トランスサイレチンアミロイド線維形成の阻害剤
トランスサイレチンのアミロイド線維形成を阻害するために効果的な、ビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾンが示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスサイレチンアミロイド線維形成の阻害剤に関する。より具体的には、本発明は、トランスサイレチンアミロイド線維形成の阻害剤としてのビスアリールオキシムエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスサイレチン(TTR)アミロイド形成の過程は、末梢神経障害、臓器不全、そしてまれに中枢神経系の病態をもたらす(Sekijima,Y.;et al.Lab.Invest.2003,83,409−417;Hammarstroem,P.;et al.Biochemistry,2003,42,6656−6663;Garzuly,F.;et al.Neurology,1996,47,1562−1567;Ikeda,S.;et al.Neurology,2002,58,1001−1007;Westermark,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1990,87,2843−2845;Jacobson,D.R.;et al.N.Engl.J.Med.1997,336,466−473;Sipe,J.D.Crit.Rev.Clin.Lab.Sci.1994,31,325−354)。野生型(WT)TTR沈着により引き起こされる疾患である、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は、80歳を超える集団の10〜25%を冒す遅発性心筋症である(Westermark,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1990,87,2843−2845)。点突然変異に関連する、残りのTTRに基づくアミロイド病は、広く2つの分類:家族性アミロイド心筋症(FAC)(Jacobson,D.R.;et al.N.Engl.J.Med.1997,336,466−473)および家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)(Sipe,J.D.Crit.Rev.Clin.Lab.Sci.1994,31,325−354)に分けられる。家族性アミロイドーシスを引き起こすTTR突然変異は100を超え、家族性アミロイドーシスの発症の正確な年齢、組織選択性ならびに重症度は、特定の突然変異、個人の遺伝的背景、およびおそらく環境因子のエネルギー論に左右される(White,J.T.;Kelly,J.W.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2001,98,13019−13024;Hammarstroem,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2002,99,16427−16432)。
【0003】
現在利用可能なFAPの唯一の治療法は、折りたたみ不全になりやすいTTRを血流へ分泌している患者の肝臓を外科的に交換することによる遺伝子療法である(Herlenius,G.;et al.Transplantation 2004,77,64−71)。このアプローチの欠点としては、ドナーとレシピエントの双方に対して侵襲的であること、生涯にわたって免疫抑制が必要であること、および未だ明らかになっていない理由のために数個の突然変異に対する有効性が制限されていることが挙げられる(Olofsson,B.−O.;et al.Transplantation 2002,73,745−751)。現在、WT−TTR沈着に関連するSSAの有効な治療法はない。従って、一般的に適用される、全てのTTRに基づくアミロイド疾患に対する小分子治療戦略が歓迎される。
【0004】
T119Mトランスサイレチンサブユニットを、その他の点では疾患関連サブユニット(V30M)で構成される四量体へ包括することにより可能となる、複合へテロ接合体ファミリーにおける対立遺伝子間のトランス抑制は、TTRの動的安定化がFAPを寛解するのに充分であることを実証する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Coelho,T.;et al.J.Rheumatol.1993,20,179;Coelho,T.;et al.Neuromusc.Disord.1996,6,27)。トランス抑制の有効性は、小分子の天然の状態の動的安定化がアミロイドーシスも寛解するはずであることを示唆する(Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909)。疾患に関連する折りたたみ不全を防ぐためにタンパク質の自由エネルギー地形を調整する小分子の有用性が、現在いくつかの事例において証明されている(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;De Lorenzi,E.;et al.Curr.Med.Chem.2004,11,1065−1084;Hardy,J.;et al.Science 2002,297,353−356;Ray,S.S.;Lansbury,P.T.,Jr.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2004,101,5701−5702;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552)。
【0005】
TTRは、222の分子対称性を特徴とする127残基のβシートリッチなホモ四量体であり、2つのチロキシン(T4)結合部位を有する(Blake,C.C.;et al.J.Mol.Biol.1974,88,1−12;Blake,C.C.;et al.J.Mol.Biol.1978,121,339−56)。脳脊髄液(CSF)および血漿の双方におけるTTR T4結合能の大部分(>99%)は、TTRの濃度が高いこと、ならびに甲状腺結合グロブリン(血液)および、同様にT4を有するアルブミン(血液およびCSF)が存在することのために利用されていない(Bartalena,L.;Robbins,J.Clin.Lab.Med.1993,13,583−598;Schreiber,G.;Richardson,S.J.Comp.Biochem.Physiol.B Biochem.Mol.Biol.1997,116,137−160;Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326)。律速な四量体の解離がアミロイド形成には必要とされる(Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1992,31,8654−8660;Hammarstroem,P.;et al.Science 2001,293,2459−2462;Lai,Z.;Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1996,35,6470−6482;Lashuel,H.A.;Lai,Z.;Kelly,J.W.Biochemistry 1998,37,17851−17864)が、充分ではない(Jiang,X.;et al.Biochemistry 2001,40,11442−11452)。結果として生じる折りたたまれた単量体も部分的な変性を受けて構築不全となるに違いないからである(Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1992,31,8654−8660;Lai,Z.;Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1996,35,6470−6482;Lashuel,H.A.;Lai,Z.;Kelly,J.W.Biochemistry 1998,37,17851−17864;Jiang,X.;et al.Biochemistry 2001,40,11442−11452;Liu,K.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,754−757)。これまでの研究は、T4結合が、天然の状態の動的安定化によりTTRの凝集を阻害することを実証する。解離のための活性化障壁は、解離の遷移状態に対して天然の四量体が優先的に安定化することにより増加する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960)。
【0006】
スクリーニング、構造に基づく設計、および平行合成によるリード化合物の最適化は、いくつかのその他の構造上異なるクラスの強力なTTRアミロイド形成阻害剤を導く(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。効果的な阻害剤は、一般に、直接結合しているかまたはスペーサー(アミン、エーテル、またはエチレン架橋など)を介して結合している2つのアリールを有する。好ましくは、1つのアリールがハロゲンまたは脂肪族基(一般にチロキシン結合部位の内部の空洞を占有)で官能化され、もう1つのアリールがヒドロキシルおよび/またはカルボン酸により官能化されている(外側の結合空洞の周辺でLys−15 e−NH3+および/またはGlu−54カルボキシル基と静電気的に相互作用することができる)(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。双方の空洞はハロゲン結合ポケットと呼ばれる疎水性の陥凹部を有し、アリール部分構造およびそれらの疎水性置換基により補完される。
【発明の開示】
【0007】
多数のTTR・(阻害剤)2共結晶構造における置換芳香族の配向および配置、合成のしやすさ、ならびに未来のハイスループット動的コンビナトリアルライブラリー解析の可能性を考慮した後(Nazarpack−Kandlousy,N.;et al.J.Comb.Chem.1999,199−206;Hochguertel,M.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2002,99,3382−3387)、本発明者らは2つのアリール環と結合するアルドキシムエーテル部分を検討することを選択した。オキシムエーテル部分を含有するFDA認可抗菌薬がいくつかあることから、この部分構造がヒト生物学に適合することが示唆される(オキシムエーテル部分を含有するFDA認可抗菌薬は、医薬品の開発に関するデータを含有するProus Science Publishers提供のDrug Data Reportをスキャンする、MDL Information Systems,Inc.,MDDR 2003.2 (25.11)データベース提供のMDL ISIS/Base 2.5を用いて見出された)。本研究の目的は、ヒト血漿において高い親和性でTTRと結合し(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)、アミロイド形成に対して天然の状態を安定化させる(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,no.6968,905−909)、ビスアリールアルドキシムエーテル構造を見出すことである。
【0008】
律速な四量体の解離および単量体の折りたたみ不全を必要とする、血漿タンパク質トランスサイレチン(TTR)によるアミロイド線維形成は、いくつかのヒト疾患に関わっている。アミロイド形成は、TTRの主として未使用の甲状腺ホルモン結合部位と結合している小分子に媒介される、天然の状態の安定化によって阻害することができる。アリールアルデヒドをアリールオキシアミンで簡便に縮合することにより新規な天然の状態の安定化剤が本明細書において見出され、ビスアリールアルドキシムエーテルライブラリーをもたらした。ライブラリーの95種類の化合物のうち、31種類はインビトロでのTTRアミロイド形成の活性阻害剤であった。ビスアリールオキシムエーテルは、アミロイド形成条件下で、解離の遷移状態の間、TTRの天然の四量体状態を選択的に安定化させ、解離の活性化障壁の増大を引き起こす。いくつかのビスアリールオキシムエーテルは、ヒト血漿中の多量のその他の血漿タンパク質よりもTTRと選択的に結合し、これはインビボでの有効性に必要な特性である。ビスアリールアルドキシムエーテルはN−O結合の切断による分解に対して感受性が高いが、この過程はそれらがTTRと結合することにより遅くなる。さらに、多くのビスアリールアルドキシムエーテルの分解速度は、血漿TTRの半減期と比較して遅い。ビスアリールオキシムエーテルライブラリーは、当然必要であると分かる、優れた安定性プロフィールを有する構造上類似の阻害剤の開発のために、価値のある構造活性相関の洞察をもたらす。
【0009】
本発明の一態様は、下の式I
【化1】
に表されるビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンを対象とする。
式Iにおいて、R’は、存在しないか、または、−COOH、−OH、−F、−I、−Br、−Cl、およびCF3からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;Rは、存在しないか、または、−COOH、−F、−Cl、およびCF3からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;さらに、Xは、−NH−および−O−からなる群から選択されるジラジカルである。好ましい実施形態では、Xは、−O−であり;別の好ましい実施形態では、Xは、−NH−である。さらに好ましい実施形態では、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンは下の式II:
【化2】
で表される。
式IIにおいて、ラジカルAは以下の群
【化3】
から選択される。
さらに好ましい実施形態では、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンは、下の式III
【化4】
で表される。
式IIIにおいて、ラジカルBは以下の群:
【化5A】
【化5B】
から選択される。
【0010】
本発明の別の態様はトランスサイレチンのアミロイド線維形成を阻害するための方法を対象とする。この方法は、トランスサイレチンを阻害濃度の式I、II、またはIIIのビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンと接触させる段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾンのX線結晶解析は、両者が同じ構造であることを示す。ヒドラゾンライブラリー活性に基づいて合成された95のオキシムエーテルライブラリーメンバーのうちほぼ1/3が、濃度7.2μMで優れたTTRアミロイド形成阻害剤であり、四量体WT−TTRの濃度の2倍である(pH4.4で72時間、阻害>90%)。最も優れた阻害剤は、カルボン酸で置換された1つの芳香環を有するが、もう一方のアリール環はハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する。チロキシンのような置換パターンのアリールアルデヒドから調製したオキシムエーテルも、優れた活性および顕著なTTR血漿結合選択性を示す。いくつかのものは2のうち1.5を超える結合化学論量を示す。オキシムエーテルは、解離の遷移状態に対してTTRの天然の状態を選択的に安定化させるだけでなく、実質的に四量体の解離およびアミロイドーシスを遅らせるが、ビスアリールオキシムエーテルが不安定性を示す場合には、TTR結合によって、それらの分解はバッファーのみと比較して顕著に遅くなる。
【0012】
オキシムエーテルライブラリーの設計。アリールオキシアミンは、アリールアルデヒドと結合して所望のビスアリールオキシムエーテルライブラリーを生成するための出発物質として必要である(図1、X=O)。この反応は、イミン結合に関して2つの立体異性体(図1のsynおよびantiで示される、すなわち、アルデヒドプロトンがXで表されるフェノキシ酸素に対してそれぞれcisまたはtransに配向し得る)を作成する可能性があり得る;しかし、文献による先例に基づくとsyn−異性体のみが予期された(かつ観察された、下記参照)(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095;Rappoport,Z.;Sheradsky,T.J.Chem.Soc.B,Phys.Org.1967,9,898−903)。
【0013】
その他の有力なTTRアミロイド形成阻害剤において同定された構造上の特性に基づいて、オキシムエーテル置換基および置換パターンを選択した(図2)(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。選択されたアリールオキシアミン(1〜8)は、アリールオキシアミン中にパラ−CF3(i)およびチロキシンのような置換パターン(eおよびf)がないことを除いてアリールアルデヒドと同じ置換パターンを有した。残念ながら、市販されている唯一のアリールオキシアミンはフェノキシアミンである;従って、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するために必要なアリールオキシアミンの構成単位の合成のための方法は、本明細書または他の場所に記載されている(Abele,E.;Lukevics,E.Org.Prep.Proced.Int.2000,32,235−264;Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142;Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600;Choong,I.C.;Ellman,J.A.J.Org.Chem.1999,64,6528−6529)。対照的に、容易に入手できるアリールアルデヒドと結合してビスアリールヒドラゾンライブラリーを作成するための、150種類を超えるアリールヒドラジンが市販されている(図1、X=NH)。類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾン(以下、それぞれオキシムエーテルおよびヒドラゾンと称される)が互いに同じ構造であると考えられるため、ヒドラゾンライブラリーの迅速な自動合成(図3)を行って、阻害剤のこの構造クラスが活性を有するかどうかクエリーした(図4)。
【0014】
オキシムエーテルとヒドラゾンの特性決定および結晶学的比較。推定された同じ構造である性質を確認するため、それぞれスキャフォールド5b/d(図2)およびスキャフォールド26b/d(図3)を基にして類似するオキシムエーテルとヒドラゾンの対を合成し、結晶化し、それらの構造をX線回折により決定した。オキシムエーテルとヒドラゾン構造を結晶学により比較すると、この類似する化合物が互いにほぼ重ね合わせることができることが明らかとなる(図5)。4種類の全ての結晶構造はsyn−イミン結合を示し、この異性体の優勢をさらに裏付けている(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095;Rappoport,Z.;Sheradsky,T.J.Chem.Soc.B,Phys.Org.1967,9,898−903)。
【0015】
ヒドラゾン(純度>94%)およびオキシムエーテル(純度>95%)ライブラリー作成に関連する全ての粗反応混合物のHPLCおよびLC−MSの痕跡は、主に1つのピークを示し、単一の異性体(先例から推論され、X線結晶学により裏付けたsyn−イミン結合)が優勢であることを示唆する。原則として、syn−およびanti−異性体の双方が同時に溶出するか急速に相互転換し、syn−異性体として選択的に結晶化することは可能である;しかし、伝統的な手段で合成されたヒドラゾンおよびオキシムエーテルの1H−および13C−NMRスペクトルは、単独の異性体のものと一致する共鳴を示す(文献による先例は、好ましいsyn−異性体が、室温でNMRによってtrans−異性体と区別されることを証明している)(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095)。
【0016】
オキシムエーテルライブラリーの合成および活性。ヒドラゾン(全て純度>94%)が阻害剤活性を示したので、同等のオキシムエーテルライブラリーもTTRアミロイド形成阻害剤を作成することができると仮定した。この仮定を本明細書で確認する。いくつかのビスアリールヒドラゾンは、TTRアミロイド形成の強力な阻害を示し(図4)、類似するオキシムエーテルライブラリーの調製および評価が正当であることを証明した。水性ヒドラゾンの不安定性(主にシッフ塩基の加水分解による)およびヒドラゾンの生物学的毒性は、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するさらなる意欲をもたらす。ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを作製するために必要なアリールオキシアミンの調製のための2つの合成戦略を用いた。最初に、N−ヒドロキシフタルイミド(NHP)のアリールボロン酸との銅触媒による架橋により、ヒドラジン分解の後に所望のアリールオキシアミンが得られた(図6)(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。遊離塩基として単離された(3、6、および7)か、またはそれらの塩酸塩として沈殿した(1および8)アリールオキシアミンを、この方法論を用いて良好から中程度の全収率で合成した。
【0017】
銅触媒による結合の方法論は、アリールボロン酸上のオルト−ハロゲン化物またはオルト−CF3置換基に不耐性であるように思われる(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。さらに、N−ヒドロキシフタルイミド中間体の脱保護に必要とされるヒドラジン分解は、オルト−カルボキシル置換基を有するアリールオキシアミンに対して成功しない。その他の方法をいくつか検討した後、エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による電子欠損フルオロベンゼンの芳香族求核置換を選択して最初の方法を補完した(図7)(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)。2−トリフルオロメチルフルオロベンゼンへのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸の求核攻撃は優れた収量の15(89%)をもたらし、これは酸加水分解時にアリールオキシアミン5(収量96%)をもたらし、そのHCl塩として利用した。この方法論の変化形を用いて、2および4の同等物に由来するオキシムエーテルを調製した(下記参照)。
【0018】
アリールオキシアミン1および5〜8を用いてオキシムエーテルライブラリーの一部を作成した(図2)。DMSO中の酢酸(0.08M)の存在下、アリールアルデヒド(0.1M)とアリールオキシアミン(0.125M)の反応により、25℃にて24時間以内にオキシムエーテルをほぼ定量的収率で得た(全てのフェノキシアミンおよびヒドラジンをTTRアミロイド阻害剤として試験したが、ライブラリー合成にそれらを過度に用いたため、阻害は明らかとならなかった)。5種類のアリールオキシアミン(1および5〜8)および12種類のアルデヒド(a〜l)をあらゆる可能性のある組合せで縮合し、ウェルフォーマット毎に単一の化合物でGilson 215リキッドハンドラーを用いて60種類のオキシムエーテルを得た。反応をLC−MSにより解析して、すべてのウェルで収量(98〜100%、アルデヒド消費に基づく、実験の項を参照)および生成物の純度(>95%)を決定した(全ての生成物はその予測質量を示す)。純粋な化合物を従来通り合成し、完全な特性決定を行った(実験の項の裏付けとなる情報を参照)7つの場合において(1e、5d〜f、7e、および8e〜f)、HPLCでの同時溶出により生成物の構造および純度を確認した。
【0019】
オキシムエーテルライブラリーの残りのメンバーを伝統的な合成手順で調製し、mg量で単離した(完全な特性決定データについては実験の項および裏付けとなる情報を参照、さらに、RP−HPLCで測定された化合物の純度については図8を参照)。触媒のHClの存在下、O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン(3)をアリールアルデヒドa〜lで縮合し、中程度から優れた収量のオキシムエーテル3a〜lを得た。エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸のSNAr手順を用いて、化合物20および21をそれぞれ全収率45%および51%で調製した(図9)。アリールアセトイミド酸エステルは加水分解して対応するアリールオキシアミン2および4とならなかった。その代わり、アリールアセトイミド酸エステルを酸性条件下で化学量論的な量のアリールアルデヒドと混合して、中程度から優れた収量のオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを直接得た(オキシムエーテル2bは不安定な性質のために単離できなかった)。
【0020】
酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6μM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2μM)の阻害活性を表10にまとめている。合成した95種類のオキシムエーテルのうち、31種類が良好な有効性を示し、阻害剤の不在下でWT−TTRにより示されるものの<10%までTTRアミロイド形成を低下させ(90%の阻害、青色)、9種類が中程度の活性を示し(11〜30%の線維形成、緑色)、そして残りの55種類は不良な活性を示した(黄色)。
【0021】
チロキシンのような置換パターンを有するベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテル(図10、e列およびf列)は、たとえ非置換フェノキシアミンと結合した場合でも非常に有効である(16種類全てが>90%の阻害を示した)。非置換フェノキシアミンとの結合は、一般的に結果として弱いオキシムエーテル阻害剤となる。これらの結果は、阻害を達成するために双方の環に適切な置換基が必要とされるというこれまでの見解に挑戦する。
