説明

ディスクへサーボ・ライト・トラックを書き込む方法及びディスク・ドライブ

【課題】ヘッドのサーボ制御を行いながらそのヘッドによりディスクにサーボ・データを書き込むセルフ・サーボ・ライトにおいて、伝播書き込みの繰り返しによるトラック形状誤差の累積を小さくする。
【解決手段】本発明の一実施形態のセルフ・サーボ・ライトは、サーボ・システムに補正信号を与えることで、サーボ・ライト・トラック形状の累積誤差を減らす。SSWは、サーボ制御の補正信号として正弦波を使用する。SSWは、トラック形状誤差における上記正弦波の成分の位相を測定し、その測定結果に従って、トラック形状の累積誤差を小さくする補正正弦波信号の位相φを決定する。これにより、シンプルな構成によってトラック形状誤差の累積を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転するディスクにサーボ・ライト・トラックを書き込む方法及びディスク・ドライブに関し、特に、サーボ・ライト・トラックの書き込みにおけるサーボ制御の補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク・ドライブとして、光ディスクや光磁気ディスク、あるいはフレキシブル磁気ディスクなどの様々な態様のディスクを使用する装置が知られている。その中で、ハードディスク・ドライブ(HDD)は、コンピュータの記憶装置として広く普及し、さらに、動画像記録再生装置やカーナビゲーション・システムなど多くの装置で利用されている。
【0003】
HDDで使用される磁気ディスクは、複数のデータ・トラックと複数のサーボ・トラックとを有している。各サーボ・トラックはアドレス情報を有する複数のサーボ・セクタから構成される。また、各データ・トラックには、ユーザ・データを含む複数のデータ・セクタから構成されている。円周方向に離間するサーボ・セクタの間に、データ・セクタが記録されている。
【0004】
HDDは揺動するアクチュエータを有し、そのアクチュエータにヘッド・スライダが支持されている。HDDは、ヘッド・スライダによってサーボ・セクタのアドレス情報を読み出し、そのアドレス情報に従ってアクチュエータを制御する(サーボ制御)。これにより、HDDは、ヘッド・スライダを所望の半径位置(ターゲット・データ・トラック)に移動し(シーク)、さらに、その位置に位置決めする(フォロイング)することができる。ターゲット・データ・トラックに位置決めされたヘッド・スライダは、そのトラック内のターゲット・データ・セクタへのデータ書き込みあるいはデータ読み出しを行う。
【0005】
データ読み出し処理において、ヘッド・スライダが磁気ディスクから読み出した信号は、信号処理回路によって波形整形や復号処理などの所定の信号処理が施され、ホストに転送される。ホストからの転送データは、信号処理回路によって同様に所定処理された後に、磁気ディスクにヘッド・スライダにより書き込まれる。
【0006】
上述のように、ヘッド・スライダの位置決め制御は、磁気ディスク上のサーボ・データにより行われる。サーボ・セクタは、シリンダID、セクタ番号、バースト・パターンなどから構成されている。シリンダIDはトラックのアドレス、セクタ番号はトラック内のセクタ・アドレスを示す。バースト・パターンはトラックに対する磁気ヘッドの相対位置情報を有している。サーボ・トラックは、円周方向に離間した複数のサーボ・セクタで構成されており、全サーボ・トラックに渡る各セクタは、円周方向において位置(位相)が揃っている。
【0007】
サーボ・データは、製品としてのHDDが出荷される前に工場内において磁気ディスクに書き込まれる。現在、サーボ・データの書き込み工程は、HDDの製造コストの中で主要な位置を占めている。セルフ・サーボ・ライト(SSW)は、サーボ・ライトのための機械機構として、HDD本体の機械機構のみを使い、外部回路からHDD内のスピンドル・モータとボイス・コイル・モータをコントロールし、外部回路を用いてサーボ・パターンを書き込む。これによって、サーボ・トラック・ライタ(STW)を不要として、HDDの製造コストを低減することができる。
【0008】
SSWは、ヘッド素子部のリード素子とライト素子の半径方向位置が異なる(これらの距離をリード・ライト・オフセットと呼ぶ)ことを利用して、内周側もしくは外周側にすでに書き込まれたトラック(本明細書においてサーボ・ライト・トラックと呼ぶ)をリード素子が読み出しながら位置決めを行い、ライト素子が、リード・ライト・オフセット離れた位置に新たなサーボ・ライト・トラックを書きこむ。
【0009】
このように、新たなトラックを書き込むサーボ・セクタの自己伝播において、基本的には、読み出すサーボ・セクタの半径方向の精度が、そのまま新たに書き込むサーボ・セクタに受け継がれることが期待される。しかしながら、種々の誤差を引き起こす要因のため、この精度は伝播によって劣化していく。位置決め精度低下は、サーボ・セクタの本来あるべき位置からのずれを引き起こし、これが次の伝播のときに引き継がれていく。
【0010】
また、このプロセスは、ヘッド素子部をトラック・フォロイングさせるためのサーボ・ループの特性にも依存する。精度の劣化を引き起こすのは、種々の要因が絡んだ複雑なメカニズムである。このように、SSWにおいては、伝播記録動作を繰り返すことによって閉ループ伝達特性のゲインが1を超える周波数領域においてトラック形状誤差が累積する。このため、SSWは、目標軌道の補正を行いながら新しいトラックを書き込む必要がある。
【0011】
