説明

トリピラ水制の構造

【課題】対象流量までの一般の水制構造に共通する機能を有し、洪水に対する強度と安定性を併せ持ち、河岸保全に有効であって自然景観に優れた水制構造を提供する。
【解決手段】トリピラ水制構造体は、対岸に向けて形成された三角錐型形状の尖端部を有し、表面が自然石、割石、石張り、コンクリート張り、ブロック積み、またはこれらの組み合わせから形成され、三角錐型形状の高さが頂上部から底面部に向けておろした足から尖端部までの長さより短いものとされ、尾根部が三角錐型形状の頂上部から尖端部に向けて直線状あるいは構造体中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成され、表面の内、尾根部から底面端に向けて形成された上流側の上流側表面部は、尾根部に連続してトリピラ水制構造体の中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成されて底面部に向う斜面とされ、底面端に接する端線部が上流側表面部に連続して滑らかな窪み状の弧状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トリピラ水制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水制構造建設の歴史は古い。利根川や信濃川においては、河川改修の初期の段階で流路安定対策に長い水制が適用された。木曽川や淀川でも舟運にも役立つ大型の水制構造が建設された。急流河川についても、実用的な水制構造の研究が行われた。その典型例は常願寺川のピストル水制構造であり、その新技術が評価された。そして、水制構造の施工例の増加があった。戦後初期の段階で水制構造に関する全国調査が実施され、水制構造に関する考え方の整理が行われた。しかし、それにもかかわらず1960年代以降、水制構造は敬遠されているとみなしうる。河岸保護構造としては、護岸の力学設計法と美しい山河を守る災害復旧基本方針を基本とした技術指針に基づいて全国規模で工事が行われている。その多くは災害後の対策構造として実施され、そのなかで水制構造が検討される事例は限定的である。その結果、一部の河道においてみおの鮮明化が生じた。みおの鮮明化とは、新しく建設された護岸沿いに流れを呼込み、やがてみお部の河床低下・みお部の低水路幅の縮小・河岸と平行するみお部対岸の砂州の発達(砂州高の上昇)・みおと砂州の比高差の増大・低水路の流量容量の増大・砂州の冠水頻度の減少・砂州における植生の繁茂と安定化・みおの延伸・蛇行システムの変形・クランクフローの発達等の諸現象を統括するものである。さらに付帯事項として、護岸工事(特に基礎構造)に伴う仮締切の設置も看過できないことがある。これは、河床表層のアーマーコートやペイブメントを乱し、あるいは流路の安定した蛇行地形を局所的に変更するものであり、ときに悪影響をもたらすものである。そこで、水制構造の施工例は復活傾向にある。しかし、未だ事例数は多くはない。その限りにおいて、水理的かつ河川工学上の合理性があり、その合理性の根拠や内容が明瞭で、かつ技術評価が容易であることが求められている。
【0003】
特許文献1には、河岸の所望位置に、河川の中央に向かって流れとほぼ直角に形成される水制構造であって、角錐台形状にして表面に凹凸を形成したブロックを設け、河底に前記ブロックを先細り部を下方にして、河岸から河川の中央に向かって流れとはほぼ直角に並設且つ積み上げたことを特徴とする水制構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−18639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水理的に合理性ある自然形成型(不透過の越流型)の水制構造を取上げる。合理性の内容としては、対象流量までの一般の水制構造に共通する機能を有し、通常洪水に対する強度と安定を併せ持つことである。このような構造物として、土砂量が少ない礫河川において長期的に安定して存在し、水制機能を発揮している自然形成の砂礫帯がある。これは長く伏した三角錐を基本とする形状となっている。発明者等は、このような水制構造について、類似形状水制構造の実験結果の吟味、2次元水理計算の実施、及び適用性の検討を行い、自然形成型水制構造の合理性について考察を行った。その結果、川の自然の営力を反映した構造物という利点性、及び今後の発展性を示唆することができ、これまで注目されることのなかった自然の造形物が有する水制構造機能を評価した実際面での提案を行うに至った。
