説明

ディスク搬送用ローラ装置

【課題】 金属製のローラシャフトとゴムローラとを有するディスク搬送用ローラ装置において、余分な部材を用いることなく、ゴムローラの内周面が摩耗しても、ローラシャフトがスリップして空転することに伴う異音を生じないようにする。
【解決手段】 外周面がディスクDに圧接して送り力を付与する搬送面23として形成されているゴムローラ20が金属製のローラシャフト10に外嵌合されている。ローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22との摩擦抵抗によってローラシャフト10の回転がゴムローラ20に伝達されるようになっている。ローラシャフト10の外周面11の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節することによって、ゴムローラ20の内周面21が摩耗したときのゴムローラ20の内周面22とローラシャフト10の外周面11との接触面積の増大を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロントイン方式のディスク搬送機構に採用されるディスク搬送用ローラ装置であって、ローラシャフトとそのローラシャフトに外嵌合されたゴムローラとが、耐久試験後の実使用時にスリップを生じて異音を発生するという現象を防止する対策を講じているディスク搬送用ローラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVDなどの円板状のディスクを光学的に処理して情報の記録再生などを行うディスクドライブに、ディスクをローディングしたりアンローディングしたりするための機構の1つとして、スロントイン方式のディスク搬送機構が知られている。スロットイン方式のディスク搬送機構では、ディスク搬送用ローラ装置のゴムローラとその相手方部材との相互間にディスクを挟み込み、ディスクに圧接している上記ゴムローラを回転させることによってディスクに送り力を付与するようにしている。
【0003】
上記のディスク搬送用ローラ装置において、ゴムローラは、外周面がディスクに圧接して送り力を付与する搬送面として形成されている。また、ディスク搬送用ローラ装置には、ゴムローラが金属製のローラシャフトに外嵌合されていて、ローラシャフトの外周面とゴムローラの内周面との摩擦抵抗によってローラシャフトの回転がゴムローラに伝達されるように構成されているものがある。
【0004】
この種のディスク搬送用ローラ装置では、ディスクに圧接しているゴムローラにローラシャフトから回転が伝達されると、ゴムローラの回転に伴う送り力がディスクに付与されてそのディスクが搬送される。こうして搬送されたディスクが、たとえばディスクドライブの所定位置に達したときにストッパ機構が作動してディスクの移動が停止すると、ディスクとそのディスクに圧接しているゴムローラとの間に、上記の摩擦抵抗に打ち勝つ抵抗力が発生してゴムローラの回転が停止し、それに伴ってローラシャフトがゴムローラに対しスリップして空転する。
【0005】
上記したような構成を備えて上記したような作用を行うディスク搬送用ローラ装置において、上記したストッパ機構の作動でディスクの移動が停止した後に、ローラシャフトがゴムローラに対しスリップして空転するという動作自体は正常な動作であり、そのようなスリップ現象を通じてローラシャフトの回転駆動系に無理な負荷が加わることが防止される。
【0006】
しかし、正常な動作である上記のスリップ現象が繰り返されると、金属製のローラシャフトに比べて極端に摩耗しやすいゴムローラの内周面が摩耗する。そして、その摩耗が一定限度を越えて進行してしまうと、ローラシャフトの外周面とゴムローラの内周面との接触面積が大きくなり過ぎるという状況が発生し、その結果として、上記した正常な動作であるスリップ現象が生じたとき、あるいは、ディスク搬送中の負荷が増大してスリップ現象が生じたようなときなどに、所謂「鳴き」と通称される異音を発生し、そのような異音の発生によってディスク搬送機構の動作品位が低下するという事態を招くことがある。
【0007】
そこで、従来では、上記のような異音の発生を抑制するための対策として、ローラシャフトに対してではなく、ゴムローラに対して一定の対策を講じることが提案されていた(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1には、ゴムローラの内周面を凹凸面としたり、その凹凸面の表面粗さRmaxを20μm以上に限定したり、その凹凸面の凸部の存在密度を一定以上になるように限定したりすることが記載されている。
【0008】
その一方で、環境温度に変化が生じたときでも一定の搬送トルクを得るための手段として、ゴムローラに挿設した円筒部材の内部にローラ軸(ローラシャフトに相当)を設け、そのローラ軸の外周面に施した表面処理(サンドブラスト処理やローレット加工)によってローラ軸と円筒部材との摩擦力を、環境温度の変化に係わらず一定に維持する、という手段も提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0009】
