説明

トコジラミを誘引するための組成物

本発明は、不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを含む組成物を提供し、該組成物は、揮発して、かなり低い濃度で放出された場合に強力なトコジラミ誘引物質となる。当該組成物は、トコジラミが検出され、監視され、及び/又は捕獲される所定の場所にトコジラミを誘引するのに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコジラミに対する化学的な誘引物質に関する。特に、この化学的な誘引物質は、トコジラミの集団の検出、監視又は捕獲のための装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
トコジラミなどの吸血昆虫は、厄介な害虫であって、ヒト、ペット、家畜を悩ます。その不可解な習性のせいで、一般的なトコジラミ(Cimex lectularius及びCimex hemipterous)の検出と駆除は、多くの場合、とても困難で時間を浪費する。
【0003】
一般的なトコジラミは、ヒトとの共生に最も適合したトコジラミの種である。トコジラミは、古代からヒトと共生してきたが、米国に住む多くの人は、トコジラミを見たことがない。しかし、最近数十年における海外旅行の増加によって、米国においてトコジラミが再流行した。トコジラミには、一度ある場所に定着すると、根絶するのを難しくする多くの特徴がある。
【0004】
成虫のトコジラミは、約6ミリメートルの体長、5から6ミリメートルの体幅で、卵形のあずき色で、扁平な体をしている。未成熟な幼虫は、見かけが成虫に似ているが、より小さく、色味がより明るい。トコジラミは飛ばないが、表面を素早く移動できる。雌のトコジラミは、隔離された領域に卵を産みつけ、1日に最高で5個まで産むことができ、一生で500個ほどになる。トコジラミの卵は、とても小さく、埃ぐらいの大きさである。産まれた当初、卵は粘ついており、表面に付着する。
【0005】
トコジラミは、摂食しなくても長期間生き長らえる。幼虫は、摂食しなくても数ヶ月生き続け、成虫は最長で1年生き続ける。したがって、少しの間その場所の占有を排除してもトコジラミの蔓延を排除することはできないだろう。
【0006】
トコジラミは、夜間、活動的であって、日中は主に小さな隙間や割れ目に隠れている。トコジラミは、ベッド、ベッドのフレーム、家具、幅木沿い、カーペットなどの、その他数え切れないその他の場所で隠れるところを簡単に見つける。トコジラミは、集まる傾向があるが、他の昆虫のような巣は作らない。
【0007】
トコジラミは、伸ばした口の一部を介して血を吸うことによって栄養を獲得する。トコジラミは、3分から10分の間、人に噛みつくが、その人は噛まれていることを感じない。噛まれた後、多くの場合、犠牲者は、痒みを伴うみみず腫れに見舞われたり、遅発性の過敏性反応が起こり、噛まれた部位が腫れたりする。しかし、一部の人は、トコジラミに噛まれたことに対してほとんど反応がないか、わずかな反応があるだけである。トコジラミが噛むと症状を呈し、その症状は、例えば、蚊やダニなどの他の昆虫が噛んだ場合と類似している。実際にトコジラミが観察されない場合、トコジラミに噛まれたのか、他のタイプの昆虫に噛まれたのか決めることは不可能であって、すなわち、蕁麻疹又は皮膚発疹などと誤診されうる。結果として、トコジラミの蔓延は、多くの場合、検出されずに長期間続く。
【0008】
トコジラミの蔓延は、新たな場所に持ち込まれたトコジラミから始まる。トコジラミは、所有物に付着することができ、小さな場所に隠れることができるので、それらは簡単に旅行者の持ち物で運ばれる。結果として、人の出入りの激しい建物、例えば、ホテル、ドミトリー、アパートメントは、特にトコジラミの被害を受けやすい。
【0009】
本明細書に記載されたトコジラミの全ての特徴のために、トコジラミは、検出するのも根絶するのも難しい。害虫駆除の専門家と殺虫剤が必要とされる。全てのがらくたと不要品を部屋から出して、掃除機でトコジラミと卵とをできるだけ多く除去し、隠れそうな場所に殺虫剤を使用することが必要である。この種の根絶のための処置は、ホテルなどの業務を妨害してしまう。結局、蔓延が確立する前に少しでも早くトコジラミを検出することがとても望ましい。
【0010】
トコジラミは、極めて小さく、移動性であって、ひっそりと行動するので、蔓延を防ぐことはほとんど不可能に近い。トコジラミは、壁、天井、床の穴を介して隣接する部屋に移動することが知られている。このため、トコジラミが広がることを防ぐことのほか、早期の検出によって最も容易に昆虫を根絶することができる。トコジラミを早期に検出するための装置と方法がサービス業において求められている。
【0011】