【0006】
特許文献1の記載の発明にあっては、自然形成型の水制構造の合理性が採用されているとはいえない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みて長く伏した三角錐を基本とする形状の自然形成型の水制構造を活用し、対象流量までの水制構造に共通する機能を有し、洪水に対する強度と安定性を併せ持ち、水流に対する抵抗を小さくして水制構造体周辺の洗掘量が小さく、河岸保全に有効であって、自然景観に優れたトリピラ水制構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
河川における注目すべき合理性が、長期にわたって安定した自然の各種の造形物に存在する。その一例として自然形成の水制構造が現実の河川において見られることがある。これにより河岸地形と安定した蛇行流路が維持されている場合には、明瞭な水制機能が存在すると判断される。例えば、中国の怒江は流砂量の少ない極めて安定した礫河川であるが、処々にこのような水制構造状の自然造形物がほぼ連続して見られる。日本の河川においても、巨石・玉石・礫などの多い渓谷等において存在例がある。これらの自然形成水制構造に共通する形状の特徴は、緩い斜面を有し、かつ方向が斜めの三角錐であり、英文では、Laid Triangular Sharp Pyramid Type Groyne(Tri-Pyra Groyne)と表現できることから、以降これらの基本形を尊重した水制構造を自然形成型水制構造とし、「トリピラ水制構造」と呼称する。
【0009】
トリピラ水制構造の形状と似た形状を部分的に持つ水制構造に荒籠(あらこ)がある。注目点は荒籠の側面及び先端部の斜面形状である。荒籠は九州の潟土(ガタド)河川において設置され、大規模な河道掘削の影響等によって損壊したものを除くと、古いものが数多く現存しており安定した構造物と評価される。なかには200年以上の長期わたって機能を維持しているものも存在する。このことは局所洗掘が問題となる通常の水制構造と異なり、水制構造の先端や側面における洗掘が顕著でなく、水制構造自体の安定性が大きいことを意味していると思われる。
【0010】
トリピラ水制構造は荒籠の検討例から明らかにされた水制構造先端部等の形状の効果を水制構造全体に拡張したものと位置付けられる。ここでは、このことを定性的に考察の後、2次元流の数値実験によって検討を行った。これは水制構造周辺の洗掘量が小さいことから洪水流の局所的3次元性が低いと判断されることによる。その結果、トリピラ水制構造は流量が小さいときに水制構造の機能が大きいこと、及び流量が大きいときには自然の抵抗と自身周辺の局所洗掘の低減効果を有することなどもあり、安定度が大きいことが判明した。
【0011】
本発明は、具体的には、
河川の水流中に岸部から突出させて水流の制御を行い、河岸洗掘を抑制するトリピラ水制構造において、
岸部から対岸に向け、水流に突出させられる、上流側表面部、下流側表面部および底面部からなる三角錐型形状を備えたトリピラ水制構造体で形成され、
該トリピラ水制構造体は、対岸に向けて形成された三角錐型形状の尖端部を有し、表面が自然石、割石、石張り、コンクリート張り、コンクリートブロック積み、あるいはこれらの組み合わせから形成され、三角錐型形状の高さが頂上部から底面部に向けておろした足から尖端部までの長さより短いものとされ、尾根部が三角錐型形状の頂上部から尖端部に向けて直線状あるいはトリピラ水制構造体中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成され、
前記表面の内、尾根部から底面端に向けて形成された上流側の上流側表面部は、尾根部に連続してトリピラ水制構造体の中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成されて底面部に向う斜面とされ、底面端に接する端線部が上流側表面部に連続して滑らかな窪み状の弧状に形成されて、
水位がトリピラ水制構造体の底面付近の流量の少ない時には、弧状の上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を、上流側表面部の斜面をわずか斜めに形成し、先端部付近に近づくほど流れを束ねるようにして河川中央側に向うまとまった流れの水流向を形成し、
