説明

トラニオン型ボール弁

【課題】バネによる弾発力と、流体圧とによる2重シール方式によって一次側、二次側からの高圧流体を確実に封止でき、全体のコンパクト性とシートリテーナの強度とを確保しつつ、流体圧による所定の押圧力を発生させて最適なシール面圧に調整して安定したシール性を確保できると共に、弁操作トルクの上昇を抑制して耐久性を高め、優れた操作性を維持できるトラニオン型ボール弁を提供する。
【解決手段】ボデー本体14内にステム11を介してボール12を回転自在に設け、このボール12をシール接触するためのシール機構13をボール12の両側位置に配置したトラニオン型ボール弁である。シール機構13は、ボールシート25と、シートリテーナ18と、バネ部材22と、シール部材20から成る。バネ部材22がシートリテーナ18に付与する弾発力と、シール部材20の内径側で設定された流体圧とによりシール機構13の押圧力が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール弁に関し、特に、水素ステーションなどの高圧ガス(水素)などに好適な高圧用のトラニオン型ボール弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、90MPa以上の水素等の高圧流体が流れる配管設備においては、一般的に高圧用のトラニオン型ボール弁が用いられる。この種のボール弁は、一般的に、ボール弁体がステムとトラニオンとにより回動自在にボデー内に支持され、ボデー内にはリテーナ部材とボールシートとが装着され、このリテーナ部材とボールシートとが、スプリングのばね力を介してボール弁体に密着状態に装着された構造になっている。このとき、リテーナ部材とボデーとの間には、シール用Oリングが装着されている。
この構造により、このボールバルブは、バルブの上下流側で2重シール方式と呼ばれるシール方向になっている。2重シール方式は、ボールシートの初期つぶし代をばね力でつぶしてリテーナ部材とともにボール弁体に密着させる力と、流体による押圧力でボール弁体とボールシートとを密着させる、いわゆる自緊力とにより、シール機能を発揮するシール方式であり、この2重シール方式により、高圧用ボールバルブは、高圧流体による圧力を利用して封止性を高めようとしている。このとき、このボールバルブは、ボール弁体に対して、一次側、二次側のどちら側からの流体圧でも、ボールシートがボール弁体に押圧されて自緊力を発揮する、いわゆる、ダブルシール構造になっている場合が通常であり、このダブルシール構造によって一次側、二次側の何れか一方側からの流体圧が加わったときに、この流体圧によって2重シールが働くようになっている。
【0003】
2重シール方式のボールバルブとしては、例えば、図12に示したボールバルブや、特許文献1に示したボールバルブが知られている。
図12のボールバルブ1は、コイルスプリング2によるばね力と、自緊力とにより封止性を得ようとするものであり、リテーナ部材3の外周側に形成されたOリング4装着用の段状部5により自緊力を発生させている。このボールバルブ1において、H1をリテーナ部材3の段状部5の拡径側の外径、H2をリテーナ部材3の段状部5の縮径側の外径とすると、図において、リテーナ部材3の右側から左側に圧力が加わる場合には、ボールシート6とボール弁体7とが直径h1の位置(シール部位の内周位置)でシールし、このときのシート押圧力(自緊力)F1は、シート押圧力F1=1/4・π(H12−h12)×ΔA1と表される。ここで、ΔA1は差圧であり、この差圧ΔA1は、リテーナ部材3の右側の圧力(流路内の圧力)−リテーナ部材3の左側の圧力(キャビティ8内の圧力)である。
一方、リテーナ部材3の左側から右側に圧力が加わる場合には、ボールシート6とボール弁体7とはキャビティ8を介して直径h2の位置(シール部位の外周位置)でシールし、このときのシート押圧力F2は、シート押圧力F2=1/4・π(h22−H22)×ΔA2と表される。このとき、差圧ΔA2は、リテーナ部材3の左側の圧力−リテーナ部材3の右側の圧力である。
このように、自緊力は、リテーナ部材3を介して一次側と二次側とにおける差圧と、この差圧が加わるときのリテーナ部材3の一次側と二次側との面積差との積によって表される。
【0004】
特許文献1におけるボールバルブは、ボール弁体、リテーナ部材、ボールシート、皿ばねを有し、皿ばねのばね力と、流体による自緊力とによってボールシートをボール弁体に密着させようとするものである。このボールバルブにおいては、流路内の圧力がキャビティ部内の圧力を超えると、不均衡な流路圧力荷重によりリテーナ部材が弁要素とのシール係合方向に付勢され、作動荷重シール力は、不均衡な流路圧力荷重と不均衡なキャビティ部圧力荷重との夫々と平行関係になっている。すなわち、このバルブは、ばね力による作動シール荷重と、流体圧による流路圧力荷重(自緊力)とを平行に発揮させて、高圧流体に対する封止性を高めようとするものである。
