説明

ディップ成形用組成物およびディップ成形体

【課題】
強度に優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用組成物、および、該ディップ成形用組成物を成形してなるディップ成形体を提供する。
【解決手段】
重量平均分子量が10,000〜5,000,000である、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスと、
硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなるディップ成形用組成物を提供する。
そして、前記ラテックスの体積平均粒子径が0.5μm〜10μm、電導度が1.0mS/cm〜2.0mS/cm、かつ、脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量が500重量ppm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用組成物に係り、さらに詳しくは、強度に優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムのラテックスを含有するディップ成形用組成物をディップ成形して、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形体が得られることが知られている。しかしながら、天然ゴムのラテックスは、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、生体粘膜又は臓器と直接接触するディップ成形体としては問題がある場合があった。そのため、天然ゴムのラテックスではなく、合成ポリイソプレンゴムやスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスを用いる検討がされてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、合成ポリイソプレンのラテックスを密閉ディスク型連続遠心分離機で濃縮する技術が開示されている。また、特許文献2には、合成ポリイソプレンのラテックスに、硫黄、酸化亜鉛、特定の加硫促進剤および分散剤を配合したディップ成形用組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、特定の分散剤を配合したディップ成形用組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、近年、ディップ成形体を手袋等にした場合の要求特性が厳しくなり、更なる強度の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−179680号公報
【特許文献2】特開2009−209229号公報
【特許文献3】特開2011−219543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、強度に優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の重量平均分子量を有する、特定の重合体ラテックスと、硫黄系加硫剤および加硫促進剤とを含有するディップ成形用組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
重量平均分子量が10,000〜5,000,000である、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスと、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなるディップ成形用組成物が提供される。
そして、前記ラテックスの体積平均粒子径が0.5μm〜10μm、電導度が1.0mS/cm〜2.0mS/cm、かつ、脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量が500重量ppm以下であることが好ましい。
また、前記脂環族炭化水素溶媒がシクロヘキサンであり、前記芳香族炭化水素溶媒がトルエンであることが好ましい。
さらに、上記ディップ成形用組成物が、酸化亜鉛を含有してなることが好ましい。
また、本発明によれば、上記のディップ成形用組成物を、ディップ成形してなるディップ成形体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度に優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用組成物、および、該ディップ成形用組成物を成形してなるディップ成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のディップ成形用組成物は、重量平均分子量が10,000〜5,000,000である、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と略すことがある。)のラテックスと、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなる。
【0011】
合成ポリイソプレンラテックス
本発明で用いる合成ポリイソプレンラテックスは、イソプレンを重合して得られる合成ポリイソプレンのラテックスである。
合成ポリイソプレンは、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレンのイソプレン単位の含有量は、柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体が得られ易いことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0012】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレンなどのビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体;が挙げられる。なお、これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独でも、複数種を併用しても良い。
【0013】
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2−ビニル結合単位、3,4−ビニル結合単位の4種類が存在する。
そして、ディップ成形体の引張強度向上の観点から、合成ポリイソプレンに含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0014】
合成ポリイソプレンの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、10,000〜5,000,000、好ましくは500,000〜5,000,000、特に好ましくは800,000〜3,000,000である。合成ポリイソプレンの重量平均分子量が小さ過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に大き過ぎると、合成ポリイソプレンのラテックスが製造し難くなる傾向がある。
また、合成ポリイソプレンのポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は、50〜80、好ましくは60〜80、特に好ましくは70〜80である。
【0015】
合成ポリイソプレンラテックス中のラテックス粒子(合成ポリイソプレン粒子)の体積平均粒子径は、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは0.5〜3μm、特に好ましくは0.5〜2μmである。この体積平均粒子径が小さすぎると、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱い難くなる場合があり、逆に大きすぎると、合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成する場合がある。
