説明

テープ状記録媒体およびその製造方法

【課題】 走行安定性に優れると共に、ドロップアウトの発生頻度が少ないテープ状記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】 支持体2と、支持体2の一方の面に積層されたデータ記録層3と、支持体2の他方の面に積層された微小突起4aを有するバックコート層4と、を備える原反1を巻取シャフトSH2に巻き付ける原反ロール形成工程(原反巻付工程)S2と、原反ロール形成工程S2において巻取シャフトSH2に巻き付けた原反1をハブ32,32に巻き直してパンケーキPCを形成するパンケーキ形成工程(原反巻直し工程)S5と、巻き直した原反1を加熱して、原反ロール形成工程S2でデータ記録層3に形成された深さ30nm以上の凹み3aの数を80個/mm2以下に減らす熱処理工程S6と、を含んで、テープ状記録媒体の製造方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気テープの製造方法としては、磁気テープ用支持体原反ロールから送り出された磁気テープ用支持体の一方の面に、磁性体、結合剤及び溶剤を含む磁性層形成用塗布液を塗布、配向、乾燥させ、巻き取ることにより磁気テープ原反ロールを製造し、この磁気テープ原反ロールの周面を一側縁部から他側縁部までテープ幅毎に裁断して、この裁断された原反からテープワインダーを用いてテープカセット毎に磁気テープを巻き取る方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このとき、磁性層形成用塗布液などを塗布された磁気テープ用支持体は、カレンダ装置によって鏡面化処理を施されたのちに巻き取られる。また、巻き取られた磁気テープ原反ロールは、例えば雰囲気温度70℃程度、低湿度状態に調整された空間内に所定時間(例えば36時間程度)保存され、塗膜の熱硬化などによるベースの歪みが緩和される。
【0004】
また、磁気テープ用支持体の他方の面には、例えば平均粒子サイズが150〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを含有したバックコート層が形成されている。そして、かかる粗粒子状カーボンブラックにより、バックコート層の表面に微小突起を形成し、接触面積を減少させて、摩擦係数の低減化及び走行安定性の向上を図っている。
【特許文献1】特開2002−123934号公報(段落0022〜0024)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、バックコート層の表面に微小突起が形成されていると、磁気テープ用支持体を巻き取って磁気テープ原反ロールを製造した段階で、当該微小突起が磁性層表面に当接する。そして、その状態で磁気テープ原反ロールを長時間放置したり、加熱したりすると、磁性層表面に微小な凹みが形成されてしまうという問題があった。
前記のような磁気テープに代表されるテープ状記録媒体のデータ記録層の表面に凹みがあると、データ読み取り/書き込み時におけるドロップアウト(信号欠落)の発生頻度が増大し、テープ状記録媒体の品質が低下してしまう。また、トラック幅が狭くなるにつれてかかる凹みの影響が大きくなることから、テープ状記録媒体の記録容量(記録密度)を増大させる上で大きな障害となっていた。
【0006】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、走行安定性に優れると共に、ドロップアウトの発生頻度が少ないテープ状記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、記録容量を増大させてもドロップアウトの発生頻度が増大することがないテープ状記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、支持体と、前記支持体の一方の面に積層されたデータ記録層と、前記支持体の他方の面に積層された微小突起を有するバックコート層と、を備える原反を巻心に巻き付ける原反巻付工程と、前記原反巻付工程において前記巻心に巻き付けた前記原反を他の巻心に巻き直す原反巻直し工程と、巻き直した前記原反を加熱して、前記原反巻付工程で前記データ記録層に形成された深さ30nm以上の凹みの数を80個/mm2以下に減らす熱処理工程と、を含むことを特徴とするテープ状記録媒体の製造方法である。
【0008】
かかる方法によれば、巻き直した原反を加熱することにより、データ記録層を膨張させて、原反巻付工程でデータ記録層に形成された深さ30nm以上の凹みを回復させることができる。このとき、巻き付け時の張力や巻き付け回数を調節して、熱処理後における深さ30nm以上の凹みの数を80個/mm2以下にすると、ドロップアウトの回数を少なくすることができる。
【0009】
ここで、データ記録層は、磁界の変化を信号として記録する磁性層でもよいし、レーザー光の照射によって結晶性の変化(相変化)を起こす金属材料や有機色素記録材料を含んでなる光記録層でもよい。
また、原反の幅は、裁断することにより複数のテープ状記録媒体を形成できる幅(例えば1m程度)であってもよいし、1本のテープ状記録媒体に相当する幅(例えば1/2インチ)であってもよい。
【0010】
また、巻心としては、原反を巻き取ることができるものなら特に限定されるものではないが、例えば、長尺な棒状のシャフトや短尺な円柱状のハブ等を用いることができる。ハブを用いる場合は、テープ巻取面にテーパの付いたハブ(以下、「テーパ付ハブ」という場合がある。)でもよいし、テーパを備えていないハブでもよい。テーパ付ハブを用いた場合には、凹みの回復と同時にテープ状記録媒体に湾曲を付与することができる。テープ状記録媒体を長手方向に沿って幅方向に湾曲させると、テープ状記録媒体を巻き取った時の巻き姿が良好になり、エッジダメージが軽減され、かつ、テープの走行が安定し、サーボトラッキング性能が向上する。