水位がトリピラ水制構造体の頂上部付近の流量の時には尾根部および上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を弧状の接線方向に形成して河川中央への向きとなし、その水流向傾向を下層流よりも上層流の方を大きく形成し、
水位がトリピラ水制構造体の頂上部より高い流量の多い時には、尾根部および上流側表面部の斜面が水流向を弧状接線方向に形成して整正効果を保持すること
を特徴とするトリピラ水制構造を提供する。
【0012】
本発明は、また、上流側表面部および下流側表面部は、尾根部を中心線として左右非対称に形成されることを特徴とするトリピラ水制構造を提供する。
【0013】
本発明は、また、上流側表面部および下流側表面部は、尾根部を中心線として左右対称に形成されることを特徴とするトリピラ水制構造を提供する。
【0014】
本発明は、また、頂上部を含む河岸付近に小さな自然石を配設し、尖端部に向けて大きな自然石を配設したことを特徴とするトリピラ水制構造を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自然形成型水制構造の合理性が採用し、長く伏した三角錐を基本とする形状の自然形成型水制構造を活用することができ、対象流量までの水制構造に共通する機能を有し、洪水に対する強度と安定性を併せ持ち、水流に対する抵抗を小さくして、水制周辺の洗掘量が小さく、河岸保全に有効であって、自然景観に優れたトリピラ水制構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例の立体図。
【図2】図1に示すトリピラ水制構造の平面図。
【図3】図2のX−X断面図。
【図4】図2のY−Y断面図。
【図5】図3に河岸等を加えた図。
【図6】自然石を用いたトリピラ水制構造体のイメージ図。
【図7】本実施例の流況イメージ図。
【図8】本実施例と従来の直方体型水制工構造体の立体図。
【図9】本実施例と従来の直方体型水制工構造体の流速ベクトル比較図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は本発明の実施例であるトリピラ水制構造を示す立体図である。図2は図1に示すトリピラ水制構造の平面図であり、図3は図2のX−X断面を示し、図4は図2のY−Y断面を示す。
【0019】
図1において、トリピラ水制構造100は、トリピラ水制構造体1(本体)で形成され、このトリピラ水制構造体1は、岸部から対岸に向け、水流に突出される三角錐形状2およびその反対側である岸部側に突出される岸部側形状3からなり、三角錐形状2と岸部側形状3は一体形とされ、山形形状をなす。岸部側形状は、岸部側に向かって上がった形状とされてもよいが、本実施例の場合、岸部側に向かって略同一高さとしてある。このように、水流に突出される三角錐形状2を有する構造をもって山形形状と称することとする。従って、この山形形状はその頂点部11に向かう2つの尾根部を有し、これらの2つの尾根部は頂上部11から岸部から水流へ対岸に向かう岸部方向尾根部12と水流方向に向かう水流方向尾根部13とからなる。
【0020】
岸部方向尾根部12の内、頂上部11から対岸に向かって下る尾根部を対岸方向尾根部12Aと称し、頂上部11から対岸とは反対方向の岸部に向かう尾根部を岸部方向尾根部12Bと称する。水流方向尾根部13の内、頂上部11から上流側に向かって下る尾根部を上流側尾根部13Aと称し、下流側に向かって下る尾根部を下流側尾根部13Bと称する。
【0021】
各尾根部の尖端には、尖った形状の尖端部が形成され、それらはそれぞれ、上述の説明に従って対岸方向尖端部14A、岸部方向尖端部14B、上流方向尖端部15A、下流方向尖端部15Bと称する。三角錐形状2は、上流側に上流側表面部16A、下流側に下流側表面部16Bを有し、上流側表面部16Aおよび下流側表面部16Bはそれらの端線が底面部21(図3)の底面端に接する端線部17A、17Bを有する。
【0022】
岸部側形状3は上流側に上流側表面部18A、下流側に下流側表面部18Bを有し、上流側表面部18Aおよび下流側表面部18Bはそれらの端線が底面部21の底面側および岸部22(図3)に接する端線部19A、19Bを有し、これらの表面部18A、18Bは上流側および下流側に下り、それらの断面で尾根部14Bと同様に岸部に向けて同一高さとなる。
