トランス−スプライシングリボザイムを保有するアデノウイルスを用いた、分子イメージングによる疾病の診断方法
本明細書において、イメージングレポーター遺伝子が結合されたトランス−スプライシングリボザイムを含む、分子イメージングのための組成物が開示される。該トランス−スプライシングリボザイムは、疾病に関連する特定の遺伝子をターゲットとする。該組成物を使用した分子イメージングの方法もまた開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、リボザイムを含む分子イメージングのための組成物及び該組成物を用いた分子イメージング方法に関する。より詳しくは、本発明は、イメージングレポーター遺伝子と結合し且つ疾病に関連する特定の遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを含む分子イメージングのための組成物、及び該組成物を用いた分子イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
リボザイム(ribozyme)は、酵素活性を有するRNA分子である。リボザイムは、RNAスプライシング(RNA splicing)、RNAプロセッシング(RNA processing)、RNAゲノムの複製及びリボーソームにおけるペプチド結合の形成といった、遺伝子の発現及び調節に、能動的に関わってきた。特に、テトラヒメナ好熱菌(Tetrahymena thermophila)から分離したグループIイントロンリボザイムの場合、イントロンに隣接する2つのエクソンを、一般的なシス−スプライシング反応を介して連結させることができ、またトランス−スプライシング反応を行うことによって、別々のRNA上に含まれる2つのエクソンを連結させることもできる。トランス−スプライシングは、2工程のトランスエステル化(transesterification)機構を通じた切断−ライゲーション反応(cleavage-ligation reaction)を介して進行する。リボザイムは、タ−ゲットRNAとリボザイムの内部ガイド配列(IGS)との間で塩基対を形成することにより、別個に存在する基質RNA(5’エクソン)を認識し結合する。一旦結合すれば、リボザイムはタ−ゲットRNAを切断して下流の切断生成物を放出し、エクソン配列を、その3末端で、基質RNAの5’エクソン切断生成物に、自己切断過程で切断された5’エクソンRNAの代りに、接合(splice)する。このようなスプライシングは、in vitroだけでなく、E.coli及び哺乳動物細胞でも起こる。トランス-スプライシング反応は、特定のターゲットRNAのターゲッティング及び切断、並びに所望のRNA配列との置換に、適用することができる。したがってトランス-スプライシングリボザイムは、新規の治療遺伝子としての可能性を有しており、このような新規治療遺伝子は、遺伝疾患に関連する欠陥のあるRNA転写物を正常RNAにより修繕したり、或いは特定のRNAをターゲッティングして、ターゲットRNAを発現する細胞内のみで所望のRNAが発現されるようにすることができる。
【0003】
例えばグループIイントロンを基にしたトランス−スプライシングリボザイムは、赤血球前駆細胞において、赤血球の鎌状βS−グロビンの転写物を、抗鎌状タンパク質(anti-sickling protein)のγ−グロビンをコードするmRNAへと変換することが示されている(Lan, N., et al., Science 280:1593-1596, 1998)。またトランス−スプライシングリボザイムが、筋強直性ジストロフィータンパク質キナーゼの変異体の転写物、及び先天性ミオトニアの原因となるイヌ骨格筋の塩素チャネルの変異体の転写物の修正にも使用できることが報告された(Phylactou, L. A., et al., Nat. Genet. 18: 378-381, 1998; Rogers, C. S., et al., J. Clin. Invest. 110: 1783-1798, 2002)。トランス−スプライシングリボザイムは、野生型のp53転写物で変異体のp53転写物を修繕することにより、癌細胞の細胞死を誘導すること(Shin, K. S., et al., MoI. Ther. 10: 365-372, 2004)、C型肝炎ウイルス(HCV)のRNAゲノムの特定領域を認識し、該部位を抗ウイルス活性を表すRNAで置き換えることにより、HCVの複製を抑制し得ることが報告されている(Ryu, K. J. , et al. , MoI. Ther. 7: 386-395, 2003)。最近では、多くの研究が、トランス−スプライシングリボザイムの遺伝疾患のための治療遺伝子としての可能性に関するものである。例えば、hTERTをターゲットとするグループIイントロンを基にしたトランス−スプライシングリボザイムを発現させると、ヒトテロメアーゼ逆転写酵素(hTERT)を発現する癌細胞において、選択的な細胞毒性が誘導され、ヒト癌細胞が移植された動物モデルにおいても効果的な抗癌効果を有することが示された(Kwon, B. S., et al., MoI. Ther. 12: 824-834, 2005)。しかしながら、特定のリガンドのスクリーニングのための、及び疾病の診断における使用のための、バイオセンサー分子及びイメージング剤(imaging agent)としてのリボザイムの適用について、記載している報告はない。本発明は、リボザイムの上記の使用を確立する最初のものである。
【0004】
遺伝子治療の成功には、疾病の正確な診断が不可欠である。特に早期の診断が、疾病の治療の成功に、きわめて重大な意味を持つ。イメージング技術、並びに化学的・生物学的マーカーは、これまで疾病、とりわけ癌の早期診断に使用されてきた。しかし診断のためのイメージングは、初期の段階においては使用できないという欠点がある。化学的・生物学的マーカーは、診断の精度が劣り、従って、これらのマーカーを用いた早期診断のための標準的な方法は、確立されていない。より具体的には、癌のように遺伝子が関連する疾病は、関連する遺伝子のin vivoでの発現をモニター可能な方法がないため、関連する遺伝子が発現を始めてから相当の時間が経過して初めて、体の疾病への反応が起こったときに、疾病を検出し得る。従って癌のような疾病は、その初期段階で治療可能なことはまれである。また、疾病の進行、又は手術若しくは治療の後の処置に対する反応は、遺伝子の発現が起こり、体内で可視的な反応が起こる場合のみモニターし得るような初期の段階において、モニターすることが不可能であるため、個人ごとに最適の治療を行うことは、非常に難しい。X線、CT、MRI、SPECT、PET及び超音波検査などの種々のイメージングの方法が、癌又は遺伝疾病の診断に使用されてきた。侵襲的な生検を用いて単離された組織の病理学的評価によって、実際に癌であるか否かを判定するために、ターゲット部位のイメージは評価される。しかしながら、組織生検が取得不可能な場合は、映像の解釈が困難である。また治療に関しても、腫瘍の切除は、外科手術によって切除し得るサイズにまで腫瘍が増大したときに行わねばならず、そのため診断が遅延し、初期段階での適切な治療を不可能にしている。
【0005】
分子イメージングは、細胞内で起こる様々な分子現象、すなわち遺伝子の発現、生化学的プロセス及び生物学的変化を、イメージングを通じて可視化する新しいアプローチである。分子イメージングにより、医師は、ターゲットの組織のイメージに基づき、癌又は他の疾病の発症を判定することが可能であり、従って、適切な早期治療、及び組織生検をしない非外科手術的な治療を、非侵襲的にモニタリングすることができる。本発明の分子イメージングのための組成物及び分子イメージング方法は、既存の分子イメージング技術の欠点を克服する利点を有し、将来の遺伝子治療及びイメージング技術において必要とされる、位置シグナルの正確さと一時的な高い解像度を保有する。また本発明の組成物及び方法は、分子イメージングにて使用される材料が、将来技術として研究されてきた量子ドットナノ粒子を利用した分子イメージングにおいても根絶できなかった有害な副作用を有さないことから、有益に、臨床に適用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示
技術的な問題
そこで本願の発明者らは、トランス−スプライシングリボザイムを分子イメージングへ応用することについて、徹底的且つ集中的な研究を行った。研究の結果、特定の疾病関連遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを用いて分子イメージングを行えば、得られたイメージから、疾病の原因となる遺伝子のin vivoでの発現を、非侵襲的且つ正確に検出できることが見出され、本発明の分子イメージング方法が、従来法よりも早期における疾病の診断において卓越していることが示されたことから、本発明が導かれた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを含む、分子イメージングのための組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを用いることに基づいた、分子イメージングの方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、リボザイムのトランス−スプライシング機構の概要図である。
【図2】図2は、癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとし、且つルシフェラーゼ遺伝子を保有するアデノウイルスベクターAd−mCR−lucの概要図である。
【図3】図3は、癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとし、且つルシフェラーゼ遺伝子を保有する改変リボザイムの模式図である。
【図4】図4は、C57BL/6マウスの様々な組織(脳、肝臓、肺、腎臓、膵臓、心臓及び小腸)並びにマウス癌細胞株CT−26及びHepa1−6における、CKAP2タンパク質の発現パターンの、ウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図5】図5は、マウス肝臓組織及び様々なマウス癌細胞株におけるCKAP2 mRNAの発現パターンを示す図である。
【図6】図6は、細胞にAd−mCR−lacZをトランスフェクトした後の、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じた、ターゲット遺伝子のレポーター遺伝子による置換を示す図である。mCKAP2遺伝子を保有するHepa1−6細胞、及びmCKAP2遺伝子を損失しているHepG2細胞について、RT−PCRを用いて、トランス−スプライスされた分子(TSM)を検出した。ネガティブコントロール(Mock)としては、等量のPBSを使用した。上段のブロット(LacZ RNA)は、細胞にトランスフェクトされたリボザイムの初期転写物を示す。中央のブロット(TSM)は、トランス−スプライスされた分子によって生成された転写物を示す。下段のブロット(mGAPDH)は、遺伝子発現レベルの内部コントロールを示す。
【図7】図7は、Hepa1−6細胞における、トランス−スプライスされた転写物のDNA配列解析を示す図である(矢印は正確なスプライス接合部位を示す)。
【図8】図8は、X−gal染色の結果を示す図である。Ad−mCR−lacZによって、レポーター遺伝子(lacZ)が、mCKAP2遺伝子に特異的な様式で発現している。Hepa1−6細胞及びHepG−2細胞は、10、30又は50moi(感染の多重度(multiplicity of infection))にてAd−mCR−lacZをトランスフェクトし、X−gal染色を行った。
【図9】図9は、Ad−mCR−lacZでトランスフェクトされたHepa1−6細胞及びHepG2細胞における、β−ガラクトシダーゼの特異的活性を示す図である。測定は3回行い、測定値の平均を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した(特異的活性=加水分解されたONPGのnmol/分/mgタンパク質)。
【図10】図10は、ウイルス量に従って、Ad−mCR−lucでトランスフェクトされたHepa1−6細胞におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。測定値を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した。
