説明

データ再生装置及びデータ再生方法

【課題】隣接記録トラックの信号からの干渉を除去し、データを精度よく分離して取り出すことができるデータ再生装置及びデータ再生方法を提供する。
【解決手段】等化器23,24にてN個の再生信号をフィルタにより等化し、隣接トラックからの干渉を、推定値若しくは既知の値を用いて除去する。このとき、周波数応答を固定した状態で等化することで、等化器23、24と利得調整器21,22による利得の干渉、等化器23、24とITR25,26による位相の干渉を抑制する。そして、ビット同期がとられた出力信号とその検出結果とに基づいて利得制御器31,32のN個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅と適応等化制御器33,34のフィルタのフィルタ係数とをそれぞれ制御することにより、データを精度よく分離して取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチトラック記録されたデータを再生するデータ再生装置及びデータ再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録や光記録において、高密度記録や高転送レートを目指し、マルチトラック記録の研究開発が行われている。具体的には、記録トラックのトラック幅を狭くすることにより、高密度記録を実現する研究が行われている。また、一度に複数の記録トラックを再生し、並列処理することにより、高転送レートを実現する研究が行われている。
【0003】
しかしながら、例えば、隣接記録トラックの信号の読み出しを行わないハードディスク記録再生装置では、再生ヘッドの幅を記録ヘッドの幅よりも小さくする必要があるため、トラック幅を狭くすると、再生ヘッドの作成が困難となってしまう。そこで、一度に複数の記録トラックを再生し、並列処理する技術が注目されている。
【0004】
ところで、通信分野において、一度に多くの情報を伝送する方法の一つとしてMIMO(Muti-Input Multi-Output)と呼ばれる技術がある。このMIMOは、マルチトラック記録されたデータを再生時に並列処理するのに適用することができる。
【0005】
MIMOは、送信信号のベクトルをs、受信信号のベクトルをr、チャネルを表す行列をHとすれば、以下の関係を示す。
【0006】
【数1】

【0007】
また、受信信号は、幾つかの送信信号がチャネルによって混ざりあった状態である。ここで、行列Hが受信側で求まり、逆行列H−1が存在すれば、次式のように元の送信信号を取り出すことができる。
【0008】
【数2】

【0009】
ところで、T.Conwayらは、再生ヘッドの幅を記録トラックの幅よりも大きくとり、隣接記録トラックの信号からの干渉を除去する等化方法を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
以下、従来の等化方法について説明する。ここでは、N個の再生ヘッドでN個の記録トラックを再生することとする。また、このときのN個の記録トラックを1つのグループとする。また、グループ間は、ガードバンドと呼ばれる無記録領域で挟まれ、N≦Nの条件を満たす。
【0011】
図7は、従来のマルチトラック記録におけるデータ再生装置の構成を示すブロック図である。このデータ再生装置100は、記録媒体から読み出された複数の再生信号が入力される入力部101と、入力された再生信号を増幅する再生アンプ102と、増幅された再生信号の利得を調整する可変利得アンプ103と、量子化する際に折り返し歪みを除去する低域通過フィルタ(LPF)104と、再生信号を量子化するADコンバータ105と、再生信号の等化及び隣接記録トラックの信号からの干渉を除去する等化器106と、再生信号のビット同期をとるITR(Interpolated Timing Recovery)107と、再生信号を検出する検出器108と、ビット同期した再生信号とその検出結果から誤差を計算する誤差計算器109と、再生信号の利得を調整する利得制御器110と、等化器106のフィルタ係数を算出する適応等化制御器111とから構成される。
【0012】
この従来のデータ再生装置において、n時刻での等化器106に入力される再生信号をx(n),i=0,1,・・・,N−1とし、等化器106からの出力をy(n),k=0,1,・・・,N−1とすると、次のように表される。
【0013】
【数3】

