説明

データ入出力基板および静電気減衰回路

【課題】メモリーカードを介してデータを入出力する電子回路基板に静電気が流入した場合、静電気による電子回路の破壊を安価に抑制する。
【解決手段】カードスロット基板10は、手指に把持されたメモリーカード30が所定の方向に移動してカード挿入部16と導通する場合、カード挿入部16より所定の方向における手前側に配置される静電気導入ピン14と、静電気をグランドに逃がすグランドI/O部22と、パターン配線で形成され、一方の端部が静電気導入ピン14と電気的に接続され、他方の端部がグランドI/O部22と電気的に接続されたコイル部28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ入出力基板および静電気減衰回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路を構成する電子回路素子は、静電気により破壊されることがある。静電気の主な原因は、人体に帯電した静電気であり、電子回路の基板に触れた時に高電圧が印加される。また、絶縁された金属表面はいろいろな原因で帯電することがあり、これが原因となることもある。
【0003】
電子回路を含む電子機器自体の帯電を防ぐためには、アース接地を行う等の対策がとられる。また、人体から導電される静電気による破壊やノイズ混入を防ぐためには、電子回路に直接触れないように遮へいを設ける等の対策がとられる。また、このような電子機器に含まれる電子回路基板の組立時には、組立作業のために手で触れる必要や、基板や電子部品の搬送に伴って静電気が発生する恐れがあるため、下記特許文献1に示すように、発生した静電気を逃がす端子を備える対策がとられている。
また、近年では、フェライト粉体の中心部に金属導体を埋設して焼成したフェライトビーズを電子回路内に実装することで、発生した静電気を減衰させて電子回路への悪影響を軽減する対策もとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−87749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、端子やフェライトビーズのような電子部品を電子回路基板に実装し、配線するのに手間を要すると共に、電子回路基板を製作するためのコストも上昇した。
そこで本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、電子回路基板に対する静電気の影響を低コストで軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例にかかるデータ入出力基板は、記憶媒体の端子部を接続部に接続することで前記記憶媒体と導通し、導通した前記記憶媒体との間でデータを入出力するデータ入出力基板であって、前記記憶媒体の端子部と前記接続部とを接続すべく所定の方向に移動する場合、前記接続部より前記所定の方向における手前側に配置される静電気入力部と、前記静電気をグランドに逃がすグランド部と、パターン配線で形成され、一方の端部が前記静電気入力部と電気的に接続され、他方の端部が前記グランド部と電気的に接続されたコイル部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、記憶媒体が接続部と接続すべく所定の方向に移動する場合、静電気が帯電した記憶媒体は接続部よりも先に静電気入力部と接近することで、静電気は放電されて静電気入力部に入力する。入力した静電気は、グランド部からグランドに逃げる途中、パターン配線で形成されたコイル部を通過することで減衰する。従って、電子部品のコイルを実装することなく、パターン配線で形成されたコイル部が、手指から入力した静電気を減衰させるため、データ入出力基板の製作コストを低減できる。
【0009】
[適用例2]
上記適用例にかかるデータ入出力基板において、導通した前記記憶媒体との間で前記データの入出力を制御する情報処理部を備え、前記情報処理部は、前記所定の方向において、前記接続部よりも奥側に配置されていることが好ましい。
【0010】
このような構成によれば、情報処理部は、静電気入力部からの距離が接続部よりも奥側に配置されているため、静電気による影響を軽減できる。
【0011】
[適用例3]
上記適用例にかかるデータ入出力基板において、前記コイル部は、交差する2方向に向かって巻かれていることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、コイル部に電流が流れることで発生する磁束の方向を2方向に交差させることで、磁束の方向を分散できる。
【0013】
[適用例4]
上記適用例にかかるデータ入出力基板において、前記コイル部は、一方の方向に向って右回りと左回りで巻かれている部分を含むことが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、コイル部に電流が流れることで発生する磁束を打ち消すことで、電子回路への磁束の影響を抑制できる。
