説明

ディスペンスヘッド

【課題】ディスペンスヘッドを樽の口金から外す際に生じる固着現象を抑制すること。
【解決手段】スピアバルブを含んだ口金に対して着脱可能に連結されるディスペンスヘッド1の下面凹部に設けられた3つの爪2a、2b、2cに対して、それぞれの爪の上面にフランジの舌部を誘い込むための勾配21a、21b、21cを設け、これら3つの爪のうちの1つまたは2つの爪の勾配を、残る他の爪の勾配よりも、長い距離にわたる勾配とする。これによって、当該ディスペンスヘッドを口金から外すときに、長い距離にわたる勾配が存在するために、ヘッド全体が傾くことができ、樽に内圧が残っていても、開放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール、発泡酒、その他種々の飲料を収容する飲料容器の口金に連結されるディスペンスヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店や自動販売機などにおいて、工場から供給された飲料をコップなどに注いで販売する場合、工場から飲食店へは、大容量の容器(所謂、樽)に飲料を収容して納入し、飲食店において、容器内に高圧ガスを送り込んで内部の飲料を取り出しコップに注ぐという供給システムが採用されている。
樽にはスピアバルブという特殊なバルブを含んだ口金が設けられている。飲食店は、この口金に取り付けてバルブを開くディスペンスヘッド(以下、単に「ヘッド」とも呼ぶ)と呼ばれる器具を保有している。樽の口金と、ヘッドとは、一種のカップリングのように着脱自在の構造となっている。
【0003】
上記の供給システムを、ビール会社から飲食店にビールを供給する場合を例として説明する。図5に示すように、ビール会社は、容積3〜30リットル程度の樽100を流通・交換用の容器とし、これにビールを収容して飲食店に供給する。樽の口金110には、スピアバルブが含まれており、通常状態ではバネ圧によって樽内を封止している。飲食店では、口金110に、ヘッド200を連結し、その連結機構(後述)によってスピアバルブを開かれる。同図では、口金やヘッドの内部の機構の図示は省略している。また、便宜上、ヘッドの下端が口金のフランジを両側から抱き込んでいるように描いているが、詳細は後述する。
飲食店では、ヘッド200のガス供給口210にガスボンベ300を接続し、樽内に高圧の炭酸ガスを送り込む。そのガス圧によって、樽内のビール120は、口金(スピアバルブ)110を通過し、ヘッド200の飲料吐出口220から押し出され、店内に据え置かれたディスペンサ400へと送られ、そこでグラスなどに注がれる。
【0004】
図6は、樽の口金にヘッドが連結されている状態をさらに拡大して示した断面図である。同図では、炭酸ガスやビールの流れが分かりやすいように、段差などによって内部に見える実線を適宜省略して局所的に端面図としており、ガスケットやOリングなどは図示を省略している。ヘッドのガス供給口210が炭酸ガスボンベと接続され、飲料吐出口220がディスペンサーと接続されているのは、図5と同様である。
【0005】
図6に示すように、口金110の上端部周縁には、ヘッドと機械的に連結するためのフランジ112が外側に張り出しており、該口金110の中央には、スピアバルブ111が設けられている。スピアバルブは、樽が流通している状態では、コイルバネの力で樽の内部を封止している。
一方、ヘッド200の下端面(裏面)には、口金のフランジ112がはまり込む円筒状の凹部が設けられており、該凹部入口の開口周縁には、中心に向って張り出した爪230が設けられている。爪230は、口金のフランジを着脱自在に抱え込み得る構成となっており(後述)、安全な機械的強度をもった連結と、バルブ開放のための位置合わせとが達成される。
【0006】
ディスペンスヘッドは、一般的な構造では、中心部分に、上下にストローク可能な可動シリンダー(プランジャとも呼ばれる)240が設けられている。この可動シリンダーは、レバー250とリンク結合しており、レバー250が押し下げられると、それに連動して、可動シリンダー240も下降する構成となっている。可動シリンダーの下端は、スピアバルブ111の中央の弁体を押し下げ、炭酸ガスの流路(可動シリンダーの外側に沿った流路)と、ビールの流路(可動シリンダーの内側に沿った流路)が連通する。
図では、先端のディスペンサのコックが開かれて、グラスなどにビールが注がれていることを示唆しており、下方に向う矢印が炭酸ガスの流れを示し、上方へ向う矢印がビールの流れを示している。ビールの流出が止まると、樽や流路の内部は高圧のままで維持される。
