗算部244に出力し、積分値が当該範囲より小さい値である場合、当該範囲の下限値を乗算部244に出力し、積分値が当該範囲より大きい値である場合、当該範囲の上限値を乗算部244に出力する(ステップST105)。
【0032】
乗算部241は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差と、比例ゲインKθPとを乗算し、乗算結果を加算部245に出力する。乗算部244は、リミッタ部243が出力した値と、積分ゲインKθIとを乗算し、乗算結果を加算部245に出力する。加算部245は、乗算部241の乗算結果と、乗算部244の乗算結果とを加算し、加算結果(PI演算値)を加算部234に出力する(ステップST106)。
【0033】
加算部234は、加算部245が出力した加算結果と、位置検出部13aが出力した位置信号とを加算し、加算結果を目標位置信号として逆回転検出部235に出力する(ステップST107)。
逆回転検出部235は、加算部234が出力した目標位置信号が、位置検出部13aが出力した位置信号より小さいか否かを判定する(ステップST108)。
目標位置信号が位置信号より小さくない場合(ステップST108:No)、目標位置信号を新たな指令信号として、指令信号を更新する(ステップST109)
目標位置信号が位置信号より小さい場合(ステップST108:Yes)、目標位置信号により指令信号を更新しない(ステップST110)。
【0034】
逆回転検出部235は、指令信号をモータ駆動制御部23aに出力して、モータ13の駆動を制御する(ステップST111)。
制御部23は、ステップST101からステップST111までの処理を繰り返し行い、例えば、制御部23は、1msごとにステップST101〜ST111を繰り返し行い、モータ13を駆動することにより、巻線Wを繰り出す繰出速度の制御を行う。
【0035】
上述のように、テンション装置1において、制御部23が、アーム角度θTと入力される目標アーム角度θTrefとの角度偏差ΔθTを0(零)にするようにモータ13の制御を行うことにより、アーム角度θTに応じて変化する巻線Wに加えられるテンションを制御する構成とした。これにより、本実施形態のテンション装置1は、目標アーム角度θTrefを変更することにより、巻線Wに加えるテンションを制御するので、バネ17の交換、あるいは、バネ17の調節を行わずとも、目標アーム角度θTrefを変更することにより巻線Wに加えられるテンションを変更することができる。
更に、本実施形態のテンション装置1を用いることにより、巻線Wに加えるテンションを変更する場合、バネ17の交換、あるいは、バネ17の調節が不要になり、バネ17の交換及びバネ17の調節に要していた時間を省くことができ、巻線Wに加えるテンションを変更して巻芯、電機子などに巻き付ける時間を短縮することが可能となる。
【0036】
また、ステップST105において、積分値に上限値及び下限値を設けることにより、例えば、巻線機が一時的に巻線の巻回を停止しているような場合、テンションアーム14のアーム角度θTと目標アーム角度θTrefとの角度偏差ΔθTの積分値が一方的に増大あるいは減少してしまい、巻回を再開した場合に、停止していた期間の積分値に影響され、目標アーム角度θTrefとアーム角度θTとの0にする方向に収束しない可能性がある。リミッタ部243が積分値に上限値及び下限値を設けることにより、上述のように一時的に巻回を停止していた後に、再開する場合においても、所望のテンション(目標アーム角θTrefにより定まるテンション)を再開後すぐに巻線Wに加えることができる。
【0037】
また、ステップST108において、目標位置信号が位置信号より小さいか否かを判定することにより、角度偏差ΔθTから算出した進角が負の値である場合を検出する。進角が負、すなわち、逆回転となる場合、制御部23は、位置指令の更新を行わずにモータ13を駆動することにより、モータ13を逆転方向に駆動させず、モータ13の回転子に結合されたテンションプーリ12を逆転方向に回転させない制御をすることができる。この結果、テンションプーリ12を逆転方向に回転させることにより、巻線Wに過剰なテンションを加えることを防ぐことができる。
【0038】
また、フライヤ4が巻線を巻き取る速度は、一定でなく巻き取り速度が変化することがある。この場合、巻線に加わるテンションは巻き取る速度に応じて変化し、特に、巻き取る速度が高速のとき、巻線に加わるテンションは大きく変化する。巻線に加わるテンションの大きな変化は、巻芯などに巻き取られる巻線に緩みを生じさせ、巻線不良が発生しやすい。このように、フライヤ4が高速に巻線を巻き取る場合においても、本実施形態のテンション装置1は、テンションアーム14のアーム角度θTによりテンションプーリ12による巻線Wの繰出速度を制御することにより、フライヤ4が巻線Wを巻き取る速度が変化しても、それに追従して巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0039】
また、テンションアーム14の方向が水平方向と平行に位置するとき、ガイドプーリ20、21とアームプーリ15との間の巻線Wの移動する方向が鉛直方向(水平方向に対して90度)となるようにガイドプーリ20、21を配設したことにより、目標アーム角度θTrefを0度としたときに、ガイドプーリ20とガイドプーリ21との間における巻線Wの位置が、アームプーリ15の回転軸15aを通る鉛直方向に対して対称となるので、テンションアーム14の回転軸(基端14a)まわりの慣性モーメントの影響により発生する巻線Wに対するテンションの変動を抑制することができる。これにより、モータ13の制御の安定性を高めることができるので、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0040】
また、ガイドプーリ20、21は、ガイドプーリ20からアームプーリ15に巻線が移動する方向が水平方向に対してなす角度と、アームプーリ15からガイドプーリ21に巻線が移動する方向が水平方向に対してなす角度とが、90度から60度の間になるように配設する構成とした。これにより、フライヤ4が巻線を巻き取る速度が変動によりテンションアーム14が回動しても上述の角度が鋭角になることがなく、バネ17の弾性力により巻線Wに加えるテンションを維持することができるので、モータ13の制御により抑制するまでの期間における変動を、テンションアーム14の回動により吸収することができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0041】
また、テンションアーム14を構成する素材をガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックなどの軽く変形しにくい素材にすることにより、テンションアーム14の慣性モーメントが巻線Wに加えるテンションに与える影響を抑制することができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0042】
なお、ガイドプーリ20、21を配設する位置を、アームプーリ15とガイドプーリ20、21とそれぞれの間の巻線Wの移動方向が鉛直方向となる位置としたが、アームプーリ15とガイドプーリ20,21とそれぞれの間の巻線Wの移動方向が水平方向に対してなす角度が60度から90度の間になるように配置してもよい。
【0043】
なお、テンションアーム14の基端14aから先端14bまでの長さ(テンションアーム14の長さ)は、例えば、10cm〜20cmとし、テンションアーム14が水平方向に対してなす角度が0度の場合に、ガイドプーリ20、21の回転軸20a、21aとアームプーリ15の回転軸15aの距離が、テンションアーム14の長さの0.5〜2.0倍となる距離が好ましい。この構成の場合、テンションアーム14の回動範囲を十分に確保できるので、フライヤ4への巻線速度が変化したときに、巻線Wが弛むことを防ぐことができる。
なお、バネ17に、引張りバネを用いた構成を示したが、引張りバネ以外のトルクバネなどを用いて構成してもよい。
【0044】
図5は、同実施形態における目標アーム角度θTrefを変更した場合の巻線に加えられるテンション(巻線張力)の時間応答の一例を示す波形図である。ただし、波形の微少な変動を省くためにフィルタ処理を施している。図5に示す波形図は、実験により得られたものであり、目標アーム角度θTrefを、−20度、0度、10度とした場合の時間応答性を示す。ここで、縦軸方向は巻線張力[N]を示し、横軸方向は時間[sec]を示す。時刻0.1[sec]からフライヤ4による巻線Wの巻き付けが開始され、時刻0.6[sec]に巻き付けが終了する場合の波形図である。
図示するように、目標アーム角度θTrefを−20度としたときに略20[N]、0度としたときに略17[N]、10度としたときに略13[N]となっており、目標アーム角度θTrefを変更することにより、巻線Wに加えるテンションを調節できることが分かる。
【0045】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態におけるテンション装置1Aの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Aは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Aは、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15、31と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、32と、アーム角度検出部22と、制御部23と、取付け部33とを具備している。