【0011】
請求項2に記載された発明は、前記原反巻直し工程において、前記他の巻心の直径D1と該他の巻心に前記原反を巻き直して形成したパンケーキの直径D2の比(D1/D2)が、下式(1)の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のテープ状記録媒体の製造方法である。
0.5≦D1/D2<1.0 ・・・ 式(1)
【0012】
発明者らの研究によれば、他の巻心の直径D1と該他の巻心に原反を巻き直して形成したパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を上記式(1)の範囲に制限すると、データ記録層の表面に形成された凹みが回復し易いことが判明した。
すなわち、他の巻心の直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を上記式(1)の範囲に制限すると、他の巻心の直径に対する原反の巻き付け回数が制限されることとなる。他の巻心に巻きつけられた原反のデータ記録層とこの上に巻きつけられた原反のバックコート層との押圧力(面圧)は、巻き付け回数が多いほど大きくなることから、巻き付け回数が上記の範囲に制限されることによって、データ記録層とバックコート層との押圧力(面圧)が制限されることとなる。そのため、その後の熱処理によって凹みが回復可能となる。また、押圧力が制限されることから、データ記録層の表面に微小突起がさらに食い込むことがない。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記原反巻直し工程において、前記他の巻心に前記原反を巻き直すときの単位テープ幅当りの張力Tが下式(2)の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテープ状記録媒体の製造方法である。
7.7×10-2N/mm≦T≦1.55×10-1N/mm ・・・ 式(2)
【0014】
かかる方法によれば、他の巻心に原反を巻き直すときの単位テープ幅当りの張力Tを上記式(2)の範囲に制限したことから、データ記録層とバックコート層との押圧力を凹みの回復にとって好適な範囲に制限することができる。そのため、データ記録層表面の凹みを効果的に回復させることができる。なお、巻き付け時の張力が1.55×10-1N/mm(15.8gf/mm)を超えると、微小突起がデータ記録層に新たに食い込んでしまうことがあり、7.7×10-2N/mm(7.9gf/mm)より小さいと、原反を他の巻心に効率よく巻き直すことができない場合がある。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記原反巻直し工程の前に、所望するテープ状記録媒体の幅に合わせて前記原反を裁断する原反裁断工程を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のテープ状記録媒体の製造方法である。
【0016】
かかる方法によれば、幅の広い原反(例えば1m程度)を用いた場合でも、これをテープ状記録媒体の幅(例えば12.65mm)に裁断した後に当該原反を巻き付けることから、原反熱処理工程における原反の幅を狭くすることができる。そのため、加熱の効果が原反の幅方向の中央部まで早期にムラなく届くこととなり、データ記録層表面の凹みを効果的に回復させることができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4に記載のテープ状記録媒体の製造方法により製造したテープ状記録媒体である。
【0018】
かかるテープ状記録媒体によれば、テープ状記録媒体の再生時におけるドロップアウトの回数を低減することができる。
【0019】
なお、前記方法によって製造されたテープ状記録媒体が磁気記録媒体である場合には、当該磁気記録媒体は、再生ヘッドのトラック幅が8μm以下のシステムで利用されるのが好ましい。データ記録層の凹みは、トラック幅が狭いほど影響が大きいことから、かかるシステムで利用する磁気記録媒体に本発明を適用すれば、ドロップアウトの発生を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、走行安定性に優れると共に、ドロップアウトの発生頻度が少ないテープ状記録媒体およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、記録容量を増大させてもドロップアウトの発生頻度が増大することがないテープ状記録媒体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。ここでは、テープ状記録媒体の一つである磁気テープの製造方法を例にとって説明する。
図1は、磁気テープの製造設備を模式的に示した説明図であり、(a)は原反製造工程から歪緩和工程まで、(b)は原反裁断工程から原反熱処理工程までに対応した装置をそれぞれ示している。図2は、原反および磁気テープの構成を示した拡大断面図であり、(a)は歪緩和工程を経た後の原反を、(b)は原反熱処理工程を経た後の磁気テープをそれぞれ示している。
【0022】
<磁気テープの製造設備>
始めに、本実施形態に係る磁気テープの製造方法を実現するための磁気テープの製造設備について説明する。