【0022】
ハロゲン化アリールオキシアミンとメタ−もしくはパラ−カルボキシベンズアルデヒドとの縮合から得られたさらなるオキシムエーテル(またはその逆も同様)は、環に関係なくカルボン酸置換基を有する強力な阻害剤を生成した。これらの結果は結合の配向性が、Lys−15のε−NH3+基との静電相互作用を保存するように変化する可能性のあることを示唆する。オルト−カルボキシベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテルからは良好な阻害剤が生成されない。オキシムエーテル由来のカルボキシベンズアルデヒドの活性を、最高から最悪までランク付けすると、メタ>パラ>オルトとなり、カルボキシフェノキシアミンに由来するオキシムエーテルの活性のランク:メタ≒パラ>オルトに類似する。双方の環にカルボン酸またはハロゲンを有するオキシムエーテル(T4のような置換を除く)は、よくても中程度の活性を示した。
【0023】
アリールアルデヒドおよびフェノキシアミンが縮合する能力自体は動的コンビナトリアルライブラリーアプローチに役立つが(Nazarpack−Kandlousy,N.;et al.J.Comb.Chem.1999,199−206;Hochguertel,M.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2002,99,3382−3387)、一般に、阻害は、2つの結合部位間のアロステリックな情報伝達により結合している2つの異なる小分子で最大であるという、起こり得る複雑な問題が既に報告されている(Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414)。従って、構造活性相関データは、動的コンビナトリアルライブラリーで生じる阻害剤の組合せの影響により複雑化する可能性がある。
【0024】
ビスアリールアルドキシムエーテルの安定性。多くのビスアリールアルドキシムエーテルはTTRアミロイド形成の強力な阻害剤であるが(図10)、それらは酸性かまたは塩基性の水性媒質中で安定性の幅を示す(一次分解半減期はTTRの不在下で数時間〜数日の範囲である)。ヒドラゾンとは違って、オキシムエーテルは中性および塩基性条件でシッフ塩基加水分解に対して安定しているように思われるが、それらは、明らかにオキシムエーテルのN−O結合の切断による一次反応速度でなおゆっくりと分解し、フェノールおよびアリールニトリルをもたらすことができる。このN−O結合の切断は、高い温度での先例はあるものも、このような軽度の条件下では予期されていなかった (Miller,M.J.;Loudon,G.M.J.Org.Chem.1975,40,126−127;Supsana,P.;Tsouongas,P.G.;Varvounis,G.Tet.Lett.2000,41,1845−1847;Knudsen,R.D.;Snyder,H.R.J.Org.Chem.1974,39,3343−3346;Gomez,V.;Perez−Medrano,A.J.Org.Chem.1994,59,1219−1221;Cho,B.R.;et al.J.Org.Chem.1991,56,5513−5517;Royer,R.E.;et al.J.Med.Chem.1986,29,1799−1801;Castellino,A.J.;Rapoport,H.J.Org.Chem.1986,51,1006−1011;Blake,J.A.;et al.J.Org.Chem.2004,69,3112−3120)。
【0025】
オキシムエーテルは、それらの明白な分解「半減期」によると、類似するヒドラゾンよりも質的に安定している(分解過程は一次的でないので、明白なヒドラゾン「半減期」は50%消失に要する時間を指す)。いずれかの芳香環上の電子供与基およびオルト−置換基は、ビスアリールアルドキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾンの双方の分解速度を増加させるように思われる。
【0026】
概して、阻害剤(7.2μM)のTTR(3.6μM)との結合は、酸に媒介される線維形成条件下で(pH4.4、37℃、72時間)、化合物を分解から安定化させる働きをする。最もよい阻害剤(線維形成<10%)の中の11種類に関して、RP−HPLC分析により、酸に媒介される線維形成アッセイの終わりに初期のオキシムエーテルの>74%が残っていることが明らかとなる(図11)。最も安定していない阻害剤(1e、1f、2k、3g、5d*)は、TTRの不在下で72時間以内にほぼ完全に分解される;しかし、阻害剤の存在は初回量の>74%を維持する。特に、阻害剤5eはTTRの存在下で分解を示さなかった。このことは、なぜ多くの不安定なビスアリールオキシム阻害剤がTTRアミロイド形成の優れた阻害剤であることが分かるのかを説明する助けとなる。つまり、阻害剤がTTRの甲状腺ホルモン結合部位と結合してTTR四量体に動的な安定化を課すだけでなく(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716)、TTR結合も阻害剤を分解に対して安定させる。
【0027】
また、分析を行って、活性が主として個々のオキシムエーテルによるものであってそれらの提案される分解生成物によるものでないことを確認するのに役立てた。分解性の副生成物が観察した阻害剤の有効性に寄与するかどうかを判定するため、対応するフェノールおよびニトリル(オキシムエーテルの場合)、アニリン(ヒドラゾンの場合)、ならびにアルデヒド(オキシムエーテルとヒドラゾンの双方の場合)をそれらの線維形成阻害特性について分析した。3,5−ジハロ−4−ヒドロキシベンゾニトリルおよび類似するアルデヒド分解生成物は、四量体のTTRの2倍の濃度でTTR線維形成の強力な阻害剤である(図12)。3,5−ジクロロフェノールも、四量体のTTR(3.6μM)の濃度の2倍の濃度(7.2μM)で線維形成を86%阻害する。しかし、その他の分解生成物(ニトリル、フェノール、またはアニリン)はどれも目に見えるほどの活性を示さない。従って、大部分のアミロイド形成阻害剤の有効性が、親ビスアリールオキシムエーテルに起因するものであり、分解性の副生成物に起因するものでないと結論付けるのが妥当であり、それにより分解の機構的要件を理解するため、および医化学目的のためにこれらの構造または関連する構造を安定させるための意欲がもたらされた。
【0028】
アミロイド形成条件下、阻害剤8fの存在下でのTTRの四量体構造の分析用超遠心分離評価。沈降速度と平衡分析用超遠心分離実験の双方を用いて、一般的に四量体を解離させ、単量体を構築不全の構成成分とするアミロイド形成条件下で、阻害剤8fのTTRの四量体構造への影響を評価した(72時間、pH4.4、37℃)。WT−TTR(3.6μM)と結合したオキシムエーテル8f(7.2μM)を、これらの条件下で50,000rpmにて沈降速度分析に付し(図13)、TTRがS値3.7(分子量48.4±0.2kDaに相当する)の、単一の種類として沈降している四量体のままであることが示された。阻害剤を欠く同一の実験では四量体のTTRは検出されなかった−アミロイド形成の過程に一致する、高分子量のTTRの凝集体のみが観察された。沈降平衡分析(17,000rpm)によるさらなる精査は、単一の理想的な種類のモデル(図14;52.1±0.2kDa)に適合するデータを示し、四量体WT−TTR・(8f)2の計算された分子量(56,374Da)と充分一致している。濃度の関数としての細胞全体の分子量分布の分析も、僅かに50kDaを超える分子量の単一の種類を示した。
【0029】
ヒト血漿中のTTRと結合するオキシムエーテルの選択性。臨床研究に小分子を用いてアミロイドについての仮説(アミロイド形成の過程が神経毒性または組織損傷をもたらすという考え)を検証するためには、小分子はその他の全ての血漿タンパク質の存在下で血漿中のTTRと選択的に結合する必要がある。最も活性の高いオキシムエーテルとヒト血漿中のTTRとの結合化学量論量を、既に報告されている抗体捕捉/HPLC法を用いて評価した(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。手短に言えば、試験化合物を10.8μMの濃度(TTRの血漿濃度の約2〜3倍)でヒト血漿に溶解する。24時間(37℃)のインキュベーションの後、TTRおよびそれと結合している任意の小分子を、セファロース樹脂と共有結合したポリクローナルTTR抗体を用いて免疫沈降させる。樹脂を洗浄し、TTR・(小分子)n<2複合体を高いpHで解離させ、次にTTRと結合した小分子の化学量論量を、阻害剤およびTTRの相対量を定量化するための標準曲線を用いる分析用逆相HPLCにより判定する(TTRの2つのチロキシン結合部位により最大阻害剤化学量論量は2である)。阻害剤の中には抗体捕捉の後に必要な洗浄段階で失われるものもあり得るため、本方法は、阻害剤の結合化学量論量の下限値を確立する。
【0030】
血漿TTRに対して>90%のアミロイド阻害(7.2μM)を示すビスアリールオキシムエーテルの結合化学量論量の下限値を、図15に示す。試験した31種類の化合物のうち、11種類が1.0を超えるTTR結合化学量論量を示し、3種類が1.5当量を越える結合を示す。最も高い結合化学量論量を示すオキシムエーテルは、1つの芳香環がチロキシンのような置換パターン(例えば3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ)を1つ有するアルデヒドに由来する。この結果は、3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ置換アリール環の組み込みが、大多数のその他の血漿タンパク質(TTRよりも約150倍高い濃度を有するチロキシン輸送タンパク質アルブミンを含む)を上回る血漿結合選択性をTTRに与えることを意味するので、非常に重要である(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326;Petitpas,I.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2003,100,6440−6445)。しかし、これらの結果は、これらの化合物が血液中で主なチロキシン輸送タンパク質である、TBGと(TTRの約1/10の濃度で)結合する可能性に対応していない。従って、TBGの結合能力が飽和しても、TTRの結合選択性結果にあまり影響を及ぼさない(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326)。自動化された手順によって合成された、0.5を超える結合化学量論量を示す数個のオキシムエーテル(1e、5d〜f、7e、および8e〜f)も、従来法によりmg量で合成し、単離し、それらの結合化学量論量を再評価した。全ての場合において同じ結果が得られ、自動化により調製されたオキシムエーテルと、従来法により調製されたオキシムエーテルが同一であることが証明された。
【0031】
WT−TTR・(5d)2の結晶構造。ビスアリールオキシムエーテルによるアミロイド阻害のための構造基盤を解明するため、強力な凝集阻害と血漿選択性の双方を示すいくつかの化合物の共結晶構造に着手した。WT−TTR・(5d)2の複合体は、分解能1.53Åの最良の共結晶構造データをもたらし、本明細書に提示されている(図16および図17)。高分解能データにもかかわらず、トリフルオロメチル置換芳香環は、電子密度オミットマップの輪郭を示す1σ未満でようやく目に見え、それらの領域の比較的高い柔軟性を示している。しかし、側鎖の配向および震動「n」とゆがみのオミットマップ(Reddy,V.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.2003,59,2200−2210)から、ほぼ最小のエネルギー構造におけるタンパク質の中心チャネル(各甲状腺ホルモン結合ポケットに1つ)内に結合した2つの分子の最終的な配向および位置を得た。各ホルモン部位には、結合チャネルを二分する2重の回転軸により、2つの対称な同等の結合構造が含有される。
【0032】
阻害剤5dは「順方向」結合モードのTTR中にあり、それは、外側の空洞にあってLys−15と好ましい静電相互作用をするカルボン酸置換芳香環を有する阻害剤と呼ばれる(Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321)。カルボキシル基は、Thr−106(2.73Å)およびLys−15残基と水素結合を形成する。Lys−15の側鎖は阻害剤との疎水性相互作用(ε−CH2)および静電(ε−NH3+−3.3Å)相互作用の双方に寄与する。また、Leu−17、Leu−17’、Ala−108、Ala−108’、Leu−110、Leu−110’、Thr−119、Thr−119’、Val−121、およびVal−121’の疎水性側鎖間に阻害剤が積み重なる時に、疎水性相互作用およびファンデルワールス相互作用の双方により結合が安定化される。トリフルオロメチル置換基は、内部の空洞のハロゲン結合ポケット3(HBP−3)の一部を占有する。内部空洞のSer−117ヒドロキシル基は阻害剤から離れて配向し、それらのβ−CH2部分構造によるさらなる疎水性相互作用に寄与する。リンカーである酸素と窒素は、TTRと静電相互作用を行わないと思われ、従ってその結合および活性にあまり寄与しない可能性があり、オキシムエーテルおよびヒドラゾンにより提示される類似の活性、ならびにスチルベン、ジアリールアミン、およびジアリールエーテルは全て活性があるという以前の報告に一致する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.Ε.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.Ε.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Εd.2003,42,2758−2761)。しかし、リンカーが採った構造は2つの芳香環を配向させるために極めて重要であると思われる。
【0033】
実験の項
一般的な合成法
特に明記しない限り、全ての化学物質は民間の供給業者から購入し、さらなる精製を行わずに用いた。反応の進行は、シリカゲル60 F254をコートしたガラス板(EM Sciences)での薄層クロマトグラフィーにより、かつ/または分析的RP−HPLCによりモニターした。全てのフラッシュクロマトグラフィーは、230〜400メッシュのシリカゲル60(EM Sciences)を用いて行った。NMRスペクトルをBruker 300、400、500、または600MHz分光器のいずれかで記録した。化学シフトは、CDCl3溶液の内部標準Me4Si(0.0ppm)から低磁場の百万分の1の単位で報告されるか、または、Me4Siが13C−NMRスペクトルに見られない場合は溶媒ピーク(CDCl3 77.16ppm)の較正を行った。d6−DMSO、d6−アセトン、またはCD3OD中の試料に関して、1H−NMRについてそれぞれ3.49、2.05、および3.31ppmで、さらに13C−NMRについてそれぞれ39.52、29.84、および49.00ppmで、溶媒ピークの較正を行った。Waters 486 チューナブル吸光度検出器およびWaters 717オートサンプラーを用いるWaters 600 E多溶媒送達系で逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を行った。ThermoHypersil−Keystone Betabasic−18カラムを分析用逆相HPLC分析(71503−034630モデル、孔径150Å、粒径3μM)に用い、Vydac C18カラムを分取HPLC(218TP1022モデル、孔径300Å、粒径5μM、内径22mm×250mm)に用いた。溶媒系Aは、95:5 H2O:CH3CNと0.25%トリフルオロ酢酸(TFA)、溶媒Bは、5:95 H2O:CH3CNと0.25%TFAであり、直線勾配は、A:B 0:100、80:20、または60:40のいずれかからA:B 0:100で流した。Zorbax SB−C18(5mm、2.1×50mm)カラムを備えたHewlett Packard HPLC−MSで高速液体クロマトグラフィー・質量分析(HPLC−MS)を行い、Gilson 215リキッドハンドラーを用いて溶媒送達を行った。全ての質量分析データは質量分析のためにScripps Research Institute Centerで収集された。
【0034】
フェノキシアミンの調製のための、フェニルボロン酸とN−ヒドロキシフタルイミドの銅触媒による結合の代表的手順(方法1):9の合成。
20mLシンチレーションバイアルを、N−ヒドロキシフタルイミド(163mg、1.0mmol)、塩化銅(I)(99mg、1.0mmol)、活性化したばかりの4Åモレキュラーシーブス(約250mg)、およびフェニルボロン酸(244mg、2.0mmol)で満たした。1,2−ジクロロエタン(5mL)を添加し、続いてピリジン(90μL、1.1mmol)を添加すると、淡褐色の懸濁液が生じた。反応懸濁液が空気に触れるようにキャップを緩め、分析用RP−HPLCによる検出が完了するまで室温にて攪拌した(反応が進行するにつれて混合物の色は褐色からエメラルドグリーンへ変化した)。完了すると(約48時間)、混合物はシリカゲルに吸収され、濃縮されて粉末となった。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中25%EtOAc)によりN−フェノキシフタルイミド9を白色の固体として得た(216mg、90%);特性決定データについては下記参照。
【0035】
N−フェノキシフタルイミド(9)。
9の調製は、上記に代表的手順(方法1)として記載した。1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ7.12−7.20(m,3H)、7.32−7.38(m,2H)、7.80−7.84(m,2H)、7.90−7.94(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ114.4、124.0、128.8、129.7、134.9、158.9、162.9;MALDI−FTMS(DHB)240.0656 m/z[MH]+、C14H10NO3の要求値240.0655。
【0036】
N−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)フタルイミド(10)。
3−トリフルオロメチルフェニルボロン酸(380mg、2.0mmol)を、上に概説されるN−ヒドロキシフタルイミド(NHP)との代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中40%EtOAc)により、10を白色の固体として得た(270mg、88%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ7.34−7.38(m,1H)、7.40−7.45(m,2H)、7.47(m,J=0.9,8.1Hz,1H)、7.82−7.87(m,2H)、7.92−7.97(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ111.6、117.8、118.1、121.4、122.3、124.2、128.8、130.5、132.2、135.1、159.0、162.8;LC−MS 309 m/z[MH]+、C15H9F3NO3の要求値309。
【0037】
N−(3,5−ジクロロフェノキシ)フタルイミド(11)。
3,5−ジクロロフェニルボロン酸(382mg、2.0mmol)を、上に概説されるNHPとの代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中50%CH2Cl2)により、11を白色の固体として得た(139mg、45%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ7.07(m,2H)、7.13−7.16(m,1H)、7.81−7.86(m,2H)、7.71−7.96(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ113.7、124.2、125.0、128.8、135.2、135.9、159.7、162.5;LC−MS 276 m/z[MH]+、C14H8Cl2NO3の要求値276。
【0038】
N−(3,5−ジフルオロフェノキシ)フタルイミド(12)。
3,5−ジフルオロフェニルボロン酸(316mg、2.0mmol)を、上に概説されるNHPとの代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(トルエン中10%CH2Cl2)により、12を白色の固体として得た(197mg、72%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ6.58−6.63(m,1H)、6.68−6.73(m,2H)、7.82−7.87(m,2H)、7.92−7.97(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ98.5(m)、100.3(t,JC-F=25.3Hz)、124.4、128.7、135.4、160.5(t,JC-F=13.8Hz)、162.6、163.6(dd,JC-F=13.8,249Hz);MALDI−FTMS(DHB)276.0456 m/z[MH]+、C14H8F2NO3の要求値276.0467。
【0039】
N−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)フタルイミド(13)。
3−メトキシカルボニルフェニルボロン酸を、上に概説されるNHPとの同様の結合手順(方法1)に付した。100mL丸底フラスコを、N−ヒドロキシフタルイミド(2.19g、13.4mmol)、塩化銅(I)(1.34g、13.5mmol)、活性化したばかりの4Åモレキュラーシーブス(約5g)、および3−メトキシカルボニルフェニルボロン酸(4.79g、26.6mmol)で満たした。1,2−ジクロロエタン(60mL)を添加し、続いてピリジン(1.20mL、14.8mmol)を添加し、反応懸濁液を室温にて空気雰囲気中で攪拌した。4日後、混合物をシリカゲルに吸着させ、濃縮して粉末とした。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中33〜50%勾配EtOAc)により、13を白色の固体として得た(1.85g、46%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ3.90(s,3H)、7.38−7.41(ddd,J=1.0,2.5,8.3Hz,1H)、7.44(t,J=8.3Hz、1H)、7.78(dd,J=1.0,2.5Hz,1H)、7.82−7.86(m,3H)、7.92−7.96(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ52.5、115.0、119.3、124.3、125.9、129.0、130.0、132.1、135.2、159.0、163.0、166.2;ESI−MS 298 m/z[MH]+、C16H12NO5の要求値298。
【0040】
N−アリールオキシフタルイミドの、対応するO−アリールヒドロキシルアミンへのヒドラジン分解のための代表的手順(方法1A):化合物1の合成。
ヒドラジン一水和物(0.401mL、8.2mmol)を、N−フェノキシフタルイミド9(652mg、2.73mmol)のCHCl3(25mL)中10%MeOH溶液にゆっくり添加し、反応物を室温にて攪拌した。完了すると(TLCモニタリング、12時間)、無色の反応溶液中に白色の沈殿が現れた(フタリジン)。反応混合物をシリカゲルのプラグに通し、ヘキサン中30%EtOAcで洗浄した。EtOAc/ヘキサンを除去すると僅かに淡黄色の油状物質が生成され、それをK2CO3(<10mg)からクーゲルロール蒸留すると、純粋なフェノキシアミン1を透明な無色の油状物質として得た(238mg、80%);特性決定データについては下記参照。あるいは、EtOAc/ヘキサンを除去した後、黄色の油状物質をEt2Oに溶かし、0℃まで冷却した。0℃にて10分後、pH3に達するまでジオキサン中4N HClを滴下した。得られる白色の固体を濾過し、Et2O(2×10mL)で洗浄して1を純粋なHCl塩として得た(306mg、77%)。
【0041】
O−フェニルヒドロキシルアミン塩酸塩(1)。
1の調製は、上記に代表的手順(方法1A)として記載した。1H−NMR(400MHz,CD3OD)δ6.84−6.89(m,1H)、7.03−7.09(m,2H)、7.19−7.25(m,2H);13C−NMR(100MHz,CD3OD)δ114.1、121.6、130.3、163.1;LC−MS 110 m/z[MH]+、C6H8NOの要求値110。
【0042】
O−(3−トリフルオロメチルフェニル)ヒドロキシルアミン(6)。
N−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)フタルイミド10(1.12g、3.65mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。蒸留(85℃/6mm)により純粋な6を透明な無色の液体として得た(582mg、90%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ6.00(s,2H)、7.19−7.21(m,1H)、7.30(dd,J=8.4,2.6Hz,1H)、7.38(t,J=8.1Hz,1H)、7.45−7.47(m,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ110.4、117.2、117.9、130.9、162.1;LC−MS 178 m/z[MH]+、C7H7F3NOの要求値178。
【0043】
O−(3,5−ジクロロフェニル)ヒドロキシルアミン(7)。
