説明

デンタルバイオフィルムの処理のための超音波場における抗菌剤充填カプセル

抗菌剤をデンタルバイオフィルムの近傍に送出し、バイオフィルム中のバクテリアを死滅させる器具及び対応する方法は、気泡及び抗菌剤を含む高分子カプセルを送出するためのシステム18,20,24を含む。超音波エネルギのソース18は、前記バイオフィルムに向かって前記カプセルを移動させるために設けられ、超音波エネルギは、前記バイオフィルムの近傍において前記カプセルを破裂させ、前記気泡及び前記抗菌剤を解放するのに十分な強度をもつ。気泡は、超音波場内において振動し、前記バイオフィルムを分裂させ、従って、解放された前記抗菌剤は、分裂されたバイオフィルム内のバクテリアに対して効果的に作用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、概して、歯の表面上のバイオフィルムに存在するバクテリアを死滅させることに関し、より詳細には、デンタルバイオフィルム中のバクテリアを死滅させるためのデンタルバイオフィルムへの抗菌剤又は他の薬剤の送出に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歯に生ずるデンタルバイオフィルムは、スライムマトリクス(slime matrix)と呼ばれるものに埋め込まれたバクテリア及び他の有機物の様々な層を有する。これは、虫歯を阻止するためにコントロールするのに重要である歯垢を含む。これは、典型的には、日常のブラッシング、フロッシング(flossing)、及び、場合によっては抗菌洗浄液の使用により行われる。しかしながら、抗菌洗浄液の使用は、バイオフィルム/スライムマトリクスの特性に起因して特に効果的というわけではない。スライムマトリクス自身による薬剤の妨害を含む様々な状態によりバクテリア微生物が抗菌剤から保護され得るか、又は、スライムマトリクスが薬剤を破壊する酵素を含み得る。更に、バイオフィルムの個体群の部分は、生きているが活性状態ではなく、それ故、特に抗菌剤の影響を受け難い。抗生物質が歯のバクテリアに対して用いられ得るが、処方されなければならない。更に、これは、毎日の使用に対して適切ではない。
【0003】
加えて、多くの利用可能な抗菌剤は、歯の染色及び/又はユーザの味覚能力を変化させることを含む重大な欠点をもっている。重大な副作用をもたないものは、大抵、バイオフィルム中のデンタルバクテリアに対して特に効果的というわけではない。更に、ユーザは、大抵、効果的な薬剤の使用の必要とされる時間間隔及び/又は望ましい方法に従わない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、従来の市販の抗菌剤を用いたデンタルバイオフィルムの効果的な処理のためのシステム及び/又は方法が好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、バイオフィルム中のバクテリアを死滅させるために殺菌剤をデンタルバイオフィルムの近傍に送出するための器具及び対応する方法がここに開示され、これは、気泡及び殺菌剤を含む高分子カプセルを送出するためのシステムと、デンタルバイオフィルムに向かって前記カプセルを移動させ、その後、前記バイオフィルムの近傍において前記カプセルを破裂させ、気泡及び殺菌剤を解放するための超音波エネルギのソースとを有し、前記超音波エネルギは、解放された気泡が、前記バイオフィルムの近傍の超音波場において、又は、前記バイオフィルムに対して振動するような、気泡のサイズに関連付けられた周波数をもち、解放された殺菌剤が分裂されたデンタルバイオフィルム中のバクテリアを効果的に死滅させるように作用する程度に前記バイオフィルムを分裂させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】口内のデンタルバイオフィルムに抗菌剤を送出するシステムを示す簡素化された図である。