【0014】
ここで、LはFIR(Finite Impulse Response)フィルタの長さであり、h(i,j)はそのフィルタ係数である。
【0015】
(2)式と(3)式との関係より、(2)式における逆行列H−1がFIRフィルタ係数に含まれている。そして、これを適応等化することで求めることにより、隣接記録トラックからの信号の干渉を除去することができる。
【0016】
【特許文献1】国際公開第06/048849号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、(3)式のままで適応等化すると、フィルタの利得や位相は変化するので、利得調整器との利得の干渉や、ビット同期装置との位相の干渉が発生してしまい、時間とともに特性がずれてしまう問題があった。
【0018】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、隣接記録トラックの信号からの干渉を除去し、データを精度よく分離して取り出すことができるデータ再生装置及びデータ再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の課題を解決するために、本発明に係るデータ再生装置は、記録媒体上のN個の記録トラックを、N個の再生ヘッドで読み出し(N≦N)、N個の記録トラックのデータをそれぞれ分離して取り出すデータ再生装置において、N個の再生ヘッドから読み出されたN個の再生信号の振幅をそれぞれ増幅する信号増幅部と、上記増幅されたN個の再生信号をそれぞれ量子化する量子化部と、上記量子化されたN個の再生信号を周波数応答を固定した状態でフィルタにより等化し、N個の出力信号を出力する等化部と、上記等化されたN個の出力信号のビット同期をそれぞれとる同期部と、上記ビット同期がとられたN個の出力信号をそれぞれ検出する検出部と、上記検出部における検出結果に基づいて上記N個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅をそれぞれ制御する利得制御部と、上記ビット同期がとられた出力信号と上記検出部における検出結果とに基づいて上記フィルタのフィルタ係数をそれぞれ算出する適応等化制御部とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るデータ再生方法は、記録媒体上のN個の記録トラックを、N個の再生ヘッドで読み出し(N≦N)、N個の記録トラックのデータをそれぞれ分離して取り出すデータ再生方法において、N個の再生ヘッドから読み出されたN個の再生信号の振幅をそれぞれ増幅する信号増幅工程と、上記増幅されたN個の再生信号をそれぞれ量子化する量子化工程と、上記量子化されたN個の再生信号を周波数応答を固定した状態でフィルタにより等化し、N個の出力信号を出力する等化工程と、上記等化されたN個の出力信号のビット同期をそれぞれとる同期工程と、上記ビット同期がとられたN個の出力信号をそれぞれ検出する検出工程と、上記検出工程における検出結果に基づいて上記N個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅をそれぞれ制御する利得制御工程と、上記ビット同期がとられた出力信号と上記検出工程における検出結果とに基づいて上記フィルタのフィルタ係数をそれぞれ算出する適応等化制御工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、N個の再生信号を周波数応答を固定した状態でフィルタにより等化することにより、利得も位相も保持される。そして、ビット同期がとられた出力信号とその検出結果とに基づいてN個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅とフィルタのフィルタ係数とをそれぞれ制御することにより、隣接記録トラックの信号からの干渉を除去し、データを精度よく分離して取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の具体例として示すデータ再生装置は、記録媒体上のN個の記録トラックを、N個の再生ヘッドで読み出すものである(N≦N)。