トリポード系ジョイントのハウジング
【課題】トリポード系ジョイントを一層軽量にする。
【解決手段】トリポード系ジョイントのハウジング10は、カップ部12とステム部18とからなる鉄鋼材料でできた本体12aと、カップ部12の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブ12bを具備し、カップ部12は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝14を有し、トラック溝14はカップ部12の端面に開口し、かつ、中空部からカップ部12の外周面まで半径方向に貫通している。
【解決手段】トリポード系ジョイントのハウジング10は、カップ部12とステム部18とからなる鉄鋼材料でできた本体12aと、カップ部12の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブ12bを具備し、カップ部12は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝14を有し、トラック溝14はカップ部12の端面に開口し、かつ、中空部からカップ部12の外周面まで半径方向に貫通している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達装置に使用されるトリポード系ジョイントのハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、外側継手部材を原動軸または従動軸と接続し、内側継手部材を従動軸または原動軸と接続し、両者間にトルク伝達部材を介在させてある。そして、原動軸と従動軸が角度をなした状態でもトルクを伝達できるようにしたもので、角度変位のみが可能な固定式と、角度変位だけでなく軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動式とに大別される。
【0003】
前輪駆動車や独立懸架方式の後輪駆動車の駆動軸にはしゅう動式等速ジョイントが用いられている。しゅう動式等速ジョイントに属するトリポード型等速ジョイントは、図7に示すように、外側継手部材としてのハウジング110と、内側継手部材としてのトリポード120と、トルク伝達部材としてのスフェリカルローラ130を主要な構成要素としている。
【0004】
図8に示すように、ハウジング110はカップ部112とステム部118とからなり、ステム部118に形成したスプライン(またはセレーション。以下同じ。)軸部で原動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。カップ部112は、ステム部118とは反対側の端面に開口した文字どおりのカップ状で、その内周に、軸線と平行な3本のトラック溝114が円周方向に等間隔に形成してある。各トラック溝114の両側壁はローラ案内面116となる。
【0005】
トリポード120はボス122と3本のトラニオン126とからなり、ボス122に形成したスプライン孔124で従動軸または原動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。3本のトラニオン126はボス122の円周方向に等間隔に配置してあり、それぞれボス122から半径方向に突出している。各トラニオン126は円筒形状で、先端付近に輪溝128が形成してある。
【0006】
各トラニオン126にスフェリカルローラ130が取り付けてある。スフェリカルローラ130とトラニオン126との間には複数の針状ころ132が総ころ状態で介在させてある。したがって、スフェリカルローラ130はトラニオン126に対して回転自在である。針状ころ132の軸方向の両端側にインナ・ワッシャ134とアウタ・ワッシャ136が配置してある。インナ・ワッシャ134はトラニオン126の付け根の肩に着座している。トラニオン126の輪溝128にサークリップ138が装着してあり、トラニオン126の先端側へのアウタ・ワッシャ136の移動を規制する。したがって、針状ころ132のトラニオン126の先端側への移動が規制される(抜止め)。
【0007】
作動角をとった状態でトルクを伝達するとき、スフェリカルローラがローラ案内面に沿ってハウジングの軸線方向に転動することで、しゅう動式等速ジョイントが成り立っている。
【0008】
上記ハウジング110がクローズドエンドタイプと呼ばれるのに対して、特許文献2にはいわゆるオープンタイプのハウジングを使用したトリポード型ジョイントが記載されている。オープンタイプのハウジングは、トラック溝がハウジングの外周面に開口した3弁の花冠状で、そのような形状からチューリップと呼ばれることもある。
【特許文献1】特許第3615987号公報
【特許文献2】特開昭62−058403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、ハウジング110には高周波焼入れに適した高炭素鋼が用いられ、トリポードキット(120、130等)を収容する部分は鋼一体型のクローズドエンドタイプのカップ形状となっている(図8参照)。また、ハウジング110のカップ部112は、外周の、トラック溝間の部分の余肉を除去して3弁の花冠状の断面形状とすることで軽量化が行なわれている。しかし、近年、地球温暖化対策として、CO2の排出量の削減が叫ばれており、更なる軽量化が必要とされている。