N−(3,5−ジクロロフェノキシ)フタルイミド11(711mg、2.31mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。反応混合物をシリカゲルプラグからの溶出した結果、遊離塩基7が白色の固体として凝固した(378mg、92%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ5.91(s,2H)、6.91−6.93(m,1H)、7.06−7.09(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ112.9、121.9、135.9、163.2;LC−MS 179 m/z[MH]+、C6H6Cl2NOの要求値179。
【0044】
O−(3,5−ジフルオロフェニル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(8)。
N−(3,5−ジフルオロフェノキシ)フタルイミド12(1.74g、6.31mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。HCl塩の沈殿により、8を白色の固体として得た(980mg、86%)。1H−NMR(600MHz,CD3OD)δ6.83−6.90(m,3H);13C−NMR(150MHz,CD3OD)δ99.3(dd,JC-F=8.0,24.9Hz)、101.1(t,JC-F=26.4Hz)、160.0、165.8(dd,JC-F=15,248Hz);LC−MS 146 m/z[MH]+、C6H6F2NOの要求値146。
【0045】
O−(3−メトキシカルボニルフェニル)ヒドロキシルアミン(14)。
N−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)フタルイミド13(271mg、0.912mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付し、14を淡黄色のシロップとして得た(146mg、96%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ3.91(s,3H)、5.92(s,2H)、7.29−7.32(m,1H)、7.33(t,J=6.9Hz,1H)、7.63(dt,J=1.8,6.9Hz,1H)、7.82−7.84(m,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ52.3、114.2、118.1、122.5、129.3、131.4、161.4、167.1;GC−MS 167 m/z[M]+、C8H9NO3の要求値167、152 m/z[M−NH]+、C8H8O3の要求値152。
【0046】
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン(3)。
LiOH・H2O(91.0mg、2.17mmol)を、O−(3−メトキシカルボニル−フェニル)ヒドロキシルアミン14(90.4mg、0.541mmol)のTHF/MeOH/H2Oの3/1/1mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。24時間後、反応物をH2O(50mL)で希釈し、0.5N HClでpH約3〜4に酸性化し、EtOAc(3×25mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(25mL)および塩水(brine)(25mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して3を白色の固体として得た(78.7mg、95%)。1H−NMR(500MHz,d6−DMSO)δ7.01(s,2H)、7.24(ddd,J=1.4,2.8,8.3Hz,1H)、7.34(t,J=7.8Hz,1H)、7.46(dt、J=1.4、7.3Hz,1H)、7.68(dd,J=1.4,2.8Hz,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ113.5、117.8、121.3、129.2、131.8、161.7、167.3;ESI−MS 162 m/z[M−H+]-、C7H6NO3の要求値162。
【0047】
エチル−N−(2−トリフルオロメチルフェノキシ)アセトイミデート(15)。
Miyazawa et al.(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)の手順を用いて調製したtBuOK(0.78g、6.7mmol)を、Ar雰囲気下、0℃にてエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(1.00g、6.06mmol)の無水DMF(6mL)中の攪拌溶液に添加した。tBuOKの添加が完了した後、反応物を室温にて攪拌した。30分後、2−フルオロベンゾトリフルオリド(1.29mL、6.06mmol)を添加し、反応物を80℃で2時間加熱した。冷却しながら反応混合物を氷水(100mL)で希釈し、EtOAc(3×40mL)で抽出した。合わせた有機層を塩水(brine)(2×50mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮して暗色の油状物質を得た。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%EtOAc)により、15を透明な液体として得た(1.33g、89%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.36(t,J=7.1Hz,3H)、2.15(s,3H)、4.20(q,J=7.1Hz,2H)、6.99(明白なt,J=7.5Hz,1H)、7.47(明白なdt,J=7.9Hz,1H)、7.52−7.57(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.3、14.5、63.2、114.2、116.2(q,JC-F=31Hz)、120.3、123.7(q,JC-F=272Hz)、126.4(q,JC-F=4.8Hz)、133.2、157.2(q,JC-F=1.9Hz)、167.1;LC−MS 248 m/z[MH]+、C11H13F3NO2の要求値248。
【0048】
O−(2−トリフルオロメチルフェニル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(5)。
Miyazawa et al.(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)の手順を用いて調製した70% HClO4(12mL)を、0℃にて15(4.14g、16.7mmol)の1,4−ジオキサン(19mL)溶液に滴下し、次に反応物を室温にて一晩攪拌した。次に、反応混合物を氷水(150mL)に注ぎ、固体のNaOHペレットでpH13に調節した。水層をEtOAc(3×150mL)で抽出し、合わせた有機物を塩水(brine)(2×75mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮して暗色の残渣を得た。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中15%EtOAc)の後、他のアリールオキシアミンについて上に記載されるようにHCl塩が沈殿し、5を白色の固体として得た(3.42g、96%)。1H−NMR(600MHz,CD3OD)δ7.37−7.41(m,1H)、7.48−7.51(m,1H)、7.76−7.79(m,2H);13C−NMR(150MHz,CD3OD)δ114.6、125.0、126.3、127.6(q,JC-F=5.7Hz)、128.3 134.5;LC−MS 178 m/z[MH]+、C7H7F3NOの要求値178。
【0049】
アリールオキシアミン1および5〜8に基づくオキシムエーテルのライブラリー合成。
ウェルフォーマット毎に単一の化合物でライブラリーを調製した。全てのアルデヒド(0.5M)およびアリールオキシアミン(0.4M)の保存溶液をDMSO中に調製した。1mLシリンジ、1.1mLチューブ、および内径13mmのプローブを備えたGilson 215リキッドハンドラーを用いて全ての溶液を96ウェル(容量2mL)ポリプロピレンプレートに0.3mL/分の速度で分注した。各オキシムエーテルの0.1M溶液を0.5mL作成するため、100μL(0.05mmol、1当量)のアルデヒド、156μL(0.63mmol、1.25当量)のアリールオキシアミン、および244μLの0.164M酢酸をプレートの各ウェルに分注した。プレートに蓋をして、デュアルアクションシェーカーを用いて室温にて24時間攪拌した。反応物をDMSO中720μMに希釈し、LC−MSで分析して収量、純度、および識別点を決定した。合成後、化合物を−20℃で冷凍保存した。
【0050】
反応混合物中に残っていたアルデヒドの積算値を用いて反応収量を測定した。全てのアルデヒドの較正曲線を作り、定量的に反応した全てのアルデヒドがオキシムエーテルを形成したと仮定して各オキシムエーテルの収量を計算した;すなわち、アルデヒドの5%が反応混合物中に残っていた場合、オキシムエーテルの収量は95%となるとした。収量は98〜100%の範囲であり、全てのウェルで純度>95%であった。
【0051】
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン3とアリールアルデヒドa〜lの結合のための代表的手順(方法2)。
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン3(約0.2mmol、1当量)の1,4−ジオキサン(3.0mL)中の攪拌溶液に、アルデヒド(1当量)を添加した後、0.5N HClを1滴添加し、次に反応物を室温にて攪拌した。逆相HPLCで判定される反応完了の時点で(3〜18時間)、反応物をH2O(15mL)で希釈し、沈殿を濾過し、H2Oで洗浄し、回収し、真空乾燥した。具体的な合成の細部、および下の3aについて報告されているものと同様の阻害剤3b〜lの特性決定データについての裏付けとなる情報を参照のこと。
【0052】
ベンズアルデヒド−O−(3−カルボキシフェニル)オキシム(3a)。
ベンズアルデヒド(21.0μL、0.207mmol)を、上に概説される3(31.8mg、0.208mmol)との代表的結合手順(方法2)に付し、3aを白色の固体として得た(29.0mg、58%)。1H−NMR(500MHz,1:1CD3OD:d6−DMSO)δ7.39−7.45(m,5H)、7.59−7.64(m,1H)、7.71−7.78(m,3H)、8.58(s,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ114.5、118.8、123.3、127.7、129.1、129.3、130.8、131.1、132.3、153.3、158.9、166.9;MALDI−FTMS(DHB)242.0812 m/z[MH]+、C14H12NO3の要求値242.0812。RP−HPLC:純度98%。
【0053】
ベンジル−2−フルオロベンゾエート(16)。
ベンジルアルコール(2.60mL、25.1mmol)を、Ar雰囲気下、室温にて2−フルオロ安息香酸(2.92g、20.8mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(251mg、2.05mmol)、および1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(5.16g、25.0mmol)の無水CH2Cl2中の攪拌溶液にゆっくり添加した。18時間後、沈殿を濾去し、CH2Cl2で洗浄し、濾液をシリカで濃縮して粉末とした。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%〜20%勾配EtOAc)により、16を透明な無色の液体として得た(4.20g、88%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ5.39(s,2H)、7.14(ddd,J=1.1,8.4,9.5Hz,1H)、7.20(dt,J=1.1,7.7Hz,1H)、7.31−7.36(m,1H)、7.37−7.41(m,2H)、7.44−7.48(m,2H)、7.49−7.55(m,1H)、7.96(dt,J=1.8,7.3Hz);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ66.93、117.0(d,JC-F=22.1Hz)、118.7(d,JC-F=9.6Hz)、124.0(d,JC-F=3.8Hz)、128.1、128.2、128.6、132.2、134.6(d,JC-F=9.6Hz)、135.7、162.1(d,JC-F=260Hz)、164.2(d,JC-F=3.8Hz);GC−MS 230 m/z[M]+、C14H11FO2の要求値230。
【0054】
ベンジル−4−フルオロベンゾエート(17)。
ベンジルアルコール(4.05mL、39.1mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にて4−フルオロ安息香酸(5.00g、35.7mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(432mg、3.53mmol)、および1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(8.15g、39.5mmol)の無水CH2Cl2中の攪拌溶液にゆっくり添加した。18時間後、反応物を、16の合成に概説した手順に従って後処理した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%EtOAc)により、17を透明な無色の液体として得た(7.75g、94%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ5.35(s,2H)、7.06−14(m,2H)、7.32−7.41(m,3H)、7.41−7.47(m,2H)、8.06−8.12(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ66.84、115.5(d,JC-F=22.0Hz)、126.4(d,JC-F=2.9Hz)、128.2、128.3、128.6、132.3(d,JC-F=9.6Hz)、135.9、165.5、165.8(d,JC-F=253Hz);GC−MS 230 m/z[M]+、C14H11FO2の要求値230。
【0055】
エチル−N−(2−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート(18)。
エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(2.06g、20.0mmol)の無水DMF(60mL)中の攪拌溶液に、Ar下、tBuOK(2.21g、19.7mmol)を一度に添加した。30分後、ベンジル−2−フルオロベンゾエート16(4.13g、17.9mmol)をDMF(20mL)溶液として添加し、反応物を室温にて攪拌した。3時間後、反応物をH2O(400mL)で希釈し、EtOAc(3×100mL)で抽出し、合わせた有機物をH2O(3×50mL)および塩水(brine)(50mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中5〜10%勾配EtOAc)により18を透明なシロップとして得た(3.61g、64%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.34(t,J=7.0Hz,3H)、2.00(s,3H)、4.18(q,J=7.0Hz,2H)、5.34(s,2H)、6.96(dt,J=1.1,7.7Hz,1H)、7.30−7.35(m,1H)、7.35−7.39(m,2H)、7.42−7.48(m,3H)、7.55(dd,J=1.1,8.4Hz,1H)、7.90(dd,J=1.8,7.7Hz,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.4、14.5、63.1、66.6、114.5、117.0、120.4、128.2、128.4、128.5、131.7、133.8、136.1、159.5、165.8、166.7;GC−MS 313 m/z[M]+、C18H19NO4の要求値313、228 m/z[M−85]+、ベンジル−2−ヒドロキシベンゾエート C14H12O3の要求値228。
【0056】
エチル−N−(4−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート(19)。
エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(3.79g、36.8mmol)の無水DMF(150mL)中の攪拌溶液に、Ar下、tBuOK(4.09g、36.4mmol)を一度に添加した。40分後、ベンジル−4−フルオロベンゾエート17(7.63g、17.9mmol)を添加し、反応物を室温にて攪拌した。4時間後、反応物をH2O(500mL)で希釈し、EtOAc(4×100mL)で抽出し、合わせた有機物をH2O(2×100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中5〜10%勾配EtOAc)により、19を透明なシロップとして得た(6.02g、58%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.36(t,J=7.0Hz,3H)、2.12(s,3H)、4.20(q,J=7.0Hz,2H)、5.34(s,2H)、7.15−7.19(m,2H)、7.31−7.35(m,2H)、7.36−7.41(m,2H)、7.42−7.36(m,2H)、8.00−8.14(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.3、14.4、63.1、66.4、113.4、122.9、128.1、128.1、128.6、131.5、136.3、163.5、166.3、166.4;GC−MS 228 m/z[M−85]+、ベンジル−4−ヒドロキシベンゾエート C14H12O3の要求値228。
【0057】
エチル−N−(2−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート(20)。
LiOH・H2O(431mg、10.3mmol)を、エチル−N−(2−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート18(802mg、2.56mmol)のTHF/MeOH/H2Oの9/3/3mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。6時間後、反応物をH2O(100mL)で希釈し、CH2Cl2(4×30mL)で洗浄し、0.5N HClでpH約5.0〜5.5に酸性化し、EtOAc(4×30mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(30mL)および塩水(brine)(30mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して20を白色の固体として得た(459mg、80%)。1H−NMR(500MHz,d6−アセトン)δ1.34(t,J=6.9Hz,3H)、2.18(s,3H)、4.20(q,J=6.9Hz,2H)、7.02(ddd,J=0.9,7.3,7.8Hz,1H)、7.51(ddd,J=1.8,7.3,8.7Hz,1H)、7.60(dd,J=0.9,8.7Hz,1H)7.86(dd,J=1.8,7.8Hz,1H);13C−NMR(125MHz,d6−アセトン)δ14.6、14.7、63.8、115.2、118.5、121.3、132.4、134.5、160.2、166.8、167.4;ESI−MS 224 m/z[MH]+、C11H14NO4の要求値224。
【0058】
エチル−N−(4−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート(21)。
LiOH・H2O(550mg、13.1mmol)を、エチル−N−(4−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート19(1.04g、3.32mmol)のTHF/MeOH/H2Oの9/3/3mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。24時間後、反応物をH2O(100mL)で希釈し、CH2Cl2(4×30mL)で洗浄し、0.5N HClでpH約5.0〜5.5に酸性化し、EtOAc(3×30mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(30mL)および塩水(brine)(30mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して21を白色の結晶質固体として得た(698mg、94%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.37(t,J=6.9Hz,3H)、2.14(s,3H)、4.22(q,J=6.9Hz,2H)、7.18−7.22(m,2H)、8.04−8.08(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.5、14.6、63.3、113.7、122.1、132.3、164.2、166.7、172.0;ESI−MS 224 m/z[MH]+、C11H14NO4の要求値224。
【0059】
それぞれオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを生じる、エチル−N−(2−カルボキシフェノキシ)−アセトイミデート20またはエチル−N−(4−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート21のアリールアルデヒドa〜lとの結合のための代表的手順(方法3)。
アセトイミデート20または21(約0.1〜0.3mmol、1当量)およびアルデヒド(約0.1〜0.3mmol、1当量)の1,4−ジオキサン(2.0mL)溶液に、70% HClO4(0.9当量)を添加し、反応物を室温にて攪拌した。逆相HPLCで判定される反応完了の時点で(2〜6時間)、反応物をH2O(20mL)で希釈し、沈殿を濾過し、H2Oで洗浄し、回収し、真空乾燥した。具体的な合成の細部、および下の2aについて報告されているものと同様の阻害剤2c〜lおよび4b〜lの特性決定データについての裏付けとなる情報を参照のこと。
【0060】
ベンズアルデヒド−O−(2−カルボキシフェニル)オキシム(2a)。
70% HClO4(14.0μL、0.163mmol)、ベンズアルデヒド(18.0mL、0.177mmol)、および20(39.0mg、0.175mmol)を、上に概説される代表的結合手順(方法3)に付し、2aを白色の固体として得た(26.1mg、62%)。1H−NMR(500MHz,d6−アセトン)δ7.15(dt,J=0.9,7.8Hz,1H)、7.48−7.55(m,3H)、7.59(dt,J=1.8,7.8Hz,1H)、7.71(d,J=8.2Hz,1H)、7.83−7.89(m,3H)、8.66(s,1H)、10.8−11.5(幅広いs,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ115.7、119.7、122.1、127.8、129.0、130.8、130.9、131.1、133.1、153.4、157.7、166.8;MALDI−FTMS(DHB)242.0811 m/z[MH]+、C14H12NO3の要求値242.0812。RP−HPLC:純度>99%。
【0061】
線維形成アッセイ。
野生型TTRを、前述の大腸菌発現系(Lashuel,H.A.;et al.Biochemistry 1999,38,13560−13573)から精製した。使い捨てキュベット(Fisher #14 385 938)を、10mMリン酸塩(pH7.2)、100mM KCl、1mM EDTA、および0.2% NaN3中、TTR(7.2μM)の0.4mg/mL保存液495μLで満たした。DMSO(1.44mM)中5μLの阻害剤をTTR溶液に添加し、試料を37℃にて30分間インキュベートした。次に、各キュベットに0.5mLの200mM酢酸バッファー(pH4.2、100mM KCl、1mM EDTA、0.2% NaN3)を添加してpHを4.4まで下げた。キュベットを37℃にて72時間乱さずに静置し、次にボルテックスして沈殿を試料中に均一に分布した。濁度をHewlett Packard 8453モデル UV−Vis分光光度計で350および400、または500nmで測定した。全ての試料は2通りまたは3通りに実行され、報告される結果は少なくとも3回の分析の代表例である。
【0062】
オキシムエーテル阻害剤のヒト血漿中TTRへの分液
ヒト血漿におけるTTRに対する阻害剤結合化学量論を評価するための抗体捕捉アプローチの手順は別の場所に詳細に記載されている(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。手短に言えば、ヒト血漿(1.5mL)を2mLエッペンドルフチューブに添加し、その後に試験化合物の2.16mM DMSO溶液7.5μLを添加した。この溶液を37℃にて24時間インキュベートした(この時点で10mM Tris(pH8.0)、140mM NaCl、0.025% NaN3(TSA)中、官能化されていないセファロース樹脂の1:1(v:v)スラリーは187μLであった)。これを4℃にてさらに1時間インキュベートした後、遠心分離した。上清を400μLの分割単位へ3分割し、各分割単位に、TSA中、抗TTR抗体と複合体化したセファロース樹脂の1:1スラリー200μLを添加した。4℃にて20分間穏やかに攪拌した後、試料を遠心分離し、上清を除去し、抗TTR樹脂を4℃にて1mLのTSA/0.05% サポニン(3×10分)で、次に1mLのTSA(2×10分)で洗浄した。遠心分離および上清の除去の後、155μLの100mMトリエチルアミン(pH11.5)を添加してTTRおよび結合した試験化合物を樹脂結合抗体から解離する。30分後、懸濁液を遠心分離し、TTRおよび試験化合物を含有する上清145μLを除去した。次に、上清(135μL)をHPLCに注入してTTRと結合している小分子の化学量論量を測定した。HPLC条件下、試験化合物−TTR複合体は解離し、小分子とタンパク質を分離させることができる。HPLC条件:8分間の20〜100%または40〜100%のいずれかの溶媒B勾配を用いる、Keystone 3cm C18逆相カラム(溶媒A:95:5 H2O:CH3CN、0.25% TFA;溶媒B:5:95 H2O:CH3CN、0.25%TFA)。試験化合物およびTTRの定量化は、標準曲線に対してクロマトグラムの統合されたピーク面積を比較することにより達成できる。つまり、TTRに対する試験化合物の量の比から結合化学量論量を得る(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。