トコジラミの監視装置及びトラップが、昆虫の存在を検出するために使用され、多様な成功の報告がされているが、一般的には、とても高価で期待された効果は得られなかった。接着剤トラップと両面カーペットテープは、昆虫が捕獲されて、後で確認できるように、効果的な場所に配置されなければならない。市販の監視トラップは、後で昆虫を確認できるように、トラップの中に虫を誘引できるものでなければならない。このようなトラップと誘引物質は、効果的であるために、一定の間、そのままにしておかなければならないし、多くの場合、蔓延の規模に依存する。監視トラップの必要性は、専門家によるトコジラミの処理に次いで重要であり、殺虫剤塗布の成功を確実なものにする。
【0012】
2008年7月17日に公開された米国特許出願第2008/0168703A1は、揮発する際にトコジラミを誘引できる化学組成を開示しており、該組成は、2種類のモノテルペン、2種類の飽和アルデヒド、3種類の不飽和アルデヒド、1種類の芳香族アルデヒド、1種類の芳香族アルコール及びケトンの複合混合物を含む。
【0013】
2008年5月2日に公開された特許協力条約に基づく国際出願WO2008/051501A2は、所定の場所にトコジラミを誘い出す誘引物質を含むトコジラミの検出、監視及び制御技術を開示しており、該誘引物質は、1以上の鳥類あるいは哺乳類のフェロモン、ホルモン、汗、皮脂、コリン及びその他の体臭のあらゆる組み合わせを含む。
【0014】
2007年3月8日に公開された特許協力条約に基づく国際出願WO2007/027601A2は、トコジラミの嗅覚に訴える誘引物質として、息、汗、及び毛髪又は皮脂の成分を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0168703号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/051501号
【特許文献3】国際公開第2007/027601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
トコジラミの検出装置、監視装置及び/又はトラップの場所にトコジラミを効率的に誘い出すために、単純で、安価で、優れた効果のトコジラミの誘引組成物を提供することが最も有益である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
不飽和アルデヒド成分及び有機酸成分を含む化学組成物が、揮発してかなり低い濃度で放出された際に、強力なトコジラミの誘引物質となることが発見された。この組成物は、所定の場所にトコジラミを誘引することに用いられ、その場所で、トコジラミは、検出され、監視され、及び/又は捕獲される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、トコジラミ(Cimex lectularius及びCimex hemipterous)の化学的な誘引組成物と、トコジラミが検出され、監視され、及び/又は捕獲される所定の場所にトコジラミを誘引するための組成物の使用方法を提供する。当該誘引組成物は、不飽和アルデヒド成分及び有機酸成分を含み、周囲の温度にさらされることによって、暖められることによって、空気の動きによって、あるいは、これらの組み合わせのいずれかによって揮発する。上記文献に開示された、トコジラミを誘引するための高価な化学物質の複雑な混合物と比較して、本発明は、とても簡単で、安全で、使いやすく、安価な、トコジラミの化学的誘引組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の1つの観点に係るトコジラミ誘引組成物は、不飽和アルデヒド成分と、有機酸成分と、を含む。
【0020】
本発明の他の観点に係るトコジラミ誘引組成物は、不飽和アルデヒド成分と、有機酸成分と、を必須の成分として含む。
【0021】
本発明の1つの観点に係る前記不飽和アルデヒド成分は、トランス−2−ヘキセン−1−アール(ヘキセナール)及びトランス−2−オクテン−1−アール(オクテナール)からなる群から選択される1以上のアルデヒドを含んでもよい。前記有機酸成分は、酪酸であることが好ましい。さらに、アルデヒド前駆体と有機酸前駆体と、すなわち、空気又は湿気に暴露されたときに所望のアルデヒド又は有機酸へと化学的に分解する化合物を用いてもよい。例えば、トランス−2−ヘキセン−1−アールジエチルアセタール及びトランス−2−オクテン−1−アールジエチルアセタールがヘキセナール及びオクテナールの代わりに用いられてもよく、トリメチルシリル酪酸、メチル酪酸又はエチル酪酸が酪酸の代わりに用いられてもよい。
【0022】
本発明の他の観点に係る所望の場所へのトコジラミの誘引方法は、不飽和アルデヒド成分と、有機酸成分と、を含む誘引組成物を所望の場所に置く、ことを含む。
【0023】
本発明の他の観点に係る所望の場所へのトコジラミの誘引方法は、不飽和アルデヒド成分と、有機酸成分と、を必須の成分として含む誘引組成物を所望の場所に置く、ことを含む。
【0024】
