説明

トリプルアングルドリル

【課題】FRPに穴明け加工を行なう場合に生じ易いデラミネーションの発生が一層適切に抑制されるようにする。
【解決手段】第1切れ刃18a〜第3切れ刃18cの先端角α1〜α3の変化でスラスト抵抗が段階的に変化するため、手動機により送り速度を手動で調整しつつ穴明け加工を行なう場合でも、スラスト抵抗の変化から穴明け加工の進行度合を認識して送り速度を調整することが可能で、FRPに穴明け加工を行なう場合でも最後(外周縁)まで適切に切削加工が行なわれるようにでき、進み過ぎに起因するデラミネーションの発生が抑制されて良好な加工穴品質が得られる。特に、第2切れ刃18bの外周側に第3切れ刃18cが設けられ、その第3切れ刃18cの第3先端角α3が1°〜11°の範囲内と小さいため、軸方向長さを小さく維持しつつデラミネーションの発生が一層適切に抑制されるとともに、外周コーナ摩耗が抑制されて耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は先端角が段階的に変化しているドリルに係り、特に、FRP(繊維強化プラスチック)に穴明け加工を行なう場合に生じ易いデラミネーションの発生を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具先端に所定の第1先端角α1で第1切れ刃が設けられるとともに、その第1切れ刃の外周側に連続して前記第1先端角α1よりも小さい第2先端角α2で第2切れ刃が設けられているダブルアングルドリルが知られている(特許文献1参照)。このようなダブルアングルドリルは、先端角の変化でスラスト抵抗が段階的に変化するため、手動機により送り速度を手動で調整しつつ穴明け加工を行なう場合でも、その送り速度を適切に調整することができるとともに、外周コーナに達する第2切れ刃の先端角(第2先端角)α2を小さくできるため、FRP等に穴明け加工を行なう場合でも最後(外周縁)まで適切に切削加工が行なわれるようになり、デラミネーション(層間剥離)やバリの発生が抑制されて加工穴品質が向上する。すなわち、単一先端角の通常のドリルの場合、穴明け加工の進行に伴ってスラスト抵抗が連続的に低下するため、特に加工穴品質に影響する最終段階の外周コーナ付近での切削加工時にドリルが進み過ぎてデラミネーションなどが生じ易いが、ダブルアングルドリルの場合は、先端角の変化でスラスト抵抗が段階的に変化し、その変化が作業者の手に伝わるため、穴明け加工の進行度合を認識し易く、送り速度を最後まで適切に制御することができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−177420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなダブルアングルドリルにおいても、前記第2先端角α2が一般に20°〜40°程度であるため、加工条件によっては依然としてデラミネーションやバリを生じることがあるとともに、外周コーナ摩耗により必ずしも十分な耐久性が得られないという問題があった。第2先端角を例えば10°程度以下まで小さくすれば、デラミネーションの発生や外周コーナ摩耗を一層適切に抑制できるが、軸方向長さが長くなるためドリル先端側に大きな空きスペースが必要になるとともに、先端角の大きな変化によってスラスト抵抗が急に大きく変化するため、手動送り等の作業性が悪くなる。軸方向長さを短くするために第2切れ刃を外周側の狭い範囲に設ける場合は、機能的に従来の単一先端角のドリルとの差があまりなくなり、デラミネーションが発生し易くなるなど、ダブルアングルドリルとしてのメリットを十分に享受できない。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、FRPに穴明け加工を行なう場合に生じ易いデラミネーションの発生が一層適切に抑制されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 工具先端に所定の第1先端角α1で設けられた第1切れ刃と、(b) その第1切れ刃の外周側に連続して前記第1先端角α1よりも小さい第2先端角α2で設けられた第2切れ刃と、(c) その第2切れ刃の外周側に連続して前記第2先端角α2よりも小さい第3先端角α3で設けられるとともに、外周端部でリーディングエッジに接続される第3切れ刃とを有し、且つ、(d) 