磁気テープの製造設備は、図1に示すように、原反1を製造する原反製造装置10と、原反1の歪を緩和する歪緩和装置20と、原反1を磁気テープMTの幅に裁断する原反裁断装置30と、裁断された原反1を加熱する加熱装置40とから構成されている。
【0023】
原反製造装置10は、図1(a)に示すように、支持体2を送り出す送出シャフトSH1と、支持体2に磁性層用塗料およびバックコート層用塗料とを塗布する塗布装置11と、塗布された塗料を乾燥させるドライヤ12と、乾燥された磁性層用塗料の表面を平滑に加工するカレンダ装置13と、磁性層3とバックコート層4(図2参照)とが形成された支持体2(すなわち原反1)を巻き取る巻心たる巻取シャフトSH2と、を備えている。また、塗布装置11の上流側およびカレンダ装置13の下流側には、それぞれ、原反1または支持体2を搬送するピンチローラPとキャプスタンローラCが設けられている。また、原反1および支持体2の走行経路上には、ガイドローラGが設けられており、走行経路が規制されている。
【0024】
送出シャフトSH1は、ロール状に巻回された支持体2からなる支持体ロールR1を取り付けるシャフトであり、駆動装置(図示省略)によって回転することにより支持体2を走行系路上に送り出すものである。送り出された支持体2は、ピンチローラP及びキャプスタンローラCによって塗布装置11に搬送されるようになっている。
【0025】
ここで、支持体2は、磁気テープMTのベースとなるフィルム状の部材であり、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類(例、ポリプロピレン)、セルロース誘導体類、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミドなどの合成樹脂フィルムを用いるのが好ましい。
【0026】
塗布装置11は、支持体2の表面に磁性層用塗料を塗布するとともに、支持体2の裏面にバックコート層用塗料を塗布する装置である。塗布装置11としては、公知の装置の中から適宜選択して用いることができる。例えば、図示は省略するが、塗料を吐出する透孔を備えた2つの部材を、支持体2の表面および裏面に接触するようにそれぞれ配置し、透孔から塗料を吐出させた2つの部材に支持体2の表面および裏面をそれぞれ接触させながら走行させることにより、支持体2に塗料を塗布するようにしてもよい。
【0027】
ここで、磁性層用塗料は、主に強磁性粉末と結合剤と有機溶剤とを含んで構成されている。また、バックコート層用塗料は、主に微小突起4a(図2参照)を形成するためのカーボンブラックと結合剤とを含んで構成されている。カーボンブラックの粒径は150〜300nm程度であるのが好ましい。また、前記と同様の方法により、支持体2と磁性層3との間に下塗層や非磁性層を形成してもよい。なお、磁性層用塗料には、分散剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、安定剤、防錆剤が加えられる。
【0028】
強磁性粉末としては、例えば、y−Fe23、Fe34、コバルト被着y−Fe23等の強磁性酸化鉄系粒子、強磁性二酸化クロム系粒子、Fe、Co、Ni等の金属やこれらを含んだ合金からなる強磁性金属系粒子、六角板状の六方晶フェライト微粒子等を用いることができる。
【0029】
また、結合剤としては、ウレタン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル等の重合体、あるいはこれらの2種以上を組み合わせた共重合体や、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0030】
また、有機溶剤としては、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素等を用いることができる。
【0031】
ドライヤ12は、支持体2に塗布された磁性層用塗料およびバックコート層用塗料を乾燥・硬化させる装置である。ドライヤ12は、例えば、ドライヤ12の内部を通過する支持体2に熱を加えて、支持体2に塗布された塗料を乾燥させるようになっている。当該塗料が乾燥・硬化することにより、支持体2の表面および裏面に磁性層3およびバックコート層4が形成される。
【0032】
カレンダ装置13は、磁性層3の表面を平滑化する装置である。カレンダ装置13は、2つのローラを備えており、磁性層3およびバックコート層4が形成された支持体2をローラの間に挟みこんで加圧するようになっている。なお、磁性層3およびバックコート層4の表面粗さは、用いるローラの材質、表面性、圧力等により調節することができる。これにより、磁性層3の表面が平滑になり、原反1となる。
【0033】
巻心たる巻取シャフトSH2は、製造された原反1を巻き取るものである。巻取シャフトSH2は、駆動手段(図示省略)によって回転することにより搬送されてきた原反1を巻き取るようになっている。巻き取られた原反1は原反ロールR2となる。駆動手段は、トルク調節手段(図示省略)によって回転トルクを調節可能に構成されており、原反1を巻き取る張力を調節できるようになっている。駆動手段としては例えば電圧制御式交流モータなどを用いることができる。また、トルク調節手段としては例えばOPアンプなどの電圧制御装置を用いることができる。
【0034】
かかる原反製造装置10によって原反1が製造され、巻取シャフトSH2に巻き取られることによって、バックコート層4の表面に形成された微小突起4a(図2(a)参照)が、対向する磁性層3の表面に押し付けられることとなる。
【0035】
