説明

デラフォッサイト構造を持つ層状酸化物熱電材料

【課題】高温で化学的に安定であり、ZT=1に近い無次元性能指数をもつ、p型及びn
型酸化物熱電材料を開発すること。
【解決手段】一般式CuCr1−xMg(0.03≦x≦0.05)で示されるデ
ラフォサイト構造を持つ層状酸化物からなるp型熱電変換材料。CuCrO2のCr3+をイオン半
径の近いMg2+で置換してキャリアを導入し電気伝導率σの改善による性能指数Z=S2σ/κ
の向上を図ることができた。600〜1100Kの高温で良い電気伝導性を持ち、ゼーベ
ック係数は200〜350μV/Kに達し、無次元性能指数は、1100KではZT=0.2
を超えており、高温型熱電発電材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換特性を有するデラフォッサイト構造を持つ層状酸化物からなる熱電
変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを熱エネルギー(冷却)に変えるペルチェ効果や熱エネルギーを電気エ
ネルギーに変えるゼーベック効果は、PbTe,Bi2Te3などの物質で実現されている。近年、
実用レベルの性能を持ったp型熱電材料としてNaCoO2系(Na系)、Ca3Co4O9系(Ca系),
Bi2Sr2Co2O系(Bi系)などのCo系複合酸化物が開発されている。
【0003】
n型熱電材料としては、In2O3(ZnO)mに代表されるYbFe2O4類縁型層状構造の多結晶は、
m=3のとき無次元性能指数ZT=σS2T/κが極大となり(ZT=0.12,T=1050K)、3価のInを
2価のCdで置換するとさらにZTが増加する(ZT=0.15、T=1050K)(特許文献1)。
【0004】
遷移金属元素の複合酸化物としては、TixMyO2(Mは、Ta,Nb,Vから選ばれた少なくとも1
種)で示されるn型熱電材料の発明(特許文献2)が特許出願されている。この発明のな
かで最も高い出力因子σS2は、x=0.94,y=0.05(Ta)に対して得られた1.
6×10-4W/K2mである。
【0005】
ABO2(A=Cu,Ag, B=Al,In,Ga,Sc,Y,La)で示されるデラフォッサイト構造の化合物は、平
面型表示装置の透明電極をはじめ、新しい導電性透明酸化物として特許出願されている(
特許文献3)。その中でもCuCr0.95Mg0.05O2薄膜の電気伝導率は室温で220S/cmであり
、可視光近傍の透過率が約40%であるため有望な透明電極材料である(非特許文献1)

【0006】
CuCr0.95Mg0.05O2薄膜のゼーベック係数は室温で100μV/Kであり、温度に比例する
キャリア拡散項と温度の二乗に比例するキャリアホッピングの項で良く近似できる(非特
許文献2)。この解析結果に従って計算したゼーベック係数は1000Kにおいて138μ
V/Kである。デラフォッサイト構造を持つ化合物の中でCuFeO2は唯一負のゼーベック係数
をもつ。その値は温度に依存し、500Kで−600μV/Kである(非特許文献3)。
【0007】
非平衡状態で作製されたデラフォッサイト構造の酸化物薄膜にキャリアをドープするこ
とによって無次元性能指数ZTが室温で1.0を超える高効率熱電薄膜材料の発明が出願さ
れている(特許文献4)。この用途は、主にペルチェ効果を利用した冷却である。
【0008】
【特許文献1】特開2005-79565号公報
【特許文献2】特開2005-276959号公報
【特許文献3】特開平11-278834号公報
【特許文献4】特開2005-276952号公報
【非特許文献1】R. Nagarajan et al., p-type conductivity in CuCr1-xMgxO2 films and powders,JOURNALOF APPLIED PHYSICS, VOL.89,NO12(15 JUNE 2001) pp.8022-8025
【非特許文献2】J.Tate et al., p-Type oxides for use in transparent diodes, Thin Solids Films, 411 (2002) pp.119-124
【非特許文献3】P.Dordor et al., Crystal Growth and Electrical Properties of CuFeO2 Single Crystals, Journal of Solid State Chemistry 75(1988)105-112
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
熱電変換材料の性質としては、高い変換効率を得るために、高いゼーベック係数(α)
、高い電気伝導度(σ)、低い熱伝導率(κ)が要求される。酸化物熱電変換材料は、高
温で耐熱性があること、金属と異なり高温での酸化による性能劣化が少なく化学的に安定
であること、生体に対して有害でないこと、原料が安価であることなどの特徴を有してい
るが、キャリア移動度が低く、電気伝導度も低いという問題がった。
【0010】
NaCoO2単結晶は1に近い無次元性能指数を示すが、化学的に不安定である。
NaCoO2中のNaは850℃を超えると蒸発する傾向がある。また、NaCoO2 (p型)とCa
0.92La0.08MnO3(n型)でp−n接合を作って345℃で10日間連続で発電実験を行った
ところ、17%の出力減少が見られた。さらには、室温で数日放置すると水を吸って電気