テンション装置1Aは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、アームプーリ31と、ガイドプーリ32とを加え、固定部16に替えて、取付け部33を具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜15、17〜23)を付して、その説明を省略する。
【0046】
アームプーリ31は、巻線Wの移動方向において、ガイドプーリ20より下流、且つ、アームプーリ15より上流に設けられ、テンションアーム14の基端14aと先端14bとの間のテンションアーム14に配設される。
ガイドプーリ32は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15、31との間に設けられ、巻線Wの移動方向を変えると共に、アームプーリ15、31に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。32aは、ガイドプーリ32の回転軸である。
取付け部33は、テンション装置1Aに固定され、引掛け部33aと調節ねじ33bとを有する。また、取付け部33において、調節ねじ33bの先端に固定された引掛け部33aは、バネ17の一端を係止し、調節ねじ33bは、取付け部33に螺合したもので、調節ねじ33bのネジ込みの位置により引掛け部33aの位置を調節して、バネ17の弾性力を調節する。
【0047】
テンション装置1Aにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、アームプーリ31とガイドプーリ32とを備えたことにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、アームプーリ31、ガイドプーリ32、アームプーリ15、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出されると、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ31に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ32に案内されて移動方向が折り返され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返されてガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に近い位置に設けられ、アームプーリ15から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。
【0048】
上述の構成により、テンション装置1Aは、テンションアーム14に2つのアームプーリ15、31を設けることにより、フライヤ4への巻線速度の変動が生じた場合、第1実施形態のテンション装置1に比べ、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になると共に、巻線速度の変動により巻線Wに生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Aは、第1実施形態のテンション装置1に比べ、フライヤ4へ巻線Wを送り出す巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になることで、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
なお、本実施形態では、テンションアーム14に2つのアームプーリを備える構成を示したが、3つ以上のアームプーリと、アームプーリの数に応じたガイドプーリを備える構成としてもよい。
【0049】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態におけるテンション装置1Bの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Bは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Bは、バックテンショナ部11、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、42と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Bは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、アームプーリ41と、ガイドプーリ42とを具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜23)を付して、その説明を省略する。
【0050】
アームプーリ41は、回転軸41aが、アームプーリ15の回転軸15aと同じ方向及び同じ位置になるようにテンションアーム14に配設される。
ガイドプーリ42は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15、41との間に設けられ、巻線Wの移動方向を変えると共に、アームプーリ15、41に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。42aは、ガイドプーリ42の回転軸である。
【0051】
テンション装置1Bにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、アームプーリ41とガイドプーリ42とを備えたことにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、アームプーリ41、ガイドプーリ42、アームプーリ15、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ42に案内されて移動方向が折り返され、アームプーリ41に案内されて移動方向が折り返されてガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に設けられ、アームプーリ41から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。なお、巻線Wをアームプーリ15、41に巻き付ける順は、逆であってもよい。
【0052】
上述の構成により、テンション装置1Bは、テンションアーム14に2つのアームプーリ15、41を設けることにより、フライヤ4への巻線速度の変動が生じた場合、第1実施形態のテンション装置1に比べ、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になるので、巻線速度の変動により生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Bは、テンション装置1に比べ、フライヤ4への巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、テンションアーム14に2つのアームプーリを備える構成を示したが、3つ以上のアームプーリと、アームプーリの数に応じたガイドプーリを備える構成としてもよい。
【0054】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態におけるテンション装置1Cの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Cは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Cは、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15、31と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ51と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Cは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、ガイドプーリ20、21に替えて、1つのガイドプーリ51を具備する点と、巻線Wの導き方が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜19、22〜23)を付して、その説明を省略する。
【0055】
ガイドプーリ51は、巻線Wの移動方向において、テンションプーリ12とフライヤ4との間に配設される。また、ガイドプーリ51は、アームプーリ15に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。51aは、ガイドプーリ51の回転軸である。
テンション装置1Cにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に対して、ガイドプーリ20、21に替えて、ガイドプーリ51を備え、ガイドプーリ51とアームプーリ15との間に巻線Wを2回巻き付けることにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ51、アームプーリ15、ガイドプーリ51、アームプーリ15、ガイドプーリ51の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ51により移動方向が変更され、アームプーリ15により移動方向が折り返され、更に、ガイドプーリ51により移動方向が折り返され、アームプーリ15により移動方向が折り返され、ガイドプーリ51により移動方向が変更され、フライヤ4に向けて移動方向を変更する。
【0056】