【0063】
分析用超遠心分離:オキシムエーテルを基にした阻害剤の存在下、線維形成条件下でのTTRの沈降速度プロフィール分析。
線維形成アッセイで既に用いた試料(上記参照)の沈降分析をpH4.4で行った。オキシムエーテル阻害剤8fの存在下および不在下での組換えWT−TTR溶液の沈降特性を、An60Ti 回転子および光電式スキャナーを備えた、温度制御されたBeckman XL−I 分析用超遠心機で分析した。0.001cmのステップサイズを用い、280nmで検出する、20℃にて連続モードで3,000および50,000rpmの速度のデータを収集した。
【0064】
直接境界を適合させるアプローチを適用して、pH4.4で7.2μMの8fでインキュベートした3.6μMのTTR溶液から生じた沈降速度データを評価した。Svedbergというプログラムを用いて複数濃度を半径方向のデータセットに対して同時に適合させ、Lamm方程式に対する近似解を得た(Schuster,T.M.;Laue,T.M.;Editors Modern Analytical Ultracentrifugation:Acquisition and Interpretation of Data for Biological and Synthetic Polymer Systems;Birkhauser:Boston,1994)。フィッティングアルゴリズムから、以下の方程式を用いて分子量をもたらす沈降係数および拡散係数を得た(Schuster,T.M.;Laue,T.M.;Editors Modern Analytical Ultracentrifugation:Acquisition and Interpretation of Data for Biological and Synthetic Polymer Systems;Birkhauser:Boston,1994)
【数1】
(式中、MWは分子量(Da)であり、sは沈降係数(スベドベリ、10-13s)であり、Rは普遍気体定数(8.314×107 erg/mol)であり、
【数2】
は偏比容(cm3/g)であり、ρは溶媒密度(g/cm3)である。バッファーの密度D(1.00848g/cm3)を表形式データから計算し、WT−TTR(0.7346cm3/g)の偏比容をそのアミノ酸組成から計算した)。
【0065】
分析用超遠心分離:オキシムエーテルを基にした阻害剤の存在下、線維形成条件下でのTTRの沈降平衡分析。
線維形成アッセイで既に用いた試料(上記参照)の沈降分析をpH4.4で行った。TTR(3.6μM)およびオキシムエーテル8f(7.2mM)の溶液120〜140μLを、12−mmエポンセンターピースおよびサファイアもしくは石英窓を備えたダブルセクターセルに負荷することにより、沈降平衡測定を行った。最初に3,000rpmの回転子速度でデータを収集して、最初に沈降する高分子量のオリゴマーが存在していないことを確認し、次に17,000rpmでセル全体に平衡を確立した。3時間おきに285〜290nmでモニターした沈降プロフィールをオーバーレイして平衡が達成されたことを立証した。Beckman提供のオリジンソフトウェアパッケージ中の非線形最小二乗法を用いてデータ分析を行った。データをいくつかの異なるモデル(単一の理想的な種類および数個の多重な種類のモデルを含む)に合わせて、データに最も適合する最も単純なモデルを同定した。単一の理想的な種類のモデルに対応する以下の方程式は、理論上のデータと実験データ(前記)との間の僅かな差異に最も基づくデータに適合する。
【数3】
(式中、Arは半径xでの吸光度であり、Aoは対照半径xo(通常メニスカス)での吸光度であり、
【数4】
はタンパク質の偏比容であり、rは溶媒の密度であり(g/cm3)、ωは回転子の角速度であり(ラジアン/秒)、Eはベースラインエラー訂正因数であり、Mは分子量であり、Rは普遍気体定数である)。実験のデータポイントと適合したデータポイントとの間の差異(残差)を無作為に分散させると、差異の規模は小さかった(データが単一の理想的な種類のモデル(TTR四量体)と適合した場合)。その他のモデルは、セル全体の残差を無作為でない分散で識別したため、データにうまく適合しなかった。
【0066】
WT−TTR・(5d)2の結晶化およびX線データ収集。
懸滴実験において、2M硫酸アンモニウムに対して平衡化したタンパク質溶液7mg/mL(100mM KCl、1mM EDTA、10mM リン酸ナトリウム、pH7.0、0.35〜0.50M硫酸アンモニウム)から、WT−TTR結晶を得た。10倍モル過剰の阻害剤5dで3週間を越えて浸漬したWT−TTR結晶からTTR・(5d)2複合体を調製した。結晶を冷凍保護剤としてのパラトンオイル中に入れ、100Kまで冷却した。単色の高エネルギー源の14−BM−C、BIOCARS、Advance Photon Sourceを備えたQuantum−4検出器を用いてデータ収集を行った。TTR・(5d)2の結晶は、単位格子寸法がa=43Å、b=85Å、およびc=66Åに近いアポTTR結晶形態(非対称単位中の2つの単量体を含む空間群P21212)と同形である。DENZOおよびSCALEPACを用いてデータを減少させた(Otwinowski,Z.;Minor,W.Macromolecular Crystallography,Part A.In Methods in Enzymology,276:Macromolecular Crystallography,Part A;C.W.Carter,Jr.and R.M.Sweet,Eds.;Academic Press,1997,307−326)。
【0067】
WT−TTR・(5d)2結晶構造の決定および精密化。
Protein Data Bank(受託番号1BMZ)から得たアポTTRのタンパク質原子座標を、TTR・(5d)2の1.53Åデータセットに対しCNSの分子動力学およびエネルギー最小化プロトコールで精密化した(Brunger,A.T.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1998,54,905−921)。得られる差フーリエ図は、外側の結合の空洞に有意な電子密度を示した;しかし、内部の空洞の阻害剤の電子密度は、おそらくその領域の柔軟性のため、電子密度図が1s以下で輪郭が示される場合のみ目に見えた。不充分なリンカー密度にもかかわらず、リガンドは明確に配置することができ(外側の結合の空洞での電子密度のため)、結晶学的精密化に含まれた。結合チャネルを二分する2重の結晶学的回転軸のため、統計的無秩序モデルを適用して四量体TTR毎に2つのリガンド結合モードを生じさせた。模擬アニーリングおよびその後の位置および温度因子の精密化を数サイクル繰り返した後、水分子を異なる差フーリエ図に置いた。震動/ゆがみバイアス除去プロトコールにより計算した不偏加重電子密度図を用いてマップフィッティングの最終サイクルを行った(Reddy,V.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.2003,59,2200−2210)。各結合ポケットのリガンドの対称関連結合構造の双方は、不偏のアニールされたオミットマップならびに阻害剤の不在下で段階的に行われた震動/ゆがみ不偏加重図と充分一致していた。CCP4−Refmacを用いる最尤法により精密化の最終サイクルを行った(Bailey,S.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1994,50,760−763;Murshudov,G.N.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1997,53,240−255)。最終のマップには解釈可能な電子密度がなかったため、9つのN末端および3つのC末端残基は最終モデルに含まれなかった。結晶学的分析データの要約を表S4に示す。
【0068】
図の詳細な説明
図1は、ビスアリールオキシムエーテル(X=O)およびビスアリールヒドラゾン(X=NH)ライブラリーの形成のための一般的アプローチを示す模式図である。この反応は、イミン結合に関して2つの立体異性体(synおよびantiで示される、すなわち、アルデヒドプロトンがXで表されるフェノキシ酸素に対してそれぞれcisまたはtransに配向し得る)を作成する可能性があり得る;しかし、文献による先例に基づくとsyn−異性体のみが予期された(また観察された、本文参照)。
【0069】
図2は、ビスアリールオキシムエーテルライブラリー(図1参照)を合成するために用いられるアリールオキシアミン(1〜8)およびベンズアルデヒド(a〜l)構成成分の構造を示す。選択されたアリールオキシアミン(1〜8)は、アリールオキシアミン中にパラ−CF3(i)およびチロキシンのような置換パターン(eおよびf)がないことを除いてアリールアルデヒドと同じ置換パターンを有した。残念ながら、市販されている唯一のアリールオキシアミンはフェノキシアミンである;従って、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するために必要なアリールオキシアミンの構成単位の合成のための方法が開発され、本明細書において開示されていた。
【0070】
図3は、ビスアリールヒドラゾンライブラリーを合成するために用いられるアリールヒドラジン(22〜29)およびベンズアルデヒド(a〜l)化合物の構造を示す。類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾン(以下、それぞれオキシムエーテルおよびヒドラゾンと称される)を互いに同じ構造であると仮定したので、このクラスも合成した。
【0071】
図4は、線維形成の阻害について試験した96種類のビスアリールヒドラゾンの活性を示す表である。pH4.4でのWT−TTR(3.6μM)アミロイド線維形成(72時間)に対するビスアリールヒドラゾン活性(7.2μM)。値は線維形成の程度を表し、従って阻害剤の不在下でのWT−TTR線維形成(100%となるよう割り当てられる)に対する阻害剤の有効性を表す。完全な阻害は0%の線維形成に相当する。測定誤差は、±5%である。ハイスループット自動化手順により合成された全ての阻害剤は、RP−LCMSにより純度>95%を示し、予測された質量が観察された。
【0072】
図5は、オキシムエーテルおよびヒドラゾン阻害剤の構造を示す。オキシムエーテルとヒドラゾン構造の結晶学による比較により、類似の化合物が互いにほぼ重ね合わせることができることが明らかとなる。4種類の全ての結晶構造はsyn−イミン結合を示し、この異性体の優勢をさらに裏付ける。
【0073】
図6は、必要とされるアリールオキシアミンの合成のための模式図である。N−ヒドロキシフタルイミド(NHP)とアリールボロン酸の銅触媒による架橋により、ヒドラジン分解の後に所望のアリールオキシアミンが得られた(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。N−ヒドロキシフタルイミドとアリールボロン酸の銅触媒による架橋:a)CuCl、ピリジン、4Å モレキュラーシーブス、1,2−ジクロロエタン;b)H2NNH2・H2O、10% MeOH/CHCl3;c)LiOH・H2O、THF/MeOH/H2O。
【0074】
図7は、オルト−トリフルオロメチルアリールオキシアミンの合成のための模式図である。この合成は、電子欠損フルオロベンゼンのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による芳香族求核置換を必要とする(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)。2−トリフルオロメチルフルオロベンゼンへのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸の求核攻撃は優れた収量の15(89%)をもたらし、これはそのHCl塩として利用すると酸加水分解時にアリールオキシアミン5(収量96%)をもたらした。この方法論の変化形を用いて、2および4の同等物に由来するオキシムエーテルを調製した(下記参照)。エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による電子欠損フルオロベンゼンの芳香族求核置換:d)tBuOK、DMF、80℃;e)HClO4、1,4−ジオキサン。
【0075】
図8は、従来通り合成し、mg量で単離したオキシムエーテルのRP−HPLC純度の表である。高分解能MSおよび1H−および13C−NMRデータを含む、完全な構造特性決定データについては実験の項を参照のこと。ハイスループット自動化手順により合成された全ての阻害剤は、RP−LCMSにより純度>95%を示し、予測された質量が観察された。
【0076】
図9は、トランス−イミノ化アプローチによるビスアリールオキシムエーテルの合成を示す模式図である。a)ベンジルアルコール、DCC、触媒DMAP、CH2Cl2;b)エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸、tBuOK、DMF;c)LiOH・H2O、THF/MeOH/H2O;d)R’−ベンズアルデヒド(a〜l)、70% HClO4、1,4−ジオキサン。アリールアセトイミド酸は加水分解して対応するアリールオキシアミン2および4とならなかった。その代わり、アリールアセトイミド酸を酸性条件下で化学量論的な量のアリールアルデヒドと混合して、中程度から優れた収量のオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを直接得た(オキシムエーテル2bは不安定な性質のために単離できなかった)。
【0077】
図10は、酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6μM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2μM)の阻害活性をまとめた表である。合成した95種類のオキシムエーテルのうち、31種類が良好な有効性を示し、阻害剤の不在下でWT−TTRにより示されるものの<10%までTTRアミロイド形成を低下させ(90%の阻害、青色)、9種類が中程度の活性を示し(11〜30%の線維形成、緑色)、そして残りの55種類は不良な活性を示した(黄色)。チロキシンのような置換パターンを有するベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテル(e列およびf列)は、たとえ非置換フェノキシアミンと結合した場合でも非常に有効である(16種類全てが>90%の阻害を示した)。結合は、一般的に結果として弱いオキシムエーテル阻害剤となる。これらの結果は、阻害を達成するために双方の環に適切な置換基が必要とされるというこれまでの見解に挑戦する。
【0078】
図11は、酸に媒介される線維形成アッセイ(72時間)の終わりに、残留しているオキシムエーテル阻害剤のパーセントを示す表である。阻害剤(7.2μM)を暗所で3.6μM WT−TTRの不在下で、さらに3.6μM WT−TTRとともにインキュベートした(pH4.4、37℃)。5d*エントリーのためのデータは、バッファーをpH7.2で維持したことを除いて同一の条件下である。値は、アッセイの終了時点の阻害剤の分析用RP−HPLCピーク面積とアッセイの開始時点で得られるそれとを比較することにより決定された。測定誤差は、±4%である。最も安定していない阻害剤(1e、1f、2k、3g、5d*)は、TTRの不在下で72時間以内にほぼ完全に分解される;しかし、TTRの存在は初回量の>74%を保つ。特に、阻害剤5eはTTRの存在下で分解を示さなかった。このことは、なぜ多くの不安定なビスアリールオキシム阻害剤がTTRアミロイド形成の優れた阻害剤であることが分かるのかを説明する助けとなる。つまり、阻害剤がTTRの甲状腺ホルモン結合部位と結合してTTR四量体に動的な安定化を課すだけでなく(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716)、TTR結合も阻害剤を分解に対して安定させる。
【0079】
図12は、pH4.4(72時間)でのWT−TTR(3.6μM)アミロイド線維形成に対する主なオキシムエーテルおよびヒドラゾンの分解および加水分解生成物(7.2μM)の阻害活性を示す表である。値は線維形成の程度を表し、従って阻害剤の不在下でのWT−TTR線維形成(100%となるよう割り当てられる)に対する阻害剤の有効性を表す。完全な阻害は0%の線維形成に相当する。測定誤差は、±5%である。
【0080】
図13は、8fでプレインキュベートし(7.2μM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6μM)の沈降速度(A)のグラフである。A.速度分析−50,000rpmにて約15分別々に得たデータセットの重ね合わせ。データ(記号)は、MW48.4±0.2kDaの単一の理想的な種類のモデル(実線)に適合する。
【0081】
図14は、8fでプレインキュベートし(7.2μM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6μM)の平衡超遠心法研究のグラフである。平衡分析−17,000rpmの速度で24時間後に観察された平衡濃度勾配。データ(○)は、MW52.1±0.2kDaの単一の理想的な種類のモデル(実線)に適合する。残差、つまり実験データと適合データとの間の差異を挿入図に示す。
【0082】
図15は、血漿TTRに対して>90%のアミロイド阻害(7.2μM)を示すビスアリールオキシムエーテルの結合化学量論量の下限値を示す表である。ヒト血漿中のTTRに対するビスアリールオキシムエーテル結合化学量論量。TTRを様々なオキシムエーテル(10.8μM)で処理し、抗体捕捉/HPLC法により化学量論量を測定した。この方法は、洗浄に関連する損失のため最小の結合化学量論量をもたらす(Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。試験した31種類の化合物のうち、11種類が1.0を超えるTTR結合化学量論量を示し、3種類が1.5当量を越える結合を示す。最も高い結合化学量論量を示すオキシムエーテルは、1つの芳香環がチロキシンのような置換パターン(例えば3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ)を1つ有するアルデヒドに由来する。この結果は、3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ置換アリール環の組み込みが、大多数のその他の血漿タンパク質(TTRよりも約150倍高い濃度を有するチロキシン輸送タンパク質アルブミンを含む)を上回る血漿結合選択性をTTRに与えることを意味するので、非常に重要である(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326;Petitpas,I.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2003,100,6440−6445)。
【0083】
図16は、X線結晶学的データに基づく、双方のWT−TTRチロキシン結合空洞(白色の四角形部分)と結合したビスアリールオキシムエーテル5dを表すリボン図を示す。部位の中の1つの拡大図(上部)は、対称性に関連のあるその結合モードの双方にある5d(緑色および白色)と、灰色で示されたTTR結合部位表面を示す。主要な残基およびハロゲン結合ポケット(HBP)は標識されている;刺激された残基またはHBPおよび未刺激の残基またはHBPは2つの隣接する対称性に関連のある、T4部位を含む単量体にあてはまる。外側の結合ポケットのカルボン酸塩置換基がLys−15ε−NH3+基と静電相互作用していると思われる。
【0084】
図17は、オキシムエーテル5dで浸漬したWT−TTRのX線結晶構造データを示す。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】ビスアリールオキシムエーテル(X=O)およびビスアリールヒドラゾン(X=NH)ライブラリーの形成のための一般的なアプローチを示す模式図である。
【図2】ビスアリールオキシムエーテルライブラリー(図1参照)を合成するために用いられるアリールオキシアミン(1〜8)およびベンズアルデヒド(a〜l)の構成成分の構造を示す。
【図3】ビスアリールヒドラゾンライブラリーを合成するために用いられるアリールヒドラジン(22〜29)およびベンズアルデヒド(a〜l)化合物の構造を示す。
【図4】線維形成の阻害について試験した96種類のビスアリールヒドラゾンの活性を示す表である。
【図5】オキシムエーテルおよびヒドラゾン阻害剤の構造を示す。
【図6】必要とされるアリールオキシアミンの合成の模式図である。
【図7】オルト−トリフルオロメチルアリールオキシアミンの合成の模式図である。
【図8】従来通り合成し、mg量で単離したオキシムエーテルのRP−HPLC純度を示す表である。
【図9】トランス−イミノ化アプローチによるビスアリールオキシムエーテルの合成を示す模式図である。
【図10】酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6mM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2mM)の阻害活性をまとめた表を示す。
【図11】酸に媒介される線維形成アッセイ(72時間)の終わりに、残留しているオキシムエーテル阻害剤のパーセントを示す表である。
【図12】pH4.4でのWT−TTR(3.6mM)アミロイド線維形成(72時間)に対する主なオキシムエーテルおよびヒドラゾンの分解および加水分解生成物(7.2mM)の阻害活性を示す表である。
【図13】8fでプレインキュベートし(7.2mM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6mM)の沈降速度(A)を示すグラフである。
【図14】8fでプレインキュベートし(7.2mM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6mM)の平衡超遠心法研究を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスサイレチンアミロイド線維形成の阻害剤に関する。より具体的には、本発明は、トランスサイレチンアミロイド線維形成の阻害剤としてのビスアリールオキシムエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスサイレチン(TTR)アミロイド形成の過程は、末梢神経障害、臓器不全、そしてまれに中枢神経系の病態をもたらす(Sekijima,Y.;et al.Lab.Invest.2003,83,409−417;Hammarstroem,P.;et al.Biochemistry,2003,42,6656−6663;Garzuly,F.;et al.Neurology,1996,47,1562−1567;Ikeda,S.;et al.Neurology,2002,58,1001−1007;Westermark,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1990,87,2843−2845;Jacobson,D.R.;et al.N.Engl.J.Med.1997,336,466−473;Sipe,J.D.Crit.Rev.Clin.Lab.Sci.1994,31,325−354)。野生型(WT)TTR沈着により引き起こされる疾患である、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は、80歳を超える集団の10〜25%を冒す遅発性心筋症である(Westermark,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1990,87,2843−2845)。点突然変異に関連する、残りのTTRに基づくアミロイド病は、広く2つの分類:家族性アミロイド心筋症(FAC)(Jacobson,D.R.;et al.N.Engl.J.Med.1997,336,466−473)および家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)(Sipe,J.D.Crit.Rev.Clin.Lab.Sci.1994,31,325−354)に分けられる。家族性アミロイドーシスを引き起こすTTR突然変異は100を超え、家族性アミロイドーシスの発症の正確な年齢、組織選択性ならびに重症度は、特定の突然変異、個人の遺伝的背景、およびおそらく環境因子のエネルギー論に左右される(White,J.T.;Kelly,J.W.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2001,98,13019−13024;Hammarstroem,P.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2002,99,16427−16432)。
【0003】
現在利用可能なFAPの唯一の治療法は、折りたたみ不全になりやすいTTRを血流へ分泌している患者の肝臓を外科的に交換することによる遺伝子療法である(Herlenius,G.;et al.Transplantation 2004,77,64−71)。このアプローチの欠点としては、ドナーとレシピエントの双方に対して侵襲的であること、生涯にわたって免疫抑制が必要であること、および未だ明らかになっていない理由のために数個の突然変異に対する有効性が制限されていることが挙げられる(Olofsson,B.−O.;et al.Transplantation 2002,73,745−751)。現在、WT−TTR沈着に関連するSSAの有効な治療法はない。従って、一般的に適用される、全てのTTRに基づくアミロイド疾患に対する小分子治療戦略が歓迎される。