伝導率が低下する現象が確認されている。このため、長期にわたって安定に電力を供給可
能な発電素子を作製することができない。そこで、本発明は、化学的に安定であり、大き
な無次元性能指数をもつ酸化物熱電材料、特に高温型熱電発電材料を開発することを目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、コバルト酸化物と共通の構造単位を持ち、アルカリ金属イオンを含まない
CuCr1-xMgxO2がCr酸化物として初めての有望な高温型熱電発電材料であることを見出し
た。
【0012】
すなわち、本発明は、一般式CuCr1−xMg(0.03≦x≦0.05)で
示されるデラフォッサイト構造を持つ層状酸化物からなるp型熱電変換材料、である。
本発明は、CuCrO2のCr3+をイオン半径の近いMg2+で置換してキャリアを導入し電気伝
導率σの改善による性能指数Z=S2σ/κの向上を図ることができた。
【0013】
本発明のp型熱電変換材料は、600〜1100Kの高温で良い電気伝導性を持ち、ゼ
ーベック係数は200−350μV/Kに達し、無次元性能指数は、室温においてZT=0
.03程度であるが、温度の上昇とともに増加し1100KではZT=0.2を超えてお
り、高温型熱電発電材料として有用である。
【発明の効果】
【0014】
CuCr1-xMgxO2は1400Kまで大気中で安定であり、Naの蒸発が懸念されるNaxCoO2に代
わるp型熱電材料として期待される。また、焼成温度が高いことから、加工性に優れた高
密度のバルク材料が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、デラフォッサイト構造を持つCuCrO2の説明図である。二次元構造を持つCrO2
と、O-Cu-Oからなるダンベルを二次元的に並べたO-Cu-O層とから構成されている。デラフ
ォッサイト構造の酸化物は、層状構造を有することを特徴とし、層に平行な方向と垂直な
方向とで電気伝導度及び熱伝導率の異方性を生じる。
【0016】
本発明のp型熱電変換材料は、一般式CuCr1−xMg(0.03≦x≦0.
05)で示されるデラフォッサイト構造を持つ層状酸化物である。CuCrO2層状酸化物にお
いてCrを少量のMgと置換することにより、室温以上で電気伝導率が著しく改善された。ゼ
ーベック係数の低下にもかかわらず電気伝導率の増加がこれを上回り、出力因子S2σは増
加する。
【0017】
MgによるCrの置換はx=0.03〜0.05の範囲が有効である。CrをMgで3〜5at%
置換することによって達成された値は、NaxCoO2の出力因子の約1/2である。通常の固相
反応法では5at%を超えてMgを置換できない。
【0018】
図2に、本発明の式CuCr0.97Mg0.03で示される熱電気変換材料の熱伝導率を
示す。573Kにおける熱伝導率(κ)は0.7W/mKであり、通常の酸化物に比べて低い
。また、図3に、本発明の式CuCr0.97Mg0.03で示される熱電変換材料の無次元
性能指数を示す。無次元性能指数を評価するため、多結晶体試料CuCr0.97Mg0.03
の熱伝導率κを測定し、ZT=σS2T/κから計算した。室温においてZT=0.03程度
であるが、温度の上昇とともに増加し1100KではZT=0.2を超えている。この値
は、800Kにおける多結晶Na0.7CoO2のZTと同程度である。
【0019】
本発明の熱電気変換材料は、所定の割合で混合した原料粉末を焼結することによって複
合酸化物の焼結体を形成することによって製造される。この複合酸化物の焼結体は、Cu源
としてCuO又はCu2O、Cr源としてCr2O3、及びMg源としてMgOを使用して製造することがで
きる。これら粉末原料をCuO:Cr2O3:MgO=2:1−x:2xまたはCu2O:Cr2O3:MgO=
1:1−x:2x (0.03≦x≦0.05)となるように混合し、金属鋳型に入れて2
00〜400kg/cm2の圧力で成形する。
【0020】
CuCr1−xMg複合酸化物の焼結は、大気中、アルゴン等の不活性ガス気流
中、真空中のいずれの雰囲気でも良く、 原料混合粉末を1000℃〜1200℃で12
〜24時間加熱して反応させる。大気中よりも酸化性の強い雰囲気中で加熱するとスピネ
ル型のCuMg2O4 やCuCr2O4が不純物として生成しやすくなるので好ましくない。
【0021】
一般に、焼結体密度は電気伝導率、熱伝導率に大きく影響し、焼結体密度が大きいほど
(単結晶密度に近づくほど)電気伝導率、熱伝導率は増大する傾向があるが、CuCr
−xMg複合酸化物は1000℃〜1200℃という高温で加熱焼結すれば、ほぼ
95%以上の焼結体密度が得られる。
【0022】
上記の方法で得られるバルク材料を原料としてパルスレーザー蒸着(PLD)法によりc軸
配向薄膜試料を作成できる。c軸配向薄膜では、伝導面であるa-b面が薄膜面内にあるため
、バルク試料より高い電気伝導性が得られる。従って、無次元性能指数は単結晶に近づい
て大きくなる。
【0023】
一般式CuCr1−xMgで示されるp型熱電変換材料とn型熱電変換材料をp
−n接合することにより熱電変換発電装置、特に高温型の熱電変換発電装置とすることが
できる。熱電変換発電装置は、多数のp−n接合を電気的に直列に接続し上下二枚のセラ
ミックス平板で挟んで固定したものである。p―n接合はセラミクス平板に接着され、一
