説明

トリアセチルセルロースブロック共重合体、その中間体、充填剤、および、界面活性剤

【課題】β1,4グリコシド結合の切断によるセルロース主鎖の化学修飾による高機能な特性を有する化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)


(式中、R0は、アセチル基を表し、R1は、それぞれ親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合した基を表し、n1、m1は、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)などで表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物であるトリアセチルセルロースブロック共重合体、その中間体、充填剤、および、界面活性剤に係り、特に、親水性ポリマー、疎水性ポリマーあるいは両親媒性ポリマーに対して相溶性が高く、これらのポリマーを補強する充填剤、および、親水性モノマーを重合させることによりセルロース系界面活性剤として有用なものに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上で最大の生物資源であり、再生可能な資源でもある。このセルロースを用いた物作り、あるいは、該セルロースの化学修飾による高機能化および新規機能性材料の創製は、持続可能な社会の構築に資することとなる。
【0003】
セルロースは、グルコピラノース環がβ1,4グリコシド結合により連鎖したものであり、該β1,4グリコシド結合の切断が困難であるため、従来、セルロースの化学修飾といえば、専らグルコピラノース環上の3個の水酸基の化学修飾、すなわち、側鎖の化学修飾であった。
【0004】
このような側鎖の化学修飾としては、例えば、特許文献1の特許請求の範囲に記載されているような、3個の水酸基をアセチル化したセルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−130301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セルロースに多様な機能を付与するためには、単にグルコピラノース環上の側鎖の化学修飾を行うのみでは限界があり、これまで困難であったβ1,4グリコシド結合の切断による主鎖の化学修飾(例えば、セルロースの主鎖への種々の特性を有するモノマーの重合)により、更なる高機能化を図ることが強く切望されていた。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、トリアセチルセルロースの主鎖の化学修飾により高機能化を図るもので、例えば、相溶性の高い基材への充填剤、および、共重合するモノマーを親水性モノマーとすることで、トリアセチルセルロースブロック共重合体中に親水性部分と疎水性部分とを備えさせたセルロース系界面活性剤を提供する。また、本発明は、トリアセチルセルロースブロック共重合体を製造するために有効な中間体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、下記一般式(1)または下記一般式(2)
【化1】

【化2】

(一般式(1)、(2)中、R0は、アセチル基を表し、R1、R2は、それぞれ親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合した基を表し、n1、n2、m1、m2は、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)のいずれかで表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の一般式(1)および一般式(2)で表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体の内、少なくともいずれか一方を含有する充填剤である。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の一般式(1)および一般式(2)で表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体において、ラジカル重合するモノマーは、親水性モノマーであり、前記トリアセチルセルロースブロック共重合体の内、少なくともいずれか一方を含有する界面活性剤である。
【0011】
請求項4に係る発明は、下記一般式(3)または下記一般式(4)
【化3】

【化4】

(一般式(3)、(4)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)のいずれかで表される請求項1記載の化合物の中間体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一般式(1)、(2)のトリアセチルセルロースブロック共重合体は、β1,4グリコシド結合を切断した主鎖に、種々の機能を有する親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合しているため、親水性モノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体は親水性樹脂の基材に対して、疎水性モノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体は疎水性樹脂の基材に対して、両親媒性モノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体は疎水性樹脂および親水性樹脂の各々に対して相溶性が高く、これらトリアセチルセルロースブロック共重合体の前記各基材への混合により、充填剤として、該基材の強度を高めることができる。
【0013】
また、重合するモノマーを親水性モノマーとすることで、トリアセチルセルロースブロック共重合体は、一分子中に親水性部分(親水性共重合体)と、疎水性部分(アセチル化セルロース)とを備えさせることができ、セルロース系界面活性剤として機能させることができる。
【0014】
また、一般式(3)、(4)で表される化合物は、それぞれ一般式(1)、(2)で表される化合物を製造する際の中間体として重要であり、入手の容易なトリアセチルセルロースを原料とし、前記中間体を経由することにより、一般式(1)、(2)で表される本発明の最終目的化合物であるトリアセチルセルロースブロック共重合体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、2におけるラジカルの電子スピン共鳴スペクトルを示した図である。
【図2】実施例3におけるラジカルの電子スピン共鳴スペクトルを示した図であり、図2(a)は一般式(3)、(4)、(13)、(14)の各シミュレーションスペクトルを、図2(b)はESRスペクトルと、図2(a)を合算したシミュレーションスペクトルを、それぞれ示している。なお、図2(a)の各シミュレーションスペクトルは、便宜上、3種のスペクトルを縦軸方向にずらして図示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明のトリアセチルセルロースブロック共重合体の製造方法の一例について説明する。この例にあっては、一般式(5)、(6)
【化5】

