説明

テンター装置

【課題】テンターチェーンの摺動摩擦抵抗が低減され、かつ傾きにくい構造とすることによって、摩耗による金属粉の発生が少ないテンター装置を提供する。
【解決手段】テンター装置は、フィルムの搬送路の両側に配置されたテンターレールと、テンターレールに沿って移動する一対のテンターチェーン5とを有する。テンターチェーン5は、フィルムの搬送面に平行かつテンターレールの長手方向と直角な方向に延びる軸部材60を中心に回転自在に支持された軸受61を有する。軸部材60は、外リンクを構成する外プレート54aに固定されており、この外プレート54aに、フィルムの縁部を把持するための、ピンプレート64および複数のピン63を有するフィルム保持機構がアタッチプレート63を介して固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造工程においてフィルムを搬送するのに用いられるテンター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造工程において、製造途中のフィルムを加熱処理する際にフィルムを所定の幅になるように把持するためにテンター装置が用いられている。テンター装置は、左右一対のテンターレールと、各テンターレールに沿って移動する、所定の間隔でフィルム保持部材を備えた左右一対のテンターチェーンとを有する。
【0003】
この種のテンター装置の一例が特許文献1に開示されている。以下、特許文献1に開示されたテンター装置について、その一方の側のテンターレールおよびテンターチェーンの断面図である図8を参照して説明する。図8に示すように、テンターレール140は、互いに間隔をあけて配置された支持壁141と、支持壁141の間に回転自在に支持されたチェーン支持ローラ142とを有しており、テンターチェーン150は支持壁141の間に配置されて、チェーン支持ローラ142上に支持されている。
【0004】
テンターチェーン150は、一対の内プレート151a、151bを有する内リンクと、一対の外プレート154a、154bを有する外リンクとを、連結ピン155によって交互に連結して構成される。内リンクはさらに、ブシュ(不図示)を介して連結ピン155が挿通されるローラ153a、153bを有している。これらローラ153a、153bは連結ピン155の軸方向に配置され、それぞれ連結ピン155に対して独立して回転することができる。
【0005】
このテンターチェーン150は、外プレート154a、154bの対向方向を上下方向とした姿勢で使用され、従って、使用時には下側の外プレート154bがチェーン支持ローラ142上に支持される。
【0006】
使用時に上側に位置する外プレート154aは、クランク状に屈曲して横方向に延びており、その先端部には、複数の突き刺しピン165を有するピンプレート164が取り付けられている。フィルムFは、その縁部が突き刺しピン165で突き刺されて保持され、この状態でテンターチェーン150を移動させることによってフィルムFが搬送される。
【0007】
フィルムFは加熱処理されると体積収縮が生じる。加えて、フィルムFはテンターレールの拡縮機能を利用して、加熱処理時に幅方向に延伸や収縮(応力緩和)されることがある。その結果、テンターチェーン150には横方向(図示矢印A方向)への張力が作用し、テンターチェーン150は傾いた状態でフィルムFの搬送方向に移動する。テンターチェーン150が傾くと、上側のローラ153aは内側の支持壁141と接触し、下側のローラ153bは外側の支持壁141と接触する。その状態でテンターチェーン150が移動することによってローラ153a、153bは互いに逆方向に回転することができるので、テンターチェーン150が傾いてもローラの回転は妨げられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−146344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したテンター装置では、テンターチェーンのローラを上下二段としているが、ローラを上下二段としても、把持するフィルムの張力を受けて、テンターチェーンが傾くことに変わりはない。テンターチェーンが傾いた状態では、ローラは局部的に支持壁と接触するので、ローラには高い接触圧力が作用し、ローラとそれを支える軸の間に偏荷重が働き、ローラが回転し難くなる。そのため、ローラが回転することによって、ローラおよびそれを支持する部材は局部的に大きな力が作用した状態で摺動する。結果的に、ローラおよびそれを支持する部材はローラの摺動により次第に摩耗し、この摩耗による金属粉が発生する。さらには、支持ローラとテンターチェーンの接触面においても、磨耗により金属粉が発生する。金属粉は、テンターチェーンを長期間にわたって動作させ続けると、テンターチェーンを構成する部品間に蓄積され、ローラの回転能力およびテンターチェーンの動作を妨げることがある。また、処理中のフィルムに金属粉が付着すると、フィルムの品質が低下し、好ましくない。