歪緩和装置20は、原反1に蓄積した歪を緩和する装置である。歪緩和装置20は、原反ロールR2を格納する格納部21と、格納部21の内部空間を加熱するヒータ22とを備えている。例えば支持体2に塗布した塗料を乾燥・硬化させたり、また、支持体2自体が熱せられたりすると、原反1に歪が蓄積される。歪緩和装置20は、原反1を加熱することで応力緩和を図り、歪を取り除くものである。
【0036】
図2(a)は、歪緩和装置20から取り出された後の原反1を示した図である。
原反1のバックコート層4は、所定粒径のカーボンブラックを含んでいることから、当該カーボンブラックによって微小突起4aが形成されている。かかる微小突起4aによって、磁性層3とバックコート層4との摩擦が軽減され、磁気テープMTの走行安定性が向上する。
【0037】
一方、原反1は、ロール状に巻回されていることから、内側(シャフト側)に巻かれた原反1の磁性層3の表面に、その上に巻かれた原反1のバックコート層4の微小突起4aが当接することとなる。そして、原反1は、蓄積した歪を除去するために原反ロールR2の状態で歪緩和装置20によって温められるため、変形しやすくなる。そのため、図2(a)に示すように、微小突起4aに対応する凹み3aが磁性層3の表面に形成されることとなる。
図1に戻って説明を続ける。
【0038】
原反裁断装置30は、図1(b)に示すように、原反ロールR2が取り付けられる送出シャフトSH3と、原反1を裁断するカッター31と、裁断された原反1を巻き取る他の巻心たるハブ32,32と、を備えて構成されている。また、カッター31およびハブ32、32の上流側にはそれぞれピンチローラPおよびキャプスタンローラCが配置されている。また、カッター31の下流側には、裁断した原反1を別々のハブ32に導くためのガイドローラGが設置されている。
【0039】
送出シャフトSH3は、歪が緩和された原反ロールR2を取り付けるシャフトであり、駆動手段(図示省略)によって回転することにより原反1を走行系路上に送り出すものである。送り出された原反1は、ピンチローラP及びキャプスタンローラCによってカッター31に搬送されるようになっている。
【0040】
カッター31は、原反1を磁気テープMTの幅に裁断するものであり、本実施形態では丸刃カッターで構成されている。裁断された原反1は、ガイドローラG,Gによって、別々のハブ32,32に導かれる。
【0041】
他の巻心たるハブ32は、磁気テープMTと同じ幅に裁断された原反1を巻き取るものである。ハブ32は、駆動手段(図示省略)に連結されており、回転可能になっている。駆動手段は、トルク調節手段(図示省略)によって回転トルクを調節可能に構成されており、原反1を巻き取る張力を調節できるようになっている。駆動手段としては例えば電圧制御式交流モータなどを用いることができる。また、トルク調節手段としては例えばOPアンプなどの電圧制御装置を用いることができる。
【0042】
このとき、ハブ32に原反1を巻き付けるときの張力Tは、下式(2)の範囲内となるように調節するのが好ましい。
7.7×10-2N/mm≦T≦1.55×10-1N/mm ・・・ 式(2)
張力Tがこのような範囲内にあれば、磁性層3に形成された凹み3aを効果的に回復させることができる。なお、張力Tが1.55×10-1N/mm(15.8gf/mm)よりも大きくなると、微小突起4aが対向する磁性層3の表面に再度食い込んでしまい、新たな凹みが形成されてしまう。また、張力Tが7.7×10-2N/mm(7.9gf/mm)よりも小さくなると、原反1をパンケーキPCの形状に好適に保持することが難しくなる。
【0043】
図3は、パンケーキを示す正面図である。
原反1の巻き付け回数が多くなるほど、ハブ32の直径D1とパンケーキPCの直径D2との比率(D1/D2)は小さくなるが、発明者らの実験によれば、前記比率(D1/D2)が0.5を下回ると、磁性層3とバックコート層4との押圧力(面圧)が必要以上に大きくなり、磁性層3の凹み3aが回復しにくくなることが判明した。
したがって、ハブ32に対するパンケーキPCの大きさは、ハブ32の直径D1とパンケーキPCの直径D2との比率(D1/D2)が、下式(1)の範囲内となるように調節するのが好ましい。
0.5≦D1/D2<1.0 ・・・ 式(1)
【0044】
加熱装置40は、原反1を加熱(熱処理)することにより原反1の磁性層3に形成された凹み3aを回復させるものである。加熱装置40は、図1(b)に示すように、パンケーキPCを格納する格納部41と、格納部41内の空間を暖めるヒータ42と、格納部41内の空間に湿気を与える加湿器43と、を備えて構成されている。格納部41は、断熱性の高い材料を用いて、複数のパンケーキPCを格納できる大きさに形成するのがよい。
格納部41内の温度は、40〜60℃程度にするのが好ましく、50〜60℃程度にするのがさらに好ましい。また、湿度は、20〜80%程度にするのが好ましく、40〜60%程度にするのがさらに好ましい。また、格納する時間は、12〜72時間程度が好ましく、12〜48時間程度がさらに好ましい。原反1は、パンケーキPCの状態で、格納部41の内部に放置されることにより、凹み3aの回復が図られる。なお、凹み3aを回復させるためには、適度に湿気があるほうが好適であるため、本実施形態においては、加熱装置40に加湿器43を設けている。
【0045】
図2(b)は、加熱装置で加熱した後の磁気テープを示した拡大斜視図である。
原反1は、加熱されることによって応力緩和され、図2(b)に示すように、磁性層3の表面に形成された凹み3aが徐々に回復する。本実施形態においては、テープ走行時の摩擦係数が所定の範囲内になるように、バックコート層用塗料のカーボンブラックの含有量を設定するとともに、ハブ32の直径D1とパンケーキPCの直径D2との比率(D1/D2)が式(1)の範囲内になるようにし、さらに、ハブ32に原反1を巻き付けるときの張力Tが式(2)の範囲内となるように調節することで、深さ30nm以上の凹み3aの数が、熱処理後において80個/mm2以下となるようにした。
