説明

テープリール装置およびこれを備えたテープカートリッジ

【課題】摺接部材がスプールと連れ回りするのを防止し、且つ、係合部と係合受け部とへの負担を極力小さくすることができるテープリール装置等を提供する。
【解決手段】インクリボン22aが巻回したスプール22bを回転自在に収容するカートリッジケース20と、スプール22bから繰り出されたインクリボン22aにバックテンションを付与する制動手段3と、を有するテープリール装置であって、制動手段3は、回転するスプール22bの端面に摺接する摺接部材35と、摺接部材35をスプール22bの軸方向に付勢するコイルばね36と、摺接部材35の回転を規制する回転規制手段37と、を有し、回転規制手段37は、摺接部材35に挿入されるようにカートリッジケース20に凸設された係合部43と、摺接部材35の内周面に凸設され、スプール22bの回転方向において係合部が係合する係合受け部44と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース内に回転自在に収容したスプールの外周面に巻回したテープ状部材を、バックテンションを与えながら繰り出すテープリール装置およびこれを備えたテープカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上ケースおよび下ケースで軸支されると共に、インクリボンを巻回したスプールと、スプールの中空部に上端から挿入された制動手段と、を備えたテープリール装置が知られている(特許文献1参照)。
制動手段は、上端にフランジ部を有すると共に有底円筒状に形成された摺接部材を、その内周部に収容したコイルばねにより下方に付勢することで、スプールに対し摺接部材を押し付けて、スプールの回転を制動する。また、上ケースから下方に向かって延設された舌片が摺接部材の底部の偏心位置に設けられた係合受け部に係合して、摺接部材がスプールと連れ回りすることを防止している。これらにより、繰り出されたインクリボンに対しバックテンションを与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−272250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のテープリール装置では、摺接部材の回転を規制するために、摺接部材の底部において、コイルばねの内側に配設された係合受け部に、上ケースから延びる舌片(係合部)を係合させている。この場合、舌片は、摺接部材の底部まで挿入できるように、細く且つ長く形成する必要があり、舌片には、大きなねじりモーメントが作用することになっていた。このため、摺接部材に係る回転力の大きさによっては、舌片が変形し、摺接部材がスプールと連れ回りするという問題があった。特に、係合受け部が、摺接部材の底部の回転中心付近に設けられているため、そのような問題が顕著となっていた。このため、インクリボン(テープ状部材)に安定したバックテンションを付与することができなかった。
【0005】
本発明は、摺接部材がスプールと連れ回りするのを確実に防止すると共に、係合部および係合受け部に作用する力を極力小さくすることができるテープリール装置およびこれを備えたテープカートリッジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のテープリール装置は、円筒状に形成され、その外周面にテープ状部材が巻回されるスプールと、スプールを回転自在に収容するケースと、スプールから繰り出されたテープ状部材にバックテンションを付与する制動手段と、を有するテープリール装置であって、制動手段は、回転するスプールの端面に摺接する有底筒状に形成された摺接部材と、摺接部材の内部に配設され、ケースを受けとして摺接部材をスプールの軸方向に付勢する付勢部材と、摺接部材の回転を規制する回転規制手段と、を有し、回転規制手段は、摺接部材に挿入されるようにケースに凸設された係合部と、摺接部材の内周面に凸設され、スプールの回転方向において係合部が係合する係合受け部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、係合受け部が、回転中心から離れた摺接部材の内周面に凸設されているため、係合部および係合受け部に対し、ねじりモーメント(回転軸まわりの力のモーメント)に係る力を小さくすることができる。これにより、係合部と係合受け部との係合状態を確実に維持することができ、摺接部材がスプールと共に回転してしまうことを防止することができる。すなわち、摺接部材は、スプールに対する摺接状態が適切に維持され、繰り出されたテープ状部材に安定したバックテンションを付加することができる。