【0010】
テンターチェーンを構成する部品間の摩擦を低減するために潤滑油を用いることが考えられる。しかし、例えばポリイミドフィルムの加熱処理工程においては最高温度が200〜600℃に達することがあり、このような高温環境下では潤滑油が蒸発してしまうため、潤滑油を使用するのは難しい。
【0011】
本発明の目的は、テンターチェーンが傾きにくい構造で偏荷重が発生せず、ローラが機能することで摺動摩擦抵抗を低減し、摩耗による金属粉を生じにくいテンター装置を提供することである。また本発明の他の目的は、潤滑油を用いることなく運転することが可能であり、高温環境下での使用に適したテンター装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明のテンター装置は、フィルムの搬送路の両側に配置された一対のテンターレールと、テンターレールに沿って移動し、それぞれフィルムの縁部を把持するフィルム保持機構を備えた一対のテンターチェーンとを有するテンター装置であり、テンターチェーンは、テンターチェーンを移動可能にテンターレール上に支持させるための、フィルムの搬送面に平行、かつ、テンターレールの長手方向と直角な方向に延びる軸部材を中心に回転自在に支持された回転体を有している。そして、軸部材は、フィルム保持機構が固定されている部材と同じ部材に直接または間接的に固定されている。
【0013】
本発明のテンター装置において、回転体は軸受とすることができる。この場合、軸受は、転がり軸受であってもよいし、滑り軸受であってもよい。また、回転体はローラとすることもできる。これらの何れの場合においても、高温での使用に特に適合させるためには、回転体は固体潤滑剤で潤滑されることが好ましい。固体潤滑剤で潤滑される回転体を使用することにより、潤滑油を用いることなくテンター装置を運転することができ、高温環境下での使用に適したテンター装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、テンターチェーンをテンターレール上に支持するための回転体をテンターチェーンが有しており、その回転体を支持する軸部材を支持する部材がフィルム保持機構を支持する部材と同じである構成とすることで、フィルム保持機構が把持するフィルムの張力がテンターチェーンに作用してもテンターチェーンを傾きにくくすることができる。そして、テンターチェーンが傾きにくくなることによって、テンターチェーンを構成する各部品の動作がスムーズとなる。結果的に、各部品の摩耗が少なくなることにより、金属粉の発生や摩擦音の発生を低減することができ、テンターチェーンの使用期間を延ばすことが可能となる。さらに、金属粉の発生が低減されることにより、フィルムへの金属粉の付着による不良品の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるテンター装置の平面図である。
【図2】図1に示すローラーチェーンのII部を拡大した図である。
【図3】図2に示すローラーチェーンをピンプレート側から見た側面図であり、一部の外プレートを断面で示している。
【図4】図2に示すローラーチェーンのIV−IV線断面図である。
【図5】図2に示すローラーチェーンのV−V線断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態によるテンター装置を、テンターチェーンの長手方向に隣接する外プレートの間で切断した断面図である。
【図7】本発明のさらに他の形態によるテンター装置の、図4と同様の断面図である。
【図8】従来のテンター装置のテンターレールおよびテンターチェーンの、テンターチェーンの移動方向に垂直な面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1を参照すると、フィルムFの製造工程で用いられ、特にフィルムFの加熱処理においてフィルムFをその縁部(幅方向両端部)を把持した状態で搬送する、本発明の一実施形態によるテンター装置1が示されている。