【0005】
上述した構造のトラニオン型ボールバルブは、2重シール構造によりボール弁体とボールシートとの密着性を高めて高圧流体に対するシール性を向上させようとしているが、このとき、高圧用バルブではボール弁体の回転トルクによる操作性も考慮する必要があり、回転トルクに対する耐久性を向上させてスムーズな操作性を確保する必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/90146号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や図12のボールバルブは、図12において、ダブルシール構造とするためにリテーナ部材3にOリング4装着用の段状部5を設けてOリング4の内外周側をシール面とし、段状部5の拡径側の外径H1、縮径側の外径H2と、ボールシート6とボール弁体7とのシール部分である直径h1、h2とによる差により自緊力を作用させる面積を設けているため、この直径差が大き過ぎると差圧の加わる面積が大きくなり、自緊力によるシート押圧力が過大になる。そのため、操作トルクが大きくなって操作性が損なわれ、ボールシート6の耐久性も悪くなって寿命を早めるおそれもある。
【0008】
この自緊力の増加を防ぐため、外径H1を小さく形成して直径h1に対する外径H1の拡径割合を小さくすることが考えられるが、この場合、外径H1の縮径によってOリング装着用の段状部5の寸法を確保するために形成されている縮径筒部9も小径になり、この縮径筒部9が薄肉化により高圧負荷時の過大な応力に耐えきれないおそれがある。このため、縮径筒部9にかかる応力を下げるためにOリング4の内径および外径寸法を大きくすると、ボール弁体7やボールシート6もこの大きさに合わせて大きくする必要が生じ、バルブ全体が大型化すると共に、操作性も悪化する。
一方、外径H2を大きく形成して外径H2に対する直径h2の拡径割合を小さくした場合、外径H2の拡径により外径H1も大きくなって、上記のOリング4を大きく形成した場合と同様に、バルブ全体が大型化して操作性も悪化する。
【0009】
バルブ全体の大型化を回避しながら、直径h1に対する外径H1、外径H2に対する直径h2の拡径割合を小さくしようとするために、断面寸法が小さいOリングを用いることも考えられるが、この場合、Oリングの断面寸法を無理に小さくすることはこのOリングによるシール性能を悪化させることにつながるため実現は困難である。
【0010】
また、上記したように、これらのバルブは、外径H1と外径H2との間の空間にOリング4を装着する構造であり、この外径H1、H2の径の大きさや径の差がOリング4のシール機能に影響を及ぼす構造であるため、Oリング4のサイズの選定も難しくなるという問題もある。Oリング4によるシール性を向上させるために、外径H1と外径H2との差を大きくし、大きい断面のOリングを装着することも可能であるが、この場合、縮径筒部9の肉厚が薄くなって過大な応力に耐え切れなくなる。
【0011】
このように、これらのボールバルブは、Oリング装着用の段状部5がリテーナ部材3側に形成されているために、この段状部5を介しての自緊力の調整が難しくなり、その結果、ボールシート6とボール弁体7との面圧力を最適な状態に設定することが困難になっていた。
【0012】
更に、特許文献1のボールバルブは、ボールシートの径が大きくなっており、このボールシートとボール弁体とのシール位置に対応させて縮径筒部の径を大きく形成することにより、所定の自緊力を得ることは可能になっている。しかし、このように略球形状のボール弁体に対するボールシートのシール径を大きくすると、ボールシートが弁体に抱きついて吸い付きやすくなる。これにより、ボールシートの摩耗が進みやすくなって、シール性が悪化したり操作トルクの上昇につながることがあった。
【0013】
しかも、同文献1のボールバルブは、皿ばねのばね力による作動シール荷重と、流体圧による自緊力とを平行して発揮させて封止力を得ようとするものであるから、自緊力が低下した場合にはシール性全体に悪影響を及ぼすことになり、安定したシール性と操作時のトルク性とを確保することが難しくなっている。