そこで、トリポード系ジョイントの一層の軽量化を図ることがこの発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、ハウジングのカップ部をオープンタイプのチューリップ形状とし、その外周を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でできたスリーブで覆ったコンポジットハウジングとすることによって課題を解決したものである。
【0011】
すなわち、この発明のトリポード系ジョイントのハウジングは、カップ部とステム部とからなる鉄鋼材料でできた本体と、カップ部の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブを具備し、カップ部は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝を有し、トラック溝はカップの端面に開口し、かつ、中空部からカップ部の外周面まで半径方向に貫通していることを特徴とするものである。
【0012】
オープンタイプのハウジングとCFRP製のスリーブとを組み合わせたコンポジットハウジングとすることにより、ハウジングのカップ部の外周部分をCFRPに置換した軽量コンポジットハウジングが実現する。ちなみに、炭素鋼の比重は約7.8であるのに対して、CFRPの比重は2以下である。
【0013】
CFRP材は積層して製作することができる。具体的な製法としては、フィラメントワインディング法やパイプローリング法が知られている。積層を構成するCFRPの繊維配向角を、中空シャフトの軸方向に対して0°、90°、および±45°のプライの組み合わせとすることにより、曲げ剛性やねじり剛性の調整および径方向の変形(座屈)を抑制できる。このとき、各々のプライ数についても、トリポードジョイントのハウジングに作用するトルクに応じて、適宜組み合わせて積層構造体を構成することもできる。
【0014】
積層を構成する繊維は、トリポードジョイントのハウジングの軽量化に効力をより発揮するには、密度が小さく弾性率の高い材料が望ましい。このような繊維として、PAN系およびピッチ系炭素繊維等が挙げられる。この場合、繊維の引張弾性率は、98GPa(10000kgf/mm2)以上が好ましい(請求項7)。98GPa(10000kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成しても曲げ剛性やねじり剛性が確保できない。
【0015】
また、繊維の強度は980MPa(100kgf/mm2)以上が好ましい(請求項8)。980MPa(100kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成してもトリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに対し不十分である。
【0016】
PAN系炭素繊維を使用する場合、その線径は1μm以上20μm以下が好ましい(請求項9)。PAN系炭素繊維の線径が1μm未満の場合、原料となるアクリル繊維のコストが高く、かつ、焼成して炭素繊維に加工する時の制御が難しくなり繊維の価格が高くなるため、低コストなトリポードジョイント外輪を成立させることができない。また、PAN系炭素繊維の線径が20μmを越えると高弾性率の繊維を製造することができない。
【0017】
ピッチ系炭素繊維を使用する場合、長繊維でかつ高弾性率のメソフェースピッチ系炭素繊維が好ましい(請求項10)。
【0018】
本体の外周面およびスリーブの内周面の断面形状を円形とし、互いにはめ合わせるようにしてもよい(請求項2)。円形であるため、加工が容易であると共に本体とスリーブをはめ合わせるとき、位相合わせの必要がないため、作業が容易である。
本体の外周面およびスリーブの内周面の断面形状は、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状とすることもできる(請求項3)。本体の外周面のうちのストレート部分は、本体の外周の肉を落とすことによって形成するため、より一層の軽量化に寄与する。また、おむすび形状は、回り止めにも寄与する。
【0019】
ハウジングのカップ部とスリーブは、圧入、接着、スプライン等々の既知の結合手段のなかから選択したものを、単独で、または適当な組み合わせで、採用することにより、一体化させることができる。この場合、カップ部内に充填したグリースの漏れを防止するためのOリングその他の密封装置を省略することができる。
【0020】
接着剤による結合は(請求項4)、カップ部とスリーブを結合するための簡便な手段といえる。
【0021】
カップ部とスリーブをスプラインにより結合してもよい(請求項5)。すでに述べたとおり、スプラインというときはセレーションも含むものとする。スプラインは強力な回り止め手段となるが、スライドスプラインの例のように、軸方向には相対移動を許容するものもある。したがって、本体とスリーブの結合手段としてスプラインを単独で利用する場合、スプライン歯間に締め代を与えて抜け止めを図る方法や、本体のみにスプライン加工を施し、スプライン加工を施していないスリーブ内径に圧入する方法(以降、“プレスカット”という。)を行なうのがよい。
【0022】
カップ部とスリーブを接着剤とスプラインにより結合してもよい(請求項6)。接着材を併用することで、より強固な結合が得られる。
【0023】