上述の構成により、テンション装置1Cは、テンションアーム14に2つのアームプーリを設けずとも、第2実施形態のテンション装置1A、及び、第3実施形態のテンション装置1Bと同様に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になるので、巻線速度の変動により巻線Wに生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Cは、テンション装置1に比べ、フライヤ4への巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になることで、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
なお、アームプーリ15に巻線Wを巻き付ける回数を2回としたが、3回以上であってもよい。
【0057】
<第5実施形態>
図9は、第5実施形態におけるテンション装置1Dの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Dは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Dは、バックテンショナ部11、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、61、62と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Dは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、ガイドプーリ61、62を加えて具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜23)を付してその説明を省略する。
【0058】
ガイドプーリ61は、巻線Wの移動方向において、ガイドプーリ20とアームプーリ15との間に設けられ、ガイドプーリ20とガイドプーリ61との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向に対して略45度をなすように配設されている。ガイドプーリ62は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15とガイドプーリ21との間に設けられ、ガイドプーリ62とガイドプーリ21との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向に対して略45度をなすように配設されている。61a、62aは、ガイドプーリ61、62それぞれの回転軸である。
テンション装置1Dにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、ガイドプーリ61、62を具備することにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、ガイドプーリ61、アームプーリ15、ガイドプーリ62、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、ガイドプーリ61に案内されて更に移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ62に案内されて移動方向が変更され、ガイドプーリ21に案内されて更に移動方向が変更されてフライヤ4に向かって繰り出される。
【0059】
上述の構成により、テンション装置1Dは、フライヤ4が巻線を巻き取る速度に変化が生じた場合、ガイドプーリ61、62を加えて巻線Wに関与する慣性モーメントを増やしたことにより、第1実施形態のテンション装置1に比べ、巻線Wに加えられるテンションの変動量を低減することができる。また、ガイドプーリ20、61の間の巻線Wの移動方向と、ガイドプーリ21、62の間の巻線Wの移動方向とが鉛直方向に対して略45をなすように配設されているので、それぞれのガイドプーリから受ける慣性モーメントを平均化することができる。
【0060】
上述の第1実施形態から第5実施形態において、固定部16又は引掛け部33aは、バネ17によりテンションアーム14に対して所望の付勢力が与えられる位置に設けられる。例えば、固定部16又は引掛け部33aは、図5に示した巻線張力が得られる位置に予め配置されている。また、図1、6〜9に示すように、テンションアーム14の配設方向14dが水平方向に対して平行であるとき、バネ17の付勢力が働く方向が鉛直方向になるように配設しているが、バネ17は、テンションアーム14に対して付勢力が働く位置に配設されていればよい。
【0061】
上述の第1実施形態から第5実施形態の制御部23は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した指令信号を生成する処理過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
1、1A、1B、1C、1D…テンション装置
2…ボビン、3…ガイドプーリ、4…フライヤ
11…バックテンショナ部、12…テンションプーリ、13…モータ、
13a…位置検出部
14…テンションアーム、14a…基端、14b…先端、14c…引掛け部
15、31、41…アームプーリ、16…固定部、17…バネ、18、19…ストッパ
20、21、32、42、51、61、62…ガイドプーリ
22…アーム角度検出部、23…制御部、23a…モータ駆動制御部
12a、15a、41a、42a、51a、61a、62a…回転軸
33…取付け部、33a…引掛け部、33b…調節ねじ
231…減算部、232…ローパスフィルタ部、233…PI演算部
234…加算部、235…逆回転検出部、241、244…乗算部
242…積分演算部、243…リミッタ部、245…加算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線に所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巻芯に巻線を巻き付ける巻線機に巻線を繰り出す際に、巻線にテンションを加えるテンション装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載のテンション装置は、巻線源から導かれた巻線をガイドプーリを介して繰り出し制御プーリに巻き付け、繰り出し制御プーリからテンションバー先端の巻線ガイドを介してコイルボビン等の巻芯に繰り出す構成である。繰り出し制御プーリには、サーボモータが連結され、テンションバーは、基端を支点として回動可能に保持されると共に、付勢部材により所定の回動方向に対して付勢力が与えられ巻線にテンションを加える構成となっている。巻線に加えられるテンションが変化すると、テンションの変化に応じてテンションバーが回動し、サーボモータがテンションバーの所定の角度になるように巻線の繰り出し速度を制御して巻線に過大なテンションが加わらないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−128433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のテンション装置では、サーボモータは、テンションバーが所定の角度によるように制御するのみで、巻線に加えるテンションの調節は、テンション装置が有する付勢部材により行う。このため、例えば、異なる太さ又は異なる材質の巻線を異なるテンションを加えて巻芯などに巻き付けて製品を大量に生産する場合、付勢部材の交換又は調整などの調節に時間を要するという問題がある。このような製造工程における作業時間の増加は、製造コストの増加をまねくという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、付勢部材の交換又は調整を行うことなく巻線に加えるテンションの変更ができるテンション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記問題を解決するために、本発明は、巻芯に巻線を巻回する巻線機にボビンから前記巻線を所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置であって、前記ボビンから導かれた前記巻線を前記巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、前記テンションプーリと前記巻線機との間で前記巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして前記アームプーリを前記テンションプーリ及び前記巻線機のそれぞれと近接離間させるように回動自在なテンションアームと、前記アームプーリが前記テンションプーリ及び前記巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、前記テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、前記テンションプーリに結合され、前記テンションプーリを回転させるモータと、前記角度検出部が検出した前記アーム角度と、入力される目標アーム角度とに応じて前記モータの駆動を制御して、前記巻線の繰り出す速度を増減させる制御部とを具備することを特徴とするテンション装置である。
【0007】
(2)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、前記アーム角度と前記目標アーム角度との角度偏差、及び、入力される前記モータの回転子の位置を示す位置信号から該回転子の目標位置を示す目標位置信号を算出し、該目標位置信号から前記モータへの指令信号を生成して前記モータを駆動するPI制御を行うことを特徴とする。
【0008】
(3)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、前記PI制御における積分項に上限値及び下限値を設けることを特徴とする。