【0004】
T119Mトランスサイレチンサブユニットを、その他の点では疾患関連サブユニット(V30M)で構成される四量体へ包括することにより可能となる、複合へテロ接合体ファミリーにおける対立遺伝子間のトランス抑制は、TTRの動的安定化がFAPを寛解するのに充分であることを実証する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Coelho,T.;et al.J.Rheumatol.1993,20,179;Coelho,T.;et al.Neuromusc.Disord.1996,6,27)。トランス抑制の有効性は、小分子の天然の状態の動的安定化がアミロイドーシスも寛解するはずであることを示唆する(Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909)。疾患に関連する折りたたみ不全を防ぐためにタンパク質の自由エネルギー地形を調整する小分子の有用性が、現在いくつかの事例において証明されている(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;De Lorenzi,E.;et al.Curr.Med.Chem.2004,11,1065−1084;Hardy,J.;et al.Science 2002,297,353−356;Ray,S.S.;Lansbury,P.T.,Jr.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2004,101,5701−5702;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552)。
【0005】
TTRは、222の分子対称性を特徴とする127残基のβシートリッチなホモ四量体であり、2つのチロキシン(T4)結合部位を有する(Blake,C.C.;et al.J.Mol.Biol.1974,88,1−12;Blake,C.C.;et al.J.Mol.Biol.1978,121,339−56)。脳脊髄液(CSF)および血漿の双方におけるTTR T4結合能の大部分(>99%)は、TTRの濃度が高いこと、ならびに甲状腺結合グロブリン(血液)および、同様にT4を有するアルブミン(血液およびCSF)が存在することのために利用されていない(Bartalena,L.;Robbins,J.Clin.Lab.Med.1993,13,583−598;Schreiber,G.;Richardson,S.J.Comp.Biochem.Physiol.B Biochem.Mol.Biol.1997,116,137−160;Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326)。律速な四量体の解離がアミロイド形成には必要とされる(Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1992,31,8654−8660;Hammarstroem,P.;et al.Science 2001,293,2459−2462;Lai,Z.;Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1996,35,6470−6482;Lashuel,H.A.;Lai,Z.;Kelly,J.W.Biochemistry 1998,37,17851−17864)が、充分ではない(Jiang,X.;et al.Biochemistry 2001,40,11442−11452)。結果として生じる折りたたまれた単量体も部分的な変性を受けて構築不全となるに違いないからである(Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1992,31,8654−8660;Lai,Z.;Colon,W.;Kelly,J.W.Biochemistry 1996,35,6470−6482;Lashuel,H.A.;Lai,Z.;Kelly,J.W.Biochemistry 1998,37,17851−17864;Jiang,X.;et al.Biochemistry 2001,40,11442−11452;Liu,K.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,754−757)。これまでの研究は、T4結合が、天然の状態の動的安定化によりTTRの凝集を阻害することを実証する。解離のための活性化障壁は、解離の遷移状態に対して天然の四量体が優先的に安定化することにより増加する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960)。
【0006】
スクリーニング、構造に基づく設計、および平行合成によるリード化合物の最適化は、いくつかのその他の構造上異なるクラスの強力なTTRアミロイド形成阻害剤を導く(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。効果的な阻害剤は、一般に、直接結合しているかまたはスペーサー(アミン、エーテル、またはエチレン架橋など)を介して結合している2つのアリールを有する。好ましくは、1つのアリールがハロゲンまたは脂肪族基(一般にチロキシン結合部位の内部の空洞を占有)で官能化され、もう1つのアリールがヒドロキシルおよび/またはカルボン酸により官能化されている(外側の結合空洞の周辺でLys−15 e−NH3+および/またはGlu−54カルボキシル基と静電気的に相互作用することができる)(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。双方の空洞はハロゲン結合ポケットと呼ばれる疎水性の陥凹部を有し、アリール部分構造およびそれらの疎水性置換基により補完される。
【発明の開示】
【0007】
多数のTTR・(阻害剤)2共結晶構造における置換芳香族の配向および配置、合成のしやすさ、ならびに未来のハイスループット動的コンビナトリアルライブラリー解析の可能性を考慮した後(Nazarpack−Kandlousy,N.;et al.J.Comb.Chem.1999,199−206;Hochguertel,M.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2002,99,3382−3387)、本発明者らは2つのアリール環と結合するアルドキシムエーテル部分を検討することを選択した。オキシムエーテル部分を含有するFDA認可抗菌薬がいくつかあることから、この部分構造がヒト生物学に適合することが示唆される(オキシムエーテル部分を含有するFDA認可抗菌薬は、医薬品の開発に関するデータを含有するProus Science Publishers提供のDrug Data Reportをスキャンする、MDL Information Systems,Inc.,MDDR 2003.2 (25.11)データベース提供のMDL ISIS/Base 2.5を用いて見出された)。本研究の目的は、ヒト血漿において高い親和性でTTRと結合し(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)、アミロイド形成に対して天然の状態を安定化させる(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,no.6968,905−909)、ビスアリールアルドキシムエーテル構造を見出すことである。
【0008】
律速な四量体の解離および単量体の折りたたみ不全を必要とする、血漿タンパク質トランスサイレチン(TTR)によるアミロイド線維形成は、いくつかのヒト疾患に関わっている。アミロイド形成は、TTRの主として未使用の甲状腺ホルモン結合部位と結合している小分子に媒介される、天然の状態の安定化によって阻害することができる。アリールアルデヒドをアリールオキシアミンで簡便に縮合することにより新規な天然の状態の安定化剤が本明細書において見出され、ビスアリールアルドキシムエーテルライブラリーをもたらした。ライブラリーの95種類の化合物のうち、31種類はインビトロでのTTRアミロイド形成の活性阻害剤であった。ビスアリールオキシムエーテルは、アミロイド形成条件下で、解離の遷移状態の間、TTRの天然の四量体状態を選択的に安定化させ、解離の活性化障壁の増大を引き起こす。いくつかのビスアリールオキシムエーテルは、ヒト血漿中の多量のその他の血漿タンパク質よりもTTRと選択的に結合し、これはインビボでの有効性に必要な特性である。ビスアリールアルドキシムエーテルはN−O結合の切断による分解に対して感受性が高いが、この過程はそれらがTTRと結合することにより遅くなる。さらに、多くのビスアリールアルドキシムエーテルの分解速度は、血漿TTRの半減期と比較して遅い。ビスアリールオキシムエーテルライブラリーは、当然必要であると分かる、優れた安定性プロフィールを有する構造上類似の阻害剤の開発のために、価値のある構造活性相関の洞察をもたらす。
【0009】
本発明の一態様は、下の式I
【化1】
に表されるビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンを対象とする。
式Iにおいて、R’は、存在しないか、または、−COOH、−OH、−F、−I、−Br、−Cl、およびCF3からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;Rは、存在しないか、または、−COOH、−F、−Cl、およびCF3からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;さらに、Xは、−NH−および−O−からなる群から選択されるジラジカルである。好ましい実施形態では、Xは、−O−であり;別の好ましい実施形態では、Xは、−NH−である。さらに好ましい実施形態では、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンは下の式II:
【化2】
で表される。
式IIにおいて、ラジカルAは以下の群
【化3】
から選択される。
さらに好ましい実施形態では、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンは、下の式III
【化4】
で表される。
式IIIにおいて、ラジカルBは以下の群:
【化5A】
【化5B】
から選択される。
【0010】
本発明の別の態様はトランスサイレチンのアミロイド線維形成を阻害するための方法を対象とする。この方法は、トランスサイレチンを阻害濃度の式I、II、またはIIIのビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンと接触させる段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾンのX線結晶解析は、両者が同じ構造であることを示す。ヒドラゾンライブラリー活性に基づいて合成された95のオキシムエーテルライブラリーメンバーのうちほぼ1/3が、濃度7.2μMで優れたTTRアミロイド形成阻害剤であり、四量体WT−TTRの濃度の2倍である(pH4.4で72時間、阻害>90%)。最も優れた阻害剤は、カルボン酸で置換された1つの芳香環を有するが、もう一方のアリール環はハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する。チロキシンのような置換パターンのアリールアルデヒドから調製したオキシムエーテルも、優れた活性および顕著なTTR血漿結合選択性を示す。いくつかのものは2のうち1.5を超える結合化学論量を示す。オキシムエーテルは、解離の遷移状態に対してTTRの天然の状態を選択的に安定化させるだけでなく、実質的に四量体の解離およびアミロイドーシスを遅らせるが、ビスアリールオキシムエーテルが不安定性を示す場合には、TTR結合によって、それらの分解はバッファーのみと比較して顕著に遅くなる。
【0012】
オキシムエーテルライブラリーの設計。アリールオキシアミンは、アリールアルデヒドと結合して所望のビスアリールオキシムエーテルライブラリーを生成するための出発物質として必要である(図1、X=O)。この反応は、イミン結合に関して2つの立体異性体(図1のsynおよびantiで示される、すなわち、アルデヒドプロトンがXで表されるフェノキシ酸素に対してそれぞれcisまたはtransに配向し得る)を作成する可能性があり得る;しかし、文献による先例に基づくとsyn−異性体のみが予期された(かつ観察された、下記参照)(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095;Rappoport,Z.;Sheradsky,T.J.Chem.Soc.B,Phys.Org.1967,9,898−903)。
【0013】
その他の有力なTTRアミロイド形成阻害剤において同定された構造上の特性に基づいて、オキシムエーテル置換基および置換パターンを選択した(図2)(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.E.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,2758−2761)。選択されたアリールオキシアミン(1〜8)は、アリールオキシアミン中にパラ−CF3(i)およびチロキシンのような置換パターン(eおよびf)がないことを除いてアリールアルデヒドと同じ置換パターンを有した。残念ながら、市販されている唯一のアリールオキシアミンはフェノキシアミンである;従って、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するために必要なアリールオキシアミンの構成単位の合成のための方法は、本明細書または他の場所に記載されている(Abele,E.;Lukevics,E.Org.Prep.Proced.Int.2000,32,235−264;Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142;Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600;Choong,I.C.;Ellman,J.A.J.Org.Chem.1999,64,6528−6529)。対照的に、容易に入手できるアリールアルデヒドと結合してビスアリールヒドラゾンライブラリーを作成するための、150種類を超えるアリールヒドラジンが市販されている(図1、X=NH)。類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾン(以下、それぞれオキシムエーテルおよびヒドラゾンと称される)が互いに同じ構造であると考えられるため、ヒドラゾンライブラリーの迅速な自動合成(図3)を行って、阻害剤のこの構造クラスが活性を有するかどうかクエリーした(図4)。
【0014】
オキシムエーテルとヒドラゾンの特性決定および結晶学的比較。推定された同じ構造である性質を確認するため、それぞれスキャフォールド5b/d(図2)およびスキャフォールド26b/d(図3)を基にして類似するオキシムエーテルとヒドラゾンの対を合成し、結晶化し、それらの構造をX線回折により決定した。オキシムエーテルとヒドラゾン構造を結晶学により比較すると、この類似する化合物が互いにほぼ重ね合わせることができることが明らかとなる(図5)。4種類の全ての結晶構造はsyn−イミン結合を示し、この異性体の優勢をさらに裏付けている(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095;Rappoport,Z.;Sheradsky,T.J.Chem.Soc.B,Phys.Org.1967,9,898−903)。
【0015】
ヒドラゾン(純度>94%)およびオキシムエーテル(純度>95%)ライブラリー作成に関連する全ての粗反応混合物のHPLCおよびLC−MSの痕跡は、主に1つのピークを示し、単一の異性体(先例から推論され、X線結晶学により裏付けたsyn−イミン結合)が優勢であることを示唆する。原則として、syn−およびanti−異性体の双方が同時に溶出するか急速に相互転換し、syn−異性体として選択的に結晶化することは可能である;しかし、伝統的な手段で合成されたヒドラゾンおよびオキシムエーテルの1H−および13C−NMRスペクトルは、単独の異性体のものと一致する共鳴を示す(文献による先例は、好ましいsyn−異性体が、室温でNMRによってtrans−異性体と区別されることを証明している)(Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1962,84,753−755;Lustig,E.J.Phys.Chem.1961,65,491−495;Karabatsos,G.J.;et al.J.Am.Chem.Soc.1963,85,2784−2788;Karabatsos,G.J.;Taller,R.A.J.Am.Chem.Soc.1963,85,3624−3629;Sheradsky,T.;Nov,E.J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1980,12,2781−2786;Karabatsos,G.J.;His,N.Tetrahedron 1967,23,1079−1095)。
【0016】
オキシムエーテルライブラリーの合成および活性。ヒドラゾン(全て純度>94%)が阻害剤活性を示したので、同等のオキシムエーテルライブラリーもTTRアミロイド形成阻害剤を作成することができると仮定した。この仮定を本明細書で確認する。いくつかのビスアリールヒドラゾンは、TTRアミロイド形成の強力な阻害を示し(図4)、類似するオキシムエーテルライブラリーの調製および評価が正当であることを証明した。水性ヒドラゾンの不安定性(主にシッフ塩基の加水分解による)およびヒドラゾンの生物学的毒性は、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するさらなる意欲をもたらす。ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを作製するために必要なアリールオキシアミンの調製のための2つの合成戦略を用いた。最初に、N−ヒドロキシフタルイミド(NHP)のアリールボロン酸との銅触媒による架橋により、ヒドラジン分解の後に所望のアリールオキシアミンが得られた(図6)(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。遊離塩基として単離された(3、6、および7)か、またはそれらの塩酸塩として沈殿した(1および8)アリールオキシアミンを、この方法論を用いて良好から中程度の全収率で合成した。
【0017】
銅触媒による結合の方法論は、アリールボロン酸上のオルト−ハロゲン化物またはオルト−CF3置換基に不耐性であるように思われる(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。さらに、N−ヒドロキシフタルイミド中間体の脱保護に必要とされるヒドラジン分解は、オルト−カルボキシル置換基を有するアリールオキシアミンに対して成功しない。その他の方法をいくつか検討した後、エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による電子欠損フルオロベンゼンの芳香族求核置換を選択して最初の方法を補完した(図7)(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)。2−トリフルオロメチルフルオロベンゼンへのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸の求核攻撃は優れた収量の15(89%)をもたらし、これは酸加水分解時にアリールオキシアミン5(収量96%)をもたらし、そのHCl塩として利用した。この方法論の変化形を用いて、2および4の同等物に由来するオキシムエーテルを調製した(下記参照)。
【0018】
アリールオキシアミン1および5〜8を用いてオキシムエーテルライブラリーの一部を作成した(図2)。DMSO中の酢酸(0.08M)の存在下、アリールアルデヒド(0.1M)とアリールオキシアミン(0.125M)の反応により、25℃にて24時間以内にオキシムエーテルをほぼ定量的収率で得た(全てのフェノキシアミンおよびヒドラジンをTTRアミロイド阻害剤として試験したが、ライブラリー合成にそれらを過度に用いたため、阻害は明らかとならなかった)。5種類のアリールオキシアミン(1および5〜8)および12種類のアルデヒド(a〜l)をあらゆる可能性のある組合せで縮合し、ウェルフォーマット毎に単一の化合物でGilson 215リキッドハンドラーを用いて60種類のオキシムエーテルを得た。反応をLC−MSにより解析して、すべてのウェルで収量(98〜100%、アルデヒド消費に基づく、実験の項を参照)および生成物の純度(>95%)を決定した(全ての生成物はその予測質量を示す)。純粋な化合物を従来通り合成し、完全な特性決定を行った(実験の項の裏付けとなる情報を参照)7つの場合において(1e、5d〜f、7e、および8e〜f)、HPLCでの同時溶出により生成物の構造および純度を確認した。
【0019】
オキシムエーテルライブラリーの残りのメンバーを伝統的な合成手順で調製し、mg量で単離した(完全な特性決定データについては実験の項および裏付けとなる情報を参照、さらに、RP−HPLCで測定された化合物の純度については図8を参照)。触媒のHClの存在下、O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン(3)をアリールアルデヒドa〜lで縮合し、中程度から優れた収量のオキシムエーテル3a〜lを得た。エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸のSNAr手順を用いて、化合物20および21をそれぞれ全収率45%および51%で調製した(図9)。アリールアセトイミド酸エステルは加水分解して対応するアリールオキシアミン2および4とならなかった。その代わり、アリールアセトイミド酸エステルを酸性条件下で化学量論的な量のアリールアルデヒドと混合して、中程度から優れた収量のオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを直接得た(オキシムエーテル2bは不安定な性質のために単離できなかった)。
【0020】
酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6μM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2μM)の阻害活性を表10にまとめている。合成した95種類のオキシムエーテルのうち、31種類が良好な有効性を示し、阻害剤の不在下でWT−TTRにより示されるものの<10%までTTRアミロイド形成を低下させ(90%の阻害、青色)、9種類が中程度の活性を示し(11〜30%の線維形成、緑色)、そして残りの55種類は不良な活性を示した(黄色)。
【0021】
チロキシンのような置換パターンを有するベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテル(図10、e列およびf列)は、たとえ非置換フェノキシアミンと結合した場合でも非常に有効である(16種類全てが>90%の阻害を示した)。非置換フェノキシアミンとの結合は、一般的に結果として弱いオキシムエーテル阻害剤となる。これらの結果は、阻害を達成するために双方の環に適切な置換基が必要とされるというこれまでの見解に挑戦する。
【0022】
ハロゲン化アリールオキシアミンとメタ−もしくはパラ−カルボキシベンズアルデヒドとの縮合から得られたさらなるオキシムエーテル(またはその逆も同様)は、環に関係なくカルボン酸置換基を有する強力な阻害剤を生成した。これらの結果は結合の配向性が、Lys−15のε−NH3+基との静電相互作用を保存するように変化する可能性のあることを示唆する。オルト−カルボキシベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテルからは良好な阻害剤が生成されない。オキシムエーテル由来のカルボキシベンズアルデヒドの活性を、最高から最悪までランク付けすると、メタ>パラ>オルトとなり、カルボキシフェノキシアミンに由来するオキシムエーテルの活性のランク:メタ≒パラ>オルトに類似する。双方の環にカルボン酸またはハロゲンを有するオキシムエーテル(T4のような置換を除く)は、よくても中程度の活性を示した。
【0023】
アリールアルデヒドおよびフェノキシアミンが縮合する能力自体は動的コンビナトリアルライブラリーアプローチに役立つが(Nazarpack−Kandlousy,N.;et al.J.Comb.Chem.1999,199−206;Hochguertel,M.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2002,99,3382−3387)、一般に、阻害は、2つの結合部位間のアロステリックな情報伝達により結合している2つの異なる小分子で最大であるという、起こり得る複雑な問題が既に報告されている(Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414)。従って、構造活性相関データは、動的コンビナトリアルライブラリーで生じる阻害剤の組合せの影響により複雑化する可能性がある。
【0024】
ビスアリールアルドキシムエーテルの安定性。多くのビスアリールアルドキシムエーテルはTTRアミロイド形成の強力な阻害剤であるが(図10)、それらは酸性かまたは塩基性の水性媒質中で安定性の幅を示す(一次分解半減期はTTRの不在下で数時間〜数日の範囲である)。ヒドラゾンとは違って、オキシムエーテルは中性および塩基性条件でシッフ塩基加水分解に対して安定しているように思われるが、それらは、明らかにオキシムエーテルのN−O結合の切断による一次反応速度でなおゆっくりと分解し、フェノールおよびアリールニトリルをもたらすことができる。このN−O結合の切断は、高い温度での先例はあるものも、このような軽度の条件下では予期されていなかった (Miller,M.J.;Loudon,G.M.J.Org.Chem.1975,40,126−127;Supsana,P.;Tsouongas,P.G.;Varvounis,G.Tet.Lett.2000,41,1845−1847;Knudsen,R.D.;Snyder,H.R.J.Org.Chem.1974,39,3343−3346;Gomez,V.;Perez−Medrano,A.J.Org.Chem.1994,59,1219−1221;Cho,B.R.;et al.J.Org.Chem.1991,56,5513−5517;Royer,R.E.;et al.J.Med.Chem.1986,29,1799−1801;Castellino,A.J.;Rapoport,H.J.Org.Chem.1986,51,1006−1011;Blake,J.A.;et al.J.Org.Chem.2004,69,3112−3120)。
