説明

トリブロックコポリマー及びその製造方法

【課題】可逆的な相互作用によって様々な機能性を有する物質を固定または放出することが可能で、かつその前後で粒子内のモルフォルジ−等の変化が生じても、溶液系内への分散安定性が悪化することなく用いることができるポリマーミセルを形成可能なトリブロックコポリマーとその製造方法を提供する。
【解決手段】親水性のブロック、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なブロック、及び疎水性のブロックの3種類で構成され、それぞれ3種類の異なる役割を有するブロックからなる3元ブロックコポリマーにより、分散安定性因子をコントロールする親水性ブロックと疎水性ブロックが機能性物質と相互作用するブロックとは独立に構築しているため、トリブロックコポリマーの自己組織化能力を最大限に発揮させることが可能となり、機能性物質を有する、有しないに関わらずナノスケールの高分子ミセルを容易に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親水性のブロック、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なブロック、及び疎水性のブロックを有するトリブロックコポリマーであり、また、該トリブロックコポリマーの自己組織化機能によって形成されるナノスケールの高分子ミセルが形成可能な該トリブロックコポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性の物質を固定化する研究は古くから行われており、金属をはじめ光増感剤、発色剤、DNA、電子受容体や電子供与体、電子伝達物質等を固体表面や高分子の主鎖または側鎖に共有結合或いはイオン結合等で固定する方法をはじめ、シクロデキストリンに代表される包接化合物や多孔質物中に内包する方法等が考えられてきた。これらのように機能性物質を固定化する目的は、機能性物質を特定の場所に集中的に存在させることによって、物質のもつ機能を相乗的に効率よく発現させることにあった。
【0003】
一方、機能性物質を均一に分散させる試みも大変古くから行われており、機能基を有するシリカや粘土、或いは顔料等の微粉末を界面活性剤あるいは界面活性剤型高分子等でカプセル化することによって溶液中に分散させる方法や、または水中に分散したミセルやベシクル中に疎水性相互作用によって機能性物質を包含する方法、アクリル酸またはHEMA(ヒドロキシエチルメタアクリレート)含有コポリマー等に代表される水溶性モノマーを含有した、水分散性高分子が形成する粒子中に内含する方法等が開発されている。
【0004】
さらにこれらの性質を応用した材料としては、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に代表されるような必要な量の機能性物質を必要な時に、必要な場所へ運ぶことができる素材開発が行われている。水分散性のスターポリマーやデンドリマー(例えば非特許文献1参照。)、両親媒性ジブロックコポリマー(例えば非特許文献2、非特許文献3参照。)、のような材料が提案されている。機能性物質を自在に必要な時に、必要な場所で、必要な量を放出する方法としては、機能性物質をペンダント型に固定した架橋型疎水性ポリマーをコア部とし、中性の親水性ポリマーをシェル層とするコア−シェル粒子では(例えば非特許文献4参照)、機能性物質の固定や放出を可逆的に行うことが困難であるため、コア部の架橋を切ることによって高分子ミセルの会合状態を崩壊させる方法を用いている。機能性物質を放出する際は、高分子ミセルはコア−シェル粒子のモルフォルジーを保持した状態で、機能性物質だけを放出する方が望ましい。また機能性物質を高分子ミセルから可逆的に固定化や放出させることを可能とするためには、両親媒性ブロックコポリマー中への可逆的な固定化方法が必要となる。そのためには機能性分子物質をイオン結合または配位結合によって固定化する方法を用いた方が有利である。例えば、疎水性ポリマーのコア部にイオン性ポリマーをシェル層としたコア−シェル粒子では(例えば非特許文献5)、機能性物質がイオン結合によってシェル層に固定化、或いは粒子から放出されることによって、粒子の表面エネルギー変化等が生じ、媒体への分散性を悪化させる等の影響を及ぼすことになる。
【0005】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1990,29,138-175
【非特許文献2】ACS.polym.Mater.Sci.Eng.,1998,79,278-279
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,1999,121,11247-11248
【非特許文献4】Macromolecules, 1999,32,1140-1146、WO02002/026241
【非特許文献5】Macromolecular Rapid Communications,2004,25,547-552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、可逆的な相互作用によって様々な機能性を有する物質を固定または放出することが可能で、かつその前後で粒子内のモルフォルジ−等の変化が生じても、溶液系内への分散安定性が悪化することなく用いることができるポリマーミセルを形成可能なトリブロックコポリマーとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、親水性のブロック、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なブロック、及び疎水性のブロックを有するトリブロックコポリマーが上記課題を克服できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるトリブロックコポリマー
【0009】
【化1】

(式(1)中、Xはエチレングリコール単位を表し、Yは疎水性リビングラジカル重合性モノマー単位を表し、Rは水素原子又アシル基を表し、nは2又は3であり、mは5〜10000、mは5〜10000、mは5〜10000である。)を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)に、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させた後、末端にポリエチレングリコール(c)を反応させるトリブロックコポリマーの製造方法、及びさらにポリオキサゾリンブロックを加水分解するトリブロックコポリマーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は医療診断薬、癌治療薬、光機能材料、触媒機能材料、色材、金属インキ等の技術分野で広く利用できるトリブロックコポリマーである。詳しくは、本発明は親水性のブロック、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なブロック、及び疎水性のブロックを有するトリブロックコポリマーであり、その安定した自己組織化機能によって形成されるナノスケールのトリブロックコポリマーである。このような本発明のトリブロックコポリマーは、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なブロックに医療診断薬、癌治療薬、光機能物質、触媒機能物質、色素、金属インキ等を導入することで、それぞれの機能を効率よく発現させることが可能であり、多岐にわたる分野での先端材料として有効である。