【図11】図11は、Ad−mCR−lacZのトランス−スプライシング反応によってターゲット遺伝子mCKAP2の発現が低下することを示す図である。内因性のmCKAP2の発現パターンは、Hepal−6細胞を、Ad−Mock、Ad−lacZ及びAd−mCR−lacZで、30moiにてトランスフェクトさせてから、24時間後に、ウエスタンブロットを通じて評価した。上段、及び下段のブロットは、抗mCKAP2抗体として抗β−アクチン抗体をそれぞれプローブとした。
【図12】図12は、トランス−スプライシングリボザイムによる、生きたマウスでのmCKAP2発現のイメージング結果を示す図である。腫瘍を保有しないマウスにおいて、体系的に搬送されたAd−mCR−lucによって生成された生物発光のシグナルを、CCDカメラを用いてイメージングした(シグナル強度はフォトン/秒/cm2/ステラジアン(steridian)で表した)。
【図13】図13は、Ad−mCR−lucを用いた、多重肝細胞腫瘍のin vivoイメージングの結果を示す。多重肝細胞癌を保有するマウスにAd−mCR−lucを尾静脈から注入し、イメージを得た。該マウスから切除された肝臓組織における腫瘍結節のダイレクトイメージを下段のパネルに示し、Ad−Mockを注入したマウスのイメージを、ネガティブコントロールとして右下のパネルに示す。
【図14】図14は、Ad−mCR−lucを注入したマウス腫瘍結節のルシフェラーゼ活性を示す図である。ルシフェラーゼの発現を測定し、RLU/s/μgタンパク質にて、ログスケールにてそれを表した。測定は3回行い、測定値の平均を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最良の形態
一側面において、本発明は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを含む、分子イメージングのための組成物に関する。
【0010】
本明細書中で使用する場合、用語「リボザイム」とは、酵素活性を天然に保有するRNA分子を意味し、好ましくはトランス−スプライシング活性を有するリボザイムを意味し、更に好ましくは特定の疾病関連遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを意味する。
【0011】
本明細書中で使用する場合、用語「トランス−スプライシングリボザイム」とは、トランス−スプライシング活性を有するリボザイムを意味し、このトランス−スプライシング活性により、リボザイムは、ターゲットRNAとリボザイムの内部ガイド配列(IGS)との間で塩基対を形成して、離れたターゲットRNA(5’エクソン)を認識し、ターゲットRNAを切断し、リボザイムの3’エクソンを、ターゲットRNAの5’エクソン切断生成物にライゲートさせる(図1)。また用語「特定の遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイム」とは、細胞内に導入されたときに、疾病に関連する特定の遺伝子を認識して選択的なトランス−スプライシング反応を起こすように遺伝的に操作されたリボザイムを意味する。トランス−スプライシングリボザイムは、当業者に広く知られている方法により作製することができる。例えば、リボザイムの5’末端に、ターゲット(基質)RNAの保存領域に相補的な特定の配列を結合させることにより、特定のRNAをターゲットとする基質特異性を有するようなリボザイムを作製してもよい。
【0012】
また本発明での使用に適した、特定の遺伝子をターゲットとする改変されたトランス−スプライシングリボザイムは、in vivoで生物発光反応を起こすことでイメージングを可能にするタンパク質をコードするイメージングレポーター遺伝子(imaging reporter gene)を、リボザイムの3’エクソンに結合させることにより、作製してもよい。本発明のトランス−スプライシングリボザイムがターゲットRNAを切断すると、切断部位から下流のRNA塩基が放出される。そしてリボザイムの3’領域が、ターゲットRNAの切断生成物の3’末端にライゲートされて、イメージングレポーター遺伝子がリボザイムに融合される。イメージングレポーター遺伝子と融合されたリボザイムは、分子イメージングを通じて、特定の遺伝子の発現のイメージング及びモニターを可能にする。該イメージングレポーター遺伝子は、分子イメージングを通じて得られたイメージをモニターすることが可能である限り、特に限定されない。イメージングレポーター遺伝子の非限定的な例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、改変された緑色蛍光タンパク質(modified green fluorescent protein)、高感度緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein:EGFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、高感度赤色蛍光タンパク質(ERFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、高感度青色蛍光タンパク質(enhanced blue fluorescent protein:EBFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(enhanced yellow fluorescent protein:EYFP)、青緑色蛍光タンパク質(CFP)、及び高感度青緑色蛍光タンパク質(enhanced cyan fluorescent protein:ECFP)などの蛍光タンパク質;西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)及びルシフェラーゼなどの比色酵素(colorimetric enzyme)が挙げられる。ルシフェラーゼが好ましい。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「組換えベクター」とは、適切な宿主細胞中で目的タンパク質を発現することが可能なベクターであって、必須の調節要素を含む遺伝子構築物をいい、この調節要素には、遺伝子挿入物が、宿主細胞において発現されるような様式で、作動可能に連結されている。用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、本明細書中で使用する場合において、核酸発現調節配列とターゲットタンパク質をコードする核酸配列との間が、一般的な機能を許容するように機能的に連結されていることをいう。例えば、リボザイムをコードする配列をプロモーターに作動可能に連結させると、リボザイムをコードする配列の発現は、このプロモーターの影響若しくは調節の下に置かれることになる。2つの核酸配列(リボザイムコード配列、及び該コード配列の5’末端に連結されたプロモーター領域の配列)は、プロモーター機能が誘導されることにより、該リボザイムコード配列が転写される場合であって、前記2つのDNA配列間の連結の性質が、フレームシフト変異の導入も、該発現調節配列の該リボザイムの発現を指揮する能力の阻害も招かない場合に、作動可能に連結されたという。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野における公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的なDNAの切断及びライゲーションは、当該技術分野にて公知の酵素を用いて簡単に成し得る。
【0014】
本発明における適切な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終始コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節要素、並びに膜ターゲッティング又は分泌のためのシグナル配列を含む。プロモーターは、一般に、構成的であってもよく又は誘導性であってもよい。発現ベクターは、ベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする選択マーカーを含んでいてよく、複製可能な発現ベクターは、複製開始点を含んでいてよい。ベクターは、自己複製するものであってもよく、又は宿主DNAに組み込まれるものであってもよい。本発明における使用に適切なベクターの例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター及びウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターが好ましい。ウイルスベクターの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、トリ肉腫/白血症ウイルス(ASLV)、脾臓壊死ウイルス(SNV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)などのレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。アデノウイルスベクターが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態において、イメージングレポーター遺伝子を、マウス細胞骨格関連タンパク質2(mCKAP2)をターゲットとする改変リボザイム(Kim, A., et al., Oligonucleotides 17, 95-103, 2007)に結合させる。CKAP2は、微小管の安定化剤として働き、癌細胞などの高増殖細胞で高発現するため、癌の治療及び診断のための有用なターゲットとして考えられてきた。より具体的には、本発明の実施形態によるリボザイムは、テトラヒメナ好熱菌のトランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型(modified form)であって、1)ターゲットのmCKAP2のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列、を含む。該リボザイムの模式的な構造を図3に示した。しかしながら本発明は、テトラヒメナ好熱菌のグループIイントロンに限定されず、他のグループIイントロンであっても、上記の基準及び当該分野における情報に基づき、当業者により、本発明のリボザイムの作製に利用できる。本発明の組成物に含まれるリボザイムは、ターゲット遺伝子を置き換えることにより、すなわちトランス−スプライシング反応を通じて疾病関連遺伝子をイメージングレポーター遺伝子に置き換えることにより、分子イメージングを可能にする。従って本発明のリボザイムは、分子イメージングを用いることを通じて、遺伝子が関連する疾病の診断に、非常に有用である。
【0016】
用語「分子イメージング」とは、細胞内で起こる様々な分子現象、すなわち遺伝子の発現、生化学的プロセス及び生物学的変化を、イメージングを通じて評価する技術をいう。より具体的には、本発明で用いられる分子イメージングは遺伝子のイメージングを示すことを意味し、この遺伝子のイメージングは、特定の遺伝子の発現を画像化する。該イメージング技術においては、イメージングレポーター遺伝子を用いてイメージを評価するため、単一の個体において繰返し実験を実施することが可能であり、また実験動物に苛酷な損害を与えることもない。
【0017】
分子イメージングを通じてイメージの取得を可能にするイメージングレポーター遺伝子は、上記記載のものと共通の似た特徴があり、イメージは当業者に広く公知の方法を用いて得ることができる。例えばルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合、高感度冷却CCDカメラ(hypersensitive cooled charge-coupled device camera)を用いてイメージを得ることができる。同様に、ルシフェラーゼの発現は、赤外蛍光イメージング、拡散光トモグラフィー、光コヒーレンストモグラフィー、及びポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)のような核医学イメージングにおいて用いられる種々の分子イメージング技術を通じてモニターし得る。
【0018】
本明細書中で使用する場合において、用語「遺伝子が関連する疾病」としては、多発性嚢胞腎疾患、多発性内分泌腺腫症1型、神経線維腫症(neurofibromatose)、テイ・サックス病、ハンチントン病、鎌状赤血球貧血、サラセミア及びダウン症候群などの遺伝疾患(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 7th ed., McGraw-Hill Inc., New York);並びに、癌、高血圧、アルツハイマー病、神経変性疾患、及び双極性感情障害、若しくは妄想型統合失調症疾患などの精神神経疾患のような、遺伝子の欠陥により誘発される全ての疾病を含むことを意味するが、これらに限定されない。