【図2】歯を機械的にブラッシングするために用いられ得る毛をアプリケータ部分に含む、請求項1に類似する実施形態を示す簡素化された図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、デンタルバイオフィルムに含まれるバクテリアを死滅させるためにデンタルバイオフィルムの近傍に抗菌剤を送出するのに効果的な歯科用器具を示している。概して、器具10は、高分子カプセルを用いる。高分子カプセルは、気泡、及び、デンタルバイオフィルム中において一般に見られるバクテリアを死滅可能な抗菌剤を含む。この説明は、主として、殺菌剤としての抗菌剤に関する一方で、これらは概して日々の使用に対して効果的及び安全であるので、薬剤は、デンタルバイオフィルム若しくは口内の他の状態/感染又は体内の他の場所を処理するために用いられ得る抗生物質を含む殺菌合成物の他のタイプであってもよいことが理解されるべきである。
【0008】
高分子カプセルは、器具内の超音波変換器により生成された超音波場により、デンタルバイオフィルムの方向の、器具のアプリケータ部分の外側へ案内される。選択された超音波強度において、バイオフィルムの近傍のカプセルは、超音波の影響下で壊れ、抗菌剤及び気泡を解放する。気泡のサイズは、超音波信号の周波数に適合し、従って、超音波場中の気泡は、振動を開始し、振動の最大振幅に達し、その後、バイオフィルムに衝突し分裂させ、デンタルバクテリアは概してバイオフィルム/スライムマトリクスから解放される。即ち、バクテリアは、プラントニック(plantonic)状態にある。これは、カプセルから解放された抗菌剤がバクテリアを死滅させるのを効果的にすることを可能にする。
【0009】
より詳細には、器具10は、典型的にはコンソール部分12を含み、これは、典型的には器具が用いられるどこかの場所のキャビネット表面に配置される。コンソールは、器具のための、バッテリ等の電源14を含む。また、ハンドル内には、カプセル含有ソース16及び超音波駆動システム18がある。カプセルは、アプリケータ23への器具の接続部分21内のライン20に沿って案内され、図1に示されるアプリケータヘッド25内のノズル24、又は、図2におけるブラシヘッド27内のノズル26−26を出る。ブラシヘッド27は、従来のブラシの毛29のセットを含む。器具は、所望パターンでブラシヘッドを移動させるためのブラシヘッド駆動システム31を含み得る。
【0010】
超音波駆動ソース18からの超音波信号は、ライン34に沿って、アプリケータヘッド25の変換器36−36又はブラシヘッド27の変換器38に適用される。図1及び図2に示されたアプリケータの構成は単なる例であり、種々の構造のアプリケータ及びブラシヘッドが用いられ得ることが理解されるべきである。しかしながら、それぞれのアプリケータの実施形態は、典型的には、その出口内において、カプセル及び超音波変換器のための何らかのノズルをもつだろう。また、コンソール12は、アプリケータから分離したユニットとして示されている一方で、コンソール12とアプリケータとの機能を単一に組み合わせること、即ちハンドヘルド器具も可能である。
【0011】
代替実施形態において、高分子カプセルは、ユーザにより器具に適用される歯磨剤のような製剤に混入され得ることも理解されるべきである。斯様な歯磨剤は、従来の歯磨剤と同様である。そして、器具は、例えば複数の毛の振動により、歯の表面に向かって歯磨剤を案内し、超音波信号が適用された後に、前述した効果をもたらす。
【0012】
カプセルの製造は、従来において広く知られたプロセスで、器具から離れて行われ、それ故、ここでは詳細に説明しない。手短に言えば、高分子カプセルは、ここに溶解された抗菌剤を伴う高分子ジクロロメタンの溶液を用いて生成される。そして、ジクロロメタンは蒸発し、高分子シェルにより囲まれた薬剤及び気泡をもたらす。高分子シェル自身は、様々な組成を有するが、概して、生分解性であるフッ素化された末端基をもつポリ乳酸(polyactic acid)を含む。気泡及び抗菌剤を中にもつカプセルは、歯磨剤と同様でありアプリケータに案内される製剤中に含まれる。
【0013】
幾つかの場合において、表面化学物質がカプセルに追加され、これは、カプセルがデンタルバイオフィルム表面に付着することを生じさせる。一の特定の構成において、カプセルは、アミン基又はアンモニウム基等により、正の表面電荷が与えられる。バイオフィルムが負の表面電荷をもつので、カプセルは、静電相互作用によりバイオフィルムに結合されるだろう。
【0014】
