説明

デュロキセチン前駆体の鏡像異性体の取得方法

【解決手段】本発明は、IIの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル亜鉛試薬を用いたエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法に関する:


式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換低級アルキルまたは置換または非置換アリールより選択され;
Xは-C(=O)-Zまたは-Yであって、式中-Yは-CH2-OR4、-CH2-ハロゲンまたは-CH2-NR6R7より選択され;
式中、
Zは、-NR6R7または-OR5より選択され、式中R5は、水素、置換または非置換低級アルキルまたはエステル活性化基より選択され;
R4は、水素、ヒドロキシル保護基またはヒドロキシ活性化基より選択され;
R6およびR7は、それぞれ独立して、水素、アミノ保護基、アミド保護基または置換または非置換低級アルキルより選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡像異性的に濃縮されたチエニルアルコキシプロパンアミンの新規な製造方法に関する。該化合物は、デュロキセチンの製造に有用な中間体である。
【背景技術】
【0002】
デュロキセチンとしても知られる、式Iの化合物(±)-N-メチル-N-[3-(ナフタレン-1-イルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピル]アミンは、5-HT再取り込みおよびノルエピネフリン再取り込みの強力な阻害剤であり、種々の疾患(抑鬱症、尿失禁および神経障害性疼痛)の治療用に既に発売されている。

また、デュロキセチンは、全般性不安および線維筋痛等の他の疾患の治療のための臨床試験中でもある。デュロキセチンの2つの可能な鏡像異性体のうち、右旋性鏡像異性体である(+)-デュロキセチンは、(-)-デュロキセチンより強力である。
【0003】
デュロキセチンは、式IIの化合物のO-アルキル化によって製造し得る:

【0004】
(+)-Iおよび(-)-Iの純粋な鏡像異性体は、鏡像異性的に純粋な中間体(+)-IIおよび(-)-IIを別々にO-アルキル化することによって製造し得る。従って、鏡像異性的に純粋/濃縮された中間体(+)-IIおよび(-)-IIへの合成方法が必要である。
【0005】
有機合成において、鏡像異性体の純度が高い第2級アルコールを得る、プロキラルケトンの鏡像異性体選択的還元が提案されている。従って、プロキラルケトンを鏡像異性的に濃縮されたアルコールに不斉還元する多数の戦略が開発された[R.ノヨリ(Noyori), T.オオクマ(Ohkuma), Angew. Chem. Int. Ed., 2001年, 40巻, 40-73頁, Wiley-VCH Verlag]。
【0006】
また、カナダ特許出願CA 2498756号では、式IIの化合物は、式(1)のアセチルチオフェンをアシル化し、続いてキラル触媒の存在下、不斉水素化することによって合成される。