【0018】
テンター装置1は、フィルムFの搬送路の両側に配置された一対のテンターチェーン5と、各テンターチェーン5の移動をガイドする一対のテンターレール4とを有する。各テンターチェーン5は、無端となるように構成されて、駆動スプロケット2および従動スプロケット3に噛み合っている。テンターレール4は、フィルムFの搬送方向に沿って延び、互いに平行に配置された一対のガイド板41を有し、テンターチェーン5は、そのガイド板41の間を通ることができる。
【0019】
各テンターチェーン5は、詳しくは後述するように、複数のフィルム保持機構を有しており、フィルムFの両縁部は、各テンターチェーン5に設けられたフィルム保持機構によって把持される。フィルムFの両縁部が把持された状態で駆動スプロケット2を駆動すると、テンターチェーン5がテンターレール4に沿って移動し、これによってフィルムFが搬送される。
【0020】
図1に示したテンター装置1では、フィルムFをその幅が一定の状態で搬送するように一対のテンターレール4が平行に配置されている。しかし、テンターレール4をその間隔がフィルムFの搬送方向下流に向かうに従って広くなるように、または狭くなるように配置することもできる。テンターレール4の間隔をフィルムFの搬送方向下流に向かうに従って広くすることによって、フィルムFを横方向に延伸することができ、また、この逆にテンターレール4の間隔を次第に狭くすることによって、フィルムFの応力緩和に対応することができる。また、一対のテンターレール4は、その間隔が一定の部分、次第に広くなる部分、および次第に狭くなる部分のうち2つ以上を適宜組み合わせて配置することもできる。
【0021】
次に、テンターチェーン5について、図2〜5を参照して詳細に説明する。
【0022】
テンターチェーン5は、複数の内リンクと複数の外リンクとを交互に連結して無端としたローラーチェーンである。内リンクは、対向配置された一対の内プレート51a、51bと、これらを連結する2つのブシュ52と、内プレート51a、51bの間で各ブシュ52に回転自在に支持された2つのローラ53とを有する。内プレート51a、51bは長手方向を有するように形成された部材であり、2つのブシュ52はその長手方向に間隔をあけて配置されている。ローラ53の直径は、一対のガイド板41の間隔よりも小さく、かつ内プレート51aおよび/または51bの幅よりも大きい。
【0023】
外リンクは、内リンクの外側に対向配置された一対の外プレート54a、54bと、外プレート54a、54bを内リンクと連結するために内プレート51a、51bおよびブシュ52を貫通する2つの連結ピン55とを有する。外プレート54a、54bも長手方向を有するように形成された部材であり、隣り合う2つの内リンクを連結できる長さを有している。本形態では連結ピン55はネジ付きピンであり、ワッシャ56およびナット57によって、連結ピン55が外プレート54a、54bから抜けないように保持されている。
【0024】
一対の外プレート54a、54bのうち上側に位置する一方の外プレート54aには、アタッチプレート63が固定されている。アタッチプレート63は、外プレート54aの長手方向と直角な幅方向においてテンターチェーン5の一方の側に延びるように、外プレート54aの片面に取り付けられている。アタッチプレート63の先端には、フィルムFを保持するための複数の突き刺しピン65が突設されたピンプレート64が固定されている。ピンプレート63およびピン64は、本発明におけるフィルム保持機構を構成する。アタッチプレート63とピンプレート64とは一体であってもよい。
【0025】
アタッチプレート63は、ピンプレート64を外プレート54aの幅方向の一方の側に位置させることができれば任意の形状とすることができる。本形態では、アタッチプレート63は、図4に示すように、ピンプレート64が取り付けられる先端部が外プレート54a、54bの対向方向において両者の間に位置して外プレート54a、54bと平行に延びるクランク状の断面形状を有して形成されている。
【0026】
アタッチプレート63が固定された外プレート54aには、軸部材60が、その軸方向が外プレート54aの幅方向と平行となる向き、言い換えればフィルムFの搬送面に平行で、かつ、テンターレール4の長手方向と直角な方向に延びる向きで固定されている。軸部材60は、両端部が他の部位に比べて小径とされた段付きの部材であり、その小径の部位に、軸部材60のラジアル荷重を受ける軸受61が、軸部材60を中心に回転自在に配置されている。
【0027】