【0014】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、バネによる弾発力と、流体圧とによる2重シール方式によって一次側、二次側からの高圧流体を確実に封止でき、全体のコンパクト性とシートリテーナの強度とを確保しつつ、流体圧による所定の押圧力を発生させて最適なシール面圧に調整して安定したシール性を確保できると共に、弁操作トルクの上昇を抑制して耐久性を高め、優れた操作性を維持できるトラニオン型ボール弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ボデー本体内にステムを介してボールを回転自在に設け、このボールをシール接触するためのシール機構をボールの両側位置に配置したトラニオン型ボール弁であって、シール機構は、ボール面とシール接触するボールシートと、先端に前記ボールシートを装着したシートリテーナと、ボールシート側に弾発力を付与するためにシートリテーナに装着したバネ部材と、シートリテーナの外周面に位置するボデー本体側の内周面の装着溝に装着したシール部材から成り、バネ部材がシートリテーナに付与する弾発力と、シール部材の内径側で設定された流体圧とによりシール機構の押圧力としたトラニオン型ボール弁である。
【0016】
請求項2に係る発明は、ボデー本体は、ボデーの一次側と二次側にそれぞれキャップ部材を設け、このキャップ部材の内周面にシール部材装着用の装着溝を形成したトラニオン型ボール弁である。
【0017】
請求項3に係る発明は、キャップ部材の内周面に形成した段部とボデーとキャップ部材の係合部の間に設けた環状ストッパとでシール部材装着用の装着溝を形成したトラニオン型ボール弁である。
【0018】
請求項4に係る発明は、シール部材をOリングとし、両側にバックアップリングを配置したOリングを装着溝に装着したトラニオン型ボール弁である。
【0019】
請求項5に係る発明は、ステムの上端部に手動用ハンドル又はアクチュエータを取付けて手動又は自動式のバルブとしたトラニオン型ボール弁である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によると、バネによる弾発力と、流体圧とによる2重シール方式であり、ボールをシール接触するためのシール機構をボールの両側位置に配置することによって一次側、二次側からの高圧流体を確実に封止でき、このシール機構によりバネ部材の弾発力とシール部材の内径側で設定された流体圧とによる押圧力を働かせているので全体のコンパクト化を図りつつ、肉厚を充分に確保できることでシートリテーナの強度を確保することもできる。シール時においては、シール部材の内径側によって一次側と二次側の双方の流体圧を設定していることでこの流体圧による押圧力を低減して所定の大きさに維持でき、この自緊力とバネ部材の弾発力とによる押圧力を調整して最適なシール面圧による安定したシール性を確保できると共に、弁操作トルクの上昇を抑制して操作力を小さくしてスムーズな操作性を確保して作動耐久性を高めることが可能になり、超高圧流体に適した高性能のトラニオン型ボール弁を提供できる。このため、ボールシートの材料選定における自由度が増し、より高性能化した製品を製作することもできる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、キャップ部材をボデーから取外し、このキャップ部材の装着溝にシール部材を着脱できるため、繰返しのバルブ開閉動作や経年劣化等によりシール部材が消耗した場合にもこのシール部材を容易に交換でき、このシール部材によるシール性を維持して流体圧による自緊力を安定して発揮させることができる。
【0022】
請求項3に係る発明によると、キャップ部材の段部と環状ストッパとでシール部材装着用の装着溝を形成していることにより、キャップ部材をボデーから取外し、このキャップ部材から環状ストッパを取外し、この開口側からキャップ部材の段部にシール部材を装着することでこのシール部材を変形や損傷を防ぎつつスムーズに装着でき、この上から環状ストッパを装着することでシール部材を所定位置に配設して高シール性を維持できる。これにより、より高圧な流体に適応した硬質シール部材を用いることも可能になり、高圧用トラニオン型ボール弁としての機能性を一層向上させて流体漏れを確実に防止しつつ高い操作性を確保できる。
【0023】
請求項4に係る発明によると、キャップ部材の両側にバックアップリングを配置することで、シートリテーナがボデー本体に対してスライドしたときにもこのバックアップリングによりシール部材が両側から保護されるため、シール部材による自緊力やシール機能を長期に亘って維持できる。
【0024】