しかし、この方法は、式IIの化合物に到達するために2工程が必要である。加えて、必要な試薬(例えば、NaH)は、工業生産には適合しない。
【0007】
独国特許出願DE 10237272号では、チオフェンカルバルデヒド誘導体をレフォルマトスキー型反応に付す。亜鉛とジアミンリガンドを組み合わせた触媒で促進される直接還元が提案されている[V. ベッテ(Bette), A: モルテロ(Mortreux), D: サヴォイア(Savoia), F:F: カーペンティア(Carpentier), Adv. Synth. Catal. 2005年, 347巻, 289-302頁]。
【0008】
プロキラルケトンの鏡像異性選択的還元の代わりに、鏡像異性的に純粋なジアリールアルコールへのアプローチとして、アリールアルデヒドへのフェニル転移反応も提案されている[P.I. ドサ(Dosa), J.C. ルブレ(Ruble), G.C. フ(Fu), J. Org. Chem. 1997年, 62巻, 444頁; W.S. ファン(Huang), L. プ(Pu), Tetrahedron Lett. 2000年, 41巻, 145頁; M. フォンテス(Fontes), X.ヴァーダグア(Verdaguer), L. ソラ(Sola), M.A. ペリカス(Pericas), A. リエラ(Riera), J. Org. Chem. 2004年, 69巻, 2532頁]。この変換のため、ボルム(Bolm)らのグループは、フェロセンから作られるリガンド(または触媒)、およびアリール源としてジエチル亜鉛と組み合わせたジフェニル亜鉛を利用するプロトコルを開発した[C. ボルム(Bolm), N. ヘルマンズ(Hermanns), M. ケッセルグルーバー(Kesselgruber), J.P. ヒルデブランド(Hildebrand), J. Organomet. Chem. 2001年, 624巻, 157頁; C. ボルム(Bolm), N. ヘルマンズ(Hermanns), A. クラセン(Classen), K. ムニズ(Muniz), Bioorg. Med. Chem. Lett. 2002年, 12巻,1795頁]。従って、優れた鏡像体過剰率を有する(最大99%ee)鏡像異性的に濃縮されたジアリールメタノールが直接的に得られた。続いて、アリール源として、空気中で安定なアリールボロン酸の適用性も実証された[C. ボルム(Bolm), J. ルドルフ(Rudolph), J. Am. Chem. Soc. 2002年, 124巻, 14850頁]。しかし、これらの系は、その高鏡像体選択性を達成するために、高量の触媒負荷(通常10モル%)が必要である。この問題を減じる目的で、フェロセンから作られる触媒も使用される反応において、代替のフェニル源としてトリフェニルボランを使用することが、近年、提案された(J. ルドルフ(Rudolph), F. シュミッド(Schmidt), C. ボルム(Bolm), Adv. Synth. Catal. 2004年, 346巻, 867頁)。これは、ヘテロ芳香族アルデヒド、例えば2-チオフェンカルバルデヒドに適用したが困難であった。
【0009】
しかし、多量の触媒を用いずに、高収率および高鏡像体選択性でキラルアルコールを得ることは、尚困難である。それらの大規模製造には、効率の高い触媒系の適用、および、安価な出発物質および簡単な精製工程を用いる鏡像選択的方法が最も望ましい。
【0010】
加えて、ヘテロアリール部分をアルデヒドに転移するためのこれらの方法の適用は、挑戦的である。文献に記載された大部分の例は、ベンザルデヒド誘導体またはアルキルアルデヒド誘導体へのフェニル転移に関する。現在のところ、β-置換アルデヒドへのチエニル試薬の鏡像体選択的負荷の例はない。
【0011】
従って、鏡像体選択的付加反応によって満足なee値を達成するため、触媒系とアルデヒドとの適当な配位が必要である。独特の基質を用いた結果は予測できず、各付加は基質に関して独立して調査しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
驚くべきことに、我々は、β-置換アルデヒドをチエニル転移反応の基質として使用し成果が上がることを発見した。従って、我々は、この方法を、式IIの化合物の鏡像異性的に純粋な中間体の合成、および、N-メチル-N-[3-(ナフタレン-1-イルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピル]アミンを得る方法、および、概してチエニルアルコキシプロパンアミンおよびその鏡像異性体に適用した。この方法は、特に産業的規模に有用であり、より少ない触媒量で高い鏡像体過剰率が得られる。加えて、原材料は費用効率が高い。さらに、重金属は使用せず、毒性不純物の存在の可能性が回避される。もう一つの利点は、方法中に産生される不純物が容易に除去されることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、キラルリガンドの存在下、チエニル亜鉛試薬を用いる、β-置換アルデヒドへのチエニル基の不斉付加方法に言及する。該方法は、式(II)の既知の中間体の製造を可能にし、その後、O-アルキル化によって、薬学的に活性なチエニルアルコキシプロパンアミン、特に薬学的活性化合物であるN-メチル-N-[3-(ナフタレン-1-イルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピル]アミンの、所望の鏡像異性体を得ることができる。
【0014】
従って、一つの態様では、本発明は、式IIの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法に関する:

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換低級アルキルまたは置換または非置換アリールより選択され;
Xは-C(=O)-Zまたは-Yであって、式中-Yは-CH2-OR4、-CH2-ハロゲンまたは-CH2-NR6R7より選択され;
式中、
Zは、-NR6R7または-OR5より選択され、式中R5は、水素、置換または非置換低級アルキルまたはエステル活性化基より選択され;
R4は、水素、ヒドロキシル保護基またはヒドロキシ活性化基より選択され;
R6およびR7は、それぞれ独立して、水素、アミノ保護基、アミド保護基または置換または非置換低級アルキルより選択され、

式中、Xは上記と同一の意味である。
【0015】
好ましい態様において、本発明は、式IIaの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIaの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法に関する:

式中、
R1、R2およびR3およびZは、上記と同一の意味であり、

式中、Zは上記と同一の意味である。
【0016】
別の好ましい態様において、本発明は、式IIbの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIbの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法に関する:

式中、
R1、R2およびR3およびYは、上記と同一の意味であり;

式中、-Yは上記と同一の意味である。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、式Vの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、
a)式IIの化合物を得るための、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含み、
さらに、
b)ヒドロキシル基のアルキル化;
c)アミド形成;
d)アミドのアミンへの還元;
e)求核置換;
e)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの保護;
f)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの脱保護;
g)塩、複合体または溶媒和形成
よりなる群から選択される1以上の工程をあらゆる順序で含む、方法に関する:

式中、
R1、R2、R3、R6およびR7 は、上記で規定したとおりであり;
R8は、水素、置換または非置換低級アルキル、ヒドロキシル保護基または、置換または非置換アリールより選択され;

式中、Xは、上記と同一の意味を有し;

式中、
R1、R2、R3およびXは、上記で規定したとおりである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
一つの態様では、本発明は、式IIの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法に関する:

