説明

トイレタリー製品の製造方法

【課題】次亜塩素酸塩による処理を経て得られた滅菌水中の次亜塩素酸塩を失活させることで、次亜塩素酸酸塩に起因する染料や香料などの感受性化合物の変質を起こさないトイレタリー製品製造用水の製造方法の提供。
【解決手段】次亜塩素酸塩を含有する水中にイソチアゾロン化合物を添加し、水中の次亜塩素酸塩を失活させる、トイレタリー製品製造用水の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレタリー製品製造用水の製造方法、並びにトイレタリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体柔軟仕上げ剤や液体消臭剤など、水を含有するトイレタリー製品の製造にとって、防菌対策は重要である。水を含有するトイレタリー製品の製造時に菌などが混入したまま、出荷、販売されると、製品中で菌が増殖し、変色や臭いの変化が起こるためである。よって、製造時の水の管理は注意深く行われており、一般的には、水を80℃以上の高温で数時間放置することで滅菌操作を行い、製品の製造に使用する場合が多い。このような高温滅菌操作では、水を加熱するのに多量のエネルギーが必要となるが、近年、COの排出量削減が製造者に求められていることから、エネルギー消費の少ない水の滅菌技術が求められている。
【0003】
この課題を解決する為に、殺菌効果のある次亜塩素酸塩を常温の水に数mg/kg程度(通常2〜10mg/kg程度)添加し、数時間放置して滅菌する、エネルギー消費の少ない水の滅菌技術が提案され、既に実用化されている。しかしながら、かかる滅菌技術を経て得られた滅菌水をトイレタリー製品の製造に用いる場合、染料や香料などの、次亜塩素酸塩に感受性を示す化合物〔以下、「次亜塩素酸塩感受性化合物」あるいは単に「感受性化合物」という〕を投入した場合に、水中の次亜塩素酸塩の作用によって、かかる感受性化合物が変質(例えば、褪色や香りの変質)する問題のあることが見出された。
【0004】
一方、液体柔軟仕上げ剤等のトイレタリー製品において、イソチアゾロン化合物、例えばプロキセルBDN(登録商標)に代表される、1,2−イソチアゾリン−3−オンは、抗菌剤として公知の物質である(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−64180号公報
【特許文献2】特開2000−355652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、次亜塩素酸塩による処理を経て得られた滅菌水中の次亜塩素酸塩を失活させることで、次亜塩素酸塩感受性化合物を添加しても、かかる感受性化合物の変質を起こさないトイレタリー製品製造用水の製造方法、ひいてはかかる感受性化合物の変質を起こさないトイレタリー製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願人は、上記課題につき鋭意検討した結果、従来、抗菌剤としてトイレタリー製品中に配合されるにすぎなかったイソチアゾロン化合物が、水中に含有される次亜塩素酸塩を失活させる効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次亜塩素酸塩を含有する水中にイソチアゾロン化合物を添加し、水中の次亜塩素酸塩を失活させる、トイレタリー製品製造用水の製造方法に関する。
【0009】
本発明はまた、上記製造方法によりトイレタリー製品製造用水を製造し、次いで、該トイレタリー製品製造用水に次亜塩素酸塩感受性化合物を添加する、トイレタリー製品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次亜塩素酸塩による処理を経て得られた滅菌水中の次亜塩素酸塩を失活させることで、次亜塩素酸塩感受性化合物を添加しても、かかる感受性化合物の変質を起こさないトイレタリー製品製造用水の製造方法、ひいてはかかる感受性化合物の変質を起こさないトイレタリー製品の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によれば、次亜塩素酸塩感受性化合物(例えば染料や香料)の褪色や香りの変質は起こらないため、水を含むトイレタリー製品の製造分野において、エネルギー消費の少ない次亜塩素酸塩による滅菌技術の利点をより享受することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の構成に関し詳細に述べる前に、以下の用語の意味に留意されたい。即ち、本発明において、用語「次亜塩素酸感受性化合物」(あるいは単に「感受性化合物」)とは、次亜塩素酸塩の酸化還元作用により変質する化合物をいう。かかる感受性化合物としては染料や香料が挙げられ、例えば、次亜塩素酸塩の酸化還元作用により染料が変質すると、変色や褪色が起こる。また香料が変質すると、香調が変わったり、香りの強度が弱くなったりする。
