説明

トリキオール及び3−エピトリキオールアセタート

【課題】新規の化学成分を未利用資源として提供すること。
【解決手段】トゲケホコリの子実体を、メタノール、アセトンで抽出し、それらの抽出物を合わせて溶媒を蒸留により除去し、得た抽出物についてSilica gelカラムクロマトグラフィーを行い、溶出したフラクションについて、更にODSカラムクロマトグラフィーを行って得た化合物とする。また、クロロホルムの溶媒で溶出したフラクションについてODSカラムクロマトグラフィーでさらに精製を行い、得られたフラクションについて、高速液体クロマトグラフィーで更に精製を行って得た化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であるトリキオール及び3−エピトリキオールアセタートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の我々の生活において、天然の動植物、微生物等の体内に含まれる化学成分として見つけ出されたもののうち人体に有益な効果をもたらすものは生薬、医薬品の有効成分として使用されており、また、この天然物を基礎として更に有用な医薬品を開発するための研究材料としても様々な役割を有し、非常に重要なものとなっている。
【0003】
このような人体に有益な効果をもたらす化学成分の探索に関する報告として、下記非特許文献1に、変形菌からビスインドール化合物、ナフトキノン化合物、グリセリド化合物等を抽出したことについての報告がある。
【0004】
【非特許文献1】石橋正己、“変形菌の生物活性天然物”、バイオサイエンスとインダストリー、2005年、第63巻、第7号、27〜30頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし一方で、天然の動植物等の体内に含まれる化学成分の探索が多数の者によって多数行われているにもかかわらず、探索の材料として検討、調査されたものは、地球上の全生物種の中で10%にも満たないといわれている。
【0006】
そこで本発明は上記を鑑み、新規の化学成分を未利用資源として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記を鑑み、本発明は、具体的には以下の手段を採用する。
【0008】
まず、第一の手段として下記(1)で示されるトリキオールとする。
【化1】

【0009】
また、第二の手段として下記(2)で示される3−エピトリキオールアセタートとする。
【化2】

【発明の効果】
【0010】
以上により、新規の化学成分を未利用資源として提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の一実施形態にかかるトリキオール及び3−エピトリキオールアセタートは、変形菌Trichia favoginea var.persimilis(以下「トゲケホコリ」という。)から抽出され、新規の化学物質として利用可能である。具体的には後述の手順によって抽出することが可能であり、また合成も可能である。
【実施例1】
【0013】
本実施例はトゲケホコリに基づくトリキオールの抽出及び検討に関する実験の結果を示すものである。図1に、トリキオールの単離についてのスキームの概略を示す。
【0014】
まず、トゲケホコリの子実体(17.6g)を、90%メタノール200mlで3回、90%アセトン200mlで1回抽出し、それらの抽出物を合わせて溶媒を蒸留により除去し、抽出物1.02gを得た。
【0015】
そしてこの得た抽出物についてSilica gelカラムクロマトグラフィー(φ30×180mm)を行い、クロロホルム及びメタノールの混合溶媒(クロロホルム:メタノール=9:1)でフラクション17.0mgを溶出した。
【0016】
この溶出したフラクションについて、更にODSカラムクロマトグラフィー(φ14×390mm、MeOH:HO=3:1)を行い、トリキオール(2.4mg)を得た。
【0017】
次にこの物質に対しての構造を示す。高分解能FABMSにより[M+H]と推測されるm/z459.3429のピークを観測した。これにより分子式がC2946であることが分かった。
【0018】
次にこの物質に対して赤外線吸収測定を行い、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)も得た。本物質についてのIRスペクトルでは3419cm−1にOH基及び1773cm−1にカルボニル基の吸収が観測された。
【0019】
この結果、FABMSとIRのデータを表1に示し、また、HNMRおよび13CNMRデータを表2に示す。
【表1】

【表2】

【0020】
HNMRスペクトルでは、4個のメチル基由来と思われるシグナル、ステロール由来と思われるシグナルが観測された。また、H−HCOSY、HMQC、HMBCスペクトルの解析により、本化合物はジオキサビシクロ[2.2.2]オクタン環を持つステロール化合物であることが明らかになった。トリキオールのHNMRスペクトルを図2に示す。
【0021】
トリキオールのH−HCOSY、HMBC、NOEデータを図3に、トリキオールの13CNMRスペクトルを図4に、トリキオールのH−HCOSYスペクトルを図5に、トリキオールのHMQCスペクトルを図6に、トリキオールのHMBCスペクトルを図7に、トリキオールNOESYデータを図8に、トリキオールNOESYスペクトルを図9に示す。
【0022】
以上のことから、トリキオールの構造を下記のように決定した。
【化3】