この軌道補正の方法の一つが、特許文献1や特許文献2において開示されている。特許文献1に開示されている方法は、パターンを記録したときの位置誤差信号(PES)を記憶し、後にそのパターンによりヘッドの位置決めを行うときに、そのPESを使用して目標軌道を補正する。これにより、サーボ・ライト・トラックから次のサーボ・ライト・トラックへの伝達特性が1を超えないように調整し、誤差が次のトラックに伝播しないようにする。特許文献2の方法は、新しいトラックを書き込むときのPESから、その位置におけるトラック形状誤差を推定し、補正を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−212733号公報
【特許文献2】特開平11−16309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記いずれの方法も、予めサーボ・システムの伝達特性を学習してモデルを構築し、そのモデルに基づいて目標軌道を補正する。例えば、特許文献1の技術の補正量Corr(n)は(S−Gcl)/(1−Gcl)×PES(n−1)で表される。Sは目標ゲイン、Gclはサーボ・システムの閉ループ特性である。また、特許文献2の技術の補正量Corr(n)は(1+Gol)×PES(n)で表される。Golはサーボ・システムの開ループ特性である。
【0014】
従来の技術は、動作制御プログラムが、サーボ・システムの閉ループ特性を予め測定してモデル化しておく必要がある。しかし、実際の磁気ディスクの伝達特性(GclやGolなど)は、様々な要因により少しずつ異なる。その結果、サーボ・システムのモデルと実際のサーボ・システムとの間において、特性の誤差が生じることがある。特に、磁気ディスクの回転一次成分近傍の低周波領域において、正確な伝達特性の学習を行なうことは困難である。そのため、SSWがサーボ・システムにおける適切な補正を行なうことができず、伝播記録を繰り返すうちにトラック形状誤差が成長することがある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、リード・ライト・オフセットを有するヘッドにより回転しているディスクにサーボ・ライト・トラックを書き込む方法である。この方法は、ヘッド上のライト素子によりサーボ・ライト・トラックを書き込み、前記サーボ・ライト・トラック上に、前記ヘッド上のリード素子を移動し、前記サーボ・トラックに前記リード素子を位置決めしながら、前記サーボ・ライト・トラックのトラック形状誤差における特定周波数成分における位相を測定し、前記測定結果に基づいて選択した位相と前記特定周波数とを有する正弦波を、補正信号として前記サーボ・システムに与えて前記ライト素子で新たなサーボ・ライト・トラック書き込む。
【0016】
これにより、ヘッドのサーボ制御を行いながらそのヘッドによりディスクにサーボ・データを書き込むセルフ・サーボ・ライトにおいて、伝播書き込みの繰り返しによるトラック形状誤差の累積を小さくすることができる。
【0017】
好ましくは、前記特定周波数を有し位相が異なる正弦波を順次サーボ・システムに加えて得られた位置誤差信号を参照することで、前記トラック形状誤差における前記特定周波数成分における位相を測定する。これにより、シンプルな方法で適切な位相を決定することができる。
【0018】
好ましくは、前記特定周波数は、前記ディスクの回転周波数の整数倍である。さらに好ましくは、前記特定周波数は、前記ディスクの回転一次成分の周波数である。これらにより、累積誤差を効果的に低減することができる。
【0019】
好ましくは、前記位相測定の前に位置誤差信号の測定を行い、前記位置誤差信号による表される位置誤差の大きさが閾値よりも大きい場合に、前記位相測定を行う。これにより、累積誤差を適切に抑えつつ、サーボ・ライトの処理時間を短縮することができる。
【0020】
前記位相測定において前記サーボ・システムに加える正弦波の振幅は、前記補正信号の振幅よりも大きいことが好ましい。これにより、サーボ・システムの不安定化を避けつつ、正確な位相測定を行うことができる。
【0021】
好ましくは、サーボ・ライト・トラックの書き込みにおいて、前記正弦波による補正と別に、サーボ・システムのモデルに基づいた補正を行なう。これにより、誤差の累積をより適切に防ぐことができる。
【0022】
好ましくは、前記位相を選択した後、補正信号の振幅を既定値まで徐々に増加させる。これにより、補正信号の印加により隣接トラック間の間隔が急激に変動することを避けることができる。
【0023】
本発明の他の態様は、回転するディスクにサーボ・ライト・トラックを書き込むディスク・ドライブである。このディスク・ドライブは、前記ディスクの半径方向における位置が異なるリード素子とライト素子とを有するヘッドと、前記ヘッドを位置決め制御するコントローラと、前記ヘッドを前記ディスク上で移動する移動機構とを有する。前記コントローラは、前記ライト素子によりサーボ・ライト・トラックの書き込み、前記移動機構により前記サーボ・ライト・トラック上に前記リード素子を移動し、前記サーボ・トラックに前記リード素子を位置決めしながら、前記サーボ・ライト・トラックのトラック形状誤差における特定周波数成分における位相を測定し、前記測定結果に基づいて選択した位相と前記特定周波数とを有する正弦波を、補正信号として前記サーボ・システムに与えて、前記ライト素子で新たなサーボ・ライト・トラック書き込む。
【0024】
これにより、ヘッドのサーボ制御を行いながらそのヘッドによりディスクにサーボ・データを書き込むセルフ・サーボ・ライトにおいて、伝播書き込みの繰り返しによるトラック形状誤差の累積を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ヘッドのサーボ制御を行いながらそのヘッドによりディスクにサーボ・データを書き込むセルフ・サーボ・ライトにおいて、伝播書き込みの繰り返しによるトラック形状誤差の累積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態にかかるHDDの構成を示すブロック図である。
