説明

トウの開繊方法

【課題】積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、その張力を一定に維持しながら開繊させることができるトウの開繊方法を提供すること。
【解決手段】積層され圧縮された状態の原反10から引き出したトウ11を、自重により略U字状に撓んだ部分12が生じるように、駆動ロール20により送り出し、送り出したトウ13を、前記略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置より下流側において開繊させるトウの開繊方法であって、前記略U字状に撓んだ部分の下端12aの高さ位置を検知し、駆動ロール20による送り出し速度を、該高さ位置が所定の基準位置から離れないように制御しながらトウの開繊を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、搬送しながら連続的に開繊させるトウの開繊方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長繊維からなるトウは、たばこのフィルター等の原料として用いられている。長繊維からなるトウは、一定の幅内を往復させるようにして折り畳んで積層し、それを圧縮した状態で取引されることが多い。この状態のトウは、トウベールとも呼ばれるが、このような状態のトウの原反から、トウを連続的に引き出すには、原反の上方にコンケーブガイドあるいはロール等の移送方向の変換手段を配置し、それより下流側に設けた駆動ロールにより変換手段を経由したトウを引っ張ることが広く行われている。このようにしてトウを引き出す場合、トウを引き出すに連れて原反(トウベール)の上面の位置が低下し、移送方向の変換手段と原反との間の距離が減少するため、例えば、トウの引き出し開始直後と終了間際とでは、トウの自重によりトウに加わる張力が異なり、その結果として、たばこのフィルター等の製品中のトウの重量が相違する等の問題がある。
【0003】
斯かる問題を解決する技術として、特許文献1には、コンケーブガイドあるいはロールを有する可動ブームを、トウの原反の上方に配置し、該可動ブームを、コンケーブ又はロールと原反の上面との間の距離が一定となるように、原反の上面位置の低下に対応させて回動させることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、たばこのフィルター等として用いられる繊維ロッドの製造に関連する技術として、第1の対ロール、押さえガイド及び第2の対ロールを備え、押さえガイドと第1の対ロールの一方のロールが設けられた制御アームを、トウのテンション変動に対応してトウ面に垂直な方向に揺動させることでトウに加わるテンションを一定にしたテンション均衡装置が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−163328号公報
【特許文献2】特開昭59−71453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、トウの原反の上面の高さ位置の下降による張力の変動を防止することができるが、原反から引き出したトウの張力は、原反からトウを引き剥がす際の剥離抵抗力の変動によっても変動する。特許文献2の技術によっては、このような引き剥がし抵抗の変動による張力変動を解消することができない。特許文献2の技術においては、開繊工程の中で、開繊と並行して張力の調整を行う構成であるため、開繊条件の調整がしにくい。
【0007】
従って、本発明の目的は、積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、その張力を一定に維持しながら開繊させることができ、例えばトウを用いて幅や開繊状態の均一な帯状体を安定して製造することのできるトウの開繊方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、自重により略U字状に撓んだ部分が生じるように、駆動ロールにより送り出し、送り出したトウを、前記略U字状に撓んだ部分の下端位置より下流側において開繊させるトウの開繊方法であって、前記略U字状に撓んだ部分の下端の高さ位置を検知し、前記駆動ロールによるトウの送り出し速度を、該高さ位置が所定の基準位置から離れないように制御しながら、トウの開繊を行うトウの開繊方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトウの開繊方法によれば、積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、その張力を一定に維持しながら開繊させることができ、例えばトウを用いて幅や開繊状態の均一な帯状体を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のトウの開繊方法の一実施形態に用いられる開繊装置の概略を示したものである。