請求項5に係る発明によると、必要に応じて手動又は自動式のバルブとすることができ、内部を流れる高圧流体の圧力の大きさや種類、設置箇所などのバルブの使用状況などに応じて適宜の操作方式を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明におけるトラニオン型ボール弁の第1実施形態を示した断面図である。
【図2】図1のシートリテーナ付近を示した拡大断面図である。
【図3】図1のステム付近を示した拡大断面図である。
【図4】ハンドルキャップとカバーとの関係を示した模式図である。
【図5】カバーを取外した状態を示したボデーの一部省略平面図である。
【図6】図1のカバー付近を示す一部拡大正面図である。
【図7】本発明におけるトラニオン型ボール弁の第2実施形態を示した断面図である。
【図8】図7のシートリテーナ付近を示した拡大断面図である。
【図9】図7のカバー付近を示す一部拡大正面図である。
【図10】本発明におけるトラニオン型ボール弁の第3実施形態を示した要部断面図である。
【図11】差圧と押圧力との関係を示したグラフである。
【図12】従来のボールバルブを示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明におけるトラニオン型ボール弁の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1においては、本発明におけるトラニオン型ボール弁の第1実施形態を示しており、図2においては、図1のシートリテーナ付近を示している。
【0027】
図において、本発明におけるボール弁本体(以下、弁本体という)10は、特に、高圧流体を流す場合に好適であり、ボデー本体内には、ステム11を介して弁体であるボール(弁体)12が回転自在に設けられており、このボール12をシール接触するためのシール機構13がボール12の両側位置に配置されたトラニオン型ボール弁の構造になっている。弁本体10はボデー本体14により構成され、このボデー本体14は、ボデー15とこのボデー15の一次側と二次側とにそれぞれ設けられたキャップ部材16、16とからなっており、このボデー本体14にシール機構13が内装されている。ここで、本実施形態における高圧とは、例えば、35MPa以上であり、水素ステーション用の配管設備では70〜105MPa、具体的には90MPaを想定している。
【0028】
ボデー15は、略四角形状に形成され、このボデー15の両側にガスケット17を挟着した状態でキャップ部材16、16が螺着されてボデー本体14が構成される。キャップ部材16の内周面には後述するシートリテーナ18装着用の装着穴19が設けられ、この装着穴19にシートリテーナ18が嵌挿可能に設けられている。この装着穴19には、後述するシール部材20装着用の装着溝21が形成され、この装着溝21は、シートリテーナ18の外周面18aに位置するボデー本体14側の内周面14aに設けられている。また、装着穴19には、この装着穴19よりも拡径した後述するバネ部材22装着用の拡径溝部23が形成されている。更に、装着穴19の他方側には、めねじ部24が連通して形成され、このめねじ部24には外部継手26が螺着可能になっている。なお、キャップ部材16は、接着や溶着等の接合手段によりボデー15と一体化することも可能である。
【0029】
シール機構13は、ボールシート25、前記したシートリテーナ18、バネ部材22、シール部材20から成っている。このうち、ボールシート25は、ボール12のボール面12aとシール接触可能な環状に形成されている。
【0030】
シートリテーナ18は、ボールシート25をボール12の所定位置に配置して押圧シールするために設けられ、ボール12側に配設される拡径部26と、この拡径部26よりも縮径した筒部27とを有している。拡径部26の先端には溝部28が形成され、この溝部28にボールシート25が装着されている。シートリテーナ18には内部流路29が形成されている。
【0031】
シートリテーナ18における筒部27は、後述するようにシール部材20とバックアップリング30とがボデー本体14側に配設されていることで同一径の外径でストレート状に形成され、この筒部27が装着溝21に嵌挿されることで、シートリテーナ18が流路方向に移動可能になっている。筒部27の外周面にはシール部材20が密着し、シートリテーナ18の流路方向への移動時にはこのシール部材20により筒部27がシールされる。
【0032】
バネ部材22は、例えば、コイルスプリングからなり、拡径溝部23と、装着穴19に嵌挿されたシートリテーナ18の拡径部26との間に装着され、このバネ部材22により、シートリテーナ18のボールシート25側に弾発力が付与される。このバネ部材22は、皿バネであってもよい。