【化6】

(一般式(5)、(6)中、R1、R2は、それぞれ親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合をした基を表し、n1、n2、m1、m2は、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表されるセルロースブロック共重合体を生成した後、グルコピラノース環上の側鎖をアセチル化するもので、前述のセルロースブロック共重合体は、セルロースと、親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーの内、いずれかのモノマーとを混合し、無酸素状態、すなわち、アルゴンや窒素などの不活性ガス中か、より好ましくは真空中(好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.6Pa以下)であって、モノマーが固体として存在できる極低温下(好ましくは−150℃以下、より好ましくは液体窒素温度(−196℃)以下)において、セルロースを機械的に破壊した後、前述のモノマーをラジカル重合させることにより生成される。ここで、無酸素状態にする有効な手段としては、モノマー内の酸素を、例えば、凍結−排気−融解により除去する方法(Freeze−pump−thaw法)が好適に用いられる。
【0017】
なお、あらかじめモノマーを混合するのは、一般式(7)、(8)
【化7】

【化8】

(一般式(7)、(8)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、nは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表される主鎖末端型アルキルラジカルを経由し、この主鎖末端型アルキルラジカルを分離・採取することなく、ワンポットで一般式(5)、(6)のセルロースブロック共重合体を連続的に製造するためである。
【0018】
原料となるセルロースは、例えば、リンターパルプ、バクテリアセルロース(BC)、微結晶セルロース(MCC)などが例示される。なお、使用できるセルロースはこれらに限られるものではなく、木質系セルロースなど、その他のセルロースを用いることもできる。
【0019】
また、前述の親水性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ(オキシエチレンメタクリレート)、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウムなどが例示される。なお、親水性モノマーは、これらに限られるものではなく、その他の親水性を有するラジカル重合成モノマーを用いることもできる。
【0020】
また、前述の疎水性モノマーとしては、例えば、アクリル系モノマー(メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレートなど)、オレフィン系モノマー(エチレン、ブタジエン、スチレンなど)などが例示される。なお、疎水性モノマーは、これらに限られるものではなく、その他の疎水性を有するラジカル重合成モノマーを用いることもできる。
【0021】
また、前述の両親媒性モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、アクロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどが例示される。なお、両親媒性モノマーは、これらに限られるものではなく、その他の両親媒性を有するラジカル重合成モノマーを用いることもできる。
【0022】
次に、前述のセルロースの機械的破壊について説明すると、セルロースと重合させるモノマーとを同じ容器に入れ、これらに粉砕子を加え、真空装置を用いて真空にしたり、不活性ガスと置換したりして、内部が無酸素状態となるようにして該容器を密閉し、例えば、容器を液体窒素中に浸漬し、振とう器等を用いて加振しながら容器内のセルロースに対して機械的エネルギーを付加し、該セルロースを破壊する。なお、容器や粉砕子は、極低温に耐えられるものであればよく、容器にあっては、例えば、ガラス製、ステンレス製などの金属容器が用いられ、粉砕子にあっては、例えば、ガラス製、陶製、ジルコニア系などのボールが用いられる。
【0023】
ところで、セルロースは、一般式(9)(式中、A、Bは、セルロースの主鎖であり、それぞれ一般式(9a)で表される繰り返し単位を有する基である)で表され、
【化9】