図1に示す開繊装置1は、積層され圧縮された状態の原反(以下、原反という)10から帯状のトウ11を連続的に引き出す引き出し機構、原反10から引き出したトウ11を、自重により略U字状に撓んだ部分12が生じるように送り出す送り出し機構、送り出したトウ13に対して、前記略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置より下流側において開繊処理を施す開繊機構、及び、前記略U字状に撓んだ部分12の下端12aの高さ位置を検知し、送り出し機構による送り出し速度を、略U字状に撓んだ部分12の下端12aの高さ位置が、所定の基準位置から離れないように制御する張力調整機構を備えている。
【0011】
引き出し機構及び送り出し機構は、駆動ロール20を主体として構成されている。駆動ロール20は、一対のロール21,22を備えており、少なくとも一方がサーボモータ23により矢印方向に回転駆動される。一対のロール21,22の間に、トウ11を挟んだ状態で、両ロールが回転することにより、原反10からトウ11が連続的に引き出されると共に、引き出されたトウ11が、前記略U字状に撓んだ部分12が生じるように、下流の開繊機構に向かって送り出される。
【0012】
開繊機構は、送り出し機構により送り出されたトウ13に対して順次開繊処理を施す開繊機(バンディングジェット)31〜33を備えている。また、開繊機31と32との間には、トウ13を一旦上方に送った後、降下させる移送方向の転換手段として、表面平滑なガイド34を備え、開繊機32と33との間には、プレテンショニングロール35及びブルミングロール36を備えている。更に、開繊機33の下流にはデリバリーロール39を備えている。
【0013】
開繊機31〜33は、エアーを吹き付けて搬送中のトウを開繊させてその幅を拡げる装置である。プレテンショニングロール35は、開繊機31で開繊されたトウ13をニップして所定の速度で繰り出す一対のロールを備えている。ブルミングロール36は、溝ロール37と、周面がゴムで形成されたアンビルロール38とを備えており、プレテンショニングロール35との間に速度差を設け、溝ロール37の溝間の凸部が押圧して張力を与える部分と溝ロール37の凹部(溝部分)に位置して張力を与えない部分とを生じさせることで、トウ13の開繊をし易くする。デリバリーロール39は、開繊を終えたトウ14を所定の張力を維持して下流に供給する一対のロールを備えている。
【0014】
張力調整機構は、光線照射部と、光線照射部から照射された光線を受ける受光部との組合せからなる非接触式の検知センサ41,42,43,44を、高さ方向に間隔を開けて複数備えている。各検知センサは、光線照射部と受光部との間で光線が遮断されているか否かで異なる電気的信号を出力する。また、張力調整機構は、制御部45を備えている。
制御部45は、図2に示すように、各検知センサからの信号を入力し、これらの信号から、上方から下方に向かってどの検知センサの高さまで、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aが到達しているかを検知する。そして、その結果に基づき、駆動ロール20を駆動するサーボモータ23に対する出力を変化させ、駆動ロール20の回転を加減速する。
【0015】
次に、開繊装置1を用いたトウの開繊方法について説明する。
本実施形態のトウの開繊方法においては、捲縮したアセテートの長繊維からなるトウ11を、積層され圧縮された状態の原反10から引き出し、次いで、張力を一定に調整した状態下に、該トウの開繊を行う。
【0016】
開繊装置1を起動する際には、先ず、トウの原反10からある程度の長さのトウ11を引き出し、そのトウ11を、図1に示すような状態にセットする。このセットの際には、開繊機31と駆動ロール20との間において、トウ13が自重により大きく撓んで略U字状をなし、その略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置が、検知センサ42と43との間に位置するようにセットする。
そして、駆動ロール20による送り出し速度を、プレテンショニングロール35よりもやや遅い速度に設定し、これら両ロール20,35,ブルミングロール36及びデリバリーロール39を回転駆動させる。
尚、ブルミングロール36による送り出し速度(周速)は、プレテンショニングロール35よりもやや速い速度に設定し、デリバリーロール39の送り出し速度は、ブルミングロール36の送り出し速度(周速)よりもやや遅く、プレテンシニングロール35の送り出し速度よりもやや速い速度に設定することが好ましい。
【0017】
これにより、原反10から帯状のトウ11が、駆動ロール20に引っ張られて連続的に引き出され、該駆動ロール20によって下流に向かって送り出される。下流に送り出されたトウ13は、絶えず、自重により略U字状に撓んだ部分12を形成しながら、連続的に開繊機構に送られ、開繊機31〜33によって順次幅が拡がるように開繊される。
【0018】
開繊装置1の運転中には、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの高さ位置を連続的又は適宜の間隔で検知し、検知した高さ位置に応じて、駆動ロール20によるトウの送り出し速度(ロール21,22の回転速度)を加速若しくは減速し又はそのままに維持する。