【0025】
オキシムエーテルは、それらの明白な分解「半減期」によると、類似するヒドラゾンよりも質的に安定している(分解過程は一次的でないので、明白なヒドラゾン「半減期」は50%消失に要する時間を指す)。いずれかの芳香環上の電子供与基およびオルト−置換基は、ビスアリールアルドキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾンの双方の分解速度を増加させるように思われる。
【0026】
概して、阻害剤(7.2μM)のTTR(3.6μM)との結合は、酸に媒介される線維形成条件下で(pH4.4、37℃、72時間)、化合物を分解から安定化させる働きをする。最もよい阻害剤(線維形成<10%)の中の11種類に関して、RP−HPLC分析により、酸に媒介される線維形成アッセイの終わりに初期のオキシムエーテルの>74%が残っていることが明らかとなる(図11)。最も安定していない阻害剤(1e、1f、2k、3g、5d*)は、TTRの不在下で72時間以内にほぼ完全に分解される;しかし、阻害剤の存在は初回量の>74%を維持する。特に、阻害剤5eはTTRの存在下で分解を示さなかった。このことは、なぜ多くの不安定なビスアリールオキシム阻害剤がTTRアミロイド形成の優れた阻害剤であることが分かるのかを説明する助けとなる。つまり、阻害剤がTTRの甲状腺ホルモン結合部位と結合してTTR四量体に動的な安定化を課すだけでなく(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716)、TTR結合も阻害剤を分解に対して安定させる。
【0027】
また、分析を行って、活性が主として個々のオキシムエーテルによるものであってそれらの提案される分解生成物によるものでないことを確認するのに役立てた。分解性の副生成物が観察した阻害剤の有効性に寄与するかどうかを判定するため、対応するフェノールおよびニトリル(オキシムエーテルの場合)、アニリン(ヒドラゾンの場合)、ならびにアルデヒド(オキシムエーテルとヒドラゾンの双方の場合)をそれらの線維形成阻害特性について分析した。3,5−ジハロ−4−ヒドロキシベンゾニトリルおよび類似するアルデヒド分解生成物は、四量体のTTRの2倍の濃度でTTR線維形成の強力な阻害剤である(図12)。3,5−ジクロロフェノールも、四量体のTTR(3.6μM)の濃度の2倍の濃度(7.2μM)で線維形成を86%阻害する。しかし、その他の分解生成物(ニトリル、フェノール、またはアニリン)はどれも目に見えるほどの活性を示さない。従って、大部分のアミロイド形成阻害剤の有効性が、親ビスアリールオキシムエーテルに起因するものであり、分解性の副生成物に起因するものでないと結論付けるのが妥当であり、それにより分解の機構的要件を理解するため、および医化学目的のためにこれらの構造または関連する構造を安定させるための意欲がもたらされた。
【0028】
アミロイド形成条件下、阻害剤8fの存在下でのTTRの四量体構造の分析用超遠心分離評価。沈降速度と平衡分析用超遠心分離実験の双方を用いて、一般的に四量体を解離させ、単量体を構築不全の構成成分とするアミロイド形成条件下で、阻害剤8fのTTRの四量体構造への影響を評価した(72時間、pH4.4、37℃)。WT−TTR(3.6μM)と結合したオキシムエーテル8f(7.2μM)を、これらの条件下で50,000rpmにて沈降速度分析に付し(図13)、TTRがS値3.7(分子量48.4±0.2kDaに相当する)の、単一の種類として沈降している四量体のままであることが示された。阻害剤を欠く同一の実験では四量体のTTRは検出されなかった−アミロイド形成の過程に一致する、高分子量のTTRの凝集体のみが観察された。沈降平衡分析(17,000rpm)によるさらなる精査は、単一の理想的な種類のモデル(図14;52.1±0.2kDa)に適合するデータを示し、四量体WT−TTR・(8f)2の計算された分子量(56,374Da)と充分一致している。濃度の関数としての細胞全体の分子量分布の分析も、僅かに50kDaを超える分子量の単一の種類を示した。
【0029】
ヒト血漿中のTTRと結合するオキシムエーテルの選択性。臨床研究に小分子を用いてアミロイドについての仮説(アミロイド形成の過程が神経毒性または組織損傷をもたらすという考え)を検証するためには、小分子はその他の全ての血漿タンパク質の存在下で血漿中のTTRと選択的に結合する必要がある。最も活性の高いオキシムエーテルとヒト血漿中のTTRとの結合化学量論量を、既に報告されている抗体捕捉/HPLC法を用いて評価した(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。手短に言えば、試験化合物を10.8μMの濃度(TTRの血漿濃度の約2〜3倍)でヒト血漿に溶解する。24時間(37℃)のインキュベーションの後、TTRおよびそれと結合している任意の小分子を、セファロース樹脂と共有結合したポリクローナルTTR抗体を用いて免疫沈降させる。樹脂を洗浄し、TTR・(小分子)n<2複合体を高いpHで解離させ、次にTTRと結合した小分子の化学量論量を、阻害剤およびTTRの相対量を定量化するための標準曲線を用いる分析用逆相HPLCにより判定する(TTRの2つのチロキシン結合部位により最大阻害剤化学量論量は2である)。阻害剤の中には抗体捕捉の後に必要な洗浄段階で失われるものもあり得るため、本方法は、阻害剤の結合化学量論量の下限値を確立する。
【0030】
血漿TTRに対して>90%のアミロイド阻害(7.2μM)を示すビスアリールオキシムエーテルの結合化学量論量の下限値を、図15に示す。試験した31種類の化合物のうち、11種類が1.0を超えるTTR結合化学量論量を示し、3種類が1.5当量を越える結合を示す。最も高い結合化学量論量を示すオキシムエーテルは、1つの芳香環がチロキシンのような置換パターン(例えば3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ)を1つ有するアルデヒドに由来する。この結果は、3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ置換アリール環の組み込みが、大多数のその他の血漿タンパク質(TTRよりも約150倍高い濃度を有するチロキシン輸送タンパク質アルブミンを含む)を上回る血漿結合選択性をTTRに与えることを意味するので、非常に重要である(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326;Petitpas,I.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2003,100,6440−6445)。しかし、これらの結果は、これらの化合物が血液中で主なチロキシン輸送タンパク質である、TBGと(TTRの約1/10の濃度で)結合する可能性に対応していない。従って、TBGの結合能力が飽和しても、TTRの結合選択性結果にあまり影響を及ぼさない(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326)。自動化された手順によって合成された、0.5を超える結合化学量論量を示す数個のオキシムエーテル(1e、5d〜f、7e、および8e〜f)も、従来法によりmg量で合成し、単離し、それらの結合化学量論量を再評価した。全ての場合において同じ結果が得られ、自動化により調製されたオキシムエーテルと、従来法により調製されたオキシムエーテルが同一であることが証明された。
【0031】
WT−TTR・(5d)2の結晶構造。ビスアリールオキシムエーテルによるアミロイド阻害のための構造基盤を解明するため、強力な凝集阻害と血漿選択性の双方を示すいくつかの化合物の共結晶構造に着手した。WT−TTR・(5d)2の複合体は、分解能1.53Åの最良の共結晶構造データをもたらし、本明細書に提示されている(図16および図17)。高分解能データにもかかわらず、トリフルオロメチル置換芳香環は、電子密度オミットマップの輪郭を示す1σ未満でようやく目に見え、それらの領域の比較的高い柔軟性を示している。しかし、側鎖の配向および震動「n」とゆがみのオミットマップ(Reddy,V.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.2003,59,2200−2210)から、ほぼ最小のエネルギー構造におけるタンパク質の中心チャネル(各甲状腺ホルモン結合ポケットに1つ)内に結合した2つの分子の最終的な配向および位置を得た。各ホルモン部位には、結合チャネルを二分する2重の回転軸により、2つの対称な同等の結合構造が含有される。
【0032】
阻害剤5dは「順方向」結合モードのTTR中にあり、それは、外側の空洞にあってLys−15と好ましい静電相互作用をするカルボン酸置換芳香環を有する阻害剤と呼ばれる(Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321)。カルボキシル基は、Thr−106(2.73Å)およびLys−15残基と水素結合を形成する。Lys−15の側鎖は阻害剤との疎水性相互作用(ε−CH2)および静電(ε−NH3+−3.3Å)相互作用の双方に寄与する。また、Leu−17、Leu−17’、Ala−108、Ala−108’、Leu−110、Leu−110’、Thr−119、Thr−119’、Val−121、およびVal−121’の疎水性側鎖間に阻害剤が積み重なる時に、疎水性相互作用およびファンデルワールス相互作用の双方により結合が安定化される。トリフルオロメチル置換基は、内部の空洞のハロゲン結合ポケット3(HBP−3)の一部を占有する。内部空洞のSer−117ヒドロキシル基は阻害剤から離れて配向し、それらのβ−CH2部分構造によるさらなる疎水性相互作用に寄与する。リンカーである酸素と窒素は、TTRと静電相互作用を行わないと思われ、従ってその結合および活性にあまり寄与しない可能性があり、オキシムエーテルおよびヒドラゾンにより提示される類似の活性、ならびにスチルベン、ジアリールアミン、およびジアリールエーテルは全て活性があるという以前の報告に一致する(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716;Sacchettini,J.C.;Kelly,J.W.Nat.Rev.Drug Disc.2002,1,267−275;Cohen,F.Ε.;Kelly,J.W.Nature 2003,426,6968,905−909;Miller,S.R.;Sekijima,Y.;Kelly,J.W.Lab.Invest.2004,84,545−552;Miroy,G.J.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1996,93,15051−15056;Peterson,S.A.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998,95,12956−12960;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.Submitted;Purkey,H.Ε.;et al.Chemistry & Biology.In press;Adamski−Werner,S.L.;et al.J.Med.Chem.2004,47,355−374;Green,N.S.;et al.J.Am.Chem.Soc.2003,125,13404−13414;Petrassi,H.M.;et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,2178−2192;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,1389−1401;Oza,V.B.;et al.Bioorg.Med.Chem.Lett.1999,9,1−6;Baures,P.W.;et al.Bioorg.Med.Chem.1999,7,1339−1347;Klabunde,T.;et al.Nat.Struct.Biol.2000,7,312−321;Oza,V.B.;et al.J.Med.Chem.2002,45,321−332;Razavi,H.;et al.Angew.Chem.Int.Εd.2003,42,2758−2761)。しかし、リンカーが採った構造は2つの芳香環を配向させるために極めて重要であると思われる。
【0033】
実験の項
一般的な合成法
特に明記しない限り、全ての化学物質は民間の供給業者から購入し、さらなる精製を行わずに用いた。反応の進行は、シリカゲル60 F254をコートしたガラス板(EM Sciences)での薄層クロマトグラフィーにより、かつ/または分析的RP−HPLCによりモニターした。全てのフラッシュクロマトグラフィーは、230〜400メッシュのシリカゲル60(EM Sciences)を用いて行った。NMRスペクトルをBruker 300、400、500、または600MHz分光器のいずれかで記録した。化学シフトは、CDCl3溶液の内部標準Me4Si(0.0ppm)から低磁場の百万分の1の単位で報告されるか、または、Me4Siが13C−NMRスペクトルに見られない場合は溶媒ピーク(CDCl3 77.16ppm)の較正を行った。d6−DMSO、d6−アセトン、またはCD3OD中の試料に関して、1H−NMRについてそれぞれ3.49、2.05、および3.31ppmで、さらに13C−NMRについてそれぞれ39.52、29.84、および49.00ppmで、溶媒ピークの較正を行った。Waters 486 チューナブル吸光度検出器およびWaters 717オートサンプラーを用いるWaters 600 E多溶媒送達系で逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を行った。ThermoHypersil−Keystone Betabasic−18カラムを分析用逆相HPLC分析(71503−034630モデル、孔径150Å、粒径3μM)に用い、Vydac C18カラムを分取HPLC(218TP1022モデル、孔径300Å、粒径5μM、内径22mm×250mm)に用いた。溶媒系Aは、95:5 H2O:CH3CNと0.25%トリフルオロ酢酸(TFA)、溶媒Bは、5:95 H2O:CH3CNと0.25%TFAであり、直線勾配は、A:B 0:100、80:20、または60:40のいずれかからA:B 0:100で流した。Zorbax SB−C18(5mm、2.1×50mm)カラムを備えたHewlett Packard HPLC−MSで高速液体クロマトグラフィー・質量分析(HPLC−MS)を行い、Gilson 215リキッドハンドラーを用いて溶媒送達を行った。全ての質量分析データは質量分析のためにScripps Research Institute Centerで収集された。
【0034】
フェノキシアミンの調製のための、フェニルボロン酸とN−ヒドロキシフタルイミドの銅触媒による結合の代表的手順(方法1):9の合成。
20mLシンチレーションバイアルを、N−ヒドロキシフタルイミド(163mg、1.0mmol)、塩化銅(I)(99mg、1.0mmol)、活性化したばかりの4Åモレキュラーシーブス(約250mg)、およびフェニルボロン酸(244mg、2.0mmol)で満たした。1,2−ジクロロエタン(5mL)を添加し、続いてピリジン(90μL、1.1mmol)を添加すると、淡褐色の懸濁液が生じた。反応懸濁液が空気に触れるようにキャップを緩め、分析用RP−HPLCによる検出が完了するまで室温にて攪拌した(反応が進行するにつれて混合物の色は褐色からエメラルドグリーンへ変化した)。完了すると(約48時間)、混合物はシリカゲルに吸収され、濃縮されて粉末となった。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中25%EtOAc)によりN−フェノキシフタルイミド9を白色の固体として得た(216mg、90%);特性決定データについては下記参照。
【0035】
N−フェノキシフタルイミド(9)。
9の調製は、上記に代表的手順(方法1)として記載した。1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ7.12−7.20(m,3H)、7.32−7.38(m,2H)、7.80−7.84(m,2H)、7.90−7.94(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ114.4、124.0、128.8、129.7、134.9、158.9、162.9;MALDI−FTMS(DHB)240.0656 m/z[MH]+、C14H10NO3の要求値240.0655。
【0036】
N−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)フタルイミド(10)。
3−トリフルオロメチルフェニルボロン酸(380mg、2.0mmol)を、上に概説されるN−ヒドロキシフタルイミド(NHP)との代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中40%EtOAc)により、10を白色の固体として得た(270mg、88%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ7.34−7.38(m,1H)、7.40−7.45(m,2H)、7.47(m,J=0.9,8.1Hz,1H)、7.82−7.87(m,2H)、7.92−7.97(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ111.6、117.8、118.1、121.4、122.3、124.2、128.8、130.5、132.2、135.1、159.0、162.8;LC−MS 309 m/z[MH]+、C15H9F3NO3の要求値309。
【0037】
N−(3,5−ジクロロフェノキシ)フタルイミド(11)。
3,5−ジクロロフェニルボロン酸(382mg、2.0mmol)を、上に概説されるNHPとの代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中50%CH2Cl2)により、11を白色の固体として得た(139mg、45%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ7.07(m,2H)、7.13−7.16(m,1H)、7.81−7.86(m,2H)、7.71−7.96(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ113.7、124.2、125.0、128.8、135.2、135.9、159.7、162.5;LC−MS 276 m/z[MH]+、C14H8Cl2NO3の要求値276。
【0038】
N−(3,5−ジフルオロフェノキシ)フタルイミド(12)。
3,5−ジフルオロフェニルボロン酸(316mg、2.0mmol)を、上に概説されるNHPとの代表的結合手順(方法1)に付した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(トルエン中10%CH2Cl2)により、12を白色の固体として得た(197mg、72%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ6.58−6.63(m,1H)、6.68−6.73(m,2H)、7.82−7.87(m,2H)、7.92−7.97(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ98.5(m)、100.3(t,JC-F=25.3Hz)、124.4、128.7、135.4、160.5(t,JC-F=13.8Hz)、162.6、163.6(dd,JC-F=13.8,249Hz);MALDI−FTMS(DHB)276.0456 m/z[MH]+、C14H8F2NO3の要求値276.0467。
【0039】
N−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)フタルイミド(13)。
3−メトキシカルボニルフェニルボロン酸を、上に概説されるNHPとの同様の結合手順(方法1)に付した。100mL丸底フラスコを、N−ヒドロキシフタルイミド(2.19g、13.4mmol)、塩化銅(I)(1.34g、13.5mmol)、活性化したばかりの4Åモレキュラーシーブス(約5g)、および3−メトキシカルボニルフェニルボロン酸(4.79g、26.6mmol)で満たした。1,2−ジクロロエタン(60mL)を添加し、続いてピリジン(1.20mL、14.8mmol)を添加し、反応懸濁液を室温にて空気雰囲気中で攪拌した。4日後、混合物をシリカゲルに吸着させ、濃縮して粉末とした。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中33〜50%勾配EtOAc)により、13を白色の固体として得た(1.85g、46%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ3.90(s,3H)、7.38−7.41(ddd,J=1.0,2.5,8.3Hz,1H)、7.44(t,J=8.3Hz、1H)、7.78(dd,J=1.0,2.5Hz,1H)、7.82−7.86(m,3H)、7.92−7.96(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ52.5、115.0、119.3、124.3、125.9、129.0、130.0、132.1、135.2、159.0、163.0、166.2;ESI−MS 298 m/z[MH]+、C16H12NO5の要求値298。
【0040】
N−アリールオキシフタルイミドの、対応するO−アリールヒドロキシルアミンへのヒドラジン分解のための代表的手順(方法1A):化合物1の合成。
ヒドラジン一水和物(0.401mL、8.2mmol)を、N−フェノキシフタルイミド9(652mg、2.73mmol)のCHCl3(25mL)中10%MeOH溶液にゆっくり添加し、反応物を室温にて攪拌した。完了すると(TLCモニタリング、12時間)、無色の反応溶液中に白色の沈殿が現れた(フタリジン)。反応混合物をシリカゲルのプラグに通し、ヘキサン中30%EtOAcで洗浄した。EtOAc/ヘキサンを除去すると僅かに淡黄色の油状物質が生成され、それをK2CO3(<10mg)からクーゲルロール蒸留すると、純粋なフェノキシアミン1を透明な無色の油状物質として得た(238mg、80%);特性決定データについては下記参照。あるいは、EtOAc/ヘキサンを除去した後、黄色の油状物質をEt2Oに溶かし、0℃まで冷却した。0℃にて10分後、pH3に達するまでジオキサン中4N HClを滴下した。得られる白色の固体を濾過し、Et2O(2×10mL)で洗浄して1を純粋なHCl塩として得た(306mg、77%)。
【0041】
O−フェニルヒドロキシルアミン塩酸塩(1)。
1の調製は、上記に代表的手順(方法1A)として記載した。1H−NMR(400MHz,CD3OD)δ6.84−6.89(m,1H)、7.03−7.09(m,2H)、7.19−7.25(m,2H);13C−NMR(100MHz,CD3OD)δ114.1、121.6、130.3、163.1;LC−MS 110 m/z[MH]+、C6H8NOの要求値110。
【0042】
O−(3−トリフルオロメチルフェニル)ヒドロキシルアミン(6)。
N−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)フタルイミド10(1.12g、3.65mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。蒸留(85℃/6mm)により純粋な6を透明な無色の液体として得た(582mg、90%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ6.00(s,2H)、7.19−7.21(m,1H)、7.30(dd,J=8.4,2.6Hz,1H)、7.38(t,J=8.1Hz,1H)、7.45−7.47(m,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ110.4、117.2、117.9、130.9、162.1;LC−MS 178 m/z[MH]+、C7H7F3NOの要求値178。
【0043】
O−(3,5−ジクロロフェニル)ヒドロキシルアミン(7)。
N−(3,5−ジクロロフェノキシ)フタルイミド11(711mg、2.31mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。反応混合物をシリカゲルプラグからの溶出した結果、遊離塩基7が白色の固体として凝固した(378mg、92%)。1H−NMR(600MHz,CDCl3)δ5.91(s,2H)、6.91−6.93(m,1H)、7.06−7.09(m,2H);13C−NMR(150MHz,CDCl3)δ112.9、121.9、135.9、163.2;LC−MS 179 m/z[MH]+、C6H6Cl2NOの要求値179。
【0044】
O−(3,5−ジフルオロフェニル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(8)。
N−(3,5−ジフルオロフェノキシ)フタルイミド12(1.74g、6.31mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付した。HCl塩の沈殿により、8を白色の固体として得た(980mg、86%)。1H−NMR(600MHz,CD3OD)δ6.83−6.90(m,3H);13C−NMR(150MHz,CD3OD)δ99.3(dd,JC-F=8.0,24.9Hz)、101.1(t,JC-F=26.4Hz)、160.0、165.8(dd,JC-F=15,248Hz);LC−MS 146 m/z[MH]+、C6H6F2NOの要求値146。
【0045】
O−(3−メトキシカルボニルフェニル)ヒドロキシルアミン(14)。