【化10】

この一般式(9)中の波線1、波線2で示される結合部位においてβ1、4グリコシド結合が切断して破壊され、一般式(7)と一般式(10)
【化11】

【化12】

および、一般式(8)と一般式(11)
【化13】

【化14】

(一般式(7)、(8)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、nは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数であり、一般式(10)、(11)中、O*は、不対電子を有する酸素原子を表し、nは、繰り返し単位の数を示す自然数である)で表されるラジカルが生成する。
【0024】
そして、一般式(7)、(8)の主鎖末端型アルキルラジカルは、ラジカル重合性モノマーの重合開始剤となり、容器中に共存しているモノマーとラジカル重合するもので、このラジカル重合の結果、上述した一般式(5)、(6)のセルロースブロック共重合体が生成される。なお、一般式(7)、(8)の主鎖末端型アルキルラジカルの生成確認は、後記する電子スピン共鳴(以下、「ESR」ともいう)によるESRスペクトルの解析により行うことができる。
【0025】
そして、引き続き一般式(5)、(6)のセルロースブロック共重合体のアセチル化を行うもので、公知の技術、例えば、酢酸および無水トリフルオロ酢酸を添加し、50℃で12時間撹拌反応させることによりグルコピラノース環上の側鎖の水酸基をアセチル基に置換する。
【0026】
このアセチル化の結果、一般式(1)、(2)
【化15】

【化16】

(一般式(1)、(2)中、R0は、アセチル基を表し、R1、R2は、それぞれ親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合した基を表し、n1、n2、m1、m2は、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体(最終目的化合物)が生成される。なお、一般式(1)、(2)のトリアセチルセルロースブロック共重合体の生成確認は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、水素原子の核磁気共鳴(H−NMR)を用いた公知の化学種同定方法により行うことができる。
【0027】
ところで、上述した製造方法にあっては、一般式(5)、(6)のセルロースブロック共重合体を経由し、その後、グルコピラノース環上の側鎖をアセチル化する例について示したが、一般式(3)、(4)
【化17】

【化18】

(一般式(3)、(4)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表される中間体(側鎖がアセチル化した主鎖末端型アルキルラジカル)を生成した後、この中間体を重合開始剤として、ラジカル重合性モノマーを重合させてもよい。かかる製造方法によれば、入手の容易なトリアセチルセルロース(以下、「セルローストリアセテート」ともいう)を原料として用いることができ、簡易な方法で最終目的化合物であるトリアセチルセルロースブロック共重合体を製造することができる。
【0028】
ここで、一般式(3)、(4)の中間体の製造方法について説明すると、この中間体は、公知の技術(例えば、特開平10−130301号公報に記載されているセルローストリアセテートの製造方法など)により製造された一般式(12)(一般式(12)中、R0は、アセチル基を表し、A、Bは、トリアセチルセルロースの主鎖であり、それぞれ一般式(12a)で表される繰り返し単位を有する基である)
【化19】

【化20】

で表されるトリアセチルセルロースを使用できるもので、このトリアセチルセルロースは、前述したセルロースの機械的破壊と同様な方法により、上記一般式(12)中の波線1、波線2で示される結合部位においてβ1、4グリコシド結合を切断して破壊し、一般式(3)と一般式(13)
【化21】

