説明

ディジタル保護制御装置

【課題】一過性の故障に対する運転保守員の作業負担を軽減し、運転保守のしやすい保護制御装置を提供する。
【解決手段】故障警報が出力された場合に、運転保守員は遠方制御用の制御部70から、不良が発生した保護制御装置10に対して、再起動信号を出力する。この再起動信号により、保護制御装置10の主リレー40の動作条件が成立し、主リレー40が作動する。主リレー40の作動は補助リレー50により接点増幅され、補助リレー50のb接点50bが作動して、電源線P2,N2が開路される。電源線P2,N2に接続されている保護制御装置10の演算制御ユニット20に対する給電が断たれ、演算制御ユニット20がリセットされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロコンピュータ(以下CPUと略称する)を適用したディジタル保護制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統を保護するディジタル保護制御装置は、電力系統の電気量や状態量を入力してディジタル量に変換し、このディジタル量を用いて所定の保護制御演算を行い、この演算結果に応じて遮断器等の機器を制御することにより、電力系統の保護制御を行う。このディジタル保護制御装置には、一般に、リレー自身の健全性を確認するための自動監視機能が組み込まれている。
【0003】
自動監視機能は、CPUの自己診断機能を中心として構成されている。自己診断機能によりマイコン周辺素子の異常を検出した場合は、その表示・警報を出力するとともに、必要に応じて、次のような処理を行い、装置が好ましくない応動をしないように制御する。
(1) ハードウエア回路により、装置を不使用状態にする。
(2) ソフトウエアにより、装置が誤出力を出さないようにする。
(3) CPUを停止状態にする。
【0004】
ディジタル保護制御装置に何等かの障害が生じた場合の対応については、次のような先行技術が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気協同研究 第59巻 第1号(109頁〜115頁)
【非特許文献2】電気協同研究 第65巻2号(86頁)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−131673号公報
【特許文献2】特開2000−092818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保護リレー装置に障害が発生した場合、極端な場合は保護機能の喪失による系統崩壊など電力系統の安定運用に支障を及ぼす可能性がある。そのため、障害が発生した保護リレー装置を速やかにもとの運用状態に復旧させることが必要である。
【0008】
保護リレー装置の運用中の障害は、装置に具備している自動監視機能にて大多数を検出することが可能である。障害が検出された場合の具体的な対応としては、下記の(1) から(6) 等のプロセスを経て、装置の復旧操作が実施される。これらの復旧操作が終了した後に、系統の運用を再開する。
【0009】
(1) 障害の発生状況を把握する。
(2) 障害の発生に伴う応急処置を講じる。
(3) 障害情報を関係各所に連絡する。
(4) 該当電気所に出向いて障害内容を調査する。
(5) 障害を復旧させる。
(6) 障害が復旧した後には該当箇所の確認試験を行う。
【0010】
一般に、このようなプロセスの障害対応は、故障の内容が一過性のものか、或いは永久性のものかによらず実施される。そのため、一過性の故障にもかかわらず、復旧作業に多大な手間が要求されることになる。
【0011】
例えば、CPU及びその周辺回路において一過性の故障が発生した場合、CPU回路を構成する主な要素であるICにおいては、いわゆるホットキャリア現象などの要因により一時的に誤動作状態に陥る。しかし、現象が解消した後は、ICそのものには故障の痕跡を残すことなく、それ以降は正常動作状態に復帰する。そのため、このような一過性の故障に対して、永久性の故障と同じプロセスの障害対応を取ることは、不適当である。
【0012】
一過性の故障の過剰検出を避けるための処置としては、継続監視タイマや頻度監視タイマを自動監視回路における不良検出回路に組込みし、一定時間が経過した場合にだけ、外部に対して警報出力する処置を講じることが、一般的に行われている。しかし、例えば、一過性の故障の持続時間を判定するタイマに設定の不整合があると、一過性の故障をあたかも永久性故障とみなし、外部警報出力に至ることが想定される。
【0013】
一過性の故障が生じた場合に、その現象が解消した後は、故障箇所自体は健全状態に戻っていることが多い。その場合、該当装置を再起動させることで装置を健全運用状態に復旧させることが可能となる。しかし、従来技術では、故障警報が出力された場合には、障害内容が永久性か一過性かによらず、運転保守員は故障が発生した電気所に出向して、各種定められたルーチン操作を実施する。
【0014】
その際、不良内容が一過性の故障であれば、例えば、装置に導入している制御電源回路の活殺操作を実施することで、装置が健全状態に復旧する場合も多い。このようなケースでは、運転保守員が電気所に出向いて行う復旧作業自体が必ずしも必要不可欠な行為ではない。
【0015】
本発明の実施形態の目的は、一過性の故障に対する運転保守員の作業負担を軽減し、運転保守のしやすい保護制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態は、電力系統の電気量を入力しディジタル量に変換して所定の演算を行う演算制御ユニットを保有してなるディジタル保護制御装置において、ディジタル保護制御装置の設置箇所とは離れた場所に設けられた遠隔制御部からの再起動信号を検出する再起動信号検出部と、この再起動信号検出部が検出した再起動信号に基づいて、前記演算制御ユニットを再起動する手段を備えていることを特徴とする。