【図2A】本実施形態のセルフ・サーボ・ライトの手法を概略的に示す図である。
【図2B】本実施形態のセルフ・サーボ・ライトにおいてディスクに記録されるデータのフォーマット例を示す図である。
【図3】磁気ディスク11の回転一次のトラック形状誤差が累積していく様子を模式的に示している。
【図4】本実施形態のセルフ・サーボ・ライトの全体の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本実施形態のセルフ・サーボ・ライトにおける、サーボ・システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【図6】自己伝播動作における補正信号の位相決定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の補正方法を実際のHDDにおいてディスク回転一次成分に適用した場合のトラック形状誤差の推移を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を適用した実施の形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。以下においては、ディスク・ドライブの一例であるハードディスク・ドライブ(HDD)において、本発明の実施形態を説明する。
【0028】
本実施形態は、HDDに使用される磁気ディスクへのサーボ・データの書き込み、具体的には、磁気ディスクに書き込んだサーボ・ライト・トラックを基準として異なる半径位置に新たなサーボ・ライト・トラックを書き進む処理に関する。本実施形態の特徴は、サーボ・ライトにおけるヘッド位置制御に関する。本形態のサーボ・ライトは、セルフ・サーボ・ライト(SSW)であり、ヘッドにより読み出したサーボ・データによりそのヘッド(アクチュエータ)の位置決め(サーボ制御)を行ないながら、そのヘッドにより新たなサーボ・データを書き込む。
【0029】
本形態のSSWは、サーボ・システムに補正信号を与えることで、サーボ・ライト・トラック形状の累積誤差を減らす。これにより、トラック形状の累積誤差により、サーボ・パターンの品質が大きく低下することを防ぐ。特に、本形態のSSWは、サーボ制御の補正信号として正弦波を使用する。補正量Corr(n)は、A×sin(ω×t(n)+φ)で表すことができる。ωは周波数、tは時間であってセクタ番号nの関数、Aは振幅、φは位相である。本形態のSSWは、トラック形状誤差における上記正弦波の成分の位相を測定し、その測定結果に従って、トラック形状の累積誤差を小さくする補正正弦波信号A×sin(ω×t(n)+φ)の位相φを決定する。これにより、シンプルな構成によってトラック形状誤差の累積を抑えることができる。
【0030】
以下においては、好ましい例として、製品としてのHDDに実装される制御回路が、SSWを制御する例を説明する。同様の処理を、専用のサーボ・ライト制御回路が行うこともできる。いずれの制御回路が実装されていても、それはディスク・ドライブである。まず、図1を参照して、SSWを行うHDDの全体構成について説明する。HDD1は、筐体10の外側に固定された回路基板20上に、リード・ライト・チャネル(RWチャネル)21、モータ・ドライバ・ユニット22、ハードディスク・コントローラ(HDC)とMPUの集積回路(HDC/MPU)23及び半導体メモリのRAM24などの各回路を有している。
【0031】
筐体10内において、スピンドル・モータ(SPM)14は所定の角速度で磁気ディスク11を回転する。磁気ディスク11は、データを記憶するディスクである。図1においては、プロダクト・サーボ・パターンが既に書き込まれている磁気ディスク11が示されている。磁気ディスク11の記録面には、磁気ディスク11の中心から半径方向に放射状に延び、所定の角度毎に形成された複数のサーボ領域111が形成される。
【0032】
図1において、8つのサーボ領域を例示している。各サーボ領域111は、ユーザ・データの読み取り/書き込みにおいてヘッド・スライダの位置決め制御を行うためのプロダクト・サーボ・パターンが記録される。隣り合う2つのサーボ領域111の間の領域がデータ領域112であって、そこにユーザ・データが記録される。サーボ領域111とデータ領域112は、所定の角度で交互に設けられる。
【0033】
ヘッドであるヘッド・スライダ12は、磁気ディスク11上を浮上するスライダと、データの読み出し/書き込みを行うヘッド素子部とを備えている。ヘッド・スライダ12はアクチュエータ16の先端部に固定されている。移動機構であるアクチュエータ16は、ボイス・コイル・モータ(VCM)15に連結され、回動軸を中心に回動することによって、ヘッド・スライダ12を回転する磁気ディスク11上においてその半径方向に移動する。
【0034】
アクチュエータ16の可動範囲は表面に弾性体を有する内側クラッシュ・ストップ171と外側クラッシュ・ストップ172によって制限される。電源OFFあるいはアイドリングにおいては、アクチュエータ16は、ランプ17で静止している。本発明は、アクチュエータ16が磁気ディスクの所定領域上で待機するHDDにも適用できる。
【0035】
モータ・ドライバ・ユニット22は、HDC/MPU23からの制御データに従って、SPM14とVCM15とを駆動する。アーム電子回路(AE)13は、HDC/MPU23からの制御データに従って複数のヘッド・スライダ12の中から磁気ディスク11にアクセスするヘッド・スライダ12を選択し、リード/ライト信号の増幅を行う。RWチャネル21は、リード処理において、AE13から取得したリード信号からサーボ・データ及びユーザ・データを抽出し、デコード処理を行う。デコード処理されたデータは、HDC/MPU23に供給される。また、RWチャネル21は、ライト処理において、HDC/MPU23から供給されたライト・データをコード変調し、さらに、コード変調されたデータをライト信号に変換してAE13に供給する。