【0016】
合成ポリイソプレンラテックスの電導度は、1.0mS/cm〜2.0mS/cmであることが好ましい。電導度が1.0mS/cm未満の場合は乳化時や濃縮時に凝集物が多量に発生する場合がある。また、電導度が2.0mS/cmを超える場合には、脱溶剤時に発泡が激しくなったり、ディップ成形用組成物を移送する際や配合時に泡立ちが激しく、手袋にピンホールなどの欠陥を残す場合がある。
なお、電導度は、METTLER TOLEDO社製導電率計(商品名:SG78−FK2)を使用し、測定温度25℃で測定した値である。
【0017】
合成ポリイソプレンラテックスの脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量は500重量ppm以下であることが好ましい。また、脂環族炭化水素溶媒としてはシクロヘキサンが好ましく、芳香族炭化水素溶媒としてはトルエンが好ましい。脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量、特にシクロヘキサンおよびトルエンの合計含有量が多すぎると、ディップ成形用組成物の臭気がきつくなる傾向がある。
ここで、上記脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒は、合成ポリイソプレンラテックスを製造する際に、後述する、合成ポリイソプレンを溶解または微分散するための有機溶媒である。
なお、脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量の測定は、ガスクロマトグラフィー法など、一般的に使用可能な測定方法で測定することができる。
【0018】
本発明で用いる合成ポリイソプレンラテックスの製造方法としては、例えば、(1)有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独または、イソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、が挙げられるが、イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成ポリイソプレンを用いることができ、引張強度に優れるディップ成形体が得られる点から、上記(1)の製造方法が好ましい。
【0019】
合成ポリイソプレンは、従来公知の方法、例えばトリアルキルアルミニウム−四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンを溶液重合して得ることができる。そして、得られた合成ポリイソプレンの重合体溶液を、そのまま用いても良いが、該重合体溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、その固形の合成ポリイソプレンを有機溶媒に溶解して用いることもできる。
この際、ポリイソプレンを合成した後に、重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。
また、市販の固形の合成ポリイソプレンを用いることもできる。
【0020】
上記(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、芳香族炭化水素溶媒および脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンおよびトルエンが特に好ましい。
なお、有機溶媒の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20〜1,500重量部である。
【0021】
上記(1)の製造方法で用いる界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸、ロジン酸の如き脂肪酸のナトリウムまたはカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性の界面活性剤;等が挙げられるが、アニオン性界面活性剤が好適であり、ロジン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。なお、これらの界面活性剤は、1種単独でも2種以上を併用しても良い。
【0022】
界面活性剤の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部である。この量が少なすぎると、ラテックスの安定性が劣る傾向にあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、ディップ成形時に問題が起きる可能性がある。
【0023】
上記(1)の製造方法で使用する水の量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは50〜5,000重量部、より好ましくは100〜3,000重量部である。
使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げれる。また、メタノールなどのアルコールに代表される極性溶媒を水と併用してもよい。
【0024】
合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機又は分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。そして、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水および/または合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液または微細懸濁液に添加しても、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0025】
乳化装置としては、例えば、商品名:ホモジナイザー(IKA社製)、商品名:ポリトロン(キネマティカ社製)、商品名:TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名:TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、商品名:コロイドミル(神鋼パンテック社製)、商品名:スラッシャー(日本コークス工業社製)、商品名:トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、商品名:キャビトロン(ユーロテック社製)、商品名:マイルダー(太平洋機工社製)、商品名:ファインフローミル(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;商品名:マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製)、商品名:ナノマイザー(ナノマイザー社製)、商品名:APVガウリン(ガウリン社製)等の高圧乳化機;膜乳化機(冷化工業社製)等の膜乳化機;商品名:バイブロミキサー(冷化工業社製)等の振動式乳化機;商品名:超音波ホモジナイザー(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。なお、乳化装置による乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すれば良い。
【0026】
上記(1)の方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを得ることが好ましい。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0027】
