説明

デポジットクリーナー

【課題】硫酸塩などの水溶性成分を含むデポジットを効率良く清浄することのできるデポジットクリーナーを提供する。
【解決手段】ポリオキシエチレン合成アルコールエーテルなどの、HLBが2.8〜18.2の非イオン界面活性剤、及びジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を含むデポジットクリーナーを、非イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppm、陰イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppmとなるようにガソリン中に添加して使用することで、硫酸塩などの水溶性成分を含むインジェクターデポジットを効果的に清浄できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のインジェクター等に堆積したデポジットを洗浄するデポジットクリーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエーテルアミン(PEA)やポリブテンアミン(PBA)等のアミン系デポジットクリーナー等の油溶性デポジットクリーナーをガソリンに添加し、エンジンの内部、特にその吸気系や燃焼室の清浄を行うことがなされている。また、その他の油溶性デポジットクリーナーもそうした用途に用いられている。こうしたデポジットクリーナーとしては、例えば特許文献1〜7に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1には、含窒素化合物からなる燃料添加剤が記載されており、この燃料添加剤をガソリンに配合することで吸気弁清浄効果が得られ、また燃焼室にデポジットが堆積し難くなることが記されている。
【0004】
特許文献2には、アルキルコハク酸誘導体又はアルキルコハク誘導体にポリアミンを反応させた化合物、及びHLBが4〜14の非イオン界面活性剤を含むデポジットクリーナーが記載されており、このデポジットクリーナーによっては、インジェクターに堆積したデポジットの清浄が可能であることが記されている。
【0005】
特許文献3には、ケチミン構造を有する化合物をガソリンに配合することで、吸気弁清浄効果が得られ、また燃焼室にデポジットが堆積し難くなることが記されている。
特許文献4には、第1級アミノ基を含有するポリエーテル化合物を燃料に50〜20000ppm配合することで、デポジットの除去が可能であることが記載されている。
【0006】
特許文献5には、エンジンアイドリング中に、アルコール類を配合した2種類の薬剤をインテークマニホールドより注入することで、吸気系等に堆積したデポジットの清浄が可能であることが記載されている。
【0007】
特許文献6には、ヒドロカルビル置換ポリアミンと、ポリアミンのマンニッヒ反応生成物とを0.2:1〜1:0.2の比率で混合したものにポリエーテルアミンやポリエーテル又はその混合物を流動化剤として加えたデポジットクリーナーが記載されている。
【0008】
特許文献7には、ポリイソブテンアミンにキャリアオイル成分としてポリエーテル等を加えたデポジットクリーナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−060459号公報
【特許文献2】特開2000−008053号公報
【特許文献3】特開2001−181655号公報
【特許文献4】特開2002−020768号公報
【特許文献5】特開2004−156576号公報
【特許文献6】特表2004−537641号公報
【特許文献7】特表2005−527655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように従来、数多くのエンジンデポジットクリーナーが提案されている。これらのデポジットクリーナーは、油溶性のデポジットには、一定の効果がある。
一方、近年では、エンジン仕様や使用燃料の品質、使用環境などの変化により、硫酸塩などの水溶性成分を含むデポジットのエンジン内部への堆積が増加している。また排ガス浄化のためのEGR(排気再循環)システムもそうしたデポジットの堆積増加に影響していると考えられる。しかしながら、こうした硫酸塩などの水溶性成分を含むデポジットについては、これを効果的に清浄可能なデポジットクリーナーは未だ提案されていない。特に、アフターマーケットを対象とした個人消費向けのデポジットクリーナーとして、そうしたデポジットを効果的に清浄可能なものは、未だ実用されていないのが実情となっている。
【0011】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、硫酸塩などの水溶性成分を含むデポジットを効率良く清浄することのできるデポジットクリーナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のデポジットクリーナーは、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が2.8〜18.2の非イオン界面活性剤と、陰イオン界面活性剤とを含むとともに、非イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppm、陰イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppmとなるようにガソリン中に添加して使用されるものとなっている。
