説明

トナー用結着樹脂

【課題】低温定着性に極めて優れ、かつ粗砕時にも粗砕機への融着等による粉砕性の低下が生じることなく、紙の巻き付き防止、保存性にも優れたトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有したトナーを提供すること。
【解決手段】炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物及び炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の脂肪族化合物を0.1〜10モル%含有したモノマー混合物を縮重合させて得られた結晶性ポリエステルからなるトナー用結着樹脂並びに該結着樹脂を含有した樹脂組成物を含有してなるトナー。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナーの結着樹脂及び該結着樹脂を含有したトナーに関する。
【0002】
【従来の技術】電子写真法における大きな課題の一つである低温定着性の改善策として、結晶性ポリエステルを含有したトナー用結着樹脂が提案されている(特開2001−222138号公報)。
【0003】しかしながら、一般に低温定着性と樹脂の粉砕性は相反する性能となりやすく、結晶性ポリエステルでも、粗砕時、粗砕機の粗砕羽根や壁面に樹脂が融着するという問題が発生する。また、結晶性ポリエステルを含有したトナーは通常より低温で定着されることから、定着時のトナー粘度が高く、定着ロール等の定着器への紙の巻き付きが生じやすい。その改善にワックスを添加することが考えられるが、それだけでは各種性能をバランスよく改善することはできない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、低温定着性に極めて優れ、かつ粗砕時にも粗砕機への融着等による粉砕性の低下が生じることなく、紙の巻き付き防止、保存性にも優れたトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有したトナーを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物及び炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の脂肪族化合物を0.1〜10モル%含有したモノマー混合物を縮重合させて得られた結晶性ポリエステルからなるトナー用結着樹脂並びに該結着樹脂を含有した樹脂組成物を含有してなるトナーに関する。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明のトナー用結着樹脂に含有されている結晶性ポリエステルは、炭素数10〜24、好ましくは炭素数12〜18の1価の脂肪族化合物を含有したモノマー混合物を重合させて得られる。本発明では、かかる脂肪族化合物により、結晶性ポリエステルの粉砕性が向上し、かつ低温定着時における定着ロールへの紙の巻き付き等が防止される。1価の脂肪族化合物を用いて結晶性ポリエステルを製造すると、これらの化合物が有する脂肪族基は樹脂の末端基として取り込まれるため、結晶構造に与える影響も非常に小さく、定着性への影響を最小限にして、粉砕性の向上及び紙の巻き付き防止の効果が得られる。これにより、結晶性ポリエステルが元来有する低温定着性がより一層際立って優れたものとなる。
【0007】本発明において、1価の脂肪族化合物は、炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物及び炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種である。
【0008】炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物としては、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、これらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0009】炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールとしては、1−ドデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール)等が挙げられる。
【0010】1価の脂肪族化合物は、直鎖構造及び分岐鎖構造のいずれを有していてもよいが、本発明の所望の効果をより高めるためには、炭素数10〜24、好ましくは12〜18の直鎖構造を有していることが好ましい。
【0011】1価の脂肪族化合物の含有量は、モノマー混合物中、0.1〜10モル%であり、好ましくは1〜8モル%、より好ましくは2〜6モル%である。
【0012】なお、特開平7−333891号公報、特開平7−333892号公報には、非晶質ポリエステルの非オフセット温度域を維持するために、長鎖脂肪族モノマーを反応させることが開示されているが、長鎖脂肪族モノマーが結晶性ポリエステルを含有した本発明のトナーに特有の課題である、粉砕性及び巻き付き防止に有効であるとの示唆はない。
【0013】本発明において、結晶性ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させ、原料モノマーの種類や、反応条件等を適宜選択して、得られるポリエステルの結晶性を高めることにより得られる。以下に、結晶性のより高いポリエステルを得るための指標を示す。
【0014】ポリエステルの結晶化を促進するモノマーとして、炭素数が2〜6、好ましくは4〜6の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と炭素数が2〜8、好ましくは4〜6、より好ましくは4の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とがモノマー混合物に含有されているのが好ましい。即ち、本発明における結晶性ポリエステルのモノマー混合物は、炭素数2〜6の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とからなり、かつ少なくともいずれか一方の成分に、炭素数10〜24の脂肪族化合物が、全モノマー混合物中、0.1〜10モル%含有されているのが好ましい。