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよい。
【0028】
本発明で用いる合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%である。固形分濃度が低すぎると、合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、合成ポリイソプレン粒子が分離する懸念があり、逆に高すぎると、合成ポリイソプレン粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生する場合がある。
【0029】
また、合成ポリイソプレンラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合しても良い。
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0030】
SISラテックス
本発明で用いるSISラテックスは、スチレンとイソプレンのブロック共重合体(SIS)のラテックスである(「S」はスチレンブロック、「I」はイソプレンブロックをそれぞれ表す。)。
SIS中のスチレンブロックにおけるスチレン単位の含有量は、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは100重量%である。
また、SIS中のイソプレンブロックにおけるイソプレン単位の含有量は、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは100重量%である。
なお、SIS中のスチレン単位とイソプレン単位の含有割合は、「スチレン単位:イソプレン単位」の重量比で、好ましくは1:99〜95:5、より好ましくは5:95〜90:10、特に好ましくは10:90〜80:20の範囲である。
【0031】
SISの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、10,000〜5,000,000、好ましくは500,000〜5,000,000、特に好ましくは800,000〜3,000,000である。SISの重量平均分子量が小さ過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に大き過ぎると、SISのラテックスが製造し難くなる傾向がある。
【0032】
SISラテックス中のラテックス粒子(SIS粒子)の体積平均粒子径は、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは0.5〜3μm、特に好ましくは0.5〜2μmである。この体積平均粒子径が小さすぎると、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱い難くなる場合があり、逆に大きすぎると、SISラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成する場合がある。
【0033】
SISラテックスの電導度は、1.0mS/cm〜2.0mS/cmであることが好ましい。電導度が1.0mS/cm未満の場合は乳化時や濃縮時に凝集物が多量に発生する場合がある。また、電導度が2.0mS/cmを超える場合には、脱溶剤時に発泡が激しくなったり、ディップ成形用組成物を移送する際や配合時に泡立ちが激しく、手袋にピンホールなどの欠陥を残す場合がある。
なお、電導度は、METTLER TOLEDO社製導電率計(商品名:SG78−FK2)を使用し、測定温度25℃で測定した値である。
【0034】
SISラテックスの脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量は500重量ppm以下であることが好ましい。また、脂環族炭化水素溶媒としてはシクロヘキサンが好ましく、芳香族炭化水素溶媒としてはトルエンが好ましい。脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量、特にシクロヘキサンおよびトルエンの合計含有量が多すぎると、ディップ成形用組成物の臭気がきつくなる傾向がある。
ここで、上記脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒は、SISラテックスを製造する際に、後述する、SISを溶解または微分散するための有機溶媒である。
なお、脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量の測定は、ガスクロマトグラフィー法など、一般的に使用可能な測定方法で測定することができる。
【0035】
本発明で用いるSISラテックスの製造方法としては、合成ポリイソプレンラテックスと同様であり、(3)有機溶媒に溶解または微分散したSISの溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、SISラテックスを製造する方法、が好ましい。
【0036】
SISは、従来公知の方法、例えばn−ブチルリチウムなどの活性有機金属を開始剤として、不活性重合溶媒中で、イソプレンとスチレンとをブロック共重合して得ることができる。そして、得られたSISの重合体溶液を、そのまま用いても良いが、該重合体溶液から固形のSISを取り出した後、その固形のSISを有機溶媒に溶解して用いることもできる。
この際、SISを合成した後に、重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。
また、市販の固形のSISを用いることもできる。
【0037】
上記(3)の製造方法で用いる有機溶媒としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを使用することができ、芳香族炭化水素溶媒および脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンおよびトルエンが特に好ましい。
なお、有機溶媒の使用量は、SIS100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20〜1,500重量部である。
【0038】
上記(3)の製造方法で用いる界面活性剤としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができ、アニオン性界面活性剤が好適であり、ロジン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0039】
界面活性剤の使用量は、SIS100重量部に対して、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部である。この量が少なすぎると、ラテックスの安定性が劣る傾向にあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、ディップ成形時に問題が起きる可能性がある。
【0040】
上記(3)の製造方法で使用する水の量は、SIS100重量部に対して、好ましくは50〜5,000重量部、より好ましくは100〜3,000重量部である。
使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げれる。また、メタノールなどのアルコールに代表される極性溶媒を水と併用してもよい。
【0041】
SISの有機溶媒溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができる。そして、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水および/またはSISの有機溶媒溶液または微細懸濁液に添加しても、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0042】