N−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)フタルイミド13(271mg、0.912mmol)を、上記の代表的なヒドラジン分解反応(方法1A)に付し、14を淡黄色のシロップとして得た(146mg、96%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ3.91(s,3H)、5.92(s,2H)、7.29−7.32(m,1H)、7.33(t,J=6.9Hz,1H)、7.63(dt,J=1.8,6.9Hz,1H)、7.82−7.84(m,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ52.3、114.2、118.1、122.5、129.3、131.4、161.4、167.1;GC−MS 167 m/z[M]+、C8H9NO3の要求値167、152 m/z[M−NH]+、C8H8O3の要求値152。
【0046】
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン(3)。
LiOH・H2O(91.0mg、2.17mmol)を、O−(3−メトキシカルボニル−フェニル)ヒドロキシルアミン14(90.4mg、0.541mmol)のTHF/MeOH/H2Oの3/1/1mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。24時間後、反応物をH2O(50mL)で希釈し、0.5N HClでpH約3〜4に酸性化し、EtOAc(3×25mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(25mL)および塩水(brine)(25mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して3を白色の固体として得た(78.7mg、95%)。1H−NMR(500MHz,d6−DMSO)δ7.01(s,2H)、7.24(ddd,J=1.4,2.8,8.3Hz,1H)、7.34(t,J=7.8Hz,1H)、7.46(dt、J=1.4、7.3Hz,1H)、7.68(dd,J=1.4,2.8Hz,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ113.5、117.8、121.3、129.2、131.8、161.7、167.3;ESI−MS 162 m/z[M−H+]-、C7H6NO3の要求値162。
【0047】
エチル−N−(2−トリフルオロメチルフェノキシ)アセトイミデート(15)。
Miyazawa et al.(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)の手順を用いて調製したtBuOK(0.78g、6.7mmol)を、Ar雰囲気下、0℃にてエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(1.00g、6.06mmol)の無水DMF(6mL)中の攪拌溶液に添加した。tBuOKの添加が完了した後、反応物を室温にて攪拌した。30分後、2−フルオロベンゾトリフルオリド(1.29mL、6.06mmol)を添加し、反応物を80℃で2時間加熱した。冷却しながら反応混合物を氷水(100mL)で希釈し、EtOAc(3×40mL)で抽出した。合わせた有機層を塩水(brine)(2×50mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮して暗色の油状物質を得た。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%EtOAc)により、15を透明な液体として得た(1.33g、89%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.36(t,J=7.1Hz,3H)、2.15(s,3H)、4.20(q,J=7.1Hz,2H)、6.99(明白なt,J=7.5Hz,1H)、7.47(明白なdt,J=7.9Hz,1H)、7.52−7.57(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.3、14.5、63.2、114.2、116.2(q,JC-F=31Hz)、120.3、123.7(q,JC-F=272Hz)、126.4(q,JC-F=4.8Hz)、133.2、157.2(q,JC-F=1.9Hz)、167.1;LC−MS 248 m/z[MH]+、C11H13F3NO2の要求値248。
【0048】
O−(2−トリフルオロメチルフェニル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(5)。
Miyazawa et al.(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)の手順を用いて調製した70% HClO4(12mL)を、0℃にて15(4.14g、16.7mmol)の1,4−ジオキサン(19mL)溶液に滴下し、次に反応物を室温にて一晩攪拌した。次に、反応混合物を氷水(150mL)に注ぎ、固体のNaOHペレットでpH13に調節した。水層をEtOAc(3×150mL)で抽出し、合わせた有機物を塩水(brine)(2×75mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮して暗色の残渣を得た。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中15%EtOAc)の後、他のアリールオキシアミンについて上に記載されるようにHCl塩が沈殿し、5を白色の固体として得た(3.42g、96%)。1H−NMR(600MHz,CD3OD)δ7.37−7.41(m,1H)、7.48−7.51(m,1H)、7.76−7.79(m,2H);13C−NMR(150MHz,CD3OD)δ114.6、125.0、126.3、127.6(q,JC-F=5.7Hz)、128.3 134.5;LC−MS 178 m/z[MH]+、C7H7F3NOの要求値178。
【0049】
アリールオキシアミン1および5〜8に基づくオキシムエーテルのライブラリー合成。
ウェルフォーマット毎に単一の化合物でライブラリーを調製した。全てのアルデヒド(0.5M)およびアリールオキシアミン(0.4M)の保存溶液をDMSO中に調製した。1mLシリンジ、1.1mLチューブ、および内径13mmのプローブを備えたGilson 215リキッドハンドラーを用いて全ての溶液を96ウェル(容量2mL)ポリプロピレンプレートに0.3mL/分の速度で分注した。各オキシムエーテルの0.1M溶液を0.5mL作成するため、100μL(0.05mmol、1当量)のアルデヒド、156μL(0.63mmol、1.25当量)のアリールオキシアミン、および244μLの0.164M酢酸をプレートの各ウェルに分注した。プレートに蓋をして、デュアルアクションシェーカーを用いて室温にて24時間攪拌した。反応物をDMSO中720μMに希釈し、LC−MSで分析して収量、純度、および識別点を決定した。合成後、化合物を−20℃で冷凍保存した。
【0050】
反応混合物中に残っていたアルデヒドの積算値を用いて反応収量を測定した。全てのアルデヒドの較正曲線を作り、定量的に反応した全てのアルデヒドがオキシムエーテルを形成したと仮定して各オキシムエーテルの収量を計算した;すなわち、アルデヒドの5%が反応混合物中に残っていた場合、オキシムエーテルの収量は95%となるとした。収量は98〜100%の範囲であり、全てのウェルで純度>95%であった。
【0051】
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン3とアリールアルデヒドa〜lの結合のための代表的手順(方法2)。
O−(3−カルボキシフェニル)ヒドロキシルアミン3(約0.2mmol、1当量)の1,4−ジオキサン(3.0mL)中の攪拌溶液に、アルデヒド(1当量)を添加した後、0.5N HClを1滴添加し、次に反応物を室温にて攪拌した。逆相HPLCで判定される反応完了の時点で(3〜18時間)、反応物をH2O(15mL)で希釈し、沈殿を濾過し、H2Oで洗浄し、回収し、真空乾燥した。具体的な合成の細部、および下の3aについて報告されているものと同様の阻害剤3b〜lの特性決定データについての裏付けとなる情報を参照のこと。
【0052】
ベンズアルデヒド−O−(3−カルボキシフェニル)オキシム(3a)。
ベンズアルデヒド(21.0μL、0.207mmol)を、上に概説される3(31.8mg、0.208mmol)との代表的結合手順(方法2)に付し、3aを白色の固体として得た(29.0mg、58%)。1H−NMR(500MHz,1:1CD3OD:d6−DMSO)δ7.39−7.45(m,5H)、7.59−7.64(m,1H)、7.71−7.78(m,3H)、8.58(s,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ114.5、118.8、123.3、127.7、129.1、129.3、130.8、131.1、132.3、153.3、158.9、166.9;MALDI−FTMS(DHB)242.0812 m/z[MH]+、C14H12NO3の要求値242.0812。RP−HPLC:純度98%。
【0053】
ベンジル−2−フルオロベンゾエート(16)。
ベンジルアルコール(2.60mL、25.1mmol)を、Ar雰囲気下、室温にて2−フルオロ安息香酸(2.92g、20.8mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(251mg、2.05mmol)、および1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(5.16g、25.0mmol)の無水CH2Cl2中の攪拌溶液にゆっくり添加した。18時間後、沈殿を濾去し、CH2Cl2で洗浄し、濾液をシリカで濃縮して粉末とした。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%〜20%勾配EtOAc)により、16を透明な無色の液体として得た(4.20g、88%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ5.39(s,2H)、7.14(ddd,J=1.1,8.4,9.5Hz,1H)、7.20(dt,J=1.1,7.7Hz,1H)、7.31−7.36(m,1H)、7.37−7.41(m,2H)、7.44−7.48(m,2H)、7.49−7.55(m,1H)、7.96(dt,J=1.8,7.3Hz);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ66.93、117.0(d,JC-F=22.1Hz)、118.7(d,JC-F=9.6Hz)、124.0(d,JC-F=3.8Hz)、128.1、128.2、128.6、132.2、134.6(d,JC-F=9.6Hz)、135.7、162.1(d,JC-F=260Hz)、164.2(d,JC-F=3.8Hz);GC−MS 230 m/z[M]+、C14H11FO2の要求値230。
【0054】
ベンジル−4−フルオロベンゾエート(17)。
ベンジルアルコール(4.05mL、39.1mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にて4−フルオロ安息香酸(5.00g、35.7mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(432mg、3.53mmol)、および1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(8.15g、39.5mmol)の無水CH2Cl2中の攪拌溶液にゆっくり添加した。18時間後、反応物を、16の合成に概説した手順に従って後処理した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中10%EtOAc)により、17を透明な無色の液体として得た(7.75g、94%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ5.35(s,2H)、7.06−14(m,2H)、7.32−7.41(m,3H)、7.41−7.47(m,2H)、8.06−8.12(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ66.84、115.5(d,JC-F=22.0Hz)、126.4(d,JC-F=2.9Hz)、128.2、128.3、128.6、132.3(d,JC-F=9.6Hz)、135.9、165.5、165.8(d,JC-F=253Hz);GC−MS 230 m/z[M]+、C14H11FO2の要求値230。
【0055】
エチル−N−(2−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート(18)。
エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(2.06g、20.0mmol)の無水DMF(60mL)中の攪拌溶液に、Ar下、tBuOK(2.21g、19.7mmol)を一度に添加した。30分後、ベンジル−2−フルオロベンゾエート16(4.13g、17.9mmol)をDMF(20mL)溶液として添加し、反応物を室温にて攪拌した。3時間後、反応物をH2O(400mL)で希釈し、EtOAc(3×100mL)で抽出し、合わせた有機物をH2O(3×50mL)および塩水(brine)(50mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中5〜10%勾配EtOAc)により18を透明なシロップとして得た(3.61g、64%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.34(t,J=7.0Hz,3H)、2.00(s,3H)、4.18(q,J=7.0Hz,2H)、5.34(s,2H)、6.96(dt,J=1.1,7.7Hz,1H)、7.30−7.35(m,1H)、7.35−7.39(m,2H)、7.42−7.48(m,3H)、7.55(dd,J=1.1,8.4Hz,1H)、7.90(dd,J=1.8,7.7Hz,1H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.4、14.5、63.1、66.6、114.5、117.0、120.4、128.2、128.4、128.5、131.7、133.8、136.1、159.5、165.8、166.7;GC−MS 313 m/z[M]+、C18H19NO4の要求値313、228 m/z[M−85]+、ベンジル−2−ヒドロキシベンゾエート C14H12O3の要求値228。
【0056】
エチル−N−(4−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート(19)。
エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸(3.79g、36.8mmol)の無水DMF(150mL)中の攪拌溶液に、Ar下、tBuOK(4.09g、36.4mmol)を一度に添加した。40分後、ベンジル−4−フルオロベンゾエート17(7.63g、17.9mmol)を添加し、反応物を室温にて攪拌した。4時間後、反応物をH2O(500mL)で希釈し、EtOAc(4×100mL)で抽出し、合わせた有機物をH2O(2×100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。シリカでのフラッシュクロマトグラフィー精製(ヘキサン中5〜10%勾配EtOAc)により、19を透明なシロップとして得た(6.02g、58%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.36(t,J=7.0Hz,3H)、2.12(s,3H)、4.20(q,J=7.0Hz,2H)、5.34(s,2H)、7.15−7.19(m,2H)、7.31−7.35(m,2H)、7.36−7.41(m,2H)、7.42−7.36(m,2H)、8.00−8.14(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.3、14.4、63.1、66.4、113.4、122.9、128.1、128.1、128.6、131.5、136.3、163.5、166.3、166.4;GC−MS 228 m/z[M−85]+、ベンジル−4−ヒドロキシベンゾエート C14H12O3の要求値228。
【0057】
エチル−N−(2−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート(20)。
LiOH・H2O(431mg、10.3mmol)を、エチル−N−(2−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート18(802mg、2.56mmol)のTHF/MeOH/H2Oの9/3/3mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。6時間後、反応物をH2O(100mL)で希釈し、CH2Cl2(4×30mL)で洗浄し、0.5N HClでpH約5.0〜5.5に酸性化し、EtOAc(4×30mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(30mL)および塩水(brine)(30mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して20を白色の固体として得た(459mg、80%)。1H−NMR(500MHz,d6−アセトン)δ1.34(t,J=6.9Hz,3H)、2.18(s,3H)、4.20(q,J=6.9Hz,2H)、7.02(ddd,J=0.9,7.3,7.8Hz,1H)、7.51(ddd,J=1.8,7.3,8.7Hz,1H)、7.60(dd,J=0.9,8.7Hz,1H)7.86(dd,J=1.8,7.8Hz,1H);13C−NMR(125MHz,d6−アセトン)δ14.6、14.7、63.8、115.2、118.5、121.3、132.4、134.5、160.2、166.8、167.4;ESI−MS 224 m/z[MH]+、C11H14NO4の要求値224。
【0058】
エチル−N−(4−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート(21)。
LiOH・H2O(550mg、13.1mmol)を、エチル−N−(4−ベンジルオキシカルボニルフェノキシ)アセトイミデート19(1.04g、3.32mmol)のTHF/MeOH/H2Oの9/3/3mL混合物中の溶液に添加し、反応物を室温にて攪拌した。24時間後、反応物をH2O(100mL)で希釈し、CH2Cl2(4×30mL)で洗浄し、0.5N HClでpH約5.0〜5.5に酸性化し、EtOAc(3×30mL)で抽出した。合わせた有機物をH2O(30mL)および塩水(brine)(30mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して21を白色の結晶質固体として得た(698mg、94%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ1.37(t,J=6.9Hz,3H)、2.14(s,3H)、4.22(q,J=6.9Hz,2H)、7.18−7.22(m,2H)、8.04−8.08(m,2H);13C−NMR(125MHz,CDCl3)δ14.5、14.6、63.3、113.7、122.1、132.3、164.2、166.7、172.0;ESI−MS 224 m/z[MH]+、C11H14NO4の要求値224。
【0059】
それぞれオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを生じる、エチル−N−(2−カルボキシフェノキシ)−アセトイミデート20またはエチル−N−(4−カルボキシフェノキシ)アセトイミデート21のアリールアルデヒドa〜lとの結合のための代表的手順(方法3)。
アセトイミデート20または21(約0.1〜0.3mmol、1当量)およびアルデヒド(約0.1〜0.3mmol、1当量)の1,4−ジオキサン(2.0mL)溶液に、70% HClO4(0.9当量)を添加し、反応物を室温にて攪拌した。逆相HPLCで判定される反応完了の時点で(2〜6時間)、反応物をH2O(20mL)で希釈し、沈殿を濾過し、H2Oで洗浄し、回収し、真空乾燥した。具体的な合成の細部、および下の2aについて報告されているものと同様の阻害剤2c〜lおよび4b〜lの特性決定データについての裏付けとなる情報を参照のこと。
【0060】
ベンズアルデヒド−O−(2−カルボキシフェニル)オキシム(2a)。
70% HClO4(14.0μL、0.163mmol)、ベンズアルデヒド(18.0mL、0.177mmol)、および20(39.0mg、0.175mmol)を、上に概説される代表的結合手順(方法3)に付し、2aを白色の固体として得た(26.1mg、62%)。1H−NMR(500MHz,d6−アセトン)δ7.15(dt,J=0.9,7.8Hz,1H)、7.48−7.55(m,3H)、7.59(dt,J=1.8,7.8Hz,1H)、7.71(d,J=8.2Hz,1H)、7.83−7.89(m,3H)、8.66(s,1H)、10.8−11.5(幅広いs,1H);13C−NMR(125MHz,d6−DMSO)δ115.7、119.7、122.1、127.8、129.0、130.8、130.9、131.1、133.1、153.4、157.7、166.8;MALDI−FTMS(DHB)242.0811 m/z[MH]+、C14H12NO3の要求値242.0812。RP−HPLC:純度>99%。
【0061】
線維形成アッセイ。
野生型TTRを、前述の大腸菌発現系(Lashuel,H.A.;et al.Biochemistry 1999,38,13560−13573)から精製した。使い捨てキュベット(Fisher #14 385 938)を、10mMリン酸塩(pH7.2)、100mM KCl、1mM EDTA、および0.2% NaN3中、TTR(7.2μM)の0.4mg/mL保存液495μLで満たした。DMSO(1.44mM)中5μLの阻害剤をTTR溶液に添加し、試料を37℃にて30分間インキュベートした。次に、各キュベットに0.5mLの200mM酢酸バッファー(pH4.2、100mM KCl、1mM EDTA、0.2% NaN3)を添加してpHを4.4まで下げた。キュベットを37℃にて72時間乱さずに静置し、次にボルテックスして沈殿を試料中に均一に分布した。濁度をHewlett Packard 8453モデル UV−Vis分光光度計で350および400、または500nmで測定した。全ての試料は2通りまたは3通りに実行され、報告される結果は少なくとも3回の分析の代表例である。
【0062】
オキシムエーテル阻害剤のヒト血漿中TTRへの分液
ヒト血漿におけるTTRに対する阻害剤結合化学量論を評価するための抗体捕捉アプローチの手順は別の場所に詳細に記載されている(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。手短に言えば、ヒト血漿(1.5mL)を2mLエッペンドルフチューブに添加し、その後に試験化合物の2.16mM DMSO溶液7.5μLを添加した。この溶液を37℃にて24時間インキュベートした(この時点で10mM Tris(pH8.0)、140mM NaCl、0.025% NaN3(TSA)中、官能化されていないセファロース樹脂の1:1(v:v)スラリーは187μLであった)。これを4℃にてさらに1時間インキュベートした後、遠心分離した。上清を400μLの分割単位へ3分割し、各分割単位に、TSA中、抗TTR抗体と複合体化したセファロース樹脂の1:1スラリー200μLを添加した。4℃にて20分間穏やかに攪拌した後、試料を遠心分離し、上清を除去し、抗TTR樹脂を4℃にて1mLのTSA/0.05% サポニン(3×10分)で、次に1mLのTSA(2×10分)で洗浄した。遠心分離および上清の除去の後、155μLの100mMトリエチルアミン(pH11.5)を添加してTTRおよび結合した試験化合物を樹脂結合抗体から解離する。30分後、懸濁液を遠心分離し、TTRおよび試験化合物を含有する上清145μLを除去した。次に、上清(135μL)をHPLCに注入してTTRと結合している小分子の化学量論量を測定した。HPLC条件下、試験化合物−TTR複合体は解離し、小分子とタンパク質を分離させることができる。HPLC条件:8分間の20〜100%または40〜100%のいずれかの溶媒B勾配を用いる、Keystone 3cm C18逆相カラム(溶媒A:95:5 H2O:CH3CN、0.25% TFA;溶媒B:5:95 H2O:CH3CN、0.25%TFA)。試験化合物およびTTRの定量化は、標準曲線に対してクロマトグラムの統合されたピーク面積を比較することにより達成できる。つまり、TTRに対する試験化合物の量の比から結合化学量論量を得る(Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。
【0063】
分析用超遠心分離:オキシムエーテルを基にした阻害剤の存在下、線維形成条件下でのTTRの沈降速度プロフィール分析。
線維形成アッセイで既に用いた試料(上記参照)の沈降分析をpH4.4で行った。オキシムエーテル阻害剤8fの存在下および不在下での組換えWT−TTR溶液の沈降特性を、An60Ti 回転子および光電式スキャナーを備えた、温度制御されたBeckman XL−I 分析用超遠心機で分析した。0.001cmのステップサイズを用い、280nmで検出する、20℃にて連続モードで3,000および50,000rpmの速度のデータを収集した。
【0064】