軸部材60の両端部に取り付けられた軸受61は、これらが一対のガイド板41の上面に支持されることができるように、2つの軸受61の間隔が、ガイド部材41の間隔とほぼ等しく設計されている。軸受61は、例えばCワッシャ62によって、軸部材60に対する軸方向の位置が固定されている。
【0028】
軸受61としては、ラジアル荷重を受けるものであれば、転がり軸受および滑り軸受など任意の軸受を用いることができる。本形態では、図5に示すように、転がり軸受を用いている。転がり軸受は、外輪、内輪、および外輪と内輪との間に配された複数の転動体(玉)と、転動体を円周方向に離間するスペーサとを有している。内輪は軸部材60に固定されており、外輪が軸部材60に対して回転する。
【0029】
以上のように軸受61を設けることにより、テンターチェーン5は、軸受61によって、移動可能にテンターレール4上に支持される。
【0030】
以上説明したテンターチェーン5を構成する各部品は、通常のテンターチェーンと同様、ステンレス鋼などで作ることができる。
【0031】
テンターチェーン5は、連結ピン55の軸方向を鉛直方向に向け、アタッチプレート63が固定された外プレート54aを上側とした姿勢で使用される。そして各テンターチェーン5は、ピンプレート64が外向きとなるように無端状とされて、駆動スプロケット2および従動スプロケット3に噛み合わせられる。また、各テンターチェーン5は、テンターレール4が設置された領域では、軸受61によってガイド板41の上面に支持されており、ローラ53はガイド板41の間に位置している。
【0032】
上記のように一対のテンターチェーン5を設置することにより、一対のテンターチェーン5の互いに向き合った領域では、ピンプレート64が互いに内側を向いている。テンターチェーン5の間隔を、フィルムFの幅に合わせて適宜設定すれば、対向するピンプレート64の突き刺しピン65でフィルムFを突き刺すことにより、フィルムFの両縁部を支持することができる。
【0033】
フィルムFの両縁部を支持した状態で駆動スプロケット2を駆動すると、テンターチェーン5が移動し、これによってフィルムFが搬送される。また、アタッチプレート63の長さや折り曲げ角度を調整することにより、フィルムFの把持面の高さを制御することができる。
【0034】
テンターチェーン5は、軸受61がガイド板41上を回転することによって移動する。内リンクおよび外リンクはガイド板41の間に位置しており、これによってテンターチェーン5の横方向の位置が規制されるので、テンターチェーン5はテンターレール4に沿って移動する。ガイド板41の上面は、軸受61と接して軸受61の回転を阻害しない構造であれば良く、軸受61に対して摩擦が小さいことが好ましい。そのためには、ガイド板41の上面は、平坦もしくは平滑であることが好ましい。また、ガイド板41の上面は、軸受61との摩擦を小さくする表面加工が施されていてもよい。
【0035】
テンター装置1は、テンターレール4の拡縮機能を利用し、フィルムFの延伸処理などに用いることができる。このように、フィルムFの幅方向に張力をかける処理にテンター装置1が用いられる場合、フィルムFを把持するピンプレート64は、図4に矢印Aで示方向に引っ張られる。このフィルムFによる引張り力により、テンターチェーン5には、そのテンターチェーン5を対となるもう一方のテンターチェーン5側に傾かせるモーメントが作用する。
【0036】
以下、テンターチェーン5に作用するモーメントについて、図8に示した従来のテンターチェーンと比較して説明する。ただし、以下の説明では、外リンクと内リンクとの連結部からピンプレートまでの構造および形状の違いによる影響を排除するため、上側の外プレートが平板であり、その平板の外プレートにフィルムFの引張り力が作用するものとして考える。
【0037】
この場合、フィルムFの引張りによってテンターチェーンに生じるモーメントの大きさは、鉛直方向における、テンターチェーンのテンターレールによって支持されている面から上側の外プレートまでの距離に依存し、この距離が大きいほどモーメントが大きくなる。つまり、この距離が大きいほど、より小さな力でテンターチェーンは傾く。
【0038】
図8に示したテンターチェーン150では、下側の外プレート154bとチェーン支持ローラ142との接触面が、テンターレール140への支持面BS1となる。支持面BS1は、一対の内プレート151a、151bを有する内リンクを上側の外プレート154aとともに挟む下側の外プレート154bの下面と一致しており、支持面BS1から上側の外プレート154aまでの距離D1は、外プレート154a、154b間の距離よりも大きい。