【0015】炭素数2〜6の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等が挙げられ、これらの中では、α,ω−直鎖アルカンジオール好ましく、1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールがより好ましい。
【0016】炭素数2〜6の脂肪族ジオールは、アルコール成分中に、60モル%以上、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%含有されているのが望ましい(ただし、上記「100モル%」は、前記脂肪族化合物として、脂肪族カルボン酸化合物のみが含有されている場合をいう)。特に、その中の1種の脂肪族ジオールが、アルコール成分中の70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85〜95モル%を占めているのが望ましい。なかでも、1,4−ブタンジオールが、アルコール成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70〜100モル%、特に好ましくは80〜100モル%含有されているのが望ましい。
【0017】アルコール成分には、炭素数2〜6の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく、該アルコール成分としては、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス (4−ヒドロキシフェニル) プロパン、ポリオキシエチレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド(平均付加モル数1〜10)付加物等の2価の芳香族アルコールやグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
【0018】炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中ではフマル酸が好ましい。なお、脂肪族ジカルボン化合物とは、前記の如く、脂肪族ジカルボン酸、その無水物及びそのアルキル(炭素数1〜3)エステルを指すが、これらの中では、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0019】炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物は、カルボン酸成分中に、60モル%以上、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%含有されているのが望ましい(ただし、上記「100モル%」は、前記脂肪族化合物として、脂肪族アルコールのみが含有されている場合をいう)。特に、その中の1種の脂肪族ジカルボン酸化合物が、カルボン酸成分中の60モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85〜100モル%を占めているのが望ましい。なかでも、フマル酸が、カルボン酸成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70〜100モル%、特に好ましくは80〜100モル%含有されているのが望ましい。
【0020】カルボン酸成分には、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物以外の多価カルボン酸成分が含有されていてもよく、該多価カルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0021】アルコール成分とカルボン酸成分とからなるモノマー混合物の縮重合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、要すればエステル化触媒、重合禁止剤等を用いて、120〜230℃の温度で反応させることにより行うことができる。具体的には、樹脂の強度を上げるために全単量体を一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価の単量体を先ず反応させた後、3価以上の単量体を添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧、例えば10kPa以下にすることにより、反応を促進させることも、結晶性を高める手段として有効である。
【0022】なお、本発明において、「結晶性」とは、軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比(軟化点/ピーク温度)が0.6〜1.3であることをいうが、さらに結晶性の高い樹脂、即ち、軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比が、好ましくは0.8〜1.1、より好ましくは0.9〜1.0の樹脂は、本発明の効果がさらに有効に発揮されるため好ましい。また「非晶質」とは、軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比(軟化点/ピーク温度)が1.3より大きいことをいい、本発明では、特に、軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比が、1.5〜5.0、より好ましくは1.5〜3.0の非晶質樹脂が好ましい。
【0023】本発明における結晶性ポリエステルの軟化点は、85〜150℃が好ましく、90〜140℃がより好ましく、100〜120℃が特に好ましい。