ディスペンスヘッドやスピアバルブの構造については、特許文献1〜4などに詳細に説明されている。
【0007】
図7は、口金のフランジとヘッドの爪のそれぞれの外観をより直感的に理解できるように示した斜視図である。同図に示すように、口金には、その円形の外周を3等分した位置に、舌部112a、112b、112cが外側に向って張り出し、フランジ112となっている。製作上の観点から換言すると、円板状のフランジの外周の3箇所を切り欠くことによって、3方に張り出した舌部が残されている。
一方、ヘッド200の円筒状の凹部入口の内側周囲には、円周を3等分した位置に、爪230a、230b、230cが中央に向って張り出している。これら3つの爪が張り出していることによって、残された凹部入口の開口形状は、口金のフランジの外周形状と相似している(実際には、着脱操作のために隙間が確保されているため、厳密な相似形ではない)。この凹部入口の開口を通過させて、該フランジを凹部の奥まではめ込み、ヘッドを凹部入口の開口周縁に沿った一方の方向である前進方向(矢印の方向)に回せば、3つの爪が3つのフランジの舌部を抱え込み、口金とヘッドとの連結が達成される。
尚、ヘッドの爪の内側には、該ヘッドの回転を60度で止めるように、ストッパーとしての突起物(図示せず)が設けられている。
【0008】
図8は、ヘッドの爪が口金のフランジの舌部に係合する様子をさらに詳しく示した平面図である。図では、説明の便宜上、ヘッドの凹部を下方から見た図に、フランジを描き加えている。フランジには区別し易いようにハッチングを施している。
フランジを該凹部の奥まではめ込んだ状態で、ヘッドを矢印の方向に60度回転させると、3つの爪230a、230b、230cが、アリ溝のように、舌部112a、112b、112cを内部に抱え込んだ状態となり、図5、図6に示すような両者の連結が完了する。
【0009】
図9は、フランジの舌部に、爪が係合していく様子をさらに詳しく拡大した断面図である。図9(a)に示すように、ヘッド200の凹部内に口金のフランジ(図では1つのフランジの舌部112aを示している)をはめ込み、ヘッドを矢印の方向に回転させると、爪が同方向に進行する。ヘッドの回転とは、口金に対する相対的な回転であって、樽の方の回転であってもよい。
爪230aの進行方向の先端部の上側の角部には勾配231が設けられ、ガスケット(図示せず)を圧縮しながらフランジの舌部112aをうまく溝232へ誘い込んで、比較的スムーズにフランジの下側に潜り込むことができるようになっている。
図9(b)では、爪230aが最後の位置まで進み、舌部112aと爪230とが、周方向全長にわたって係合した状態(連結状態)となっている。図9(c)は、図9(b)のX−X断面を示した図である。図9(c)に示すように、内部の高圧ガスをシールするためのガスケットS10が圧縮された状態で効いており、押し下げようとする復帰力f10をフランジに作用させている。
図9(b)、(c)に示した連結状態において、ヘッドのレバーを引き下げてスピアバルブを開き、炭酸ガスを送り込むと、樽の内圧が上昇し、ヘッドには、図9(b)に示すように、内部から強いガス圧力f20が作用する。よって、使用時での舌部と爪との接触面には、図9(c)に示すように、ガスケットの復帰力f10と、樽内の炭酸ガス圧f20とを加えた、大きな力が作用している。
【0010】
本発明者等は、上記のような従来のディスペンスヘッドの使用状況をさらに詳細に検討したところ、ヘッドを口金から外す際に、口金のフランジの舌部と、ヘッドの爪とが、次に説明するように、局所的に互いに焼き付いたように固着し、離れなくなるという現象が生じる場合があることを見出し、これを解決すべき問題として取り上げた。
【0011】
図10は、フランジの舌部とヘッドの爪との局所的な固着が生じるメカニズムを説明する図である。上記したように、ヘッドを口金に装着し炭酸ガスを供給した状態では、舌部と爪との接触面には、大きな荷重が作用している。
図10(a)に示すように、舌部112aと爪230aとが周方向全長にわたる領域a10で面接触している状態では、荷重が全面に分散するために、両者を密着させようとする圧力は比較的低い。
しかし、樽を交換すべくヘッドを外すときには、通常作動では、ヘッドは内圧がかかった状態にある。そのような場合、該ヘッドには上に押し上げようとする強い力が内側から作用したままとなっている。このような状態で、ヘッドを後退方向に回転させていくと、先ず、図10(b)に示すように、爪を上方へ引き上げようとする総荷重は一定であるが、舌部112aと爪230aとの接触領域a20の面積が減少するため、両者の接触面に作用する圧力は高まっていく。そして、図10(c)に示すように、舌部112aと爪230aとが離れる直前では、微小な接触領域a30となるため圧力は極めて高くなり、そこで圧接や溶着のように両者が固着する現象が生じる。