【0012】
本発明のトリブロックコポリマーは、親水性のブロックと機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロック、そして疎水性のブロックの3種類で構成され、それぞれ3種類の異なる役割を有するブロックからなる3元ブロックコポリマーである。分散安定性因子をコントロールする親水性ブロックと疎水性ブロックが機能性物質と相互作用するブロックとは独立に構築しているため、該トリブロックコポリマーの自己組織化能力を最大限に発揮させることが可能となり、機能性物質を有する、有しないに関わらずナノスケールの高分子ミセルを容易に形成できるトリブロックコポリマーである。
【0013】
また、該高分子ミセルは、それを形成するトリブロックコポリマーの機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックに医療診断薬、癌治療薬、光機能物質、触媒機能物質、色素、金属インキ材料等を導入することで、それぞれの機能を効率よく発現させることが可能となり、多岐にわたる分野での先端材料として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のトリブロックコポリマーは、下記式(1)
【0015】
【化2】

(式(1)中、Xはエチレングリコール単位を表し、Yは疎水性リビングラジカル重合性モノマー単位を表し、Rは水素原子又アシル基を表し、nは2又は3であり、mは5〜10000、mは5〜10000、mは5〜10000である。)を提供するものである。
で表されるトリブロックコポリマーである。
【0016】
本発明のトリブロックコポリマーは3種類のブロックで構成されている。前記式(1)中の下記式(2)で表されるブロックは親水性ブロックとしての役割を果たすブロックであり、エチレングリコール単位からなるポリエチレングリコールブロックである。
【0017】
【化3】

【0018】
式(2)中のmは5〜10000であればよく、5〜1000であることがより好ましい。
【0019】
本発明のトリブロックコポリマーを構成する前記式(1)中の下記式(3)で表されるブロックは、機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックであり、種々の機能性物質を可逆的に固定化、或いは放出する役割を担うことができる。
【0020】
【化4】

【0021】
式(3)中のRが水素原子である場合、該ブロックはポリアルキレンイミンであり、処理法によっては対イオンをともなって塩となる場合もあるが、その場合においても機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックとして働くことが可能である。また、Rがアシル基の場合はポリ(N−アシルアルキレンイミン)であり、種々のアシル基を有するポリアルキレンイミンが該ブロックに有効に用いる事ができる構造である。また該ブロックの主鎖の構造はアルキレン鎖が窒素原子で結合したものである。一般的な構造としてnは2又は3であり、直鎖型でも、分岐型でも全く問題なく機能を発現することができる。さらにmは一般的に使用されるポリアルキレンイミン、又はポリ(N−アシルアルキレンイミン)の重合度であればよい。一般的にmは5〜10000が好ましく、5〜1000がより好ましい。
【0022】
該ブロックの好ましい例としては、ポリ(エチレンイミン)、ポリプロピレンイミン等のポリ(アルキレンイミン)類、
【0023】
ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−ホルミルプロピレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルプロピレンイミン)、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリプロピオニルプロピレンイミン、ポリ(N−ブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−ブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフルオロオクチル)プロピオニル)エチレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフルオロオクチル)プロピオニル)プロピレンイミン)等の如き脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリ(アルキレンイミン)類、
【0024】
ポリ(N−(メタ)アクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−(メタ)アクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチレンイミン)、ポリ(N−オレオイルプロピレンイミン)等の如き脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたポリ(アルキレンイミン)類、
【0025】
ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N−ベンゾイルプロピレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルエチレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルエチレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルプロピレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルエチレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルプロピレンイミン)等の如き芳香族カルボン酸でアシル化されたポリ(アルキレンイミン)類等である。
【0026】