また、係合部は、摺接部材の底面まで臨む必要も無いため、係合部の強度を確保し易い形状とすることができる。このため、摺接部材の開口部近傍に係合受け部を設け、ケースから係合部をあまり突出させないで、変形し難い形状とすることが好ましい。
【0008】
この場合、摺接部材は、回転するスプールの端面に摺接する摺動部を有し、摺動部は、断面半円形に形成されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、スプールの端面と、摺接部材の摺動部との接触は、幾何学的には1本の線になる接触(線接触)となるため、テープ状部材の繰り出しに伴うスプールの回転に対し、所望の負荷を安定して与えることができる。これにより、スプールの回転を許容したうえで、テープ状部材に安定したバックテンションを付加することができる。
【0010】
この場合、摺接部材の内周面には、周方向に係合受け部の複数個が均等に凸設されていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、係合部は、複数の係合受け部のうち、1の係合受け部に係合する。これにより、テープリール装置を組み立てた際に、係合部と係合受け部とが係合していない場合であっても、摺接部材がスプールの回転に連れ回りして、回転方向最短の位置にある係合受け部が、係合部に係合する。すなわち、摺接部材が連れ回りする回転距離を短くすることができる。
【0012】
この場合、付勢部材は、摺接部材に投入されたコイルばねを有し、摺接部材の内周面には、3個以上の係合受け部が凸設され、3個以上の係合受け部は、摺接部材内におけるコイルばねの位置決め部材を兼ねていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、コイルばねを摺接部材内の所望の位置に保持することができる。これにより、コイルばねを摺接部材内に精度良くセットすることができ(傾いてセットされることがない。)、テープリール装置の組み立てを円滑に行うことができる。
【0014】
この場合、ケースには、摺接部材に投入されたコイルばねの受けとなるように、摺接部材に向かって突出した円筒形の付勢受け部が形成され、係合部は、付勢受け部の基端部において、動径方向外側に突出して形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、付勢受け部がコイルばねの受けとなり、摺接部材をスプールに付勢することで、スプールに対し摺接部材が押し付けられて、スプールの回転が所定の力(安定した摩擦力)で制動される。
また、係合部は、ケースおよび付勢受け部に支持されるように形成される。このため、構造上、変形し難いように係合部を設けることができる。
【0016】
この場合、コイルばねは、収容した自由状態で摺接部材内に収まっていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、テープリール装置の組み立ての際に、付勢受け部とコイルばねとの当接、および、係合部と係合受け部との係合を容易に、且つ、確実に行うことができる。
【0018】
この場合、ケースは、係合部が凸設された上ケースと、スプールがセットされる下ケースとから成り、組立手段により、スプールに摺接部材および付勢部材を組み込んだ下ケースに、上側から上ケースを締結して組み立てられ、摺接部材は、下端面から延在し、組立手段に係合して、上ケースの係合部が摺接部材の係合受け部に対し回転方向に位置ずれするように、自身の回転位置を規制する規制片を有していることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、摺接部材は、規制片の分部で組立手段に係合することで、組立手段を介してスプールに対し、回転不能に固定される。また、その固定は、上ケースの係合部が、摺接部材の係合受け部に対し回転方向に位置ずれした状態でなされる。これにより、下ケースに対して上ケースを締結する際に、係合部と係合受け部とが干渉するのを確実に防止することができる。
【0020】
本発明のテープカートリッジは、上記したいずれかのテープリール装置を備えたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、摺接部材が、スプールと連れ回りすることを防止し、摺接部材のスプールに対する摺接状態を適切に維持し、繰り出されたテープ状部材に安定したバックテンションを与えた状態で繰り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】テープ印刷装置の開蓋状態の外観斜視図である。