【0012】
本発明において、用語「失活」とは、水中に存在する次亜塩素酸塩の濃度が次亜塩素酸塩感受性化合物の変質を起こさないレベルにまで低減することをいう。次亜塩素酸塩感受性化合物の種類によっても異なるが、例えば、水中の次亜塩素酸塩の濃度が1.5mg/kg以下になれば、次亜塩素酸塩感受性化合物の変質は起こり難くなる傾向にあり、次亜塩素酸塩の濃度が0.8mg/kg以下、更には0.6mg/kg以下、特には0.3mg/kg以下と低くなると、感受性物質の変質は起こらなくなる。
【0013】
本発明において、用語「水を含むトイレタリー製品」あるいは単に「トイレタリー製品」とは、住居用や台所用、衣類用の洗剤製品、衣類用の洗濯助剤(例えば、液体柔軟仕上げ剤又は液体糊剤製品)及び消臭剤製品であって、構成成分として水を含む製品をいう。これらトイレタリー製品の具体例としては、例えば、液体洗浄剤や液体柔軟仕上げ剤、液体消臭剤が挙げられる。
【0014】
本発明において、用語「トイレタリー製品製造用水」とは、上記「トイレタリー製品」の構成成分となる水をいい、上記「トイレタリー製品」の製造に用いられる原料水をいう。
【0015】
<イソチアゾロン化合物>
本発明に好適に用い得るイソチアゾロン化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
〔式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示す。YとZはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示すか、又は、YとZは一緒になって、YとZの間の炭素−炭素2重結合と共に5員環又は6員環を形成するC3又はC4の炭素原子鎖を示す。〕
【0018】
一般式(1)において、Rのアルキル基としては、炭素数1〜12のアルキルが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。かかるアルキル基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、及びt−オクチル基などが挙げられる。
【0019】
一般式(1)において、Rのシクロアルキル基としては、炭素数3〜12のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3〜8のシクロアルキル基がより好ましい。かかるシクロアルキル基の好適な具体例として、シクロヘキシル基を挙げることができる。
【0020】
一般式(1)において、Rのアラルキル基の好適な具体例としては、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリチル基、p−ニトロベンジル基、p−メトキシベンジル基及びビス(p−メトキシフェニル)メチル基などが挙げられる。
【0021】
次亜塩素酸塩を失活させる効果の観点から、一般式(1)中のRは、水素原子又は炭素数1〜8アルキル基であることが特に好ましく、最も好ましくは水素原子である。
【0022】
一般式(1)において、Y及びZのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を好適に用いることができ、次亜塩素酸塩を失活させる効果の観点から、塩素原子であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)において、YとZが一緒になって、YとZの間の炭素−炭素2重結合と共に5員環又は6員環を形成する場合、次亜塩素酸塩を失活させる効果の観点から、6員環を構成することが好ましく、イソチアゾリン−3−オン骨格(即ち、イソチアゾロン骨格)と共にベンゾイソチアゾロン骨格を形成することが特に好ましい。