【0039】
一方、図4に示すように、本形態のテンターチェーン50では、軸受61とガイド板41との接触面が、テンターレール40への支持面BS2となる。支持面BS2は、上側の外プレート54aに固定された軸部材60に支持された軸受61の外周面と接する面であり、支持面BS2から上側の外プレート54aまでの距離D2は、支持面軸部材60の外径および軸受61の外径にもよるが、通常の設計の範囲では、図8に示す距離D1よりも格段に小さくすることができる。
【0040】
よって、本形態のテンターチェーン5によれば、フィルムFの引張り力によるモーメントを従来と比較して極めて小さくすることができ、その結果、フィルムFの張力によるテンターチェーン5の傾きを抑制することができる。テンターチェーン5の傾きが抑制されることによって、テンターチェーン5を構成する各部品は、無理な力が作用することなくスムーズに動作するので、各部品の摩擦による金属粉や摩擦音が発生しにくくなり、フィルム上への金属粉の付着が防止できるので、安定した品質のフィルムFを製造することができる。さらに、テンターチェーン5は回転体を使用しており、動作させるために必要なエネルギーが小さくて済むため、省エネルギー化も達成できる。回転体は固体潤滑剤による潤滑を行っているため、潤滑油を用いることなくテンター装置1を運転することが可能となる。
【0041】
特に、本形態では軸受61として転がり軸受を用いており、これによって、テンターチェーン5を、より小さな駆動力で、よりスムーズに移動させることができる。
【0042】
テンターチェーン5は摩擦による金属粉が発生しにくいが、全く発生しないわけではない。テンター装置1の長期間の運転により多少の金属粉は発生する。この金属粉が転がり軸受の外輪と内輪との間の空隙部に入り、それが長期間の運転の間に蓄積されると、転がり軸受の動作に支障を来すことになるかもしれない。さらには、長期間の運転により、軸受の外輪と内輪との間の空隙部で発生する固体潤滑剤が外部に飛散するのを防止する必要がある。そこで、転がり軸受は、外輪と内輪との間の空隙部に金属粉が入りにくくなるように、この空隙部を覆う蓋(シールド)を有することが好ましい。さらに、転がり軸受が蓋を有する場合、転がり軸受は、蓋の外側の空間が内輪と外輪との間の空隙部と直線的に連通しないようにするラビリンス構造を有していることが好ましい。
【0043】
前述したように本形態では、各外リンクに2つの軸受61が、外プレート54aの幅方向に間隔をあけて配置されている。この軸受61の配置は、フィルムFの張力によるテンターチェーン5の傾きに効果的に対抗し得る配置であり、これによって、テンターチェーン5の姿勢をより安定させることができる。また、各外リンクが2つの軸受61を有することによって、既存のテンターレール40の設備をそのまま利用することができるので、図8に示したテンター装置を本形態のテンター装置に置き換える場合の設備変更コストを低減することができる。
【0044】
本形態では、各外リンクが2つの軸受61を有しているが、フィルムFの張力によってテンターチェーン5が傾く際に支点となるのは、アタッチプレート63側の軸受61である。よって、この軸受61のみでテンターチェーン5をバランスよく支持させることができる場合は、もう一方の軸受61は不要となる場合がある。
【0045】
また、軸受61は、外プレート54aに固定された軸部材60に取り付けられており、これによって、テンターチェーン5の重心は支持面BS2よりも下方に位置している。このことも、テンターチェーン5の姿勢の安定化に貢献している。
【0046】
さらに本形態では、従来と異なり、ピンプレート64を外プレート54aに直接取り付けるのではなく、アタッチプレート63を介して外プレート54aに取り付けている。外リンクおよび内リンクを構成する各プレート51a、51b、54a、54bは、テンターチェーン5の動作中に駆動スプロケット2から受ける大きな引張荷重に耐え得る十分な機械的強度をもつように設計されており、その結果、板厚もある程度厚くなる。一方、フィルムFの張力は、駆動スプロケット2から受ける引張荷重と比較すると非常に小さい。
【0047】
従って、ピンプレート64を、外プレート54aとは別部材のアタッチプレート63を介して外プレート54aに取り付けることで、外プレート54aは十分な機械的強度を確保しながらも、アタッチプレート63は外プレート54aよりも薄い板厚で形成することができる。これによりテンターチェーン5の軽量化が達成され、テンターチェーン5をより小さな駆動力で動作させることに貢献している。