前記場所は、住宅、ホテル、モーテル、宿屋、宿舎、クルーズ船、兵舎、養護施設、キャンプ施設、寄宿舎、分譲マンション、アパート、人又は動物の居住施設などにあって、トコジラミが過去にいた、現在いる、又はいると予想される、単数又は複数の部屋に置かれるトコジラミ駆除装置の中、上又は近くでありうる。適切なトコジラミ駆除装置には、監視装置、トラップ、餌台、標示台が含まれる。
【0025】
アルデヒド成分がヘキセナール及びオクテナール双方を含むとき、ヘキセナールとオクテナールとが重量比で約1:5から約5:1で存在するのが好ましく、約3:1から約1:3の間であることがさらに好ましい。
【0026】
トコジラミを最も良く誘引するために最適な、放出されるアルデヒド成分の濃度は、約2ng/hrから約4500ng/hrであって、約33ng/hrから810ng/hrが好ましく、390ng/hrが最も好ましい。放出される有機酸成分の最適な濃度は、約0.12ng/hrから約120000ng/hrであって、約1.2ng/hrから1500ng/hrが好ましく、120ng/hrが最も好ましい。
【0027】
酪酸とヘキセナール及び/又はオクテナールとを混合すると、不安定な組成物が生成するので、アルデヒド成分を酸成分から分離しておく必要がある。誘引組成物の各成分が適切な割合で放出されるには、各成分が別々の製剤に含まれていればよく、該製剤は、ゲル状、固体状、水などの極性溶媒に溶解したもの、シリコンオイルなどの油に溶解したもの、何らかの適切な有機溶媒に溶解したものであればよく、例えば、C−C12アルカン、カプセルに包まれたもの、又は、例えば、ゴム隔膜あるいはワックスなどの他の物質に含浸したものを含む有機溶媒が特に好ましい。各成分は、吸収性の物質に含まれていてもよく、例えば、限定はされないが、吸収性の物質は、精製綿、繊維化されたセルロース木材パルプ、精製綿、ポリエステル綿、フェルト、接着されたカード布帛、超高密度ポリエチレンのスポンジ及び嵩高のスパンボンド材である。拡散を調整するために、前記吸収性の物質を包み込む半透過性の膜を用いてもよい。誘引成分は、半透過性の蓋か、単数又は複数の穴があけられた密閉蓋のいずれかを備える容器から分配されるようにして、周囲の空中に拡散可能にしてもよい。
【0028】
アルデヒド成分及び有機酸成分は、さらに防腐剤、例えばトリアセチン、ビタミンE、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などを含んでもよい。
【0029】
選択できる好ましい実施形態は、オクテナール又はヘキセナールのどちらか一方の使用であって、共同で誘引物質となる酪酸は一緒に使用されても、されなくてもよい。
【0030】
本発明におけるアルデヒド成分及び有機酸成分は、空気より重い。このため、これらの物質の揮発を補助すると有利である。組成物の揮発は、組成物の単なる蒸発、これらの剤形、又は周囲の温度によるものであってもよいし、熱源を用いた加温によるものでもよい。熱はいくつかの方法、例えば、化学反応、コイル抵抗ヒーター、電球、発光ダイオード、トランジスタなどを介して供給可能である。熱源は、温度を約30℃から40℃の範囲にするのが好ましく、約32℃から35℃の範囲にするのが最も好ましい。さらに、小さな送風機、圧電噴霧器、又はパッシブ換気を用いることができる。
【0031】
揮発する組成物に二酸化炭素を加えることで、誘引物質の効果が向上することが見出された。二酸化炭素の濃度は、揮発した組成物の気体において、体積で約1%と約50%との間であるのが好ましい。
【0032】
本発明に係る好ましい実施形態では、トコジラミ誘引組成物を揮発させることによって所定の場所にトコジラミを誘引する方法が提供され、該トコジラミ誘引組成物は、揮発する組成物に任意に二酸化炭素及び/又は熱を加えた不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを含む。
【0033】
以下の実施例は、本発明をさらに説明し、本発明に係る上記方法の評価のための手順を含むが、もちろん、決してその範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例】
【0034】
実施例1
トコジラミの誘引効果の評価