【0009】
(4)また、本発明は、上記記載の発明において、前記制御部は、算出した前記目標位置信号が、前記巻線を繰り出す方向に前記モータを駆動するか否かを判定し、前記巻線を繰り出す方向の場合、算出した前記目標位置信号により前記指令信号を更新し、前記巻線を繰り出す方向でない場合、前記指令信号を更新しないことを特徴とする。
【0010】
(5)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションプーリと前記アームプーリとの間に設けられた第1のガイドプーリと、前記アームプーリと前記巻線機との間に設けられた第2のガイドプーリと、を備え、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ60度から80度であることを特徴とする。
【0011】
(6)また、本発明は、上記記載の発明において、前記巻線に前記所望のテンションが加わる場合、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、それぞれ鉛直方向であることを特徴とする。
【0012】
(7)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションプーリと前記第1のガイドプーリとの間に設けられた第3のガイドプーリと、前記第2のガイドプーリと前記巻線機との間に設けられた第4のガイドプーリとを備え、前記第3のガイドプーリから前記第1のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記第2のガイドプーリから前記第4のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ45度であることを特徴とする。
【0013】
(8)また、本発明は、上記記載の発明において、前記テンションアームの素材は、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、テンションアームの角度を設定し、テンションアームの角度と設定した角度とに応じてモータを駆動して、巻線の繰り出し速度を制御することにより、スプリングの変更を行うことなく巻線に加えるテンションの変更ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態におけるテンション装置1の構成を示す概略図である。
【図2】同実施形態におけるアーム角度検出部22が検出するアーム角度θTの一例を示す概略図である。
【図3】同実施形態における制御部23の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】同実施形態における制御部23のモータ13への指令信号を生成する処理を示すフローチャートである。
【図5】同実施形態における目標アーム角度θTrefを変更した場合の巻線に加えられるテンション(巻線張力)の時間応答の一例を示す波形図である。
【図6】第2実施形態におけるテンション装置1Aの構成を示す概略図である。
【図7】第3実施形態におけるテンション装置1Bの構成を示す概略図である。
【図8】第4実施形態におけるテンション装置1Cの構成を示す概略図である。
【図9】第5実施形態におけるテンション装置1Dの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態によるテンション装置を図面を参照して説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態におけるテンション装置1の構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1は、巻線Wを供給する巻線源であるボビン2からガイドプーリ3に案内されて導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、巻線を巻芯、例えば、モータの電機子に巻回する装置であるフライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。
また、テンション装置1は、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
【0018】
バックテンショナ部11は、巻線Wを供給する巻線源であるボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに一定のテンションを加える。
テンションプーリ12は、バックテンショナ部11によりテンションを加えられた巻線Wが巻き付けられて、巻線Wとテンションプーリ12との間に摩擦力が発生するようになっている。また、テンションプーリ12は、方向a(図1においては、時計方向)に回転することにより巻線Wをフライヤ4に向けて繰り出す。
【0019】
また、テンションプーリ12は、回転軸12aがモータ13の回転子に結合され、モータ13が駆動されると、モータ13の回転子と共に回転する。すなわち、モータ13の駆動により、テンションプーリ12が回転して巻線Wが繰り出され、モータ13の駆動を制御することにより巻線Wの繰出速度を制御する。モータ13には、例えば、ブラシレスDCモータが用いられる。また、バックテンショナ部11は、フェルト、モータ及びプーリを組み合わせたものなどを用いて、バックテンショナ部11とテンションプーリ12との間の巻線Wに弛みが生じないようにある程度の摩擦を生じさせる。
【0020】
また、モータ13には、モータ13が有する回転子の位置(回転角)を検出し、回転子の位置を示す位置信号を出力する位置検出部13aが付設されている。ここで、位置検出部13aには、例えば、磁気式位置検出装置であるレゾルバ、ホールIC、又は、光学エンコーダなどが用いられる。
テンションアーム14は、基端14aを支点に回動するように回転自在にテンション装置に保持されている。また、テンションアーム14は、先端14bにアームプーリ15が回転可能に支持され、基端14aから先端14bに向かって離間した位置に設けられた引掛け部14cに、一端がテンション装置1の固定部16に係止されたバネ(付勢部材)17の他端が、係止されている。また、テンションアーム14は、アームプーリ15がテンションプーリ12及びフライヤ4と近接する方向となる上方向への回動がストッパ18により制限され、アームプーリ15がテンションプーリ12及びフライヤ4と離間する方向となる下方向への回動がストッパ19により制限される。また、テンションアーム14は、質量が軽く、応力により変形しない素材、例えば、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックにより構成される。
【0021】
ガイドプーリ20、21は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15に対して巻線を供給する側と、巻線を送り出す側とそれぞれに設けられ、巻線Wの移動方向を変え、アームプーリ15に対する巻線Wの巻き付ける長さを保つためのものである。すなわち、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に設けられ、アームプーリ15から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。符号20a、21aは、ガイドプーリ20、21それぞれの回転軸である。
【0022】
また、ガイドプーリ20は、テンションアーム14の配設方向14d(基端14aと先端14bとを結ぶ直線方向)が水平方向と平行となるとき、ガイドプーリ20とアームプーリ15との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向(図面において上下方向)となる位置に配設される。
また、ガイドプーリ21は、ガイドプーリ20と同様に、テンションアーム14の配設方向が水平方向と平行となるとき、ガイドプーリ21とアームプーリ15との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向となる位置に配設される。
【0023】
アーム角度検出部22は、例えば、抵抗式ポテンションメータ、光学式ポテンションメータ、光学式エンコーダなどにより構成され、テンションアーム14の基端14aに設けられ、基端14aとアームプーリ15の回転軸15aを結ぶ直線が水平方向(図面の左右方向、鉛直方向に対して垂直方向)に対してなす角度であるアーム角度θTを計測し、計測したアーム角度θTを示すアーム角度信号を出力する。
制御部23は、アーム角度検出部22が出力したアーム角度信号と、入力される目標アーム角度θTrefを示す目標アーム角度信号とから、アーム角度θTと目標アーム角度θTrefの差である角度偏差ΔθTを算出し、算出した角度偏差ΔθTが0(零)になるように、算出した角度偏差ΔθTと、位置検出部13aが出力する位置信号とに応じてモータ13をPI制御により駆動させる。すなわち、制御部23は、角度偏差ΔθTと位置信号とにより、モータ13及びテンションプーリ12を介して、巻線Wの繰出速度を制御することにより、アーム角度θTと目標アーム角度θTrefとが一致させる制御を行う。また、制御部23は、モータ13を駆動するモータ駆動制御部23aを備える。
【0024】