【0019】
本発明のリボザイムのターゲットとなる「特定の遺伝子」とは、上記記載のような疾病の誘発、進行又は治療に直接又は間接に関与する遺伝子をいう。本発明の詳細な実施形態においてはCKAP2を用いられるが、本発明はこの遺伝子に限定されない。
【0020】
実際に、マウスCKAP2をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムの下流にβ−ガラクトシダーゼ遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子を結合させることにより作製されたアデノウイルスAd−mCR−lacZまたはAd−mCR−lucを、肝癌細胞株Hepa1−6にトランスフェクトすると、CKAP2特異的なトランス−スプライシング反応を通じて、ターゲット遺伝子がレポーター遺伝子に置き換えられた(図6から11)。同様に、アデノウイルスAd−mCR−lucを肝腫瘍を保有するマウスに投与すると、ルシフェラーゼの発現を通じて、マウスにおける癌の分子イメージングが得られた(図12及び13)。
【0021】
別の側面において、本発明は、1)イメージングレポーター遺伝子を、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムに連結させ、得られたリボザイムをクローニングすること;2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させること;及び3)リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを確認すること、を含む、分子イメージングのためのベクターの製造方法に関する。
【0022】
更なる側面において、本発明は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターの使用に基づく分子イメージングの方法に関する。
【0023】
一実施形態において、本発明は、1)本発明のベクターをin vivo投与し、イメージングレポーター遺伝子が活性化するようにターゲット遺伝子の発現部位にてリボザイムを機能させること;及び2)該イメージングレポーター遺伝子の活性化を、分子イメージングを通じてイメージングすること、を含む。
【0024】
本明細書中で使用する場合において、用語「投与」は、所定量の物質を、患者に、ある適切な方法を用いて導入することを意味する。本発明の組成物は、ヒトにおける使用又は獣医学的使用のための剤形に製剤化してよく、任意の一般的経路により投与してよい。ウイルスベクターは、非経口経路、例えば血管内、静脈内、動脈内、筋肉内又は皮下に投与してよい。同様に、該組成物は、経口、鼻腔、直腸、経皮又はエアロゾルを通じての吸入経路にて投与してよい。ウイルスベクターは、ボーラス投与してよく、又は徐々に注入してよい。
【0025】
イメージングレポーター遺伝子の活性化の分子イメージングは、種々の分子イメージングの方法を用いて行うことができ、これらの分子イメージング方法は、上記に例示的に記載されているが、本発明はこれらの例に限定されない。また本発明の分子イメージングの方法は、遺伝子が関連する種々の疾病の診断に使用し得、このような疾病は上記記載のものと同様のものである。
【実施例】
【0026】
発明の形態
以下の実施例を通じて、本発明についてのさらなる理解が得られるが、これらの実施例は、本発明を説明するために記載されたものであって、本発明を限定するものとして解釈されるものではない。
【0027】
実施例1:試験材料の作製
1−1.癌遺伝子特異的なトランス−スプライシングリボザイムを発現する組換えアデノウイルスの構築
癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムは、公知の技術を使用して構築した(Kim, A., et al., Oligonucleotides 17: 95-103, 2007)。β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子又はルシフェラーゼ(luc)遺伝子を、リボザイムの3’に連結させ、得られたリボザイムをクローニングした。該レポーター遺伝子と融合されたリボザイムを、CMVプロモーターを含むシャトルベクターpAvCMV3.0のBglIIとNotIサイトの間にサブクローニングした。該シャトルベクターを、HEK293細胞内に、アデノウイルスをバックボーンとするベクターpJM17と共に、カルシウム−リン酸塩沈降法を用いてコトランスフェクトした。続いて、トランスフェクトされた細胞は、軟寒天下で約2週間増殖させ、ウイルスプラークを形成させた。多数のクローンを分離した。組換えウイルスは、HEK293細胞内にて増幅させた後、公知の方法を用いて、すなわちCsCl勾配超遠心法を2回行うことにより、精製した(Kobayashi, K., et al . , J. Biol. Chem. 271:6852-6860, 1996)。mCKAP2を特異的にターゲットとするトランス−スプライシングリボザイム及びlacZ遺伝子を含む、精製組換えアデノウイルスを、「Ad−mCR−lacZ」と命名した。mCKAP2特異的なトランス−スプライシングリボザイム及びluc遺伝子を含む、別の精製組換えアデノウイルスを、「Ad−mCR−luc」と命名した。Ad−mCR−lucの模式図を図2に示した。ネガティブコントロールとしては、アデノウイルスをバックボーンとするベクター(Ad−Mock)並びにlacZ遺伝子を保有するアデノウイルスベクター(Ad−lacZ)及びluc遺伝子を保有するアデノウイルスベクター(Ad−luc)を使用した。分離された組換えアデノウイルスベクターの力価は、プラーク形成単位(pfu)として、TCID50法を用いて決定した。
【0028】
1−2.細胞培養
マウス肝癌細胞株Hepa1−6、マウス大腸癌細胞株CT−26、マウス線維芽細胞株NIH3T3、ヒト肝癌細胞株HepG2細胞、マウス肝癌細胞株BNL1ME A.7R.1、及びマウス黒色腫細胞株B16F10を使用した。これらの細胞株は、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社)及び100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco社)にて、37℃、5%のCO2下で、インキュベータ中で培養した。
【0029】
1−3.肝癌の動物モデルの作製
6週〜8週齢の雄C57BL6マウスをOrient社(ソウル、韓国)から購入した。該動物は、韓国食品医薬品安全庁の動物実験室で無菌条件下に維持され、使用する前に少なくとも1週間、実験条件に順適応させた。該動物は、午前6時に灯をオンにし、午後6時に灯をオフにする規則的な12時間の光/暗周期の下で飼育した。
肝癌の動物モデルはHepa1−6細胞をマウスの脾臓に注入し、確立したが、その方法は公知の方法を若干改変して利用した(Giavazzi, R., et al., J Natl Cancer Inst 77:1303-8, 1986)。詳細には、Hepa1−6細胞を培養皿でコンフルエントに培養し、マウスに注射する1日前に継代培養した。Hepa1−6細胞を0.025%トリプシン−EDTAを用いて回収し、PBSで3回洗浄した。細胞はトリパンブルーで染色し、生きている細胞の数を数えた。生きている細胞が95%より多い場合に、該培養細胞をマウスに注射した。Hepa1−6細胞は、50μl当たり2×106個細胞の密度で懸濁した。マウスの左脇を縦に小さく切開して脾臓を露出させ、50μl量中の2×106個の細胞を、29グレードの注射針を用いて脾臓に徐々に注入した。注射針を除去後、脾臓を腹腔に戻し、腹部の切開を絹縫合して閉じた。Hepa1−6細胞を注射の後、8〜10日内に多数の肝癌小結節が生成されることを全体的な観察によって容易に探し出すことができた。
【0030】
実施例2:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−lacZ)を用いた分子イメージングを通じた、癌細胞のIn vitro診断
2−1.マウスの組織又は細胞株におけるmCKAP2の発現の評価
マウスの組織又は細胞株においてmCKAP2タンパク質が発現されているか否かを判定するため、ウエスタンブロット解析を行った。マウスの組織又は各臓器から、Trizol試薬(Invitrogen社)を用いてトータルRNAを単離後、RNaseフリー水及びバッファ中にて、RQ1 RNAaseフリーDNaseI(1U/μgRNA;Promega社)で、37℃で30分間処理した。cDNAの合成に関しては、DNaseI処理したトータルRNA、4Uの逆転写酵素(Omniscript−RTase、Qiagen社)、dNTPミックス、10×RTバッファ、250ngのランダムプライマー(Invitrogen社)、及び40UのRNase阻害剤により反応混合液を作製した。逆転写反応を、25℃で10分、37℃で1時間の条件で行った後、95℃に加熱して酵素を非活性化させた。合成されたcDNAを鋳型として用い、下の表1にまとめられたmCKAP2特異的プライマー、及び下記の反応条件下の反応混合液を用いて、mCKAP2を増幅した。mCKAP2遺伝子の発現は、アガロースゲル電気永動を通じて検出した。
【0031】
【表1】
【0032】
PCR反応混合液
水(HPLC級) 14.40μL
10×バッファ(15mM MgCl2、25mM MgCl2) 2.00μL
dNTP ミックス(Dakara)(25mM/ごと) 1.60μL
Taq pol(5U/μL;Dakara) 0.20μL
フォワード/リバースプライマーミックス 0.80μL
cDNA 1.00μL
全量 20.00μL
【0033】
PCR条件は、95℃で5分間維持した後、95℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分を1サイクルとして30サイクル繰返し行い、しかる後に、4℃に冷却した。
その結果、マウス癌細胞株CT−26及びHepa1−6でmCKAPの発現を確認することができた(図4及び5)。
【0034】
2−2.RT−PCRを用いた、mCKAP2及びトランス−スプライシングモジュールのIn vitroにおける検出
トランス−スプライスされた分子(TSM)を検出するため、RT−PCRを行った。CKAP2保有のHepa1−6細胞、及びCKAP2を消失したHepG2細胞は、トランス−スプライシングリボザイムを保有するアデノウイルスAd−mCR−lacZ、Ad−lacZ及びAd−Mockで、30moiにて感染させた。トータルRNAを感染細胞から単離し、上記記載と同様の方法を用いてcDNAを合成した。TMSの生成を評価するため、合成されたcDNAを鋳型として用いて、表1にまとめられたTSM特異的プライマー及び上記の反応条件下(アニーリングは60℃で行い、変性及び伸長は上記と同じ温度にて行った)の反応混合液を用いて、TSMを増幅した。フォワード及びリバースプライマーは、mCKAP2又はトランス−スプライシング分子を増幅するように設計した。より具体的には、TSM特異的プライマーは、トランス−スプライシング接合のmCKAP2上流領域及び該トランス−スプライシング接合の下流領域とアニールするように設計した。
【0035】
結果を図6に示す。図6に示すように、細胞をAd−mCR−lacZでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じて、ターゲット遺伝子がレポーター遺伝子に置き換えられたことが分かった。
【0036】
リボザイムのトランス−スプライシング反応の特異性を評価するために、増幅された生成物を、PCR精製キットを用いて精製し、pBluescript(SK+/−)のBamHI/XhoIサイトの間にクローニングし、Macrogen社(韓国)に依頼して、DNA配列の解析を行った(図7)。
【0037】
2−3.β−ガラクトシダーゼアッセイ
リボザイムがmCKAP2をターゲットとしているか、及びリボザイムが発現しているかを判定するために、リボザイム遺伝子の3’末端にlacZ遺伝子が融合されている組換えアデノウイルスAd−mCR−lacZを、細胞に感染させた。β−ガラクトシダーゼの発現を、X−gal染色及びβ−ガラクトシダーゼアッセイを通じて、定量的に分析した。X−gal染色に関しては、Hepa1−6細胞及びHepG2細胞を2×105細胞/穴の密度で6穴培養プレートに播種し、37℃で培養した。翌日、Ad−mCR−lacZアデノウイルスを、0、10、30又は50moiで、細胞に感染させた。CMVプロモーターの調節下にlacZ遺伝子を保有するAd−lacZアデノウイルスを、ポジティブコントロールとして使用した。30moiのAd−lacZで細胞を感染させた。48時間後、β−ガラクトシダーゼ染色キット(Invitrogen Corporation、CA、アメリカ合衆国)を用いて、細胞を染色した。