本発明のトリブロックコポリマーを構成する前記式(1)中の下記式(4)で表されるブロックは、疎水性ブロックとしての役割を果たすブロックであり、且つリビングラジカル重合によって合成可能な構造であればよい。
【0027】
【化5】

【0028】
式(4)中のmは、5〜10000が好ましく、5〜1000がより好ましい。
【0029】
両条件を満たす構造Yの代表例としては、スチレン単位、メチル(メタ)アクリレート単位、エチル(メタ)アクリレート単位、ブチル(メタ)アクリレート単位、ベンジル(メタ)アクリレート単位、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位などが挙げられる。
【0030】
該ブロックの好ましいものとしては、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。具体的に例示すると、ポリスチレン、ポリ 2−メチルスチレン、ポリ 2−メチルスチレン、ポリ 3−メチルスチレン、ポリ 4−メチルスチレン、ポリ α−メチルスチレンの如きポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸 n−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 i−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 t−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の如きポリ(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0031】
中でもコスト面、取り扱い易さ等の点において特に好ましい例は、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸 n−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 i−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 t−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル等である。
【0032】
各ブロックの数平均重合度は分散させる溶媒の種類や固定化する機能性物質の種類、構築したい高分子ミセルの大きさ等によって種々判断される値である。m、mおよびmの値の比は、用途や目的、式(3)で表されるブロック中のアシル基の種類、式(4)で表される疎水性ブロックの構造、固定化する機能性物質の種類等に合わせて設定されるものであるが、機能性物質の固定化あるいは放出の前後における高分子ミセルのモルフォルジー変化に依存することなく、溶媒中での分散安定性を特に好適に保持するためには、m:m:m=100:1〜10000:1〜10000であることが好ましい。
【0033】
次に本発明のトリブロックコポリマーの製造方法について説明する。本発明のトリブロックコポリマーの製造方法は、末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)に、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させた後、末端にポリエチレングリコール(c)を反応させることによるものである。
【0034】
本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)は、疎水性ポリマーの末端にハロゲン、或いはスルホン酸エステル基を有するポリマーであり、水中に分散させた時に高分子ミセルのコア部で安定した会合力を担う上記式(4)で表されるポリマーブロックとなり、また疎水性媒体中に分散させた場合は、高分子ミセルのシェル部で分散安定性を保持する役割を果たす性質をもつ。該疎水性ポリマーの末端にはハロゲン又はスルホン酸エステル基を有しており、ハロゲンとしては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましい例として挙げることができる。また、スルホン酸エステル基としてはメタンスルホン酸エステル基、トリフルオロメタンスルホン酸エステル基、トリクロロメタンスルホン酸エステル基、ベンゼンスルホン酸エステル基、p−トルエンスルホン酸エステル基、2−ニトロベンゼンスルホン酸エステル基、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸エステル基等を例示することができる。なかでも、塩素、臭素、p−トルエンスルホン酸エステル基は後述するリビングカチオン重合の開始能力が高いため特に好ましい。
【0035】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法に用いられる疎水性ポリマー(a)が有する末端官能基のハロゲン、又はスルホン酸エステル基は、一般的に片末端であることが好ましい。その時もう一方の片末端は反応性の低い構造であることが好ましい。反応性の低い構造の代表例はメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等である。
【0036】
本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)は、繰り返し単位が疎水性を示す構造であれば特に限定されるものではない。一般的な疎水性ポリマーとしては、アルキル基を有するポリオレフィン、芳香族置換基を有するポリオレフィン、アルキルエステル基を有するポリオレフィン、芳香族置換エステル基を有するポリオレフィン等が挙げられる。中でも好ましい疎水性ポリマーはポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類等である。具体例を示すと、ポリスチレン、ポリ(3−メチルスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(2,4,6−トリメチルスチレン)、ポリ(4−t−ブチルスチレン)、ポリ(4−フェニルスチレン)、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリ 2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)の重合度は、媒体中でミセル化するときの会合力の安定度に影響を与える。一般的に安定な会合力と良好な分散安定性を併せ持つために、重合度は5〜10000が好ましく、さらに5〜5000がより好ましい。
【0038】