図2は、同実施形態におけるアーム角度検出部22が検出するアーム角度θTの一例を示す概略図である。なお、図2においては、アーム角度θTに係る一部の構成を示している。図示するように、アーム角度検出部22は、テンションアーム14の回動支点である基端14aと、アームプーリ15の回転軸15aとを結ぶ直線が、水平方向(鉛直方向(重力方向)に対して垂直な方向)に対してなすアーム角度θTを検出する。アーム角度θTは、アームプーリ15がガイドプーリ20、21に近づく方向を正の値とし、アームプーリ15がガイドプーリ20、21から遠ざかる方向を負の値とする。また、アーム角度θTが増加すると(テンションアーム14が上方に回動すると)、バネ17が伸びることにより、テンションアーム14とアームプーリ15とを介して、巻線Wに加えられるテンションが増加する。一方、アーム角度θTが減少すると(テンションアーム14が下方に回動すると)、バネ17が縮むことにより、テンションアーム14とアームプーリ15とを介して、巻線Wに加えられるテンションが減少する。
【0025】
ここで、テンションプーリ12の動作について説明する。
フライヤ4への巻線速度が、テンションプーリ12により繰り出される巻線の繰出速度より速い場合、速度の差により巻線Wに加えられるテンションは大きくなり、テンションアーム14は、上方に回動する。この場合、テンションプーリ12の回転速度(回転角)を増加させることにより、巻線の繰出速度を速くして巻線Wに加えられるテンションを減少させる。
一方、フライヤ4への巻線速度が、テンションプーリ12により繰り出される巻線Wの繰出速度より遅い場合、速度の差により巻線Wに弛みが生じ、この弛みにより、テンションアーム14がバネ17の弾性力により下方に回動する。この場合、テンションプーリ12の回転速度(回転角)を減少させることにより、巻線Wの繰出速度を遅くして巻線Wに加えられるテンションを増加させる。
【0026】
図3は、同実施形態における制御部23の構成を示す概略ブロック図である。図示するように制御部23は、減算部231、ローパスフィルタ部232、PI(Proportional Integral;比例積分)演算部233、加算部234、逆回転検出部235、及び、モータ駆動制御部23aとを備える。また、PI演算部233は、乗算部241、244と、積分演算部242と、リミッタ部243と、加算部245とを有する。
減算部231は、外部から入力される目標アーム角度信号と、アーム角度検出部22が出力するアーム角度信号との差である角度偏差ΔθTを示す角度偏差信号を生成する。ローパスフィルタ部232は、減算部231が生成した角度偏差信号に含まれる高周波成分、例えば、カットオフ周波数fc=200Hz以上の周波数成分を除去し、高周波成分を除去した角度偏差信号をPI演算部233に出力する。
【0027】
乗算部241は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号と、予め定められた比例ゲインKθPとを乗算して出力する。
積分演算部242は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号を予め定められた期間において累算する累積演算により時間積分を行い、累積演算結果を積分値として出力する。なお、積分演算部242の出力する積分値の初期値は、0(零)とする。リミッタ部243は、積分演算部242が出力した積分値が、予め定められた上限値及び下限値により定められる範囲内の値であるか否かを判定し、積分値が範囲内の値である場合、積分値を出力し、積分値が下限値より小さい場合、下限値を出力し、積分値が上限値より大きい場合、上限値を出力する。
【0028】
乗算部244は、リミッタ部243の出力と、予め定められた積分ゲインKθIとを乗算して出力する。加算部245は、乗算部241が出力する乗算結果と、乗算部244が出力する乗算結果を加算して出力する。ここで、加算部245が出力する加算結果は、角度偏差ΔθTに応じたモータ13の回転子に対する進角(PI演算値)であり、この進角は、テンションプーリ12を回転させる角度である。すなわち、PI演算部233において、乗算部241が比例項の算出を行い、積分演算部242、リミッタ部243、及び、乗算部244が積分項の算出を行う構成としている。
ここで、比例ゲインKθP、積分ゲインKθI、及び、角度偏差信号を累算する期間は、シミュレーションや、実験などから統計的に算出した値を用いる。
【0029】
加算部234は、位置検出部13aが出力する位置信号と、加算部245が出力する加算結果とを加算し、加算結果をモータ13が有する回転子の位置(回転角)を示す目標位置信号として出力する。ここで、目標位置信号は、モータ13を駆動する際の回転子の目標位置を示す。
逆回転検出部235は、加算部234が出力する目標位置信号と、位置検出部13aが出力する位置信号とから、モータ13が逆転方向に回転させない指令信号を出力する。モータ駆動制御部23aは、逆回転検出部235が出力した指令信号に応じて、モータ13を駆動する。ただし、テンションプーリ12から巻線Wが繰り出される方向をモータの位置(回転角)の正の方向とする。
【0030】
図4は、同実施形態における制御部23のモータ13への指令信号を生成する処理を示すフローチャートである。
減算部231に、アーム角度検出部22から出力されたアーム角度信号が入力されると(ステップST101)、アーム角度信号及び入力された目標アーム角度信号から、角度偏差信号を算出してローパスフィルタ部232に出力する(ステップST102)。このとき、加算部234と逆回転検出部235とには、位置検出部13aから位置信号が入力される。
ローパスフィルタ部232は、減算部231から出力された角度偏差信号から高周波成分を除去して、乗算部241と積分演算部242とに出力する(ステップST103)。
【0031】
積分演算部242は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差信号を時間積分してリミッタ部243に出力する(ステップST104)。
リミッタ部243は、積分演算部242が算出した積分値に対して、予め定めた範囲内の値か否かを判定し、積分値が当該範囲内の値である場合、積分値を乗算部244に出力し、積分値が当該範囲より小さい値である場合、当該範囲の下限値を乗算部244に出力し、積分値が当該範囲より大きい値である場合、当該範囲の上限値を乗算部244に出力する(ステップST105)。
【0032】
乗算部241は、ローパスフィルタ部232が出力した角度偏差と、比例ゲインKθPとを乗算し、乗算結果を加算部245に出力する。乗算部244は、リミッタ部243が出力した値と、積分ゲインKθIとを乗算し、乗算結果を加算部245に出力する。加算部245は、乗算部241の乗算結果と、乗算部244の乗算結果とを加算し、加算結果(PI演算値)を加算部234に出力する(ステップST106)。
【0033】
加算部234は、加算部245が出力した加算結果と、位置検出部13aが出力した位置信号とを加算し、加算結果を目標位置信号として逆回転検出部235に出力する(ステップST107)。
逆回転検出部235は、加算部234が出力した目標位置信号が、位置検出部13aが出力した位置信号より小さいか否かを判定する(ステップST108)。
目標位置信号が位置信号より小さくない場合(ステップST108:No)、目標位置信号を新たな指令信号として、指令信号を更新する(ステップST109)
目標位置信号が位置信号より小さい場合(ステップST108:Yes)、目標位置信号により指令信号を更新しない(ステップST110)。
【0034】
逆回転検出部235は、指令信号をモータ駆動制御部23aに出力して、モータ13の駆動を制御する(ステップST111)。
制御部23は、ステップST101からステップST111までの処理を繰り返し行い、例えば、制御部23は、1msごとにステップST101〜ST111を繰り返し行い、モータ13を駆動することにより、巻線Wを繰り出す繰出速度の制御を行う。
【0035】
上述のように、テンション装置1において、制御部23が、アーム角度θTと入力される目標アーム角度θTrefとの角度偏差ΔθTを0(零)にするようにモータ13の制御を行うことにより、アーム角度θTに応じて変化する巻線Wに加えられるテンションを制御する構成とした。これにより、本実施形態のテンション装置1は、目標アーム角度θTrefを変更することにより、巻線Wに加えるテンションを制御するので、バネ17の交換、あるいは、バネ17の調節を行わずとも、目標アーム角度θTrefを変更することにより巻線Wに加えられるテンションを変更することができる。
更に、本実施形態のテンション装置1を用いることにより、巻線Wに加えるテンションを変更する場合、バネ17の交換、あるいは、バネ17の調節が不要になり、バネ17の交換及びバネ17の調節に要していた時間を省くことができ、巻線Wに加えるテンションを変更して巻芯、電機子などに巻き付ける時間を短縮することが可能となる。
【0036】
また、ステップST105において、積分値に上限値及び下限値を設けることにより、例えば、巻線機が一時的に巻線の巻回を停止しているような場合、テンションアーム14のアーム角度θTと目標アーム角度θTrefとの角度偏差ΔθTの積分値が一方的に増大あるいは減少してしまい、巻回を再開した場合に、停止していた期間の積分値に影響され、目標アーム角度θTrefとアーム角度θTとの0にする方向に収束しない可能性がある。リミッタ部243が積分値に上限値及び下限値を設けることにより、上述のように一時的に巻回を停止していた後に、再開する場合においても、所望のテンション(目標アーム角θTrefにより定まるテンション)を再開後すぐに巻線Wに加えることができる。
【0037】
また、ステップST108において、目標位置信号が位置信号より小さいか否かを判定することにより、角度偏差ΔθTから算出した進角が負の値である場合を検出する。進角が負、すなわち、逆回転となる場合、制御部23は、位置指令の更新を行わずにモータ13を駆動することにより、モータ13を逆転方向に駆動させず、モータ13の回転子に結合されたテンションプーリ12を逆転方向に回転させない制御をすることができる。この結果、テンションプーリ12を逆転方向に回転させることにより、巻線Wに過剰なテンションを加えることを防ぐことができる。