直接境界を適合させるアプローチを適用して、pH4.4で7.2μMの8fでインキュベートした3.6μMのTTR溶液から生じた沈降速度データを評価した。Svedbergというプログラムを用いて複数濃度を半径方向のデータセットに対して同時に適合させ、Lamm方程式に対する近似解を得た(Schuster,T.M.;Laue,T.M.;Editors Modern Analytical Ultracentrifugation:Acquisition and Interpretation of Data for Biological and Synthetic Polymer Systems;Birkhauser:Boston,1994)。フィッティングアルゴリズムから、以下の方程式を用いて分子量をもたらす沈降係数および拡散係数を得た(Schuster,T.M.;Laue,T.M.;Editors Modern Analytical Ultracentrifugation:Acquisition and Interpretation of Data for Biological and Synthetic Polymer Systems;Birkhauser:Boston,1994)
【数1】
(式中、MWは分子量(Da)であり、sは沈降係数(スベドベリ、10-13s)であり、Rは普遍気体定数(8.314×107 erg/mol)であり、
【数2】
は偏比容(cm3/g)であり、ρは溶媒密度(g/cm3)である。バッファーの密度D(1.00848g/cm3)を表形式データから計算し、WT−TTR(0.7346cm3/g)の偏比容をそのアミノ酸組成から計算した)。
【0065】
分析用超遠心分離:オキシムエーテルを基にした阻害剤の存在下、線維形成条件下でのTTRの沈降平衡分析。
線維形成アッセイで既に用いた試料(上記参照)の沈降分析をpH4.4で行った。TTR(3.6μM)およびオキシムエーテル8f(7.2mM)の溶液120〜140μLを、12−mmエポンセンターピースおよびサファイアもしくは石英窓を備えたダブルセクターセルに負荷することにより、沈降平衡測定を行った。最初に3,000rpmの回転子速度でデータを収集して、最初に沈降する高分子量のオリゴマーが存在していないことを確認し、次に17,000rpmでセル全体に平衡を確立した。3時間おきに285〜290nmでモニターした沈降プロフィールをオーバーレイして平衡が達成されたことを立証した。Beckman提供のオリジンソフトウェアパッケージ中の非線形最小二乗法を用いてデータ分析を行った。データをいくつかの異なるモデル(単一の理想的な種類および数個の多重な種類のモデルを含む)に合わせて、データに最も適合する最も単純なモデルを同定した。単一の理想的な種類のモデルに対応する以下の方程式は、理論上のデータと実験データ(前記)との間の僅かな差異に最も基づくデータに適合する。
【数3】
(式中、Arは半径xでの吸光度であり、Aoは対照半径xo(通常メニスカス)での吸光度であり、
【数4】
はタンパク質の偏比容であり、rは溶媒の密度であり(g/cm3)、ωは回転子の角速度であり(ラジアン/秒)、Eはベースラインエラー訂正因数であり、Mは分子量であり、Rは普遍気体定数である)。実験のデータポイントと適合したデータポイントとの間の差異(残差)を無作為に分散させると、差異の規模は小さかった(データが単一の理想的な種類のモデル(TTR四量体)と適合した場合)。その他のモデルは、セル全体の残差を無作為でない分散で識別したため、データにうまく適合しなかった。
【0066】
WT−TTR・(5d)2の結晶化およびX線データ収集。
懸滴実験において、2M硫酸アンモニウムに対して平衡化したタンパク質溶液7mg/mL(100mM KCl、1mM EDTA、10mM リン酸ナトリウム、pH7.0、0.35〜0.50M硫酸アンモニウム)から、WT−TTR結晶を得た。10倍モル過剰の阻害剤5dで3週間を越えて浸漬したWT−TTR結晶からTTR・(5d)2複合体を調製した。結晶を冷凍保護剤としてのパラトンオイル中に入れ、100Kまで冷却した。単色の高エネルギー源の14−BM−C、BIOCARS、Advance Photon Sourceを備えたQuantum−4検出器を用いてデータ収集を行った。TTR・(5d)2の結晶は、単位格子寸法がa=43Å、b=85Å、およびc=66Åに近いアポTTR結晶形態(非対称単位中の2つの単量体を含む空間群P21212)と同形である。DENZOおよびSCALEPACを用いてデータを減少させた(Otwinowski,Z.;Minor,W.Macromolecular Crystallography,Part A.In Methods in Enzymology,276:Macromolecular Crystallography,Part A;C.W.Carter,Jr.and R.M.Sweet,Eds.;Academic Press,1997,307−326)。
【0067】
WT−TTR・(5d)2結晶構造の決定および精密化。
Protein Data Bank(受託番号1BMZ)から得たアポTTRのタンパク質原子座標を、TTR・(5d)2の1.53Åデータセットに対しCNSの分子動力学およびエネルギー最小化プロトコールで精密化した(Brunger,A.T.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1998,54,905−921)。得られる差フーリエ図は、外側の結合の空洞に有意な電子密度を示した;しかし、内部の空洞の阻害剤の電子密度は、おそらくその領域の柔軟性のため、電子密度図が1s以下で輪郭が示される場合のみ目に見えた。不充分なリンカー密度にもかかわらず、リガンドは明確に配置することができ(外側の結合の空洞での電子密度のため)、結晶学的精密化に含まれた。結合チャネルを二分する2重の結晶学的回転軸のため、統計的無秩序モデルを適用して四量体TTR毎に2つのリガンド結合モードを生じさせた。模擬アニーリングおよびその後の位置および温度因子の精密化を数サイクル繰り返した後、水分子を異なる差フーリエ図に置いた。震動/ゆがみバイアス除去プロトコールにより計算した不偏加重電子密度図を用いてマップフィッティングの最終サイクルを行った(Reddy,V.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.2003,59,2200−2210)。各結合ポケットのリガンドの対称関連結合構造の双方は、不偏のアニールされたオミットマップならびに阻害剤の不在下で段階的に行われた震動/ゆがみ不偏加重図と充分一致していた。CCP4−Refmacを用いる最尤法により精密化の最終サイクルを行った(Bailey,S.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1994,50,760−763;Murshudov,G.N.;et al.Acta Crystallogr.,Sect.D,Biol.Crystallogr.1997,53,240−255)。最終のマップには解釈可能な電子密度がなかったため、9つのN末端および3つのC末端残基は最終モデルに含まれなかった。結晶学的分析データの要約を表S4に示す。
【0068】
図の詳細な説明
図1は、ビスアリールオキシムエーテル(X=O)およびビスアリールヒドラゾン(X=NH)ライブラリーの形成のための一般的アプローチを示す模式図である。この反応は、イミン結合に関して2つの立体異性体(synおよびantiで示される、すなわち、アルデヒドプロトンがXで表されるフェノキシ酸素に対してそれぞれcisまたはtransに配向し得る)を作成する可能性があり得る;しかし、文献による先例に基づくとsyn−異性体のみが予期された(また観察された、本文参照)。
【0069】
図2は、ビスアリールオキシムエーテルライブラリー(図1参照)を合成するために用いられるアリールオキシアミン(1〜8)およびベンズアルデヒド(a〜l)構成成分の構造を示す。選択されたアリールオキシアミン(1〜8)は、アリールオキシアミン中にパラ−CF3(i)およびチロキシンのような置換パターン(eおよびf)がないことを除いてアリールアルデヒドと同じ置換パターンを有した。残念ながら、市販されている唯一のアリールオキシアミンはフェノキシアミンである;従って、ビスアリールオキシムエーテルライブラリーを調製するために必要なアリールオキシアミンの構成単位の合成のための方法が開発され、本明細書において開示されていた。
【0070】
図3は、ビスアリールヒドラゾンライブラリーを合成するために用いられるアリールヒドラジン(22〜29)およびベンズアルデヒド(a〜l)化合物の構造を示す。類似するビスアリールオキシムエーテルおよびビスアリールヒドラゾン(以下、それぞれオキシムエーテルおよびヒドラゾンと称される)を互いに同じ構造であると仮定したので、このクラスも合成した。
【0071】
図4は、線維形成の阻害について試験した96種類のビスアリールヒドラゾンの活性を示す表である。pH4.4でのWT−TTR(3.6μM)アミロイド線維形成(72時間)に対するビスアリールヒドラゾン活性(7.2μM)。値は線維形成の程度を表し、従って阻害剤の不在下でのWT−TTR線維形成(100%となるよう割り当てられる)に対する阻害剤の有効性を表す。完全な阻害は0%の線維形成に相当する。測定誤差は、±5%である。ハイスループット自動化手順により合成された全ての阻害剤は、RP−LCMSにより純度>95%を示し、予測された質量が観察された。
【0072】
図5は、オキシムエーテルおよびヒドラゾン阻害剤の構造を示す。オキシムエーテルとヒドラゾン構造の結晶学による比較により、類似の化合物が互いにほぼ重ね合わせることができることが明らかとなる。4種類の全ての結晶構造はsyn−イミン結合を示し、この異性体の優勢をさらに裏付ける。
【0073】
図6は、必要とされるアリールオキシアミンの合成のための模式図である。N−ヒドロキシフタルイミド(NHP)とアリールボロン酸の銅触媒による架橋により、ヒドラジン分解の後に所望のアリールオキシアミンが得られた(Petrassi,H.M.;Sharpless,K.B.;Kelly,J.W.Org.Lett.2001,3,139−142)。N−ヒドロキシフタルイミドとアリールボロン酸の銅触媒による架橋:a)CuCl、ピリジン、4Å モレキュラーシーブス、1,2−ジクロロエタン;b)H2NNH2・H2O、10% MeOH/CHCl3;c)LiOH・H2O、THF/MeOH/H2O。
【0074】
図7は、オルト−トリフルオロメチルアリールオキシアミンの合成のための模式図である。この合成は、電子欠損フルオロベンゼンのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による芳香族求核置換を必要とする(Miyazawa,E.;et al.Org.Prep.Proced.Int.1997,29,594−600)。2−トリフルオロメチルフルオロベンゼンへのエチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸の求核攻撃は優れた収量の15(89%)をもたらし、これはそのHCl塩として利用すると酸加水分解時にアリールオキシアミン5(収量96%)をもたらした。この方法論の変化形を用いて、2および4の同等物に由来するオキシムエーテルを調製した(下記参照)。エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸による電子欠損フルオロベンゼンの芳香族求核置換:d)tBuOK、DMF、80℃;e)HClO4、1,4−ジオキサン。
【0075】
図8は、従来通り合成し、mg量で単離したオキシムエーテルのRP−HPLC純度の表である。高分解能MSおよび1H−および13C−NMRデータを含む、完全な構造特性決定データについては実験の項を参照のこと。ハイスループット自動化手順により合成された全ての阻害剤は、RP−LCMSにより純度>95%を示し、予測された質量が観察された。
【0076】
図9は、トランス−イミノ化アプローチによるビスアリールオキシムエーテルの合成を示す模式図である。a)ベンジルアルコール、DCC、触媒DMAP、CH2Cl2;b)エチル−N−ヒドロキシアセトイミド酸、tBuOK、DMF;c)LiOH・H2O、THF/MeOH/H2O;d)R’−ベンズアルデヒド(a〜l)、70% HClO4、1,4−ジオキサン。アリールアセトイミド酸は加水分解して対応するアリールオキシアミン2および4とならなかった。その代わり、アリールアセトイミド酸を酸性条件下で化学量論的な量のアリールアルデヒドと混合して、中程度から優れた収量のオキシムエーテル2a〜lおよび4a〜lを直接得た(オキシムエーテル2bは不安定な性質のために単離できなかった)。
【0077】
図10は、酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6μM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2μM)の阻害活性をまとめた表である。合成した95種類のオキシムエーテルのうち、31種類が良好な有効性を示し、阻害剤の不在下でWT−TTRにより示されるものの<10%までTTRアミロイド形成を低下させ(90%の阻害、青色)、9種類が中程度の活性を示し(11〜30%の線維形成、緑色)、そして残りの55種類は不良な活性を示した(黄色)。チロキシンのような置換パターンを有するベンズアルデヒドに由来するオキシムエーテル(e列およびf列)は、たとえ非置換フェノキシアミンと結合した場合でも非常に有効である(16種類全てが>90%の阻害を示した)。結合は、一般的に結果として弱いオキシムエーテル阻害剤となる。これらの結果は、阻害を達成するために双方の環に適切な置換基が必要とされるというこれまでの見解に挑戦する。
【0078】
図11は、酸に媒介される線維形成アッセイ(72時間)の終わりに、残留しているオキシムエーテル阻害剤のパーセントを示す表である。阻害剤(7.2μM)を暗所で3.6μM WT−TTRの不在下で、さらに3.6μM WT−TTRとともにインキュベートした(pH4.4、37℃)。5d*エントリーのためのデータは、バッファーをpH7.2で維持したことを除いて同一の条件下である。値は、アッセイの終了時点の阻害剤の分析用RP−HPLCピーク面積とアッセイの開始時点で得られるそれとを比較することにより決定された。測定誤差は、±4%である。最も安定していない阻害剤(1e、1f、2k、3g、5d*)は、TTRの不在下で72時間以内にほぼ完全に分解される;しかし、TTRの存在は初回量の>74%を保つ。特に、阻害剤5eはTTRの存在下で分解を示さなかった。このことは、なぜ多くの不安定なビスアリールオキシム阻害剤がTTRアミロイド形成の優れた阻害剤であることが分かるのかを説明する助けとなる。つまり、阻害剤がTTRの甲状腺ホルモン結合部位と結合してTTR四量体に動的な安定化を課すだけでなく(Hammarstroem,P.;et al.Science 2003,299,713−716)、TTR結合も阻害剤を分解に対して安定させる。
【0079】
図12は、pH4.4(72時間)でのWT−TTR(3.6μM)アミロイド線維形成に対する主なオキシムエーテルおよびヒドラゾンの分解および加水分解生成物(7.2μM)の阻害活性を示す表である。値は線維形成の程度を表し、従って阻害剤の不在下でのWT−TTR線維形成(100%となるよう割り当てられる)に対する阻害剤の有効性を表す。完全な阻害は0%の線維形成に相当する。測定誤差は、±5%である。
【0080】
図13は、8fでプレインキュベートし(7.2μM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6μM)の沈降速度(A)のグラフである。A.速度分析−50,000rpmにて約15分別々に得たデータセットの重ね合わせ。データ(記号)は、MW48.4±0.2kDaの単一の理想的な種類のモデル(実線)に適合する。
【0081】
図14は、8fでプレインキュベートし(7.2μM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6μM)の平衡超遠心法研究のグラフである。平衡分析−17,000rpmの速度で24時間後に観察された平衡濃度勾配。データ(○)は、MW52.1±0.2kDaの単一の理想的な種類のモデル(実線)に適合する。残差、つまり実験データと適合データとの間の差異を挿入図に示す。
【0082】
図15は、血漿TTRに対して>90%のアミロイド阻害(7.2μM)を示すビスアリールオキシムエーテルの結合化学量論量の下限値を示す表である。ヒト血漿中のTTRに対するビスアリールオキシムエーテル結合化学量論量。TTRを様々なオキシムエーテル(10.8μM)で処理し、抗体捕捉/HPLC法により化学量論量を測定した。この方法は、洗浄に関連する損失のため最小の結合化学量論量をもたらす(Purkey,H.E.;et al.Chemistry & Biology.In press;Purkey,H.E.;et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2001,98,5566−5571)。試験した31種類の化合物のうち、11種類が1.0を超えるTTR結合化学量論量を示し、3種類が1.5当量を越える結合を示す。最も高い結合化学量論量を示すオキシムエーテルは、1つの芳香環がチロキシンのような置換パターン(例えば3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ)を1つ有するアルデヒドに由来する。この結果は、3,5−ジハロ−4−ヒドロキシ置換アリール環の組み込みが、大多数のその他の血漿タンパク質(TTRよりも約150倍高い濃度を有するチロキシン輸送タンパク質アルブミンを含む)を上回る血漿結合選択性をTTRに与えることを意味するので、非常に重要である(Stockigt,J.R.Thyroid Hormone Binding and Metabolism.Endocrinology,Fourth Ed.Degroot,L.J.,Jameson,J.L.,Eds.;W.B.Saunders Co.:Philadelphia,2001,Volume 2,Chapter 94,1314−1326;Petitpas,I.;et al.Proc.Nat.Acad.Sci.,U.S.A.2003,100,6440−6445)。
【0083】
図16は、X線結晶学的データに基づく、双方のWT−TTRチロキシン結合空洞(白色の四角形部分)と結合したビスアリールオキシムエーテル5dを表すリボン図を示す。部位の中の1つの拡大図(上部)は、対称性に関連のあるその結合モードの双方にある5d(緑色および白色)と、灰色で示されたTTR結合部位表面を示す。主要な残基およびハロゲン結合ポケット(HBP)は標識されている;刺激された残基またはHBPおよび未刺激の残基またはHBPは2つの隣接する対称性に関連のある、T4部位を含む単量体にあてはまる。外側の結合ポケットのカルボン酸塩置換基がLys−15ε−NH3+基と静電相互作用していると思われる。
【0084】
図17は、オキシムエーテル5dで浸漬したWT−TTRのX線結晶構造データを示す。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】ビスアリールオキシムエーテル(X=O)およびビスアリールヒドラゾン(X=NH)ライブラリーの形成のための一般的なアプローチを示す模式図である。
【図2】ビスアリールオキシムエーテルライブラリー(図1参照)を合成するために用いられるアリールオキシアミン(1〜8)およびベンズアルデヒド(a〜l)の構成成分の構造を示す。
【図3】ビスアリールヒドラゾンライブラリーを合成するために用いられるアリールヒドラジン(22〜29)およびベンズアルデヒド(a〜l)化合物の構造を示す。
【図4】線維形成の阻害について試験した96種類のビスアリールヒドラゾンの活性を示す表である。
【図5】オキシムエーテルおよびヒドラゾン阻害剤の構造を示す。
【図6】必要とされるアリールオキシアミンの合成の模式図である。
【図7】オルト−トリフルオロメチルアリールオキシアミンの合成の模式図である。
【図8】従来通り合成し、mg量で単離したオキシムエーテルのRP−HPLC純度を示す表である。
【図9】トランス−イミノ化アプローチによるビスアリールオキシムエーテルの合成を示す模式図である。
【図10】酸に媒介される(pH4.4)TTR(3.6mM)アミロイド形成に対する、オキシムエーテル(7.2mM)の阻害活性をまとめた表を示す。
【図11】酸に媒介される線維形成アッセイ(72時間)の終わりに、残留しているオキシムエーテル阻害剤のパーセントを示す表である。
【図12】pH4.4でのWT−TTR(3.6mM)アミロイド線維形成(72時間)に対する主なオキシムエーテルおよびヒドラゾンの分解および加水分解生成物(7.2mM)の阻害活性を示す表である。
【図13】8fでプレインキュベートし(7.2mM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6mM)の沈降速度(A)を示すグラフである。
【図14】8fでプレインキュベートし(7.2mM;30分)、pH4.4にて72時間の変性ストレス後に評価したTTR(3.6mM)の平衡超遠心法研究を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I
【化1】
(式中:
R’は、存在しないか、または
−COOH、−OH、−F、−I、−Br、−Cl、およびCF3
からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;
Rは、存在しないか、または
−COOH、−F、−Cl、およびCF3
からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;かつ
Xは、−NH−および−O−からなる群から選択されるジラジカルである)
で表される、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項2】
Xが−O−である、請求項1に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項3】
Xが−NH−である、請求項1に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項4】
式II
【化2】
(式中、ラジカルAは以下の群:
【化3】
から選択される)
で表される、請求項2または3に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項5】
Xが−O−である、請求項4に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項6】
Xが−NH−である、請求項4に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項7】
式III
【化4】
(式中、ラジカルBは以下の群:
【化5】
から選択される)
で表される、請求項1に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項8】
Xが−O−である、請求項7に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項9】
Xが−NH−である、請求項7に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項10】
トランスサイレチンのアミロイド線維の形成を阻害するための方法であって、トランスサイレチンを阻害濃度の請求項1〜10のいずれか一項に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンと接触させる段階を含む、方法。
【請求項1】
以下の式I
【化1】
(式中:
R’は、存在しないか、または
−COOH、−OH、−F、−I、−Br、−Cl、およびCF3
からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;
Rは、存在しないか、または
−COOH、−F、−Cl、およびCF3
からなる群から選択される1個以上のラジカルであり;かつ
Xは、−NH−および−O−からなる群から選択されるジラジカルである)
で表される、ビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項2】
Xが−O−である、請求項1に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項3】
Xが−NH−である、請求項1に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項4】
式II
【化2】
(式中、ラジカルAは以下の群:
【化3】
から選択される)
で表される、請求項2または3に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項5】
Xが−O−である、請求項4に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項6】
Xが−NH−である、請求項4に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項7】
式III
【化4】
(式中、ラジカルBは以下の群:
【化5】
から選択される)
で表される、請求項1に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾン。
【請求項8】
Xが−O−である、請求項7に記載のビスアリールオキシムエーテル。
【請求項9】
Xが−NH−である、請求項7に記載のビスアリールヒドラゾン。
【請求項10】
トランスサイレチンのアミロイド線維の形成を阻害するための方法であって、トランスサイレチンを阻害濃度の請求項1〜10のいずれか一項に記載のビスアリールオキシムエーテルまたはビスアリールヒドラゾンと接触させる段階を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2008−530104(P2008−530104A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555206(P2007−555206)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/004512
【国際公開番号】WO2006/086517
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/004512
【国際公開番号】WO2006/086517
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】
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