【0023】
以上の構成において、河川30の水流中に岸部22から突出させて水流の制御を行い、河岸洗掘を抑制するトリピラ水制構造100が形成される。トリピラ水制構造100の各部の構造は次のように形成される。
【0024】
トリピラ水制構造100は、岸部から対岸すなわち河川に向け、水流に突出させられる。上流側表面部16A、下流側表面部および底面部21からなる三角錐型形状2を備えたトリピラ水制構造体1で形成される。
【0025】
トリピラ水制構造体1は、対岸に向けて形成され、配置される三角錐型形状2の上流方向尖端部14A、すなわち尖端部(特に断わらなければ尖端部と称した場合、上流方向尖端部14Aを指し、尖端部14Aと記載する。)を有し、表面が自然石、割石、石張り、コンクリート張り、コンクリートブロック積み、あるいはこれらの組み合わせから形成され、三角錐型形状2の高さが頂上部11から底面部21に向けておろした足から尖端部14Aまでの長さより短いものとされ、尾根部12の対岸方向尾根部12A(特に断わらなければ尾根部と称した場合、対岸方向尾根部12Aを指し、尾根部12Aと記載する。)が三角錐型形状2の頂上部11から尖端部14Aに向けて直線状あるいはトリピラ水制構造体1の中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成される。
【0026】
上述の表面の内、尾根部12Aから底面端、すなわち端線部17Aに向けて形成された上流側の上流側表面部16Aは、尾根部12Aに連続してトリピラ水制構造体1の中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成されて底面部21に向かう斜面とされ、底面端に接する端線部17Aが上流側表面部16Aに連続して滑らかな窪み状の弧状に形成される。この斜面を端線部17Aに向けてまっすぐにおろした直下線20Aの一部は、内方への曲線あるいは直線であってもよい。対称の位置に直下線20Bが存在する。
【0027】
本実施例の場合、上流側表面部16Aと下流側表面部16Bとは、尾根部12Aを中心線として左右対称に形成される。しかし、後述するように、水流の制御に当って、上流側表面部16Aおよび端線部17Aの機能は、下流側表面部16Bおよびその端線部17Bの機能に比べて数段重要であるので、上流側の構成を上述にしたような構造として、上流側表面部16Aと下流側表面部16Bとは、尾根部12Aを中心線として左右非対象配置として設計を簡便なものとしてもよい。
【0028】
本実施例のトリピラ水制構造体1は、次のような特徴を持つ。
・三角錐形状2を有していて、その形状は鏃(やじり)のようであり、尖端部14Aほど尖っている。
・トリピラ水制構造体1の平面形状としての上流側表面部16A、尾根部12Aおよび尾根部13Aから端線部17Aに向けて凹状とする弧状の曲線形状を呈している。
・尾根部12Aの形状は直線または凹状とする弧状の曲線形状を呈して、尖端部14Aに向けて徐々に下っている。
・端線部17Aの形状は、弧状の曲線形状を呈している。
・トリピラ水制構造体1の下流側部分の構造は、尾根部12Aを中心線として上流側部分と対称構造としてもよいし、非対称構造のいずれでも構わない。下流側表面部16Bは、上流側表面部16Aと同様に凹状となる弧状の曲線形状であってもよいし、直線による平面形状としてもよい。
・トリピラ水制構造体1の施工は、自然石・割石による捨石の他、石張りやコンクリート張り、あるいはコンクリートブロック積み、これらの組み合せなど(4)河川状況に応じて各種材料の使用が可能である。
・トリピラ水制構造体1は、従来の直方体型水制構造体に比べて、水流、特に洪水流に対する抵抗が小さいことから水制周辺の洗掘量が少なく、河岸保全に有効であり、自然形成の造形物をモチーフにした自然景観に優れた機能と効果を有する。
【0029】
図2は、トリピラ水制構造100の平面を示す。トリピラ水制構造体1の尖端部14Aは尖った形状を有する。上流側表面部16Aの弧状の曲線形状について説明する。
【0030】
図2に示す例において、14Aと14Bとの間の長さは6.5m、14Aと11との間はb=5mに設定される。15Aと15Bとの間の長さは10mに設定され、15Aと11および11と15Bとの長さはそれぞれa=5mに設定される。