さらに、ローラシャフトとゴムローラとの間に、ポリエステルフィルムなどの薄肉摩擦部材を介在させることによって、ローラシャフトからゴムローラに伝達される回転力を安定させる、という提案もなされている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−313004号公報
【特許文献2】特開平11−232743号公報
【特許文献3】特開平4−117662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のように、ゴムローラの内周面の性状ないし形状を限定したとしても、そのゴムローラの内周面に対して金属製のローラシャフトの外周面がスリップするという現象が繰り返されると、ゴムローラの内周面が摩耗することを回避することはできない。このため、たとえばディスクのイン/アウト動作の耐久試験中には異音が発生しなかったけれども、耐久試験後の実使用時では、ディスク搬送中の負荷が増大したときなどにローラシャフトがゴムローラに対してスリップして異音を発生するという状況が起こり得ると考えられる。
【0012】
また、特許文献2や特許文献3には、ローラシャフト及びゴムローラの他に、第3の部材として円筒部材や薄肉摩擦部材を用いることによって、ローラシャフトとゴムローラとの摩擦力を一定に維持するという対策についての記載がなされているけれども、円筒部材や薄肉摩擦部材を余分に用いることは、それだけ組立工程が煩雑になり、組立精度の不安定要素も増えることになるといった問題がある。
【0013】
そこで、本願発明者は、鋭意調査を行い、スリップ現象によって摩耗を生じやすいゴムローラではなくて、スリップ現象によっても摩擦を生じることのない金属製のローラシャフトに着目して本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、金属製のローラシャフトとゴムローラとを有するディスク搬送用ローラ装置において、上記した円筒部材や薄肉摩擦部材といった第3の部材を余分に用いることなく、また、ゴムローラにいかなる対策も講じることなく、ゴムローラの内周面が摩耗しても、ローラシャフトがスリップして空転することに伴う異音を生じることのないディスク搬送用ローラ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るディスク搬送用ローラ装置は、外周面がディスクに圧接して送り力を付与する搬送面として形成されているゴムローラが金属製のローラシャフトに外嵌合されていて、ローラシャフトの外周面とゴムローラの内周面との摩擦抵抗によってローラシャフトの回転がゴムローラに伝達されるようになっているディスク搬送ローラ装置において、上記ローラシャフトの外周面の表面粗さを調節することによって、ゴムローラの内周面が摩耗したときの当該ゴムローラの内周面とローラシャフトの外周面との接触面積の増大を抑制してある、というものである。
【0016】
このような本発明にあっては、ローラシャフトがステンレス製であり、ゴムローラがシリコン系ゴムで作られていると共に、ローラシャフトの外周面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節されていることが望ましい。
本発明に係るディスク搬送用ローラ装置では、ローラシャフトがステンレスなどの金属製であり、ゴムローラがシリコン系ゴムなどのゴム系材料であるので、耐摩耗性はローラシャフトがゴムローラよりも格段に優れている。そのため、ゴムローラの内周面に対してローラシャフトの外周面が繰り返しスリップしたとしても、ゴムローラの内周面が摩耗するだけであって、ローラシャフトの外周面は摩耗しない。その一方で、冒頭で説明したように、ローラシャフトの外周面がゴムローラの内周面に対してスリップしたときに「鳴き」と通称される異音を生じるのは、ローラシャフトの外周面とゴムローラの内周面との接触面積が増大して大きくなり過ぎるという状況が発生したときである。
【0017】
これらの事情から、本発明のようにローラシャフトの外周面の表面粗さを調節することによって、ゴムローラの内周面が摩耗したときのゴムローラの内周面とローラシャフトの外周面との接触面積の増大を抑制しておくと、ゴムローラの内周面が摩耗している状態でも両者の接触面積が一定以下に保たれるようになり、接触面積が大きくなり過ぎるという状況が回避されて、スリップ現象による異音の発生が抑制される。特に、ローラシャフトの外周面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節されていると、スリップによる異音の発生がなくなることが実験的に判っている。
【0018】
さらに、本発明によると、スリップ現象に伴う異音の発生によってゴムローラの粉塵が生じるという事態が回避される結果、搬送対象物であるディスクの記録面に汚れが付着するといった事態も起こらなくなる。