具体的には、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置が、図2に符号Aで示すように、検知センサ42と検知センサ43との間に位置する場合には、駆動ロール20によるトウの送り出し速度をそのままの速度に維持する。他方、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置が、符号Bで示すように、検知センサ41と検知センサ42との間に位置する場合には、駆動ロール20によるトウの送り出し速度を加速し、符号Cで示すように、検知センサ43と検知センサ44との間に位置する場合には、駆動ロール20によるトウの送り出し速度を減速する。即ち、本実施態様においては、検知センサ42と43との間が基準位置であり、下端12aの位置が、該基準位置から離れないように制御する。
このように制御することで、ガイド34の上端とトウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置との間の鉛直方向の距離L1(図2参照)及び駆動ロール20のトウ導出部と前記下端12aの位置との間の鉛直方向の距離L2(図2参照)を、常時所定の範囲内に維持することができる。尚、図1及び図2に示す開繊装置においては、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの位置が、検知センサ41より上に上昇したり、検知センサ44より下に下降した場合には、異常と判断し、装置を停止するか、あるいは警告音を発するようにしてある。
【0019】
本実施形態の開繊方法によれば、ガイド34とトウの略U字状に撓んだ部分の下端12aとの間の距離を一定の範囲内に維持することで、トウを、その張力を略一定に維持しながら、開繊機のそれぞれにおいて順次開繊させることができる。そのため、原反10からトウ11を引き出す際にトウ11の剥離抵抗力が変動したり、トウ11を引き出すに連れて原反10の上面の位置が下降したりしても、張力の変動による開繊後の幅や開繊状態の不均一が生じにくく、幅や開繊状態が均一な帯状体を効率良く製造することができる。
トウの張力の均一化の観点から、前記距離L1(図2参照)は100〜300cm、前記距離L2(図2参照)は50〜250cmの範囲となるように駆動ロール20の回転を制御することが好ましく、L1は150〜200cm、L2は100〜150cmの範囲となるように制御することがより好ましい。
【0020】
また、本実施形態の開繊方法によれば、トウの略U字状に撓んだ部分に、ダンサーロールのようなロールを接触させる必要がないので、トウを開繊して幅広とするのが容易であり、また、静電気の発生を防止することができる。
【0021】
本実施形態の開繊方法により開繊したトウは、その幅や開繊状態の均一性を活かして各種用途に用いることができる。例えば、開繊後のトウ14に、吸水性ポリマーを散布し、これらをティッシュペーパーや透水性の不織布等の透水性のシートで被覆し、それを、吸収性物品の製造に用いる吸収体連続体として用いることができる。この吸収体連続体は、個々の吸収性物品の寸法に切断されて、吸収性物品の吸収体を構成する。吸収性物品は、液透過性の表面シート、液不透過性又は撥水性の裏面シート、及びこれらの間に介在された吸収体を具備するものが典型的であり、吸収体以外の構成材料としては、各種公知のものを用いることができる。吸収性物品としては、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナー(おりものシート)、失禁パッド等が挙げられる。
【0022】
開繊されたトウを、吸収性物品の吸収体として用いる場合、トウを構成する繊維には、捲縮しているものを用いることが好ましい。該繊維はその捲縮率(JIS L 0208)が10〜90%が好ましく、10〜60%がより好ましく、10〜50%がさらに好ましい。捲縮した繊維から構成されたトウを用いることで、開繊後のトウに吸収性ポリマーを安定的に且つ多量に埋没担持させることが容易となる。繊維を捲縮させる手段に特に制限はない。また、捲縮は二次元的でもよく或いは三次元的でもよい。捲縮率は、繊維を引き伸ばしたときの長さと、元の繊維の長さとの差の、伸ばしたときの長さに対する百分率で定義される。また、開繊されたトウを、吸収性物品の吸収体として用いる場合、親水性を有する連続繊維からなるトウが好ましく用いられる。親水性を有する連続繊維としては、本来的に親水性を有する連続繊維、及び本来的には親水性を有さないが、親水化処理が施されることによって親水性が付与された連続繊維の双方が包含される。好ましい繊維は本来的に親水性を有するものであり、特にアセテートやレーヨンの連続繊維が好ましい。とりわけアセテートは湿潤しても嵩高性が保持されるので特に好ましい。
【0023】
本発明は、前記実施形態に制限されない。