この発明のトリポード系ジョイントのハウジングは、その内部に収容する内側継手部材の構成を問うことなく種々のタイプのトリポード系ジョイントに適用することができる。また、トリポード型ジョイントのほか、バイポッド型ジョイントにも同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、トリポード系ジョイントのハウジングのカップ部をオープンタイプのチューリップ形状とし、その外周部分をCFRP材で構成したコンポジットハウジングとしたことにより、軽量化を達成することができる。
また、この発明のハウジングを使用したトリポード系ジョイントを自動車の動力伝達装置に使用することにより、自動車の燃費削減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に従ってこの発明の実施の形態を説明する。なお、ここではトリポード型等速ジョイントのハウジングを例にとって説明する。
図1に示すように、ハウジング10は、カップ部12とステム部18とからなり、ステム部18に形成したスプライン軸部で原動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。カップ部12は本体12aとスリーブ12bとで構成されている。そして、スリーブ12bは本体12aの外側にあって、カップ部12の外周部分を構成している。
【0026】
図2に示すように、カップ部12は、ステム部18とは反対側の端面に開口した文字どおりのカップ状で、その内側に、3本のトラック溝14がマウス部12の円周方向に等間隔に形成してある。各トラック溝14の両側壁にローラ案内面16が形成してある。各トラック溝14はカップ部12の軸線Xと平行な部分円筒状である。したがって、ローラ案内面16は円筒面の一部であり、軸線Xに垂直な断面は真円の一部である。
【0027】
本体12aの材料は、ローラ案内面16およびステム部18に表面硬化熱処理を施す必要があることから、従来と同様、一般的に炭素鋼を採用する。なお、本体12aとステム部18は一体であることから、両者は同じ材料で構成される。
【0028】
図3に示すように、スリーブ12bは円筒形状で、円筒形の内周面で本体12aの外周面とはまり合う。ここでは外周面も円筒形で、本体の開口端部側に対応する位置にブーツを取り付けるためのブーツ溝が形成してある。スリーブ12bの外周面が円筒形状であると、ブーツの取付け部も円筒形状でよいので、ブーツの製造が容易であり、かつ、シール性を確保するのも容易である。
【0029】
スリーブ12bの材料にはCFRPを採用する。CFRPの比重は2以下である。これに対して炭素鋼の比重は約7.8である。CFRP材は積層して製作することができる。積層を構成するCFRPの繊維配向角を、中空シャフトの軸方向に対して0°、90°、および±45°のプライの組み合わせとすることにより、曲げ剛性やねじり剛性の調整および径方向の変形(座屈)を抑制できる。このとき、各々のプライ数についても、トリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに応じて、適宜組み合わせて積層構造体を構成することもできる。
【0030】
積層を構成する繊維は、トリポード系ジョイントのハウジングの軽量化に効力をより発揮するには、密度が小さく弾性率の高い材料が望ましい。このような繊維として、PAN系およびピッチ系炭素繊維等が挙げられる。この場合、繊維の引張弾性率は、98GPa(10000kgf/mm2)以上がよく、さらに望ましくは196GPa(20000kgf/mm2)以上である。98GPa(10000kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成しても曲げ剛性やねじり剛性が確保できない。
【0031】
また、繊維の強度は980MPa(100kgf/mm2)以上がよく、さらに望ましくは1960MPa(200kgf/mm2)以上である。980MPa(100kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成してもトリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに対し不十分である。
【0032】
PAN系炭素繊維を使用する場合、その線径は1μm以上20μm以下がよく、さらに望ましくは5μm以上8μm以下がよい。PAN系炭素繊維の線径が1μm未満の場合、原料となるアクリル繊維のコストが高く、かつ、焼成して炭素繊維に加工する時の制御が難しくなり繊維の価格が高くなるため、低コストなトリポードジョイント外輪を成立させることができない。また、PAN系炭素繊維の線径が20μmを越えると高弾性率の繊維を製造することができない。
【0033】
ピッチ系炭素繊維を使用する場合、長繊維でかつ高弾性率のメソフェースピッチ系炭素繊維がよい。なお、CFRP材は、フィラメントワインディング法またはパイプローリング法により形成することができる。
【0034】
また、さらなる低コスト化のために、2以上の異種の繊維を組み合わせて用いてもよい。非弾性率の大きい繊維が軽量化の効果が大きいためトリポード系ジョイントのハウジングへの使用は好ましい。しかし、コスト低減の観点からこれらの炭素繊維どうし、あるいは、これらの炭素繊維とガラス繊維のハイブリッドで用いることも可能である。
【0035】