【0036】
HDC/MPU23において、HDCはロジック回路であり、MPUはRAM24にロードされたファームウェアに従って動作する。RAM24には、制御及びデータ処理に必要とされるデータがロードされる。HDC/MPU23はコントローラの一例であり、ヘッド・ポジショニング制御、インターフェース制御、ディフェクト管理などのデータ処理に関する必要な処理の他、HDD1の全体制御を実行する。特に、本形態において、HDC/MPU23がセルフ・サーボ・ライトの実行を制御する。
【0037】
本形態のSSWは、主に、初期パターンの書き込み処理と、その後の自己伝播処理とに分かれる。本形態のセルフ・サーボ・ライトは自己伝播処理にその特徴を有する。自己伝播処理は、ヘッド・スライダ12のリード素子により磁気ディスク11上の過去に書き込んだサーボ・ライト・トラックを読み出してヘッド・スライダ12を目的位置に位置決めし、新たなサーボ・ライト・トラックをヘッド・スライダ12のライト素子によって磁気ディスク11に書き込む。この処理を繰り返すことで、記録面全体にサーボ・データを書き込む。
【0038】
リード素子とライト素子とは異なる半径位置にあるため、ライト素子が過去に書き込んだサーボ・ライト・トラック上をリード素子がフォロイングしながら、異なる半径位置にあるライト素子が新たなサーボ・ライト・トラックを書き込むことができる。サーボ・ライト・トラックは、SSWにおいて、順次書き込まれるトラックであり、ユーザ・データのアクセスにおけるサーボ制御において使用される製品としてのサーボ・トラックとは必ずしも一致しない。典型的には、連続する二つのサーボ・ライト・トラックにより、一つのプロダクト・サーボ・トラックが構成される。
【0039】
自己伝播処理において、典型的には、HDD1は、複数のヘッド・スライダ12から一つを選択し、その選択したヘッド・スライダ12によって記録面上のサーボ・データを読み出す。HDD1は、このヘッド・スライダ12が読み出した信号を使用してアクチュエータ16を制御し、このヘッド・スライダを含む全ヘッド・スライダによって、各記録面に同時にサーボ・ライト・トラックを書き込む。
【0040】
図2Aは、自己伝播処理における、ヘッド・スライダ12上のヘッド素子部120と磁気ディスク11上のサーボ・セクタとを示している。磁気ディスク11の回転方向は、図2Aの右側から左側へ向かう方向である。ヘッド素子部120はリード素子122とライト素子121とを有している。本形態のHDD1は、自己伝播処理において、内周側から外周側に向かってパターンを書き進んでいく。なお、HDDの構成によっては、外周側から内周側にパターンを書き進めることもできる。
【0041】
図2Aにおいて、リード素子122がライト素子121よりも磁気ディスク11の内周側に配置されている。ライト素子121とリード素子との間の半径方向における間隔をリード・ライト・オフセットと呼ぶ。サーボ・ライト・トラックは、内周側から外周側に書き進められる。これにより、ライト素子121により先に書き込まれたサーボ・パターンをリード素子122が読み取ることができる。リード素子122が読み出したサーボ・ライト・トラックによってヘッド・スライダ12の位置合わせを行いながら、ライト素子121は新たなサーボ・ライト・トラックを外周側に書き込む。
【0042】
本形態において、HDD1は、ホストからのコマンドに応じた処理において使用するプロダクト・サーボ・パターン(サーボ・セクタ)を使用して、SSWを行う。これにより、製品としてのHDD1に実装されている機能を利用してSSWを行うことができる。これとは異なり、SSW専用のサーボ・パターンとタイミング・パターンとを使用して、プロダクト・サーボ・トラックを書き込むこともできる。図2Aにおいて、位置決めのためのサーボ・パターンはプロダクト・サーボ・パターン(プロダクト・サーボ・セクタ)117であり、サーボ情報部113とバースト部114とから構成されている。また、サーボ・データ書き込みのタイミング制御のためのタイミング・パターン115が、バースト部114の後に続いている。
【0043】
図2Bは、図2Aにおいて矩形Bで囲まれた部分のパターン・フォーマットを示しており、半径方向に配列された4セクタを示している。ここで、1セクタは、プロダクト・サーボ・パターン117とタイミング・パターン115で構成されている。HDD1は、1トラックにおいて円周方向に離間している複数セクタのプロダクト・サーボ・パターン117を書き込み、各セクタは半径方向において連続するように書き込まれる。タイミング・パターン115も同様である。
【0044】
プロダクト・サーボ・パターン117のサーボ情報部113は、プリアンブル(PREAMBLE)、サーボ・アドレス・マーク(SAM)、グレイ・コードからなるトラックID(GRAY)、サーボ・セクタ番号(PHSN)の各フィールドを含む。SAMは、トラックID等の実際の情報が始まることを示す部分である。バースト部114は、トラックIDで示されるサーボ・トラック内の更に精密な位置を示すパターンであり、円周方向において異なる4つの位置にパターンを有する。ライト素子121は、一つのサーボ・ライト・トラックにおいて、バースト部114に一つのパターンを書き込む。それぞれのパターンはライト素子121の幅を持ち、互いに半径方向にオフセットして配置される。サーボ情報部113は、半径方向において一部が重なるように書き込まれる。
【0045】
本形態において、タイミング・パターン部115は、ユーザ・データを収容するデータ・セクタの一部で構成され、プリアンブル(PREAMBLE)と、データ・アドレス・マーク(DAM)とで構成されている。HDC/MPU23は、DAMをサーボ・ライトのタイミング基準として使用する。なお、HDC/MPU23は、タイミング基準として、DAMの代わりにSAMを使用してもよい。この構成では、データ・セクタ・フィールドは不要である。