誘引分析:分析領域は、150×15mmのプラスチック製のペトリ皿(VWR#25384−326)であって、その底には、切り取った125mmの定性ろ紙片(VWR#28320−100)が、3M Super 77(登録商標)多目的粘着スプレーを用いて接着された。80mmの穴が蓋にあけられ、500μmのメッシュのNytex(登録商標)の覆い(Bioquip、#7293B)がその穴をカバーするために、速乾性のエポキシ樹脂を用いて接着された。底が未使用の状態である皿が各分析で用いられた。各実験において、2.4cmのろ紙がテントを形成するように折りたたまれ、対照処理(アルデヒドと対照するための10マイクロリットルのシリコンオイル、及び酸と対照するための5マイクロリットルの脱イオン水)、又はシリコンオイルで希釈された10マイクロリットルの実験的なテスト処理(アルデヒド)、又は脱イオン水で希釈された5マイクロリットルの実験的な物質(酸)のいずれかで処理された。アルデヒドテスト処理と対照においては、10匹のトコジラミが試験毎に分析領域に解放され、酸テスト処理においては、5匹のトコジラミがテスト毎に分析領域に解放された。日周期のトコジラミ(Cimex lectularius)は、12時間明るくして、12時間暗くする(午前7時にオン、午後7時にオフ)ライトの周期で培養され、通常の室内照明条件下において室温で評価された。測定値はトコジラミの解放から1時間間隔で、アルデヒドについては4時間の間で、酸については揮発が速いので1時間の間で取得された。対照におけるろ紙の円平面下のトコジラミの数とテスト処理のろ紙円平面下のトコジラミの数が記録された。もし、実験のろ紙円平面下のトコジラミの数が対照のろ紙円平面下のトコジラミの数より多ければ、テスト処理は誘引物質であると考えられる。下の表1は実験データをまとめたものであって、実験的なテスト処理が誘引物質としてみなされるものが太字である。
【0035】
【表1】

【0036】
上述の誘引分析において、約1から約1,000ppmの間のヘキセナール、又は約100から約1,000ppmの間のオクテナールに最もトコジラミが誘引された。約10,000ppmの高濃度では、ヘキセナール及びオクテナールはトコジラミをそれほど誘引しなかった。約100ppm未満の濃度のオクテナールもほとんどトコジラミを誘引しなかった。テストされた有機酸の中では、約10から約10,000ppmの酪酸がトコジラミを最も良く誘引した。バレルアルデヒドは、飽和アルデヒドであるが、今回のテストではトコジラミを誘引しなかった。
【0037】
実施例2
ヘキセナール及びオクテナールの混合物を用いたトコジラミの誘引効果の測定
誘引分析:実施例1で説明したのと同様に、アルデヒド実験と対照に対して、テスト毎に10匹のトコジラミ(Cimex lectularius)が用いられ、ヘキセナール及びオクテナールの組み合わせにおけるトコジラミの誘引を比較した。この実験では、ヘキセナール及びオクテナールの混合物がシリコンオイルで希釈され、その比は、100:0、75:25、50:50、25:75及び0:100であった。各テスト処理は、約30ppmのテスト物質を含み、テスト処理の5マイクロリットルが実験のろ紙円平面に用いられ、5マイクロリットルのシリコンオイルのみが対照のろ紙円平面に用いられた。測定値は分析領域にトコジラミを解放してから4時間の間で、1時間ごとに取得された。対照の円平面下のトコジラミの数と実験の円平面下のトコジラミの数が記録された。もし、実験のろ紙円平面下のトコジラミの数が対照の円平面下のトコジラミの数より多ければ、テスト処理は誘引物質であると考えられる。下の表2は実験データをまとめたものであって、実験的なテスト処理が誘引物質としてみなされるものを太字にしている。
【0038】
【表2】

【0039】
上述の誘引分析において、75:25のヘキセナール及びオクテナールの混合物、又はオクテナールのみを含む実験のろ紙円平面に最もトコジラミが誘引された。
【0040】
実施例3
ヘキセナール、オクテナール及び酪酸の混合物を用いたトコジラミの誘引効果の測定
誘引分析:実施例1において説明したのと同様に、各実験的なテスト処理と対照において、テスト毎に10匹のトコジラミ(Cimex lectularius)が用いられ、ヘキセナール、オクテナール及び酪酸の組み合わせにおけるトコジラミの誘引を比較した。このテストでは、ヘキセナール及びオクテナールの混合物(75:25)がシリコンオイルで希釈され、約120ppmの溶液を得た。酪酸は、脱イオン水に溶解され、約100ppmの溶液を得た。各テストにおいて、5マイクロリットルの上記テスト処理が実験のろ紙円平面に用いられ、5マイクロリットルのシリコンオイルのみがヘキセナール/オクテナールと対照するろ紙円平面に用いられ、5マイクロリットルの脱イオン水が酪酸と対照するろ紙円平面に用いられ、そして、5マイクロリットルのシリコンと5マイクロリットルの脱イオン水とが組み合わせと対照するろ紙円平面に用いられた。測定値は分析領域にトコジラミを解放してから4時間の間で、1時間ごとに取得された。対照の円平面下のトコジラミの数と、実験の円平面下のトコジラミの数が記録された。もし、実験のろ紙円平面下のトコジラミの数が対照の円平面下の数より多ければ、テスト物質は誘引物質であると考えられる。下の表3は実験データをまとめたものであって、実験的なテスト処理が誘引物質としてみなされるものを太字にしている。
【0041】
【表3】

【0042】
上述の誘引分析において、トコジラミは、酪酸と同じく、ヘキセナール及びオクテナールの混合物に誘引された。しかしながら、トコジラミは、75:25のヘキセナール及びオクテナールの混合物と酪酸を含む実験のろ紙円平面に、より誘引された。