【0031】
14Aと15Aとを結ぶ直線と端線部17Aの端線の最大幅をcとする。
【0032】
曲線形状は、図2のa:b:cの比率で示すと、概ねaを基準にして、a:b:c=1:1.0〜1.3:0.1〜0.3である。
【0033】
トリピラ水制構造体1の大きさは、河川状況(流量、川幅、水深等)や目的(水流の制御、河岸洗掘の制御等)に応じて変化するが、曲線形状は上記の比率が採用される。
【0034】
図3は、トリピラ水制構造体1の尾根線上のX−X断面を示す。トリピラ水制構造の高さは2mに設定される。
【0035】
図4は、トリピラ水制構造体1の尾根部12Aの頂上部11から端線部17の底面端までのY−Y断面である。この図に示すように、頂上部11から底面部21に向けての形状は、直線または窪み状の、すなわち凹状の弧状の曲線形状となる。
【0036】
図5は、図3に河床31、河床31と尖端部14A間に設けた石組32および護岸基礎工33を示す。図5において平水位が示される。尾根部12Aの形状は、直線または水制の尖端部14Aに向けて凹状の弧状の曲線形状である。頂上部11(変化点)から岸部22までの尾根部12Bの擦り付け区間は1.5mである。頂上部11の高さ、すなわち水制上の高さは2mとされる。擦り付け区間の幅は、河岸の岸部22状況に応じて変化する。
【0037】
トリピラ水制構造体1の高さは2mであるが、河川状況(流量、川幅、水深等)や目的(水流の制御、河岸洗掘の制御等)に応じて変化する。このように三角錐型形状2の高さが頂上部11から底面部21に向けておろした足から尖端部14までの長さよりも短いものとされる。しかし、これに限定されない。
・トリピラ水制構造1の施工は、自然石・割石の他、石張りやコンクリート張り、あるいはコンクリートブロック積み、あるいはこれらの組み合せなど河川状況に応じて各種材料の使用が可能である。
・図6は自然石を用いたトリピラ水制構造体1のイメージ図である。図6(a)は平面イメージ、図6(b)は横断イメージを示す。相対的に径の大きい石は、トリピラ水制構造体1の上流側における河岸接続部からトリピラ水制構造体の尖端部に掛けての水あたりの大きい場所に配置される。
・仮設を行う際には、仮締切を行わなくても施工が可能である。
【0038】
次に、機能について説明する。
【0039】
図7は、トリピラ水制構造体1を採用した時の流況イメージ図である。図7には、流量を平水流量、年1回程度の洪水、大洪水に相当する小、中、大の3段階に分けて、各流量時の上層と下層の平均的な流線を示している。
1)水位がトリピラ水制構造体1の底面部付近の流量の少ない時の流れ(流量:小)
トリピラ水制構造体1の上流側斜面(壁面)をわずか斜めに流れ、トリピラ水制構造体の尖端部付近に近づくほど流れが束ねられるような形で下流側に向うまとまった流れが生じる。この傾向は上層流の方が明確となる。集束の度合いはトリピラ水制構造体の上流側斜面の勾配が大きいほど、かつトリピラ水制構造体縦断勾配の大きいほど顕著となる。
【0040】
だたし、高さが一様で直壁を有する通常の斜め水制と比較すると、集束の度合いは緩和されており、著しい渦の発生はなく、トリピラ水制構造体1周辺の明確な洗掘もない。
【0041】
水位がトリピラ水制構造体1の底面部付近の流量の少ない時には、弧状の上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を、上流側表面部の斜面をわずか斜めに形成し、先端部付近に近づくほど流れを束ねるようにして河川中央側に向うまとまった流れの水流向を形成している。
2)水位がトリピラ水制構造体1の頂点付近の流量の時の流れ(流量:中)
流量(小)の流況が基本的には維持されるが、流速は若干大きくなり、全体としての流向が対岸向きから下流向きとなる。その傾向は下層流よりも上層流が顕著である。トリピラ水制構造体自体の安定性は、流れのねじれはあるものの、トリピラ水制構造体1周辺の強力な渦は発生しないので洗掘量は小さく、安全性は大きい。
【0042】
水位がトリピラ水制構造体1の頂点部付近の流量の時には尾根部および上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を弧状の接線方向に形成して河川中央への向きとなし、その水流傾向を下層流よりも上層流の方を大きく形成している。