【0046】
つづいて、磁気テープの製造方法について説明する。
図4は、本実施形態に係る磁気テープの製造方法を示すフロー図である。
本実施形態に係る磁気テープMTの製造方法は、図4(適宜図1〜3参照)に示すように、支持体2に磁性層3とバックコート層4を形成する原反製造工程S1と、製造された原反1を巻き取って原反ロールR2を形成する原反ロール形成工程(原反巻付工程)S2と、製造過程で原反1に蓄積された歪を緩和する歪緩和工程S3と、原反1を磁気テープMTの幅にカットする原反裁断工程S4と、カットした原反1をハブ32に巻き付けてパンケーキPCを形成するパンケーキ形成工程(原反巻直し工程)S5と、パンケーキPCにした原反1を熱処理して磁性層3の凹み3aを回復させる原反熱処理工程S6と、から構成されている。これらの各工程は、図1に示す磁気テープの製造設備によって実現される。以下、磁気テープの製造方法について、図1から図4を参照しながら詳細に説明する。
【0047】
(原反製造工程S1)
はじめに、支持体ロールR1から送り出された支持体2は、図1(a)に示すように、ピンチローラPおよびキャプスタンローラCによって塗布装置11に搬送される。塗布装置11は、支持体2の表面に磁性層用塗料を塗布するとともに、支持体2の裏面にバックコート層用塗料を塗布する。磁性層用塗料およびバックコート層用塗料を塗布された支持体2は、ドライヤ12に搬送される。ドライヤ12は、磁性層用塗料およびバックコート層用塗料を乾燥させて硬化させる。これにより、支持体2の表面および裏面に、それぞれ磁性層3およびバックコート層4が形成される。磁性層3およびバックコート層4が形成された支持体2は、カレンダ装置13に搬送され、カレンダ装置13によって磁性層3の表面が平滑化される。これにより、原反1が製造される。
【0048】
このとき、バックコート層用塗料は、微小突起4aを形成するためのカーボンブラックの含有量が調節されたものを使用する。かかる塗料が硬化するとバックコート層4の表面に微小突起4aが形成されることとなる。
【0049】
(原反ロール形成工程(原反巻付工程)S2)
磁性層3の表面を平滑化された原反1は、巻取シャフトSH2によって所定の張力で巻き取られ、原反ロールR2となる。これにより、磁性層3の表面にバックコート層4の微小突起4aが押し付けられて食い込むこととなる。
【0050】
(歪緩和工程S3)
原反ロールR2は、歪緩和装置20の格納部21内に格納され、例えば温度70℃、低湿度状態にされた空間内に36時間程度放置される。これにより、原反1に蓄積していた歪が緩和される。一方、磁性層3の表面は、バックコート層4の微小突起4aに押圧された状態で温められることとなるため、微小突起4aと当接していた部分に凹み3aが形成されることとなる(図2(a)参照)。
【0051】
(原反裁断工程S4)
歪を緩和された原反ロールR2は、図1(b)に示すように、原反裁断装置30の送出シャフトSH3にセットされる。原反ロールR2から送り出された原反1は、ピンチローラPおよびキャプスタンローラCによってカッター31に搬送される。カッター31は、搬送されてきた原反1を磁気テープMTの幅に等しくなるように裁断する。
【0052】
(パンケーキ形成工程(原反巻直し工程)S5)
裁断された原反1は、図1(b)に示すように、ガイドローラGに沿って分岐されて、別々のハブ32,32に巻き付けられる。このとき、ハブ32の直径D1とパンケーキPCの直径D2との比率(D1/D2)が前記式(1)の範囲内になるように調節するとともに、ハブ32に原反1を巻き付けるときの単位テープ幅当りの張力Tが前記式(2)の範囲内となるように調節して、原反1をハブ32に巻き付けるようにする。これにより、バックコート層4が磁性層3を押圧する力が好適に調節され、凹み3aの回復が容易になる。
【0053】
(原反熱処理工程S6)
パンケーキPC,PCは、加熱装置40の格納部41に格納され、例えば温度60℃、湿度50%に調整された空間内に24時間程度放置される。原反1は、原反1をハブ32に巻き取るときの張力Tが前記式(1)の範囲に制限され、さらに、ハブ32の直径D1とパンケーキPCの直径D2との比率(D1/D2)が前記式(2)の範囲に制限されていることから、かかる熱処理によって、深さ30nm以上の凹み3a(図2(b)参照)の数が80個/mm2以内に回復する。
【0054】
このように、本実施形態に係る磁気テープの製造方法によれば、熱処理後における、深さ30nm以上の凹み3aの数が80個/mm2以内となるため、走行安定性に優れるとともに、ドロップアウトの発生頻度が少ない磁気テープMTを製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例の部は質量部を示す。
【0056】
[実施例1]
下記の下塗層用塗料成分のうち、第1剤をニ―ダで混練したのち、第2剤を加えて攪拌し、サンドミルで滞留時間を90分として分散処理を行い、これに第3剤を加え攪拌・濾過した後、下塗層用塗料とした。
【0057】
<下塗層用塗料成分>
(第1剤)
酸化鉄粉末(粒径:0.15×0.02μm):70部
アルミナ(α化率:50%、粒径:0.05μm):8部
カーボンブラック(粒径:15nm):25部
ステアリン酸/ステアリン酸ブチル(50/50):3.0部
塩化ビニル共重合体(含有−SO3Na基:1.2×10-4当量/g):10部