さらに本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)は、成長末端がハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する構造となるようなリビングラジカル重合によって合成されたポリマーであれば、分子量分布が単分散であり、分子量コントロールが容易である等、より好ましい。この時用いるリビングラジカル重合開始剤としてはハロゲン化物が代表的である。特にベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、(2−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(2−ブロモエチル)ベンゼン、(1−ヨードエチル)ベンゼン、(2−ヨードエチル)ベンゼン、メチル2−クロロプロピオネート、メチル2−ブロモプロピオネート、メチル3−ブロモプロピオネート、p−トルエンスルホニルクロライド、エチル2−ブロモイソブチレート、ベンズヒドリルクロライド等が好適な例として挙げることができる。
【0039】
上述のリビングラジカル重合によって末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)を合成する場合は、触媒としてハロゲン化銅を用いる。ハロゲン化銅の例は、塩化(I)銅、臭化(I)銅等が好ましい。
【0040】
上述のリビングラジカル重合によって末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)を合成する場合は、助触媒として芳香族を用いる。芳香族アミンの例は2,2−ビピリジン、4,4'−ジ(5−ノニル)−2,2'−ビピリジン等が好ましい。
【0041】
本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)をリビングラジカル重合によって合成する場合に用いるモノマーは、上述した開始剤によってリビングラジカル重合可能であり、且つ疎水性モノマーであれば特に限定されるものではない。一般的なリビングラジカル重合可能な疎水性モノマーとしては、アルキル基を有するオレフィン、芳香族置換基を有するオレフィン、アルキルエステル基を有するオレフィン、芳香族置換エステル基を有するオレフィン等が挙げられる。中でも好ましい疎水性ポリマーはスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類等である。具体例を示すと、スチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−フェニルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法で用いられる末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)をリビングラジカル重合によって合成する場合、用いる溶媒は公知慣用の溶媒を使用することができる。一般的にはアプロティック溶媒が好ましく、開始剤、触媒、助触媒、モノマー等の溶解性に問題が生じる場合は、混合溶媒にする事ができる。このとき混合する溶媒はリビングラジカル重合に影響を与えない条件のものであればよい。好ましくはアプロティック溶媒を使用するのがよい。また2種類以上の溶媒を混合させることも可能である。代表的なアプロティック溶媒の例を示すと、アセトニトリル、シアノベンゼン、フェニルアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる
【0043】
本発明の製造方法で用いられる環状イミノエーテルモノマー(b)は、リビングカチオン重合することにより、上記式(3)で表されるポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックとなることができるモノマーである。上述のように該ポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックは機能性物質と可逆的な相互作用可能であり、種々の機能性物質を可逆的に固定化、或いは放出する役割を担うことができる親水性ポリマーブロックである。このような機能を有するポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックとなりうる環状イミノエーテルモノマーであれば特に限定されるものではない。特に代表的なものを例として挙げると、オキサゾリンモノマーやオキサジンモノマーを好ましく使用できる。具体例としては、2−オキサゾリン、2−オキサジン、2−メチル−2−メチルオキサゾリン、2−メチル−2−オキサジン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサジン等が挙げられる。
【0044】
また本発明のトリブロックコポリマーの製造方法は、末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)に、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させた後、末端にポリエチレングリコール(c)を反応させてトリブロックコポリマーを製造した後、該トリブロックコポリマーのポリオキサゾリンブロックを加水分解することによるものである。
【0045】
本発明のポリオキサゾリンブロックを加水分解することによって製造されたトリブロックコポリマーは、ポリオキサゾリンブロックがポリアルキレンイミンブロックとなり、加水分解前のポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックと同様に、機能性物質と可逆的な相互作用可能であり、種々の機能性物質を可逆的に固定化、或いは放出する役割を担うことができるポリマーブロックである。
【0046】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法においてポリオキサゾリンブロックを加水分解して製造する場合、リビングカチオン重合に用いる環状イミノエーテルモノマー(b)は上述の親水性の環状イミノエーテルモノマーに加え、その他の環状イミノエーテルモノマーを使用することができる。その他の環状イミノエーテルモノマーであっても加水分解によりポリアルキレンイミンブロックとすることが可能であるためである。