【0038】
図8に示すように、Hepa1−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lacZアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がlacZ遺伝子に置き換えられ、lacZ遺伝子によってコードされているβ−ガラクトシダーゼの高い発現をもたらした。β−ガラクトシダーゼの発現は、アデノウイルス量が増加するにつれ増加した。
【0039】
これとは別に、β−ガラクトシダーゼの活性を評価するために、溶解バッファ(lysis buffer)(Promega社)を用いて、細胞を溶解した。タンパク質の濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL、アメリカ合衆国)を用いて決定した。β−ガラクトシダーゼ(β−gal)活性は、β−galアッセイキット(Invitrogen社)を用いて決定した。β−ガラクトシダーゼの特異的活性は、以下の式に従って計算した。
【0040】
特異的活性=加水分解されたONPGのnmol/分/mgタンパク質
【0041】
図9に示すように、β−ガラクトシダーゼ活性は、Ad−mCR−lacZウイルスの用量が増加するにつれて、増加することが分かった。
【0042】
実施例3:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−luc)を用いた分子イメージングを通じた、癌細胞のIn vitro診断
3−1.ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼの発現を評価するため、1×104個数のHepa1−6細胞を、黒色の96−ウェル培養プレートに播種し、培養した。翌日、mCKAP2をターゲットとし且つルシフェラーゼを発現する組換えアデノウイルスAd−mCR−luc、及びCMVプロモーターの調節下にルシフェラーゼ遺伝子を保有するAd−lucアデノウイルスを、0、1、5、10、15、30及び50moiで、細胞に感染させた。5時間後、溶解バッファ(Promega社)を用いて細胞を溶解した。ルシフェラーゼ活性は、Blight−Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)を用いて決定した。発光強度は、ルミノメーターを用いて、10秒ごとの相対発光量(RLU)で測定し、測定値をRLU/s/μgタンパク質で表した。
【0043】
図10に示すように、Hepal−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lucアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がluc遺伝子に置き換えられた。ルシフェラーゼ活性は、Ad−mCR−lucのウイルス用量が増加するにつれ増加した。
【0044】
3−2.ウエスタンブロット分析
細胞株またはマウス組織は、20mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、10mM Na4P2O7、10mM NaF、2mM Na3VO4、1%NP−40、PMSF及びプロテアーゼ阻害剤を含むタンパク質抽出溶液(Sigma社)を用いて溶解した。タンパク質は、公知の方法を用いてニトロセルロース膜に移した。より詳細には、精製されたタンパク質(25μg又は50μg)をSDS−PAGEによって分子の大きさの順に分離した後、ブロット機器を用いてNC膜(Millipore社)に移した。ブロットは、ブロッキングバッファ(0.05% Tween20を含むTBS中の5%スキムミルク)にて30分間ブロックした。続いてブロットを1次抗体のウサギポリクローナル抗mCKAP2抗体又は抗β−アクチン抗体(Sigma社)中で室温で1時間、あるいは摂氏4℃で一晩インキュベートした。ブロットは、Tweenトリス−バッファ生理食塩水(T−TBS)で2回洗い、結合していない1次抗体を取り除いた。結合した1次抗体は、西洋わさびペルオキシダーゼが接合した抗−ウサギ抗体(Amersham社)で検出した。
【0045】
図11に示すように、Hepa1−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lucアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がluc遺伝子に置き換えられ、mCKAP2の発現が減少した。
【0046】
実施例4:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−luc)を用いた分子イメージングを通じた、癌のIn vivo診断
Xenogen IVIS2000冷CCDカメラ(Xenogen社、Hopkinton、MA)を用いて、in vivo分子イメージングを行った。Ad−mCR−luc組換えアデノウイルス、ポジティブコントロールとしてのAd−lucアデノウイルス、及びネガティブコントロールとしてのAd−mockウイルスを、50μLのダルベッコPBS(Life Technologies社)中、1011個のウイルス粒子(vp)のウイルス量になるように調製した後、尾静脈注射によって、マウスに全身投与した。翌日、ルシフェラーゼの基質のD−ルシフェリンを、200μLのPBS中、マウスの体重1kg当たり150mgの用量で、マウスの腹腔内に投与した。in vivo分子イメージングのため、イソフルラン混合酸素(isofluran-mixed oxygen)によりマウスを麻酔した。10分後にリファレンスイメージを撮り、そしてin vivoイメージを1分〜5分間撮影した。Living Image software(Xenogene社)を用いて全身のイメージングを行い、その結果を秒当たり、cm2当たり、ステラジアン(steridian)当たりのフォトン(p/s/cm2/sr)にて表した。
【0047】
図13に示すように、ルシフェラーゼの発現は、肝癌を保有するAd−mCR−lucをトランスフェクトされたマウスから切除された、肝臓のイメージングを可能にすることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本明細書にて前述したとおり、本発明のトランス−スプライシングリボザイムを用いた分子イメージングの方法は、疾病関連遺伝子の発現の、遺伝子発現の場所におけるイメージングを提供することにより、疾病の初期段階での正確な診断を可能にする。また該分子イメージングの方法は、例えば治療効果の評価及び薬物への反応といった、遺伝子が関連する疾病の予後診断及び治療にも有用である。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、リボザイムを含む分子イメージングのための組成物及び該組成物を用いた分子イメージング方法に関する。より詳しくは、本発明は、イメージングレポーター遺伝子と結合し且つ疾病に関連する特定の遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを含む分子イメージングのための組成物、及び該組成物を用いた分子イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
リボザイム(ribozyme)は、酵素活性を有するRNA分子である。リボザイムは、RNAスプライシング(RNA splicing)、RNAプロセッシング(RNA processing)、RNAゲノムの複製及びリボーソームにおけるペプチド結合の形成といった、遺伝子の発現及び調節に、能動的に関わってきた。特に、テトラヒメナ好熱菌(Tetrahymena thermophila)から分離したグループIイントロンリボザイムの場合、イントロンに隣接する2つのエクソンを、一般的なシス−スプライシング反応を介して連結させることができ、またトランス−スプライシング反応を行うことによって、別々のRNA上に含まれる2つのエクソンを連結させることもできる。トランス−スプライシングは、2工程のトランスエステル化(transesterification)機構を通じた切断−ライゲーション反応(cleavage-ligation reaction)を介して進行する。リボザイムは、タ−ゲットRNAとリボザイムの内部ガイド配列(IGS)との間で塩基対を形成することにより、別個に存在する基質RNA(5’エクソン)を認識し結合する。一旦結合すれば、リボザイムはタ−ゲットRNAを切断して下流の切断生成物を放出し、エクソン配列を、その3末端で、基質RNAの5’エクソン切断生成物に、自己切断過程で切断された5’エクソンRNAの代りに、接合(splice)する。このようなスプライシングは、in vitroだけでなく、E.coli及び哺乳動物細胞でも起こる。トランス-スプライシング反応は、特定のターゲットRNAのターゲッティング及び切断、並びに所望のRNA配列との置換に、適用することができる。したがってトランス-スプライシングリボザイムは、新規の治療遺伝子としての可能性を有しており、このような新規治療遺伝子は、遺伝疾患に関連する欠陥のあるRNA転写物を正常RNAにより修繕したり、或いは特定のRNAをターゲッティングして、ターゲットRNAを発現する細胞内のみで所望のRNAが発現されるようにすることができる。
【0003】
例えばグループIイントロンを基にしたトランス−スプライシングリボザイムは、赤血球前駆細胞において、赤血球の鎌状βS−グロビンの転写物を、抗鎌状タンパク質(anti-sickling protein)のγ−グロビンをコードするmRNAへと変換することが示されている(Lan, N., et al., Science 280:1593-1596, 1998)。またトランス−スプライシングリボザイムが、筋強直性ジストロフィータンパク質キナーゼの変異体の転写物、及び先天性ミオトニアの原因となるイヌ骨格筋の塩素チャネルの変異体の転写物の修正にも使用できることが報告された(Phylactou, L. A., et al., Nat. Genet. 18: 378-381, 1998; Rogers, C. S., et al., J. Clin. Invest. 110: 1783-1798, 2002)。トランス−スプライシングリボザイムは、野生型のp53転写物で変異体のp53転写物を修繕することにより、癌細胞の細胞死を誘導すること(Shin, K. S., et al., MoI. Ther. 10: 365-372, 2004)、C型肝炎ウイルス(HCV)のRNAゲノムの特定領域を認識し、該部位を抗ウイルス活性を表すRNAで置き換えることにより、HCVの複製を抑制し得ることが報告されている(Ryu, K. J. , et al. , MoI. Ther. 7: 386-395, 2003)。最近では、多くの研究が、トランス−スプライシングリボザイムの遺伝疾患のための治療遺伝子としての可能性に関するものである。例えば、hTERTをターゲットとするグループIイントロンを基にしたトランス−スプライシングリボザイムを発現させると、ヒトテロメアーゼ逆転写酵素(hTERT)を発現する癌細胞において、選択的な細胞毒性が誘導され、ヒト癌細胞が移植された動物モデルにおいても効果的な抗癌効果を有することが示された(Kwon, B. S., et al., MoI. Ther. 12: 824-834, 2005)。しかしながら、特定のリガンドのスクリーニングのための、及び疾病の診断における使用のための、バイオセンサー分子及びイメージング剤(imaging agent)としてのリボザイムの適用について、記載している報告はない。本発明は、リボザイムの上記の使用を確立する最初のものである。
【0004】
遺伝子治療の成功には、疾病の正確な診断が不可欠である。特に早期の診断が、疾病の治療の成功に、きわめて重大な意味を持つ。イメージング技術、並びに化学的・生物学的マーカーは、これまで疾病、とりわけ癌の早期診断に使用されてきた。しかし診断のためのイメージングは、初期の段階においては使用できないという欠点がある。化学的・生物学的マーカーは、診断の精度が劣り、従って、これらのマーカーを用いた早期診断のための標準的な方法は、確立されていない。より具体的には、癌のように遺伝子が関連する疾病は、関連する遺伝子のin vivoでの発現をモニター可能な方法がないため、関連する遺伝子が発現を始めてから相当の時間が経過して初めて、体の疾病への反応が起こったときに、疾病を検出し得る。従って癌のような疾病は、その初期段階で治療可能なことはまれである。また、疾病の進行、又は手術若しくは治療の後の処置に対する反応は、遺伝子の発現が起こり、体内で可視的な反応が起こる場合のみモニターし得るような初期の段階において、モニターすることが不可能であるため、個人ごとに最適の治療を行うことは、非常に難しい。X線、CT、MRI、SPECT、PET及び超音波検査などの種々のイメージングの方法が、癌又は遺伝疾病の診断に使用されてきた。侵襲的な生検を用いて単離された組織の病理学的評価によって、実際に癌であるか否かを判定するために、ターゲット部位のイメージは評価される。しかしながら、組織生検が取得不可能な場合は、映像の解釈が困難である。また治療に関しても、腫瘍の切除は、外科手術によって切除し得るサイズにまで腫瘍が増大したときに行わねばならず、そのため診断が遅延し、初期段階での適切な治療を不可能にしている。