【図2】上ケースを破断して示したテープカートリッジの平面図である。
【図3】テープカートリッジの分解斜視図および組立手段の斜視図である。
【図4】組立手段および図2に示すテープカートリッジのA−A線における断面図であって、(a)は分解断面図、(b)は組立済みのテープカートリッジの断面図である。
【図5】摺接部材の(a)は表裏斜視図、(b)は平面図および側面図である。
【図6】パーツフィーダーにより搬送される摺接部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るテープリール装置を適用したテープカートリッジおよびこれが装着されるテープ印刷装置について説明する。このテープ印刷装置は、装着したテープカートリッジから印刷テープおよびインクリボンを繰り出し、併走させながら印刷を行い、印刷テープの印刷済み部分を切断して、ラベルを作成するものである。
【0024】
図1は、テープ印刷装置1の開蓋状態の外観斜視図である。図2は、上ケース20aを破断して示したテープカートリッジ2の平面図である。テープ印刷装置1は、印刷テープ21aおよびインクリボン22aを収容したテープカートリッジ2を着脱自在に装着するカートリッジ装着部12と、印刷テープ21aおよびインクリボン22aに張りを与えた状態で繰り出しながら送るテープ送り手段13と、印刷済みの印刷テープ21aを切断するカッター手段14と、を備えている。ユーザーは、テープ印刷装置1の上面に配設されたキーボード15を操作し、操作結果等を表示したディスプレイ16を確認しながら印刷動作を実行させる。
【0025】
テープ送り手段13は、プラテンローラー24を回転させるプラテン駆動軸17と、巻取りコア23を回転させる巻取り駆動軸18と、両駆動軸17,18を同期回転させる駆動機構(図示省略)と、を備えている。
【0026】
次に、テープカートリッジ2について詳細に説明する。テープカートリッジ2は、上ケース20aと下ケース20bとからなるカートリッジケース20により、その外殻が形成されている。カートリッジケース20には、印刷テープ21aをテープコア21bに巻回してなるテープ体21と、インクリボン22aをスプール22b(巻出しコア)に巻回してなるリボン体22と、使用後のインクリボン22aを巻き取る巻取りコア23と、印刷テープ21aおよびインクリボン22aをそれぞれテープ体21およびリボン体22から繰り出して送るプラテンローラー24と、が回転自在に収容されている。なお、上ケース20aおよび下ケース20bは、接合端面に形成したピンおよび貫通孔により、圧入接合されている(分解・再利用可能)。
【0027】
カートリッジケース20には、これを上下に貫通する貫通開口20cが、プラテンローラー24の近傍に形成されている。テープカートリッジ2をカートリッジ装着部12に装着すると、この貫通開口20c内部にテープ印刷装置1のサーマルヘッド19が臨み、印刷テープ21aおよびインクリボン22aを挟んでプラテンローラー24に当接し、印刷待機状態となる(図2参照)。また、この状態において、プラテン駆動軸17がプラテンローラー24に係合し、巻取り駆動軸18が巻取りコア23に係合する。すなわち、プラテンローラー24および巻取りコア23は、同期して回転駆動し、テープコア21bおよびスプール22bは従動回転する。
【0028】
印刷が開始されると、インクリボン22aは、プラテンローラー24の部分で、印刷テープ21aに重なって併走する。そして、サーマルヘッド19により印刷処理が行われ、印字後の印刷テープ21aは、カートリッジケース20の側面に形成したテープ排出口27から外部に送り出され、カッター手段14により印刷済み部分がテープ幅方向に切断され、テープ片(ラベル)が作成される。
一方、インクリボン22aは、複数のリボン経路変更ピン28に案内され、貫通開口20cをUターンするように経路変更して、巻取りコア23に巻き取られる。なお、巻取りコア23は、スリップ回転してテンションを与えながらインクリボン22aを巻き取る。
【0029】
このようなテープカートリッジ2では、一連の印字処理が終了するとテープ体21およびリボン体22からの印刷テープ21aおよびインクリボン22aの繰り出しが停止される。すなわち、プラテン駆動軸17と巻取り駆動軸18は、駆動(回転)とその停止とを繰り返すこととなる。かかる場合に、従動回転するテープコア21bおよびスプール22bが自由回転するように設けられていると、印刷テープ21aおよびインクリボン22aが弛んでカートリッジケース20内で詰まる可能性がある。或いは、印刷テープ21aの先端がテープ排出口27からカートリッジケース20内に引き込まれてしまう可能性もある。