この時使用できる該環状イミノエーテルモノマーの例としては、上述の親水性環状イミノエーテルモノマーの代表例に加え、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサジン、2−イソプロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロピル−2−オキサジン、2−(t−ブチル)−2−オキサゾリン、2−(t−ブチル)−2−オキサジン、2−ウンデシル−2−オキサゾリン、2−ウンデシル−2−オキサジン、2−ヘプタデシル−2−オキサゾリン、2−ヘプタデシル−2−オキサジン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサジン、2−(2−プロペニル)−2−オキサゾリン、2−(2−プロペニル)−2−オキサジン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサジン、2−α−メチルビニル−2−オキサゾリン、2−α−メチルビニル−2−オキサジン、2−(9−ヘプタデセニル)−2−オキサゾリン、2−(9−ヘプタデセニル)−2−オキサジン、2−(2−パーフルオロオクチルエチル)−2−オキサゾリン、2−(2−パーフルオロオクチルエチル)−2−オキサジン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサジン、2−トリル−2−オキサゾリン、2−トリル−2−オキサジン、2−ナフチルオキサゾリン、2-ナフチルオキサジン、2−スチリル−2−オキサゾリン、2−スチリル−2−オキサジン等が挙げられる。
【0047】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で行われるリビングカチオン重合の方法について詳細に述べる。上述した末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)を開始剤として用い、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させることによって疎水性ポリマーブロックと、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックとからなるジブロックコポリマーを合成する。リビングカチオン重合の方法は特に制限されず、公知慣用の方法を使用できる。使用できる溶媒としてはアプロティック溶媒が好ましい。例示するならば、アセトニトリル、シアノベンゼン、フェニルアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0048】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で用いられる、環状イミノエーテルモノマーの量は、リビングカチオン重合後に得られたポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックの重合度が5〜10000となるような量を用いることが望ましく、5〜5000がより望ましい。
【0049】
前述したように本発明のトリブロックコポリマーによって形成される高分子ミセルが溶液中での分散安定性には、各ブロックの組成比に影響され、組成比は導入する機能性物質や、分散させる溶剤等の影響を強く受けることがわかっている。つまり後述する疎水性ブロックの重合度とのバランスを考慮したうえで、環状イミノエーテルモノマーを加える量を決定することが好ましい。疎水性ポリマーブロックの重合を100とした時に、該リビングカチオン重合によって合成されるポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックの重合度が1〜10000となるように、環状イミノエーテルモノマー量を設定することが好ましい。
【0050】
該リビングカチオン重合反応において、重合反応温度は40℃以上で重合可能であるが、重合時間を短縮すること、重合溶媒の種類、副反応を生じさせないこと等を考えると、アセトニトリル等のように低沸点溶媒の場合は60〜80℃、沸点が140℃を超える高沸点溶媒の場合は80〜140℃で反応を行うことが好ましい。
【0051】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で用いられるポリエチレングリコールは、上記式(2)で表される親水性ポリマーブロックであり、水中媒体において分散安定性を保持し、且つ疎水性媒体中では安定した会合力を担う性質を有するポリマーブロックである。分子量は5〜10000が好ましく、5〜5000がより好ましい。
【0052】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で用いられるポリエチレングリコールは、末端にハロゲンまたはスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマーに、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させることによって得られたジブロックコポリマーの末端と反応させることができるポリエチレングリコールである。該ジブロックコポリマーの末端はハロゲン、またはスルホン酸エステル基であるため、該末端基と反応可能な官能基を末端に有するポリエチレングリコールが好ましい。該ジブロックコポリマー末端のハロゲン、またはスルホン酸エステル基と反応可能なポリエチレングリコールの末端官能基は、公知慣用の官能基であれば特に限定されるものではない。代表的な例として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を挙げることができる。
【0053】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で、末端にハロゲン又はスルホン酸エステルを有する疎水性ポリマーに、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させた後、末端にポリエチレングリコールを反応させる時の反応条件は、ポリエチレングリコールの末端官能基の種類によって異なるが、公知慣用の方法であれば特に限定されるものではない。代表的な反応の例を示すと、ポリエチレングリコールの末端官能基が水酸基、又はアミノ基の場合は、アルカリ触媒存在下で反応温度70〜150℃で合成することができる。アルカリ触媒は公知慣用のものであれば特に限定されるものではない。代表的なアルカリ触媒の例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド等がある。該反応で使用する溶媒は、ジブロックコポリマーとポリエチレングリコールを反応温度において溶解可能であるものが好ましい。よって末端にハロゲン又はスルホン酸エステルを有する疎水性ポリマーに、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させることによって得られたジブロックコポリマーの種類によって異なるが、一般的に良く使用される代表的な溶媒の例を挙げると、アセトニトリル、シアノベンゼン、フェニルアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0054】