【0013】
こうしたインジェクターデポジットクリナーをガソリン中に高濃度で添加すれば、硫酸塩等の水溶性成分を含むデポジットを効率良く清浄することができる。
なお、グリコール系溶剤をさらに加えるようにすれば、より高い清浄効果が得られるようになる。このときのガソリン中のグリコール系溶剤の濃度は、10〜10000ppmとすることが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のデポジットクリーナーを具体化した一実施の形態を説明する。
本実施の形態のデポジットクリーナーは、HLBが2.8〜18.2の非イオン界面活性剤を100〜10000ppm、陰イオン界面活性剤を100〜10000ppm含むものとなっている。
【0015】
(非イオン界面活性剤)
非イオン界面活性剤は、水に溶けてもイオン性を示さないが、界面活性を呈する界面活性剤である。エステル型の非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが知られている。またエーテル型の非イオン界面活性剤としては、ポリエートルアミン(ブチレンオキサイド)、脂肪アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが知られている。本実施の形態のデポジットクリーナーには、これら非イオン界面活性剤の中から、適切なものを選択することができる。
【0016】
(陰イオン界面活性剤)
陰イオン界面活性剤は、陰イオン性の親水基を持つ界面活性剤であり、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが多い。こうした陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸型のものやスルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型、等の様々な型のものが知られている。また陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)なども知られている。本実施の形態のデポジットクリーナーには、これら陰イオン界面活性剤の中から、適切なものを選択することができる。
【0017】
こうした成分を配合したデポジットクリーナーを十分な高濃度でガソリンに添加すれば、硫酸塩などの水溶性成分を含んだインジェクターデポジットを効果的に清浄し、デポジット堆積による燃料噴射特性の劣化を回復させることができる。ちなみに、上記各成分は単体では、そうしたインジェクターデポジットの清浄効果は限定されたものであるが、それらを配合することで、相乗効果が発揮され、高い清浄効果が発揮されるようになる。
【0018】
またこれら成分にグリコール系溶剤、例えばエチレングリコールやジヒドロキシジエチルエーテル、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなど、を加えると、より高い清浄効果が得られるようになる。
【0019】
なお、ガソリンへの各界面活性剤の添加濃度の合計は、10000rpm以下とすることが望ましい。これは、10000rpm以下の添加濃度で十分な清浄効果が得られる上、それ以上の不必要な添加濃度の増大は、アフターマーケットでの使用には不適切であり、ゴムなどの部品への悪影響が懸念されるためである。
【0020】
また、非イオン界面活性剤としては、HLBが2.8〜18.2のものを使用可能であるが、より好ましくは、非イオン界面活性剤のHLBは、10以下とすることが望ましい。これは、HLBが高過ぎると、水分との分離性が悪化し、水分との間にエマルジョンやゲルが形成される可能性があり、エンジン燃料系のフィルターやノズルに目詰まりを発生させたり、燃料タンク等に腐食や錆を生じさせたりする懸念があるからである。もっとも、HLBが低過ぎても、ガソリンへの溶解性や清浄効果に問題が生じるため、HLBは、最低でも2.8以上とする必要がある。
【0021】
なお、こうした本実施の形態のデポジットクリーナーは、適正添加量分を容器に入れて販売し、ユーザー等がガソリンタンクに注入して使用することが想定される。また、上記成分のボトリングに際しては、石油系溶剤での希釈や、その他、防錆剤、抗乳化剤、アミン系デポジットクリーナーなどの、ガソリン添加剤として有効な第3成分を併せ添加することも考えられる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
表1に、本発明の実施例1〜4及び比較例1〜3の各成分の添加濃度と、その評価試験の条件及び結果を示す。実施例1〜4は、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレン合成アルコールエーテルを、陰イオン界面活性剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを、グリコール系溶剤としてジエチレングリコールモノブエチルエーテルを含み、それらの配合比率を変えたものとなっている。なお、ここで非イオン界面活性剤として使用するポリオキシエチレン合成アルコールエーテルのHLBは、「6.2」となっている。
【0023】
また比較例1は、ポリエーテルアミン(ブチレンオキサイド)を含む、従来型のアミン系デポジットクリーナーとなっている。さらに比較例2は、非イオン界面活性剤とグリコール系溶剤とを組み合わせたものであり、比較例3は、陰イオン界面活性剤とグリコール系溶剤とを組み合わせたものである。