【0019】
そのほか、本発明では、外周面を粗く仕上げたローラシャフトを用いることができるので、ローラシャフトに対するバレル研磨などの工程を削減することが可能になり、それだけコストダウンを図りやすくなるという利点もある。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、金属製のローラシャフトとゴムローラとを有するディスク搬送用ローラ装置において、余分な部材を用いることなく、また、ゴムローラにいかなる対策も講じることなく、ゴムローラの内周面が摩耗しても、ローラシャフトがスリップして空転することに伴う異音を生じることがなくなる。そのため、当該ディスク搬送用ローラ装置を適用したスロントイン方式のディスク搬送機構の動作品位を向上させることが可能になる。また、搬送対象物であるディスクの記録面に汚れが付着するといった事態が起こらなくなるという利点や、ローラシャフトに対するバレル研磨などの工程を削減することが可能になってコストダウンを図りやすくなるといった利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るディスク搬送用ローラ装置の使用例を示した説明図である。
【図2】同ローラ装置の一部破断正面図である。
【図3】ローラシャフトの正面図である。
【図4】ゴムローラの断面図である。
【図5】ローラシャフトの表面粗さの適正値や不適性値の範囲を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明の実施形態に係るディスク搬送用ローラ装置Aの使用例を示した説明図である。図2は同ローラ装置の一部破断正面図、図3はローラシャフト10の正面図、図4はゴムローラ20の断面図である。
【0023】
図1に示したように、ディスク搬送用ローラ装置Aは、ローラシャフト10とゴムローラ20とによって構成されている。図示の使用例では、記録媒体である円板状のディスクDがその挿入排出口であるスロット30に挿入されると、ローラ装置Aが矢印Yのように動いて、相手方部材であるディスクガイド40との間でディスクDを挟み込む。そして、この状態でローラ装置Aのゴムローラ20が矢印Rのように回転すると、ゴムローラ20の外周面によって形成されている搬送面23によりディスクDに送り力が付与されてそのディスクDが矢印Xの方向に搬送される。
【0024】
図2のようにローラシャフト10は細長い丸棒でなる。実施形態のローラシャフト10はステンレス製である。ゴムローラ20はローラシャフト10に外嵌合されていて、たとえばシリコン系ゴムで作られている。また、ゴムローラ20は、軸方向中央が最も径小であって、軸方向中央から一方側端部及び他方側端部に近付くにつれてその外周直径が漸増する形状に形成されている。ゴムローラ20が上記形状に形成されていると、ディスクDをセンタリングする作用やディスクDの主に外周部分だけにゴムローラ20が接触するようになってディスクDの記録面を保護する作用などが奏される。このようなゴムローラ20は、軸方向一端が最も径小であって、軸方向一端から軸方向他端に近付くにつれてその外周直径が漸増する形状のローラ21(図4参照)を2つ用意し、それらのローラ21,21の軸方向一端同士を同心状に突き合わせることによって構成することも可能である。また、図2のように、ローラシャフト10に外嵌合されているゴムローラ20は、ローラシャフト10に位置決めして嵌め込まれた一対の位置決め輪40,40により挟まれて軸方向で位置決めされている。
【0025】
図2に示したローラ装置Aでは、ローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22との摩擦抵抗によってローラシャフト10の回転がゴムローラ20に伝達される。そのため、ディスクDを搬送中にゴムローラ20の回転を停止させるような大きな負荷が生じると、その負荷がローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22との摩擦抵抗に打ち勝って、ローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22とがスリップしてローラシャフト10が空転するという現象が生じる。このようなスリップ現象が繰り返されると、金属製のローラシャフト10の外周面11は摩耗しないけれども、それに比べて極端に摩耗しやすい性質を有するゴムローラ20の内周面22が摩耗する。そして、ゴムローラ20の内周面22の摩耗によって、ローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22との接触面積が大きくなり過ぎると、上記のスリップ現象が生じたときに「鳴き」と通称されている異音が発生する。
【0026】