【0024】
一般式(1)で表される化合物の好適な具体例としては、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−t−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、又は2−n−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンが挙げられる。中でも、次亜塩素酸塩を高いレベルにて失活させ得る観点から、ベンゾイソチアゾロン誘導体(具体的には1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン若しくは2−n−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又は2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンがより好ましく、特に好ましくはベンゾイソチアゾロン誘導体であり、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンが最も好ましい。
【0025】
<トイレタリー製品製造用水の製造方法>
本発明においては、次亜塩素酸塩による滅菌処理を経て得られた、次亜塩素酸塩を含有する水中に、上記のイソチアゾロン化合物を添加することで、水中の次亜塩素酸塩を失活させることができる。
【0026】
失活させるべき対象である次亜塩素酸塩としては、防菌・防黴効果を呈するものであれば特に制限されるものではないが、トイレタリー製品の製造分野において、水の滅菌に通常用いられる次亜塩素酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に挙げられ、具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム又は次亜塩素酸カリウムが挙げられる。なお、次亜塩素酸塩による滅菌処理に付される水(即ち、滅菌前の水)としては、水道水、イオン交換水を好適に用いることができる。
【0027】
イソチアゾロン化合物は、単独で添加しても、あるいは水及び/又はアルコールとの混合物として添加してもよいが、次亜塩素酸塩を効率よく失活させ得る観点から、水及び/又はアルコールとの混合物として添加することが好ましい。ここで、アルコールとしては、エタノールやイソプロパノール等の炭素数2〜3のアルコールを好適に用いることができる。
【0028】
イソチアゾロン化合物を水及び/又はアルコールとの混合物として添加する場合、かかる混合物中のイソチアゾロン化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.03〜30質量%、より好ましくは0.3〜20質量%であることが好適である。
【0029】
イソチアゾロン化合物を水との混合物として添加する場合、イソチアゾロン化合物を水に均一に溶解させる観点から、アルカリ剤を用いて水のpHを8を超えるアルカリ性に調整することが好ましい。好適に用い得るアルカリ剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられ、具体例としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。あるいはまた、公知の界面活性剤や溶剤を用いて、イソチアゾロン化合物を水中に可溶化させてもよい。好適に用い得る界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤などが挙げられ、また、溶剤としては、炭素数1〜6の1〜6価のアルコール、例えば、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0030】
水中の次亜塩素酸塩の濃度は、2mg/kg〜3質量%の範囲であれば、イソチアゾロン化合物の添加による次亜塩素酸塩の失活効果を享受することができる。次亜塩素酸塩を効果的に失活させ得る観点から、水中の次亜塩素酸塩の濃度は、2mg/kg〜1質量%であることが好適である。水を含むトイレタリー製品の製造分野において、次亜塩素酸塩による処理を経て滅菌された水には通常2mg/kg〜10mg/kgの次亜塩素酸塩が含有されており、イソチアゾロン化合物の添加による本発明の効果を好ましく享受することができる。なお、本発明において、次亜塩素酸塩の濃度は、下記実施例に記載の有効塩素測定法に従って測定された有効塩素の濃度値である。