これらの繊維は、トウ状であってもプリプレグ状であってもよいが、トウ状の場合未硬化のマトリクス樹脂に含浸しながらフィラメントワインディング法により薄肉太径に成形される。プリプレグ状の場合、パイプローリング法により薄肉太径に成形される。CFRPの繊維配向角を中空シャフトの軸方向に対して0°、90°または±45°のプライの組み合わせで積層しようとすると、プリプレグを使用したパイプローリング(またはシートラップ)法が適しており、フィラメントワインディング法では0°の繊維配向角を有することは困難である。パイプローリング(またはシートラップ)法で使用されるプリプレグとは、繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた半硬化状態のシート状のもので、糸の配列を一方向に一定に保つことができ、さらに安定して積層加工ができ、また、任意の繊維配向角で巻き付けることが可能である。ここで用いる繊維シートは、一方向以外にあらかじめ直交して織り込んだ状態のクロスを用いてもよい。
【0036】
マトリクスとして含浸する熱硬化性樹脂は、特に制限されるものではない。一般に、熱硬化性を示すエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できるが、強度上からエポキシ樹脂が好適である。マトリクスにエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ硬化後の耐熱性が60℃以上のものがよいが、さらに望ましくは80℃以上がよい。自動車の駆動軸に使用されるジョイントの雰囲気温度は60℃程度になるため、エポキシ硬化後の耐熱性が60℃未満では強度上問題があり、マトリクスに使用できない。
【0037】
エポキシ樹脂中にゴム粒子を介在させ海島構造を形成して耐衝撃性を付与した改質エポキシ樹脂や、主鎖または側鎖を化学構造的に変成した変成エポキシ樹脂を用いることもできる。さらに、含浸する繊維表面をオゾン酸化処理や紫外線の照射で表面活性化したり、シランカップリング剤またはチタンカップリング剤等で湿式処理を行なって親和性を向上させたり、反応性の高い官能基サイトを繊維表面に形成し、熱硬化性マトリクス樹脂との硬化後化学結合を有する強固な接着を付与することで、マトリクスと繊維間の界面強度を向上させることもできる。
【0038】
図1の実施例では、図1(B)および図2(B)から分かるように、本体12aの外周面の横断面は円形である。もっとも、トラック溝16に対応する部分には外周面は存在しない(オープンタイプ)。一方、図3(B)に示すように、スリーブ12bの内周面の横断面も円形である。そして、本体12aとスリーブ12bは適当なはめあい、例えば圧入(タイトフィット)によりはめ合わせる。円形であるため、本体とスリーブをはめ合わせるとき、位相合わせの必要がないため、作業が容易である。
【0039】
図4に示す実施例は、図4(B)から分かるように、本体12aの外周面およびスリーブ12bの内周面の断面形状を、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状としたものである。本体の外周面のうちのストレート部分は、本体の外周の肉を落とすことによって形成するため、より一層の軽量化に寄与する。この場合、スリーブ12bの外周面もおむすび形状とすると、ブーツの取付け部の内周面をスリーブ12bの外周面に合わせておむすび形状とする必要がある。スリーブ12bの外周面を円形とすれば、ブーツの内周面も円形とすることができる。
【0040】
本体12aとスリーブ12bは、両者のタイトフィッティングに加えて、あるいはそれに代えて、既知の結合手段を適宜選択したものを単独で、あるいは適宜組み合わせて、採用することができる。具体例としては、接着剤、スプライン、接着剤とスプラインなどが挙げられる。この場合、カップ部12内に充填したグリースの漏れを防止するためのOリングその他の密封装置を使用しなくてもよい。
【0041】
接着剤による結合は、カップ部12の本体12aとスリーブ12bを結合するための簡便な手段といえる。
【0042】
カップ部12の本体12aとスリーブ12bをスプラインにより結合してもよい。すでに述べたとおり、スプラインというときはセレーションも含むものとする。スプラインは強力な回り止め手段となるが、スライドスプラインの例のように、軸方向には相対移動を許容するものもある。したがって、本体12aとスリーブ12bの結合手段としてスプラインを単独で利用する場合、スプライン歯間に締め代を与えて抜け止めを図る方法や、プレスカットを行なうのがよい。
【0043】
カップ部12の本体12aとスリーブ12bを接着剤とスプラインにより結合してもよい。接着材を併用することで、より強固な結合が得られる。
【0044】
図5は、本体12aとスリーブ12bをスプラインにより結合した例である。本体12aの外周面にオススプラインを形成し、スリーブ12bの内周面にメススプラインを形成する。スプライン歯に締め代を与えることによって軸方向の抜け止めをすることができる。また、プレスカットによっても軸方向の抜け止めをすることができる。更に上述のとおり、接着剤を併用することでより強固な結合が得られる。
【0045】