【化22】

および、一般式(4)と一般式(14)
【化23】

【化24】

(一般式(3)、(4)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表し、一般式(13)、(14)中、O*は、不対電子を有する酸素原子を表し、R0は、アセチル基を表し、nは、繰り返し単位の数を示す自然数である)で表されるラジカルが生成する。ここで、生成したラジカルの内、側鎖にアセチル基を有する一般式(3)、(4)の主鎖末端型アルキルラジカルが、本発明の中間体となる。
【0029】
そして、得られた一般式(3)、(4)の中間体に親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかをラジカル重合させるもので、このラジカル重合の結果、前述の一般式(1)、(2)のトリアセチルセルロースブロック共重合体(最終目的化合物)が生成される。なお、一般式(3)、(4)の中間体の生成確認は、後記する電子スピン共鳴(ESR)によるESRスペクトルの解析により行うことができ、一般式(1)、(2)のトリアセチルセルロースブロック共重合体の生成確認は、前記したように、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、水素原子の核磁気共鳴(H−NMR)を用いて行うことができる。
【0030】
以上のようにして製造されるトリアセチルセルロースブロック共重合体は、例えば、基材を補強するための充填剤として有用である。充填剤として用いたときの具体例を次に示す。
【0031】
疎水性樹脂の基材にあっては、疎水性モノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体を配合することができ、例えば、アクリル樹脂やポリ乳酸樹脂等の基材中にトリアセチルセルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体を配合するものが例示される。
【0032】
また、親水性樹脂の基材にあっては、親水性モノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体を配合することができ、例えば、ポリビニルアルコール樹脂基材中にトリアセチルセルロース−ポリメタクリル酸ブロック共重合体を配合するものが例示される。
【0033】
また、疎水性樹脂の基材および親水性樹脂の基材のいずれであっても、両親媒性のモノマーが重合したトリアセチルセルロースブロック共重合体を配合することができ、例えば、疎水性のアクリル樹脂基材、親水性のポリビニルアルコール樹脂基材のいずれにも、両親媒性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミドが重合したトリアセチルセルロース−N,N−ジメチルアクリルアミドブロック共重合体を配合することができる。
【0034】
また、本発明のトリアセチルセルロースブロック共重合体において、トリアセチルセルロース(一般式(12)参照)の主鎖に親水性モノマーをラジカル重合させたものは、トリアセチルセルロースブロック共重合体一分子中に親水性部分(親水性共重合体)と、疎水性部分(アセチル化セルロース)とを備えさせることができ、セルロース系界面活性剤としても有用である。
【0035】
界面活性剤に適用するときの親水性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ(オキシエチレンメタクリレート)、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウムなどが例示される。なお、親水性モノマーは、これらに限られるものではなく、その他の親水性を有するラジカル重合成モノマーを用いることもできる。
【0036】
なお、セルロースは生体適合性が高いため、上述したセルロース系界面活性剤のミセルを利用し、保湿剤などの化粧品や、薬剤を人体所定の場所に運搬するDDS(Drug Delivery System、薬剤送達システム)としての応用も期待されている。
【0037】
ところで、上述した製造方法にあっては、セルロースブロック共重合体の側鎖をアセチル基で置換したものについて例示したが、この側鎖の化学修飾は、アセチル基に限られるものではなく、例えば、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、アセトイミドイル基など、他のアシル基による化学修飾であってもよい。
【0038】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]トリアセチルセルロースブロック共重合体の生成(1)
セルロースとしてバクテリアセルロース(BC)0.43gを用い、該セルロースをガラス製ボールミル(容器、粉砕子共にガラス製)に入れて100℃で6時間真空乾燥した後、これに疎水性モノマーであるメチルメタクリレート0.2mlを混合し、容器の内部を真空状態にして該容器を液体窒素中(−196℃)に浸漬し、7時間、振とう器を用いてセルロースの機械的破壊(β1,4グリコシド結合の切断)を行い、主鎖末端型アルキルラジカルを得ると共に、このラジカルにメチルメタクリレートを重合させて一般式(15)、(16)
【化25】

【化26】

(一般式(15)、(16)中、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数である)で表されるセルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体を得た。なお、セルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体の生成確認は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて行った。
【0040】
そして、容器から生成したセルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体(50mg)を採取し、これに無水トリフルオロ酢酸(4.1ml)および酢酸(2.2ml)を添加し、50℃で12時間反応させてアセチル化を行い、一般式(17)(一般式(1)のR1が疎水性モノマーであるものに相当)
【化27】