【0031】
本発明の効果を奏するにあたり、次亜塩素酸塩に対するイソチアゾロン化合物の添加質量比を特定の範囲とすることが重要である。即ち、イソチアゾロン化合物の添加量は、イソチアゾロン化合物/次亜塩素酸塩の質量比=1〜200の範囲とすることが好ましく、水中の次亜塩素酸塩を効果的に失活させ得る観点から、イソチアゾロン化合物/次亜塩素酸塩の質量比=2〜100の範囲とすることが更に好ましい。
【0032】
イソチアゾロン化合物を添加して水中の次亜塩素酸塩を失活させる際の温度は、特に制限されるものではないが、常温にて水を滅菌することができる次亜塩素酸塩による滅菌技術の利点を活かすべく、5〜30℃の範囲にて処理することが好適である。また、トイレタリー製品の製造において、トイレタリー製品製造用水の温度を40〜70℃に上げる必要がある場合には、40℃〜70℃の範囲にて処理することもできる。
【0033】
イソチアゾロン化合物を添加して水中の次亜塩素酸塩を失活させる際の処理時間は、水中の次亜塩素酸塩の濃度や、イソチアゾロン化合物/次亜塩素酸塩の質量比によっても異なるが、通常、10秒以上処理することが好ましい。トイレタリー製品の製造効率の点で、処理時間は2時間以内が好ましく、1分〜60分の範囲とすることが更に好ましい。
【0034】
イソチアゾロン化合物を添加して水中の次亜塩素酸塩を失活させるにあたり、次亜塩素酸塩を含有する水を特段攪拌する必要はないが、次亜塩素酸塩を効果的に失活させ得る観点からは、攪拌下に処理することが好適である。
【0035】
本発明の製造方法により得られるトイレタリー製品製造用水は、染料や香料などの次亜塩素酸塩感受性化合物を添加しても、かかる感受性化合物の褪色や香りの変質を起こさないため、トイレタリー製品の製造において、エネルギー消費の少ない次亜塩素酸塩による滅菌技術の利点をより享受することができる。
【0036】
<トイレタリー製品の製造方法>
本発明のトイレタリー製品の製造方法は、次亜塩素酸塩による滅菌処理を経て得られた、次亜塩素酸塩を含有する水中に、上記<トイレタリー製品製造用水の製造方法>に従って、イソチアゾロン化合物を添加し次亜塩素酸塩を失活させ「トイレタリー製品製造用水」を製造した後、このトイレタリー製品製造用水に次亜塩素酸塩感受性化合物を添加することを特徴とする。
【0037】
ここで、本発明における、次亜塩素酸塩を失活させるためのイソチアゾロン化合物の使用態様は、従来のトイレタリー製品の製造における抗菌剤としてのイソチアゾロン化合物の使用とは態様を全く異にする点に留意されたい。トイレタリー製品として液体柔軟仕上げ剤を例に挙げると、従来の、抗菌剤としてのイソチアゾロン化合物の使用方法に関しては、通常、次亜塩素酸塩による処理を経て得られた滅菌水に、第1級、第2級若しくは第3級アミノ基を分子内に含有するアミン化合物(即ち、柔軟基剤)を配合した後、染料や香料などの感受性化合物と共に若しくは染料や香料などの感受性化合物よりも更に後でイソチアゾロン化合物を配合している。このような従来の使用方法では、添加されたイソチアゾロン化合物は抗菌剤としての機能は充分に発現するものの、次亜塩素酸塩感受性化合物の変質を抑制すべく次亜塩素酸塩を失活させるという本発明の効果は奏さない。これに対し、本発明におけるイソチアゾロン化合物の使用態様においては、次亜塩素酸塩による処理を経て得られた滅菌水に、はじめにイソチアゾロン化合物を添加することで、次亜塩素酸塩を効果的に失活させ、その後に配合される感受性化合物の変質を抑制し得るものである。次亜塩素酸塩が失活することで滅菌水の管理が問題となるが、イソチアゾロン化合物自体が抗菌剤としての機能を発現するため、管理は容易である。
【0038】
このように、本発明におけるトイレタリー製品の製造方法においては、感受性化合物の不存在下、はじめに、次亜塩素酸塩を含有する水中にイソチアゾロン化合物を添加することが重要である。また、液体柔軟仕上げ剤の製造においては、感受性化合物のみならず、第1級、第2級若しくは第3級アミノ基を分子内に含有するアミン化合物も存在しない条件下(即ち、これら感受性化合物やアミン化合物の配合前;より詳細には、次亜塩素酸塩による処理を経て滅菌された水にはじめに)、イソチアゾロン化合物を添加することが、次亜塩素酸塩を効果的に失活させるにあたり重要である。
