説明

トランス部品

【課題】小型且つ薄型で高性能なトランス部品を提供する。
【解決手段】トランス部品10は、フェライト基板11と、フェライト基板11上に形成された第1のコイルL1と、中央部に開口を有し、フェライト基板11上に重ねて設けられたプリント基板16と、プリント基板16上に形成された第2のコイルL2と、プリント基板16の開口16a内に設けられ、第1及び第2のコイルL1,L2に共通の磁路を構成する磁性体19とを備えている。第1のコイルのターン数は第2のコイルよりも多く、第2のコイルの厚さは、前記第1のコイルよりも厚い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス部品に関し、特に、表面実装型トランス部品の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の表面実装型トランス部品として、平面コイルを用いたトランス部品が知られている。例えば、特許文献1のトランス部品は、中央にコア挿入穴が設けられ、その外側にスパイラル導体パターンが形成されたプリントコイル積層体をEE型コアで挟み込んだ構成を有している。また、プリントコイル積層体は、スパイラル導体パターンや絶縁シート層が形成された一枚のベースを折り畳んだ構成を有している。
【0003】
また、特許文献2には、第1基板上に形成され、一次側コイルとして機能する第1平面コイルと、第2基板上に形成され、二次側コイルとして機能する第2平面コイルとを備えたトランスが開示されている。このトランスは、第1平面コイルと第2平面コイルが対向配置され、両者の間には絶縁性のビーズが分散されており、これにより平面コイル間のギャップ寸法を高い精度で制御することが可能となっている。さらに、特許文献3には、プリントコイルが形成された複数のベース材を用いたトランスが開示されている。各ベース材の上下面にはプリントコイルが形成されると共に、各プリントコイルを覆う絶縁耐圧の高いカバレーと絶縁耐圧の低いカバレーとが装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−275439号公報
【特許文献2】特開2000−260637号公報
【特許文献3】特開平6−231978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇圧回路に用いられるトランスは一次側コイルと二次側コイルの巻数比が異なり、一次側コイルのターン数は二次側コイルよりも少ない反面、一次側コイルに流れる電流は二次側コイルよりも大きい。このような構成では、ターン数の大きな二次側コイルについては導体幅を狭く且つピッチを狭くして実装面積を縮小する必要があり、ターン数の小さな一次側コイルについては導体幅を広く厚さを厚くして大きな断面積を確保し、直流抵抗を小さくする必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来のトランス部品は、一枚のベース上に一次側及び二次側のスパイラル導体パターンを形成しており、細い導体パターンと太い導体パターンとを混在させることが難しいという問題がある。また、特許文献2,3に記載された従来のトランス部品は、一次側コイルと二次側コイルがそれぞれ別々の基板上に形成されているものの、基板材料が同一であり、コイルの形成方法も同一であるため、コイル導体の厚さを異ならせることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、断面積の小さな平面コイルと断面積の大きな平面コイルとを組み合わせて構成された、小型且つ薄型で高性能なトランス部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によるトランス部品は、磁性基板と、前記磁性基板上に形成された第1のコイルと、中央部に開口を有し、前記磁性基板上に重ねて設けられたプリント基板と、前記プリント基板上に形成された第2のコイルと、前記プリント基板の前記開口内に設けられ、前記第1及び第2のコイルに共通の磁路を構成する磁性体とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、磁性基板上にターン数が大きく微細な薄膜コイルパターンを形成することができ、プリント基板上にターン数が小さく幅広な厚膜コイルパターンを形成することができる。したがって、小型且つ薄型で高性能なトランス部品を実現することができる。
【0010】
本発明において、前記第1のコイルのターン数は、前記第2のコイルよりも大きいことが好ましい。また、前記第2のコイルを構成する導体の厚さは、前記第1のコイルを構成する導体の厚さよりも厚いことが好ましく、前記第2のコイルを構成する導体の断面積は、前記第1のコイルを構成する導体の断面積よりも大きいことが特に好ましい。本発明によれば、磁性基板上に形成した微細パターンの薄膜コイルと、プリント基板上に形成した太いパターンの厚膜コイルとを相互に磁気結合させた構成であるため、小型且つ薄型で高性能なトランス部品を実現することができる。