上記(3)の方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去して、SISラテックスを得ることが好ましい。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0043】
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、SISラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよい。
【0044】
本発明で用いるSISラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%である。固形分濃度が低すぎると、SISラテックスを貯蔵した際に、SIS粒子が分離する懸念があり、逆に高すぎると、SIS粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生する場合がある。
【0045】
また、SISラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合しても良い。pH調整剤としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができ、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0046】
ディップ成形用組成物
本発明のディップ成形用組成物は、上記のラテックスに加えて、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなる。
【0047】
硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノール・ジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノンー2)、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。なかでも、硫黄が好ましく使用できる。これらの硫黄系加硫剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0048】
硫黄系加硫剤の使用量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。この量が少なすぎても、多すぎても、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向がある。
【0049】
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。 これらの加硫促進剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0050】
加硫促進剤の使用量は、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、更に好ましくは0.1〜2重量部である。この量が少ないとディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。また、この量が過大であると、ディップ成形体の伸び、および引張強度が低下する場合がある。
【0051】
本発明のディップ成形用組成物は、さらに酸化亜鉛を含有することが好ましい。
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜2重量部である。この量が少なすぎるとディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ディップ成形用組成物中の合成ポリイソプレン粒子やSIS粒子の安定性が低下して粗大な凝集物が発生する場合がある。
【0052】
本発明のディップ成形用組成物は、分散剤として、重量平均分子量が1,000〜150,000である不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩を含有していることが好ましい。
【0053】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体を形成する不飽和結合含有非極性化合物は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭化水素化合物であれば特に限定されないが、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロモノオレフィン;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエンなどの共役ジエン;スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル炭化水素;などが挙げられる。中でも、分散安定化効果により優れる点から、芳香族ビニル炭化水素が好ましく、スチレンがより好ましい。これらの不飽和結合含有非極性化合物は、1種単独で、または2種以上を併用しても良い。
【0054】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体を形成するエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノブチル、シトラコン酸モノシクロヘキシルなどを挙げることができるが、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸モノブチルが好ましい。なお、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルは、予め塩基を用いて中和し、塩構造の状態で用いることもできる。
また、これらのエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルは、1種単独で、または2種以上を併用して用いても良い。
【0055】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体は、従来公知の重合方法により製造することができる。
例えば、上述の不飽和結合含有非極性化合物とエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルを所望の割合で混合し、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物を重合開始剤として用いて、重合することにより製造できる。
また、重合体の分子量は、重合開始剤の濃度や重合温度を調節したり、分子量調整剤として機能するチオール化合物やアルコール化合物を適量添加することにより、調整することができる。
【0056】
なお、不飽和結合含有非極性化合物とエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物との重合体を形成した後、重合体中のジカルボン酸無水物基に、対応するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールを反応させて、ジカルボン酸のモノエステル構造に変換することもできる。
これらの不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体は、1種単独で、または2種以上を併用して用いてもよい。
【0057】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体において、不飽和結合含有非極性化合物に由来する単位とエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルに由来する単位とのモル比は、好ましくは30:70〜80:20、より好ましくは40:60〜75:25である。この範囲にあると、分散安定化効果が向上する傾向がある。