【0046】
このように、SSWにおいて、HDD1は、自分で磁気ディスク11に書き込んだサーボ・ライト・トラックを参照し、その信号から得られる時間的、空間的情報を使用して、時間的(周方向におけるタイミング制御)、空間的(半径方向における位置制御)な制御を行いながら、リード・ライト・オフセットだけ半径方向にずれた位置に、次のサーボ・ライト・トラックを書き込む。リード・ライト・オフセットはスキュー角のためヘッド素子部120の半径方向の位置によって変化する。
【0047】
上述のシーケンスによって内周側の基準となるサーボ・ライト・トラックをフォロイングして、外周側に新たなサーボ・ライト・トラックを形成することができる。このように、外周側に新たなサーボ・ライト・トラックを書き込む自己伝播処理において、基本的には内周側の基準となるトラックの半径方向の精度(ヘッド素子部120の位置決め精度)が、そのまま新たな書き込むトラックに受け継がれることが期待される。
【0048】
SSWにおいては、自己伝播動作の繰り返しによってトラック形状誤差が累積するのを防ぐため、目標起動に補正量を与えて形状誤差が後のサーボ・ライト・トラックに積み重ならないようにすることが重要である。このため、HDC/MPU23は、サーボ・システムの伝達特性のモデルに従って補正信号を生成し、フィードバック・コントローラ(位置決めコントローラ)への入力(目標軌跡)を補正する。
【0049】
しかしながら、サーボ・システムの伝達特性モデルと実際の伝達関数との相違が存在すると、この精度は伝播によって劣化していく。位置決め精度の低下は、サーボ・パターンの本来あるべき位置からのずれ(サーボ・ライト・トラックの形状誤差)を引き起こし、これが次の伝播のときに引き継がれていく。具体的には、バースト・パターンA、B、C、Dのずれが、次の伝播において引き継がれていく。
【0050】
図3は、磁気ディスク11の回転一次のトラック形状誤差が累積していく様子を模式的に示している。低い周波数領域において、サーボ・システムのサーボ・ゲインが高く、正確な伝達特性の測定が困難である。このため、低い周波数領域において実際の伝達特性とそのモデルとの差が大きくなりやすい。特に、図3に示すように、磁気ディスク11の回転一次の成分の形状誤差が累積しやすい。
【0051】
本形態のSSWは、モデル化されたサーボ・システムの伝達関数によりヘッド・スライダ12の位置決め制御(サーボ制御)を補正することに加え、さらに、トラック形状誤差の位相測定を行い、その測定結果に応じて決定した位相を有する正弦波の補正信号による補正を行う。上述のように、補正量Corr(n)は、A×sin(ωt(n)+φ)で表すことができる。
【0052】
特定周波数の累積誤差を補正するためには、正確なループ特性が得られなくとも、トラック形状誤差を小さくする位相を知ることができれば、上記正弦波によって累積誤差を小さくすることができる。また、正弦波の振幅が小さい値であっても、複数のサーボ・ライト・トラックに正弦波による補正を繰り返し行うことで、トラック形状の累積誤差を除去することができる。
【0053】
このため、予め設定されている低い周波数の正弦波A×sin(ω×t(n)+φ)により、トラック形状誤差の累積を抑える補正を行うことができる。好ましくは、補正信号の周波数は、磁気ディスク11の回転の低次の成分であり、補正量Corr(n)は、A×sin(n×k×2π/N+φ)で表される。kはディスク回転周波数を基底とした次数を表す自然数であり、Nはディスク一回転で読み出されるセクタ数である。
【0054】
さらに好ましくは、補正信号の周波数は磁気ディスク11の回転の一次の成分であり、補正量Corr(n)は、A×sin(n×2π/N+φ)で表される。正弦波による補正は、伝達特性のモデルによる補正と同時に使用し、それを補助する機能として使用することが好ましい。これにより、より効果的で正確なサーボ・ライトを行うことができる。しかし、正弦波による補正を伝達特性のモデルによる補正とは同時に使用せず、補正を伝達特性のモデルによる補正と独立に使用してもよい。モデル化されたサーボ・システムの伝達関数による補正は、従来技術で引用した特許文献にも開示されているように、広く知られた技術である。従って、ここでの詳細な説明は省略する。
【0055】
本形態のSSWに全体の処理の流れを、図4のフローチャートを参照して説明する。SSWは、予め定められたステップ数の自己伝播動作の間隔でキャリブレーションを実施するのが一般的である。キャリブレーションは、書かれたトラックピッチの測定や目標トラックピッチの修正などを実施する。好ましい構成において、SSWは、キャリブレーション時に位置誤差信号における補正信号の周波数(特定周波数)の成分の大きさを測定し、閾値を越えている場合にトラック形状誤差を小さくする位相を測定する。求めた位相から補正信号の位相(各セクタにおける補正量)を決定する。
【0056】
そして、SSWは、その後に繰り返される自己伝播動作において、算出した補正信号(補正量)により目標起動を補正する。目標軌道の補正は、次のキャリブレーションで再びトラック形状誤差の測定を行うまで継続する。次のキャリブレーション位置で上記特定周波数成分の大きさが閾値以下になっていたら、SSWは正弦波による補正を終了して、以降は通常の自己伝播記録動作を行う。上記特定周波数成分の大きさが閾値を越えている場合は、HDC/MPU23は再び位相の測定を実施し、目標軌道の補正を継続する。
【0057】