【0011】
本発明において、前記第1のスパイラル導体は、前記磁性基板上に積層された複数のスパイラル導体の直列接続からなることが好ましい。磁性基板上に第1のスパイラル導体を多層化してそのターン数を稼ぐことにより、第1のスパイラル導体のインダクタンスを高くすることができる。
【0012】
本発明おいて、前記第1のコイルは、前記磁性基板上に積層された複数のスパイラル導体の直列接続からなることが好ましい。この構成によれば第1のコイルと第2のコイルとの巻線比をさらに大きくすることができる。
【0013】
本発明において、前記第1のコイルの形成領域と前記第2のコイルの形成領域が平面視にて実質的に重なっていることが好ましい。この構成によれば、第1のコイルと第2のコイルとの磁気結合を十分に高めることができ、変換効率が高いトランス部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、断面積の小さな平面コイルと断面積の大きな平面コイルとを組み合わせ構成された小型且つ薄型で高性能なトランス部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好ましい実施の形態によるトランス部品の構成を示す略分解斜視図である。
【図2】図1に示すトランス部品の略側面断面図である。
【図3】トランス部品の製造工程を示すフローチャートであり、特に工程全体を概略的に示すものである。
【図4】トランス部品の製造工程を示すフローチャートであり、特に、薄膜コイル層の形成工程を詳細に示すものである。
【図5】トランス部品の製造工程を示すフローチャートであり、特に、第3及び第4のスパイラル導体の形成工程を詳細に示すものである。
【図6】トランス部品の1次側コイルと2次側コイルとの関係を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施の形態によるトランス部品の構成を示す略分解斜視図である。また、図2は、図1に示すトランス部品の略側面断面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態によるトランス部品10は、フェライト基板11と、フェライト基板11上に形成された第1及び第2のスパイラル導体14、15を含む薄膜コイル層12と、フェライト基板11上に重ねて設けられたプリント基板16と、プリント基板16の両面にそれぞれ形成された第3及び第4のスパイラル導体17、18と、プリント基板16の上方を覆う上部コア19と、4つの端子電極20a〜20dとを備えている。
【0019】
フェライト基板11は矩形状の平板であり、閉磁路の一部を構成している。特に限定されるものではないが、フェライト基板11の平面寸法は例えば3.2×2.5mm程度とすることができる。フェライト基板11の材料としては焼結フェライトを用いることが好ましく、特に、Ni−Cu−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト等、透磁率が高い材料を用いることが好ましい。このような磁性材料を用いることにより、トランスの磁気特性を高めることができる。
【0020】
薄膜コイル層12はフェライト基板11の一方の主面(上面)に形成されている。薄膜コイル層12は、第1の絶縁層13a、第1のスパイラル導体14、第2の絶縁層13b、第2のスパイラル導体15、第3の絶縁層13bをこの順に積層したものである。第1のスパイラル導体14はフェライト基板11上に形成された第1の絶縁層13aの表面に形成されている。これは、フェライト基板11の表面の凹凸を緩和して平坦面を確保し、精細なパターンの形成を可能にするためである。ただし、フェライト基板11の平坦性が十分であれば、第1の絶縁層13aは無くてもよく、その場合は、フェライト基板11上に直接第1のスパイラル導体14を形成してもよい。第1〜第3の絶縁層13a〜13cは、感光性を有する絶縁性非磁性樹脂(例えば感光性ポリイミド樹脂)をスピンコートし、これを露光、現像、熱硬化することによって形成することができる。
【0021】
第1及び第2のスパイラル導体14,15は円形スパイラルであり、平面視にて概略的に重なり合っているが、完全には一致していない。すなわち、上方から見た第1のスパイラル導体14は、外周端14aから内周端14bに向かって反時計周りのスパイラルを構成しており、同じく上側から見た第2のスパイラル導体15は、内周端15bから外周端15aに向かって反時計回りのスパイラルを構成している。これにより、スパイラル導体14,15に電流が流れることによって生じる磁束の方向が一致し、スパイラル導体14,15で発生する磁束は重畳して強め合うので、大きなインダクタンスを得ることができる。
【0022】