【0048】
このように、アタッチプレート63を介してピンプレート64を外プレート54aに取り付けることは、テンターチェーン5の軽量化のうえで好ましいものであるが、このことは本発明においては必須ではなく、外プレート54aを、ピンプレート64を固定するのに適した形状(例えばクランク形状)とし、その先端部にピンプレート64を直接固定してもよい。
【0049】
本発明によるテンター装置は種々のフィルムの製造に用いることができるが、フィルムの種類の中でも特に好ましいのはポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムの製造工程におけるイミド化処理などの加熱処理では、テンター装置は、例えば200〜600℃といった高温の環境下で使用される。前述したように、本形態のテンター装置1は、回転体によりテンターレール上に支持されたテンターチェーン5が極めて傾きにくい構造であるため、潤滑油を用いることなくスムーズに運転することができ、潤滑油が使用できないような高温環境下での使用に適している。
【0050】
このように、テンター装置1は高温環境下での使用に適しているが、テンター装置1を高温環境下で使用する場合に特に重要なのは軸受61である。本形態では軸受61として転がり軸受を用いているが、一般的な転がり軸受は、潤滑油またはグリースなどの潤滑剤で潤滑される。高温環境下では潤滑剤が蒸発してしまうため、このような潤滑剤の使用は難しい。
【0051】
そこで、転がり軸受は、固体潤滑剤で潤滑される構造とすることが望ましい。固体潤滑剤は、例えば、外輪と内輪との間の空隙部に複数の転動体を円周方向に離間させるためのスペーサおよび/または転動体の少なくとも一部に含有させることができる。固体潤滑剤としては、天然または人造の黒鉛材料、窒化ホウ素、二硫化タングステンおよび二硫化モリブデンなど公知の固体潤滑剤を、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。このように、固体潤滑剤を用いることにより、高温環境下でも転がり軸受を長期間にわたって好適に使用することができる。
【0052】
軸受61としては、転がり軸受の代わりに滑り軸受を使用したり、あるいは転がり軸受と滑り軸受を併用したりすることもできるが、高温環境下で使用されるテンターチェーン5の軸受61に滑り軸受を用いる場合、滑り軸受を2層以上の多層構造とし、その最内層を、固体潤滑剤を含有する層で構成することが好ましい。
【0053】
さらに、上述した形態では回転体として軸受61を用いた例を示したが、回転体はローラであってもよい。回転体としてローラを用いる場合も、高温環境下での使用を考慮するならば、ローラを多層構造とし、その最内層を、固体潤滑剤を含有する層で構成することが好ましい。また、ローラは、軸部材60に直接支持されていてもよいし、適宜の軸受を介して支持されていてもよい。
【0054】
また、上述した形態では、上側の外プレート54aに、アタッチプレート63を介してピンプレート64を取り付けるとともに、軸部材60を介して軸受61を支持した構成を示した。しかし、図6に示すように、ピンプレート64を支持するアタッチプレート63および回転体である軸受61を支持する軸部材60は、それぞれ下側に位置する外プレート54bに固定してもよい。この場合は、テンターチェーンの支持は、ガイド板41に限らず、平板とすることができる。また、テンターチェーンが所定の搬送路から外れないように、ローラ53の側方に適宜のガイド板43を配置するか、軸部材60の下方に、ローラ53と同様の他のローラ53bを配置するか、またはこれらを組み合わせることができる。
【0055】
また、上述した形態では、テンターチェーン5の内リンクと外リンクとを組み合わせた構造が通常のローラーチェーンと同様に構成されていることを示した。ここで、内リンクが備えるローラ53は、スプロケットとの噛み合わせをスムーズにする働きの他に、テンターチェーン5の移動中におけるガイド板41との摩擦を低減させる働きを有する。そこで、ガイド板41との摩擦をより低減させるために、テンターチェーン5の内リンクは、ローラ53に代えて、図7に示すようにブシュ52の周囲に軸受73を備えていてもよい。ローラ53の代わりに軸受73を用いることで、より少ない摩擦抵抗でテンターチェーン5を移動させることができ、結果的に、テンターチェーン5をより小さな駆動力で動作させることができる。