そして、N個の等化器によりN個の記録トラックのデータをそれぞれ分離して取り出すものである。なお、再生ヘッドの数N及び記録トラックの数Nが大きくなると煩雑となるため、以下、N=2、N=2として説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係るデータ再生装置の構成を示すブロック図である。このデータ再生装置10は、記録媒体から読み出された2つの再生信号がそれぞれ入力される入力部11,12と、入力された再生信号を増幅する再生アンプ13,14と、増幅された再生信号の利得を制御する可変利得アンプ15,16と、量子化する際に折り返し歪みを除去する低域通過フィルタ(LPF)17,18と、再生信号を量子化するADコンバータ19,20と、量子化された再生信号の利得を調整する利得調整器21,22と、再生信号の等化及び隣接記録トラックの信号の干渉を除去する等化器23,24と、再生信号のビット同期をとるITR(Interpolated Timing Recovery)25,26と、再生信号を検出する検出器27,28と、ビット同期した再生信号とその検出結果から誤差を計算する誤差計算器29,30と、再生信号の利得を制御する利得制御器31,32と、等化器23,24のフィルタ係数を算出する適応等化制御器33,34とを備えて構成される。
【0024】
2個の再生ヘッドを用いて記録媒体から読み出される再生信号は、それぞれ入力部11,12に入力される。入力部11,12から出力された再生信号は、それぞれ再生アンプ13,14で増幅され、可変利得アンプ15,16により所望の値へ増幅される。
【0025】
可変利得アンプ15、16で増幅された再生信号は、低域通過フィルタ17,18によって量子化した際の折り返し歪みを防ぐ為に帯域制限され、ADコンバータ19,20にて量子化される。
【0026】
ADコンバータ19で量子化された再生信号は、等化器23、利得調整器22に送られる。利得調整器22において、再生信号は可変利得アンプ16の利得に調整され、等化器24に送られる。
【0027】
同様に、ADコンバータ20で量子化された再生信号は、等化器24、利得調整器21に送られる。利得調整器21において、再生信号は可変利得アンプ15の利得に調整され、等化器23に送られる。
【0028】
等化器23,24で等化され、隣接記録トラックの信号からの干渉が除去された再生信号は、ITR25,26にてビット同期が行われる。ITR25,26でビット同期した再生信号は、検出器27,28に送られ、信号が検出される。
【0029】
誤差計算器29,30は、検出器27,28の検出結果と、ITR25,26にてビット同期した再生信号とから誤差を計算する。誤差計算器29,30の結果は、それぞれ適応等化制御器33,34にも送られ、フィルタ係数の算出に用いられる。また、検出器27、28の検出結果は、利得制御器31、32に送られる。
【0030】
このようなデータ再生装置10によれば、再生ヘッドにより複数の記録トラックにまたがって読み出した再生信号を分離して取り出すことができる。
【0031】
ここで、図2に示すように、隣接する2個の記録トラック41a、41bが1つのグループ41を形成し、ガードバンド43と呼ばれる無記録領域を挟んで、他のグループ42に接している。ここで、マルチ再生ヘッド51がオフトラックしている場合について考える。すなわち、隣接記録トラックの信号の干渉が生じている場合である。また、再生は、マルチ再生ヘッド51の再生ヘッド51a、再生ヘッド51bで行われ、再生時は、必ずグループ内の全ての記録トラックが再生されるものとする。なお、ここでは、再生ヘッド幅が記録トラック幅と等しいこととするが、特にこれに限る訳ではない。
【0032】
上記(2)式において受信信号のベクトルrをFIRフィルタで等化した再生信号とする。
【0033】
【数4】