ポリエステルポリウレタン樹脂(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10-4当量/g):4.4部
シクロヘキサノン:30部
メチルエチルケトン:60部
(第2剤)
ステアリン酸ブチル:3部
オレイン酸オレイル:5部
シクロヘキサノン:40部
メチルエチルケトン:60部
トルエン:15部
(第3剤)
ポリイソシアネート:1.5部
シクロヘキサノン:8部
メチルエチルケトン:18部
トルエン:8部
【0058】
また、下記の磁性層用塗料成分の第1剤をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分として分散し、これに磁性層用塗料成分の第2剤を加え攪拌・濾過後、磁性層用塗料とした。
【0059】
<磁性層用塗料成分>
(第1剤)
強磁性鉄系金属粉(Co/Fe:30at%、Y/(Fe+Co):3at%、Al/(fe+Co):5wt%、Ca/Fe:0.002、σs:155A・m2/kg、Hc:188.2kA/m、pH:9.4、長軸長:0.10μm):100部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g):130部
ポリエステルポリウレタン樹脂(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g):5.5部
α−アルミナ(平均粒径:0.15μm):12部
α−アルミナ(平均粒径:0.05μm):4部
カーボンブラック(平均粒径:50nm、DBP吸油量:72cc/100g):4.0部
メチルアシッドホスフェート:2部
ステアリン酸:1.5部
オレイン酸オレイル:5部
シクロヘキサノン:70部
メチルエチルケトン:250部
(第2剤)
ポリイソシアネート:2.0部
メチルエチルケトン:167部
【0060】
さらに、下記のバックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間60分として分散した後、ポリイソシアネート18部を加えてバックコート層用塗料を調整した。
【0061】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(粒径:20nm):80部
カーボンブラック(粒径:290nm):10部
酸化鉄(長軸長:0.1μm、軸比:約10):10部
ニトロセルロース:45部
ポリウレタン樹脂(−SO3Na基含有):30部
シクロヘキサノン:260部
メチルエチルケトン:525部
テトラヒドロフラン:80部
【0062】
上記の下塗層用塗料を、ポリエチレンナフタレートフイルム(厚さ5.0μm、MD=6.5Gpa、MD/TD=1.3、帝人製)からなる支持体2の上に、乾燥、カレンダ後の厚さが1.5μmとなるように塗布し、この下塗層の上に、さらに上記の磁性層用塗料を、磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理後の厚さが0.12μmとなるようにドライ・オン・ウエットで塗布し、磁場配向処理後、ドライヤを用いて乾燥し、磁気テープの原反(以下、「磁気シート」という場合がある。)を得た。なお、磁場配向処理は、ドライヤ内における塗膜の指蝕乾燥位置の手前側50cmの位置からN−N対抗磁石(5kG)を50cm間隔で2基設置して行った。塗布速度は300m/分とした。
【0063】
また、上記のバックコート層用塗料を、磁性層の反対面に、乾燥・カレンダ処理後の厚みが0.4μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0064】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧2kN/cm(200kg/cm)の条件で鏡面化処理し、磁気シートをコアに巻いた状態(原反ロールR2の状態)で、温度60℃の空間内に48時間放置して歪緩和処理を行った。
その後、かかる磁気シートを12.65mm(1/2インチ)幅に裁断し、さらに温度50℃の空間内に24時間放置して熱処理したのち、7.7×10-2N/mm(7.9gf/mm)の張力Tでカセットに巻き込み磁気テープカートリッジを作製して実施例1とした。
【0065】
実施例1において、ハブの直径D1と該ハブに原反を巻き付けて形成したパンケーキの直径D2の比(D1/D2)は、「0.6」とした。
また、熱処理前における磁性層表面の深さ30nm以上の凹みの数を測定したところ、112個/mm2であった。凹みの数は、試料からの反射光と参照光との干渉で生ずる干渉縞から表面粗さを測定する光干渉計方式で測定した。測定条件を以下に示す。
【0066】
(1)三次元表面構造解析顕微鏡(ZYGO社製NewView5010)を用いて、対物レンズ20倍、ズーム倍率1.0倍とし、346μm×258μmの範囲を測定した。
(2)磁性層表面の偏差や自乗和が等しくなるいわゆる自乗平均表面から30nm以上離れた自乗平均表面と平行な面でスライスし、計測される凹みの個数を測定した。
(3)1つの試料に対して、視野を変えながら上記測定を3回ずつ行い、その平均値を凹みの個数とした。
【0067】
[実施例2]
熱処理前における磁性層の凹みの数が90個/mm2であることを除き、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製し、実施例2とした。なお、凹みの数は、原反製造装置10での巻取り強さで調整した。
【0068】
[実施例3]
実施例2と同じ条件で磁気テープカートリッジを作製し、実施例3とした。なお、実施例と同じ条件でも、熱処理後の凹みの数にはばらつきが出る。実施例2では熱処理後の凹みの数が56個/mm2であるのに対し、実施例3では熱処理後の凹みの数は78個/mm2となった。