そして、このような微小な点での固着を、作業者が力で引き剥がすために、ヘッドの爪の勾配先端には、カジリと呼ばれる欠落や損傷が生じ、ヘッドの寿命を短くしていることもわかった。
【特許文献1】特表平5−501840号公報
【特許文献2】特許第3394196号公報
【特許文献3】特開2002−80092号公報
【特許文献4】特開2000−109193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、ディスペンスヘッドを樽の口金から外す際に生じる上記固着現象を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、ヘッドの3つの爪のうちの1つまたは2つに設けられた勾配を、残る爪の勾配よりも長く取ることによって、ヘッドを口金から外す際に、その勾配の差異に起因してヘッド全体が傾き、内圧が大気圧へ開放されることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)容器の口金に対して着脱可能に連結され、該口金に設けられた開閉バルブを開いて容器内の液体を取り出す流路を提供するディスペンスヘッドであって、
前記口金は、当該ディスペンスヘッドと連結するためのフランジを有し、該フランジの外周には、均等な間隔をおいた3箇所にそれぞれ外側に張り出した舌部が設けられ、
当該ディスペンスヘッドには、前記口金のフランジがはまり込む円筒状凹部が設けられており、該凹部入口の開口周縁には、均等な間隔をおいた3箇所にそれぞれ中心に向って張り出した爪が設けられており、これによって、凹部入口の開口形状は前記口金のフランジの外周形状と略相似しフランジを凹部内にはめ込むことが可能になっており、かつ、フランジを凹部内にはめ込んだ後、当該ディスペンスヘッドを、凹部入口の開口周縁に沿った一方の方向である前進方向に回すと、3つの爪がフランジの3つの舌部を抱え込んで連結が達成され得る構成となっており、
前記3つの爪の上面には、前記前進方向の先端側に、フランジの舌部を誘い込むための勾配が設けられており、前記3つの爪のうちの1つまたは2つの爪の勾配が、残る他の爪の勾配よりも、爪の前進方向に関して長い距離にわたる勾配とされていることを特徴とする、ディスペンスヘッド。
(2)上記長い距離にわたる勾配を持つ爪の数が1つである、上記(1)記載のディスペンスヘッド。
(3)長い距離にわたる勾配が、残る他の爪の勾配よりもゆるやかな傾斜角度の勾配とすることによって、および/または、残る他の爪の勾配よりも爪の上面からより深く切り欠くことによって、長い距離にわたる勾配となっている、上記(1)または(2)記載のディスペンスヘッド。
(4)当該ディスペンスヘッドの材料が、ステンレス鋼である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のディスペンスヘッド。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるディスペンスヘッド(当該ヘッドともよぶ)は、口金のフランジの3の舌部とかみ合う3つの爪全てに同じ勾配を設けるのではなく、1または2つの爪に、残る他の爪の勾配と比べて、爪の前進方向に関して、長い距離にわたる勾配を設けている。以下、この長い距離にわたる勾配を「長勾配」と呼び、残る爪の勾配を「標準勾配」と呼んで説明する。
図4は、本発明における長勾配の作用を説明する図である。同図に示すように、1または2つの爪(図では爪2a)の勾配を長勾配21aとし、残る爪(図では爪2b)の勾配を標準勾配21bとすることによって、図4(a)に示す連結状態から、ヘッドを後退方向(図の左方)に回したとき、爪2aの長勾配21aの方が、爪2bの標準勾配21bよりも、早く舌部20aの後端にさしかかる。即ち、図4(b)に示すように、標準勾配21bが、まだ舌部20bの直下にあるのに対して、長勾配21aの一部は、すでに舌部20aから出ている。このとき内圧が残留していると、ヘッドには上に押し上げようとする強い力が作用しているから、図4(b)に示すように、長勾配の斜面が舌部20aに押し付けられるように持ち上がり、ヘッド全体が傾く。図4(b)では、判りやすいように、ヘッド下面を直線で表し、爪2aが水平に持ち上がっているように描いているが、実際には、凹部開口の外周円が傾いている。このヘッド全体が傾く動作は、ヘッドが3箇所(3つの爪の勾配の部分)でフランジと係合していることによって、容易に生じる。