【0024】なお、結晶性ポリエステルが2種以上の樹脂からなる場合は、その少なくとも1種、好ましくはそのいずれもが以上に説明した結晶性ポリエステルであるのが望ましい。
【0025】本発明の結晶性ポリエステルからなるトナー用結着樹脂は、他の公知の結着樹脂、好ましくは非晶質樹脂とともに、トナーに含有されるのが好ましい。
【0026】従って、本発明ではさらに、前記低温定着性に優れた結晶性ポリエステルからなる結着樹脂を含有した樹脂組成物を、結着樹脂として含有したトナーを提供する。本発明のトナーは、紙の巻き付き防止にも優れた結晶性ポリエステルを結着樹脂として含有しているため、極めて優れた低温定着性を発揮する。
【0027】樹脂組成物における結晶性ポリエステルの含有量は、低温定着性及び耐久性の観点から、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは20〜40重量%である。
【0028】非晶質樹脂としては、非晶質ポリエステル、非晶質ポリエステルポリアミド、非晶質スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、2種以上の樹脂成分が部分的に化学結合したハイブリッド樹脂、これらの混合物等が挙げられ、これらの中では、定着性や結晶性ポリエステルとの相溶性の観点から、非晶質ポリエステル及び非晶質ポリエステル成分とビニル系樹脂成分とを有するハイブリッド樹脂が好ましく、非晶質ポリエステルがより好ましい。
【0029】非晶質ポリエステルも、結晶性ポリエステルと同様にして製造することができる。ただし、非晶質ポリエステルとするためには、■ 炭素数2〜6の脂肪族ジオール、炭素数2〜8の脂肪族カルボン酸化合物等の樹脂の結晶化を促進するモノマーを用いる場合は、これらのモノマーを2種以上併用して結晶化を抑制する、即ちアルコール成分及びカルボン酸成分のいずれにおいても、これらのモノマーの1種が各成分中10〜70モル%、好ましくは20〜60モル%を占め、かつこれらのモノマーが2種以上、好ましくは2〜4種用いられていること、又は■ 樹脂の非結晶化を促進するモノマー、好ましくはアルコール成分ではビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が、またはカルボン酸成分では芳香族カルボン酸、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されたコハク酸が、アルコール成分中又はカルボン酸成分中、好ましくは両成分のそれぞれにおいて30〜100モル%、好ましくは50〜100モル%用いられていることが好ましい。
【0030】また、非晶質ポリエステルポリアミドは、前記の多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分に加えてさらに、アミド成分を形成するために、エチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン、6−アミノカプロン酸、ε−カプロラクタム等のアミノカルボン酸類、プロパノールアミン等のアミノアルコール等が原料モノマーとして用いられ、これらの中ではヘキサメチレンジアミン及びε−カプロラクタムが好ましい。
【0031】非晶質ポリエステル及び非晶質ポリエステルポリアミドも、結晶性ポリエステルと同様にして製造することができる。
【0032】本発明において、ハイブリッド樹脂は、2種以上の樹脂を原料として得られたものであっても、1種の樹脂と他種の樹脂の原料モノマーから得られたものであっても、さらに2種以上の樹脂の原料モノマーの混合物から得られたものであってもよいが、効率よくハイブリッド樹脂を得るためには、2種以上の樹脂の原料モノマーの混合物から得られたものが好ましい。
【0033】従って、ハイブリッド樹脂としては、各々独立した反応経路を有する二つの重合系樹脂の原料モノマー、好ましくは縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーを混合し、該二つの重合反応を行わせることにより得られる樹脂が好ましく、具体的には、特開平10−087839号公報に記載のハイブリッド樹脂が好ましい。
【0034】縮重合系樹脂の代表例としては、ポリエステル、ポリエステルポリアミド、ポリアミド等が挙げられ、これらの中ではポリエステルが好ましく、前記付加重合系樹脂の代表例としては、ラジカル重合反応により得られるビニル系樹脂等が挙げられる。
【0035】非晶質樹脂の軟化点は、好ましくは70〜180℃、より好ましくは100〜160℃、ガラス転移点は、好ましくは45〜80℃、より好ましくは55〜75℃である。なお、ガラス転移点は非晶質樹脂に特有の物性であり、融解熱の最大ピーク温度とは区別される。
【0036】なお、非晶質樹脂が2種以上の樹脂からなる場合は、その少なくとも1種、好ましくはそのいずれもが以上に説明した物性を有する非晶質樹脂であるのが望ましい。特に、低温定着性と耐高温オフセット性の観点から、軟化点が70℃以上、120℃未満の低軟化点樹脂と軟化点が120℃以上、160℃以下の高軟化点樹脂とが、好ましくは20/80〜80/20の重量比(低軟化点樹脂/高軟化点樹脂)で併用されているのが好ましい。
【0037】結晶性ポリエステルと非晶質樹脂の重量比(結晶性ポリエステル/非晶質樹脂)は、帯電性、保存性、低温定着性及び耐久性の観点から、1/99〜50/50が好ましく、5/95〜40/60がより好ましく、20/80〜40/60が特に好ましい。
【0038】本発明のトナーには、さらに、着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、流動性向上剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が、適宜含有されていてもよい。