【0033】
シール部材20は、例えば、ゴム製のOリングよりなり、バックアップリング30とともに装着溝21に装着され、これにより、ボデー本体14側の内周面14aに配設されてシートリテーナ18の外周面18aに配設される。バックアップリング30は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成される。シール部材20とバックアップリング30は、別の材質の材料によって形成されていてもよいが、この場合にも、ゴムやPTFEと同程度の軟質材料をそれぞれ用いることが好ましく、軟質材料を用いることにより装着溝21に変形させて装着しやすくなる。シール部材20は、両側にバックアップリング30、30が配置された状態で装着溝21に装着されてこのバックアップリング30、30により両側が保護されている。
【0034】
ボール12は、上部側に軸部12bと、下部側にトラニオン(ロワステム)12cとを有し、軸受31を介して軸部12bとロワステム12cとがボデー15内に回動自在に取付けられる。ボール12をステム11により回動操作し、ボール内部に形成された連通孔12dとシートリテーナ18の内部流路29とが連通したときには流体を流すことが可能になっている。
【0035】
弁本体10は、上記の構成によってバネ部材22がシートリテーナ18に付与する弾発力と、シール部材20の内径側で設定された流体圧とによりシール機構13による押圧力を発揮し、いわゆる2重シール方式により高圧流体を封止できる構成になっている。
【0036】
なお、ステム11の外周側には、Vパッキン32を収納したパッキン座金33、グランド34、ブッシュ35、玉軸受36が配設され、ステム11は、これらを介してボデー15内に回動自在に装着される。
【0037】
パッキン座金33は、ステム11との間をシールする積層Vパッキン32を収納可能な円筒部37と、このVパッキン32を載置するための底部38とを有しており、円筒部37の内部に適宜数積層されたVパッキン32が収納される。円筒部37の外周側には環状溝39が形成され、この環状溝39にはシール用Oリング40と、保護リング41とが装着されている。円筒部37の上面側には、リークした高圧流体を外部に誘導するための切欠溝42が設けられている。底部側に位置するVパッキン32の内外周には、パッキン座金33と同様に、シール用Oリング40と保護リング41がそれぞれ装着されている。このように、シール用Oリング40と保護リング41とが、ステム11とVパッキン32、Vパッキン32とパッキン座金33、パッキン座金33とボデー15との間に装着されていることで、ステム11の軸装部分からの高圧流体の漏れが防がれている。
【0038】
パッキン座金33は、玉軸受36を介してステム11の上部側に配設され、これにより、ステム11が玉軸受36を介してVパッキン32、グランド34に対して回動自在となる。ボデー15のパッキン座金33の対向位置には、リークポート43が形成されている。このリークポート43を介して図示しない外部の検知装置により流体漏れを検知することが可能になる。
【0039】
グランド34は、略筒状に形成され、内側にパッキン座金33を嵌入可能な環状鍔部44と、Vパッキン32を被蓋可能な蓋部45とを有している。このグランド34は、パッキン座金33の上方側より、ボデー15に形成した装着凹部46に嵌合するように取付けられ、Vパッキン32を収納したパッキン座金33を玉軸受36方向に押圧している。グランド34の内周側にはブッシュ35が配設され、このブッシュ35によりVパッキン32がパッキン座金33の底部38に押さえつけられる。
【0040】
このような構成により、弁本体10内に高圧流体が流れて、図1において外気との差圧によりステム11が上昇する方向の力が加わった場合にも、パッキン座金33によりVパッキン32が保護されているためこのVパッキン32が軸方向に潰れることが防止され、シール性の低下を防いで確実に高圧流体の漏れが防止される。このため、Vパッキン32の消耗を防いでステム11の操作性の低下を抑えることも可能になる。
【0041】
また、弁本体10のボデー15には図6に示したカバー50が取付けられ、このカバー50を介してハンドルキャップ51、手動用ハンドル52が取付けられている。
カバー50は、略円板状に形成され、その底面側にはボデー15上面側に形成された環状突部53に嵌合可能な鍔状の側面部54が設けられ、図5において、この側面54には、座ぐり部55と、切欠部56とが90°の間隔で互い違いに2つずつ形成されている。カバー50の中央部には、ハンドルキャップ51を挿入するための穴部57が形成され、この穴部57には、図4に示すように規制片58が突設形成され、この規制片58によりステム11の回転を90°に規制可能になっている。