以下に、より具体的に説明する。HDC/MPU23は、ホストからの指示に応じてSSWを開始する。HDC/MPU23は、モータ・ドライバ・ユニット22を介してSPM13を制御し、磁気ディスク11の回転を開始する(S11)。HDC/MPU23は、モータ・ドライバ・ユニット22を介してVCM15を制御し、アクチュエータ16をランプ17から磁気ディスク11上に移動する(ロード動作)。HDC/MPU23は、アクチュエータ16をさらに内周に移動して、内側クラッシュ・ストップ171に押し付ける(S12)。
【0058】
HDC/MPU23は、アクチュエータ16を内側クラッシュ・ストップ171に押し付けながら、スタート・アップ・オペレーションを行う(S13)。スタート・アップ・オペレーションは、ヘッド特性の測定や自己伝播処理のための初期パターンの書き込みなどを含む。スタート・アップ・オペレーションが終了すると、HDC/MPU23は、自己伝播動作を開始する(S14)。
【0059】
自己伝播動作を繰り返してヘッド・スライダ12が最外周に到達すると(S15におけるY)、HDC/MPU23は、アクチュエータ16(ヘッド・スライダ12)を磁気ディスク11上からランプ17に移動する(アンロード)(S16)。その後、HDC/MPU23は、SPM13の回転を停止して(S17)、SSWを終了する。
【0060】
ヘッド・スライダ12が最外周に到達する前に(S15におけるN)、規定数のサーボ・ライト・トラックの書き込みを行うと(S18におけるY)、HDC/MPU23は、キャリブレーションを行う(S19)。キャリブレーションのタイミングで、HDC/MPU23は、必要な条件が満足している場合に、トラック形状誤差の位相測定とその測定結果による補正信号の位相の決定を行う。
【0061】
HDC/MPU23は、PESにおける補正信号の周波数と同一の周波数成分の位置誤差が大きい場合に、トラック形状誤差の位相測定の有無を決定する。補正信号の周波数は予め決まっており、好ましい構成においては、ディスク回転に同期する低周波数である。その周波数は、好ましくはディスク回転の二次以下の成分の周波数であり、最も好ましくは一次の成分の周波数である。好ましい本構成例は、ディスク回転の一次の成分と同一の周波数の補正信号を使用する。
【0062】
HDC/MPU23は、PESを参照して、ディスク回転の一次の成分と閾値とを比較する(S20)。ディスク回転の一次の成分の大きさを表す指標は、振幅の平均値あるいは振幅のばらつきを示す値とすることができる。一次の成分の大きさが閾値以下である場合(S20におけるN)、HDC/MPU23は、トラック形状誤差の位相測定を行うことなく、補正機能を無効にする(S21)。その後、HDC/MPU23は、自己伝播動作を再開する(S14)。
【0063】
好ましい構成において、自己伝播動作の再開後、HDC/MPU23は、補正量Corr(n)は、A×sin(n×2π/N+φ)の振幅Aを、規定値まで徐々に増加させる。具体的には、HDC/MPU23は、フォロイングするサーボ・ライト・トラックの変更のタイミングで、振幅Aを増加させる。好ましくは、サーボ・ライト・トラックの変更毎に、同一ステップで振幅Aを増加させる。これにより、補正信号の印加により隣接トラック間の間隔が急激に変動し、パターンの品質が低下することを防ぐことができる。
【0064】
一次の成分の大きさが閾値よりも大きい場合(S20におけるN)、HDC/MPU23は、トラック形状誤差の位相測定を行い、補正信号の位相を決定する(S22)。HDC/MPU23は、決定した補正信号による補正機能を有効にして(S23)、自己伝播動作を再開する(S14)。
【0065】
このように、補正の対象となる周波数成分の位置誤差が大きい場合にトラック形状誤差の測定を行うことで、SSWの処理時間を短縮することができる。また、補正の対象となる周波数成分の位置誤差が大きい場合に補正機能を有効とする(位置誤差が小さい場合に補正機能を無効とする)ことで、サーボ・システムの信頼性(安定性)を高めることができる。設計によっては、HDC/MPU23は、現在の位置誤差の大きさに関わらず、補正機能を有効としてもよい。
【0066】
上方構成において、位相測定の実行及び補正機能を有効にする閾値と、位相測定のスキップ及び補正機能を無効にする閾値とは同一である。これら閾値は、異なる値であってもよい。例えば、位相測定の実行及び補正機能を有効にする閾値は、位相測定のスキップ及び補正機能を無効にする閾値よりも大きい。上述のように、形状誤差の測定及び補正信号の更新(及びそれらの実行の有無を判定するための測定)は、キャリブレーションにおける他の処理と共に行うことが好ましい。これにより、SSWの処理時間を短縮することができる。設計によっては、HDC/MPU23は、キャリブレーションの他の処理とは異なる独自のタイミングでこれらの処理を行ってもよい。
【0067】
図5は、本形態のサーボ・システムの構成を模式的に示すブロック図である。図5は、単一周波数補正信号による補正のみを示し、伝達特性のモデルによる補正は示していない。位置決めコントローラ231は、位置誤差信号に応じてアクチュエータ16の駆動データ(VCM電流値を示すデータ)を生成する。
【0068】
アクチュエータ16及びヘッド・スライダ12は、位置決めコントローラ231の制御下において、位置決めされる。位置決めコントローラ231は、HDC/MPU23の一機能である。ヘッド・スライダ12のリード素子122が読み出した位置信号(サーボ・データ)は、絶対的なヘッド位置(実際のディスク上の位置)からトラック形状誤差を差し引いた信号である。実際のシステムにおいて、アクチュエータ16への外乱やノイズがシステム(位置信号)に加わるが、図5においては省略している。
【0069】
HDC/MPU23は、目標位置(目標の軌跡)に対してトラック形状誤差補正信号を加える。このように補正された目標位置と現在のヘッド位置信号との差が位置誤差信号(PES)である。位置決めコントローラ231は、位置誤差信号に従って、アクチュエータ16(VCM15)の位置決め制御データを生成し、モータ・ドライバ・ユニット22に送る。モータ・ドライバ・ユニット22は、その制御データに応じて、アクチュエータ16(VCM15)を駆動する。