第1及び第2のスパイラル導体14、15の外周端14a,15aはフェライト基板11又は第1の絶縁層13aの側面まで引き出されて一対の端子電極20a,20bにそれぞれ接続されている。また、第1のスパイラル導体14の内周端14bと第2のスパイラル導体15の内周端15bは、第2の絶縁層13bを貫通するコンタクトホール導体13dを介して互いに接続されている。これにより、第1及び第2のスパイラル導体17,18は互いに直列接続された単一のコイル(第1のコイルL1)を構成している。
【0023】
第1及び第2のスパイラル導体14,15は微細配線プロセスによって形成される。詳細には、下地導電膜としてCu膜、あるいはCu膜とCr膜とを順に積層した多層膜(Cr/Cu膜)をスパッタリング又は蒸着により形成した後、フォトレジスト膜をスピンコート法により形成する。次いで、フォトレジスト膜を露光・現像することによりスパイラル導体のネガパターンを形成し、このマスクパターンを用いて下地導電膜を選択的にメッキ成長させることにより形成することができる。
【0024】
プリント基板16は第3及び第4のスパイラル導体17,18の形成面を提供するための支持基板であり、その中央部には円形の開口16aを有している。プリント基板16の厚さは例えば0.06mm程度にすることができる。プリント基板16の材料は、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた一般的なプリント基板材料であることが好ましく、例えばBT基材、FR4基材、FR5基材等を用いることができる。また、プリント基板材料としてセラミック基板を用いることもできる。これらのプリント基板材料を用いた場合には、スパイラル導体をいわゆる薄膜工法におけるスパッタリングではなく、めっきにより形成できるので、導体の厚さを十分に厚くすることができる。浮遊容量の増大を回避するため、プリント基板16の誘電率は7以下(μ≦7)であることが好ましい。
【0025】
第3及び第4のスパイラル導体17,18もまた円形スパイラルであり、プリント基板16の開口16aを取り囲むように配置されている。第3及び第4のスパイラル導体17,18は、平面視にて互いに概略的に重なり合っているが、完全には一致していない。すなわち、上方から見た第3のスパイラル導体17は、外周端17aから内周端17bに向かって時計周りのスパイラルを構成しており、同じく上側から見た第4のスパイラル導体18は、内周端18bから外周端18aに向かって時計回りのスパイラルを構成している。これにより、スパイラル導体17,18に電流が流れることによって生じる磁束の方向は一致し、スパイラル導体17,18で発生する磁束は重畳して強め合うので、大きなインダクタンスを得ることができる。
【0026】
第3及び第4のスパイラル導体17、18の外周端17a,18aはプリント基板16の側面まで引き出されて一対の端子電極20c,20dにそれぞれ接続されている。また、第3のスパイラル導体17の内周端17bと第4のスパイラル導体18の内周端18bは、プリント基板16を貫通するスルーホール導体16bを介して互いに接続されている。これにより、第1及び第2のスパイラル導体17,18は互いに直列接続された単一のコイル(第2のコイルL2)を構成している。
【0027】
本実施形態において、第1及び第2のスパイラル導体14,15からなる第1のコイルL1の形成領域と、第3及び第4のスパイラル導体17,18からなる第2のコイルの形成領域は平面視にて実質的に重なっている。ここにいうコイルの形成領域とは、スパイラル導体によって構成される平面コイルの占有領域のことをいう。このような第1のコイルと第2のコイルのコイル形成領域が重なり合う構成により、第1のコイルL1によって生じる磁束と第2のコイルL2によって生じる磁束は重畳して強め合うので、大きな相互インダクタンスを得ることができる。したがって、第1のコイルと第2のコイルとの磁気結合を強めることができ、変換効率が高いトランス部品を提供することができる。
【0028】
さらに、第1及び第2のスパイラル導体14,15で構成される第1のコイルL1と第3及び第4のスパイラル導体17,18で構成される第2のコイルL2の対向距離は非常に近い。第2のスパイラル導体15と第4のスパイラル導体18との間には絶縁層13bが介在しているだけである。したがって、第1のコイルL1と第2のコイルL2との磁気結合をさらに強めることができ、変換効率の高いトランスを実現することができる。
【0029】
第3及び第4のスパイラル導体17,18は、下地導電膜(例えばCu膜)を無電解めっきにより形成した後、フォトレジストシートを貼り付け、フォトレジストシートを露光・現像することによりスパイラル導体のネガパターンを形成し、このマスクパターンを用いて下地導電膜を選択的にメッキ成長させることにより形成することができる。こうして形成された第3及び第4のスパイラル導体17,18の厚さは、第1及び第2のスパイラル導体14,15よりも十分に厚いので、直流抵抗を十分に低減することができる。