【0039】着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146 、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナー、フルカラートナーのいずれにも使用することができる。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、3〜10重量部がより好ましい。
【0040】荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体等の正帯電性荷電制御剤及び含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体、ベンジル酸のホウ素錯体等の負帯電性荷電制御剤が挙げられる。
【0041】離型剤としては、カルナウバワックス、ライスワックス等の天然エステル系ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプッシュ等の合成ワックス、モンタンワックス等の石炭系ワックス、アルコール系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して含有されていてもよい。一般に、優れた低温定着性を得るためには、カルナウバワックス等の比較的融点の低いワックスが併用されることが好ましいが、本発明のトナーでは、それらの低融点ワックスの含有量が少量であっても、優れた低温定着性が発揮される。
【0042】本発明のトナーは、混練粉砕法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたものであってもよいが、製造の容易であり、本発明の効果が顕著に発揮されることから、混練粉砕法により得られた粉砕トナーが好ましい。なお、混練粉砕法によりトナーを得る場合、結着樹脂、着色剤等をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー又は1軸もしくは2軸の押出機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができ、乳化転相法では、結着樹脂、着色剤等を有機溶剤に溶解又は分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、次いで分離、分級して製造することができる。さらに、トナーの表面には、必要に応じて疎水性シリカ等の流動性向上剤等が外添されていてもよい。トナーの体積平均粒径は、3〜15μmが好ましい。
【0043】紙の巻き付き防止に優れた本発明のトナーは、熱圧力定着法によりトナーを紙に定着させる際にも、定着ロール等の定着器への紙の巻き付きを生じることなく、低温で良好に定着するため、熱圧力定着用トナーとして好適に用いることができる。
【0044】
【実施例】〔軟化点〕高化式フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出すようにし、これによりフローテスターのプランジャー降下量(流れ値)−温度曲線を描き、そのS字曲線の高さをhとするときh/2に対応する温度(樹脂の半分が流出した温度)を軟化点とする。
【0045】〔融解熱の最大ピーク温度及びガラス転移点〕示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で測定し、融解熱の最大ピーク温度を求める。なお、離型剤ではこの最大ピーク温度を融点する。また、非晶質樹脂特有のガラス転移点は、前記測定で最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分から、ピークの頂点まで、最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0046】結晶性ポリエステル製造例(樹脂a〜k)
表1、2に示す原料モノマー及びハイドロキノン2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、160℃で5時間かけて反応させた後、200℃に昇温して1時間反応させ、さらに8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステル(樹脂a〜k)を得た。
【0047】ここで、得られた結晶性ポリエステルの一部を粗砕し、目開きが1mm、750μmのメッシュを上下に重ね合わせた篩いにかけた。目開きが710μmのメッシュの上にたまった粗砕品、即ち粒径が710μm以上1mm以下に揃った粗砕品20gを、コーヒーミル(National MX−X62)を用いて2分間攪拌した。掃除機を用いて樹脂を除去した後、ミル内への樹脂の融着の有無を確認し、以下の評価基準に従って、樹脂の粉砕性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0048】〔評価基準〕
◎: 融着は全く確認されない。
○: 羽根にわずかな融着が確認される。
△: 羽根への融着が明らかに確認される。
×: 羽根及び壁面に融着が多量の融着が確認される。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】非晶質ポリエステル製造例(樹脂A、B)
表3に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及び酸化ジブチル錫4gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、220℃で8時間かけて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。さらに、210℃にて無水トリメリット酸を反応系に添加し、所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステル(樹脂A、B)を得た。
【0052】
【表3】