3)水位がトリピラ水制構造体1の頂点より高い流量の多き時大洪水の流れ(流量:大)
流量(大)にはやじり型のトリピラ水制構造体1は水面下となる。流況の整正効果及び河岸沿いの局所洗掘の軽減効果は存在する。
【0043】
水位がトリピラ水制構造体1の頂点部より高い流量の多い時には、尾根部および上流側表面部の斜面が水流向を弧状接線方向に形成して整正効果を保持する。
【0044】
流量が少ない低水・平水時には、本実施例であるトリピラ水制構造体1の上流側斜面(壁面)をわずか斜めに流れ、トリピラ水制構造体1の先端付近に近づくほど流れが束ねられるような形で下流側に向うまとまった流れが生じる。この傾向は上層流の方が明確となり、集束の度合いはトリピラ水制構造体1の上流側斜面の勾配が大きいほど、かつトリピラ水制構造体1縦断勾配の大きいほど顕著となる。ただし、高さが一様で直壁を有する通常の斜め水制と比較すると、集束の度合いは緩和されており、著しい渦の発生はなく、トリピラ水制構造体1周辺の明確な洗掘もない。次に年1回程度の洪水等にも低平水流量時の流況が基本的には維持されるが、流速は若干大きくなり、全体としての流向が対岸向きから下流向きとなる。その傾向は下層流よりも上層流の方が顕著であることから流れのねじれはあるが、トリピラ水制構造体1周辺の強力な渦は発生しないので洗掘に対する安全性は大きい。見方を変えると、トリピラ水制構造体1全体としての抗力は通常水制に比して小さいことがわかる。トリピラ水制構造体1はこの段階の流量時にも流況を整正し、かつ局所洗掘を抑制する効果を有すると解釈することができよう。大洪水時にはトリピラ水制構造体1は水面下となるが、流況の整正効果及び河岸沿いの局所洗掘軽減効果は存在する。
【0045】
なお、トリピラ水制構造体1の施工はリップラップの他、石張りやコンクリート張り、あるいはブロック積みなど、河川の流れの程度に応じて各種の材料の使用が可能であり、基礎工が軽量物でよいことから大規模な仮締切が不要となるなどの利点がある。また、自然形成型であることから、自然景観への阻害が軽減される場合が多いことも理解されよう。さらに、トリピラ水制構造体1適用範囲は基本的特性から判断する限り、自然形成されない場所にも拡張することが可能と判断される。
【0046】
次に従来型との流況比較を行う。
【0047】
本実施例であるトリピラ水制構造体1と従来型の直方体型水制構造体について、2次元流況計算による流況比較を示す。双方の対象とした水制構造体の立体図を図8に示す。水制長と水制高は5mと2mに設定している。河床は河床変動や局部洗掘のない固定床としている。
【0048】
図9は、本実施例であるトリピラ水制構造体1と従来型の直方体型水制構造体を真上からみた流速ベクトルを流量別(Q=250・500m/s)に示している。
【0049】
計算条件としては、既存の計算プログラムを用いて、定常流量で計算を行っている。河道地形は河床勾配1/200、粗度係数0.035とし、台形断面の直線河道である。計算格子は、x=200、y=100(100m×50m)とし、1メッシュ0.5m×0.5mである。
【0050】
以下に主要な結果を列挙する。
1)トリピラ水制構造体1ではQ=250・500m/s共にトリピラ水制構造体1周辺の流況がスムーズに連続して流下している。Q=250m/s時にはトリピラ水制構造体1沿いに河道中央側に流向を変えているが、Q=500m/s時にはトリピラ水制構造体1の天端上を直線的に流下し、トリピラ水制構造体1の少し離れた下流側では局部的な流速増大が見られる。
2)直方体型水制工構造体では、トリピラ水制構造体1の場合に比べて流れの急変があり、Q=250m/s時にはトリピラ水制構造体1の上下流において平面渦の形成がみられる。Q=500m/s時にはトリピラ水制構造体1の天端上を直線的に流下し、その下流x=55m付近の河岸近傍で局部的な落ち込み流れがみられる。
3)トリピラ水制構造体1の河道中央側への影響範囲は、Q=250・500m/s共に直方体型水制構造体の方が大きい。トリピラ水制構造体の河道中央側への影響範囲は先端を基準にして、500m/sの場合で横断方向に5m下流方向へ10m程度である。
【0051】
トリピラ水制構造体1は、直方体型水制工構造体と比べて、水制本体の上流側面の水あたりが弱く、かつトリピラ水制構造体1の上流側と下流側において渦の発生が難しい形状特性を持っている。さらに、トリピラ水制構造体1の尖端部より下流側の流況については、トリピラ水制構造体1は、直方体型水制工構造体と比べて、流勢が小さく、その流況変化の範囲が狭い特性を持っている。これらの結果からトリピラ水制構造体1は以下のような効果が期待できる。