および、一般式(18)(一般式(2)のR2が疎水性モノマーであるものに相当)
【化28】

(一般式(17)、(18)中、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表されるトリアセチルセルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体を得た。なお、アセチル化の確認は、生成物を重クロロホルム溶媒に溶解させ、水素原子の核磁気共鳴(H−NMR)観測をすることにより行った。
【0041】
ところで、上述したセルロース主鎖のβ1、4グリコシド結合の切断による主鎖末端型アルキルラジカルの生成確認にあっては、疎水性モノマーを含まない以外は実施例1と同様な試験を行い、セルロースの機械的破壊を行った後、電子スピン共鳴装置(Bruker社製、型番:EMX Plus)を用い、観測された生成物のESRスペクトルと、以下の文献(1)〜(3)に記載された手法のスペクトルシミュレーションによるシミュレーションスペクトルとを比較することにより行った。
(1)Masato Sakaguchi, Takeru Iwamura, Katsuhiro Yamamoto, Yohei Miwa,
Shigetaka Shimada, and Masahiro Sakai “Molecular Mobility of Peroxy
Radicals at the Ends of Non-isolated Polystyrene Chains Tethered on the
Solid Surface of Poly(tetrafluoroethylene) in a Vacuum”, Macromolecules
2008, 41, 253-257.
(2)Masato Sakaguchi, Katsuhiro Yamamoto, Yohei Miwa, Shigetaka Shimada,
Masahiro Sakai, and Takeru Iwamura, “Molecular Mobility of Peroxy
Radicals at the Ends of Isolated Polystyrene Chains Tethered on the Solid
Surface of Poly(tetrafluoroethylene) in a Vacuum” Macromolecules 2007,
40, 1708-1712.
(3)Masato Sakaguchi, Katsuhiro Yamamoto, Youhei Miwa, Shigeo Hara,
Yusuke Sugino, Shigeru Okamoto, Masahiro Sakai, and Shigetaka Shimada,
“Molecular Motion of Peroxy Radicals at Ends of Isolated and Non-isolated
Polyethylene Chains Tethered on Powder Surface of
Poly(tetrafluoroethylene) in a Vacuum”. Macromolecules 2004, 37,
8128-8134.
【0042】
ここで、生成したラジカルの確認方法について詳述すると、この確認は、真空中において−196℃でバクテリアセルロース(BC)を機械的破壊後、同温度(−196℃)で電子スピン共鳴装置を用いて観測を行い、得られたESRスペクトルを解析して行うもので、一般式(7)、(8)、(10)、(11)の各々のラジカルについてシミュレーションスペクトルを求め、これらを合算して得られたスペクトルが、実測したESRスペクトルと一致するか否かにより一般式(7)、(8)、(10)、(11)のラジカルの存否を判断した。
【0043】
図1において、1は生成物を実測したESRスペクトルを、2、3はそれぞれ一般式(7)、(8)のラジカル(主鎖末端型アルキルラジカル)のシミュレーションスペクトルを、4は一般式(10)、(11)のラジカル(アルコキシラジカル)のシミュレーションスペクトルをそれぞれ示しており、5は一般式(7)、(8)、(10)、(11)のラジカルの各シミュレーションスペクトルを合算したシミュレーションスペクトルを示している。
【0044】
以下、一般式(7)、(8)、(10)、(11)のラジカルそれぞれのシミュレーションスペクトルの算出について具体的に説明する。
<シミュレーションスペクトルの算出>
・一般式(7)のラジカル(主鎖末端型アルキルラジカル):
α−プロトン(α−H)が1個、β−プロトン(β−H)が1個存在している。α−Hの等方的g値(giso =2.0043)、α−Hの異方的hfs値(Ax、Ay、Az)=(1.10mT、2.10mT、3.10mT)、β−Hの等方的hfs値(Aiso=2.80mT)を用いてシミュレーションスペクトル2(3本線スペクトル)を求めた。
・一般式(8)のラジカル(主鎖末端型アルキルラジカル):
α−プロトン(α−H)が1個、β−プロトン(β−H)が2個存在している。α−Hの等方的g値(giso =2.0034)、α−Hの異方的hfs値(Ax、Ay、Az)=(1.20mT、2.30mT、3.40mT)、β−Hの等方的hfs値(Aiso=3.20mT)を用いてシミュレーションスペクトル3(4本線スペクトル)を求めた。
・一般式(10)、(11)のラジカル(アルコキシラジカル):
ESRによるスペクトルは共に超微細結合(hfs)を示さず1本線スペクトルなので、ESRスペクトルでは区別できない1本線スペクトルと仮定し、等方的g値(giso =2.0045)を用いてシミュレーションスペクトル4を求めた。
<各シミュレーションスペクトルを合算したものの算出>
・一般式(7)のラジカルの相対濃度を0.3、一般式(8)のラジカルの相対濃度を0.2、ESRスペクトルからは区別できない一般式(10)と一般式(11)の合計相対ラジカル濃度を0.5としてシミュレーションスペクトル2〜4を合算し、シミュレーションスペクトル5を求めた。
【0045】
以上の結果から、図1に示したように、実測したESRスペクトル1は、各シミュレーションスペクトル2〜4を合算したシミュレーションスペクトル5とほぼ一致した。したがって、バクテリアセルロース(BC)の真空中−196℃での機械的破壊により主鎖のβ1、4グリコシド結合が切断し、一般式(7)の主鎖末端型アルキルラジカルと一般式(10)のアルコキシラジカル、および、一般式(8)の主鎖末端型アルキルラジカルと一般式(11)のアルコキシラジカルがそれぞれ対生成することを確認した。
【0046】
[実施例2]トリアセチルセルロースブロック共重合体の生成(2)
疎水性モノマーに代えて親水性モノマーであるメタクリル酸0.2mlを用いた以外は実施例1と同様であり、一般式(19)、(20)
【化29】