【0005】
分子イメージングは、細胞内で起こる様々な分子現象、すなわち遺伝子の発現、生化学的プロセス及び生物学的変化を、イメージングを通じて可視化する新しいアプローチである。分子イメージングにより、医師は、ターゲットの組織のイメージに基づき、癌又は他の疾病の発症を判定することが可能であり、従って、適切な早期治療、及び組織生検をしない非外科手術的な治療を、非侵襲的にモニタリングすることができる。本発明の分子イメージングのための組成物及び分子イメージング方法は、既存の分子イメージング技術の欠点を克服する利点を有し、将来の遺伝子治療及びイメージング技術において必要とされる、位置シグナルの正確さと一時的な高い解像度を保有する。また本発明の組成物及び方法は、分子イメージングにて使用される材料が、将来技術として研究されてきた量子ドットナノ粒子を利用した分子イメージングにおいても根絶できなかった有害な副作用を有さないことから、有益に、臨床に適用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示
技術的な問題
そこで本願の発明者らは、トランス−スプライシングリボザイムを分子イメージングへ応用することについて、徹底的且つ集中的な研究を行った。研究の結果、特定の疾病関連遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを用いて分子イメージングを行えば、得られたイメージから、疾病の原因となる遺伝子のin vivoでの発現を、非侵襲的且つ正確に検出できることが見出され、本発明の分子イメージング方法が、従来法よりも早期における疾病の診断において卓越していることが示されたことから、本発明が導かれた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを含む、分子イメージングのための組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを用いることに基づいた、分子イメージングの方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、リボザイムのトランス−スプライシング機構の概要図である。
【図2】図2は、癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとし、且つルシフェラーゼ遺伝子を保有するアデノウイルスベクターAd−mCR−lucの概要図である。
【図3】図3は、癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとし、且つルシフェラーゼ遺伝子を保有する改変リボザイムの模式図である。
【図4】図4は、C57BL/6マウスの様々な組織(脳、肝臓、肺、腎臓、膵臓、心臓及び小腸)並びにマウス癌細胞株CT−26及びHepa1−6における、CKAP2タンパク質の発現パターンの、ウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図5】図5は、マウス肝臓組織及び様々なマウス癌細胞株におけるCKAP2 mRNAの発現パターンを示す図である。
【図6】図6は、細胞にAd−mCR−lacZをトランスフェクトした後の、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じた、ターゲット遺伝子のレポーター遺伝子による置換を示す図である。mCKAP2遺伝子を保有するHepa1−6細胞、及びmCKAP2遺伝子を損失しているHepG2細胞について、RT−PCRを用いて、トランス−スプライスされた分子(TSM)を検出した。ネガティブコントロール(Mock)としては、等量のPBSを使用した。上段のブロット(LacZ RNA)は、細胞にトランスフェクトされたリボザイムの初期転写物を示す。中央のブロット(TSM)は、トランス−スプライスされた分子によって生成された転写物を示す。下段のブロット(mGAPDH)は、遺伝子発現レベルの内部コントロールを示す。
【図7】図7は、Hepa1−6細胞における、トランス−スプライスされた転写物のDNA配列解析を示す図である(矢印は正確なスプライス接合部位を示す)。
【図8】図8は、X−gal染色の結果を示す図である。Ad−mCR−lacZによって、レポーター遺伝子(lacZ)が、mCKAP2遺伝子に特異的な様式で発現している。Hepa1−6細胞及びHepG−2細胞は、10、30又は50moi(感染の多重度(multiplicity of infection))にてAd−mCR−lacZをトランスフェクトし、X−gal染色を行った。
【図9】図9は、Ad−mCR−lacZでトランスフェクトされたHepa1−6細胞及びHepG2細胞における、β−ガラクトシダーゼの特異的活性を示す図である。測定は3回行い、測定値の平均を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した(特異的活性=加水分解されたONPGのnmol/分/mgタンパク質)。
【図10】図10は、ウイルス量に従って、Ad−mCR−lucでトランスフェクトされたHepa1−6細胞におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。測定値を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した。
【図11】図11は、Ad−mCR−lacZのトランス−スプライシング反応によってターゲット遺伝子mCKAP2の発現が低下することを示す図である。内因性のmCKAP2の発現パターンは、Hepal−6細胞を、Ad−Mock、Ad−lacZ及びAd−mCR−lacZで、30moiにてトランスフェクトさせてから、24時間後に、ウエスタンブロットを通じて評価した。上段、及び下段のブロットは、抗mCKAP2抗体として抗β−アクチン抗体をそれぞれプローブとした。
【図12】図12は、トランス−スプライシングリボザイムによる、生きたマウスでのmCKAP2発現のイメージング結果を示す図である。腫瘍を保有しないマウスにおいて、体系的に搬送されたAd−mCR−lucによって生成された生物発光のシグナルを、CCDカメラを用いてイメージングした(シグナル強度はフォトン/秒/cm2/ステラジアン(steridian)で表した)。
【図13】図13は、Ad−mCR−lucを用いた、多重肝細胞腫瘍のin vivoイメージングの結果を示す。多重肝細胞癌を保有するマウスにAd−mCR−lucを尾静脈から注入し、イメージを得た。該マウスから切除された肝臓組織における腫瘍結節のダイレクトイメージを下段のパネルに示し、Ad−Mockを注入したマウスのイメージを、ネガティブコントロールとして右下のパネルに示す。
【図14】図14は、Ad−mCR−lucを注入したマウス腫瘍結節のルシフェラーゼ活性を示す図である。ルシフェラーゼの発現を測定し、RLU/s/μgタンパク質にて、ログスケールにてそれを表した。測定は3回行い、測定値の平均を、標準誤差(SE)を表示するバーと共に、グラフとして示した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最良の形態
一側面において、本発明は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターを含む、分子イメージングのための組成物に関する。
【0010】
本明細書中で使用する場合、用語「リボザイム」とは、酵素活性を天然に保有するRNA分子を意味し、好ましくはトランス−スプライシング活性を有するリボザイムを意味し、更に好ましくは特定の疾病関連遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムを意味する。
【0011】
本明細書中で使用する場合、用語「トランス−スプライシングリボザイム」とは、トランス−スプライシング活性を有するリボザイムを意味し、このトランス−スプライシング活性により、リボザイムは、ターゲットRNAとリボザイムの内部ガイド配列(IGS)との間で塩基対を形成して、離れたターゲットRNA(5’エクソン)を認識し、ターゲットRNAを切断し、リボザイムの3’エクソンを、ターゲットRNAの5’エクソン切断生成物にライゲートさせる(図1)。また用語「特定の遺伝子をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイム」とは、細胞内に導入されたときに、疾病に関連する特定の遺伝子を認識して選択的なトランス−スプライシング反応を起こすように遺伝的に操作されたリボザイムを意味する。トランス−スプライシングリボザイムは、当業者に広く知られている方法により作製することができる。例えば、リボザイムの5’末端に、ターゲット(基質)RNAの保存領域に相補的な特定の配列を結合させることにより、特定のRNAをターゲットとする基質特異性を有するようなリボザイムを作製してもよい。
【0012】
また本発明での使用に適した、特定の遺伝子をターゲットとする改変されたトランス−スプライシングリボザイムは、in vivoで生物発光反応を起こすことでイメージングを可能にするタンパク質をコードするイメージングレポーター遺伝子(imaging reporter gene)を、リボザイムの3’エクソンに結合させることにより、作製してもよい。本発明のトランス−スプライシングリボザイムがターゲットRNAを切断すると、切断部位から下流のRNA塩基が放出される。そしてリボザイムの3’領域が、ターゲットRNAの切断生成物の3’末端にライゲートされて、イメージングレポーター遺伝子がリボザイムに融合される。イメージングレポーター遺伝子と融合されたリボザイムは、分子イメージングを通じて、特定の遺伝子の発現のイメージング及びモニターを可能にする。該イメージングレポーター遺伝子は、分子イメージングを通じて得られたイメージをモニターすることが可能である限り、特に限定されない。イメージングレポーター遺伝子の非限定的な例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、改変された緑色蛍光タンパク質(modified green fluorescent protein)、高感度緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein:EGFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、高感度赤色蛍光タンパク質(ERFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、高感度青色蛍光タンパク質(enhanced blue fluorescent protein:EBFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(enhanced yellow fluorescent protein:EYFP)、青緑色蛍光タンパク質(CFP)、及び高感度青緑色蛍光タンパク質(enhanced cyan fluorescent protein:ECFP)などの蛍光タンパク質;西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)及びルシフェラーゼなどの比色酵素(colorimetric enzyme)が挙げられる。ルシフェラーゼが好ましい。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「組換えベクター」とは、適切な宿主細胞中で目的タンパク質を発現することが可能なベクターであって、必須の調節要素を含む遺伝子構築物をいい、この調節要素には、遺伝子挿入物が、宿主細胞において発現されるような様式で、作動可能に連結されている。用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、本明細書中で使用する場合において、核酸発現調節配列とターゲットタンパク質をコードする核酸配列との間が、一般的な機能を許容するように機能的に連結されていることをいう。例えば、リボザイムをコードする配列をプロモーターに作動可能に連結させると、リボザイムをコードする配列の発現は、このプロモーターの影響若しくは調節の下に置かれることになる。2つの核酸配列(リボザイムコード配列、及び該コード配列の5’末端に連結されたプロモーター領域の配列)は、プロモーター機能が誘導されることにより、該リボザイムコード配列が転写される場合であって、前記2つのDNA配列間の連結の性質が、フレームシフト変異の導入も、該発現調節配列の該リボザイムの発現を指揮する能力の阻害も招かない場合に、作動可能に連結されたという。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野における公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的なDNAの切断及びライゲーションは、当該技術分野にて公知の酵素を用いて簡単に成し得る。