示された実施形態において、カプセルのサイズは変化するが、概ね1〜80マイクロメータの範囲内にあるだろう。気泡のサイズも、100kHz〜4MHzの超音波周波数範囲に対応して、1マイクロメータから50マイクロメータにおいて変化する。1MHzの超音波周波数に関する一の特定の例において、気泡サイズは、6〜8ミクロンになるだろう。前記で示された、バクテリアを死滅させる薬剤は、主として、市販の抗菌剤であり、これは、例えば、トリクロサン又はチモール、オイカリプトール、メントール及びメチルサリチル酸等の種々の口洗浄剤のような組成を含み得る。他の殺菌疎水性物質が用いられてもよい。特定のアプリケーションに依存して、日々のバイオフィルム処理のためではない、前述されたような、異なる抗生物質が用いられてもよい。
【0015】
気泡は、空気を含む様々なガスであってもよい。前記で示されるように、最も重要な態様は、気泡のサイズであり、これは、超音波周波数に近い共振周波数をもつべきである。気泡が共振されるときには、振動の最大振幅を達成し、バイオフィルム構造の最も効果的な分裂を生成する。更に、振動する気泡は、バイオフィルムを分裂させるのを支援するマイクロストリーミング効果をもたらすだろう。
【0016】
カプセルは、従来のマウスウォッシュのような流体、又は、歯磨粉と同様のより粘性のある物質として形成され得る。カプセルの濃度は、従来の抗菌剤と同様であるか、又は、これらは、薬剤をもつカプセルが超音波ストリーミング効果に応答してバイオフィルム上で非常に濃縮されるので、大幅に低い。
【0017】
前記で示されたように、超音波/変換器は、アプリケータからバイオフィルムに延在する場を作り出す。超音波の強度は、システムの有効性を向上させるために変化され得る。例えば、低強度場は、バイオフィルム表面上にカプセルを濃縮させるために用いられ得る。低強度場によりもたらされたカプセルの僅かな振動は、マイクロストリーミング効果により互いに及び他の表面にカプセルを引き付けるだろう。超音波強度は、その後、カプセルが壊れる閾値より上に増大され、まさにバイオフィルムでの抗菌剤の非常に高い濃縮、及び、気泡の同時解放を生成する。そして、気泡は、超音波により共振され、バイオフィルムの分裂をもたらし、従って、抗菌剤が顕著な効果をもつ。
【0018】
他のアプローチにおいて、超音波の強度は、カプセルを壊し、短い超音波パルス(約1〜5の超音波サイクル)で少量の気泡だけを解放するための閾値であり、その後、自由な(解放された)気泡が溶けるまで、バイオフィルムの分裂をもたらすように解放された気泡を攪拌する一連の低エネルギの超音波パルスサイクルが続く。そして、本プロセスは、全てのカプセルが破壊されるまで繰り返される。
【0019】
更に他のアプローチにおいて、それぞれが破壊するための異なる閾値強度をもつ様々なカプセルの厚さが用いられ得る。超音波パルスの強度を徐々に増大させることで、カプセル破壊及び気泡のその後の振動のシーケンスを生成し、連続的なステップでバイオフィルムを分裂させる。
【0020】
それ故、デンタルバイオフィルムに抗菌剤を効果的に送出し、気泡を振動させることでバイオフィルムを分裂させ、その後、バイオフィルム中のバクテリアを死滅させるためのシステムが開示された。同様に、バイオフィルムの分裂を実現し、バイオフィルム中のバクテリアを死滅させ、気泡及び抗菌剤を含有する複数のカプセルを壊すための一連のステップが開示された。
【0021】
本発明の好ましい実施形態が例示の目的で開示されたが、種々の変更、修正及び置換が、特許請求の範囲に規定された本発明の精神から逸脱することなく本実施形態に組み込まれ得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルム中のバクテリアを死滅させるために殺菌剤をデンタルバイオフィルムの近傍に送出するための器具であって、
気泡及び殺菌剤を含む高分子カプセルを送出するためのシステムと、
前記デンタルバイオフィルムに向かって前記カプセルを移動させ、その後、前記バイオフィルムの近傍において前記カプセルを破裂させ、前記気泡及び前記殺菌剤を解放するための超音波エネルギのソースとを有し、
前記超音波エネルギは、解放された前記気泡が、前記バイオフィルムの近傍の超音波場において、又は、前記バイオフィルムに対して振動するような、前記気泡のサイズに関連付けられた周波数をもち、解放された前記殺菌剤が分裂された前記デンタルバイオフィルム中の前記バクテリアを効果的に死滅させるように作用する程度に前記バイオフィルムを分裂させる、器具。