【0015】
[適用例5]
本適用例にかかるデータ入力基板は、前記記憶媒体は、前記端子部とは反対側の位置に保持部を有し、前記静電気入力部は、前記媒体の端子部が前記接続部に接近するよりも先に、前記保持部が当該静電気入力部に接近する位置に配置されても良い。
【0016】
[適用例6]
上記適用例にかかるデータ入力基板において、前記保持部は手指により保持され、前記静電気入力部は当該手指と接近することで当該手指に帯電した静電気を放電させても良い。
【0017】
[適用例7]
本適用例にかかる静電気減衰回路は、電子部品の端子部が接続部に接続される回路における静電気減衰回路において、前記電子部品を前記接続部に装着すべく所定の方向に移動する場合、前記接続部より前記所定の方向における手前側に配置される静電気入力部と、前記静電気をグランドに逃がすグランド部と、パターン配線で形成され、一方の端部が前記静電気入力部と電気的に接続され、他方の端部が前記グランド部と電気的に接続されたコイル部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、記憶媒体が接続部と接続すべく所定の方向に移動する場合、静電気が帯電した記憶媒体は接続部よりも先に静電気入力部と接近することで、静電気は放電されて静電気入力部に入力する。入力した静電気は、グランド部からグランドに逃げる途中、パターン配線で形成されたコイル部を通過することで減衰する。従って、電子部品のコイルを実装することなく、パターン配線で形成されたコイル部が、手指から入力した静電気を減衰させるため、データ入出力基板の製作コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るカードスロット基板の外観図。
【図2】本発明の実施形態に係るカードスロット基板の機能構成を示すブロック図。
【図3】静電気減衰回路の等価回路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して説明する。
【0021】
(実施形態)
図1は、カードスロット基板10の外観図を示す。このカードスロット基板10は、多層基板構造であり、プリント層と絶縁層を一対とする複数のプリント基板12が貫通ビア(スルーホールビア)を介して電気的に接続されて積層され、プリンター、スキャナー、プロジェクター等の情報処理装置に実装される。また、図2は、カードスロット基板10の機能構成を示すブロック図であり、図2も適宜参照して説明する。
図1で表示しているカードスロット基板10の表面には、静電気導入ピン14、カード挿入部16、電子回路部18、読み取り信号I/O部20、コイル部28およびグランドI/O部22が形成されている。これらの中で、静電気導入ピン14、コイル部28およびグランドI/O部22は、静電気減衰回路40として機能する。
【0022】
このカードスロット基板10は、ユーザーの手指で把持されたメモリーカード30がカードスロット基板10のカード挿入部16に挿入されることで、メモリーカード30と導通しメモリーカード30に書き込まれたデータの読み込みや、メモリーカード30に対してデータの書き込みが外部の制御装置からの指示に応じて可能になるデータ入出力基板である。尚、メモリーカード30はフラッシュメモリー等が内蔵され、カード挿入部16に対して脱着可能な記憶媒体である。
静電気導入ピン14は、互いに短絡された複数の金属製のピンを有する。この静電気導入ピン14は、メモリーカード30を挿入する側から見て、カードスロット基板10においてカード挿入部16よりも手前に配置されると共に、カード挿入部16にメモリーカード30が挿入される場合、メモリーカード30が移動した移動軌跡の近傍に配置されている。また、金属製のピンは、カードスロット基板10の表面から所定の高さであって、カード挿入部16よりも低い位置に配置されているが、これには限定されない。
【0023】
更に、これらのピンは、メモリーカード30が挿入される方向と対向するように配置されている。本実施形態では、静電気導入ピン14は、静電気を導入するアンテナであり、静電気入力部42として機能する。即ち、ユーザーがメモリーカード30を把持してカード挿入部16に挿入する場合、メモリーカード30とカード挿入部16が導通する以前に、メモリーカード30を把持した手指が静電気導入ピン14と接近する様に配置されている。ここで、静電気導入ピン14と手指とが所定の距離まで接近すると、手指に帯電した静電気は、静電気導入ピン14に放電される。放電された静電気は、静電気導入ピン14とグランドI/O部22とを電気的に短絡すべくカードスロット基板10に形成された静電気導線15を移動する。
【0024】