【0030】
そこで、テープコア21bの内周には、ラチェット溝(図示省略)と、これに係止される逆転防止ばね21c(図3参照)と、からなる逆転防止機構が形成されている。また、上ケース20aおよび下ケース20bに形成した楕円形の支軸孔(図示省略)にプラテンローラー24を回転自在に支持し、印刷テープ21aをカートリッジケース20内に引き込む方向に力が働いた場合に、プラテンローラー24がテープガイドピン25側に移動し、印刷テープ21aをテープガイドピン25との間に挟み込むようにしている。
【0031】
一方、インクリボン22aについては、スプール22bに対してインクリボン22aにバックテンションを付与する制動手段3を設けている。以下、制動手段3を付与する構造について、図3ないし図5を参照して詳細に説明する。図3は、テープカートリッジ2の分解斜視図および組立装置5の斜視図である。図4は、組立手段および図2に示すテープカートリッジ2のA−A線における断面図であって、(a)は分解断面図、(b)は組立済みのテープカートリッジの断面図である。図5は、摺接部材35の(a)は表裏斜視図、(b)は平面図および側面図である。なお、図3および図4に示すように上下方向を規定して説明する。
【0032】
図4に示すように、上ケース20aには、後述する摺接部材35を介してスプール22bの上端部を軸支する円筒状の円筒軸部30(請求項に言う「付勢受け部」)が、カートリッジケース20の内側に向かって凸設されている。
【0033】
また、下ケース20bには、スプール22bの下端部が遊挿される軸孔31が開口しており、その軸孔31の周縁部には、スプール22bを回転自在に支持する環状突起32がカートリッジケース20の内側に向かって凸設されている。なお、図示は省略するが、スプール22bの下端部分には周方向に複数の切欠き溝が形成されており、下ケース20bに一体形成されたばね性を有する爪片が、この切欠き溝に係合するようになっている。爪片は、切欠き溝に係合してスプール22bの回転を阻止し、運搬時や保管時にインクリボン22aが弛むのを防止している。一方、テープカートリッジ2をカートリッジ装着部12に装着すると、爪片が切欠き溝から退避するようになっており、スプール22bが回転可能な状態となる。
【0034】
スプール22bは、軸心に中空部34aを有する円筒状に形成されている。スプール22bの上端面には、スプール22bの軸心に挿入した摺接部材35(後述する。)の上端面と略同一となるように環状凸部34bが凸設されている。また、スプール22bの下端部には、軸受けリング33を介して、下ケース20bの環状突起32に着座する環状段部34cが形成されており、環状段部34cから下方に延設された下端軸部34dが、下ケース20bの軸孔31に遊挿されている。すなわち、スプール22bは、上端部を制動手段3を介して上ケース20aに回転自在に支持され、下端部を軸受けリング33を介して下ケース20bに回転自在に支持されている。このように、スプール22bを両持ちで軸支することにより、軸心回りのぶれの無い安定した回転を担保することができる。
【0035】
図3ないし図5に示すように、制動手段3は、回転するスプール22bの端面に摺接する有底筒状に形成された摺接部材35と、摺接部材35の内部に配設され、上ケース20aを受けとして摺接部材35をスプール22bの下方に付勢するコイルばね36と、摺接部材35の回転を規制する回転規制手段37と、を有している。この制動手段3は、上ケース20aとスプール22bとの間に介在し、インクリボン22aが繰り出されることにより生ずるスプール22bの回転を制動する。なお、スプール22bおよび摺接部材35は、それぞれ異なる種類の耐摩耗性樹脂(ABS、PP等)で構成されており、両者の摺動の安定性および両者間に不要な摩耗が生じないように考慮されている。
【0036】
摺接部材35は、有底円筒状に形成されコイルばね36を収容するばね収容部41と、ばね収容部41の上端部に設けられスプール22bの上端面に摺接する円形のフランジ部42と、を有し、スプール22bの中空部34a内に配設されている。すなわち、摺接部材35は、スプール22bと同軸上に配設されている。
【0037】