【0038】
また、フライヤ4が巻線を巻き取る速度は、一定でなく巻き取り速度が変化することがある。この場合、巻線に加わるテンションは巻き取る速度に応じて変化し、特に、巻き取る速度が高速のとき、巻線に加わるテンションは大きく変化する。巻線に加わるテンションの大きな変化は、巻芯などに巻き取られる巻線に緩みを生じさせ、巻線不良が発生しやすい。このように、フライヤ4が高速に巻線を巻き取る場合においても、本実施形態のテンション装置1は、テンションアーム14のアーム角度θTによりテンションプーリ12による巻線Wの繰出速度を制御することにより、フライヤ4が巻線Wを巻き取る速度が変化しても、それに追従して巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0039】
また、テンションアーム14の方向が水平方向と平行に位置するとき、ガイドプーリ20、21とアームプーリ15との間の巻線Wの移動する方向が鉛直方向(水平方向に対して90度)となるようにガイドプーリ20、21を配設したことにより、目標アーム角度θTrefを0度としたときに、ガイドプーリ20とガイドプーリ21との間における巻線Wの位置が、アームプーリ15の回転軸15aを通る鉛直方向に対して対称となるので、テンションアーム14の回転軸(基端14a)まわりの慣性モーメントの影響により発生する巻線Wに対するテンションの変動を抑制することができる。これにより、モータ13の制御の安定性を高めることができるので、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0040】
また、ガイドプーリ20、21は、ガイドプーリ20からアームプーリ15に巻線が移動する方向が水平方向に対してなす角度と、アームプーリ15からガイドプーリ21に巻線が移動する方向が水平方向に対してなす角度とが、90度から60度の間になるように配設する構成とした。これにより、フライヤ4が巻線を巻き取る速度が変動によりテンションアーム14が回動しても上述の角度が鋭角になることがなく、バネ17の弾性力により巻線Wに加えるテンションを維持することができるので、モータ13の制御により抑制するまでの期間における変動を、テンションアーム14の回動により吸収することができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0041】
また、テンションアーム14を構成する素材をガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックなどの軽く変形しにくい素材にすることにより、テンションアーム14の慣性モーメントが巻線Wに加えるテンションに与える影響を抑制することができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0042】
なお、ガイドプーリ20、21を配設する位置を、アームプーリ15とガイドプーリ20、21とそれぞれの間の巻線Wの移動方向が鉛直方向となる位置としたが、アームプーリ15とガイドプーリ20,21とそれぞれの間の巻線Wの移動方向が水平方向に対してなす角度が60度から90度の間になるように配置してもよい。
【0043】
なお、テンションアーム14の基端14aから先端14bまでの長さ(テンションアーム14の長さ)は、例えば、10cm〜20cmとし、テンションアーム14が水平方向に対してなす角度が0度の場合に、ガイドプーリ20、21の回転軸20a、21aとアームプーリ15の回転軸15aの距離が、テンションアーム14の長さの0.5〜2.0倍となる距離が好ましい。この構成の場合、テンションアーム14の回動範囲を十分に確保できるので、フライヤ4への巻線速度が変化したときに、巻線Wが弛むことを防ぐことができる。
なお、バネ17に、引張りバネを用いた構成を示したが、引張りバネ以外のトルクバネなどを用いて構成してもよい。
【0044】
図5は、同実施形態における目標アーム角度θTrefを変更した場合の巻線に加えられるテンション(巻線張力)の時間応答の一例を示す波形図である。ただし、波形の微少な変動を省くためにフィルタ処理を施している。図5に示す波形図は、実験により得られたものであり、目標アーム角度θTrefを、−20度、0度、10度とした場合の時間応答性を示す。ここで、縦軸方向は巻線張力[N]を示し、横軸方向は時間[sec]を示す。時刻0.1[sec]からフライヤ4による巻線Wの巻き付けが開始され、時刻0.6[sec]に巻き付けが終了する場合の波形図である。
図示するように、目標アーム角度θTrefを−20度としたときに略20[N]、0度としたときに略17[N]、10度としたときに略13[N]となっており、目標アーム角度θTrefを変更することにより、巻線Wに加えるテンションを調節できることが分かる。
【0045】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態におけるテンション装置1Aの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Aは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Aは、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15、31と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、32と、アーム角度検出部22と、制御部23と、取付け部33とを具備している。
テンション装置1Aは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、アームプーリ31と、ガイドプーリ32とを加え、固定部16に替えて、取付け部33を具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜15、17〜23)を付して、その説明を省略する。
【0046】
アームプーリ31は、巻線Wの移動方向において、ガイドプーリ20より下流、且つ、アームプーリ15より上流に設けられ、テンションアーム14の基端14aと先端14bとの間のテンションアーム14に配設される。
ガイドプーリ32は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15、31との間に設けられ、巻線Wの移動方向を変えると共に、アームプーリ15、31に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。32aは、ガイドプーリ32の回転軸である。
取付け部33は、テンション装置1Aに固定され、引掛け部33aと調節ねじ33bとを有する。また、取付け部33において、調節ねじ33bの先端に固定された引掛け部33aは、バネ17の一端を係止し、調節ねじ33bは、取付け部33に螺合したもので、調節ねじ33bのネジ込みの位置により引掛け部33aの位置を調節して、バネ17の弾性力を調節する。
【0047】
テンション装置1Aにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、アームプーリ31とガイドプーリ32とを備えたことにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、アームプーリ31、ガイドプーリ32、アームプーリ15、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出されると、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ31に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ32に案内されて移動方向が折り返され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返されてガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に近い位置に設けられ、アームプーリ15から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。
【0048】
上述の構成により、テンション装置1Aは、テンションアーム14に2つのアームプーリ15、31を設けることにより、フライヤ4への巻線速度の変動が生じた場合、第1実施形態のテンション装置1に比べ、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になると共に、巻線速度の変動により巻線Wに生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Aは、第1実施形態のテンション装置1に比べ、フライヤ4へ巻線Wを送り出す巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になることで、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
なお、本実施形態では、テンションアーム14に2つのアームプーリを備える構成を示したが、3つ以上のアームプーリと、アームプーリの数に応じたガイドプーリを備える構成としてもよい。