【0056】
内リンクが備える軸受73としては、本発明における回転体として用いた軸受61と同様、転がり軸受および滑り軸受など任意の軸受を用いることができる。転がり軸受および滑り軸受の何れを用いた場合であっても、その軸受73は、前述した軸受61と同様の構造を有することができる。その中でも固体潤滑剤により潤滑される軸受を用いることは、高温環境下での使用に特に好ましい。固体潤滑剤による潤滑は、内リンクがローラ53を備える場合にも適用することができる。さらに、テンターチェーン5に傾きが生じた場合であってもローラ53または軸受がスムーズに回転できるようにするために、ローラ53または軸受を、図8の従来例のように上下2段に配置してもよい。
【0057】
また、上述した形態では、フィルムFの保持機構としてピン式の保持機構を示したが、その代わりに、フィルムFの縁部を掴むことによって把持するクリップ式またはチャック式の保持機構とすることもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 テンター装置
2 駆動スプロケット
3 従動スプロケット
4 テンターレール
5 テンターチェーン
51a、51b 内プレート
52 ブシュ
53 ローラ
54a、54b 外プレート
55 連結ピン
60 軸部材
61、73 軸受
63 アタッチプレート
64 ピンプレート
65 突き刺しピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの搬送路の両側に配置された一対のテンターレールと、前記テンターレールに沿って移動し、それぞれ前記フィルムの縁部を把持するフィルム保持機構を備えた一対のテンターチェーンとを有するテンター装置において、
前記テンターチェーンは、前記テンターチェーンを移動可能に前記テンターレール上に支持させるための、前記フィルムの搬送面に平行かつ前記テンターレールの長手方向と直角な方向に延びる軸部材を中心に回転自在に支持された回転体を有し、前記軸部材は、前記フィルム保持機構が固定されている部材と同じ部材に直接または間接的に固定されていることを特徴とするテンター装置。
【請求項2】
複数の前記回転体を有し、前記回転体の少なくとも1つは軸受である請求項1に記載のテンター装置。
【請求項3】
複数の前記軸受を有し、前記軸受の少なくとも1つが転がり軸受である請求項2に記載のテンター装置。
【請求項4】
前記転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と内輪との間に配された複数の転動体と、前記複数の転動体を円周方向に離間させるためのスペーサとを有し、前記スペーサおよび/または前記転動体の少なくとも一部は固体潤滑剤を含有している請求項3に記載のテンター装置。
【請求項5】
複数の前記軸受を有し、前記軸受の少なくとも1つが滑り軸受である請求項2に記載のテンター装置。
【請求項6】
前記滑り軸受は多層構造であり、その最内層が固体潤滑剤を含有している請求項5に記載のテンター装置。
【請求項7】
前記回転体はローラである請求項1に記載のテンター装置。
【請求項8】
前記ローラは多層構造であり、その最内層が固体潤滑剤を含有している請求項7に記載のテンター装置。
【請求項9】
前記テンターチェーンは、複数の内リンクと複数の外リンクとを交互に連結して構成され、前記軸部材および前記フィルム保持機構は、前記外リンクを構成する部品の一つである外プレートに固定されている請求項1から8のいずれか1項に記載のテンター装置。
【請求項10】
前記フィルム保持機構は、アタッチプレートを介して前記外プレートに取り付けられている請求項9に記載のテンター装置。
【請求項11】
前記アタッチプレートの板厚は、前記外プレートの板厚よりも薄い請求項10に記載のテンター装置。
【請求項12】
前記フィルム保持機構は、ピンプレートと、前記ピンプレートに突設された複数の突き刺しピンとを有し、前記複数のピンをフィルムに突き刺すことによってフィルムが把持される請求項1から11のいずれか1項に記載のテンター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−68016(P2011−68016A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220604(P2009−220604)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】