【0058】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜150,000、より好ましくは3,000〜120,000、特に好ましくは3,000〜100,000である。重量平均分子量が上記範囲にある場合に、得られるディップ成形用組成物の貯蔵安定性が向上する傾向がある。
【0059】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩は、塩構造のエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルを用いない場合には、得られた重合体を塩基と反応させて重合体中のカルボキシル基を中和することにより、塩構造へ変換して製造することができる。
【0060】
中和に用いる塩基としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアンモニウム、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;が挙げられ、水酸化ナトリウムが好適に使用される。
中和反応の反応率(重合体中の全カルボキシル基のうち、塩基によって中和された割合)は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、重合体中のカルボキシル基を全て中和させることが特に好ましい。
【0061】
なお、不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体およびその塩は、市販品を用いることもできる。
【0062】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩の使用量は、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.3〜3重量部である。この量が少ないとディップ成形用組成物の貯蔵安定性が低下する傾向があり、逆に量が過大であると、ディップ成形用組成物が泡立ち易くなり、ディップ成形体にピンホールが形成される不具合が起きる場合がある。
【0063】
不飽和結合含有非極性化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩は、塩構造を形成しているため、水に溶解し易く、水溶液の状態で取り扱うことができる。 その濃度は、特に限定されないが、5〜45重量%が好ましい。
【0064】
本発明のディップ成形用組成物は、ジチオカルバミン酸類の一価の塩(上述の「加硫促進剤」に該当するものは除く)を含有することが好ましい。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の含有量は、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.6重量部、特に好ましくは0.2〜0.5重量部である。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の含有量が少ないと、加硫時間が長くなる傾向があり、逆に多いと、ディップ成形用組成物の保存期間を長くした場合に、得られるディップ成形体にクラックが発生してその商品価値が著しく低下する。
【0065】
ジチオカルバミン酸類の一価の塩を形成するジチオカルバミン酸類としては、ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸などが挙げられる。
また、ジチオカルバミン酸類の一価の塩を形成する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミン、ピペリジンなどの有機アミン;が挙げられる。
【0066】
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジブチルジチオカルバミン酸カリウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸カリウムなどのジチオカルバミン酸類のアルカリ金属塩;ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジブチルジチオカルバミン酸アンモニウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸アンモニウムなどのジチオカルバミン酸類のアンモニウム塩;ジメチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジエチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジブチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩などのジチオカルバミン酸類のピペリジン塩;などが挙げられるが、加硫時間を短縮することが可能で、また加硫時間を長くした場合でもディップ成形体におけるクラックの発生を抑制でき易いことから、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムおよびN−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩が好ましい。
これらのジチオカルバミン酸類の一価の塩は、1種単独で、または2種以上を併用して用いてもよい。
【0067】
ジチオカルバミン酸類の一価の塩が水溶性であれば、水溶液の状態で添加することができる。ジチオカルバミン酸類の一価の塩を水溶液の状態で取り扱う場合、その濃度は、特に限定されないが、通常、2〜30質量%である。あまりに高濃度の水溶液の状態で、合成ポリイソプレンラテックスおよび/またはSISのラテックスに添加すると、添加時に粗大凝集物を発生する場合がある。
【0068】
本発明のディップ成形用組成物には、さらに、老化防止剤;カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;紫外線吸収剤;可塑剤;等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0069】
老化防止剤としては、2,6−ジ−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2’−メチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、などの硫黄原子を含有しないフェノール系老化防止剤;2,2’−チオビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノールなどのチオビスフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、4,4’―(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5−ジ−(t−アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの老化防止剤は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0070】
老化防止剤の使用量は、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
この量が少ないと、合成ポリイソプレンまたはSISが劣化する場合がある。また、この量が過大であると、ディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
【0071】