前記第3先端角α3は0°よりも大きく12°よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のトリプルアングルドリルにおいて、(a) 前記第1先端角α1は60°〜160°の範囲内で、(b) 前記第2先端角α2は15°〜40°の範囲内で、(c) 前記第3先端角α3は1°〜11°の範囲内であることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のトリプルアングルドリルにおいて、(a) 前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との境界である第1切れ刃径D1は、ドリル径Ddに対して0.5Dd〜0.7Ddの範囲内で、(b) 前記第2切れ刃と前記第3切れ刃との境界である第2切れ刃径D2は、0.8Dd〜0.95Ddの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このようなトリプルアングルドリルにおいては、先端角の変化でスラスト抵抗が段階的に変化するため、手動機により送り速度を手動で調整しつつ穴明け加工を行なう場合でも、そのスラスト抵抗の変化から穴明け加工の進行度合を適切に認識して送り速度を調整することが可能で、FRP等に穴明け加工を行なう場合でも最後(外周縁)まで適切に切削加工が行なわれるようにでき、進み過ぎに起因するデラミネーションやバリの発生が抑制されて良好な加工穴品質が得られる。特に、第2切れ刃の外周側に更に第3切れ刃が設けられ、その第3切れ刃の先端角(第3先端角)α3が0°よりも大きく12°よりも小さいため、軸方向長さを小さく維持しつつデラミネーションやバリの発生が一層適切に抑制されるとともに、外周コーナ摩耗が抑制されて摩耗によりデラミネーション等が発生するまでの耐久性が向上する。
【0010】
第2発明では、第1先端角α1が60°〜160°の範囲内で、第2先端角α2が15°〜40°の範囲内で、第3先端角α3が1°〜11°の範囲内であるため、先端角の変化によるスラスト抵抗の変化を適切に認識することができ、送り速度を調整しながら穴明け加工を行なう際の作業性が向上する。
【0011】
第3発明では、第1切れ刃径D1が0.5Dd〜0.7Ddの範囲内で、第2切れ刃径D2が0.8Dd〜0.95Ddの範囲内であるため、第1切れ刃〜第3切れ刃のそれぞれの切削範囲(切削時間)が適切に確保され、送り速度を調整しながら穴明け加工を行なう際の作業性が向上し、送り速度の手動調整を容易に適切に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例であるトリプルアングルドリルを示す図で、(a) は軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は(a) におけるドリル先端部の拡大図、(c) は(b) を先端側から見た先端面図、(d) は(b) に比較して軸心Oまわりの位相が90°異なる方向から見た側面図である。
【図2】先端形状が異なる9種類の試験品を用いて穴明け加工を行い、デラミネーション発生までの加工穴数を調べた結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のトリプルアングルドリルは、例えば軸心と平行な直溝を有する直刃ドリルに適用されるが、軸心まわりに捩じれたねじれ溝を有するツイストドリルに適用することもできる。また、第1切れ刃〜第3切れ刃を軸心に対して対称的に一対備えている2枚刃のドリルに好適に適用されるが、3枚刃以上のドリルにも適用され得る。
【0014】
本発明のトリプルアングルドリルは、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等のFRPに対する穴明け加工に好適に用いられるが、鉄鋼材料などの他の被削材に対する穴明け加工に使用することも可能である。また、スラスト抵抗の変化から穴明け加工の進行度合を認識して送り速度を調整する手動機による穴明け加工に好適に用いられるが、送り速度等が自動的に制御されるNC工作機械等に使用することもできる。
【0015】
工具母材としては、超硬合金または高硬度焼結体が好適に用いられるが、高速度工具鋼等の他の硬質工具材料を採用することも可能で、必要に応じてダイヤモンド被膜等の硬質被膜がコーティングされる。高硬度焼結体としては、例えば多結晶ダイヤモンド(PCD)の高圧焼結体が好適に用いられるが、単結晶ダイヤモンドや多結晶CBN、単結晶CBNの高圧焼結体を用いることも可能である。