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換低級アルキルまたは置換または非置換アリールより選択され;
Xは-C(=O)-Zまたは-Yであって、式中-Yは-CH2-OR4、-CH2-ハロゲンまたは-CH2-NR6R7より選択され;
式中、
Zは、-NR6R7または-OR5より選択され、式中R5は、水素、置換または非置換低級アルキルまたはエステル活性化基より選択され;
R4は、水素、ヒドロキシル保護基またはヒドロキシ活性化基より選択され;
R6およびR7は、それぞれ独立して、水素、アミノ保護基、アミド保護基または置換または非置換低級アルキルより選択され、

式中、Xは上記と同一の意味である。
【0019】
このような方法により、式IIの所望の化合物が高い転化率および鏡像体過剰率で得られる。この方法は、反応中に使用されるか形成される亜鉛塩が、水系の操作によって容易に除去されるという、さらなる利点を有する。式IIの生成物は、上述のチエニルアルコキシプロパンアミンの鏡像異性体の製造に、特に有用である。チエニル環上に存在する置換基によって、様々な化合物が得られる。
【0020】
「薬学的に許容される塩」という用語は、受容者への投与に際し、本書に記載された化合物を(直接的または間接的に)供給する能力がある、あらゆる塩を言う。しかし、薬学的に許容されない塩もまた、薬学的に許容される塩の製造に有用であり得ることから、本発明の範囲に入ることが理解されるであろう。塩の製造は、当業界で知られている方法で実施し得る。
【0021】
例えば、本書で供給される化合物の薬学的に許容される塩は、酸付加塩、塩基付加塩または金属塩であってもよく、それらは、慣用の化学方法によって、塩基性または酸性部分を含む親化合物から合成され得る。一般に、このような塩は、例えば、遊離酸または塩基の形態のこれらの化合物を、化学量論量の適当な塩基または酸と、水中または有機溶媒中またはこの2つの混合物中で反応させることによって製造される。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性溶剤が好ましい。酸付加塩の例としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸付加塩、および、例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸付加塩が挙げられる。アルカリ付加塩の例としては、例えば、アンモニウム等の無機酸、および、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルカミンおよび塩基性アミノ酸塩等の有機アルカリ塩が挙げられる。金属塩の例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩が挙げられる。
【0022】
本発明による「溶媒和物」という用語は、非共有結合によって別の分子(多くは極性溶媒)を有する、あらゆる形態の本発明の活性化合物を意味すると理解すべきである。溶媒和物の例としては、水和物および、例えばメタノラート等のアルコラートが挙げられる。
【0023】
「複合体」とは、2つの要素:供与体および受容体によって形成される分子を言う。複合体を形成する両要素間の結合は、供与体が、受容体が収容し得る非共有電子対またはπ軌道上の電子を提供し得ることから、可能である。複合体において、2以上の供与体および/または2以上の受容体は可能である。また、同一の「複合体」において、1つの供与体が2以上の受容体と結合してもよく、その逆もあり得る。上述した供与体−受容体相互作用に加えて、当業者に知られている、共有結合等の他のタイプの結合が、供与体と受容体との間に存在し得る。
【0024】
本発明の方法のための種々の試薬および条件を以下に論じる。
【0025】
β-置換アルデヒド
本発明の合成に必須の出発材料である、式IIIのβ-置換アルデヒドの合成は、当業者によく知られている。例えば、式IIIの化合物であって、式中Xがエステル基であるものは、米国特許US 4,749,811号またはサトウ・マサユキら、Synthesis, 1986年, 8巻, 672-4頁に記載された方法で、容易に製造し得る。
【0026】
式IIIの化合物であって、式中Xが-CH2-OR4、-CH2-ハロゲンまたは-CH2-NR6R7であるものは、ニーダーハウザー(Niederhauser), アンドレアス(Andreas)ら, Helvetica Chimica Acta, 1973年, 56(4)巻, 1318-30頁;Synthesis, 7巻, 977-979頁, 1998年;Angew. Chemie, International Edition in English, 6(5)巻, 423-34頁, 1967年;J. Org. Chem., 1997年, 62(9)巻, 2786-2797頁;J. Chem. Soc, Chemical Commu., (21)巻, 1991年, 1559-60頁に記載の方法で、容易に製造し得る。
【0027】
チエニル亜鉛試薬
チエニル亜鉛試薬は、チエニルホウ素試薬の、ジメチル-またはジエチル-亜鉛との金属交換反応によって、その場で製造し得る。ジエチル亜鉛は良好な結果を与えるが、ジメチル亜鉛は、アルデヒドとの反応混合物において、アルキル化反応の副産物を生じる傾向が少ない。活性種は恐らく、チエニル-エチル-亜鉛またはチエニル-メチル-亜鉛の混合物である。
【0028】
好適なチエニル-ホウ素試薬の中で、チエニルボロン酸、トリチエニルボランまたは以下に示すジチエニルボリン酸2-アミノエチル:

が好ましく選択される。より好ましくは、チエニル-ホウ素試薬は、ジチエニルボリン酸2-アミノエチルであるが、これはより高い純度で製造でき、エタノールから再結晶され得るからである。NH3複合体等の、チエニルボランの安定な複合体もまた、好ましい。
【0029】
チエニル亜鉛は、式IIの化合物について上記で規定したとおり、任意にR1、R2および/またはR3置換基を有し得る。本発明の方法において、チエニル亜鉛試薬は、式(II)の所望の生成物を直接提供するために必要な置換基(R1、R2および/またはR3)を有する。
【0030】
キラルリガンド
鏡像異性選択的付加反応によって式(II)の化合物を鏡像異性選択的に合成するため、付加反応は、キラル触媒またはリガンドの存在下で実施しなければならず、キラル触媒またはリガンドは、亜鉛試薬との反応によって、その場で活性触媒を形成する。このことは、リガンド(または触媒)が、面性キラリティーの1以上の立体中心または要素等の、少なくとも1つのキラリティーの要素を有していなければならないことを意味する。
【0031】
原則として、本発明の方法に使用し得る、非常にさまざまなN,O-、N,N-、N,S-、N,Se-またはO,O-リガンドがあり、それらは全て、鏡像異性的に純粋な形態でなければならない。当業界では、このタイプの反応には約600のリガンドが知られている。それらの多くは、例えば、カルボニル化合物への触媒的不斉有機亜鉛付加についての最近の検討に見ることができる[L. プ(Pu), H.-B. ユ(Yu), Chem. Rev. 2001年, 101巻, 757頁]。N,O-、N,N-、N,S-、N,Se-またはO,O-の命名は、少なくともこれら2つの配位ヘテロ原子を有するリガンドを参照する。
【0032】
反対の配置を有する式IIの化合物を得るためには、本発明で用いるキラルリガンドの鏡像異性体を用いることのみが必要であることは、当業者には明らかである。従って、本特許出願を通してリガンドの構造が与えられている場合、該構造もまた、該リガンドの鏡像異性体を包含することを意味する。
【0033】
本発明の好ましい態様では、N,O-リガンドおよびN,S-リガンドが用いられる。
【0034】
N,O-リガンドはβ-アミノアルコールに由来し、従って、ヘテロ原子間に2つの炭素原子を有する。しかし、この反応に用いられるリガンドのいくつかは、ヘテロ原子間に3つの炭素原子が存在する。より好ましくは、このOはアルコールである。
【0035】
一つの態様では、以下に記載したもの等の、構造型(V)を有するN,O-リガンドが用いられる:

式中、
nは0または1であり;
RおよびR'は独立してアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールおよび複素環より選択され;および
R"は、アルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールおよび複素環よりなる群から選択され;またはR"は、アリール基を形成する1より多い炭素原子に結合する基である。
【0036】
これらのリガンドは、亜鉛−アルコキシド複合体を形成する亜鉛試薬と反応するが、この複合体は、他の存在する亜鉛種(試薬および生成物)よりルイス酸性が高い。加えて、それはルイス塩基触媒(通常、酸素または硫黄原子において)である。その場で形成されるこの亜鉛−アルコキシド複合体は活性触媒である。
【0037】
この付加反応において用いられ得る典型的なリガンドは、以下の化合物、それらの鏡像異性体、またはそれらの誘導体である:


【0038】
これらのリガンドは、両鏡像異性体の形態で入手でき、所望のアルコールの両鏡像異性体の選択的合成を可能にする。
【0039】
さらなる態様では、リガンドはN,S-リガンドであり、好ましくは、

それらの鏡像異性体、またはそれらの誘導体よりなる群から選択される。
【0040】
N,S-リガンドにより、所望の生成物が良好な収率および驚異的な鏡像体過剰率で得られた。N,S-リガンドのうち、アミノチオアセテート等の、式VIのものが好ましい:

式中、n、R、R'およびR"は、上記で規定した通りであり、Raは水素またはアルコキシ基より選択される。式VIIのリガンドは、知られている手法で容易に入手できる(参照:J. カン(Kang), J. W. リー(Lee), J. キム(Kim), Chem. Commun. 1994年, 17巻, 2009頁またはM.-J. ジン(Jin), S.-J. アーン(Ahn), K.-S. リー(Lee), Tetrahedron Lett. 1996年, 37巻, 8767頁)。
【0041】
亜鉛試薬と式Vのリガンドとの間で起こる反応により、式(VII)の複合体が得られる:

式中、n、R、R'およびR"は上記で規定した通りであり、R'''は、チエニル、エチルまたはメチルである。例えばSD-623を使用する場合など、硫黄原子は酸素原子の代わりに使用し得る。
【0042】
この亜鉛アルコキシド複合体(VII)は、付加反応において活性触媒であり、その後、チエニル基の該アルデヒドへの鏡像異性選択的付加を誘起するように、β-置換アルデヒドと配位する。理論に拘泥しないが、アミノチオールおよびアミノチオエステルは、類似の複合体を形成すると考えられている。しかし、アミノチオエステル複合体へのメカニズムは、式VIIの中間体へのメカニズムとは異なるようである。
【0043】
リガンドの濃度は、コスト削減のためには低くあるべきであるが、良好な鏡像体過剰率(ee)を与えるに充分であるべきである。リガンドは、好ましくは、0.1〜100モル%、より好ましくは0.1〜20モル%の量が使用される。リガンドの最適量を超えての使用は不経済であり、ある場合には選択率が低くなり得る。対照的に、リガンドの最適量未満の使用は、非触媒的および非鏡像体選択的基幹反応の影響がより強くなるため、選択率が低くなる。
【0044】
溶媒
本発明の方法に好適な溶媒は、類似の反応より知られており、上述の引用中に見られる。好ましくは、好適な溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンのような非配位性炭化水素;ベンゼン、トルエンのような芳香族溶媒;ジクロロメタンおよび1,2-ジクロロエタンのような塩素系溶媒、およびジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)のような弱配位性溶媒、さらには、チオフェンまたはジオキサン等の極性配位性溶媒である。最も好ましい溶媒は、トルエン、ヘキサンおよびヘプタンである。これらの溶媒によって、続く任意のO-アルキル化を、同じ反応混合物中で実施することが可能になる。本発明の方法の別の変法では、チオフェンが溶媒として使用され、収率およびエナンチオ選択性が大幅に改善し、エチル化等の副反応が抑制される。
【0045】
本方法を実施するため、アルデヒドの添加前に、リガンドおよび亜鉛試薬を形成する化合物の混合物を製造し、攪拌し得る。活性触媒を与える亜鉛試薬によるリガンドの脱保護にはある程度の時間を要することから、通常、予めの攪拌は、選択性に有益であると推測される。しかし、ある反応条件下では、短時間の予めの攪拌をした場合、より高い鏡像体過剰率が達成されることが分かっている。アルデヒドをリガンドと亜鉛試薬との混合物に添加した後の反応時間は1時間〜24時間の範囲である。
【0046】
本反応におけるアルデヒドの濃度は、0.01〜2モル濃度等、好ましくは低い。ある場合では、エナンチオ選択性はより低濃度で増加することが観察されているが、これは工業的方法には好適ではない。これらの場合、エナンチオ選択性と適切な濃度との間の適当なバランスを見出さなければならない。
【0047】
本発明の方法は、-40〜100℃の温度で実施し得る。好ましくは、-20〜20℃の温度が用いられる。反応のエナンチオ選択性もまた、反応温度に依存し得る。
【0048】
本発明の方法は、例えば、反応中に存在するか、生成物として形成されるルイス酸性亜鉛塩を除去または錯化することによってエナンチオ選択性を向上させるために、添加剤の存在も含み得る。
【0049】
好適な添加剤は、例えば、アルコール、アミンおよびポリエチレングリコールの誘導体である。より好ましくは、添加剤は、DiMPEG 1000、DiMPEG 2000、PEG 750、PEG 1000、PEG 2000、モノMPEG 2000およびPE-ブロック-PEG等のポリエチレングリコール、または1,4-ジオキサン、i-プロパノール、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、イミダゾール、アニソール、フランおよびチオフェン等の化合物より選択される。上述の通り、チオフェンは反応の収率およびエナンチオ選択性を向上させる利点を有し、溶媒としても働くような量を使用し得る。
【0050】
別の態様では、本発明の方法に従って製造される化合物の鏡像体過剰率は、適当な溶媒中でのキラルHPLCおよび/または結晶化によって高まる。
【0051】
好ましい態様において、本方法は、可能性がある最高の鏡像体純度を有する、式IIの以下のアルコールのそれぞれの合成に関する:

式中、R1、R2およびR3は上記で規定した通りである。
【0052】
使用される亜鉛塩は、水系の操作によって用意に除去され、得られるアルコールはクロマトグラフィーまたは結晶化によって精製し得る。あるいは、アルコールは、次の工程に、さらなる精製をせずに有利に使用し得るが、この工程は、同じ反応媒体中で実施し得る。
【0053】
従って、別の態様では、本発明は、式(II)の鏡像異性的に高められた化合物のO-アルキル化工程をさらに含む、上記で規定した通りの方法に関する。好ましくは、式IVのナフタレン誘導体で酸素をアルキル化する:

式中、HalはF、Cl、BrまたはIであり;R8は置換または非置換の低級アルキルまたは置換または非置換のアリールであり;nは0〜7に含まれる。この方法は、デュロキセチンの合成技術において記載されている。最も汎用される方法は、強塩基存在下での1-フルオロナフタレンを用いたアルコールのアルキル化である(例えば、欧州特許EP 654264号または欧州特許EP 650965号参照)。
【0054】
好ましい態様では、O-アルキル化は、本発明の方法の生成物に対し、中間体の分離または精製工程なく実施する。
【0055】
アルキル化は、好ましくは、カルビノールのさらなる精製なく、本発明の方法から得られる同じ反応媒質中で直接実施される。より経済的であることに加えて、この直接的アルキル化によって、本発明の付加反応の操作中、ある反応条件下で見られた式(II)の化合物のラセミ化が回避される。
【0056】
さらなる態様では、本発明は、式Vの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、
a)式IIの化合物を得るための、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含み、
さらに、
b)ヒドロキシル基のアルキル化;
c)アミド形成;
d)アミドのアミンへの還元;
e)求核置換;
e)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの保護;
f)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの脱保護;
g)塩、複合体または溶媒和形成
よりなる群から選択される1以上の工程をあらゆる順序で含む、方法:

式中、
R1、R2、R3、R6およびR7 は、上記で規定したとおりであり;
R8は、水素、置換または非置換低級アルキル、ヒドロキシル保護基または置換または非置換アリールより選択され;

式中、Xは、上記と同一の意味を有し;