【0053】実施例1、3〜10、比較例1〜5表4に示す結着樹脂100重量部、荷電制御剤「T−77」(保土谷化学工業社製)1重量部、カーボンブラック「MOGUL L」(キャボット社製)4重量部及び表4に示す離型剤をヘンシェルミキサーにより混合し、混練部分の全長が1560mm、スクリュー径が42mm、バレル内径が43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。なお、ロール回転速度は200回転/分、ロール内の加熱温度は100℃、混合物の供給速度は10kg/時、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を、冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにより粉砕し分級して、体積平均粒径8.0μmの粉体を得た。
【0054】得られた粉体100重量部に対し、疎水性シリカ「R−972」(アエロジル社製)1重量部を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合してトナーを得た。
【0055】実施例2「T−77」の代わりに「LR−147」(日本カーリット社製)1重量部をカーボンブラックの代わりにシアン顔料「ECB−301」(大日精化社製)4重量部を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0056】試験例1〔低温定着性の評価〕
オフラインによる定着が可能なように改造した複写機「AR−505」(シャープ(株)製)にトナーを実装して未定着画像を得た。得られた未定着画像を、装置外部で定着ロールの温度を90℃から240℃へと5℃づつ順次上昇させながら定着させた。なお、この際に一部のトナーで定着ロールへの巻き付きが生じた。巻き付きの有無を表4に示す。
【0057】500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、各温度における定着画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(擦り後/擦り前)が最初に70%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。定着試験に用いた紙はシャープ社製の「CopyBond SF−70NA」(75g/m2 )である。結果を表4に示す。
【0058】
〔評価基準〕
◎ :最低定着温度が110℃未満である。
○ :最低定着温度が110℃以上、120℃未満である。
△ :最低定着温度が120℃以上、130℃未満である。
× :最低定着温度が130℃以上、140℃未満である。
××:最低定着温度が140℃以上である。
【0059】試験例2〔保存性の評価〕
トナー4gを温度40℃、相対湿度60%の環境下で、72時間放置し、トナーの凝集の発生の有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って保存性を評価した。結果を表4に示す。
【0060】〔評価基準〕
◎ :凝集は全く認められない。
○ :凝集はほとんど認められない。
× :明らかに凝集が認められる。
【0061】
【表4】


【0062】以上の結果から、炭素数10〜24の1価の脂肪族化合物を所定量用いて得られた結晶性ポリエステル(樹脂b〜d、f〜j)は、粉砕機に融着することなく良好に粉砕することができ、かかる結晶性ポリエステルを結着樹脂として得られた実施例のトナーは、いずれも定着ロールへの紙の巻き付きが生じることなく低温での定着が可能であり、保存性にも優れていることが分かる。これに対し、炭素数10〜24の1価の脂肪族化合物を用いていない樹脂a、kは粉砕時の融着が激しく、またこれらの樹脂を含有した比較例1、5のトナーは、低温定着性に欠けており、紙の巻き付きが発生している。比較例2、3の結果から、低融点ワックスの併用により、定着ロールへの紙の巻き付きを防止することはできるものの、低温定着性は不十分である。また、炭素数10〜24の1価の脂肪族化合物を所定量以上に用いて得られた樹脂eを含有した比較例4のトナーは、定着性に問題はないものの、保存性に欠けている。
【0063】
【発明の効果】本発明の結晶性ポリエステルを含有した結着樹脂は、粗砕機への融着等による粉砕性の低下を生じることなく良好に粗砕することができ、さらに該結着樹脂を含有したトナーは、紙が定着ロールに巻き付くことなく低温での定着ができるため、結晶性ポリエステル自体の特徴である低温定着性がより一層際立って発揮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素数10〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物及び炭素数10〜24の1価の脂肪族アルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の脂肪族化合物を0.1〜10モル%含有したモノマー混合物を縮重合させて得られた結晶性ポリエステルからなるトナー用結着樹脂。
【請求項2】 脂肪族化合物が炭素数10〜24の直鎖構造を有する請求項1記載の結着樹脂。
【請求項3】 モノマー混合物が、炭素数2〜6の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とをさらに含有してなる請求項1又は2記載の結着樹脂。
【請求項4】 請求項1〜3いずれか記載の結着樹脂を含有した樹脂組成物を含有してなるトナー。
【請求項5】 熱圧力定着法によりトナーを紙に定着させる定着器を備えた印字装置に用いられる請求項4記載のトナー。

【公開番号】特開2003−337443(P2003−337443A)
【公開日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−145665(P2002−145665)
【出願日】平成14年5月21日(2002.5.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】