フランジ部42は、上方からスプール22bの上端面に当接する摺動部42aを有している。摺動部42aは、フランジ部42の下面において、環状に、且つ、半円形の断面を有して凸設されている(図4および図5(b)参照)。スプール22bが回転すると摺動部42aが、スプール22bの上端面に線接触した状態で摺り動く。また、フランジ部42は、上記したスプール22bの環状凸部34bの内側に僅かな間隙を存して配設されており、スプール22bの上端部は、このフランジ部42と上ケース20aの円筒軸部30により回転自在に軸支されている。
【0038】
ばね収容部41は、コイルばね36を収容すると共に、上ケース20aに垂設された円筒軸部30が係合する内周部41aを有している。また、ばね収容部41は、外観において段差部41bを有する段付きの円筒形状をなし、上下方向略中央から下方が細く形成されている。これにより、ばね収容部41の先端外周面が、スプール22bの中空部34aの内周面に接触することを確実に防止し、フランジ部42によるスプール22bの制動に影響を与えないようになっている(制動トルクの安定性の確保)。
【0039】
コイルばね36は、この円筒軸部30の下端面を受けとして、ばね収容部41の底壁41cを下方に付勢するように配設されている。すなわち、コイルばね36は、ばね収容部41を介してフランジ部42を、スプール22bの上端面に押し付けている(図4(b)参照)。この場合、上述のようにフランジ部42は、その下面の摺動部42aでスプール22bに線接触しており、また、ばね収容部41に収容されたコイルばね36は、スプール22bと同軸上に配設されているため、回転するスプール22bに対し、フランジ部42が均一な力で押し付けられ、その摺動が安定なものとなる。これにより、スプール22bに対して安定した負荷を与えることができ、スプール22bの回転を許容したうえで、インクリボン22aに安定したバックテンションを付加することができる。なお、コイルばね36は、ばね収容部41に収容した自由状態でばね収容部41の上端から突出しない寸法に形成されている(図4(a)参照)。
【0040】
回転規制手段37は、ばね収容部41に挿入されるように上ケース20aに凸設された係合部43と、ばね収容部41の内周部41aの側面に凸設され、スプール22bの回転方向において係合部43が係合する4つの係合受け部44と、を備えている。
【0041】
係合部43は、円筒軸部30の基端部において、動径方向外側に突出して形成されている。詳細には、係合部43は、上ケース20aの下面と円筒軸部30とに対し、一体に形成されたブロック状の突起である。なお、係合部43は、上ケース20aの下面からあまり突出させないで、変形し難い形状とすることが好ましい。この場合、ばね収容部41の上部開口近傍に係合受け部44を設け、突出量の少ない係合部43が係合するようにする。
【0042】
一方、4つの係合受け部44は、内周部41aの周方向に等間隔(90°間隔)に内向きに凸設され、且つ、それぞればね収容部41の上端から段差部41bまで上下方向に延設している。また、4つの係合受け部44は、ばね収容部41内におけるコイルばね36の位置決めのための部材を兼ねている。これにより、コイルばね36を摺接部材35内に精度良くセットすることができ(傾いてセットされることがない。)、テープカートリッジ2の組み立てを円滑に行うことができる。
【0043】
この係合部43と、いずれか1の係合受け部44とは、摺接部材35の回転を阻止するように、スプール22bの回転方向に係合している。すなわち、係合部43と各係合受け部44とにより、摺接部材35がスプール22bと連れ回りするのを防止している。これにより、摺接部材35が回転して、コイルばね36とばね収容部41とが擦れ合うのを防止している。
【0044】
また、係合受け部44は、摺接部材35の回転中心から離れた内周部41aに凸設されているため、係合部43およびこれに係合する係合受け部44に対し作用するねじりモーメント(回転軸まわりの力のモーメント)に係る力を小さくすることができる。これにより、係合部43と係合受け部44との係合状態を確実に維持することができ、摺接部材35がスプール22bと共に回転してしまうことを防止することができる。すなわち、摺接部材35は、スプール22bに対する摺接状態が適切に維持され、繰り出されたインクリボン22aに安定したバックテンションを付加することができる。
【0045】
本実施形態のテープカートリッジ2の組み立ては、組立装置5により自動化されている。以下、図3、図4および図6を参照して、組立装置5および組立装置5を用いたテープカートリッジ2の組み立て手順について簡単に説明する。図6は、パーツフィーダー52により搬送される摺接部材35を示す平面図である。