【0034】
ここで、tは転置を表す。また、等化器23、24の出力yは、(5)式で表される。
【0035】
【数5】

【0036】
この等化器23,24の出力yは、上記(2)式のsに対応するので、上記(2)式のH−1を(6)式とすれば、(7)式で表される。
【0037】
【数6】

【0038】
すなわち、上記(3)式において、以下のように置けば、上記(7)式となる。
【0039】
【数7】

【0040】
ところで、記録トラックの1つのグループ内で、それぞれの記録トラックが違うタイミングで書き込まれることがなければ、ヘッドの磨耗等の影響を異なった条件で受けることはないので、隣接記録トラック同士で応答が大きくずれることはない。そこで、(9)式のように置くと、上記(7)式は(10)式で表される。
【0041】
【数8】

【0042】
この(10)式と上記(3)式とを比べれば分かるように、(10)式では、隣接記録トラックの信号の干渉量に応じてその係数αを設定することができるので、隣接記録トラックの信号からの干渉を除去し、データを精度よく分離して取り出すことが可能となる。
【0043】
また、上記(10)式において、下記(11)で表されるFIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter)は、適応等化すればその係数を求めることができる。
【0044】
【数9】

【0045】
また、α(k=0,1)は、何らかの方法で既知とすれば、その値を与えればよい。例えば、オフトラック量に応じてαを設定してもよい。また、わからなくてもLMS(Least Mean Square)アルゴリズム等を用いて適応等化すれば、隣接記録トラックの信号からの干渉を除去することができる。
【0046】
また、等化器23,24において、周波数応答においてある周波数(DCやナイキスト周波数を除く)のみを固定(制約)する。このように周波数応答を固定した状態で等化することにより、利得も位相も保持され、利得調整器21,22との利得の干渉や、ITR25,26との位相の干渉を防ぐことができる。つまり、利得制御器31,32において振幅誤差を求める際やITR25,26において位相誤差を求める際に、フィルタの応答特性に影響を与えないで済む。
【0047】
例えば、ハードディスクを例にとると、その基本的な記録フォーマットは、利得調整やビット同期の引き込みに使用されるプリアンブルと、同期信号であるSYNCデータと、記録対象のデータであるユーザデータとからなっており、パーシャル・レスポンスのPR4(Partial Response4)系に等化する場合は、プリアンブルはハーフナイキスト周波数の連続パターンが用いられる。この場合、トレーニング信号であるプリアンブルの周波数の応答に固定(制約)する。
【0048】
続いて、上述した等化器23,24の構成について説明する。なお、等化器23と等化器24とは、同様な構成なので、ここでは、等化器23について説明する。
【0049】
図3は、等化器23の構成例を示すブロック図である。この等化器23は、入力部61と、遅延素子62〜62L−1と、乗算器63〜63L−1と、加算器64とで構成される第1のFIRフィルタと、入力部71と、遅延素子72〜72L−1と、乗算器73〜73L−1と、加算器74とで構成される第2のFIRフィルタと、隣接記録トラックの信号からの干渉量を演算する乗算器75と、加算器76とから構成される。
【0050】
入力部61に入力される再生信号x(n)は、遅延素子62〜62L−1と、乗算器63〜63L−1と、加算器64とで構成される第1のFIRフィルタで等化され、加算器76に入力される。
【0051】
一方、入力部71に入力される再生信号x(n)は、遅延素子72〜72L−1と、乗算器73〜73L−1と、加算器74とで構成される第2のFIRフィルタで等化され、乗算器75に入力される。乗算器75では、隣接記録トラックの信号からの干渉量に相当する係数αが乗算される。
【0052】
そして、加算器76は、第1のFIRフィルタで等化された信号と第2のFIRフィルタで等化された信号とを加算し、その演算結果が等化器23の出力y(n)となる。すなわち、この等化器23は、上記(10)式で表されるy(n)を出力する。
【0053】
次に、適応等化制御器33,34におけるFIRフィルタの係数の計算方法について説明する。なお、以下の説明では簡単のため、ビット同期はとられているものとする。すなわち、位相誤差はゼロである。
【0054】
上記(11)式で表されるFIRフィルタの周波数応答Fは、(12)式で表すことができる。
【0055】
【数10】

【0056】
ここで、Tはサンプリング間隔であり、以下T=1とする。ハーフナイキスト周波数の応答は、f=1/4Tであるから、上記(12)式は次式で表される。
【0057】
【数11】

【0058】
ここで、フィルタ係数を(14)式と置くと、上記(13)式は(15)式で表される。
【0059】
【数12】

【0060】
FIRフィルタにおいて位相の変化は考慮しないので、(16)式を満たす。
【0061】
【数13】

【0062】
また、利得gは一定であるから、(17)式を満たす。
【0063】
【数14】

【0064】
(16)式及び(17)より、VとVの制約が与えられる。そこで、VとVを(18)式と置き、この行列Vに直交する行列Pを誤差信号ベクトルe(p)と掛け合わせてから更新することで、これらの制約条件を満たす。なお、誤差信号ベクトルe(p)は、誤差計算器29,30で計算される。
【0065】
【数15】