【0030】
上部コア19はフェライト基板11と共に閉磁路の一部を構成している。上部コア19の材料は焼結フェライトであってもよく、金属磁性粉含有樹脂であってもよい。上部コア19はE型コアであり、平板部19aと、中央コア部19bと2つの外側コア部19c,19dからなり、中央コア部19bはプリント基板16の開口16a内に挿入されている。開口16aは絶縁層13a〜13cにも形成されているが、中央コア部19bの下端はフェライト基板11まで達しておらず、両者の間にはエアギャップGが形成されている。一方、2つの外側コア部19c,19dの先端はフェライト基板11まで達しており、エアギャップのない連続的な磁路が形成されている。なお、中央コア部19b及び2つの外側コア部19c、19dの下端とフェライト基板11との間に第1〜第3の絶縁層13a〜13cを介在させることにより、フェライト基板11と上部コア19との間に絶縁層のギャップを形成してもよい。
【0031】
上部コア19の材料は金属磁性粉含有樹脂であってもよい。磁気回路全体を焼結フェライトで構成した場合、ある程度以上電流を流しても磁気飽和しないようにギャップを設けなければならないが、金属磁性粉含有樹脂を用いた場合には、金属磁性粉と樹脂との間の微小なギャップが多数存在しており、これが飽和磁束密度を高めるので、フェライト基板11と上部コア19との間のギャップを省略することが可能である。
【0032】
金属磁性粉含有樹脂とは、樹脂に金属磁性粉が混入されてなる磁性材料である。金属磁性粉としてはパーマアロイ系材料を用いることが好ましい。具体的には、第1の金属磁性粉として平均粒径が20〜50μmであるPb−Ni−Co合金と、第2の金属磁性粉として平均粒径が3〜10μmであるカルボニル鉄とを所定の比率、例えば70:30〜80:20、好ましくは75:25の重量比で含む金属磁性粉を用いることが好ましい。金属磁性粉の含有率は90〜96重量%であることが好ましい。樹脂に対して金属磁性粉の量を少なくすれば飽和磁束密度は小さくなり、逆に金属磁性粉の量を多めにすれば飽和磁束密度は大きくなるので、金属磁性粉の量だけで飽和磁束密度を調整することができる。
【0033】
さらに、金属磁性粉としては平均粒径が5μmである第1の金属磁性粉と、平均粒径が50μmの混合である第2の金属磁性粉とを所定の比率、例えば75:25で混合したものであることが特に好ましい。このように、粒径が異なる2種類の金属磁性粉を用いた場合には、低加圧又は非加圧成形下において高密度な磁性コアを成形することができ、高透磁率且つ低損失な磁性コアを実現することができる。
【0034】
金属磁性粉含有樹脂に含まれる樹脂は絶縁結着材として機能する。樹脂の材料としては液状エポキシ樹脂又は粉体エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の含有率は4〜10重量%であることが好ましい。
【0035】
フェライト基板11、プリント基板16及び上部コア19からなる積層体の対向する2つの側面のうち、一方の側面には一対の端子電極20a,20bがそれぞれ設けられており、他方の側面には一対の端子電極20c、20dがそれぞれ設けられている。上記のように、第1及び第2のスパイラル導体14,15からなる第1のコイルL1の両端は一対の端子電極20a,20bにそれぞれ接続されており、第3及び第4のスパイラル導体17,18からなる第2のコイルL2の両端は一対の端子電極20c,20dにそれぞれ接続されている。
【0036】
第1及び第2のスパイラル導体14,15は狭いピッチの微細パターンであり、導体幅は2〜10μmであることが好ましい。この構成によれば、第1及び第2のスパイラル導体14,15からなる第1のコイルL1を昇圧トランスの2次側コイルとして好ましく用いることができる。詳細は後述するが、これらのスパイラル導体14,15を含む薄膜コイル層12はいわゆる薄膜工法によって形成されるので、ターン数が大きなスパイラル導体を非常に狭いピッチで形成することができる。
【0037】
一方、第3及び第4のスパイラル導体17,18は第1及び第2のスパイラル導体14,15よりも幅広な厚膜パターンであり、例えば、導体幅は20〜100μm、導体厚は25〜150μmであることが好ましい。この構成によれば、第3及び第4のスパイラル導体17,18からなる第2のコイルL2を昇圧トランスの1次側コイルとして好ましく用いることができる。特に限定されるものではないが、1次側コイルと2次側コイルの巻数比は1:2〜1:20であることが好ましい。第3及び第4のスパイラル導体17,18は、プリント基板16の表面に形成されるため、いわゆるセミアディティブ法で形成することができる。
【0038】
図3〜図5は、トランス部品10の製造工程を示すフローチャートである。
【0039】