この勾配の差異に起因するヘッド全体の傾きによって、該ヘッドと口金との連結のシールに隙間ができ、そこから内圧が開放されて、図10(c)に示したような高い圧力の状態には至らず、両者の固着が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明によるディスペンスヘッドを、実施例を参照しながら具体的に説明する。
当該ヘッドの特徴は、樽の口金との連結部分の爪の勾配にあり、それ以外の内部構造は、従来のものと同様であってもよい。例えば、
(あ)当該ヘッドの下面に、樽の口金のフランジがはまり込む円筒状の凹部が設けられている点、
(い)凹部入口の開口周縁に3つの爪が設けられている点、それによって、凹部入口の開口形状が口金のフランジの外周形状と相似しフランジを凹部内にはめ込むことが可能になっている点、
(う)フランジを凹部内にはめ込んだ後、当該ヘッドを、前進方向に回すと、3つの爪がフランジの3つの舌部を抱え込んで連結が達成され得る構成となっている点、
(え)その他、レバーの操作によって口金のスピアバルブを開き、炭酸ガスを樽内に流入させながら、内部の液体を取り出す流路が構成される点、
など、特徴部分以外の構成は、図5〜図9を用いた上記説明を本発明の説明として転用してよいし、本発明独自の改善をさらに施してもよい。
【0017】
図1は、当該ヘッドの特徴部分である3つの爪の位置とそれぞれの勾配を示した図である。図1(a)は、図8と同様、当該ヘッドの凹部を下方から見た図であって、この方向から見える形状や寸法は、従来のものと同様であり、樽のフランジに対する連結の点では互換性がある。図1(b)〜(d)は、凹部内の中央から外周方向(矢印A、B、Cの方向)に位置する3つの爪2a、2b、2cを見たときの、それぞれの爪の形状を示した図(爪を凹部中央から見たときの側面図)である。
ヘッドを取り付ける際の前進方向は、図1(a)では反時計周りの方向であって、図1(a)〜(d)では右方向である。
3つの爪2a、2b、2cの上面(凹部奥側の面)には、前進方向の先端側に、フランジの舌部を誘い込むための勾配が設けられている。本発明の特徴は、3つの爪2a、2b、2cのうちの1つまたは2つの爪(図1の例では1つの爪2a)の勾配21aが、爪の前進方向に関して、残る爪(図1の例では2つの爪2b、2c)の勾配21b、21cよりも長い距離にわたる長勾配になっているという点にある。
このように勾配に長短を設けた構成によって、発明の効果の説明で述べたとおり、ヘッドを後退方向に回して外す際に、長勾配が先に舌部に係合し、ヘッドが傾いて内圧が開放され得る。
【0018】
長勾配を持つ爪は、3つの爪のうち1つまたは2つの爪であればヘッドを外す際の、ヘッド全体が傾く上記作用効果が得られる。なかでも、1つの爪だけに長勾配を設ける態様は、加工も簡単であり、好ましい態様である。
【0019】
図2は、爪の各部の寸法を示す図である。図2(a)は長勾配を持つ爪を示しており、図2(b)は標準勾配を持つ爪を示している。
寸法Lは、凹部の内壁に沿って円周方向(=爪の進行方向)に測定した爪の全長(円弧の長さ)、寸法Tは爪の厚さ、寸法L1、L2は、爪の進行方向に関するそれぞれの勾配の長さ、角度θ1、θ2は、それぞれの勾配の傾斜角度、寸法t1、t2は、勾配を設けたことによって残された爪の先端部の肉厚である。
一般に流通する口金のフランジの外径は65mm〜75mm程度であり、これに適切にはまり合うために、ヘッド凹部の内径は、前記フランジの外径に対して0.5mm〜2mm程度の隙間が確保されるように、大きい寸法とされる。
以下に示す爪の各部の寸法は、あくまで現在流通している樽の口金の1つに適合させるための一例であって、口金のフランジの外径に応じて、ヘッド凹部の内径も適宜変更すればよい。
【0020】
上記のような口金のフランジ、ヘッド凹部の場合、図2に示す爪の全長Lは、舌部とかみ合う面積を十分に取り、かつ、凹部の開口形状をフランジの外周形状と略相似形とするためには、30mm〜38mm程度、特に、33mm〜35mm程度が好ましい寸法である。
また、図2に示す爪の厚さTは、十分な機械的強度を確保しながらも、流通している樽の口金のフランジの下側に入り込むことができるよう、2mm〜6mm程度、特に、3mm〜4mm程度が好ましい寸法である。
【0021】
図2(a)の長勾配の長さL1を、図2(b)の標準勾配の長さL2よりも長くするためには、次の(i)および/または(ii)の態様を採用すればよい。