【0069】
[実施例4]
ハブの直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を「0.8」とするとともに、熱処理前における磁性層の凹みの数を179個/mm2としたことを除き、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製し、実施例4とした。
【0070】
[実施例5]
原反をハブに巻きつける際の張力Tを1.55×10-1N/mm(15.8gf/mm)とするとともに、熱処理前における磁性層の凹みの数を34個/mm2としたことを除き、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製し、実施例5とした。
【0071】
[比較例1]
ハブの直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を0.4とし、原反をハブに巻き付ける張力Tを6.2×10-2N/mm(6.3gf/mm)とし、熱処理前の凹みの個数を112個/mm2とし、さらに、熱処理を行わずに、磁気テープカートリッジを作製し、比較例1とした。
【0072】
[比較例2]
熱処理前の凹みの個数を224個/mm2としたことを除き、実施例1と同様にして磁気テープカートリッジを作製し、比較例2とした。
【0073】
[比較例3]
原反をハブに巻き付ける張力Tを1.94×10-1N/mm(19.8gf/mm)とし、熱処理前の凹みの個数を134個/mm2としたことを除き、実施例1と同様にして磁気テープカートリッジを作製し、比較例3とした。
【0074】
[比較例4]
ハブの直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を0.4とし、熱処理前の凹みの個数を134個/mm2としたことを除き、実施例1と同様にして磁気テープカートリッジを作製し、比較例4とした。
【0075】
[比較例5]
ハブの直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を0.4とし、原反をハブに巻き付ける張力Tを7.7×10-2N/mm(7.9gf/mm)とし、凹みの個数を90個/mm2とし、その後、熱処理をせずに磁気テープカートリッジを作製し、比較例5とした。
【0076】
[比較例6]
ハブの直径D1とパンケーキの直径D2の比(D1/D2)を0.6とし、原反をハブに巻き付ける張力Tを6.2×10-2N/mm(6.3gf/mm)とし、凹みの個数を56個/mm2とし、その後、熱処理をせずに磁気テープカートリッジを作製し、比較例6とした。
【0077】
このようにして作製した実施例1〜4、比較例1〜6及び参考例1の磁気テープカートリッジを、テープ走行系にセットして、記録周波数6MHzの単一波を記録した。
【0078】
上記のように作製した各試験体について、5μm、8μm、14μmのトラック幅に対応した読み取り幅を持つ磁気抵抗効果型素子を搭載した読み取りヘッド(MRヘッド)を用いて、信号を読み取った。このとき、平均出力の50%以下の出力低下が0.2μ秒以上続いた場合をドロップアウトと判定し、各磁気テープカートリッジの全長についてドロップアウトの回数を測定した。その後、読み取りトラック長さ1m当りの回数に換算して比較することとした。
図5に、実施例と比較例の試験条件および測定結果を示す。
【0079】
図5に示すように、実施例1〜5によれば、熱処理後における深さ30nm以上の凹みの数が80個/mm2以下に回復しているのに対し、比較例1〜6では回復していないことが分かる。特に、比較例3によれば、張力Tを1.55×10-1N/mm(15.8gf/mm)以上(具体的には1.94×10-1N/mm)とすると、熱処理後の凹みの数が増加してしまうことが分かる。また、比較例4によれば、ハブとパンケーキの直径の比(D1/D2)を0.5以下(具体的には0.4)にすると、熱処理をしても凹みが回復しないことが分かる。
【0080】
また、実施例1〜5によれば、比較例1〜6に比較して、ドロップアウト回数が大幅に減少していることがわかる。また、かかる傾向は、トラック幅が5μm、8μmの場合に顕著であり、トラック幅が14μmの場合には両者とも性能にほとんど差がない。このことから、本実施形態に係る磁気テープの製造方法は、トラック密度が高い場合に特に効果的であることがわかる。
【0081】
また、実施例4は、熱処理後の凹み密度が78個/mm2で、トラック幅5μmにおけるドロップアウト回数が4.5回/mであるのに対し、比較例5は、凹み密度が90個/mm2で、トラック幅5μmにおけるドロップアウト回数が10回/mと、実施例3の2倍以上となっている。このことから、凹み密度を80個/mm2以下にするとドロップアウトの回数を効果的に低減できることが分かる。また、実施例2と比較例6は、凹みの数がともに56個/mm2であるのに、実施例2よりも比較例6の方が、トラック幅5μm,10μmにおけるドロップアウト回数が2〜3.5倍程度多くなっている。このことから、ドロップアウト回数の低減には熱処理が効果的であることがわかる。
【0082】
以上、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0083】
例えば、本実施形態においては、塗布方式によって磁性層3およびバックコート層4を形成したが、これに限られるものではなく、例えばスパッタ法や蒸着法によって各層を形成してもよい。
【0084】