【0024】
【表1】

各実施例及び比較例の評価試験は、市場から回収した、硫酸塩を含むデポジットで目詰まりを起したインジェクターを試験車両に装着して行っている。そして表1に示される添加濃度で各実施例及び比較例のデポジットクリーナーをガソリン中に添加し、同表に示される距離の車両走行を行った。そしてその走行後のA/F補正値の回復値及びインジェクター噴射量の回復率の測定、及び目視での外観変化の観測でインジェクターデポジットの除去効果を確認した。なお、表中の「◎」は、目視観測の結果、デポジットがほぼ完全に除去されたことが確認されたことを、「○」は、デポジットがある程度除去されたことが確認されたことを、「×」は、デポジットが殆ど除去されなかったことが確認されたことを、それぞれ示している。
【0025】
ここで、A/F補正値は、エンジンの空燃比を目標値とするための燃料噴射量の補正値であり、インジェクターの噴射率が設計値からずれるほどその値は大となる。したがって、試験後にA/F補正値が減少していれば、デポジットが除去され、インジェクターの目詰まりが解消されたことになる。なお、ここでは、車両走行距離100km当りのA/F補正値の減少量をその回復値として使用している。
【0026】
またここでのインジェクター噴射量は、エンジンの各気筒に搭載されたインジェクターの単位時間当りの静的噴射量の平均値を示しており、試験後にこの値が増加していれば、デポジットが除去され、インジェクターの目詰まりが解消されたことになる。
【0027】
比較例1のポリエーテルアミンからなるデポジットクリーナーは、硫酸塩を含むデポジットに対しての清浄効果は殆どないことが確認された。また界面活性剤として非イオン界面活性剤のみを添加した比較例2、陰イオン界面活性剤のみを添加した比較例3においても、試験前後のA/F補正値には変化がなく、やはり硫酸塩を含むデポジットに対しての清浄効果は殆どないことが確認された。
【0028】
一方、界面活性剤として非イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤の双方を添加した実施例1では、A/F補正値、インジェクター燃料噴射量のいずれにも、明らかな改善が認められた。また目視観測でもデポジットが効果的に除去されたことが確認された。このように、非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とを組み合わせることで得られる相乗効果が、硫酸塩を含むデポジットの除去に効果を発揮することが確かめられた。
【0029】
次に、非イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤の添加濃度を変えた実施例2〜4の試験結果からは、非イオン界面活性剤の濃度を減少させるとデポジットの除去効果が下がり、陰イオン界面活性剤の濃度を増加させるとデポジットの除去効果が上がることが確認された。
【0030】
以上の実施の形態及び実施例から把握される技術思想を以下に記載する。
(イ)グリコール系溶剤をさらに含むとともに、そのグリコール系溶剤のガソリン中の濃度を10〜10000ppmとして使用する請求項1に記載のデポジットクリーナー。
【0031】
(ロ)前記グリコール系溶剤として、ジエチレングリコールモノブエチルエーテルを使用する請求項1及び上記(イ)のいずれか1項に記載のデポジットクリーナー。
(ハ)前記非イオン界面活性剤のHLBを10.0以下とした請求項1及び上記(イ)、(ロ)のいずれか1項に記載のデポジットクリーナー。
【0032】
(ニ)前記非イオン界面活性剤及び前記陰イオン界面活性剤のガソリン中の濃度の合計を10000ppm以下とした請求項1及び上記(イ)〜(ハ)のいずれか1項に記載のデポジットクリーナー。
【0033】
(ホ)前記非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレン合成アルコールエーテルを使用する請求項1及び上記(イ)〜(ニ)のいずれか1項に記載のデポジットクリーナー。
【0034】
(ヘ)前記陰イオン界面活性剤として、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを使用する請求項1及び上記(イ)〜(ホ)のいずれか1項に記載のデポジットクリーナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが2.8〜18.2の非イオン界面活性剤と、陰イオン界面活性剤とを含むとともに、前記非イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppm、前記陰イオン界面活性剤の濃度が100〜10000ppmとなるようにガソリン中に添加して使用される
ことを特徴とするデポジットクリーナー。

【公開番号】特開2012−162614(P2012−162614A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22796(P2011−22796)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591125289)日本ケミカル工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】