【0049】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態におけるテンション装置1Bの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Bは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Bは、バックテンショナ部11、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、42と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Bは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、アームプーリ41と、ガイドプーリ42とを具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜23)を付して、その説明を省略する。
【0050】
アームプーリ41は、回転軸41aが、アームプーリ15の回転軸15aと同じ方向及び同じ位置になるようにテンションアーム14に配設される。
ガイドプーリ42は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15、41との間に設けられ、巻線Wの移動方向を変えると共に、アームプーリ15、41に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。42aは、ガイドプーリ42の回転軸である。
【0051】
テンション装置1Bにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、アームプーリ41とガイドプーリ42とを備えたことにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、アームプーリ41、ガイドプーリ42、アームプーリ15、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ42に案内されて移動方向が折り返され、アームプーリ41に案内されて移動方向が折り返されてガイドプーリ21へ導かれる。ガイドプーリ21は、テンション装置1において、最もフライヤ4側に設けられ、アームプーリ41から導かれた巻線Wを案内して、巻線Wの移動方向をフライヤ4に向けて変更する。なお、巻線Wをアームプーリ15、41に巻き付ける順は、逆であってもよい。
【0052】
上述の構成により、テンション装置1Bは、テンションアーム14に2つのアームプーリ15、41を設けることにより、フライヤ4への巻線速度の変動が生じた場合、第1実施形態のテンション装置1に比べ、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になるので、巻線速度の変動により生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Bは、テンション装置1に比べ、フライヤ4への巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、テンションアーム14に2つのアームプーリを備える構成を示したが、3つ以上のアームプーリと、アームプーリの数に応じたガイドプーリを備える構成としてもよい。
【0054】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態におけるテンション装置1Cの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Cは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Cは、バックテンショナ部11と、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15、31と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ51と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Cは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、ガイドプーリ20、21に替えて、1つのガイドプーリ51を具備する点と、巻線Wの導き方が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜19、22〜23)を付して、その説明を省略する。
【0055】
ガイドプーリ51は、巻線Wの移動方向において、テンションプーリ12とフライヤ4との間に配設される。また、ガイドプーリ51は、アームプーリ15に対して巻線Wを巻き付ける長さを保つためのものである。51aは、ガイドプーリ51の回転軸である。
テンション装置1Cにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に対して、ガイドプーリ20、21に替えて、ガイドプーリ51を備え、ガイドプーリ51とアームプーリ15との間に巻線Wを2回巻き付けることにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ51、アームプーリ15、ガイドプーリ51、アームプーリ15、ガイドプーリ51の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ51により移動方向が変更され、アームプーリ15により移動方向が折り返され、更に、ガイドプーリ51により移動方向が折り返され、アームプーリ15により移動方向が折り返され、ガイドプーリ51により移動方向が変更され、フライヤ4に向けて移動方向を変更する。
【0056】
上述の構成により、テンション装置1Cは、テンションアーム14に2つのアームプーリを設けずとも、第2実施形態のテンション装置1A、及び、第3実施形態のテンション装置1Bと同様に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になるので、巻線速度の変動により巻線Wに生じるテンションの変動量が小さくなる。これにより、テンション装置1Cは、テンション装置1に比べ、フライヤ4への巻線速度の変化に対する追従性を高めることができると共に、テンションアーム14の回動する変動量が略半分になることで、モータ13の制御の安定性を高めることができ、フライヤ4に繰り出す巻線Wに加えるテンションを安定させることができる。
なお、アームプーリ15に巻線Wを巻き付ける回数を2回としたが、3回以上であってもよい。
【0057】
<第5実施形態>
図9は、第5実施形態におけるテンション装置1Dの構成を示す概略図である。図示するように、テンション装置1Dは、ボビン2からガイドプーリ3を介して導かれた巻線Wに対して所望のテンションを加え、フライヤ4に、所望のテンションを加えた巻線Wを繰り出す。また、テンション装置1Dは、バックテンショナ部11、テンションプーリ12と、モータ13と、テンションアーム14と、アームプーリ15と、固定部16と、バネ17と、ストッパ18、19と、ガイドプーリ20、21、61、62と、アーム角度検出部22と、制御部23とを具備している。
テンション装置1Dは、第1実施形態のテンション装置1(図1)の変形形態であり、テンション装置1に比べ、ガイドプーリ61、62を加えて具備する点が異なり、同じ構成については同じ符号(11〜23)を付してその説明を省略する。
【0058】
ガイドプーリ61は、巻線Wの移動方向において、ガイドプーリ20とアームプーリ15との間に設けられ、ガイドプーリ20とガイドプーリ61との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向に対して略45度をなすように配設されている。ガイドプーリ62は、巻線Wの移動方向において、アームプーリ15とガイドプーリ21との間に設けられ、ガイドプーリ62とガイドプーリ21との間の巻線Wの移動方向が鉛直方向に対して略45度をなすように配設されている。61a、62aは、ガイドプーリ61、62それぞれの回転軸である。
テンション装置1Dにおいて、第1実施形態のテンション装置1の構成に加え、ガイドプーリ61、62を具備することにより、巻線Wは、テンションプーリ12、ガイドプーリ20、ガイドプーリ61、アームプーリ15、ガイドプーリ62、ガイドプーリ21の順に導かれる。また、巻線Wは、テンションプーリ12により繰り出され、ガイドプーリ20に案内されて移動方向が変更され、ガイドプーリ61に案内されて更に移動方向が変更され、アームプーリ15に案内されて移動方向が折り返され、ガイドプーリ62に案内されて移動方向が変更され、ガイドプーリ21に案内されて更に移動方向が変更されてフライヤ4に向かって繰り出される。
【0059】
上述の構成により、テンション装置1Dは、フライヤ4が巻線を巻き取る速度に変化が生じた場合、ガイドプーリ61、62を加えて巻線Wに関与する慣性モーメントを増やしたことにより、第1実施形態のテンション装置1に比べ、巻線Wに加えられるテンションの変動量を低減することができる。また、ガイドプーリ20、61の間の巻線Wの移動方向と、ガイドプーリ21、62の間の巻線Wの移動方向とが鉛直方向に対して略45をなすように配設されているので、それぞれのガイドプーリから受ける慣性モーメントを平均化することができる。
【0060】
上述の第1実施形態から第5実施形態において、固定部16又は引掛け部33aは、バネ17によりテンションアーム14に対して所望の付勢力が与えられる位置に設けられる。例えば、固定部16又は引掛け部33aは、図5に示した巻線張力が得られる位置に予め配置されている。また、図1、6〜9に示すように、テンションアーム14の配設方向14dが水平方向に対して平行であるとき、バネ17の付勢力が働く方向が鉛直方向になるように配設しているが、バネ17は、テンションアーム14に対して付勢力が働く位置に配設されていればよい。
【0061】