本実施形態では、静電気入力部42として静電気導入ピン14を採用したが、このような様態には限定されない。ピンに替えて一様な金属板であっても良い。尚、放電が生じる所定の距離は、周囲の湿度等で変動するが、ユーザーがメモリーカード30を把持しやすく、かつ、メモリーカード30をカード挿入部16に挿入しやすい様態を考慮して、静電気導入ピン14のピン長さや、カードスロット基板10における静電気導入ピン14の配置位置が決定される。
【0025】
コイル部28は、静電気導線15上にパターン配線により形成されている。コイル部28の一方の端部は静電気導入ピン14とパターン配線で接続され、他方の端部はグランドI/O部22とパターン配線で接続されている。本実施形態では、コイル部28は、第一のコイル24と第二のコイル26が直列に接続されて構成されている。第一のコイル24は、複数の貫通ビアを交互に接続することで、複数のプリント基板12を貫通した巻き線構造が形成されている。また、第二のコイル26は、カードスロット基板10の表面に沿って巻き線構造が形成されている。
【0026】
第一のコイル24および第二のコイル26は、電子回路素子であるコイル部品を使用せず、プリント基板12における種々の配線パターンの作成時に、配線パターンの1つとしてコイルが作成される。また、本実施形態では、2つのコイルは直交する2方向に向かって巻かれているため、静電気により発生する磁束の方向が直交して分散するが、これには限定されない。即ち、1つ以上のコイルが同一方向に磁束を発生する様に巻かれても良い。
【0027】
このコイル部28は、静電気を減衰させる静電気減衰部44として機能する。図3は、静電気減衰回路40の等価回路を示す。図3に示すように、コイル部28は、第一のコイル24と第二のコイル26により、インピーダンス(R)成分とインダクタンス(L)成分を等価的に形成する。このような構成は、フェライトビーズと等価であり、静電気の周波数が低い場合にはインダクタンス成分が主体であり、周波数が高くなるに従いインピーダンス成分が主体となる。
【0028】
周知のように、静電気の流路に形成されたインピーダンスRとインダクタンスLの各成分により、静電気の電荷成分を減衰させることで、静電気によるノイズを低減させることができる。この場合、コイルの配線長さは、長いほどインピーダンスを大きくして減衰効果を上げることができる。コイル部28で減衰された静電気はグランドI/O部22に伝わる。
グランドI/O部22は、本実施形態では、静電気をグランドに逃がすグランド部46として機能し、グランドI/O部22の出力口(図示は略す。)と適切に配線されることで、静電気減衰部44から出力された静電気はグランドに放出される。本実施形態では、グランドはシグナルグランド(SG)とフレームグランド(FG)の両方を兼ねる。
【0029】
カード挿入部16は、カード接続部48として機能し、メモリーカード30をカード挿入部16に挿入した場合、メモリーカード30と電気的に接続する接続端子(図示は略す。)を有する。この接続端子は、カードスロット基板10の表面に形成された配線パターンを介して電子回路部18と電気的に接続されている。
電子回路部18は、カードスロット基板10の表面に形成された配線パターンの所定位置に、何れも図示を略した、集積回路、抵抗およびコンデンサー等の電子回路素子がハンダ等で固着されている。この電子回路部18は、カード挿入部16に挿入されたメモリーカード30との間でデータの入出力を制御する情報処理部52として機能する。尚、配線パターンの所定位置は、静電気導入ピン14から見て、カードスロット基板10上のカード挿入部16よりも遠い位置である。従って、メモリーカード30を把持した手指から電子回路部18に静電気が放電することはない。
【0030】
本実施形態では、電子回路部18は、データ入出力部50として機能する読み取り信号I/O部20を介して外部の制御装置と接続し、制御装置の指示に応じて、カード挿入部16に装着されたメモリーカード30のデータを読み込んだり、メモリーカード30にデータを書き込んだりする。
また、電子回路部18のグランド線は、コイル部28とグランドI/O部22の間の静電気導線15上に形成された接続部25において電気的に接続されている。
【0031】
以上の構成により、ユーザーが手指でメモリーカード30を把持してカード挿入部16に挿入する場合、ユーザーの手指等に帯電して蓄積した静電気は、手指が静電気導入ピン14に接近することで放電され、静電気導入ピン14に流入する。静電気導入ピン14に流入した静電気は、静電気導線15を導電し、パターン配線で形成されたコイル部28を通過することで減衰し、電子回路部18に流入することなく、グランドI/O部22からグランドに放出される。
【0032】