1)流れによる抵抗が小さいので、トリピラ水制構造体1の破損を抑える効果がある。
2)渦の発生は河岸洗掘等を招くことがあり、海岸洗掘の抑制に効果がある。
3)トリピラ水制構造体1の尖端部の流れを束ねる効果があり、流水を制御する効果がある。
【符号の説明】
【0052】
1…トリピラ水制構造体(本体)、2…三角錐形状、3…岸部側形状、11…頂上部、12…岸部方向尾根部、12A…対岸方向尾根部、12B…岸部方向尾根部、13…水流方向尾根部、13A…上流側尾根部、13B…下流側尾根部、14、15…尖端部、14A…対岸方向尖端部、14B…岸部方向尖端部、15A…上流方向尖端部、15B…下流方向尖端部、16A…上流側表面部、16B…下流側表面部、17A、17B…端線部、18A…岸部側形状の上流側表面部、18B…岸部側形状の下流側表面部、19A、19B…端線部、20A、20B…直下線、21…底面部、22…岸部、100…トリピラ水制構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の水流中に岸部から突出させて水流の制御を行い、河岸洗掘を抑制するトリピラ水制構造において、
岸部から対岸に向け、水流に突出させられる、上流側表面部、下流側表面部および底面部からなる三角錐型形状を備えたトリピラ水制構造体で形成され、
該トリピラ水制構造体は、対岸に向けて形成された三角錐型形状の尖端部を有し、表面が自然石、割石、石張り、コンクリート張り、コンクリートブロック積み、あるいはこれらの組み合わせから形成され、三角錐型形状の高さが頂上部から底面部に向けておろした足から尖端部までの長さより短いものとされ、尾根部が三角錐型形状の頂上部から尖端部に向けて直線状あるいはトリピラ水制構造体中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成され、
前記表面の内、尾根部から底面端に向けて形成された上流側の上流側表面部は、尾根部に連続してトリピラ水制構造体の中心側に対して滑らかな窪み状の弧状に形成されて底面部に向う斜面とされ、底面端に接する端線部が上流側表面部に連続して滑らかな窪み状の弧状に形成されて、
水位がトリピラ水制構造体の底面付近の流量の少ない時には、弧状の上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を、上流側表面部の斜面をわずか斜めに形成し、先端部付近に近づくほど流れを束ねるようにして河川中央側に向うまとまった流れの水流向を形成し、
水位がトリピラ水制構造体の頂上部付近の流量の時には尾根部および上流側表面部の斜面及び端線部が水流向を弧状の接線方向に形成して河川中央への向きとなし、その水流向傾向を下層流よりも上層流の方を大きく形成し、
水位がトリピラ水制構造体の頂上部より高い流量の多い時には、尾根部および上流側表面部の斜面が水流向を弧状接線方向に形成して整正効果を保持すること
を特徴とするトリピラ水制構造。
【請求項2】
請求項1において、上流側表面部および下流側表面部は、尾根部を中心線として左右非対称に形成されることを特徴とするトリピラ水制構造。
【請求項3】
請求項1において、上流側表面部および下流側表面部は、尾根部を中心線として左右対称に形成されることを特徴とするトリピラ水制構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、頂上部を含む河岸付近に小さな自然石を配設し、尖端部に向けて大きな自然石を配設したことを特徴とするトリピラ水制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−184884(P2011−184884A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48905(P2010−48905)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月1日 土木学会水工学委員会発行の「水工学論文集 第54巻2010年2月号」に発表
【出願人】(510063199)中央技術株式会社 (1)
【Fターム(参考)】