方の平板が熱源に接触し、他の一方は大気中にある。このため、p−n接合の熱源側に熱
膨張が生じるが、p型、n型材料が同様の結晶構造をもつ場合は熱膨張係数がほぼ等しい
ため接合の破壊を免れることができるのでn型材料としてもデラフォッサイト構造をとる
材料を用いることが好ましい。
【0024】
また、性能指数が同じでも、電気伝導率、ゼーベック係数、熱伝導率が大きく異なる場
合、発電性能にとって不利になる。p型、n型材料が、ともにデラフォッサイト構造をと
る場合は、上記物理量も大きな差がないため、熱電変換発電装置の製作に有利である。
【実施例1】
【0025】
実施例として、CuCr1−xMgの製造と熱電性能評価を示す。Cu2O、 Cr2O3
、 及びMgOをCu2O:Cr2O3:MgO=1:1−x:2x(x=0.03,0.04,0.5)と
なるように混合し、この原料混合粉末を金属鋳型に入れて200kg/cm2の圧力で成形し
た。原料混合粉末の成形体を、大気中、1200℃で管状焼結炉において12時間加熱し
て反応させた。 なお、比較のために、MgO無添加(x=0、0.01、0.02)の焼結
体を同条件で作製した。
【0026】
炉冷した後、焼結体(反応生成物)の粉末X線回折を行った。図4に、x=0.05の
粉末X線回折強度のリートベルト解析結果を示す。測定強度はデラフォッサイト構造から
予想される計算強度と一致した。ただし、x=0.03を超えると少量のMgCr2O4(スピ
ネル)とCuOが不純物として観測された。
【0027】
焼結体をダイヤモンドカッターにより矩形状に切断しゼーベック係数と電気伝導率を測
定した。図5に、一般式CuCr1−xMg(0.01≦x≦0.05)で示され
る熱電変換材料のxの値と電気伝導率の関係を示す。測定した温度領域(300〜1100K)に
おいて、電気伝導率は、xの値が0.02と0.03の間で急激に増加しており、850
K付近において最大値2500S/mをとる(x=0.05)。室温近傍ではこの値の半分程度しかな
く、600〜1100Kの高温で良い電気伝導性をもつことがわかる。しかし、温度依存
性は半導体的である。
【0028】
図6に、一般式CuCr1−xMgで示される熱電変換材料のxの値とゼーベッ
ク係数の関係を示す。ゼーベック係数はxの値の増加とともに減少するが0.03≦x≦
0.05では、ほとんど変化が無い。CuCr1−xMg (0.03≦x≦0.
05)のゼーベック係数は200−350μV/Kに達する。
【0029】
図7に、一般式CuCr1−xMgで示される熱電変換材料のxの値とパワーフ
ァクターの関係を示す。0.03≦x≦0.05で、1100Kにおいて2.5×10
W/K2mに達し、これは同温度での多結晶NaCoO2のほぼ半分の大きさである。
【実施例2】
【0030】
多結晶体試料CuCr0.95Mg0.05を原料として、パルスレーザー蒸着(PLD)法
によりサファイア基板上にc軸配向薄膜試料を作成した。作成条件は、基板温度700℃
、酸素ガス圧70mTorrである。膜厚は約40nmである。CuCr1-xMgxの001
反射とCuOの002及び111反射がX線回折パターン中に観測された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の一般式CuCr1−xMg(0.03≦x≦0.05)で示されるp型
のデラフォッサイト型化合物を使用することにより1400Kまで材料の化学的不安定性
による出力低下無しに電力を供給でき、熱源側と大気側との温度差による歪にも耐えうる
熱電変換発電装置の製作が可能になる。このような装置は、自動車のエンジンなどよりも
比較的温度の高い発電所や溶鉱炉などへの装着により効率よく発電できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】デラフォッサイト構造を持つCuCrO2の模式図である。
【図2】本発明の式CuCr0.97Mg0.03で示される熱電変換材料の熱伝導率を示すグラフである。
【図3】本発明の式CuCr0.97Mg0.03で示される熱電変換材料の無次元性能指数を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた多結晶CuCr0.95Mg0.05の粉末X線回折強度のリートベルト解析結果パターン図である。
【図5】実施例1で得られた一般式CuCr1−xMgで示される熱電変換材料のxの値と電気伝導率の関係を示すグラフである。
【図6】実施例1で得られた一般式CuCr1−xMgで示される熱電変換材料のxの値とゼーベック係数の関係を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた一般式CuCr1−xMgで示される熱電変換材料のxの値とパワーファクターの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式CuCr1−xMg(0.03≦x≦0.05)で示されるデラフォッサイ
ト構造を持つ層状酸化物からなるp型熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−149996(P2007−149996A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342933(P2005−342933)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】