【0043】
実施例4
ヘキセナール、オクテナール、酪酸及び二酸化炭素の混合物を用いたトコジラミの誘引効果の評価
テスト領域は、60×40×22cm(L:W:H)のポリスチレン容器で構築された。60×40cmのろ紙片がその底に接着され、トコジラミが歩く表面となった。テスト領域の一端で、三角形状のプラスチック(高さ16cm×底辺25cm)が容器の側面と底の中央に接着され、区切りの両側で等面積のテスト区間を形成した。この区切りの両側でTrygon(登録商標)チューブが各テスト区間の底から7cm上の穴に挿入され、対照ガスを区切りの一方側(対照区間)に、実験ガスを区切りの他方側(実験区間)に送りこめるようにした。チューブは、容器の底に接着されたろ紙の6cm上に排気口を備えるテスト区間に下向きにガスを送りこむように置かれた。テスト領域の反対側では、4Wの常夜灯が領域の底から35cm上に設置され、12時間明るく、12時間暗くするライトの周期(午前7時にオン、午後7時にオフ)に調整された。また、小さなファン(Boston、cat#EH5DF)が常夜灯の隣に置かれ、領域の末端からガスをゆるやかに取り除くようにした。実験及び対照のガスによって開放された空気は、それぞれの区間内に滞留し、空気の各入り口からゆるやかに引き離され、領域内で混ぜ合わされ、ファンによって動かされた。このようにして層流が発生し、トコジラミは、実験及び対照のガスのどちらかを選択できるようになった。50匹のトコジラミ(Cimex lectularius)が対照及び実験区間から最も遠い位置で逆さにした90mmペトリ皿に静止するまで入れられた。ペトリ皿を外すことで実験が開始され、測定値は2時間の間で1時間ごとに取得された。集められたデータは、実験、対照、フリー領域区間内のトコジラミの数であった。それに加えて、ガスの温度、相対湿度、気流の速度及び二酸化炭素の割合のデータがとられた。もし、対照区間に対してより多くのトコジラミが実験区間にいた場合、実験のガスが誘引物質であると考えられる。
温度調節:温度が調整された水槽内でコイルのように巻かれた15メートルのTygon(登録商標)を介してガスを送りこむことによって、ガスの温度は調節された。
相対湿度:瓶詰めのガスから供給される空気はとても乾燥していた。相対湿度を上げるために、供給するガス(空気及び二酸化炭素)は、蒸留水(500mlの三角フラスコ)につけられた水槽用のバブルストーンを通された。排水器が直列につながれ、水が温度変換チューブに流入するのを防いだ。相対湿度は、ガスが領域に流入する前に直接つないだ高/低湿度計を用いて監視した。相対湿度の平均が20%から70%の相対湿度になるように調節され、より好ましくは、相対湿度は約40%であった。
空気の体積及びテスト組成物:ガスは混ぜられ、調整した量が開放された。このために、フィッシャー・アンド・ポーター(ゲッティンゲン、ドイツ)とMGサイエンティフィック・ガス/エア・ゲージが、体積変位を用いて調整された。弁の調整と空気の流量との間の関係が決定され、この情報が用いられ、弁の調整は、流速約100ml/分又は約200ml/分で混合されたガス(空気と二酸化炭素)を供給できるように決められた。すべてのガスは、混合する前にあらかじめ調整された(温度及び相対湿度)。実験において用いられた対照のガスは、自前の圧縮空気から成る。二酸化炭素のテストガスは、自前の圧縮空気に5%又は100%いずれかの瓶詰めされた二酸化炭素を混合することによって調製された。約300ppmのヘキセナール及びオクテナールを含む水溶液が、ヘキセナールとオクテナールが75:25の比で脱イオン水にそれらのアルデヒドを溶解することによって調製された。同様に、約200ppmの酪酸を含む水溶液が脱イオン水を用いて調製された。1本の100マイクロリットルのピペット(Drummond Wiretrol 100μL)にアルデヒド水溶液が充填され、もう1本の100マイクロリットルのピペットに酪酸水溶液が充填された。各マイクロピペットの一端がパラフィルムで密封され、開いているもう一方の端はそのままにした。充填されたピペットは、プラスチック容器内部に固定され、該容器は、片側に空気の注入口を備え、反対側に空気の排気口を備えていた。密封する蓋がプラスチック容器の上に置かれ、該容器が、ガスの湿度と温度の調整後であって、ガスが領域に供給される前の位置に、直列に組み込まれた。マイクロリットルピペットが使用前後で重量が測られることによって、アルデヒドと酸の放出量が測定された。下の表4は、この実験で集められたデータをまとめたものである。
【0044】
【表4】

【0045】
上述のテスト領域の分析からわかるように、トコジラミは、ヘキセナール、オクテナール及び酪酸のガス状混合物に誘引された。また、トコジラミは、二酸化炭素を加えた実験のガスにいっそう誘引された。
【0046】
実施例5