【0017】
この再起動する手段としては、前記再起動信号検出部からの再起動信号に基づいて、演算制御ユニットの電源入力を活殺する装置が使用できる。
【0018】
前記演算制御ユニットがその再起動を実行するための再起動制御部と、前記再起動信号検出部からの再起動信号を入力する入力回路を備え、前記演算制御ユニットを再起動する手段が、前記再起動信号検出部からの前記の入力回路が受信した再起動信号に基づいて、演算制御ユニットの再起動制御部を作動させるものであっても良い。
【0019】
前記演算制御ユニットが、前記再起動信号検出部と、再起動信号検出部からの再起動信号を入力する前記入力回路を一体化して成る再起動信号の受信部を備えていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態を示すブロック図。
【図2】第2実施形態を示すブロック図。
【図3】第3実施形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1.第1実施形態]
以下に、本発明の第1実施形態を、図1を用いて説明する。
【0022】
[1−1.構成]
図1において、10はディジタル保護制御装置、20はディジタル保護制御装置10に収納された演算制御ユニット、90はディジタル保護制御装置10に制御電源を供給するための外部電源回路である。30は外部電源回路90からの電源入力を活殺するための電源制御スイッチである。
【0023】
40は遠方からの指令によって保護制御装置10を再起動させる再起動信号検出部である。本実施形態において、この再起動信号検出部40は、遠隔操作によって動作条件が入力される主リレーによって構成される。50は主リレー40の接点増幅を行う補助リレー、50bは補助リレー50のb接点である。主リレー40は、運転保守員が通常勤務している制御所内に設備されている制御部70と接続されており、この制御部70からの遠隔操作によって出力された再起動信号、すなわち動作条件の入力によって作動する。
【0024】
この制御部からの再起動信号は、保護制御装置10を再起動させるためのものであるから、主リレー40に対する動作条件を出力した後、あらかじめ定めた一定時間後に主リレー40に対する動作条件を解除するものである。
【0025】
P0,P1,P2は制御電源入力のプラス電源線、N0,N1,N2は同じく制御電源入力のマイナス電源線である。本実施形態では、電源制御スイッチ30を介して導入した電源線P1,N1の後段に、再起動信号検出部40を接点増幅する補助リレー50の接点50bを配置し、その後段に位置する電源線P2,N2を演算制御ユニット20に接続する。
【0026】
[1−2.作用]
このように構成された本実施形態の作用は、次の通りである。
【0027】
故障警報が出力された場合に、運転保守員は遠方制御用の制御部70から、不良が発生した保護制御装置10に対して、再起動信号を出力する。この再起動信号により、保護制御装置10の主リレー40の動作条件が成立し、主リレー40が作動する。
【0028】
この主リレー40の作動は補助リレー50により接点増幅され、それにより、補助リレー50のb接点50bが作動して、電源線P2,N2が開路される。その結果、この電源線P2,N2に接続されている保護制御装置10の演算制御ユニット20に対する給電が断たれ、演算制御ユニット20がリセットされる。
【0029】
その後、あらかじめ定めた一定時間が経過すると、制御部70から主リレー40に対する動作条件が解除されるので、主リレー40は非動作状態となる。それに伴い、補助リレー50のb接点50bが閉路して、電源線P2,N2から演算制御ユニット20に対する給電が開始される。
【0030】
このようにして、保護制御装置10の演算制御ユニット20に対する外部電源回路90からの電源入力を、運転保守員が遠方の制御部からの操作により活殺し、演算制御ユニット20に内蔵しているCPU及びその周辺回路を再起動させる。
【0031】
[1−3.効果]
本実施形態によれば、演算制御ユニットに内蔵しているCPU及びその周辺回路が、一過性の故障要因により異常となっている場合においても、運転保守員は、不良が発生した電気所に出向いて該当装置の復旧に向けて各種復旧操作を実施することなく、装置を健全な状態に復旧させることが可能となる。
【0032】
また、本実施形態では、演算制御ユニット20ら外部に設けられた主リレー40によって電源線P2,N2の活殺を行うので、演算制御ユニット20自体に変更を加える必要がない。そのため、既存の保護制御装置10にもリレーを設置するだけで簡単に適用することができる。
【0033】
[2.第2実施形態]
第2実施形態を、図2に従って説明する。
【0034】
[2−1.構成]
本実施形態においては、演算制御ユニット20が、再起動信号検出部40からの再起動信号が入力される入力回路20aと、この入力回路20aからの指令を受けて、演算制御ユニット20のCPU及びその周辺回路の再起動を実施するための再起動制御部20bを有している。この再起動制御部20bが実行する再起動に関する制御は、CPUを内蔵したシステムにおいては標準的に備えているものであり、公知の手段を採用することができる。
【0035】