例えば、上述した実施形態においては、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aの高さ位置を、鉛直方向に間隔を開けて配置した複数の検知センサ41〜44により検知したが、これに代えて、図3に示すように、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端12aまでの距離を連続的に検知可能なセンサ46を用いて該下端12aの位置を検知しても良い。この場合、下端12aの微小な変動を検知して、駆動ロール20による送り出し速度を細かに制御可能であるため、幅や開繊状態がより均一な帯状体を製造することができる。例えば、基準位置Hを設定しておき、駆動ロール20による送り出し速度を、該基準位置Hと下端12aの位置との間の距離に比例して、加速(基準位置Hより上に下端12aが位置する場合)又は減速(基準位置Hより下に下端12aが位置する場合)するといった制御が可能である。図3には、上述した開繊装置1におけるのと同一部材には同一の符号を付してある。下端12aの位置が基準位置から離れないように制御するとは、基準位置から一切離れてはいけないことを意味せず、基準位置から、なるべく離れないように制御することを意味する。
【0024】
高さ方向に間隔を開けて複数の検知センサを配置する場合、その配置個数は、1〜20個程度の範囲内で適宜に決定できる。また、上述した開繊装置1において、下端12aの位置が、検知センサ42,43の何れか一方の側にしか移動しないことが判っている場合等には、検知センサ42,43の何れか一方のみを設けることもできる。
また、トウの略U字状に撓んだ部分12の下端の位置を検知するためのセンサとしては、可視光、赤外線、レーザー光線等の光線、あるいは超音波等の音波を発するもの等を用いることができる。このようなセンサとしては、光線や音波がトウで遮断されたことによりトウの存在を検知するものの他、トウで反射した光線や音波を検知してトウの存在やトウとの距離を検知可能なもの等を用いることもできる。
【0025】
また、上述した開繊装置1においては、原反10からのトウ11を引き出す駆動ロールと、引き出したトウ11を送り出す駆動ロールとが共通する駆動ロール20であったが、トウ11を引き出す駆動ロールと、トウ11を送り出す駆動ロールとを別々に設けても良い。また、駆動ロールは、サーボモータ以外のモータや他の動力源で駆動しても良い。また、ガイド34に代えて、ロール等の他の移送方向変換手段を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のトウの開繊方法の実施に用い得る開繊装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す装置を用いたトウの張力調整方法の一例を説明する説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す説明図(図2相当図)である。
【符号の説明】
【0027】
1 トウの開繊装置
10 原反
11 トウ
12 自重により略U字状に撓んだ部分
12a 略U字状に撓んだ部分の下端
13 送り出されたトウ
20 駆動ロール
31〜33 開繊機
41〜44,46 検知センサ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層され圧縮された状態の原反から引き出したトウを、自重により略U字状に撓んだ部分が生じるように、駆動ロールにより送り出し、送り出したトウを、前記略U字状に撓んだ部分の下端位置より下流側において開繊させるトウの開繊方法であって、
前記略U字状に撓んだ部分の下端の高さ位置を検知し、前記駆動ロールによるトウの送り出し速度を、該高さ位置が所定の基準位置から離れないように制御しながら、トウの開繊を行うトウの開繊方法。
【請求項2】
前記略U字状に撓んだ部分の下端の高さ位置の検知を、非接触式のセンサを用いて行う請求項1記載のトウの開繊方法。
【請求項3】
開繊されたトウは、吸収性物品の吸収体の構成材料として用いられる請求項1又は2に記載のトウの開繊方法。
【請求項4】
積層され圧縮された状態の原反から帯状のトウを連続的に引き出す引き出し機構、原反から引き出したトウを、自重により略U字状に撓んだ部分が生じるように送り出す送り出し機構、送り出したトウに対して、前記略U字状に撓んだ部分の下端の位置より下流側において開繊処理を施す開繊機構、及び、前記略U字状に撓んだ部分の下端の高さ位置を検知し、送り出し機構によるトウの送り出し速度を、略U字状に撓んだ部分の下端の高さ位置が所定の基準位置から離れないように制御する張力調整機構を備えたトウの開繊装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−2390(P2007−2390A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92113(P2006−92113)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】