【0016】
第2発明では、第1先端角α1が60°〜160°の範囲内で、第2先端角α2が15°〜40°の範囲内で、第3先端角α3が1°〜11°の範囲内であり、第3発明では、第1切れ刃径D1が0.5Dd〜0.7Ddの範囲内で、第2切れ刃径D2が0.8Dd〜0.95Ddの範囲内であるが、第1発明の実施に際してはそれ等の範囲を超えて設定することも可能である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるトリプルアングルドリル10を示す図で、(a) は軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) はドリル先端部の拡大図、(c) は(b) を先端側から見た先端面図、(d) は(b) に比較して軸心Oまわりの位相が90°異なる方向から見た側面図である。このトリプルアングルドリル10は、2枚刃の直刃ドリルで、円柱形状のシャンク12およびボデー14を同軸上に一体に備えており、ボデー14には軸心Oと平行な一対の直溝16が軸心Oに対して対称的に形成されている。ボデー14の先端には、直溝16の開口縁に沿って一対の切れ刃18が対称的に設けられており、シャンク12側から見て軸心Oの右まわり(図1(c) において軸心Oの左まわり)に回転駆動されることにより、それ等の切れ刃18によって穴を切削加工する。このトリプルアングルドリル10は超硬合金にて構成されており、ボデー14には必要に応じてダイヤモンド被膜等の硬質被膜がコーティングされる。
【0018】
上記切れ刃18は、第1先端角α1の円錐面上に設けられた第1切れ刃18aと、その第1切れ刃18aの外周側に連続して第1先端角α1よりも小さい第2先端角α2の円錐面上に設けられた第2切れ刃18bと、その第2切れ刃18bの外周側に連続して第2先端角α2よりも小さい第3先端角α3の円錐面上に設けられた第3切れ刃18cとから成り、第3切れ刃18cの外周端部は外周コーナに達してリーディングエッジ20に接続されている。第1先端角α1は60°〜160°の範囲内で本実施例では約100°であり、第2先端角α2は15°〜40°の範囲内で本実施例では約30°であり、第3先端角α3は1°〜11°の範囲内で本実施例では約6°である。また、第1切れ刃18aと第2切れ刃18bとの境界である第1切れ刃径D1は、第3切れ刃18cの外端部の直径であるドリル径Ddに対して0.5Dd≦D1≦0.7Ddの範囲内で、本実施例ではDd≒9.525mm、D1≒5.73mm(≒0.6Dd)である。第2切れ刃18bと第3切れ刃18cとの境界である第2切れ刃径D2は、0.8Dd〜0.95Ddの範囲内で、本実施例ではD2≒8.60mm(≒0.9Dd)である。
【0019】
ドリル先端にはシンニング22が設けられており、上記第1切れ刃18aの略全域がそのシンニング22によって形成されている。また、第1切れ刃18a、第2切れ刃18b、第3切れ刃18cには、それぞれ約20°の2番角で2番面が設けられているとともに、約50°の3番角で3番面が設けられており、更にそれらの切れ刃18a〜18cに共通の4番面が設けられている。符号24は4番面である。
【0020】
このようなトリプルアングルドリル10においては、3つの第1切れ刃18a〜第3切れ刃18cの先端角α1〜α3の変化でスラスト抵抗が段階的に変化するため、手動機により送り速度を手動で調整しつつ穴明け加工を行なう場合でも、そのスラスト抵抗の変化から穴明け加工の進行度合を適切に認識して送り速度を調整することが可能で、FRPに穴明け加工を行なう場合でも最後(外周縁)まで適切に切削加工が行なわれるようにでき、進み過ぎに起因するデラミネーションの発生が抑制されて良好な加工穴品質が得られる。
【0021】
特に、第2切れ刃18bの外周側に第3切れ刃18cが設けられ、その第3切れ刃18cの先端角(第3先端角)α3が1°〜11°の範囲内と小さいため、軸方向長さを小さく維持しつつデラミネーションの発生が一層適切に抑制されるとともに、外周コーナ摩耗が抑制されて摩耗によりデラミネーションが発生するまでの耐久性が向上する。
【0022】