【0039】
次亜塩素酸塩感受性化合物を添加するにあたり、「トイレタリー製品製造用水」の温度は、特に制限されるものではなく、トイレタリー製品の種類に応じて適宜設定すればよいが、通常、10〜70℃の範囲にて添加することが好適である。
【0040】
本発明のトイレタリー製品の製造方法において、染料や香料などの次亜塩素酸塩感受性化合物のほか、製造対象であるトイレタリー製品の種類に応じて、その製品製造時に通常用いられる成分を更に配合し得ることは当業者には理解されよう。例えば、液体柔軟仕上げ剤を製造するにあたっては、第1級、第2級若しくは第3級アミノ基を分子内に含有するアミン化合物(即ち、柔軟基剤)をはじめ、非イオン界面活性剤、シリコーン化合物、エタノールなどの有機溶剤等を配合し得る。また液体洗浄剤を製造するにあたっては、洗浄主基剤である界面活性剤をはじめ、ビルダー成分、酵素等を配合し得る。液体消臭剤を製造する場合には、シクロデキストリン、エタノールなどの有機溶剤、消泡剤等を配合し得る。
【0041】
本発明の製造方法により得られるトイレタリー製品は、原料水(滅菌水)中の次亜塩素酸塩に起因する、染料や香料などの次亜塩素酸塩感受性化合物の褪色や香りの変質が起こらず、所期の品質を有利に実現し得る。
【実施例】
【0042】
実施例で使用したイソチアゾロン化合物、染料及び柔軟基剤は以下の通りである。
イソチアゾロン化合物(1): 1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(アビシア(株)製)
イソチアゾロン化合物(2): 2−n−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(アビシア(株)製)
イソチアゾロン化合物(3): 5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(アビシア(株)製)
染料:カラーインデックス酸性青色9号(食用青色1号、保土ヶ谷化学工業(株)製)
柔軟基剤:下記合成例1で得られた柔軟基剤
【0043】
合成例1
攪拌羽根(直径2cm)、温度計、及び反応によって生成する水をトラップする冷却器が付いた500ml容量の四つ口フラスコに、ステアリン酸(分子量284)141g(0.5モル)とN−メチルジエタノールアミン(分子量119)28.6g(0.24モル)を投入した。次いで、四つ口フラスコをマントルヒーターに設置し、200r/minで攪拌しながら、160〜165℃に昇温し、その温度範囲で、12時間反応させた。12時間後、マントルヒーターを四つ口フラスコから外し、反応生成物の温度が70℃になるまで、自然冷却し、N,N−ジステアロイルオキシエチル−N−メチルアミンを主成分として90質量%含有する柔軟基剤を得た。
【0044】
実施例1〜6及び比較例1
表1に示す組成の次亜塩素酸ナトリウム含有水を下記方法により調製し、その次亜塩素酸ナトリウム濃度を下記方法に従って測定した。得られた次亜塩素酸ナトリウム含有水に、表1に示す組成のイソチアゾロン化合物含有組成物を、表1に示す割合にて添加し、トイレタリー製品製造用水を製造し、下記要領で次亜塩素酸ナトリウムの失活効果を評価した。結果を表1に示す。
なお、以下の記載においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」の意を示す。
【0045】
<次亜塩素酸ナトリウム含有水の調製>
3Lのガラスビーカーに、次亜塩素ナトリウム溶液(関東化学(株)製、有効塩素濃度5.0質量%以上)0.21gを入れ、イオン交換水2999.79gを加えて希釈し、次亜塩素酸ナトリウム含有水3000gを得た。
【0046】
<次亜塩素酸ナトリウム濃度の測定方法>
3Lの透明ガラスビーカーに、上記<次亜塩素酸ナトリウム含有水の調製>の方法に従って調製した次亜塩素酸ナトリウム含有水3000gを秤量した。次いで10%ヨウ化カリウム10mlを添加し、スターラーピースを用いて、25℃にて、1分間攪拌した。次に、20%硫酸水溶液10mlを添加し更に1分間攪拌した後、1/50Nチオ硫酸ナトリウムを、次亜塩素酸ナトリウム含有水の外観(滴下前は黄色)が透明になるまで滴下した。尚、液体の外観変化の観察を容易にするために、ガラスビーカーの反対側に白色の紙を配置し、次亜塩素酸ナトリウム含有水の背景を白色とした。次亜塩素酸ナトリウム濃度は、下記式に従って、有効塩素濃度として算出した。