該反応で使用するジブロックコポリマーとポリエチレングリコールのモルの比は、ジブロックコポリマー:ポリエチレングリコール=1:1が理想的であるが、反応時間の短縮、温和な反応温度等、反応の効率や操作性を考慮すると、1:1〜10が好ましく、過剰なポリエチレングリコールは、反応終了後の処理工程において、混合溶媒による再沈精製を行い、溶媒に混合比を変化させることによって、分離することが可能である。混合溶媒の種類は極性が異なる2種類以上の組み合わせが好ましい。代表的な混合溶媒の例を挙げると、酢酸エチル、トルエン、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン、エーテル等から2種類以上を選ぶことができる。
【0055】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法で用いられるジブロックコポリマーの末端やポリエチレングリコールの末端官能基は、反応等の処理を施す事によって異なる種類の末端、又は末端官能基に変更してもよい。上述したように得られたジブロックコポリマーの末端と、ポリエチレングリコールの末端官能基が反応によってトリブロックコポリマーとなり得る末端、又は末端官能基であれば何ら問題はない。
【0056】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法において加水分解を行うときは、得られたトリブロックコポリマーをそのまま加水分解反応してもよいが、加水分解反応時の副反応等を避けるためには、トリブロックコポリマーを上述したような方法で精製することが好ましい。
【0057】
本発明のトリブロックコポリマーの製造方法において加水分解を行うときは、公知慣用の加水分解反応であれば何ら問題なく行うことができる。一般的には酸加水分解反応やアルカリ加水分解反応を挙げることができるが、酵素を用いた加水分解反応等を用いることも可能である。重要なことは加水分解反応によって親水性ブロックと疎水性ブロックに支障を与えることなく、トリブロックコポリマー中のポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックをポリエチレンイミンブロックとすることである。加水分解反応の効率を考えると、酸加水分解、又はアルカリ加水分解が好ましい。酸加水分解反応を行う場合に使用できる酸触媒は一般的に使用可能なものであれば何ら限定されるものではない。代表例を示すと、塩酸、硝酸、硫酸等が好ましい。アルカリ加水分解反応を行う場合は公知慣用の触媒を使用することができる。代表例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等が好ましい。触媒量は一般的な加水分解反応に用いられる条件であれば何ら問題はない。好ましい例を挙げるならば、加水分解されるポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックの重合度に対して、1〜20倍モル使用するのがよく、さらには1〜10倍モルがより好ましい。
【0058】
加水分解反応の代表的な方法を挙げると、トリブロックコポリマー中のポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロックの重合度に対して3倍量の塩酸を含む2.5N塩酸水溶液中に、該トリブロックコポリマーを混合し、超音波洗浄器で約1時間分散させた後、90℃で15時間反応させる。冷却後大量のアセトン中へ攪拌しながら添加する。生成した沈殿物をろ過後、少量の水に再分散し、再度アセトン中へ攪拌しながら添加、再沈殿させ、ろ過、真空乾燥することによって本発明のトリブロックコポリマーを得ることができる。
【0059】
上記のように本発明のトリブロックコポリマーの製造方法によれば、親水性のブロック、及び機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロック、及び疎水性のブロックを有するトリブロックコポリマーを、簡便に効率よく製造することが可能である。
【0060】
本発明のトリブロックコポリマーは、機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックの他に、親水性ブロックと疎水性ブロックとを有するため、溶媒、たとえば水中に分散した場合に自発的に高分子ミセルを形成することができる。つまり該トリブロックコポリマーは、疎水性ブロックがコアとなり、機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックであるポリ(N−アシルアルキレンイミン)ブロック、又はポリアルキレンイミンが中間層、そして親水性ブロックが水中で十分に分子鎖を広げて自由に分子運動することが可能なコロナ層となった、コア−コロナ型の高分子ミセルを形成するため、水中への高い分散安定性を保持することが可能となる。
【0061】
また本発明のブロックコポリマーの機能性物質と可逆的な相互作用可能なブロックが、アシル基を有していないポリアルキレンイミンブロックであるとき、イオン性の機能性物質と相互作用する。例えば、DNA、イオン性染料、金属イオン等である。これらイオン性の機能性物質が該ブロックとイオン結合により固定化すると、該ブロックは結晶化する。しかし前述したように親水性ブロックと疎水性ブロックがそれぞれ安定した会合力と、分散安定性を保持する役割を独立して果たすことができるため、系内への分散安定性は悪化することがない。
【0062】
通常、DNAや金属、染料等の機能性物質が、相互作用可能なブロックを有するポリマーと高分子ミセルを形成したとき、機能性物質がトリブロックコポリマー中へ固定化あるいはトリブロックコポリマー中から放出される際、機能性物質と相互作用可能なブロックは機能性物質が固定化されることによって、該ブロックが結晶化したり、機能性物質を放出することによって結晶を形成しなくなる等、高分子ミセル中でのモルフォルジーが変化する。しかしながら、本発明のトリブロックコポリマーは、機能性物質と相互作用可能なブロックの他に、溶媒中での分散安定性を保持する親水性ブロックと疎水性ブロックを有することから、本発明のトリブロックコポリマーからなる高分子ミセルは、このようなモルフォルジー変化に関係なく溶液中で優れた分散安定性を維持することができる。
【0063】
また、本発明のトリブロックポリマーは、機能性物質と相互作用可能なブロックを有するため、該ブロックに、DNAや金属、あるいは染料などの機能性物質を固定できるため、これら機能性物質を内部に固定化した高分子ミセルの形成が可能である。このため、本発明のトリブロックポリマーからなる高分子ミセルは、医療診断薬、癌治療薬、光機能物質、触媒機能物質、色素、あるいはフォトリゾグラフィー材料等の分野において有用に使用できる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、H−NMRは日本電子製、Lamda 300 , (300MHz)を、粒径は日機装(株)製、Microtrac UPA150を用いて動的光散乱法によって測定した。