ここに述べたトリポード系ジョイントのハウジングは、その内部に収容する内側継手部材の構成を問うことなく種々のタイプのトリポード系ジョイントに適用することができる。たとえば、トリポード型ジョイントのほか、バイポッド型ジョイントにも同様に適用することができる。また、トリポード型ジョイントであっても、図7に示した単一のスフェリカルローラを用いたもののほか、図9〜図12に示すような種々タイプにも同様に適用することができる。
【0046】
図9は、ローラの外周にフリーリングを配置したものである(特開平03−001528号公報参照)。
【0047】
図10は、上記フリーリングの外周面形状とローラ案内面の形状を変更して改良したものである(特開2000−136830号公報参照)。
【0048】
図11は、トラニオンの横断面を楕円形状とし、その外周に、複数の針状ころを介して相対回転自在のリングとローラとからなるローラアセンブリを配置したものである(特開2002−195285号公報参照)。
【0049】
図12は、トラニオンの外周面を部分球面状とし、その外周に、複数の針状ころを介して相対回転自在のリングとローラを配置したものである(特開2002−195285号公報の図11参照)。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(A)は第1の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図2】(A)は図1におけるハウジング本体の縦断面図、(B)は端面図である。
【図3】(A)は図1におけるスリーブの縦断面図、(B)は端面図である。
【図4】(A)は第2の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図5】(A)は第3の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図6】図5(B)の部分拡大図である。
【図7】(A)は従来例を示すトリポード型ジョイントの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図8】(A)は図6におけるハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図9】他のトリポード系ジョイントの横断面図である。
【図10】他のトリポード系ジョイントの横断面図である。
【図11】(A)は他のトリポード系ジョイントの横断面図、(B)はトラニオン軸線に垂直な断面図である。
【図12】(A)は他のトリポード系ジョイントの横断面図、(B)はトラニオン軸線に垂直な断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 ハウジング(外側継手部材)
12 カップ部
12a 本体
12b スリーブ
14 トラック溝
16 ローラ案内面
18 ステム部
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達装置に使用されるトリポード系ジョイントのハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、外側継手部材を原動軸または従動軸と接続し、内側継手部材を従動軸または原動軸と接続し、両者間にトルク伝達部材を介在させてある。そして、原動軸と従動軸が角度をなした状態でもトルクを伝達できるようにしたもので、角度変位のみが可能な固定式と、角度変位だけでなく軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動式とに大別される。
【0003】
前輪駆動車や独立懸架方式の後輪駆動車の駆動軸にはしゅう動式等速ジョイントが用いられている。しゅう動式等速ジョイントに属するトリポード型等速ジョイントは、図7に示すように、外側継手部材としてのハウジング110と、内側継手部材としてのトリポード120と、トルク伝達部材としてのスフェリカルローラ130を主要な構成要素としている。
【0004】
図8に示すように、ハウジング110はカップ部112とステム部118とからなり、ステム部118に形成したスプライン(またはセレーション。以下同じ。)軸部で原動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。カップ部112は、ステム部118とは反対側の端面に開口した文字どおりのカップ状で、その内周に、軸線と平行な3本のトラック溝114が円周方向に等間隔に形成してある。各トラック溝114の両側壁はローラ案内面116となる。
【0005】
トリポード120はボス122と3本のトラニオン126とからなり、ボス122に形成したスプライン孔124で従動軸または原動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。3本のトラニオン126はボス122の円周方向に等間隔に配置してあり、それぞれボス122から半径方向に突出している。各トラニオン126は円筒形状で、先端付近に輪溝128が形成してある。
【0006】
各トラニオン126にスフェリカルローラ130が取り付けてある。スフェリカルローラ130とトラニオン126との間には複数の針状ころ132が総ころ状態で介在させてある。したがって、スフェリカルローラ130はトラニオン126に対して回転自在である。針状ころ132の軸方向の両端側にインナ・ワッシャ134とアウタ・ワッシャ136が配置してある。インナ・ワッシャ134はトラニオン126の付け根の肩に着座している。トラニオン126の輪溝128にサークリップ138が装着してあり、トラニオン126の先端側へのアウタ・ワッシャ136の移動を規制する。したがって、針状ころ132のトラニオン126の先端側への移動が規制される(抜止め)。