従って、従来のように、静電気を減衰させるフェライトビーズ等の電子部品を実装することなく、静電気減衰回路40をパターン配線で形成し、静電気を静電気減衰回路40に導いて減衰させる。これにより、静電気がノイズとしてメモリーカード30の正常な読み取りや書き込みを阻害したり、電子回路部18に過電流が流入して破損したりすることへの対策を低コストで実施できる。
また、コイル部28のコイルに静電気の電荷が流入することで発生する磁束の方向は、直交して分散するため、電子回路部18への磁束の影響を軽減できる。
【0033】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、第一のコイル24や第二のコイル26が巻かれる方向は、カードスロット基板10や、その近傍の電子回路への磁束の影響を排除すべく、発生する磁束を互いに打ち消す様に、一方の方向に向かって右回りと左回りの両方で巻かれても良い。例えば、コイル26がプリント基板12の第1面と第2面とに電気的に接続されて配置され、第1面側から見て第1面では右回り、第2面では左回りに巻かれていても良い。
また、複数の貫通ビアを交互に接続することで、複数のプリント基板12を貫通した巻き線構造がカードスロット基板10の周囲を周回することで、本実施形態における第一のコイル24と第二のコイル26とを合わせた様態でも良い。
また、以上のような手法を実施する装置は、単独の装置によって実現される場合もあれば、複数の装置を組み合わせることによって実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【符号の説明】
【0034】
10…カードスロット基板、12…プリント基板、14…静電気導入ピン、15…静電気導線、16…カード挿入部、18…電子回路部、20…信号I/O部、22…グランドI/O部、24…第一のコイル、25…接続部、26…第二のコイル、28…コイル部、30…メモリーカード、40…静電気減衰回路、42…静電気入力部、44…静電気減衰部、46…グランド部、48…カード接続部、50…データ入出力部、52…情報処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶媒体の端子部を接続部に接続することで前記記憶媒体と導通し、導通した前記記憶媒体との間でデータを入出力するデータ入出力基板であって、
前記記憶媒体の端子部と前記接続部とを接続すべく所定の方向に移動する場合、前記接続部より前記所定の方向における手前側に配置される静電気入力部と、
前記静電気をグランドに逃がすグランド部と、
パターン配線で形成され、一方の端部が前記静電気入力部と電気的に接続され、他方の端部が前記グランド部と電気的に接続されたコイル部と、を備えることを特徴とするデータ入出力基板。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ入出力基板において、
導通した前記記憶媒体との間で前記データの入出力を制御する情報処理部を備え、
前記情報処理部は、前記所定の方向において、前記接続部よりも奥側に配置されていることを特徴とするデータ入出力基板。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のデータ入出力基板において、
前記コイル部は、交差する2方向に向かって巻かれていることを特徴とするデータ入出力基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のデータ入出力基板において、
前記コイル部は、一方の方向に向って右回りと左回りで巻かれている部分を含むことを特徴とするデータ入出力基板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のデータ入出力基板において、
前記記憶媒体は、前記端子部とは反対側の位置に保持部を有し、
前記静電気入力部は、前記媒体の端子部が前記接続部に接近するよりも先に、前記保持部が当該静電気入力部に接近する位置に配置されることを特徴とするデータ入力基板。
【請求項6】
請求項5に記載のデータ入出力基板において、
前記保持部は手指により保持され、前記静電気入力部は当該手指と接近することで当該手指に帯電した静電気を放電させることを特徴とするデータ入力基板。
【請求項7】
電子部品の端子部が接続部に接続される回路における静電気減衰回路において、
前記電子部品を前記接続部に装着すべく所定の方向に移動する場合、前記接続部より前記所定の方向における手前側に配置される静電気入力部と、
前記静電気をグランドに逃がすグランド部と、
パターン配線で形成され、一方の端部が前記静電気入力部と電気的に接続され、他方の端部が前記グランド部と電気的に接続されたコイル部と、を備えることを特徴とする静電気減衰回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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