(i)長勾配の傾斜角度θ1を、標準勾配の傾斜角度θ2よりも小さくし、ゆるやかな傾斜角度の勾配とすることによって、L1>L2とする。これによって、爪の上面から同じ深さまで削り込んでも(t1=t2)、L1>L2となる。
(ii)長勾配を標準勾配よりも爪の上面からより深く切り欠くことによって、即ち、即ちt1<t2とすることによって、L1>L2とする。これによって、傾斜角度が同じであっても、L1>L2となる。
限られた厚さTのなかで、L1をより長くし、かつ、標準勾配との斜面の厚さ方向の差異をより大きく取って、ヘッドの傾きの効果を顕著するする点からは、上記(i)と(ii)の態様を同時に採用することが好ましい。
例えば、爪の全長Lと厚さTが上記のような範囲である場合、図2(b)の標準勾配の仕様は、傾斜角度θ2が10度〜16度程度、勾配の長さL2が5mm〜8mm、t2が2mm〜3mm程度である。
これに対して、図2(a)の長勾配は、傾斜角度θ1が3度〜8度程度、好ましくは5度〜7度程度、勾配の長さL1が15mm〜22mm、好ましくは17mm〜20mm、t2が0.5mm〜2mm程度、好ましくは1mm〜1.5mmである。
L1>L2が達成されていれば、上記寸法範囲は、長勾配と標準勾配との間で互いにオーバラップしていてもよいが、より顕著な効果が得られるためには、θ1<θ2、t1<t2である。
尚、標準勾配は、従来公知の爪の勾配の仕様を参照してもよいし、長勾配との差異をより顕著にするために、従来公知の爪の勾配よりも浅く切り欠いた勾配としてもよい。
【0022】
爪の全長Lに対して、長勾配の長さL1が占める割合Q1と、標準勾配の占める割合Q2との関係は、Q1>Q2であればよいが、Q1は60%〜40%程度が好ましく、Q2は5%〜10%程度が好ましい。
【0023】
図3は、長勾配を有する爪を有する、本発明によるディスペンスヘッドの実施例の内部構造を例示する図である。
従来のディスペンスヘッドの構成と略同様に、当該ヘッドは、本体ハウジング11を有する。本体ハウジング11は、鋳物で形成された後、切削によって細部を仕上げられている。該本体ハウジング11の中心部分には、円筒状の貫通路が設けられ、その内部に可動シリンダー13が保持されている。
本体ハウジング11の下端部には、樽の口金のフランジがはまり込む円筒状の凹部14が設けられている。該凹部入口の開口周縁に、上述した3つの爪が中央に向って張り出しており、そのうちの1つまたは2つの爪の勾配が、長勾配となっている。同図では、3つの爪のうち、長勾配を持った爪2aと、他の爪2bとが見えている。
【0024】
本体ハウジング11には、ガス供給口12が設けられ、上記中央の貫通路と連通している。ガス供給口12の先端部には、炭酸ガスボンベからのホースを連結するための継ぎ手12aがネジではめ込まれている。
本体ハウジング11には、さらに、レバー16がピボット回転軸15にて連結されており、該レバーの腕には可動シリンダー13がリンク結合している。レバーが押し下げられると、それに連動して、可動シリンダーも下降し、該可動シリンダー13の下端は、樽のスピアバルブの弁体を押し下げ、炭酸ガスの流路(可動シリンダーの外側に沿った流路)と、ビールの流路(可動シリンダーの内側に沿った流路)が連通する構成となっている。
【0025】
当該ディスペンスヘッド、とりわけ、本体ハウジングは鋳造品であり、その材料は、真鍮、砲金または青銅などの銅合金、その他、アルミニウム、アルミニウム合金など、従来公知の鋳造用の金属材料であってもよいが、本発明では、ステンレス鋼を推奨する。好ましいステンレス鋼としては、JIS G5121:2003「ステンレス鋼鋳鋼品」に規定された、SCS13やSCS16が挙げられる。特に、SCS16は、相手方の口金フランジの標準的な材質であるSUS304材と異なる組成を持ち、カジリや磨耗が発生し難い材質である事に加え、耐蝕性にも優れるので、本発明のディスペンスヘッドの好ましい材料である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ビールや発泡酒、アルコール類、水、清涼飲料水、ジュースなど、種々の飲料を容器に収容し、その口金のスピアバルブから内部にガスを送り込んで、外部に該飲料を取り出すためのディスペンスヘッドとして好ましく用いることができる。