本実施形態において、再起動信号検出部40は、第1実施形態と同様な主リレーを使用することができる。また、主リレー以外に、遠隔制御部70からの動作条件を検出して、入力回路20に再起動信号を出力するものであれば、他の回路や部品を使用することができる。
【0036】
[2−2.作用]
本実施形態では、再起動信号検出部40が遠隔制御部70から再起動信号を受信すると、再起動信号検出部40はその再起動信号を演算制御ユニット20の入力回路20aに送信する。入力回路20aに入力された再起動信号は、再起動制御部20bに入力される。この再起動信号に基づいて、演算制御ユニット20はCPU及びその周辺回路を再起動させる。その結果、第1実施形態で説明した制御電源90を活殺したことにより生じるCPU及びその周辺回路の再起動と同様の処理が実行される。
【0037】
[2−3.効果]
本実施形態によれば、演算制御ユニットに内蔵しているCPU及びその周辺回路が、一過性の故障要因により異常となっている場合においても、運転保守員は、不良が発生した電気所に出向いて該当装置の復旧に向けて各種復旧操作を実施することなく、装置を健全な状態に復旧させることが可能となる。
【0038】
その上、本実施形態では、演算制御ユニット20に対する電源を活殺するのではなく、演算制御ユニット20のCPU及びその周辺回路を再起動させるだけある。その結果、演算制御ユニット20の他の部分に対する給電を確保しつつ、再起動が可能になる。
【0039】
[3.第3実施形態]
第3実施形態を、図3により説明する。
【0040】
[3−1.構成]
本実施形態においては、演算制御ユニット20に、外部の制御部からの遠隔制御信号を受信するための受信回路20cが設けられている。この受信回路20cは、前記第2実施形態で示した再起動信号検出部40と再起動信号の入力回路20aとを一体としたものである。この受信回路20cの入力側は、通信回路701を介して遠方の制御所などに設けられた遠隔制御部70に接続されている。受信回路20cの出力側は、第2実施形態と同様に演算制御ユニット20に設けられた再起動制御部20bに接続されている。
【0041】
[3−2.作用]
【0042】
本実施形態おいては、遠隔制御部70からの再起動信号を、通信回路701を経由して、演算制御ユニット20の受信回路20cが受信する。受信回路20cは、受信した再起動信号を再起動制御部20bに与える。その結果、演算制御ユニット20では、この再起動信号に基づいて、CPU及びその周辺回路の再起動が行われる。
【0043】
[3−3.効果]
本実施形態によれば、演算制御ユニット20に内蔵しているCPU及びその周辺回路が、一過性の故障要因により異常となっている場合においても、運転保守員は、不良が発生した電気所に出向いて該当装置の復旧に向けて各種復旧操作を実施することなく、装置を健全な状態に復旧させることが可能となる。
【0044】
更に、本実施形態では、演算制御ユニット20に、再起動信号検出部40と再起動信号の入力回路20aが一体となった受信回路20cを設けたことにより、演算制御ユニット外部に主リレーなどの再起動信号検出部を別途設ける必要がない。遠隔制御部70からの再起動信号を、通信回路701を経由して演算制御ユニット20に直接入力することができるので、保護制御装置10の構成を単純化できる。
【0045】
[4.他の実施形態]
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
10:保護制御装置
20:演算制御ユニット
20a:入力回路
20b:再起動制御部
20c:受信回路
30:電源制御スイッチ
40:再起動信号検出部(主リレー)
50:補助リレー
50b:b接点
70:遠隔制御部
701:通信回路
90:外部電源回路
P1:電源線
P2:電源線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の電気量を入力しディジタル量に変換して所定の演算を行う演算制御ユニットを保有してなるディジタル保護制御装置において、
ディジタル保護制御装置の設置箇所とは離れた場所に設けられた遠隔制御部からの再起動信号を検出する再起動信号検出部と、
この再起動信号検出部が検出した再起動信号に基づいて、前記演算制御ユニットを再起動する手段を備えていることを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項2】
前記演算制御ユニットを再起動する手段が、前記再起動信号検出部からの再起動信号に基づいて、演算制御ユニットの電源入力を活殺する装置であることを特徴とする請求項1に記載のディジタル保護制御装置。
【請求項3】
前記演算制御ユニットがその再起動を実行するための再起動制御部と、前記再起動信号検出部からの再起動信号を入力する入力回路を備え、
前記演算制御ユニットを再起動する手段が、前記再起動信号検出部からの前記の入力回路が受信した再起動信号に基づいて、演算制御ユニットの再起動制御部を作動させるものであることを特徴とする請求項1に記載のディジタル保護制御装置。
【請求項4】
前記演算制御ユニットが、前記再起動信号検出部と、再起動信号検出部からの再起動信号を入力する前記入力回路を一体化して成る再起動信号の受信部を備えていることを特徴とする請求項3に記載のディジタル保護制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90550(P2013−90550A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232026(P2011−232026)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】