【0065】
(実施例1)
[リビングラジカル重合]
二口ナスフラスコにマグネティックスターラを入れ、2,2−ビピリジルを65mg(0.42mmol)と、臭化銅を60mg(0.42mmol)秤取った後、三方コックと共栓を取付けて密栓し、真空脱気を繰り返し行うことによって内部を十分に窒素置換した。次にシリンジを用いてスチレンを2.0ml(17mmol)と、トルエンを2ml、1−(ブロモエチル)ベンゼンを47μl(0.35mmol)それぞれ三方コックから窒素ガスを流しながらフラスコ内に加えた。密栓後、110℃のオイルバス中で24時間攪拌した。
【0066】
得られた反応溶液は冷却後、クロロホルム 50g中で希釈し、アルミナカラムで処理した。得られた処理液をエバポレータで濃縮し、エタノール100gへ滴下、再沈精製した。ろ過後2回エタノールで洗浄し、真空乾燥した。収率は83%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.4ppm:ポリスチレン(以下PStと記す)主鎖のCH、1.8ppm:PSt主鎖のCH、4.4ppm:PSt末端臭素の隣接CH、6.3〜7.3ppm:PStのフェニル基)。これより、得られた生成物は末端臭素化ポリスチレンであることを確認した。
【0067】
[リビングカチオン重合]
二口ナスフラスコにマグネティックスターラを入れ、前述の末端臭素化ポリスチレンを1.3g(0.24mmol)秤取り、三方コックと共栓を取付けて密栓し、真空脱気を繰り返し行うことによって内部を十分に窒素置換した。次にシリンジを用いてメチルオキサゾリン(以下、MOZと記す)を1ml(12mmol)と、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAと記す)10mlを三方コックから窒素ガスを流しながらフラスコ内に加えた。密栓後、100℃のオイルバス中で24時間攪拌した。得られた反応溶液は冷却後、5gサンプリングし、ヘキサン200g中に攪拌しながら添加し、沈殿させた。デカンテ−ションによって、容器の壁に付着した沈殿物を分離し、10gのメタノールに溶解させた。これをヘキサン200gの混合溶媒中に攪拌しながら添加し、再沈させた。分散した再沈物をろ過し、80℃で真空乾燥した。収率は70%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.5ppm:PSt主鎖のCH、1.8ppm:PSt主鎖のCH、2.1ppm:ポリアセチルエチレンイミン(以下PAEIと記す)のアセチル基、3.5ppm:PAEI主鎖のCHCH,6.3〜7.3ppm:PStのフェニル基)。これより、得られた生成物はPSt−PAEIジブロックコポリマーであり、各ブロックの組成はPSt:PAEI=46:54であった。
【0068】
[縮合反応]
二口ナスフラスコにポリエチレングリコール モノメチルエーテル(Mn2000) 0.46g(0.24mmol)と、炭酸カリウム 0.082g(0.59mmol)、DMA 2mlをそれぞれ秤取り、雰囲気を窒素ガスに置換後、60℃で2時間攪拌処理した。これを溶液Aとする。また上述のリビングカチオン重合後の反応溶液 5.8gを50mlナスフラスコに秤取り、ナトリウムトシレート 0.23g(1.18mmol)を加え、雰囲気を窒素ガスに置換後、60℃で2時間攪拌処理した溶液を冷却後、前述の溶液Aに加え、攪拌しながら100℃で24時間反応させた。冷却後クロロホルム 10gで希釈、ろ過した。エバポレータでクロロホルムを留去し、濃縮液をヘキサン 200g中に攪拌しながら添加し、再沈させた。ろ過後、沈殿物をクロロホルム 10gに溶解し、再度ヘキサン中に再沈させた。ろ過後、真空乾燥した。収率は50%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.5ppm:PSt主鎖のCH、1.8ppm:PSt主鎖のCH、2.1ppm:PAEIのアセチル基、3.5ppm:PAEI主鎖のCHCH、3.7ppm:ポリエチレングリコール(以下PEGと記す)のCHCH、6.3〜7.3ppm:PStのフェニル基)。これより、得られた生成物はPSt−PAEI−PEGトリブロックコポリマーであった。
【0069】
(実施例2)
[酸加水分解反応]
100mlナスフラスコに実施例1で合成したPSt−PAEI−PEGトリブロックコポリマー0.4g(アセチルエチレンイミンユニット(以下、AEIと略記):1.8mmol)を秤取り、5NHCl水溶液2.2g(HCl:10.5mmol)を加え、マグネティックスターラを入れて共栓をした。超音波洗浄器で1時間処理して分散させた後、90℃で10時間攪拌した。冷却後反応溶液をエバポレータで濃縮し、濃縮液をアセトン 200g中に攪拌しながら加えた。生じた沈殿をろ過し、水10gに溶解した。再度アセトン 200g中に攪拌しながら加えて再沈させ、ろ過した。60℃で真空乾燥し、目的のPSt−PEI−PEGトリブロックコポリマーを得た。収率は90%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、2.1ppmのアセチル基由来のピークが消失していること等、生成物の構造を確認した。各ブロックの組成は、生成物の一部を水に溶解して透析チューブに入れ、0.5%アンモニア水で一晩透析処理を行い、アンモニア水を水に交換、8時間後再度水を取替えた後、透析チューブ中の水溶液にエタノールを加えてエバポレータで溶媒を留去し、さらに70℃で15時間真空乾燥したサンプルのH−NMRスペクトルより求めた。PSt:PEI:PEG=38:35:27であった。アンモニア水で透析処理したサンプルのH−NMRスペクトルの各ピークを説明すると、1.5ppm:PSt主鎖のCH、1.8ppm:PSt主鎖のCH、3.5ppm:ポリエチレンイミン(以下PEIと記す)主鎖のCHCH、3.7ppm:PEGのCHCH、6.3〜7.3ppm:PStのフェニル基である。
【0070】
(実施例3)
[リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、及び縮合反応]
実施例1の[リビングラジカル重合]において、1−(ブロモエチル)ベンゼンの代わりに2−(ヨードエチル)ベンゼン 40μl(0.35mmol)を使用して行った。収率は86%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.4ppm:ポリスチレン(以下PStと記す)主鎖のCH、1.8ppm:PSt主鎖のCH、3.9ppm:PSt末端ヨウ素の隣接CH、6.3〜7.3ppm:PStのフェニル基)。これより、得られた生成物は末端ヨウ素化ポリスチレンであることを確認した。