そこで、この実施形態では、ローラシャフト10の外周面11の表面粗さを調節することによって、ゴムローラ20の内周面22が摩耗したときのその内周面22とローラシャフト10の外周面11との接触面積の増大を抑制する、という対策を講じてある。すなわち、ローラシャフト10の外周面11の表面粗さが粗くなるように調節しておくと、上記のスリップ現象によってゴムローラ20の内周面22が摩耗したとしても、ローラシャフト10の外周面11は磨耗せずに粗いままの状態を維持しているので、両者の接触面積がいたずらに増大して大きくなり過ぎるという事態が生じにくくなり、スリップ現象に起因する異音の発生が抑制される。
【0027】
図5はローラシャフト10の表面粗さの適正値や不適性値の範囲を示した説明図である。適正値や不適性値の範囲を調査する実験では、直径Dが2.495mm、長さLが132.8mmのステンレス製のローラシャフト10と、シリコン系ゴムで作られた硬度60度のゴムローラ20とを用いた。また、ゴムローラ20の内周面22を成形するための金型ピンの表面には、#80のサンド粒子を用いてサンドブラスト処理を行った。
【0028】
実験によると、同図のように、ローラシャフト10の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節しておくと、スリップ現象が繰り返された状態(たとえば、2万回程度のディスクのイン/アウト動作耐久試験後)でも、ゴムローラ20の内周面22が摩耗して接触面積が大きくなり過ぎるという状況が起こりにくく、スリップ現象に伴う異音が発生しないことが判った。また、この範囲であると、ローラシャフト10にゴムローラ20を外嵌合させるときの挿入作業性の低下も起こりにくく、ローラ装置Aを容易かつ迅速に組み立てることができた。
【0029】
これに対し、ローラシャフト10の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.1μmよりも小さい値に調節すると、スリップ現象が繰り返された状態(たとえば、2万回程度のディスクのイン/アウト動作耐久試験後)では、ゴムローラ20の内周面22が摩耗して接触面積が大きくなり過ぎ、異音を発生しやすいということが判った。また、この範囲であると、ローラシャフト10にゴムローラ20を外嵌合させるときの滑り性が低下して挿入作業に困難を伴うようになり、ローラ装置Aの組立性が低下することも判った。
【0030】
さらに、ローラシャフト10の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.2μmよりも大きい値に調節すると、スリップ現象が繰り返された状態(たとえば、2万回程度のディスクのイン/アウト動作耐久試験後)では、ゴムローラ20の内周面22が摩耗して接触面積が大きくなり過ぎるという状況が起こりにくく、スリップ現象に伴う異音が発生しなくなる。しかし、この範囲であると、ローラシャフト10とゴムローラ20との滑り性が大きくなり過ぎ、ローラシャフト10の外周面11とゴムローラ20の内周面22との摩擦抵抗の値が小さくなり過ぎてローラシャフト10の回転がゴムローラ20に伝達されにくくなり、ディスクの搬送に支障を生じることが判った。
【0031】
上記のように、ローラシャフト10の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節するための手段としては、たとえば、ローラシャフト10の製造工程で行われるバレル研磨の工程を削減することが有効であり、そのようにすることによって、ローラシャフト10の製造工程が簡略化されるだけでなく、その製造コストも低減されるという利点がある。
【符号の説明】
【0032】
D ディスク
10 ローラシャフト
11 ローラシャフトの外周面
20 ゴムローラ
22 ゴムローラの外周面
23 搬送面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面がディスクに圧接して送り力を付与する搬送面として形成されているゴムローラが金属製のローラシャフトに外嵌合されていて、ローラシャフトの外周面とゴムローラの内周面との摩擦抵抗によってローラシャフトの回転がゴムローラに伝達されるようになっているディスク搬送ローラ装置において、
上記ローラシャフトの外周面の表面粗さを調節することによって、ゴムローラの内周面が摩耗したときのゴムローラの内周面とローラシャフトの外周面との接触面積の増大を抑制してあることを特徴とするディスク搬送用ローラ装置。
【請求項2】
ローラシャフトがステンレス製であり、ゴムローラがシリコン系ゴムで作られていると共に、ローラシャフトの外周面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.1〜0.2μmの範囲に調節されている請求項1に記載したディスク搬送用ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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