【0066】
行列Pは、次式で表される。ここで、Iは単位行列である。
【0067】
【数16】

【0068】
このとき、フィルタ係数の更新は次式で与えられる。なお、u(p)はフィルタ入力信号ベクトル、μは更新ゲインである。
【0069】
【数17】

【0070】
適応等化制御器33,34は、このように計算したフィルタ係数を等化器23,24に入力する。
【0071】
次に、利得制御器31,32における再生信号の利得制御について説明する。利得制御器31は、再生ヘッド51aで再生した記録トラック41aの再生信号に対して利得及び等化誤差を計算する。また、利得制御器32は、再生ヘッド51bで再生した記録トラック41bの再生信号に対して利得及び等化誤差を計算する。上記(17)式で表される制約条件の自乗平均をとり、信号成分の分散をσ、雑音成分の分散をσとすると、(21)式となる。
【0072】
【数18】

【0073】
したがって、利得制御器31,32で所望の値に振幅値を近づけようとしても、(17)式の制約を満たそうとするために、入力信号の雑音の増加とともに信号成分が(g−σ1/2倍だけ減少してしまい、信号と雑音の電力比であるSDNR(Signal to Distortion and Noise Ratio)が劣化する。
【0074】
そこで、利得制御器31,32の振幅誤差e(p)を計算する評価関数を(22)式とする。
【0075】
【数19】

【0076】
ここで、d(p)は所望の応答で、z(p)はITR25,26の出力である。また、(g+σ)/gは、(17)式の制約条件において、右辺の利得gを雑音電力分σだけ増加させたときの電力を、雑音の無い状態の電力で規格化した値である。これをITR25,26の出力に掛けることで、雑音が加わった分だけ(17)式の利得gを大きくする。このように信号成分の利得を変えないようにすることで、SDNRの劣化を防ぐことができる。
【0077】
また、利得制御器31,32は、係数σを計算する。雑音成分の電力であるσは、λを定数として、自乗誤差平均値MSE(Mean Square Error)を用いて(23)式で表すことができる。なお、定数λは、例えばPR4に等化する場合、λ=2となる。また、雑音成分としては、理想的な状態ならば隣接トラックの干渉が除去されているため、媒体雑音やヘッドの熱雑音、回路の熱雑音や電流雑音、符号干渉の雑音等を挙げることができる。
【0078】
【数20】