【0042】
図4に示すように、ハンドルキャップ51は、グランド34と略同径の略円柱状に形成され、その外周側にはカバー50の規制片58に係止可能な係止片59が突設形成されている。ハンドルキャップ51の底面側には、ステム11の上端部に形成された平行部11aが嵌合可能な嵌合穴部51aが形成され、ハンドルキャップ51は、この嵌合穴部51aと平行部11aとの嵌合によりステム11に一体化される。また、ハンドルキャップ51には略半円状の取付穴部60が形成され、一方、ハンドル52の取付部位は、この取付穴部60に嵌入可能な略半円状に設けられている。
なお、ボデー11の環状突部53における側面の座ぐり部55と切欠部56とが対応する位置には雌ネジ61が設けられ、この雌ネジ61に固着ボルト62、止めネジ63が螺着可能になっている。
【0043】
ハンドルキャップ51は、嵌合穴部51aと平行部11aとの嵌合によりステム11に所定の向きに取付けられ、この状態でカバー50がハンドルキャップ51の上から環状突部53に嵌合装着される。更に、固着ボルト62、止めネジ63が、それぞれカバー50の座ぐり部55、切欠部56を介して雌ネジ61に螺着されることによりハンドルキャップ51が固定され、このハンドルキャップ51にハンドル52を嵌入して固定用ボルト64で固定することでハンドル52がステム上端部11bに取付けられる。ハンドル52を回転操作するときには係止片59が規制片58に当接して規制されるため、ハンドル52によりステム11を90°の回転角度に回転規制しながら開閉操作可能になる。
このように、ステム上端部11bに手動用ハンドル52を取付けて弁本体10を手動式のバルブとすることが可能である。
【0044】
続いて、本発明のトラニオン型ボール弁の上記実施形態における作用を説明する。
本発明の弁本体10は、シール機構13のシール部材20の内径側で流体圧を設定しているので、以下のような自緊力を得ることができる。
【0045】
図2において、シートリテーナ18の右側を一次側、左側を二次側とした場合、ボールシート25とボール12とは直径d1の位置でシールし、このときの自緊力(ボールシートによる押圧力)をF1とすると、自緊力F1=1/4・π(D2−d12)×ΔP1となる。ここで、Dはシール部材20におけるシール位置の内径であり、この内径Dは筒部27の外径と一致する。また、ΔP1は、弁締め切り差圧(一次側の圧力−二次側の圧力)を表している。本実施形態においては、d1<D<d2の関係に設定している。
一方、シートリテーナ18の左側を一次側、右側を二次側とした場合、ボールシート25とボール12とは直径d2の位置でシールし、このときの自緊力をF2とすると、自緊力F2=1/4・π(d22−D2)×ΔP2となる。ここで、ΔP2は、弁締切り差圧を示している。
このように、弁本体10内に左右どちら側の向きの圧力が加わり、左右の何れの側が一次側又は二次側である場合でも、弁本体10とシートリテーナ18とがシール部材20の内径Dにおいてシールする。
【0046】
この構造により、直径d1、d2に対してシール部材20の内径Dの寸法を変えるだけで、左右どちらの向きの圧力が加わる場合でも自緊力を調整して流体圧を設定でき、このとき、直径d1、d2と内径Dとの差を少なくして自緊力が働く面積を小さくすることにより、小さい自緊力を働かせてこの自緊力による最適なシート押圧力を得ることが可能になる。
従って、流体の自緊力とバネ部材22の弾発力とによる2重シール方式とした場合において、シール部材20の消耗を抑えて自緊力の低下(変動)を最小限に抑えて、このシール部材20の内径側で設定された流体圧とバネ部材22の弾発力とによるシール機構13の押圧力をほぼ一定に保って安定したシール性を発揮でき、かつ、操作時におけるトルク性を安定させることが可能になる。このため、シートリテーナ18を設ける際には、シール部材20の内径により自緊力の荷重を計算できるため設計の自由度が高くなる。
【0047】
更に、シール部材20がボデー本体14側に装着されることにより、シール性能に悪影響を及ぼすことなくこのシール部材20による高いシール機能を維持しながら内径Dを調節して必要な自緊力を得ることができ、筒部27を薄肉化させることなく過大な応力にも耐え得ることが可能になる。これにより、剛性を確保しながらシートリテーナ18のコンパクト化を図って弁本体10全体の大型化を回避しながら高性能のトラニオン型ボール弁を設けることができる。