【化30】

(一般式(19)、(20)中、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数である)で表されるセルロース−ポリメタクリル酸ブロック共重合体を得た後、アセチル化を行い、一般式(21)(一般式(1)のR1が親水性モノマーであるものに相当)
【化31】

および、一般式(22)(一般式(2)のR2が親水性モノマーであるものに相当)
【化32】

(一般式(21)、(22)中、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)で表されるトリアセチルセルロース−ポリメタクリル酸ブロック共重合体を得た。なお、生成物の確認については、実施例1と同様な方法で行った。
【0047】
[実施例3]中間体の生成
アセチルセルロースとしてセルローストリアセテート(和光純薬工業製、CTA)1.18gをガラス製ボールミル(容器、粉砕子共にガラス製)に入れ(モノマーは入れない)、100℃で6時間真空乾燥した後、内部が真空状態の容器を液体窒素中(−196℃)に浸漬し、7時間、振とう器を用いてセルロースの機械的破壊を行い、一般式(3)、(4)の中間体(側鎖にアセチル基を有する主鎖末端型アルキルラジカル)を得た。なお、セルローストリアセテート主鎖のβ1、4グリコシド結合の切断による主鎖末端型アルキルラジカルの生成確認は、実施例1と同じ装置および同じ手法を用い、観測された生成物のESRスペクトルと、スペクトルシミュレーションにより得られたシミュレーションスペクトルとを比較することにより行った。
【0048】
図2は、シミュレーションスペクトルとESRスペクトルとを図示したもので、図2(a)において、7、8は、それぞれ一般式(3)、(4)のラジカル(主鎖末端型アルキルラジカル)のシミュレーションスペクトルを、9は、一般式(13)、(14)のラジカル(アルコキシラジカル)のシミュレーションスペクトルをそれぞれ示している。また、図2(b)において、6は、観測された生成物のESRスペクトルを、10は、図2(a)で図示した一般式(3)、(4)、(13)、(14)のラジカルの各シミュレーションスペクトルを合算したものをそれぞれ示している。
【0049】
以下、一般式(3)、(4)、(13)、(14)のラジカルそれぞれのシミュレーションスペクトルの算出について説明する。
<シミュレーションスペクトルの算出>
・一般式(3)のラジカル(中間体、主鎖末端型アルキルラジカル):
α−プロトン(α−H)が1個、β−プロトン(β−H)が1個存在している。α−Hの等方的g値(giso =2.0057)、α−Hの等方的hfs値(Aiso=2.10mT)、β−Hの等方的hfs値(Aiso=1.10mT)を用いてシミュレーションスペクトル7を求めた。
・一般式(4)のラジカル(中間体、主鎖末端型アルキルラジカル):
α−プロトン(α−H)が1個、β−プロトン(β−H)が2個存在している。α−Hの等方的g値(giso =2.0035)、α−Hの等方的hfs値(Aiso=2.30mT)、β−Hの等方的hfs値(Aiso=3.70mT)を用いてシミュレーションスペクトル8を求めた。
・一般式(13)、(14)のラジカル(アルコキシラジカル):
ESRによるスペクトルは共に超微細結合(hfs)を示さず1本線スペクトルなので、ESRスペクトルでは区別できない1本線スペクトルと仮定し、等方的g値(giso=2.0045)を用いてシミュレーションスペクトル9を求めた。
<各シミュレーションスペクトルを合算したものの算出>
・一般式(3)のラジカルの相対濃度を0.2、一般式(4)のラジカルの相対濃度を0.3、ESRスペクトルからは区別できない一般式(13)と一般式(14)の合計相対ラジカル濃度を0.5としてシミュレーションスペクトル(3)、(4)、(13)、(14)を合算し、シミュレーションスペクトル10を求めた。
【0050】
以上の結果から、図2(b)に示したように、ESRスペクトル6は、各シミュレーションスペクトル7〜9を合算したシミュレーションスペクトル10と似ており、ピーク位置が一致した。したがって、セルローストリアセテートの真空中−196℃での機械的破壊により主鎖のβ1、4グリコシド結合が切断し、一般式(3)の主鎖末端型アルキルラジカルと一般式(13)のアルコキシラジカル、および、一般式(4)の主鎖末端型アルキルラジカルと一般式(14)のアルコキシラジカルがそれぞれ対生成することが確認された。
【0051】
[実施例4]トリアセチルセルロースブロック共重合体の生成(3)