【0046】
図3および図4に示すように、組立装置5は、テープカートリッジ2がパレット51上に位置決めされた状態でセットされるテーブル(図示省略)と、摺接部材35等を搬送するパーツフィーダー52と、摺接部材35等をパーツフィーダー52からテープカートリッジ2に移載するピックアップ機構53と、を備えている。パレット51は、圧板状に形成され、その上面に下ケース20bおよびスプール22bを位置決めして固定する位置決め突起54と、位置決め突起54の先端部に切り込まれたスリット部55と、を備えている。
【0047】
位置決め突起54は、パレット51に立設されており、下ケース20bの軸孔31およびスプール22bの中空部34aに下方から嵌合する。これにより、下ケース20bは、パレット51上の所定の位置に位置決めされ、スプール22bは、下ケース20b内において起立状態で支持される。
【0048】
スリット部55には、スプール22bの中空部34aに摺接部材35を組み込んだ際に、摺接部材35の底壁41cの下面から延在して一体に形成された規制片45が係合するようになっている(図4(b)参照)。規制片45は、板状に形成されており、スリット部55に係合することにより、スプール22b内において、摺接部材35を回転不能に支持する。
【0049】
図6に示すように、スプール22b(正確には、リボン体22)、摺接部材35およびコイルばね36は、パーツフィーダー52により、組立装置5にセットされた下ケース20bの近傍に搬送される。その後、スプール22b、摺接部材35およびコイルばね36は、それぞれピックアップ機構53により拾い上げられ、スプール22b、摺接部材35、コイルばね36の順に下ケース20bの所定の位置に組み込まれる(図3および図4(a)参照)。最後に、上側から上ケース20aを締結することでテープカートリッジ2が組み立てられる(図4(b)参照)。なお、説明は省略するが、下ケース20bに上ケース20aを締結する前に、テープ体21、巻取りコア23およびプラテンローラー24等のテープカートリッジ2を構成する各部品は組み込まれている。また、印刷テープ21aおよびインクリボン22aは、所定の経路に繰り出されており、繰り出されたインクリボン22aの先端は、巻取りコア23に接続されている。
【0050】
ここで、パーツフィーダー52に導入された摺接部材35は、自動的に規制片45の向きを一定の方向に並べられ、ピックアップ位置に搬送される。上述したように規制片45は、板状に形成されているため、軸方向に摺接部材35が一定の方向(0°とする。)から180°回転した状態であっても搬送することができる。すなわち、摺接部材35の向きが、0°であるか、そこから180°回転した状態であるかまでは、パーツフィーダー52によって規制する。この場合、ばね収容部41内における係合受け部44の形成数や形成位置によっては、係合受け部44と係合部43とが干渉して、上ケース20aを締結することができない虞もある。
【0051】
しかし、本実施形態に係る摺接部材35では、4つの係合受け部44を周方向に等間隔に設けることにより、パーツフィーダー52により搬送可能な向きであれば(0°または180°)、ばね収容部41内における係合受け部44の形成位置は変わらないため、上ケース20aの係合部43が干渉しない位置に係合受け部44を設けることができる。すなわち、摺接部材35は、スリット部55に係合した摺接部材35の係合受け部44に対し、上ケース20aの係合部43が回転方向に位置ずれした状態で位置決めされる。詳細には、摺接部材35における各係合受け部44および規制片45は、係合受け部44と係合部43とが45°だけ位置ずれした状態となるように配設されている(図2の二点鎖線参照)。
【0052】
これにより、スプール22bに装着した摺接部材35に、上ケース20aと共に円筒軸部30を組み込むときに、1の係合受け部44と係合部43とが、干渉することがなく、組み立て作業を容易に行うことができる。また、巻取りコア23を駆動させると摺接部材35は、スプール22bの回転に連れ回りするが、係合受け部44が4箇所にあるため、90°未満の連れ回りで、1の係合受け部44が係合部43に係合し、制動手段3の制動力が作用する。これにより、テープカートリッジ2の組み立てが終了した後、巻取りコア23を駆動させ巻取り検査(トルク検査)を行う際にも、無駄なインクリボン22aの巻き取りを防止することができ、ひいては検査時間の短縮にもつながる。
【0053】