【0048】
このように筒部27を小径に形成できるため、必要以上に拡径部26が大きくならず、この拡径部26に装着されるボールシート25の径を小さくできる。このため、ボールシート25のボール12への抱きつきや吸い付きを防止でき、シール部材20の消耗が抑えられる。
また、内径寸法を合わせれば、外径をより大きく形成したボールシート25を採用することもできるため、設計の自由度が増して製品の性能向上が可能になる。
【0049】
本発明のトラニオン型ボール弁との比較例として、自緊力を全く発揮することなく、バネ部材の弾発力のみでシール機構をボールにシール接触する技術が想定されるが、ボールシートやボールのシール面は、バルブの開閉操作に伴う摩擦などにより、その均一性が低下するおそれがあることから、シール機構の押圧力が流体圧の上昇に伴って増加するよう、本実施形態に示す程度の自緊力を利用するのが最適である。
【0050】
ここで、本発明の弁本体10と、特許文献1のボールバルブにおける、差圧と押圧力との関係を比較したグラフを図11に示す。このグラフにおいて、説明の便宜のため、本発明のトラニオン型ボールバルブにおけるスプリングによる押圧力は、差圧0の状態において特許文献1のボールバルブと同等としている。ばね部材の弾性力による押圧力が同じであるという条件でボールシート(ボールシート)の押圧力を比較すると、同文献1のボールバルブは、ばね力による作動シール荷重と流体圧による流路圧力荷重とを平行に発揮させる構造であることから、差圧が0の状態では二点鎖線に示したスプリングによる押圧力のみが加わった状態になる。この状態から差圧が増していくと、一点鎖線(自緊力2)に示した流体圧による押圧力が大きく増加し、グラフの傾きも大きくなる。
これに対して、本発明の弁本体の場合には、ボールシート25の押圧力を主にバネ部材22によって支える構造であるため、実線に示すように、流体圧による押圧力(自緊力)の上昇(グラフの傾き)を抑えることができ、長期に亘って安定した弁座シール性を確保できる。
【0051】
図7においては、本発明におけるトラニオン型ボール弁の第2実施形態を示しており、図8においては、図7のシートリテーナ付近を示している。なお、この実施形態以降において、前記実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。
【0052】
図8に示すように、この実施形態における弁本体70では、キャップ部材71の内周面に段部72が形成され、この段部72とボデー73とキャップ部材71の間に形成される係合部74との間に環状ストッパ75が設けられている。この環状ストッパ75の装着により、シール部材20装着用の装着溝76が形成され、この装着溝76にシール部材20が装着される。このとき、前記実施形態と同様に、Oリングであるシール部材20の両側にバックアップリング30を配置した状態で装着溝76に装着することで、シール部材20がバックアップリング30により保護される。このとき、バネ部材22は、環状ストッパ75とシートリテーナ18の拡径部26との間に弾発状態で装着される。
【0053】
このようにボデー本体14内に着脱可能な環状ストッパ75を設けていることで、シール部材20やバックアップリング30を開口側から変形させることなく所定位置に簡単に装着できるため、これらを硬質の材料により形成できる。このため、シール機能を更に高めることが可能になり、例えば、90MPaを超える超高圧流体を流すことも容易になる。
【0054】
その際、環状ストッパ75を薄肉の略環形状に形成し、ボデー73に螺着するキャップ部材71の装着位置を調整して係合部74の流路方向の寸法を予め設定しておくことにより、環状ストッパ75のボデー側先端部75aとボデー73との間に、例えば、0.5mm程度の隙間Gを形成できる。このように、ボデー73にキャップ部材71を螺着することにより、両部品によってガスケット17を挟持できるよう、ボデー73と環状ストッパ75のボデー側先端部75aとボデー73との間に隙間Gを形成している。
【0055】
この場合には、先端部75aがボデー73に接触することがなく、環状ストッパ75がバネ部材22の弾発力によってシール部材20とバックアップリング30の装着側であるキャップ部材71側に押圧されながら装着される。このようにして、環状ストッパ75は、ボデー73とキャップ部材71との間に押圧されて流路方向の移動が規制されるため、この環状ストッパ75とキャップ部材71との間に間隙が生じることが防がれ、シール部材20による高いシール性が確保される。
【0056】