図3に示すように、トランス部品10の製造では、一枚の大きな基板上に多数個のトランス部品を形成する、いわゆる量産プロセスが実施される。トランス部品10の製造工程の概略は以下の通りである。まず、第1及び第2のスパイラル導体14,15を含む薄膜コイル層12が形成されたフェライト基板11を作製すると共に(ステップS31〜S36)、両面に第3及び第4のスパイラル導体17,18が形成されたプリント基板16を作製し(ステップS37〜S39)、これらを重ね合わせた後(ステップS40)、プリント基板11の上面に上部コア19を形成する(ステップS41)。その後、個々の部品に切断した後(ステップS42)、端子電極20a〜20dを形成することにより(ステップS43)、トランス部品10が完成する。
【0040】
次に、フェライト基板11上への薄膜コイル層12の形成工程について詳細に説明する。薄膜コイル層12の形成では、まずフェライト基板11を用意し、フェライト基板11上に第1のスパイラル導体14を形成する。詳細には、図4に示すように、フェライト基板11上にまず絶縁層13aを形成する(ステップS44)。絶縁層13aは、感光性を有する絶縁性非磁性樹脂(例えば感光性ポリイミド樹脂)をスピンコートし、これを露光、現像、熱硬化することによって形成することができる。次いで下地導電膜をスパッタリング又は蒸着により形成した後(ステップS45)、フォトレジスト膜をスピンコート法により形成する(ステップS46)。次いで、フォトレジスト膜を露光・現像することによりスパイラル導体のネガパターンを形成し(ステップS47)、このマスクパターンを用いて電気めっきを行い(ステップS48)、下地導電膜を選択的に成長させる。その後、レジスト及び不要な下地導電膜をエッチングにより除去することにより(ステップS49)、第1のスパイラル導体14が完成する。
【0041】
次に、第1のスパイラル導体14が形成されたフェライト基板11上に絶縁層13bを形成する。絶縁層13bの形成方法は絶縁層13aと同様である。このとき同時に、絶縁層13bを貫通するコンタクトホール13dも形成される。
【0042】
次に、第1のスパイラル導体14及び絶縁層13bが形成されたフェライト基板11上に第2のスパイラル導体15を形成し、さらにその上に絶縁層13cを形成する。第2のスパイラル導体15の形成方法は、第1のスパイラル導体14と同様であり、絶縁層13cの形成方法も絶縁層13a,13bと同様である。以上により、薄膜コイル層12が完成する。
【0043】
次に、プリント基板16上への第3及び第4のスパイラル導体17,18の形成工程について詳細に説明する。スパイラル導体17,18の形成では、まず開口16a及びスルーホール16bが形成されたプリント基板16を用意し、プリント基板16の上面及び裏面に第3のスパイラル導体17を形成する。詳細には、図5に示すように、プリント基板16の表面に下地導電膜(例えばCu膜)を無電解めっきにより形成した後(ステップS50)、フォトレジストシートを貼り付ける(ステップS51)。次いで、フォトレジストシートを露光・現像することによりスパイラル導体のネガパターンを形成し(ステップS52)、このマスクパターンを用いて電気めっきを行い(ステップS53)、下地導電膜を選択的に成長させる。その後、レジスト及び不要な下地導電膜をエッチングにより除去することにより(ステップS54)、スパイラル導体17,18が完成する。
【0044】
次に、フェライト基板11上にプリント基板16を重ね合わせて接着固定する(ステップS40)。その際、第3及び第4のスパイラル導体17,18の電気的な絶縁と機械的な保護のため、プリント基板16の両面に保護膜を形成することが好ましく、接着剤を保護膜として用いてもよい。
【0045】
次に、プリント基板16の上面に上部コア19を形成する(ステップS41)。上部コア19としてE型フェライト基板を用いる場合には、予め所定の形状に加工されたフェライト基板をプリント基板16に重ね合わせて接着固定すればよい。また、金属磁性粉含有樹脂を用いる場合には、金属磁性粉含有樹脂ペーストをスクリーン印刷した後、脱泡し、160℃で1時間加熱して樹脂ペーストを本硬化させればよい。
【0046】
その後、積層体をダイシングすることによって個片化した後(ステップS42)、個々のチップの側面に端子電極20a〜20dを形成することにより(ステップS43)、本実施形態によるトランス部品10が完成する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によるトランス部品10は、フェライト基板11上に形成した第1及び第2のスパイラル導体14,15の直列接続からなる第1のコイルL1と、プリント基板16上に形成した第3及び第4のスパイラル導体17,18の直列接続からなる第2のコイルL2との組み合わせによってトランスを構成すると共に、第1のコイルL1は微細パターンとし、第2のコイルL2は第1のコイルよりもターン数が少なく厚いパターンとしているので、小型且つ薄型で高性能なトランス部品を実現することができる。
【0048】