【0070】
図5に示す構成例において、HDC/MPU23は、トラック形状誤差補正信号により目標位置(目標軌跡)を補正する。このように、位置決めコントローラ231の入力を補正することで、トラック形状誤差の累積を防止することができる。
【0071】
トラック形状誤差補正信号(補正値)は、単一周波数を有する信号(正弦波)であり、Asin(ωt+φ)と表される。好ましい構成において、補正信号の振幅A及び周波数ωは、予め定められている値である。これにより、シンプルな処理によりトラック形状誤差の累積を抑えることができる。また、好ましい構成において、周波数ωは磁気ディスク11の回転周波数の整数倍であり、最も好ましい値は磁気ディスク11の回転周波数である(回転周波数の一次の成分)。
【0072】
HDC/MPU23は、トラック形状誤差を測定して、補正信号A×sin(ω×t(n)+φ)の位相φを決定する(図4における工程S22)。HDC/MPU23は、補正信号A×sin(ω×t(n)+φ)と同一の周波数の正弦波をサーボ・システムに加えて位置誤差信号を測定することで、トラック形状誤差を測定する。具体的には、HDC/MPU23は、異なる位相の複数の正弦波を順次サーボ・システムに加え、それぞれの正弦波に対応する位置誤差信号を測定する。最も小さい位置誤差を示す正弦波が、トラック形状誤差を最小にする補正信号である。つまり、そのときの位相φは、トラック形状誤差の逆位相である。
【0073】
トラック形状誤差測定用の信号は、B×sin(ω×t(n)+φ_k)と表される。φ_kは変数である。補正信号A×sin(ω×t(n)+φ)は、現在のサーボ・ライト・トラックにおける誤差補正を直接の目的とするのではなく、形状誤差の累積を抑えることを目的とするものである。振幅Aが小さい値であっても、形状誤差の逆位相の正弦波を繰り返し与えることによって、形状誤差の累積を効果的に除去することができる。
【0074】
一方、トラック形状誤差測定においては、正弦波補正信号B×sin(ω×t(n)+φ_k)の効果がはっきりと認識することができることが重要である。また、トラック形状誤差測定においては、主として、補正の対象とするディスク回転周波数近傍の領域ではサーボ・システムの開ループゲインが非常に大きいため、自己伝播動作における補正信号A×sin(ω×t(n)+φ)の振幅Aよりも、トラック形状誤差測定用の信号B×sin(ω×t(n)+φ_k)の振幅Bが大きいことが好ましい。例えば、振幅Bは振幅Aの10倍程度である。
【0075】
自己伝播動作における補正信号A×sin(ω×t(n)+φ)の位相決定方法を、図6のフローチャートを参照して具体的に説明する。HDC/MPU23は、トラック形状誤差の位相測定用の内部変数を初期化する。HDC/MPU23は、入力正弦波B×sin(ω×t(n)+φ_k)の位相φ_kに0を代入する(S31)。HDC/MPU23は、目標軌道に測定用正弦波を加えて(図3のブロック図を参照)、アクチュエータ16(ヘッド・スライダ12)の位置決めを行う(S32)。
【0076】
HDC/MPU23は、アクチュエータ16の位置決め制御を行いながら、規定の区間において位置誤差信号を取得する(S33)。HDC/MPU23は、取得した位置誤差信号のばらつき(典型的には標準偏差)を算出し、それを保存する(S34)。HDC/MPU23は、入力正弦波B×sin(ω×t(n)+φ_k)の位相φ_kをΔφだけ変化させる(S35)。
【0077】
入力正弦波B×sin(ω×t(n)+φ_k)の位相φ_kが2πに達していなければ(S36におけるY)、HDC/MPU23は、上記工程S32〜工程S35を再実行する。つまり、位置誤差信号の取得(S33)、標準偏差の計算(S34)、そして位相φ_kをΔφの更新(S35)を実行する。入力正弦波B×sin(ω×t(n)+φ_k)の位相φ_kが2πに達している場合(S36におけるN)、HDC/MPU23は、保存しておいた標準偏差を参照し、適切な位相φ_kを決定する(S37)。好ましくは、HDC/MPU23は、標準偏差が最小となる位相φ_kを選択し、それを正弦波補正信号の位相にセットする。この位相がトラック形状誤差を小さくする最適な位相である(トラック形状誤差の逆位相)。
【0078】
図5に示した構成例では、位置決め制御の目標位置に正弦波補正信号を加算する形態を示したが、設計によってはHDC/MPU23は、位置決めコントローラ231の出力にトラック形状誤差補正信号を加えてもよい。この場合は位相測定の時に加えるトラック形状誤差測定用の入力信号もコントローラ231の出力に加える形態とすることで、図5に示した形態と同様の効果を提供することができる。
【0079】
図7は、本発明の補正方法を実際のHDDにおいてディスク回転一次成分に適用した場合のトラック形状誤差の推移を示している。自己伝播動作の繰り返しでトラック形状誤差が増大した場合であっても、本発明の補正が有効となる閾値レベルで誤差の増加が抑制されており、本発明の方法の有効性を示している。
【0080】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。本発明はHDDに限らず、他のタイプのディスク・ドライブに適用することができる。
【0081】
例えば、設計によっては、HDC/MPUは、位置決めコントローラの出力にトラック形状誤差補正信号を加えてもよい。この構成においては、位相測定の時に加えるトラック形状誤差測定用の信号もコントローラ出力に加える。ヘッド・スライダの移動機構は、直線的にヘッド・スライダを移動する機構のように、揺動アクチュエータと異なる構造を有することができる。ヘッド・スライダは、磁気ディスク上を摺動してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 ハードディスク・ドライブ、10 エンクロージャ、11 磁気ディスク