ディップ成形用組成物の調製方法は、特に限定されない。当該調整方法としては、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、合成ポリイソプレンおよび/またはSISのラテックスに、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、上記の分散剤およびジアルキルジチオカルバミン酸類の一価の塩、並びに必要に応じて配合される老化防止剤などのその他の配合剤を混合する方法や、予め上記の分散機を用いて、合成ポリイソプレンおよびSISのラテックス以外の所望の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液を合成ポリイソプレンおよび/またはSISのラテックスに混合する方法などが挙げられる。また、合成ポリイソプレンおよび/またはSISのラテックスに前記の分散剤およびジアルキルジチオカルバミン酸の一価の塩を予め混合した後、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、および老化防止剤などのその他の配合剤、を添加することもできる。
【0072】
ディップ成形用組成物のpHは、7以上であることが好ましく、pH8〜12の範囲であることがより好ましい。
また、ディップ成形用組成物の固形分濃度は、15〜65重量%の範囲にあることが好ましい。
【0073】
本発明のディップ成形用組成物は、ディップ成形に供する前に、熟成(前加硫ともいう。)させることが好ましい。
前加硫する時間は、特に限定されず、前加硫温度にも依存するが、好ましくは1〜14日間であり、更に好ましくは1〜7日間である。この時間が短すぎても長すぎても得られるディップ成形体の引張強さが低下する傾向にある。
また、前加硫温度は、好ましくは31〜40℃である。
そして、前加硫した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形体の引張強さが低下する傾向にある。
【0074】
ディップ成形体
本発明のディップ成形体は、本発明のディップ成形用組成物をディップ成形して得られる。
ディップ成形は、ディップ成形用組成物に型を浸漬し、型の表面に当該組成物を沈着させ、次に型を当該組成物から引き上げ、その後、型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。
ディップ成形用組成物に浸漬される前の型は予熱しておいても良い。
型をディップ成形用組成物に浸漬する前、または、型をディップ成形用組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
凝固剤の使用方法の具体例としては、ディップ成形用組成物に浸漬する前の型を凝固剤の溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ディップ成形用組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0075】
凝固剤の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。
これらの水溶性多価金属塩は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0076】
凝固剤は、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメチルアルコール、エチルアルコールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有していても良い。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0077】
型をディップ成形用組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された沈着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択すれば良い。
次いで、加熱して、型上に形成された沈着物を加硫する。
加硫時の加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは60〜150℃、より好ましくは100〜130℃の加熱温度で、好ましくは10〜120分の加熱時間である。
加熱の方法は、特に限定されないが、オーブンの中で温風で加熱する方法、赤外線を照射して加熱する方法などがある。
【0078】
また、ディップ成形用組成物を沈着させた型を加熱する前あるいは加熱した後に、水溶性不純物(例えば、余剰の界面活性剤や凝固剤)を除去するために、型を水または温水で洗浄することが好ましい。
【0079】
加硫後のディップ成形体は、型から脱着される。脱着方法の具体例は、手で型から剥がす方法、水圧又は圧縮空気圧力により剥がす方法、などがある。加硫途中のディップ成形体が脱着に対する十分な強度を有していれば、加硫途中で脱着し、引き続き、その後の加硫を継続してもよい。
【0080】
ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子または澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「%」および「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の物性は以下のように測定された。
【0082】
重量平均分子量
合成ポリイソプレンラテックスまたはSISラテックスを固形分濃度で0.1重量%となるように、テトラヒドロフランに溶解した。この溶液をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として算出した。
シス結合単位量
合成ポリイソプレンラテックスにメタノールを添加し、凝固した。得られた凝固物を乾燥した後、H−NMR分析して、合成ポリイソプレン中の全イソプレン単位に対するシス結合単位の割合を示した。
体積平均粒子径
光散乱回折粒子測定装置(コールター社製:商品名「LS−230」)を用いて、ラテックス粒子の体積平均粒子径を求めた。
ディップ成形体の引張強さ
ディップ成形体の引張強さは、ASTM D412に基づいて測定した。
ディップ成形フィルムをダンベル(Die−C)で打ち抜き、引張強度測定用試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTC−1225A」、(株)オリエンテック製)で引張速度500mm/minで引っ張り、破断直前の引張強さ(単位:MPa)を測定した。
なお、下記の実施例においては、合成ポリイソプレンを用いた例を示すが、SISやSI(スチレン−イソプレンブロック共重合体)を用いても、同様に実施することができる。
【0083】
実施例1
(合成ポリイソプレンラテックス)
重量平均分子量が1,300,000の合成ポリイソプレン(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン(株)製、イソプレンの単独重合体、シス結合単位量98%)をシクロヘキサンと混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、B型粘度計で測定した粘度が12000mPa・sのポリイソプレンのシクロヘキサン溶液(a)を調整した(固形分濃度8重量%)。
一方、ロジン酸ナトリウムとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを水と混合し、重量比で、ロジン酸ナトリウム/ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム=2/1の混合物を含有してなる、温度60℃で濃度1.5重量%の乳化剤水溶液(b)を調整した。