式中、
R1、R2、R3およびXは、上記で規定したとおりである。
【0057】
好ましくは、式Vの化合物は、鏡像異性的に濃縮された形態のN-メチル-N-[3-(ナフタレン-1-イルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピル]アミンまたはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物であり;より好ましくは、塩酸塩の形態である。
【0058】
「鏡像異性的に濃縮された化合物」という用語は、少なくとも1つのキラル中心を有し、一方の鏡像異性体が他方より過剰にある化合物を言う。従って、それはラセミ混合物は含まない。モルまたは重量分率F(+)およびF(-)(ここで、F(+) + F(-) = 1)で与えられる組成物を有する(+)-および(-)-鏡像異性体の混合物について、鏡像体過剰率は |F(+) - F(-)|と規定される。(および、鏡像体過剰率百分率は100|F(+) - F(-)|と規定される)。この用語はしばしばe.e.と略記される。鏡像異性的に濃縮された化合物とは、e.e.が0ではないことを意味する。本発明において、e.e.が50%を超えることが好ましく、より好ましくは60%を超え、さらに好ましくは70%または80%を超え、最も好ましくは90%または95%を超える。
【0059】
「低級アルキル」という用語は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル等の、約1〜5個の炭素原子を含む、直鎖状または分枝状の炭化水素鎖を言う。アルキル基は、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルオキシメチルエーテル、カルボキシ、シアノ、カルボニル、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプトおよびアルキルチオ等の、1以上の置換基で任意に置換されていてもよい。
【0060】
「チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬」とは、ハロゲン、低級アルキルまたはアリール基によってチエニル環の2、3、4または5位が置換され得るチエニル亜鉛試薬を言う。
【0061】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を言う。
【0062】
「アリール」は、フェニル、ナフチルまたはアントラシル等の芳香族炭化水素基を言う。アリール基は、本書で規定した通り、ヒドロキシ、メルカプト、ハロゲン、アルキル、フェニル、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、アシルおよびアルコキシカルボニル等の、1以上の置換基で任意に置換されてもよい。
【0063】
「アラルキル」は、ベンジルおよびフェネチル等の、アルキル基に結合したアリール基を言う。
【0064】
「ヘテロ環の」または「ヘテロ環」は、炭素原子、および、窒素、酸素および硫黄よりなる群から選択される1〜5個のヘテロ原子からなる、安定な3〜15員環を言い、好ましくは1以上のヘテロ原子を有する4〜8員環であり、より好ましくは1以上のヘテロ原子を有する5または6員環である。本発明の目的のため、ヘテロ環は、単環、二環または三環系であってもよく、縮合環系を含んでいてもよく;ヘテロ環基中の窒素、炭素または硫黄原子は任意に酸化されていてもよく;窒素原子は任意に四級化されてもよく;そしてヘテロ環基は部分的または完全に飽和しているか、芳香族であってもよい。このようなヘテロ環の例としては、制限されないが、アゼピン、ベンズイミダゾール、ベンズチアゾール、フラン、イソチアゾール、イミダゾール、インドール、ピペリジン、ピペラジン、プリン、キノリン、チアジアゾール、テトラヒドロフランが挙げられる。
【0065】
「ヘテロアリール」は、少なくとも1つの環が芳香環である、ヘテロ環基を言う。
【0066】
「ヒドロキシル保護基」は、OH官能基のさらなる反応をブロックする基を言い、制御された条件下で除去し得る。ヒドロキシル保護基は当業界においてよく知られており、代表的な保護基は、トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、tert-ブチルジメチルシリルエーテル、tert-ブチルジフェニルシリルエーテル、トリイソプロイルシリルエーテル、ジエチルイソプロピルシリルエーテル、ヘキシルジメチルシリルエーテル、トリフェニルシリルエーテル、ジ-tert-ブチルメチルシリルエーテル等のシリルエーテル;メチルエーテル、tert-ブチルエーテル、ベンジルエーテル、p-メトキシベンジルエーテル、3,4-ジメトキシベンジルエーテル、トリチルエーテル等のアルキルエーテル;アリルエーテル;メトキシメチルエーテル、2-メトキシエトキシメチルエーテル、ベンジルオキシメチルエーテル、p-メトキシベンジルオキシメチルエーテル、2-(トリメチルシリル)エトキシメチルエーテル等のアルコキシメチルエーテル;テトラヒドロピラニルおよび関連のエーテル;メチルチオメチルエーテル;酢酸エステル、安息香酸エステル等のエステル;ピバル酸エステル;メトキシ酢酸エステル;クロロ酢酸エステル;レブリン酸エステル;炭酸ベンジル、炭酸p-ニトロベンジル、炭酸tert-ブチル、炭酸2,2,2-トリクロロエチル、炭酸2-(トリメチルシリル)エチル、炭酸アリル等の炭酸エステル;およびSO3.py等の硫酸エステルである。ある場合には、トリフラート等の活性基もまた保護基として含まれる。ヒドロキシル保護基のさらなる例は、グリーネ(Greene)およびウッツ(Wuts)の「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、ニューヨーク、1999年等の参考図書に見られる。
【0067】
「アミノ保護基」は、NH2官能基のさらなる反応をブロックする基を言い、制御された条件下で除去し得る。アミノ保護基は当業界においてよく知られており、代表的な保護基は、置換または非置換または置換アセテート等の、カルバメートおよびアミドである。また、種々のアルキル部分もアミノ保護基となり得る。該アルキル基は、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルオキシメチルエーテル、カルボキシ、シアノ、カルボニル、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプトおよびアルキルチオ等の、1以上の置換基で任意に置換されていてもよい。アミノ保護基のさらなる例は、グリーネ(Greene)およびウッツ(Wuts)の「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、ニューヨーク、1999年等の参考図書に見られる。
【0068】
「アミド保護基」は、-C(=O)NH2官能基のさらなる反応をブロックする基を言い、制御された条件下で除去し得る。アミド保護基は当業界においてよく知られており、代表的な保護基は、置換または非置換アセテート等のカルバメートである。また、種々のアルキル部分もアミド保護基となり得る。該アルキル基は、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルオキシメチルエーテル、カルボキシ、シアノ、カルボニル、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプトおよびアルキルチオ等の、1以上の置換基で任意に置換されていてもよい。アミド保護基のさらなる例は、グリーネ(Greene)およびウッツ(Wuts)の「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、ニューヨーク、1999年等の参考図書に見られる。
【0069】
「エステル活性化基」は、エステル官能基の反応性を増す基を言う。
【0070】
「ヒドロキシル活性化基」は、ヒドロキシル官能基の反応性を増す基を言う。
【0071】
本書での本発明の化合物における置換基の引例として、1以上の好適な基によって、1以上の可能な位置で置換されてもよい、特定の部分が言及されるが、好適な基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素等のハロゲン;シアノ;ヒドロキシル;ニトロ;アジド;アシル等のC1-6アルカノイル等のアルカノイル;カルボキサミド;1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子、およびより好ましくは1〜3個の炭素原子を有するような基を含む、アルキル基;1以上の不飽和結合および2〜約12個の炭素原子または2〜約6個の炭素原子を有する基を含む、アルケニルおよびアルキニル基;1以上の酸素結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する、アルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ;1以上のチオエーテル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するような部分を含む、アルキルチオ基;1以上のスルフィニル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するような部分を含むアルキルスルフィニル基;1以上のスルフォニル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するような部分を含む、アルキルスルフォニル基;1以上のN原子および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する基等の、アミノアルキル基;6個以上の炭素を有する炭素環式アリール、特に、フェニルまたはナフチル、およびベンジル等のアラルキルが挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本発明の実例として含まれ、本発明を制限するものではない。
【0073】
基本手法:
リガンドおよびホウ素試薬を10mLバイアル中に秤量し、磁気攪拌子を加え、バイアルを閉じてアルゴンでフラッシングした。溶媒およびジエチル亜鉛(1.0Mヘキサン溶液として)を加え、反応混合物を10分間攪拌した。バイアルを指示温度にし、アルデヒドを、トルエン溶液として直接、または、シリンジポンプでゆっくり加えた。16時間後、反応混合物を冷却し、1N HCl溶液、飽和Na2CO3溶液で抽出し、MgSO4で乾燥した。キラル固定相上でHPLC分析を実施した:アミド基質には、キラルセル(Chiralcel)AD ヘプタン/2-プロパノール=90/10、または3-クロロプロピオンアルデヒド基質には、キラルセルOD ヘプタン/2-プロパノール=95/5。鏡像体過剰率を測定した。
【0074】