12 ヘッド・スライダ、14 スピンドル・モータ、15 ボイス・コイル・モータ
16 アクチュエータ、17 ランプ、20 回路基板
21 リード・ライト・チャネル、22 モータ・ドライバ・ユニット
113 サーボ情報部、114 バースト部、115 タイミング・パターン部
117 プロダクト・サーボ・パターン、171 内側クラッシュ・ストップ
172 外側クラッシュ・ストップ、120 ヘッド素子部、121 ライト素子
122 リード素子、231 位置決めコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード・ライト・オフセットを有するヘッドにより回転しているディスクにサーボ・ライト・トラックを書き込む方法であって、
ヘッド上のライト素子によりサーボ・ライト・トラックを書き込み、
前記サーボ・ライト・トラック上に、前記ヘッド上のリード素子を移動し、
前記サーボ・トラックに前記リード素子を位置決めしながら、前記サーボ・ライト・トラックのトラック形状誤差における特定周波数成分における位相を測定し、
前記測定結果に基づいて選択した位相と前記特定周波数とを有する正弦波を、補正信号として前記サーボ・システムに与えて前記ライト素子で新たなサーボ・ライト・トラック書き込む、
方法。
【請求項2】
前記特定周波数を有し位相が異なる正弦波を順次サーボ・システムに加えて得られた位置誤差信号を参照することで、前記トラック形状誤差における前記特定周波数成分における位相を測定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定周波数は、前記ディスクの回転周波数の整数倍である、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記特定周波数は、前記ディスクの回転一次成分の周波数である、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記位相測定の前に、位置誤差信号の測定を行い、
前記位置誤差信号による表される位置誤差の大きさが閾値よりも大きい場合に、前記位相測定を行う、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記位相測定において前記サーボ・システムに加える正弦波の振幅は、前記補正信号の振幅よりも大きい、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
サーボ・ライト・トラックの書き込みにおいて、前記正弦波による補正と別に、サーボ・システムのモデルに基づいた補正を行なう、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記位相を選択した後、補正信号の振幅を既定値まで徐々に増加させる、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
回転するディスクにサーボ・ライト・トラックを書き込むディスク・ドライブであって、
前記ディスクの半径方向における位置が異なるリード素子とライト素子とを有するヘッドと、
前記ヘッドを位置決め制御するコントローラと、
前記ヘッドを前記ディスク上で移動する移動機構と、を有し、
前記コントローラは、
前記ライト素子によりサーボ・ライト・トラックの書き込み、
前記移動機構により前記サーボ・ライト・トラック上に前記リード素子を移動し、
前記サーボ・トラックに前記リード素子を位置決めしながら、前記サーボ・ライト・トラックのトラック形状誤差における特定周波数成分における位相を測定し、
前記測定結果に基づいて選択した位相と前記特定周波数とを有する正弦波を、補正信号として前記サーボ・システムに与えて、前記ライト素子で新たなサーボ・ライト・トラック書き込む、
ディスク・ドライブ。
【請求項10】
前記コントローラは、前記特定周波数を有し位相が異なる正弦波を順次サーボ・システムに加えて得られた位置誤差信号を参照することで、前記トラック形状誤差における特定周波数成分における位相を測定する、
請求項9に記載のディスク・ドライブ。
【請求項11】
前記特定周波数は、前記ディスクの回転周波数の整数倍である、
請求項9に記載のディスク・ドライブ。
【請求項12】
前記特定周波数は、前記ディスクの回転一次成分の周波数である、
請求項11に記載のディスク・ドライブ。
【請求項13】
前記コントローラは、
前記位相測定の前に、位置誤差信号の測定を行い、
前記位置誤差信号により表される位置誤差の大きさが閾値よりも大きい場合に、前記位相測定を行う、
請求項9に記載のディスク・ドライブ。
【請求項14】
前記位相測定において前記サーボ・システムに加える正弦波の振幅は、前記補正信号の振幅よりも大きい、
請求項10に記載のディスク・ドライブ。
【請求項15】
前記コントローラは、サーボ・ライト・トラックの書き込みにおいて、前記正弦波による補正と別に、サーボ・システムのモデルに基づいた補正を行なう、
請求項9に記載のディスク・ドライブ。
【請求項16】
前記コントローラは、前記位相を選択した後、補正信号の振幅を既定値まで徐々に増加させる、
請求項9に記載のディスク・ドライブ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−123966(P2011−123966A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282322(P2009−282322)
【出願日】平成21年12月12日(2009.12.12)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】