なお、この実施形態のトラニオン型ボール弁においては、図7に示すように、ステム上端部11bに自動操作用の空圧アクチュエータ80が取付けられて自動式のバルブとなっている。アクチュエータ80も、前述した手動用ハンドル52と同様に、図9に示したカバー76、固着ボルト62、止めネジ63を介してボデー73に取付けられる。この場合、ステム11は、空圧アクチュエータ80の出力軸82に形成された嵌合穴83に嵌合されて固定されるため、ハンドルキャップを使用する必要はない。
【0057】
このアクチュエータ80は、いわゆるスプリングリターン型であり、内部に装着されたスプリング部材84の飛び出しを防止するためのリテーナ部材85が設けられている。このリテーナ部材85には、突状の突当て部86が形成され、ピストン87がシリンダ88内を往復動するときにこの突当て部86がシリンダ88の内部両側に当接することによりピストン87の図示しないストロークを規制し、出力軸82の回転角度を所定角度、すなわち90°に規制している。
【0058】
図10においては、本発明におけるトラニオン型ボール弁の第3実施形態を示している。この実施形態における弁本体90では、環状ストッパ91を筒状に形成し、この環状ストッパ91を段部92と係合部93との間に設け、この環状ストッパ91のボデー側先端部91aとボデー94との間に隙間G´を設けたものである。この場合にも図7の場合と同様に、ボデー94に対するキャップ部材95の装着位置を予め調整しておくことで隙間G´を所定寸法に設定し、シール部材20、バックアップリング30を変形させることなくキャップ部材95の開口側から簡単に装着してこの上から環状ストッパ91を組付けできる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、特に、燃料電池で使用される高圧流体の水素等が流れる配管設備に好適であるが、高圧流体が流れる管路であれば優れたシール性とトルク性とを発揮でき、例えば、CNG(Compressed Natural Gas:液化天然ガス)ステーションにおけるバルブや、或は、パイプライン用バルブなどの各種の高圧流体の流れる場所で使用される高圧用ボール弁として適している。
【符号の説明】
【0060】
10 弁本体
11 ステム
12 ボール
12a ボール面
13 シール機構
14 ボデー本体
14a 内周面
15 ボデー
16 キャップ部材
18 シートリテーナ
20 シール部材
21 装着溝
22 バネ部材
22a 外周面
25 ボールシート
30 バックアップリング
52 手動用ハンドル
72 段部
74 係合部
75 環状ストッパ
76 装着溝
80 空圧アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボデー本体内にステムを介してボールを回転自在に設け、このボールをシール接触するためのシール機構をボールの両側位置に配置したトラニオン型ボール弁であって、前記シール機構は、ボール面とシール接触するボールシートと、先端に前記ボールシートを装着したシートリテーナと、前記ボールシート側に弾発力を付与するために前記シートリテーナに装着したバネ部材と、前記シートリテーナの外周面に位置するボデー本体側の内周面の装着溝に装着したシール部材から成り、前記バネ部材がシートリテーナに付与する弾発力と、前記シール部材の内径側で設定された流体圧とによりシール機構の押圧力としたことを特徴とするトラニオン型ボール弁。
【請求項2】
前記ボデー本体は、ボデーの一次側と二次側にそれぞれキャップ部材を設け、このキャップ部材の内周面にシール部材装着用の装着溝を形成した請求項1に記載のトラニオン型ボール弁。
【請求項3】
前記キャップ部材の内周面に形成した段部と前記ボデーとキャップ部材の係合部の間に設けた環状ストッパとでシール部材装着用の装着溝を形成した請求項1又は2に記載のトラニオン型ボール弁。
【請求項4】
前記シール部材をOリングとし、両側にバックアップリングを配置したOリングを前記装着溝に装着した請求項3に記載のトラニオン型ボール弁。
【請求項5】
前記ステムの上端部に手動用ハンドル又はアクチュエータを取付けて手動又は自動式のバルブとした請求項1乃至4の何れか1項に記載のトラニオン型ボール弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−13141(P2012−13141A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149694(P2010−149694)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】