また、ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、あるいはエクストルージョン塗布装置などを用いて、支持体2の上にまず非磁性層を形成し、該非磁性層が湿潤状態にあるうちに、支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により、磁性層3を形成する方法(特開昭60−238179号、特公平1−46186号、特開平2−265672号公報参照)。
(2)塗布液用スリットを二つ備えた単一の塗布ヘッドからなる塗布装置を用いて支持体2の上に磁性層3と非磁性層(図示せず)をほぼ同時に形成する方法(特開昭63−88080号、特開平2−17921号、特開平2−265672号各公報参照)。
(3)バックアップローラ付きエクストルージョン塗布装置を用いて、支持体2の上に磁性層3と非磁性層(図示せず)をほぼ同時に形成する方法(特開平2−174965号公報参照)。
【0085】
また、本実施形態においては、磁気テープを例にとって説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、光記録テープなどのテープ状記録媒体に対しても適用可能である。
【0086】
また、本実施形態においては、歪緩和工程S3を設け、歪緩和装置20を用いて原反ロールR2の歪を緩和することとしたが、これに限られるものではなく、例えば原反1のひずみが小さい場合のように、歪緩和工程S3を設ける必要がないときには、かかる工程を省略してもよいことはいうまでもない。省略した場合でも、原反1をロール状にしたときに、微小突起4aが磁性層3の表面に押し付けられて凹み3aが形成されることとなり、かかる原反1に本発明を適用すれば、凹み3aを回復させることができる。
【0087】
また、本実施形態においては、凹み3aの回復効果を高めるべく、加熱装置40に加湿器43を設けて、格納部41の湿度を高めるように構成したが、本発明はこれに限られるものではなく、加湿器43を備えていなくてもよい。かかる場合でも、熱処理によって、凹み3aの回復を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】磁気テープの製造設備を模式的に示した説明図であり、(a)は原反製造工程から歪緩和工程まで、(b)は原反裁断工程から原反熱処理工程までに対応した装置をそれぞれ示している。
【図2】原反および磁気テープの構成を示した拡大断面図であり、(a)は歪緩和工程を経た後の原反を、(b)は原反熱処理工程を経た後の磁気テープをそれぞれ示している。
【図3】パンケーキを示す正面図である。
【図4】本実施形態に係る磁気テープの製造方法を示すフロー図である。
【図5】実施例と比較例の試験条件および測定結果を示した表である。
【符号の説明】
【0089】
1 原反
2 支持体
3 磁性層
3a 凹み
4 バックコート層
4a 微小突起
10 原反製造装置
11 塗布装置
12 ドライヤ
13 カレンダ装置
20 歪緩和装置
30 原反裁断装置
31 カッター
32 ハブ
40 加熱装置
MT 磁気テープ
PC パンケーキ
R2 原反ロール
S1 原反製造工程
S2 原反ロール形成工程(原反巻付工程)
S3 歪緩和工程
S4 原反裁断工程
S5 パンケーキ形成工程(原反巻直し工程)
S6 原反熱処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の一方の面に積層されたデータ記録層と、前記支持体の他方の面に積層された微小突起を有するバックコート層と、を備える原反を巻心に巻き付ける原反巻付工程と、
前記原反巻付工程において前記巻心に巻き付けた前記原反を他の巻心に巻き直す原反巻直し工程と、
巻き直した前記原反を加熱して、前記原反巻付工程で前記データ記録層に形成された深さ30nm以上の凹みの数を80個/mm2以下に減らす熱処理工程と、を含むことを特徴とするテープ状記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記原反巻直し工程において、前記他の巻心の直径D1と該他の巻心に前記原反を巻き直して形成したパンケーキの直径D2の比(D1/D2)が、下式(1)の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のテープ状記録媒体の製造方法。
0.5≦D1/D2<1.0 ・・・ 式(1)
【請求項3】
前記原反巻直し工程において、前記他の巻心に前記原反を巻き直すときの単位テープ幅当りの張力Tが下式(2)の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテープ状記録媒体の製造方法。
7.7×10-2N/mm≦T≦1.55×10-1N/mm ・・・ 式(2)
【請求項4】
前記原反巻直し工程の前に、所望するテープ状記録媒体の幅に合わせて前記原反を裁断する原反裁断工程を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のテープ状記録媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載のテープ状記録媒体の製造方法により製造したテープ状記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−286148(P2006−286148A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108010(P2005−108010)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】