【0047】
有効塩素濃度[mg/kg]=〔チオ硫酸ナトリウム適下量[ml]×チオ硫酸ナトリウム規定数[N]×35.5(塩素分子量)〕/3
【0048】
<次亜塩素酸ナトリウム失活効果の評価>
3Lのガラスビーカーに、上記<次亜塩素酸ナトリウム含有水の調製>の方法に従って調製した次亜塩素酸ナトリウム含有水3000gを入れた。次いで、表1記載のイソチアゾロン化合物含有組成物を表1記載の割合にて添加し、スターラーピースを用いて、25℃にて、5分間攪拌した。また比較のために、イソチアゾロン化合物を含有しない組成物を添加し同様の条件にて攪拌する比較実験も行った(比較例1)。攪拌後、上記<次亜塩素酸ナトリウム濃度の測定方法>と同様にして次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定した。表1には、比較例1の次亜塩素酸ナトリウム濃度を100とした場合の相対値を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例7
3Lの透明ガラスビーカーに、表2に示す組成の次亜塩素酸ナトリウム含有水(X)3000gとイソチアゾロン化合物含有組成物(Y)7.5gを入れ、スターラーピースを用いて、25℃にて、1分間攪拌した。次いで、表2に示す組成の染料含有水(Z)10.5gを入れ、更に1分間攪拌した。
得られた混合液について、429nmにおける吸光度を紫外可視分光光度計(島津製作所(株)製、UV−2500;石英セル、光路長1cm、対照セルはイオン交換水を使用)を用いて測定したところ、吸光度は0.40であり、染料の残存率は98%であった。ここで、染料の残存率は、下記参考例の吸光度値「0.41」を染料残存率100%の基準吸光度値として算出した値である。
また、本操作において染料含有水(Z)に代えてイオン交換水(染料不含)を使用し、同様の操作を行った最終混合液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定した結果、0.21mg/kgであり、次亜塩素酸塩の失活が確認された。
【0051】
比較例2
イソチアゾロン化合物含有組成物(Y)7.5gに代えて、1%水酸化ナトリウム水溶液(イソチアゾロン化合物不含)7.5gを用いた以外は、実施例7と同様にして混合液を得、吸光度の測定並びに次亜塩素酸ナトリウム濃度の測定を行った。
得られた混合液の429nmにおける吸光度は0.03であり、染料の残存率は8%であった。また、混合液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度は3.5mg/kgであり、次亜塩素酸塩の失活は確認されなかった。
【0052】
比較例3
はじめに次亜塩素酸ナトリウム含有水(X)3000gと染料含有水(Z)10.5gを混合し、次いでイソチアゾロン化合物含有組成物(Y)7.5gを添加し混合した以外は、実施例7と同様にして混合液を得、吸光度の測定並びに次亜塩素酸ナトリウム濃度の測定を行った。
得られた混合液の吸光度は0.03であり、染料の残存率は8%であった。また、混合液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度は3.5mg/kgであり、次亜塩素酸塩の失活は確認されなかった。
【0053】
参考例1(実施例7及び比較例2〜3で算出した染料残存率の基準)
3Lの透明ガラスビーカーに、イオン交換水3000gと表2に示す組成のイソチアゾロン化合物含有組成物(Y)7.5gを入れ、スターラーピースを用いて、25℃にて1分間攪拌した。次いで、表2に示す組成の染料含有水(Z)10.5gを入れ、更に1分間攪拌した。
得られた混合液の429nmにおける吸光度は0.41であった。この吸光度値を染料残存率100%の基準吸光度値として採用した。
【0054】
実施例7及び比較例2〜3の結果をまとめて表2に示す。また、参考のため、参考例1の結果も併せて示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例8