【請求項2】
前記気泡は、超音波信号の周波数で最大振幅で共振するようなサイズをもつ、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記気泡のサイズの範囲は、1〜50ミクロンである、請求項1に記載の器具。
【請求項4】
毛を伴わないアプリケータを含む、請求項1に記載の器具。
【請求項5】
歯をブラッシングするための毛を含むアプリケータを含む、請求項1に記載の器具。
【請求項6】
前記バイオフィルム上で前記カプセルを濃縮するための低強度の超音波パルスを生成し、その後、前記カプセルを壊すのに十分な複数の高強度超音波パルスを生成するように、前記超音波エネルギのソースを制御するためのシステムを含む、請求項1に記載の器具。
【請求項7】
少数のカプセルを壊すための短い超音波パルスを有する繰り返しシーケンスを生成し、その後、前記気泡が溶けるまで前記バイオフィルムを分裂させるように前記気泡を振動させる複数の低エネルギ超音波パルスを生成することを含む、前記超音波エネルギのソースを制御するためのシステムを含む、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
前記カプセルは、これらが壊れる異なる閾値の超音波信号強度をもち、前記超音波信号強度は、徐々に増大され、シーケンスにおいて前記カプセルを破壊する、請求項1に記載の器具。
【請求項9】
前記カプセルは、前記カプセルを前記バイオフィルムに結合しやすい物理的特性を含む、請求項1に記載の器具。
【請求項10】
前記物理的特性は、前記カプセル上の正電荷である、請求項9に記載の器具。
【請求項11】
デンタルバイオフィルムの近傍に殺菌剤を送出し、前記デンタルバイオフィルム中のバクテリアを死滅させる方法であって、
気泡及び殺菌剤を含有する複数の高分子カプセルを前記バイオフィルムの方向に送出するステップと、
超音波作用により前記カプセルを壊し、前記デンタルバイオフィルムの近傍において前記気泡及び前記殺菌剤を解放するステップと、
前記殺菌剤により前記デンタルバイオフィルム中の前記バクテリアの死滅を可能にするために、前記気泡が前記デンタルバイオフィルムを十分に分裂させるように、超音波作用により前記気泡を振動させるステップとを有する、方法。
【請求項12】
前記カプセルは、超音波作用により送出される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記気泡のサイズは、前記気泡が超音波信号の周波数での最大振幅で共振するようなサイズである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記気泡のサイズは、1〜50ミクロンの範囲内である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
超音波は、前記カプセルを壊すのに十分な一連の高強度パルスと、それに続く、前記気泡を振動させるための複数の低強度パルスとを含む、一連のパルスで供給される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記カプセルは、これらが壊れるような異なる超音波強度をもち、
超音波エネルギは、前記カプセルを次々と壊すための強度において徐々に増大される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記殺菌剤は、抗菌剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記カプセルは、前記バイオフィルム層に付着するように正に帯電される、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−506027(P2011−506027A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538968(P2010−538968)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055167
【国際公開番号】WO2009/077921
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】