上述の第1実施形態から第5実施形態の制御部23は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した指令信号を生成する処理過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
1、1A、1B、1C、1D…テンション装置
2…ボビン、3…ガイドプーリ、4…フライヤ
11…バックテンショナ部、12…テンションプーリ、13…モータ、
13a…位置検出部
14…テンションアーム、14a…基端、14b…先端、14c…引掛け部
15、31、41…アームプーリ、16…固定部、17…バネ、18、19…ストッパ
20、21、32、42、51、61、62…ガイドプーリ
22…アーム角度検出部、23…制御部、23a…モータ駆動制御部
12a、15a、41a、42a、51a、61a、62a…回転軸
33…取付け部、33a…引掛け部、33b…調節ねじ
231…減算部、232…ローパスフィルタ部、233…PI演算部
234…加算部、235…逆回転検出部、241、244…乗算部
242…積分演算部、243…リミッタ部、245…加算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯に巻線を巻回する巻線機にボビンから前記巻線を所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置であって、
前記ボビンから導かれた前記巻線を前記巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、
前記テンションプーリと前記巻線機との間で前記巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして前記アームプーリを前記テンションプーリ及び前記巻線機のそれぞれと近接離間させるように回動自在なテンションアームと、
前記アームプーリが前記テンションプーリ及び前記巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、
前記テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、
前記テンションプーリに結合され、前記テンションプーリを回転させるモータと、
前記角度検出部が検出した前記アーム角度と、入力される目標アーム角度とに応じて前記モータの駆動を制御して、前記巻線の繰り出す速度を増減させる制御部と
を具備することを特徴とするテンション装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記アーム角度と前記目標アーム角度との角度偏差、及び、入力される前記モータの回転子の位置を示す位置信号から該回転子の目標位置を示す目標位置信号を算出し、該目標位置信号から前記モータへの指令信号を生成して前記モータを駆動するPI制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のテンション装置。
【請求項3】
前記PI制御における積分項は、予め定められた上限値及び下限値が設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載のテンション装置。
【請求項4】
前記制御部は、
算出した前記目標位置信号が、前記巻線を繰り出す方向に前記モータを駆動するか否かを判定し、前記巻線を繰り出す方向の場合、算出した前記目標位置信号により前記指令信号を更新し、前記巻線を繰り出す方向でない場合、前記指令信号を更新しない
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のテンション装置。
【請求項5】
前記テンションプーリと前記アームプーリとの間に設けられた第1のガイドプーリと、
前記アームプーリと前記巻線機との間に設けられた第2のガイドプーリと、
を備え、
前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ60度から80度である
ことを特徴とする請求項1から請求項4に記載のテンション装置。
【請求項6】
前記巻線に前記所望のテンションが加わる場合、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、それぞれ鉛直方向である
ことを特徴とする請求項5に記載のテンション装置
【請求項7】
前記テンションプーリと前記第1のガイドプーリとの間に設けられた第3のガイドプーリと、
前記第2のガイドプーリと前記巻線機との間に設けられた第4のガイドプーリと
を備え、
前記第3のガイドプーリから前記第1のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方
向と、前記第2のガイドプーリから前記第4のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ45度である
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のテンション装置。
【請求項8】
前記テンションアームの素材は、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックである
ことを特徴とする請求項1から請求項7に記載のテンション装置。
【請求項1】
巻芯に巻線を巻回する巻線機にボビンから前記巻線を所望のテンションを加えて繰り出すテンション装置であって、
前記ボビンから導かれた前記巻線を前記巻線機に向かって繰り出すテンションプーリと、
前記テンションプーリと前記巻線機との間で前記巻線を案内するアームプーリを先端に有し、基端を支点にして前記アームプーリを前記テンションプーリ及び前記巻線機のそれぞれと近接離間させるように回動自在なテンションアームと、
前記アームプーリが前記テンションプーリ及び前記巻線機から離間するようにテンションアームを付勢する付勢部材と、
前記テンションアームの基端及び先端を結ぶ直線と、水平方向とのなす角度であるアーム角度を検出する角度検出部と、
前記テンションプーリに結合され、前記テンションプーリを回転させるモータと、
前記角度検出部が検出した前記アーム角度と、入力される目標アーム角度とに応じて前記モータの駆動を制御して、前記巻線の繰り出す速度を増減させる制御部と
を具備することを特徴とするテンション装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記アーム角度と前記目標アーム角度との角度偏差、及び、入力される前記モータの回転子の位置を示す位置信号から該回転子の目標位置を示す目標位置信号を算出し、該目標位置信号から前記モータへの指令信号を生成して前記モータを駆動するPI制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のテンション装置。
【請求項3】
前記PI制御における積分項は、予め定められた上限値及び下限値が設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載のテンション装置。
【請求項4】
前記制御部は、
算出した前記目標位置信号が、前記巻線を繰り出す方向に前記モータを駆動するか否かを判定し、前記巻線を繰り出す方向の場合、算出した前記目標位置信号により前記指令信号を更新し、前記巻線を繰り出す方向でない場合、前記指令信号を更新しない
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のテンション装置。
【請求項5】
前記テンションプーリと前記アームプーリとの間に設けられた第1のガイドプーリと、
前記アームプーリと前記巻線機との間に設けられた第2のガイドプーリと、
を備え、
前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ60度から80度である
ことを特徴とする請求項1から請求項4に記載のテンション装置。
【請求項6】
前記巻線に前記所望のテンションが加わる場合、前記第1のガイドプーリから前記アームプーリへ送り出される前記巻線の移動方向と、前記アームプーリから前記第2のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、それぞれ鉛直方向である
ことを特徴とする請求項5に記載のテンション装置
【請求項7】
前記テンションプーリと前記第1のガイドプーリとの間に設けられた第3のガイドプーリと、
前記第2のガイドプーリと前記巻線機との間に設けられた第4のガイドプーリと
を備え、
前記第3のガイドプーリから前記第1のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方
向と、前記第2のガイドプーリから前記第4のガイドプーリへ送り出される前記巻線の移動方向とが、水平方向に対してなす角度がそれぞれ45度である
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のテンション装置。
【請求項8】
前記テンションアームの素材は、ガラス繊維又炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックである
ことを特徴とする請求項1から請求項7に記載のテンション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−280464(P2010−280464A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133872(P2009−133872)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】
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