また、第1先端角α1が60°〜160°の範囲内で、第2先端角α2が15°〜40°の範囲内で、第3先端角α3が1°〜11°の範囲内であるため、手動機により送り速度を手動で調整しつつ穴明け加工を行なう場合に、先端角α1〜α3の変化によるスラスト抵抗の変化を適切に認識することができ、送り速度を調整しながら穴明け加工を行なう際の作業性が向上する。
【0023】
また、第1切れ刃径D1が0.5Dd〜0.7Ddの範囲内で、第2切れ刃径D2が0.8Dd〜0.95Ddの範囲内であるため、第1切れ刃18a〜第3切れ刃18cのそれぞれの切削範囲(切削時間)が適切に確保され、送り速度を調整しながら穴明け加工を行なう際の作業性が向上し、送り速度の手動調整を容易に適切に行なうことができる。
【0024】
因に、第1先端角α1〜第3先端角α3が異なる9種類の試験品No1〜No9(図2(a) 参照)を用意し、以下の加工条件で穴明け加工を行ってデラミネーション発生までの工具寿命(加工穴数)を調べたところ、図2に示す結果が得られた。試験品No4〜No8は本発明品で、第1先端角α1〜第3先端角α3を除く基本形状は前記トリプルアングルドリル10と同じである。試験品No1、No2は、単一先端角の通常ドリルで、試験品No3は、従来のダブルアングルドリルで、試験品No9は、第3先端角α3が大きい比較品である。なお、図2の(a) の「総合寿命」の欄は、上下面共にデラミネーションが認められない良好な加工穴品質が得られる穴数である。
《加工条件》
被削材 :CFRP(t11mm)
ドリル径Dd:φ9.525mm
回転速度 :485min-1
送り :手動
切削油 :無し
【0025】
図2において、第3切れ刃18cの先端角(第3先端角)α3が0°よりも大きく12°よりも小さい試験品No4〜No8(本発明品)は、何れも総合寿命が40穴を超えており、デラミネーションの発生が抑制されるとともに優れた耐久性が得られる。第3先端角α3が12°の試験品No9(比較品)では、22穴で上面にデラミネーションが発生し、十分な耐久性が得られない。また、単一先端角の試験品No1、No2(通常ドリル)は数穴でデラミネーションが発生し、実質的に加工不可である。ダブルアングルドリルの試験品No3も、20穴以下でデラミネーションが発生するようになり、この加工条件では十分な耐久性が得られない。
【0026】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
10:トリプルアングルドリル 18:切れ刃 18a:第1切れ刃 18b:第2切れ刃 18c:第3切れ刃 O:軸心 α1:第1先端角 α2:第2先端角 α3:第3先端角 Dd:ドリル径 D1:第1切れ刃径 D2:第2切れ刃径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具先端に所定の第1先端角α1で設けられた第1切れ刃と、
該第1切れ刃の外周側に連続して前記第1先端角α1よりも小さい第2先端角α2で設けられた第2切れ刃と、
該第2切れ刃の外周側に連続して前記第2先端角α2よりも小さい第3先端角α3で設けられるとともに、外周端部でリーディングエッジに接続される第3切れ刃と
を有し、且つ、前記第3先端角α3は0°よりも大きく12°よりも小さい
ことを特徴とするトリプルアングルドリル。
【請求項2】
前記第1先端角α1は60°〜160°の範囲内で、
前記第2先端角α2は15°〜40°の範囲内で、
前記第3先端角α3は1°〜11°の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載のトリプルアングルドリル。
【請求項3】
前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との境界である第1切れ刃径D1は、ドリル径Ddに対して0.5Dd〜0.7Ddの範囲内で、
前記第2切れ刃と前記第3切れ刃との境界である第2切れ刃径D2は、0.8Dd〜0.95Ddの範囲内である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のトリプルアングルドリル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−284783(P2010−284783A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142813(P2009−142813)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】