【0079】
さらに、あるサンプル間隔で、MSEを更新することによって、追従性を持たせることもできる。
【0080】
続いて、上述した利得制御器31,32の構成について説明する。なお、利得制御器31と利得制御器32とは、同様な構成なので、ここでは、利得制御器31について説明する。
【0081】
図4は、利得制御器31の構成例を示すブロック図である。この利得制御器31は、再生信号y(n)の所望の応答d(n)を算出するスライサ81、再生信号y(n)とスライサ出力d(n)との差を算出する加算器82、再生信号y(n)の絶対値を算出する絶対値回路83、スライサ出力d(n)の絶対値を算出する絶対値回路84、y(n)の係数を算出するMSE計算部85、y(n)の係数をy(n)に掛ける乗算器86、d(n)と乗算器86の出力との差を算出する加算器87、ループ利得を記憶する利得記憶部88、加算器87の出力とループ利得とを乗算する乗算器89、入力を1クロック遅延する遅延素子90、遅延素子90からの出力と乗算器89の出力との差を算出する加算器91、遅延素子90の出力をアナログ信号に変換するDAコンバータ92とを備える。
【0082】
スライサ81は、再生信号y(n)が{−1,0,1}の何れのシンボルに対応するかという仮判定を行う。スライサ81には、正の閾値Thと負の閾値Thの2つの閾値が設定されており、y(n)がThを超えると“1”を出力し、y(n)がThより低いと“−1”を出力し、y(n)がThとThとの間であると“0”を出力する。スライサ81の出力は、y(n)の所望の値d(n)となる。
【0083】
加算器82は、再生信号y(n)とスライサ81の出力d(n)から誤差信号を算出する。加算器82は、算出した誤差信号をMSE計算部85に出力する。
【0084】
MSE計算部85は、誤差信号を基にMSEを算出し、MSEに定数λを掛ける。λMSEは、上記(23)式に示すように雑音成分の分散σに相当する。さらに、MSE計算部85は、定数gとλMSEとを基に上記(22)式における再生信号y(n)の係数(g+λMSE)/gを算出し、乗算器86に出力する。
【0085】
乗算器86は、再生信号y(n)の絶対値|y(n)|とMSE計算部85の出力(g+λMSE)/gとを乗算し、計算結果を加算器87に出力する。加算器87は、絶対値回路84からの出力|d(n)|と乗算器86の出力(g+λMSE)/g・|y(n)|の差をとり、振幅誤差e(n)を算出する。
【0086】
加算器87からの出力e(n)は、乗算器89でループ利得と乗算される。この演算結果は、加算器91と遅延素子90によって構成される1タップのIIR(Infinite Impulse Response)のループフィルタに送られる。加算器91は、遅延素子90から出力された1クロック手前の振幅誤差e(n)と乗算器89の出力との差を算出して遅延素子90に出力する。遅延素子90は、振幅誤差e(n)をDAコンバータ92に出力する。DAコンバータ92は、振幅誤差e(n)をアナログ信号に変換増幅した利得制御信号を可変利得アンプ15に送る。このように雑音が加わった分だけ利得gを大きくすることにより、雑音再生特性を改善することができる。
【0087】
図5及び図6は、それぞれ本発明を適用したデータ再生装置及び従来の隣接記録トラックの干渉を抑制する機能を持たないデータ再生装置において隣接記録トラックの信号からの干渉がビットエラーレートに与える影響を示す図である。ここで、各データ再生装置は、磁気記録で一般的なPR4ML検出(Partial Response Class 4 Maximum Likelihood Sequence Detection)を行うこととし、記録符号として16/17を用いた。また、ユーザー線密度を2.0とした。
【0088】
図5及び図6に示す結果を比較すればわかるように、オフトラックの割合に対して本発明を適用したデータ再生装置は低いBER(Bit Error Rate)を示している。
【0089】
これより、隣接記録トラックからの干渉が十分に抑制されていることがわかる。
【0090】
以上説明したように、本発明を適用したデータ再生装置は、周波数応答を固定した状態で等化し、振幅誤差e(n)を算出するとき、再生信号y(n)を(g+λMSE)/g倍する。つまり、周波数応答を固定し、利得も位相も保持して等化し、雑音が加わった分だけ利得gを大きくすることにより、雑音再生特性を改善させることができる。また、誤り特性の支配的要因であるITR25,26の特性も向上させるとともに、追従性を持たせることもできる。
【0091】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、上記実施の形態では、再生ヘッドの幅と記録トラックの幅とを同じとしたが、これに限られるものではない。
【0092】
また、上記実施の形態では、2つの記録トラックを2つの再生ヘッドで読み出し、等化することとしたが、1つの記録トラックを読み出した全ての再生ヘッドの再生信号を等化するようにすればよい。
【0093】