本発明によって、容器の口金に連結されたヘッドを外すために該ヘッドを後退方向に回すと、長勾配の存在によって、ヘッド全体が傾くことができる。これによって、容器内の圧力を開放するのを忘れたり、あるいは、圧力の開放が不十分であっても、内部のガスが開放され、ヘッドを口金から外す瞬間に生じる固着現象や、ヘッドの爪の勾配先端のカジリが抑制され、ヘッドが長持ちする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のディスペンスヘッドの3つの爪の位置とそれぞれの勾配を示した図である。
【図2】本発明のディスペンスヘッドにおける、爪の各部の寸法を示す図である。
【図3】本発明によるディスペンスヘッドの実施例の内部構造を例示する図である。
【図4】長勾配と標準勾配とによって得られる作用を説明する図である。
【図5】スピアバルブとディスペンスヘッドとを用いた飲料の供給システムを説明する図である。ディスペンスヘッドには、ハッチングを施している。
【図6】樽の口金にディスペンスヘッドが連結されている状態をさらに拡大して示した断面図である。
【図7】口金のフランジと、ディスペンスヘッドの爪とが、どのように着脱自在にかみ合い連結されるかを、より判り易く示した斜視図であって、口金の上面側と、ディスペンスヘッドの下面側の凹部とをそれぞれ見せている。中央のバルブ開閉に関係する部分については図示を省略している。
【図8】口金のフランジにディスペンスヘッドの爪が係合する様子を示した図であって、説明の便宜上、ディスペンスヘッドの下面を見た状態として描いている。フランジには、ディスペンスヘッドと区別し易いように、ハッチングを施している。
【図9】フランジの舌部に、爪が係合していく様子をさらに詳しく拡大した断面図である。
【図10】フランジの舌部と爪との局所的な固着が生じるメカニズムを説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ディスペンスヘッド
2a〜2c 爪
21a 長勾配
21b、21c 標準勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の口金に対して着脱可能に連結され、該口金に設けられた開閉バルブを開いて容器内の液体を取り出す流路を提供するディスペンスヘッドであって、
前記口金は、当該ディスペンスヘッドと連結するためのフランジを有し、該フランジの外周には、均等な間隔をおいた3箇所にそれぞれ外側に張り出した舌部が設けられ、
当該ディスペンスヘッドには、前記口金のフランジがはまり込む円筒状凹部が設けられており、該凹部入口の開口周縁には、均等な間隔をおいた3箇所にそれぞれ中心に向って張り出した爪が設けられており、これによって、凹部入口の開口形状は前記口金のフランジの外周形状と略相似しフランジを凹部内にはめ込むことが可能になっており、かつ、フランジを凹部内にはめ込んだ後、当該ディスペンスヘッドを、凹部入口の開口周縁に沿った一方の方向である前進方向に回すと、3つの爪がフランジの3つの舌部を抱え込んで連結が達成され得る構成となっており、
前記3つの爪の上面には、前記前進方向の先端側に、フランジの舌部を誘い込むための勾配が設けられており、前記3つの爪のうちの1つまたは2つの爪の勾配が、残る他の爪の勾配よりも、爪の前進方向に関して長い距離にわたる勾配とされていることを特徴とする、ディスペンスヘッド。
【請求項2】
上記長い距離にわたる勾配を持つ爪の数が1つである、請求項1記載のディスペンスヘッド。
【請求項3】
長い距離にわたる勾配が、残る他の爪の勾配よりもゆるやかな傾斜角度の勾配とすることによって、および/または、残る他の爪の勾配よりも爪の上面からより深く切り欠くことによって、長い距離にわたる勾配となっている、請求項1または2記載のディスペンスヘッド。
【請求項4】
当該ディスペンスヘッドの材料が、ステンレス鋼である、請求項1〜3のいずれかに記載のディスペンスヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−273572(P2008−273572A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119415(P2007−119415)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【特許番号】特許第4012564号(P4012564)
【特許公報発行日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(591145483)原田産業株式会社 (23)
【出願人】(598128742)伊吹工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】