【0014】
本発明における適切な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終始コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節要素、並びに膜ターゲッティング又は分泌のためのシグナル配列を含む。プロモーターは、一般に、構成的であってもよく又は誘導性であってもよい。発現ベクターは、ベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする選択マーカーを含んでいてよく、複製可能な発現ベクターは、複製開始点を含んでいてよい。ベクターは、自己複製するものであってもよく、又は宿主DNAに組み込まれるものであってもよい。本発明における使用に適切なベクターの例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター及びウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターが好ましい。ウイルスベクターの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、トリ肉腫/白血症ウイルス(ASLV)、脾臓壊死ウイルス(SNV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)などのレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。アデノウイルスベクターが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態において、イメージングレポーター遺伝子を、マウス細胞骨格関連タンパク質2(mCKAP2)をターゲットとする改変リボザイム(Kim, A., et al., Oligonucleotides 17, 95-103, 2007)に結合させる。CKAP2は、微小管の安定化剤として働き、癌細胞などの高増殖細胞で高発現するため、癌の治療及び診断のための有用なターゲットとして考えられてきた。より具体的には、本発明の実施形態によるリボザイムは、テトラヒメナ好熱菌のトランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型(modified form)であって、1)ターゲットのmCKAP2のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列、を含む。該リボザイムの模式的な構造を図3に示した。しかしながら本発明は、テトラヒメナ好熱菌のグループIイントロンに限定されず、他のグループIイントロンであっても、上記の基準及び当該分野における情報に基づき、当業者により、本発明のリボザイムの作製に利用できる。本発明の組成物に含まれるリボザイムは、ターゲット遺伝子を置き換えることにより、すなわちトランス−スプライシング反応を通じて疾病関連遺伝子をイメージングレポーター遺伝子に置き換えることにより、分子イメージングを可能にする。従って本発明のリボザイムは、分子イメージングを用いることを通じて、遺伝子が関連する疾病の診断に、非常に有用である。
【0016】
用語「分子イメージング」とは、細胞内で起こる様々な分子現象、すなわち遺伝子の発現、生化学的プロセス及び生物学的変化を、イメージングを通じて評価する技術をいう。より具体的には、本発明で用いられる分子イメージングは遺伝子のイメージングを示すことを意味し、この遺伝子のイメージングは、特定の遺伝子の発現を画像化する。該イメージング技術においては、イメージングレポーター遺伝子を用いてイメージを評価するため、単一の個体において繰返し実験を実施することが可能であり、また実験動物に苛酷な損害を与えることもない。
【0017】
分子イメージングを通じてイメージの取得を可能にするイメージングレポーター遺伝子は、上記記載のものと共通の似た特徴があり、イメージは当業者に広く公知の方法を用いて得ることができる。例えばルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合、高感度冷却CCDカメラ(hypersensitive cooled charge-coupled device camera)を用いてイメージを得ることができる。同様に、ルシフェラーゼの発現は、赤外蛍光イメージング、拡散光トモグラフィー、光コヒーレンストモグラフィー、及びポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)のような核医学イメージングにおいて用いられる種々の分子イメージング技術を通じてモニターし得る。
【0018】
本明細書中で使用する場合において、用語「遺伝子が関連する疾病」としては、多発性嚢胞腎疾患、多発性内分泌腺腫症1型、神経線維腫症(neurofibromatose)、テイ・サックス病、ハンチントン病、鎌状赤血球貧血、サラセミア及びダウン症候群などの遺伝疾患(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 7th ed., McGraw-Hill Inc., New York);並びに、癌、高血圧、アルツハイマー病、神経変性疾患、及び双極性感情障害、若しくは妄想型統合失調症疾患などの精神神経疾患のような、遺伝子の欠陥により誘発される全ての疾病を含むことを意味するが、これらに限定されない。
【0019】
本発明のリボザイムのターゲットとなる「特定の遺伝子」とは、上記記載のような疾病の誘発、進行又は治療に直接又は間接に関与する遺伝子をいう。本発明の詳細な実施形態においてはCKAP2を用いられるが、本発明はこの遺伝子に限定されない。
【0020】
実際に、マウスCKAP2をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムの下流にβ−ガラクトシダーゼ遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子を結合させることにより作製されたアデノウイルスAd−mCR−lacZまたはAd−mCR−lucを、肝癌細胞株Hepa1−6にトランスフェクトすると、CKAP2特異的なトランス−スプライシング反応を通じて、ターゲット遺伝子がレポーター遺伝子に置き換えられた(図6から11)。同様に、アデノウイルスAd−mCR−lucを肝腫瘍を保有するマウスに投与すると、ルシフェラーゼの発現を通じて、マウスにおける癌の分子イメージングが得られた(図12及び13)。
【0021】
別の側面において、本発明は、1)イメージングレポーター遺伝子を、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムに連結させ、得られたリボザイムをクローニングすること;2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させること;及び3)リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを確認すること、を含む、分子イメージングのためのベクターの製造方法に関する。
【0022】
更なる側面において、本発明は、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムベクターの使用に基づく分子イメージングの方法に関する。
【0023】
一実施形態において、本発明は、1)本発明のベクターをin vivo投与し、イメージングレポーター遺伝子が活性化するようにターゲット遺伝子の発現部位にてリボザイムを機能させること;及び2)該イメージングレポーター遺伝子の活性化を、分子イメージングを通じてイメージングすること、を含む。
【0024】
本明細書中で使用する場合において、用語「投与」は、所定量の物質を、患者に、ある適切な方法を用いて導入することを意味する。本発明の組成物は、ヒトにおける使用又は獣医学的使用のための剤形に製剤化してよく、任意の一般的経路により投与してよい。ウイルスベクターは、非経口経路、例えば血管内、静脈内、動脈内、筋肉内又は皮下に投与してよい。同様に、該組成物は、経口、鼻腔、直腸、経皮又はエアロゾルを通じての吸入経路にて投与してよい。ウイルスベクターは、ボーラス投与してよく、又は徐々に注入してよい。
【0025】
イメージングレポーター遺伝子の活性化の分子イメージングは、種々の分子イメージングの方法を用いて行うことができ、これらの分子イメージング方法は、上記に例示的に記載されているが、本発明はこれらの例に限定されない。また本発明の分子イメージングの方法は、遺伝子が関連する種々の疾病の診断に使用し得、このような疾病は上記記載のものと同様のものである。
【実施例】
【0026】
発明の形態
以下の実施例を通じて、本発明についてのさらなる理解が得られるが、これらの実施例は、本発明を説明するために記載されたものであって、本発明を限定するものとして解釈されるものではない。
【0027】
実施例1:試験材料の作製
1−1.癌遺伝子特異的なトランス−スプライシングリボザイムを発現する組換えアデノウイルスの構築
癌特異遺伝子mCKAP2をターゲットとするトランス−スプライシングリボザイムは、公知の技術を使用して構築した(Kim, A., et al., Oligonucleotides 17: 95-103, 2007)。β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子又はルシフェラーゼ(luc)遺伝子を、リボザイムの3’に連結させ、得られたリボザイムをクローニングした。該レポーター遺伝子と融合されたリボザイムを、CMVプロモーターを含むシャトルベクターpAvCMV3.0のBglIIとNotIサイトの間にサブクローニングした。該シャトルベクターを、HEK293細胞内に、アデノウイルスをバックボーンとするベクターpJM17と共に、カルシウム−リン酸塩沈降法を用いてコトランスフェクトした。続いて、トランスフェクトされた細胞は、軟寒天下で約2週間増殖させ、ウイルスプラークを形成させた。多数のクローンを分離した。組換えウイルスは、HEK293細胞内にて増幅させた後、公知の方法を用いて、すなわちCsCl勾配超遠心法を2回行うことにより、精製した(Kobayashi, K., et al . , J. Biol. Chem. 271:6852-6860, 1996)。mCKAP2を特異的にターゲットとするトランス−スプライシングリボザイム及びlacZ遺伝子を含む、精製組換えアデノウイルスを、「Ad−mCR−lacZ」と命名した。mCKAP2特異的なトランス−スプライシングリボザイム及びluc遺伝子を含む、別の精製組換えアデノウイルスを、「Ad−mCR−luc」と命名した。Ad−mCR−lucの模式図を図2に示した。ネガティブコントロールとしては、アデノウイルスをバックボーンとするベクター(Ad−Mock)並びにlacZ遺伝子を保有するアデノウイルスベクター(Ad−lacZ)及びluc遺伝子を保有するアデノウイルスベクター(Ad−luc)を使用した。分離された組換えアデノウイルスベクターの力価は、プラーク形成単位(pfu)として、TCID50法を用いて決定した。
【0028】
1−2.細胞培養
マウス肝癌細胞株Hepa1−6、マウス大腸癌細胞株CT−26、マウス線維芽細胞株NIH3T3、ヒト肝癌細胞株HepG2細胞、マウス肝癌細胞株BNL1ME A.7R.1、及びマウス黒色腫細胞株B16F10を使用した。これらの細胞株は、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社)及び100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco社)にて、37℃、5%のCO2下で、インキュベータ中で培養した。