次に、上記シクロヘキサン溶液(a)と、上記乳化剤水溶液(b)とを、重量比で1:1.2となるように、商品名:マルチラインミキサーMS26−MMR−5.5L(佐竹化学機械工業株式会社製)を用いて混合し、続いて、商品名:マイルダーMDN310(太平洋機工株式会社製)を用い4100rpmで混合及び乳化して、乳化液(c)を得た。なお、その際、シクロヘキサン溶液(a)と乳化剤水溶液(b)の合計のフィード流速は2,000kg/hr、温度は60℃、背圧は0.5MPaとした。
次いで、乳化液(c)を、−0.01〜−0.09MPa(ゲージ圧)の減圧下で80℃に加温し、シクロヘキサンを留去し、合成ポリイソプレンの水分散液(d)を得た。その際、消泡剤として、商品名:SM5515(東レ・ダウコーニング社製)を用い、乳化液(c)中の合成ポリイソプレンに対して300重量ppmの量になるよう、噴霧しながら連続添加を行った。
なお、シクロヘキサンを留去する際には、乳化液(c)がタンクの容積の70体積%以下になるように調整し、かつ、攪拌翼として3段の傾斜パドル翼を用い、60rpmでゆっくり攪拌を実施した。
そして、得られたシクロヘキサンの留去が完了した後、得られた水分散液(d)を、連続遠心分離機(商品名:SRG510、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離し、軽液としての固形分濃度57重量%の合成ポリイソプレンラテックス(e)と、重液としての残液(f)を得た。なお、遠心分離の際の条件は、遠心分離前の水分散液(d)の固形分濃度10重量%、連続遠心分離時の流速は1300kg/hrであった。
【0084】
得られた合成ポリイソプレンラテックス(e)は、重量平均分子量が1,600,000、体積平均粒子径が1.2μm、電導度(25℃)が1.2mS/cm、pH=10、表面張力が32mN/m、B型粘度計で測定した粘度が100mPa・s、シクロヘキサン含有量が50重量ppm、乳化剤含有量が合成ポリイソプレン100部あたり3部であった。また、ラテックス(e)中の凝集物は観察されなかった。なお、ラテックス(e)中の合成ポリイソプレンのシス結合単位の割合は、98重量%であった。
【0085】
また、重液としての残液(f)を、ろ過機(商品名:SSDF、寿工業社製)でろ過し、乳化剤と水からなる「ろ液」を、上記乳化剤水溶液(b)の一部として再使用を行った。
【0086】
(ディップ成形用組成物)
上記で得た合成ポリイソプレンラテックス(e)を攪拌しながら、5重量%ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液を添加した(添加量は、合成ポリイソプレン100部に対して、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.4部)。
次に、スチレン−マレイン酸モノ−sec−ブチルエステル−マレイン酸モノメチルエステル重合体(商品名:Scripset550、Hercules社製)を、水酸化ナトリウムを用い、重合体中のカルボキシル基を100%中和して、分散剤(g)としてのナトリウム塩水溶液(濃度10重量%)を調整した。そして、この分散剤(g)を、合成ポリイソプレン100部に対して、固形分換算で0.6部になるようにして添加した。
そして、得られた混合物を攪拌しながら、混合物中の合成ポリイソプレン100部に対して、固形分換算で、酸化亜鉛1.5部、硫黄1.5部、老化防止剤(商品名:Wingstay L、グッドイヤー社製)2部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.35部、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩0.3部となるように、各配合剤の水分散液を添加した後、水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを10.5に調整したディップ成形用組成物(h)を得た。
その後、得られたディップ成形用組成物(h)を、25℃で96時間熟成した。
【0087】
(ディップ成形体)
表面がすり加工されたガラス型(直径約5cm、すり部長さ約15cm)を洗浄し、70℃のオーブン内で予備加熱した後、16重量%の硝酸カルシウムおよび0.05重量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:エマルゲン109P、花王(株)製)からなる凝固剤水溶液に5秒間浸漬し、取り出した。
次いで、凝固剤で被覆されたガラス型を70℃のオーブン内で乾燥した。その後、凝固剤で被覆されたガラス型をオーブンから取り出し、25℃の上記ディップ成形用組成物(h)に10秒間浸漬してから取り出し、室温で60分間乾燥した。フィルムで被覆されたガラス型をオーブン内に置き、25分間で50℃から60℃まで昇温して予備乾燥し、70℃のオーブン内に10分間置いて更に乾燥した。そして、ガラス型を60℃の温水中に2分間浸漬した後、室温で10分間風乾した。その後、フィルム状の合成ポリイソプレンで被覆されたガラス型をオーブン内に置き、100℃で60分間加硫を行った。加硫されたフィルムで被覆されたガラス型を室温まで冷却し、タルクを散布した後、当該フィルムをガラス型から剥離した。得られたフィルム状の合成ポリイソプレン(ディップ成形体)の引張強さを測定した結果、破断強度が19MPa、300%伸張時応力が1.7MPaであった。
【0088】
実施例1の連続遠心分離によって得られた合成ポリイソプレンラテックス(e)は、凝集物が観察されず、ろ過等の凝集物の除去工程が不要であり、操業性に優れていた。
また、実施例1のディップ成形用組成物をディップして得られるディップ成形体は、破断強度と300%伸張時強度が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のディップ成形用組成物をディップ成形してなる成形体は、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;手術用、診察用、家庭用、農業用、漁業用および工業用の手袋;指サックなどに好適である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10,000〜5,000,000である、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスと、
硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなるディップ成形用組成物。
【請求項2】
前記ラテックスの体積平均粒子径が0.5μm〜10μm、電導度が1.0mS/cm〜2.0mS/cm、かつ、脂環族炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒の合計含有量が500重量ppm以下である、請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
前記脂環族炭化水素溶媒がシクロヘキサンであり、前記芳香族炭化水素溶媒がトルエンである請求項2に記載のディップ成形用組成物。
【請求項4】
さらに、酸化亜鉛を含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載のディップ成形用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のディップ成形用組成物を、ディップ成形してなるディップ成形体。

【公開番号】特開2012−62487(P2012−62487A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−284803(P2011−284803)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】