【0071】
実施例1の[リビングカチオン重合]において、末端臭素化ポリスチレンの代わりに前述の末端ヨウ素化ポリスチレンを使用したこと以外は実施例1と同様に行った。H−NMRスペクトルにより実施例1の[リビングカチオン重合]の結果と同様のピークが認められた。各ブロックの組成はPSt:PAEI=53:47であった。
【0072】
実施例1の[縮合反応]において、リビングカチオン重合後の反応溶液 5.8gをそのまま前述の溶液Aに]加えたこと以外は、実施例1の[縮合反応]と同様に行った。収率は58%であった。H−NMRスペクトルから実施例1の[縮合反応]の結果と同様のピークが認められた。
【0073】
(実施例4)
[酸加水分解反応]
実施例3で合成したPSt−PAEI−PEGトリブロックコポリマー0.4g(アセチルエチレンイミンユニットを用いたこと以外は、実施例2の[酸加水分解反応]と同様に行った。収率は87%であった。アンモニア水で透析処理したサンプルのH−NMRスペクトルから組成は、PSt:PEI:PEG=41:34:25であり、実施例2の[酸加水分解反応]の結果と同様のピークが認められた。
【0074】
(実施例5)
[リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、及び縮合反応]
実施例1で示した方法において、リビングラジカル重合のスチレン 2.0ml(17mmol)としたことに代えて、メタクリル酸メチル(以下MMAと記す) 1.9ml(17mmol)とし、リビングカチオン重合の末端臭素化ポリスチレンを1.3g(0.24mmol)としたことに代えて、末端臭素化ポリメタクリル酸メチル 1.2g(0.24mmol)としたこと以外は、実施例1と全く同じ方法で行った。収率52%。H−NMRスペクトルにより実施例1と同様に各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.2ppm:PMMAのメチル基、CH、(1.5ppm、2.0ppm):PMMA主鎖のCH、2.1ppm:PAEIのアセチル基、3.5ppm:PAEI主鎖のCHCH、3.6ppm:PMMAのメチルエステル基、3.7ppm:PEGのCHCH)。
【0075】
(実施例6)
[酸加水分解反応]
実施例2で示した方法において、PSt−PAEI−PEGトリブロックコポリマー0.4g(AEI:1.8mmol)を秤取り、5NHCl水溶液2.2g(HCl:10.5mmol)を加えたことに代えて、実施例5で合成したPMMA−PAEI−PEGトリブロックコポリマー0.4g(AEI:1.8mmol)を秤取り、5NHCl水溶液2.2g(HCl:10.7mmol)を加えたこと以外は、実施例2と全く同様に行った。収率は80%、H−NMRスペクトルにより実施例2と同様に各ピークの帰属を行い、生成物の構造を確認した(1.2ppm:PMMAのメチル基、CH、(1.5ppm、2.0ppm):PMMA主鎖のCH、3.5ppm:PAEI主鎖のCHCH、3.6ppm:PMMAのメチルエステル基、3.7ppm:PEGのCHCH)。得られた生成物はPEG−PBEI−PEIトリブロックコポリマーであり、アンモニア水で処理して求めた各ブロックの組成はPMMA:PEI:PEG=41:34:25であった。
【0076】
(応用例1)
実施例2で得られたPSt−PEI−PEGトリブロックコポリマー2.0mgを5gの水中に分散させ、マグネティックスターラで攪拌しながら80℃のオイルバス中で1時間、その後超音波洗浄器で1時間処理した。24時間静置後、得られたコロイド粒子の粒径を測定した。数平均粒径は70nmであった。得られたコロイド粒子の分散液にテトラフェニルポルフィリン−テトラスルホン酸ナトリウム(TSPP)を添加したところ、TSPPが好適に固定化されることが確認された。
【0077】
(応用例2)
上記PSt−PEI−PEGトリブロックコポリマー分散水溶液に、色素であるテトラフェニルポルフィリン−テトラスルホン酸ナトリウム(以下、TSPPと略記)0.7mg(TSPP(mol)/EIユニット(mol)=1/10)を添加し、マグネティックスターラを用いて室温で24時間攪拌した。該分散水溶液を分散水溶液を透析チューブ(SPECTRUM Spectra/Por;MWCO:3500)に入れ、水中で透析した。8時間ごとに3回水を取替えた。透析チューブから分散水溶液を24時間静置後、得られたコロイド粒子の粒径を測定したところ数平均粒径は80nmであった。得られたコロイド粒子の分散液にテトラフェニルポルフィリン−テトラスルホン酸ナトリウム(TSPP)を添加したところ、TSPPが好適に固定化されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるトリブロックコポリマー。
【化1】

(式(1)中、Xはエチレングリコール単位を表し、Yは疎水性リビングラジカル重合性モノマー単位を表し、Rは水素原子又アシル基を表し、nは2又は3であり、mは5〜10000、mは5〜10000、mは5〜10000である。)
【請求項2】
前記式(1)中のYが、スチレン類からなる繰り返し単位、(メタ)アクリル酸エステル類からなる繰り返し単位から選ばれるポリマーブロックである請求項1に記載のトリブロックコポリマー。
【請求項3】
前記式(1)中のYが、スチレン単位、メチル(メタ)アクリレート単位、エチル(メタ)アクリレート単位、ブチル(メタ)アクリレート単位、ベンジル(メタ)アクリレート単位、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位から選ばれるポリマーブロックである請求項1に記載のトリブロックコポリマー。
【請求項4】
前記式(1)中のm、m及びmの比が、m:m:m=100:1〜10000:1〜10000である請求項1に記載のトリブロックコポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のトリブロックコポリマーからなる高分子ミセル。
【請求項6】
末端にハロゲン又はスルホン酸エステル基を有する疎水性ポリマー(a)に、環状イミノエーテルモノマー(b)をリビングカチオン重合させた後、末端にポリエチレングリコール(c)を反応させるトリブロックコポリマーの製造方法。
【請求項7】
さらにポリオキサゾリンブロックを加水分解するトリブロックコポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2007−99930(P2007−99930A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292328(P2005−292328)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】