なお、摺接部材35の連れ回りを防止するためには、係合受け部44が少なくとも1つ設けられていればよく、また、コイルばね36の位置決めを兼ねるためには、係合受け部44が3箇所以上設けられていればよい。
【0054】
以上の構成によれば、摺接部材35が、スプール22bと連れ回りすることを防止し、摺接部材35のスプール22bに対する摺接状態を適切に維持し、繰り出されたインクリボン22aに安定したバックテンションを与えた状態で繰り出すことができる。なお、本実施形態に係る制動手段3が、テープ状の部材を必要とする各種の電子機器の各種テープカートリッジ2(リボンカートリッジを含む。)に適用できることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
2:テープカートリッジ、3:制動手段、5:組立装置、20:カートリッジケース、20a:上ケース、20b:下ケース、22a:インクリボン、22b:スプール、30:円筒軸部、35:摺接部材、36:コイルばね、37:回転規制手段、42:フランジ部、42a:摺動部、43:係合部、44:係合受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成され、その外周面にテープ状部材が巻回されるスプールと、前記スプールを回転自在に収容するケースと、前記スプールから繰り出された前記テープ状部材にバックテンションを付与する制動手段と、を有するテープリール装置であって、
前記制動手段は、回転する前記スプールの端面に摺接する有底筒状に形成された摺接部材と、前記摺接部材の内部に配設され、前記ケースを受けとして前記摺接部材を前記スプールの軸方向に付勢する付勢部材と、前記摺接部材の回転を規制する回転規制手段と、を有し、
前記回転規制手段は、
前記摺接部材に挿入されるように前記ケースに凸設された係合部と、
前記摺接部材の内周面に凸設され、前記スプールの回転方向において前記係合部が係合する係合受け部と、を備えていることを特徴とするテープリール装置。
【請求項2】
前記摺接部材は、回転する前記スプールの端面に摺接する摺動部を有し、
前記摺動部は、断面半円形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテープリール装置。
【請求項3】
前記摺接部材の内周面には、周方向に前記係合受け部の複数個が均等に凸設されていることを特徴とする請求項1または2に記載のテープリール装置。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記摺接部材に投入されたコイルばねを有し、
前記摺接部材の内周面には、3個以上の前記係合受け部が凸設され、
前記3個以上の前記係合受け部は、前記摺接部材内における前記コイルばねの位置決め部材を兼ねていることを特徴とする請求項3に記載のテープリール装置。
【請求項5】
前記ケースには、前記摺接部材に投入されたコイルばねの受けとなるように、前記摺接部材に向かって突出した円筒形の付勢受け部が形成され、
前記係合部は、前記付勢受け部の基端部において、動径方向外側に突出して形成されていることを特徴とする請求項4に記載のテープリール装置。
【請求項6】
前記コイルばねは、収容した自由状態で前記摺接部材内に収まっていることを特徴とする請求項5に記載のテープリール装置。
【請求項7】
前記ケースは、前記係合部が凸設された上ケースと、前記スプールがセットされる下ケースとから成り、
組立手段により、前記スプールに前記摺接部材および前記付勢部材を組み込んだ前記下ケースに、上側から前記上ケースを締結して組み立てられ、
前記摺接部材は、下端面から延在し、前記組立手段に係合して、前記上ケースの前記係合部が前記摺接部材の前記係合受け部に対し回転方向に位置ずれするように、自身の回転位置を規制する規制片を有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のテープリール装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のテープリール装置を備えたことを特徴とするテープカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101488(P2012−101488A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253102(P2010−253102)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】