図6(a)及び(b)は、トランス部品の1次側コイルと2次側コイルとの関係を説明するための回路図である。
【0049】
図6(a)に示すトランス部品は、第1のコイルL1と第2のコイルL2がコアに対して逆方向に巻回されたものであり、図1のトランス部品の構成を示すものである。これに対し、図6(b)に示すトランス部品は、第1のコイルL1と第2のコイルL2がコアに対して同一方向に巻回されたものであり、図1のトランス部品において、第1のコイルL1と第2のコイルL2の巻回方向が互いに逆向きの場合を示すものである。このような構成は、図1において、第1のスパイラル導体14の外周端14aを端子電極20bに接続し、第2のスパイラル導体15の外周端15aを端子電極20aに接続することにより実現できる。このように、本発明によるトランス部品は、1次側コイルに対する2次側コイルの巻回方向を任意に設定することができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の限定を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、薄膜コイル層12が2層のスパイラル導体14,15を有しているが、スパイラル導体の層数は2層に限定されるものではなく、3層以上であってもよい。層数を増やした場合には第2のコイルのターン数が増やすことができ、1次側コイルと2次側コイルとの巻線比をさらに大きくすることができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、プリント基板16の両面にスパイラル導体17,18をそれぞれ形成しているが、本発明はこのような構成に限定されず、スパイラル導体をプリント基板16の片面にのみ形成してもかまわない。また、2枚以上のプリント基板16を積層して構成することにより、コイルのターン数を増やしたり、2つのコイルを並列に接続して導体の断面積を増やしたりすることも可能である。
【0053】
また、上記実施形態においては、薄膜コイル層12の形成面を提供する磁性基板としてフェライト基板11を挙げたが、磁性基板の材料はフェライトに限定されず、種々の磁性材料を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 トランス部品
11 フェライト基板
12 薄膜コイル層
13a,13b,13c 絶縁層
13d コンタクトホール導体
14 第1のスパイラル導体
14a 第1のスパイラル導体の外周端
14b 第1のスパイラル導体の内周端
15 第2のスパイラル導体
15a 第2のスパイラル導体の外周端
15b 第2のスパイラル導体の内周端
16 プリント基板
16a プリント基板の開口
16b スルーホール導体
17 スパイラル導体
17a スパイラル導体の外周端
17b スパイラル導体の内周端
18 スパイラル導体
18a スパイラル導体の外周端
18b スパイラル導体の内周端
19 上部コア
19a 平板部
19b 中央コア部
19c,19d 外側コア部
20a〜20d 端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性基板と、
前記磁性基板上に形成された第1のコイルと、
中央部に開口を有し、前記磁性基板上に重ねて設けられたプリント基板と、
前記プリント基板上に形成された第2のコイルと、
前記プリント基板の前記開口内に設けられ、前記第1及び第2のコイルに共通の磁路を構成する磁性体とを備えることを特徴とするトランス部品。
【請求項2】
前記第1のコイルのターン数は、前記第2のコイルよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のトランス部品。
【請求項3】
前記第2のコイルを構成する導体の厚さは、前記第1のコイルよりも厚いことを特徴とする請求項2に記載のトランス部品。
【請求項4】
前記第2のコイルを構成する導体の断面積は、前記第1のコイルよりも大きいことを特徴とする請求項2又は3に記載のトランス部品。
【請求項5】
前記第1のコイルは、前記磁性基板上に積層された複数のスパイラル導体の直列接続からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトランス部品。
【請求項6】
前記第1のコイルの形成領域と前記第2のコイルの形成領域が平面視にて実質的に重なっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトランス部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−89760(P2012−89760A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236784(P2010−236784)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】