モノマーとして親水性のメタクリル酸(MAA)0.2mlを用い、これをトリアセチルセルロースとしてセルローストリアセテート(和光純薬工業製、CTA)1.06gと共に容器に入れ、メタクリル酸の共存下、その他は実施例3と同様な方法でトリアセチルセルロース1.06gの機械的破壊を行った。その結果、真空中−196℃で一般式(21)、(22)のトリアセチルセルロース−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体(最終目的化合物)の生成が確認された。なお、このトリアセチルセルロースブロック共重合体の生成確認は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて行った。
ところで、実施例4において、最終目的化合物であるトリアセチルセルロースブロック共重合体の生成反応の過程で生ずる一般式(3)、(4)の中間体を直接同定することは極めて困難であるが、この実施例にあっても、該中間体を経由していることは、実施例3の結果から明白といえる。
【0052】
なお、上述した実施例1、2にあっては、セルロースとしてバクテリアセルロース(BC)を用いた実施例を示したが、微結晶セルロース(MCC)でも同様な結果が得られた。
【符号の説明】
【0053】
1 ESRスペクトル
2 一般式(7)の主鎖末端型アルキルラジカルのシミュレーションスペクトル
3 一般式(8)の主鎖末端型アルキルラジカルのシミュレーションスペクトル
4 一般式(10)、(11)のアルコキシラジカルのシミュレーションスペクトル
5 一般式(7)、(8)、(10)、(11)のラジカルの各シミュレーションスペクトルを合算したもの
6 ESRスペクトル
7 一般式(3)の主鎖末端型アルキルラジカル(中間体)のシミュレーションスペクトル
8 一般式(4)の主鎖末端型アルキルラジカル(中間体)のシミュレーションスペクトル
9 一般式(13)、(14)のアルコキシラジカルのシミュレーションスペクトル
10 一般式(3)、(4)、(13)、(14)のラジカルの各シミュレーションスペクトルを合算したもの

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または下記一般式(2)
【化1】

【化2】

(一般式(1)、(2)中、R0は、アセチル基を表し、R1、R2は、それぞれ親水性モノマー、疎水性モノマー、両親媒性モノマーのいずれかがラジカル重合した基を表し、n1、n2、m1、m2は、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)のいずれかで表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体。
【請求項2】
請求項1記載の一般式(1)および一般式(2)で表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体の内、少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする充填剤。
【請求項3】
請求項1記載の一般式(1)および一般式(2)で表されるトリアセチルセルロースブロック共重合体において、ラジカル重合するモノマーは、親水性モノマーであり、前記トリアセチルセルロースブロック共重合体の内、少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする界面活性剤。
【請求項4】
下記一般式(3)または下記一般式(4)
【化3】

【化4】

(一般式(3)、(4)中、C*は、不対電子を有する炭素原子を表し、R0は、アセチル基を表し、n、mは、それぞれ繰り返し単位の数を示す自然数を表している)のいずれかで表される請求項1記載の化合物の中間体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213985(P2011−213985A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268250(P2010−268250)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年12月16日 富士山麓アカデミック&サイエンスフェア実行委員会主催の「富士山麓アカデミック&サイエンスフェア2009」において文書をもって発表
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】