500mLの透明ガラスビーカーに、表3に示す組成の次亜塩素酸ナトリウム含有水(X)300gを入れ、次いでイソチアゾロン化合物含有組成物(Y)0.75gを投入し、スターラーピースを用いて、25℃にて、1分間攪拌しトイレタリー製品製造用水を得た。このガラス製ビーカーを60〜65℃の温度範囲で調温された、ウォーターバスに入れ、羽根の長さが1.5cmの羽根が3枚ついた攪拌羽根をビーカーの底から1cmの箇所に設置し、150r/minで攪拌しながら、トイレタリー製品製造用水の温度が60〜65℃の温度範囲になるように昇温した。次いで、表3に示す組成の染料含有水(Z)1.05gを入れ、1分間攪拌した。合成例1で得られた柔軟基剤15gを投入し、1分間攪拌し、1規定の塩酸水溶液を用いて、pHを3.0に調整した。さらに5分攪拌後、60〜65℃のウォーターバスを5℃のウォーターバスに置き換えて、内容物の温度が30℃になるまで冷却し、トイレタリー製品である液体柔軟剤を得た。得られた液体柔軟剤の外観を目視で観察した結果、下記参考例2で製造された、液体柔軟剤の着色(青色)の程度と同じであった。外観の判定は、液体柔軟剤の開発に5年以上従事した研究員が行った。
【0057】
比較例4
イソチアゾロン化合物含有組成物(Y)0.75gに代えて、1%水酸化ナトリウム水溶液(イソチアゾロン化合物不含)0.75gを用いた以外は、実施例8と同様にしてトイレタリー製品製造用水を得た。
得られたトイレタリー製品製造用水を用いて、実施例8と同様にしてトイレタリー製品である液体柔軟剤を得た。得られた液体柔軟剤の外観を目視で観察した結果、下記参考例2で製造された、柔軟剤の着色(青色)よりも、青色の程度が低く、僅かに青みがかった白濁の外観であった。
【0058】
比較例5
はじめに、次亜塩素酸塩含有水(X)300gと染料水溶液(Z)1.05gを混合し、次いでイソチアゾロン化合物(Y)0.75gを添加し混合した以外は、実施例8と同様にして、液体柔軟剤を得た。得られた液体柔軟剤の外観を目視で観察した結果、下記参考例2で製造された、柔軟剤の着色(青色)と比較して、青色を殆ど呈さず、僅かに青みがかった白濁の外観であった。
【0059】
参考例2(実施例8及び比較例4〜5で使用した、外観の基準)
次亜塩素酸ナトリウム含有水(X)300gの代わりに、イオン交換水を用いた以外は、実施例8と同様にして液体柔軟剤を得た。この液体柔軟剤の外観を基準とした。
【0060】
実施例8、比較例4〜5の結果を表3に示す。また、参考のため、参考例2の結果も併せて示す。
【0061】
【表3】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩を含有する水中にイソチアゾロン化合物を添加し、水中の次亜塩素酸塩を失活させる、トイレタリー製品製造用水の製造方法。
【請求項2】
イソチアゾロン化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である、請求項1記載のトイレタリー製品製造用水の製造方法。
【化1】

〔式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示す。YとZはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示すか、又は、YとZは一緒になって、YとZの間の炭素−炭素2重結合と共に5員環又は6員環を形成するC3又はC4の炭素原子鎖を示す。〕
【請求項3】
イソチアゾロン化合物をイソチアゾロン化合物/次亜塩素酸塩の質量比=1〜200にて添加する、請求項1又は2記載のトイレタリー製品製造用水の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法によりトイレタリー製品製造用水を製造し、次いで該トイレタリー製品製造用水に次亜塩素酸塩感受性化合物を添加する、トイレタリー製品の製造方法。
【請求項5】
次亜塩素酸塩感受性化合物が、染料及び香料から選ばれる化合物である、請求項4記載のトイレタリー製品の製造方法。


【公開番号】特開2012−125728(P2012−125728A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281492(P2010−281492)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】