【0023】
本物質を天然物より抽出することができ、新規の化学成分を未利用資源として提供することができた。なお、上記により構造が明らかになったことにより、合成により提供することも可能である。
【実施例2】
【0024】
本実施例は3−エピトリキオールアセタートの抽出及び検討に関する実験の結果を示すものである。
【0025】
本実施例では、実施例1にて示した方法において、クロロホルムの溶媒で溶出したフラクション1A(52.0mg)についてODSカラムクロマトグラフィー(φ15×490mm、MeOH:HO=95:5)でさらに精製を行った。
【0026】
得られたフラクション9H(5.9mg)について、高速液体クロマトグラフィー(C30−UG−5、φ10×250mm、90%MeOH)で更に精製を行い、3−エピトリキオールアセタート(2.2mg)を得た。
【0027】
次に高分解能FABMSにより[M+H]と推測されるm/z501.3557のピークが観測されたことから、分子式C3148を持つことが明らかになった。これは上述のトリキオールの分子式よりCO少なかった。
【0028】
IRによりOH基の吸収が観測されず、1775cm−1、1733cm−1に2つのカルボニル基の吸収が観測された。
【0029】
この結果、3−エピトリキオールアセタートのFABMSとIRのデータを表3に示し、また、HNMRおよび13CNMRデータを表4に示す。
【表3】

【表4】

【0030】
また、この物質に対してH−NMR測定及び13C−NMR測定を行いそれぞれのNMRスペクトルを得た。このH−NMR測定のNMRスペクトルを図10に、13C−NMRのNMRスペクトルを図11にそれぞれ示す。3−エピトリキオールアセタートのNMRスペクトルデータはトリキオールと比較して、およそ2.0ppmに新たにメチル基のシグナルが観測された他は類似している。
【0031】
3−エピトリキオールアセタートのH−NMRスペクトルを図10に、3−エピトリキオールアセタートの13CNMRスペクトルを図11に、3−エピトリキオールアセタートのH−HCOSY、HMBC、NOEデータを図12に、3−エピトリキオールアセタートH−HCOSYスペクトルを図13に、3−エピトリキオールアセタート−HMQCスペクトルを図14に、3−エピトリキオールアセタート−HMBCスペクトルを図15に、3−エピトリキオールアセタートNOESYデータを図16に、3−エピトリキオールアセタートNOESYスペクトルを図17に示す。
【0032】
以上、本物質は下記構造式で示されることがわかった。そしてこの物質を3−エピトリキオールアセタートと命名した。
【化4】

【0033】
以上、本物質を天然物より抽出することができ、新規の化学成分を未利用資源として提供することができた。なお、上記により構造が明らかになったことにより、合成により提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トリキオールおよび3−エピトリキオールアセタートの単離についてのスキームである。
【図2】トリキオールのH−NMRスペクトルである。
【図3】トリキオールのH−HCOSY、HMBC、NOEデータである。
【図4】トリキオールの13CNMRスペクトルである。
【図5】トリキオールのH−HCOSYスペクトルである。
【図6】トリキオールのHMQCスペクトルである。
【図7】トリキオールのHMBCスペクトルである。
【図8】トリキオールNOESYデータである。
【図9】トリキオールNOESYスペクトルである。
【図10】3−エピトリキオールアセタートのH−NMRスペクトルである。
【図11】3−エピトリキオールアセタートの13CNMRスペクトルである。
【図12】3−エピトリキオールアセタートのH−HCOSY、HMBC、NOEデータである。
【図13】3−エピトリキオールアセタートH−HCOSYスペクトルである。
【図14】3−エピトリキオールアセタート−HMQCスペクトルである。
【図15】3−エピトリキオールアセタート−HMBCスペクトルである。
【図16】3−エピトリキオールアセタートNOESYデータである。
【図17】3−エピトリキオールアセタートNOESYスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)で示されるトリキオール
【化1】

【請求項2】
下記(2)で示される3−エピトリキオールアセタート
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−223940(P2007−223940A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46119(P2006−46119)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】