ヘキセナール、酪酸、トランス−2−ヘキセン−1−アールジエチルアセタール、アルカン溶媒に溶解したトリメチルシリル酪酸又はメチル酪酸を用いたトコジラミの誘引効果の測定
実施例4で説明したテスト領域と方法を用いて、ノナンに溶解した約300ppmのアルデヒド前駆体化合物であるトランス−2−ヘキセン−1−アールジエチルアセタール、ノナンに溶解した約300ppmのヘキセナール、ノナンに溶解した約200ppmの酪酸及びノナンに溶解した約200ppmの有機酸前駆体化合物であるトリメチルシリル酪酸又はメチル酪酸を含むテスト処理が調製された。別個の100マイクロリットルピペット(Drummond Wiretrol 100μL)がそれぞれのテスト溶液で満たされた。各マイクロリットルピペットの一端がパラフィルムで密封され、開いているもう一方の端はそのままにした。充填されたピペットは、プラスチック容器内部に固定され、片側に空気の注入口を備え、反対側に空気の排気口を備えた。密封する蓋がプラスチック容器の上に置かれ、当該容器が、ガスの湿度と温度の調整後であって、ガスが領域に供給される前の位置に、直列に組み込まれた。マイクロリットルピペットが使用前後で重量が測られることによって、テスト化合物の放出量が測定された。実験において用いられた対照ガスは、自前の圧縮空気から成る。下の表5は、この実験で集められたデータをまとめたものである。
【0047】
【表5】

【0048】
上述のテスト領域の分析からわかるように、トコジラミは、トランス−2−ヘキセン−1−アールジエチルアセタール、トリメチルシリル酪酸、メチル酪酸、ヘキセナール又は酪酸を含むガス状混合物に誘引された。また、トコジラミは、アルデヒドも有機酸化合物も含まない対照ガスよりもトランス−2−ヘキセン−1−アールジエチルアセタール、メチル酪酸、ヘキセナール又は酪酸を含むガス状混合物に、より誘引された。
【0049】
実施例6
アルカン溶媒中のヘキセナール、オクテナール及び酪酸の混合物を用いたトコジラミの誘引効果の測定
テスト領域は、60×40×22cm(L:W:H)のポリスチレン容器で構築された。60×40cmのろ紙片がその底に接着され、トコジラミが歩く表面となった。テスト領域の一端で、三角形状のプラスチック(高さ16cm×底辺25cm)が容器の側面中央と底に接着され、区切りの両側で等面積のテスト区間を形成した。トラップはこの対照及び実験区間の両方に置かれた。
対照区間のトラップは、何も誘引物質を備えていなかったが、実験区間のトラップは、2本の100マイクロリットルピペット(Drummond Wiretrol 100μL)を備えていた。各ピペットの一端がパラフィルムで密封され、開いているもう一方の端はそのままにした。第1のピペットは、ヘキセナール及びオクテナールを75:25の比で含む約300ppmの溶液が入れられ、該溶液は、アルデヒドがノナンに溶解されることによって調製された。第2のピペットには、酪酸がデカンに溶解された約200ppmの溶液が入れられた。
50匹のトコジラミ(Cimex lectularius)が対照及び実験区間から最も遠い位置で逆さにした90mmペトリ皿に静止するまで入れられた。ペトリ皿を外すことで実験が開始された。2時間後、20−30匹のトコジラミがテスト区間のトラップから5−15cm以内にいたが、トコジラミはトラップから5cmより近くにはいないことが観察された。この結果は、これらの誘引物質が所定の濃度で効果的にトコジラミを誘引するが、濃度が高すぎる場合には、トコジラミを誘引しないという結論を裏付けている。
当業者であれば、本発明の変形が用いられること及びここで具体的に説明された以外にも本発明が実施され得ることを理解する。したがって、本発明は、特許請求の範囲によって定まる発明の精神と範囲内に包含されるすべての変更を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の場所にトコジラミを誘引する方法であって、
不飽和アルデヒド成分と、
有機酸成分と、
を必須の成分として含む誘引組成物を前記所望の場所に置く、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルデヒドは、
トランス−2−ヘキセン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルデヒドは、
トランス−2−オクテン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールが重量比で約1:5から約5:1である、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドを含み、
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記不飽和アルデヒド成分及び前記有機酸成分は、