【0029】
1−3.肝癌の動物モデルの作製
6週〜8週齢の雄C57BL6マウスをOrient社(ソウル、韓国)から購入した。該動物は、韓国食品医薬品安全庁の動物実験室で無菌条件下に維持され、使用する前に少なくとも1週間、実験条件に順適応させた。該動物は、午前6時に灯をオンにし、午後6時に灯をオフにする規則的な12時間の光/暗周期の下で飼育した。
肝癌の動物モデルはHepa1−6細胞をマウスの脾臓に注入し、確立したが、その方法は公知の方法を若干改変して利用した(Giavazzi, R., et al., J Natl Cancer Inst 77:1303-8, 1986)。詳細には、Hepa1−6細胞を培養皿でコンフルエントに培養し、マウスに注射する1日前に継代培養した。Hepa1−6細胞を0.025%トリプシン−EDTAを用いて回収し、PBSで3回洗浄した。細胞はトリパンブルーで染色し、生きている細胞の数を数えた。生きている細胞が95%より多い場合に、該培養細胞をマウスに注射した。Hepa1−6細胞は、50μl当たり2×106個細胞の密度で懸濁した。マウスの左脇を縦に小さく切開して脾臓を露出させ、50μl量中の2×106個の細胞を、29グレードの注射針を用いて脾臓に徐々に注入した。注射針を除去後、脾臓を腹腔に戻し、腹部の切開を絹縫合して閉じた。Hepa1−6細胞を注射の後、8〜10日内に多数の肝癌小結節が生成されることを全体的な観察によって容易に探し出すことができた。
【0030】
実施例2:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−lacZ)を用いた分子イメージングを通じた、癌細胞のIn vitro診断
2−1.マウスの組織又は細胞株におけるmCKAP2の発現の評価
マウスの組織又は細胞株においてmCKAP2タンパク質が発現されているか否かを判定するため、ウエスタンブロット解析を行った。マウスの組織又は各臓器から、Trizol試薬(Invitrogen社)を用いてトータルRNAを単離後、RNaseフリー水及びバッファ中にて、RQ1 RNAaseフリーDNaseI(1U/μgRNA;Promega社)で、37℃で30分間処理した。cDNAの合成に関しては、DNaseI処理したトータルRNA、4Uの逆転写酵素(Omniscript−RTase、Qiagen社)、dNTPミックス、10×RTバッファ、250ngのランダムプライマー(Invitrogen社)、及び40UのRNase阻害剤により反応混合液を作製した。逆転写反応を、25℃で10分、37℃で1時間の条件で行った後、95℃に加熱して酵素を非活性化させた。合成されたcDNAを鋳型として用い、下の表1にまとめられたmCKAP2特異的プライマー、及び下記の反応条件下の反応混合液を用いて、mCKAP2を増幅した。mCKAP2遺伝子の発現は、アガロースゲル電気永動を通じて検出した。
【0031】
【表1】
【0032】
PCR反応混合液
水(HPLC級) 14.40μL
10×バッファ(15mM MgCl2、25mM MgCl2) 2.00μL
dNTP ミックス(Dakara)(25mM/ごと) 1.60μL
Taq pol(5U/μL;Dakara) 0.20μL
フォワード/リバースプライマーミックス 0.80μL
cDNA 1.00μL
全量 20.00μL
【0033】
PCR条件は、95℃で5分間維持した後、95℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分を1サイクルとして30サイクル繰返し行い、しかる後に、4℃に冷却した。
その結果、マウス癌細胞株CT−26及びHepa1−6でmCKAPの発現を確認することができた(図4及び5)。
【0034】
2−2.RT−PCRを用いた、mCKAP2及びトランス−スプライシングモジュールのIn vitroにおける検出
トランス−スプライスされた分子(TSM)を検出するため、RT−PCRを行った。CKAP2保有のHepa1−6細胞、及びCKAP2を消失したHepG2細胞は、トランス−スプライシングリボザイムを保有するアデノウイルスAd−mCR−lacZ、Ad−lacZ及びAd−Mockで、30moiにて感染させた。トータルRNAを感染細胞から単離し、上記記載と同様の方法を用いてcDNAを合成した。TMSの生成を評価するため、合成されたcDNAを鋳型として用いて、表1にまとめられたTSM特異的プライマー及び上記の反応条件下(アニーリングは60℃で行い、変性及び伸長は上記と同じ温度にて行った)の反応混合液を用いて、TSMを増幅した。フォワード及びリバースプライマーは、mCKAP2又はトランス−スプライシング分子を増幅するように設計した。より具体的には、TSM特異的プライマーは、トランス−スプライシング接合のmCKAP2上流領域及び該トランス−スプライシング接合の下流領域とアニールするように設計した。
【0035】
結果を図6に示す。図6に示すように、細胞をAd−mCR−lacZでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じて、ターゲット遺伝子がレポーター遺伝子に置き換えられたことが分かった。
【0036】
リボザイムのトランス−スプライシング反応の特異性を評価するために、増幅された生成物を、PCR精製キットを用いて精製し、pBluescript(SK+/−)のBamHI/XhoIサイトの間にクローニングし、Macrogen社(韓国)に依頼して、DNA配列の解析を行った(図7)。
【0037】
2−3.β−ガラクトシダーゼアッセイ
リボザイムがmCKAP2をターゲットとしているか、及びリボザイムが発現しているかを判定するために、リボザイム遺伝子の3’末端にlacZ遺伝子が融合されている組換えアデノウイルスAd−mCR−lacZを、細胞に感染させた。β−ガラクトシダーゼの発現を、X−gal染色及びβ−ガラクトシダーゼアッセイを通じて、定量的に分析した。X−gal染色に関しては、Hepa1−6細胞及びHepG2細胞を2×105細胞/穴の密度で6穴培養プレートに播種し、37℃で培養した。翌日、Ad−mCR−lacZアデノウイルスを、0、10、30又は50moiで、細胞に感染させた。CMVプロモーターの調節下にlacZ遺伝子を保有するAd−lacZアデノウイルスを、ポジティブコントロールとして使用した。30moiのAd−lacZで細胞を感染させた。48時間後、β−ガラクトシダーゼ染色キット(Invitrogen Corporation、CA、アメリカ合衆国)を用いて、細胞を染色した。
【0038】
図8に示すように、Hepa1−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lacZアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がlacZ遺伝子に置き換えられ、lacZ遺伝子によってコードされているβ−ガラクトシダーゼの高い発現をもたらした。β−ガラクトシダーゼの発現は、アデノウイルス量が増加するにつれ増加した。
【0039】
これとは別に、β−ガラクトシダーゼの活性を評価するために、溶解バッファ(lysis buffer)(Promega社)を用いて、細胞を溶解した。タンパク質の濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL、アメリカ合衆国)を用いて決定した。β−ガラクトシダーゼ(β−gal)活性は、β−galアッセイキット(Invitrogen社)を用いて決定した。β−ガラクトシダーゼの特異的活性は、以下の式に従って計算した。
【0040】
特異的活性=加水分解されたONPGのnmol/分/mgタンパク質
【0041】
図9に示すように、β−ガラクトシダーゼ活性は、Ad−mCR−lacZウイルスの用量が増加するにつれて、増加することが分かった。
【0042】
実施例3:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−luc)を用いた分子イメージングを通じた、癌細胞のIn vitro診断
3−1.ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼの発現を評価するため、1×104個数のHepa1−6細胞を、黒色の96−ウェル培養プレートに播種し、培養した。翌日、mCKAP2をターゲットとし且つルシフェラーゼを発現する組換えアデノウイルスAd−mCR−luc、及びCMVプロモーターの調節下にルシフェラーゼ遺伝子を保有するAd−lucアデノウイルスを、0、1、5、10、15、30及び50moiで、細胞に感染させた。5時間後、溶解バッファ(Promega社)を用いて細胞を溶解した。ルシフェラーゼ活性は、Blight−Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)を用いて決定した。発光強度は、ルミノメーターを用いて、10秒ごとの相対発光量(RLU)で測定し、測定値をRLU/s/μgタンパク質で表した。
【0043】
図10に示すように、Hepal−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lucアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がluc遺伝子に置き換えられた。ルシフェラーゼ活性は、Ad−mCR−lucのウイルス用量が増加するにつれ増加した。
【0044】
3−2.ウエスタンブロット分析
細胞株またはマウス組織は、20mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、10mM Na4P2O7、10mM NaF、2mM Na3VO4、1%NP−40、PMSF及びプロテアーゼ阻害剤を含むタンパク質抽出溶液(Sigma社)を用いて溶解した。タンパク質は、公知の方法を用いてニトロセルロース膜に移した。より詳細には、精製されたタンパク質(25μg又は50μg)をSDS−PAGEによって分子の大きさの順に分離した後、ブロット機器を用いてNC膜(Millipore社)に移した。ブロットは、ブロッキングバッファ(0.05% Tween20を含むTBS中の5%スキムミルク)にて30分間ブロックした。続いてブロットを1次抗体のウサギポリクローナル抗mCKAP2抗体又は抗β−アクチン抗体(Sigma社)中で室温で1時間、あるいは摂氏4℃で一晩インキュベートした。ブロットは、Tweenトリス−バッファ生理食塩水(T−TBS)で2回洗い、結合していない1次抗体を取り除いた。結合した1次抗体は、西洋わさびペルオキシダーゼが接合した抗−ウサギ抗体(Amersham社)で検出した。
【0045】
図11に示すように、Hepa1−6細胞を、mCKAP遺伝子を保有するAd−mCR−lucアデノウイルスでトランスフェクトすると、mCKAP2特異的なトランス−スプライシングを通じてターゲット遺伝子がluc遺伝子に置き換えられ、mCKAP2の発現が減少した。
【0046】
実施例4:トランス−スプライシングリボザイム(Ad−mCKAP2−luc)を用いた分子イメージングを通じた、癌のIn vivo診断
Xenogen IVIS2000冷CCDカメラ(Xenogen社、Hopkinton、MA)を用いて、in vivo分子イメージングを行った。Ad−mCR−luc組換えアデノウイルス、ポジティブコントロールとしてのAd−lucアデノウイルス、及びネガティブコントロールとしてのAd−mockウイルスを、50μLのダルベッコPBS(Life Technologies社)中、1011個のウイルス粒子(vp)のウイルス量になるように調製した後、尾静脈注射によって、マウスに全身投与した。翌日、ルシフェラーゼの基質のD−ルシフェリンを、200μLのPBS中、マウスの体重1kg当たり150mgの用量で、マウスの腹腔内に投与した。in vivo分子イメージングのため、イソフルラン混合酸素(isofluran-mixed oxygen)によりマウスを麻酔した。10分後にリファレンスイメージを撮り、そしてin vivoイメージを1分〜5分間撮影した。Living Image software(Xenogene社)を用いて全身のイメージングを行い、その結果を秒当たり、cm2当たり、ステラジアン(steridian)当たりのフォトン(p/s/cm2/sr)にて表した。
【0047】