【0075】

【0076】

【0077】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法:

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、1〜5個の炭素原子を含む置換または非置換アルキルまたは置換または非置換アリールより選択され;
Xは-C(=O)-Zまたは-Yであって、式中-Yは-CH2-OR4、-CH2-ハロゲンまたは-CH2-NR6R7より選択され;
式中、
Zは、-NR6R7または-OR5より選択され、式中R5は、水素、1〜5個の炭素原子を含む置換または非置換アルキルまたはエステル活性化基より選択され;
R4は、水素、ヒドロキシル保護基またはヒドロキシル活性化基より選択され;
R6およびR7は、それぞれ独立して、水素、アミノ保護基、アミド保護基または約1〜5個の炭素原子を含む置換または非置換アルキルより選択され、

式中、Xは上記と同一の意味である。
【請求項2】
請求項1に記載の、式IIaの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIaの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法:

式中、
R1、R2およびR3およびZは、請求項1と同一の意味である、

式中、Zは請求項1と同一の意味である。
【請求項3】
請求項1に記載の、式IIbの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIbの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含む、製造方法:

式中、
R1、R2およびR3およびYは、請求項1と同一の意味である;

式中、-Yは請求項1と同一の意味である。
【請求項4】
前項のいずれかに記載の方法であって、R1、R2およびR3が水素である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、チエニル亜鉛試薬が、チエニルホウ素試薬とジメチル亜鉛またはジエチル亜鉛との金属交換反応によってその場で製造される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、チエニルホウ素試薬が、チエニルボロン酸、トリチエニルボランまたは以下に示すジチエニルボリン酸2-アミノエチルより選択される、方法:

【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、キラルリガンドが、鏡像異性的に純粋な形態の、N,O-、N,N-、N,S-、N,Se-またはO,O-リガンドである、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、キラルリガンドがN,O-リガンドであり、最も好ましくはOがアルコールである、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、N,O-リガンドが以下の化合物またはその鏡像異性体から選択される、方法:


【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、リガンドがN,S-リガンドである、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、リガンドが、以下の式を有する化合物またはその鏡像異性体から選択される、方法:

【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法であって、リガンドが、0.1〜20モル%の範囲の量で使用される、方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法であって、温度が、-20℃〜20℃、好ましくは-10℃〜10℃に含まれる、方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法であって、アルデヒド濃度が0.01モル濃度〜2モル濃度の範囲である、方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法であって、溶媒が、非配位性、塩素系または弱配位性である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、式IIの鏡像異性的に濃縮された化合物のO-アルキル化をさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、式IVのナフタレン誘導体によるO-アルキル化を含む、方法:

式中、HalはF、Cl、BrまたはIであり;R8は、約1〜5個の炭素原子を含む置換または非置換アルキルまたは置換または非置換アリールであり;および、nは0〜7に含まれる。
【請求項18】
請求項16および17のいずれかに記載の方法であって、O-アルキル化が、請求項1〜15のいずれかで規定された方法の生成物に対して、中間体の分離または精製工程なく実施される、方法。
【請求項19】
式Vの鏡像異性的に濃縮された化合物、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物の製造方法であって、
a)式IIの化合物を得るための、キラルリガンドの存在下の、チエニル環が任意に置換されているチエニル亜鉛試薬による、式IIIの化合物へのエナンチオ選択的付加反応を含み、
さらに、
b)ヒドロキシル基のアルキル化;
c)アミド形成;
d)アミドのアミンへの還元;
e)求核置換;
e)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの保護;
f)ヒドロキシル、アミドまたはアミンの脱保護;
g)塩、複合体または溶媒和形成
よりなる群から選択される1以上の工程をあらゆる順序で含む、方法:

式中、
R1、R2、R3、R6およびR7 は、請求項1で規定したとおりであり;
R8は、水素、約1〜5個の炭素原子を含む置換または非置換アルキル、ヒドロキシル保護基または置換または非置換アリールより選択され;

式中、Xは、請求項1と同一の意味であり;

式中、
R1、R2、R3およびXは、請求項1で規定したとおりである。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、式Vの化合物が、鏡像異性的に濃縮された形態のN-メチル-N-[3-(ナフタレン-1-イルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピル]アミン、またはその薬学的に許容される塩、複合体または溶媒和物である、方法。
【請求項21】
請求項19および20のいずれかに記載の方法であって、式Vの化合物が、塩酸塩の形態である、方法。

【公表番号】特表2009−528310(P2009−528310A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556705(P2008−556705)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001674
【国際公開番号】WO2007/098923
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(500031124)ラボラトリオス・デル・ドクトル・エステベ・ソシエダッド・アノニマ (55)
【Fターム(参考)】