また、上記実施の形態では、プリアンブルの周波数応答を固定していたが、本発明を適用したデータ再生装置、プリアンブルを用いずとも、安定した特性が得られる。例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスクの記録媒体には、プリアンブルが記録されていないが、適当な周波数応答を固定すれば、これらの記録媒体の再生にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施の形態に係るデータ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】記録媒体上の記録トラックとグループの関係を示す図である。
【図3】等化器の構成例を示すブロック図である。
【図4】利得制御器31の構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明を適用したデータ再生装置において隣接記録トラックの信号からの干渉がビットエラーレートに与える影響を示す図である。
【図6】従来の隣接記録トラックの干渉を抑制する機能を持たないデータ再生装置において隣接記録トラックの信号からの干渉がビットエラーレートに与える影響を示す図である。
【図7】従来のデータ再生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0095】
10 データ再生装置、 11,12 入力部、 13,14 再生アンプ、 15,16 可変利得アンプ、 17,18 低域通過フィルタ、 19,20 コンバータ、 21,22 利得調整器、 23,24 等化器、 25,26 ITR、 27,28 検出器、 29,30 誤差計算器、 31,32 利得制御器、 33,34 適応等化制御器、 41 グループ、 41 記録トラック、 42 グループ、 43 ガードバンド、 51 マルチ再生ヘッド、 61 入力部、 64 加算器、71 入力部、 74 加算器、 75 乗算器、 76 加算器、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上のN個の記録トラックを、N個の再生ヘッドで読み出し(N≦N)、N個の記録トラックのデータをそれぞれ分離して取り出すデータ再生装置において、
個の再生ヘッドから読み出されたN個の再生信号の振幅をそれぞれ増幅する信号増幅部と、
上記増幅されたN個の再生信号をそれぞれ量子化する量子化部と、
上記量子化されたN個の再生信号を周波数応答を固定した状態でフィルタにより等化し、N個の出力信号を出力する等化部と、
上記等化されたN個の出力信号のビット同期をそれぞれとる同期部と、
上記ビット同期がとられたN個の出力信号をそれぞれ検出する検出部と、
上記検出部における検出結果に基づいて上記N個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅をそれぞれ制御する利得制御部と、
上記ビット同期がとられた出力信号と上記検出部における検出結果とに基づいて上記フィルタのフィルタ係数をそれぞれ算出する適応等化制御部と
を備えるデータ再生装置。
【請求項2】
上記利得制御部は、上記再生信号に含まれる雑音による信号電力の減少を補正するように制御することを特徴とする請求項1記載のデータ再生装置。
【請求項3】
上記利得制御部は、上記ビット同期がとられた出力信号と上記検出部における検出結果との振幅誤差の計算に自乗誤差平均値(MSE)を利用することを特徴とする請求項2記載のデータ再生装置。
【請求項4】
上記利得制御部は、上記出力信号に、上記周波数応答を固定した状態の利得g及び定数λからなる係数(g+λMSE)/gを、掛け合わせることを特徴とする請求項3記載のデータ再生装置。
【請求項5】
上記利得調整部は、所定のサンプル間隔で、上記MSEを更新することを特徴とする請求項3記載のデータ再生装置。
【請求項6】
記録媒体上のN個の記録トラックを、N個の再生ヘッドで読み出し(N≦N)、N個の記録トラックのデータをそれぞれ分離して取り出すデータ再生方法において、
個の再生ヘッドから読み出されたN個の再生信号の振幅をそれぞれ増幅する信号増幅工程と、
上記増幅されたN個の再生信号をそれぞれ量子化する量子化工程と、
上記量子化されたN個の再生信号を周波数応答を固定した状態でフィルタにより等化し、N個の出力信号を出力する等化工程と、
上記等化されたN個の出力信号のビット同期をそれぞれとる同期工程と、
上記ビット同期がとられたN個の出力信号をそれぞれ検出する検出工程と、
上記検出工程における検出結果に基づいて上記N個の再生ヘッドから読み出された再生信号の振幅をそれぞれ制御する利得制御工程と、
上記ビット同期がとられた出力信号と上記検出工程における検出結果とに基づいて上記フィルタのフィルタ係数をそれぞれ算出する適応等化制御工程と
を有するデータ再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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