有機溶媒に溶解された、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記誘引組成物は、トコジラミ駆除装置に接して、あるいは近傍に置かれる、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
所定の場所にトコジラミを誘引する方法であって、
不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを含むトコジラミ誘引組成物を前記所定の場所で揮発させる、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドを含み、
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
揮発させる前記組成物に二酸化炭素をさらに加える、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
所定の場所にトコジラミを誘引する方法であって、
不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを必須の成分として含むトコジラミ誘引組成物を前記所定の場所で揮発させる、
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドを含み、
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
揮発させる前記組成物に二酸化炭素をさらに加える、
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを含む、
トコジラミ誘引組成物。
【請求項17】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドからなる、
ことを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アルデヒドは、
トランス−2−ヘキセン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記アルデヒドは、
トランス−2−オクテン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールが重量比で約1:5から約5:1である、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
不飽和アルデヒド成分と有機酸成分とを必須の成分として含む、
トコジラミ誘引組成物。
【請求項23】
前記不飽和アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールからなる群から選択される1以上のアルデヒドからなる、
ことを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記アルデヒドは、
トランス−2−ヘキセン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記アルデヒドは、
トランス−2−オクテン−1−アールである、
ことを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
前記アルデヒド成分は、
トランス−2−ヘキセン−1−アール及びトランス−2−オクテン−1−アールが重量比で約1:5から約5:1である、
ことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記有機酸は、
酪酸である、
ことを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
前記不飽和アルデヒド成分は、
アルデヒド前駆体化合物である、
ことを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項29】
前記有機酸成分は、
有機酸前駆体化合物である、
ことを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項30】
二酸化炭素をさらに含む、
ことを特徴とする請求項22に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−520315(P2012−520315A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554188(P2011−554188)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/026938
【国際公開番号】WO2010/105029
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(391022452)エフ エム シー コーポレーション (74)
【氏名又は名称原語表記】FMC CORPORATION
【Fターム(参考)】