図13に示すように、ルシフェラーゼの発現は、肝癌を保有するAd−mCR−lucをトランスフェクトされたマウスから切除された、肝臓のイメージングを可能にすることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本明細書にて前述したとおり、本発明のトランス−スプライシングリボザイムを用いた分子イメージングの方法は、疾病関連遺伝子の発現の、遺伝子発現の場所におけるイメージングを提供することにより、疾病の初期段階での正確な診断を可能にする。また該分子イメージングの方法は、例えば治療効果の評価及び薬物への反応といった、遺伝子が関連する疾病の予後診断及び治療にも有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス−スプライシングリボザイムベクターを含む、分子イメージング用組成物。
【請求項2】
前記リボザイムが、イメージングレポーター遺伝子と結合されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記イメージングレポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リボザイムが、ルシフェラーゼ(luc)遺伝子と結合されている、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
細胞骨格関連タンパク質2(CKAP2)をターゲットとするリボザイムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記リボザイムが、トランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型であり、且つ、
1)ターゲットのマウス細胞骨格関連タンパク質2(mCKAP2)のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;
2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列(IGS)、5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;
3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び
4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列:
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記リボザイムベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記リボザイムベクターが、図2に示す遺伝地図を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
1)イメージングレポーター遺伝子を、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムに連結させ、得られるリボザイムをクローニングする工程;
2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させる工程;及び
3)該リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを確認する工程:
を含む、分子イメージングのためのベクターの製造方法。
【請求項10】
トランス−スプライシングリボザイムベクターを用いた、分子イメージング方法。
【請求項11】
前記リボザイムが、イメージングレポーター遺伝子と連結されている、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項12】
前記イメージングレポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項11に記載の分子イメージング方法。
【請求項13】
前記蛍光レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項12に記載の分子イメージング方法。
【請求項14】
前記リボザイムが、ルシフェラーゼ(luc)遺伝子と連結されている、請求項11に記載の分子イメージング方法。
【請求項15】
細胞骨格関連タンパク質2(CKAP2)をターゲッティングするリボザイムを含む、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項16】
前記リボザイムが、トランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型であり、且つ、
1)ターゲットのmCKAP2のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;
2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列(IGS)、5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;
3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び
4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列:
を含む、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項17】
前記リボザイムベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項18】
前記リボザイムベクターが、図2に示す遺伝地図を有する、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項19】
1)イメージングレポーター遺伝子を、トランス−スプライシングリボザイムに連結させ、得られるリボザイムをクローニングすること;
2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させること;及び
3)該リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを検出すること:
を含む、分子イメージング方法。
【請求項1】
トランス−スプライシングリボザイムベクターを含む、分子イメージング用組成物。
【請求項2】
前記リボザイムが、イメージングレポーター遺伝子と結合されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記イメージングレポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リボザイムが、ルシフェラーゼ(luc)遺伝子と結合されている、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
細胞骨格関連タンパク質2(CKAP2)をターゲットとするリボザイムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記リボザイムが、トランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型であり、且つ、
1)ターゲットのマウス細胞骨格関連タンパク質2(mCKAP2)のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;
2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列(IGS)、5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;
3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び
4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列:
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記リボザイムベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記リボザイムベクターが、図2に示す遺伝地図を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
1)イメージングレポーター遺伝子を、特定の遺伝子をターゲットとするリボザイムに連結させ、得られるリボザイムをクローニングする工程;
2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させる工程;及び
3)該リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを確認する工程:
を含む、分子イメージングのためのベクターの製造方法。
【請求項10】
トランス−スプライシングリボザイムベクターを用いた、分子イメージング方法。
【請求項11】
前記リボザイムが、イメージングレポーター遺伝子と連結されている、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項12】
前記イメージングレポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項11に記載の分子イメージング方法。
【請求項13】
前記蛍光レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質又は比色酵素をコードする遺伝子である、請求項12に記載の分子イメージング方法。
【請求項14】
前記リボザイムが、ルシフェラーゼ(luc)遺伝子と連結されている、請求項11に記載の分子イメージング方法。
【請求項15】
細胞骨格関連タンパク質2(CKAP2)をターゲッティングするリボザイムを含む、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項16】
前記リボザイムが、トランス−スプライシンググループIリボザイムの改変型であり、且つ、
1)ターゲットのmCKAP2のRNAのウリジン残基(45U)の下流領域に相補的なアンチセンス配列であり、83ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+141部位のヌクレオチドに相補的)又は300ヌクレオチド(mCKAP2のRNAの+59部位から+358部位のヌクレオチドに相補的)からなるアンチセンス配列;
2)該アンチセンス配列の3’末端に連結され且つ内部ガイド配列(IGS)、5’−GAGCGT−3’を含むP1ヘリックス領域;
3)該P1ヘリックス領域の3’末端に連結されたP10ヘリックス領域;及び
4)該P10ヘリックス領域の3’末端に連結され且つβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)又はルシフェラーゼ(luc)をコードする配列:
を含む、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項17】
前記リボザイムベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項18】
前記リボザイムベクターが、図2に示す遺伝地図を有する、請求項10に記載の分子イメージング方法。
【請求項19】
1)イメージングレポーター遺伝子を、トランス−スプライシングリボザイムに連結させ、得られるリボザイムをクローニングすること;
2)クローニングされたリボザイムをベクターへ挿入し、該リボザイムを発現させること;及び
3)該リボザイムの発現が同定されたベクターを分離し、該リボザイムを検出すること:
を含む、分子イメージング方法。
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−521150(P2010−521150A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553501(P2009−553501)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005334
【国際公開番号】WO2009/054558
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(507151124)ナショナル キャンサー センター (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005334
【国際公開番号】WO2009/054558
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(507151124)ナショナル キャンサー センター (9)
【Fターム(参考)】
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