【0007】
作動角をとった状態でトルクを伝達するとき、スフェリカルローラがローラ案内面に沿ってハウジングの軸線方向に転動することで、しゅう動式等速ジョイントが成り立っている。
【0008】
上記ハウジング110がクローズドエンドタイプと呼ばれるのに対して、特許文献2にはいわゆるオープンタイプのハウジングを使用したトリポード型ジョイントが記載されている。オープンタイプのハウジングは、トラック溝がハウジングの外周面に開口した3弁の花冠状で、そのような形状からチューリップと呼ばれることもある。
【特許文献1】特許第3615987号公報
【特許文献2】特開昭62−058403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、ハウジング110には高周波焼入れに適した高炭素鋼が用いられ、トリポードキット(120、130等)を収容する部分は鋼一体型のクローズドエンドタイプのカップ形状となっている(図8参照)。また、ハウジング110のカップ部112は、外周の、トラック溝間の部分の余肉を除去して3弁の花冠状の断面形状とすることで軽量化が行なわれている。しかし、近年、地球温暖化対策として、CO2の排出量の削減が叫ばれており、更なる軽量化が必要とされている。
そこで、トリポード系ジョイントの一層の軽量化を図ることがこの発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、ハウジングのカップ部をオープンタイプのチューリップ形状とし、その外周を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でできたスリーブで覆ったコンポジットハウジングとすることによって課題を解決したものである。
【0011】
すなわち、この発明のトリポード系ジョイントのハウジングは、カップ部とステム部とからなる鉄鋼材料でできた本体と、カップ部の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブを具備し、カップ部は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝を有し、トラック溝はカップの端面に開口し、かつ、中空部からカップ部の外周面まで半径方向に貫通していることを特徴とするものである。
【0012】
オープンタイプのハウジングとCFRP製のスリーブとを組み合わせたコンポジットハウジングとすることにより、ハウジングのカップ部の外周部分をCFRPに置換した軽量コンポジットハウジングが実現する。ちなみに、炭素鋼の比重は約7.8であるのに対して、CFRPの比重は2以下である。
【0013】
CFRP材は積層して製作することができる。具体的な製法としては、フィラメントワインディング法やパイプローリング法が知られている。積層を構成するCFRPの繊維配向角を、中空シャフトの軸方向に対して0°、90°、および±45°のプライの組み合わせとすることにより、曲げ剛性やねじり剛性の調整および径方向の変形(座屈)を抑制できる。このとき、各々のプライ数についても、トリポードジョイントのハウジングに作用するトルクに応じて、適宜組み合わせて積層構造体を構成することもできる。
【0014】
積層を構成する繊維は、トリポードジョイントのハウジングの軽量化に効力をより発揮するには、密度が小さく弾性率の高い材料が望ましい。このような繊維として、PAN系およびピッチ系炭素繊維等が挙げられる。この場合、繊維の引張弾性率は、98GPa(10000kgf/mm2)以上が好ましい(請求項7)。98GPa(10000kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成しても曲げ剛性やねじり剛性が確保できない。
【0015】
また、繊維の強度は980MPa(100kgf/mm2)以上が好ましい(請求項8)。980MPa(100kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成してもトリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに対し不十分である。
【0016】
PAN系炭素繊維を使用する場合、その線径は1μm以上20μm以下が好ましい(請求項9)。PAN系炭素繊維の線径が1μm未満の場合、原料となるアクリル繊維のコストが高く、かつ、焼成して炭素繊維に加工する時の制御が難しくなり繊維の価格が高くなるため、低コストなトリポードジョイント外輪を成立させることができない。また、PAN系炭素繊維の線径が20μmを越えると高弾性率の繊維を製造することができない。
【0017】
ピッチ系炭素繊維を使用する場合、長繊維でかつ高弾性率のメソフェースピッチ系炭素繊維が好ましい(請求項10)。
【0018】
本体の外周面およびスリーブの内周面の断面形状を円形とし、互いにはめ合わせるようにしてもよい(請求項2)。円形であるため、加工が容易であると共に本体とスリーブをはめ合わせるとき、位相合わせの必要がないため、作業が容易である。
本体の外周面およびスリーブの内周面の断面形状は、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状とすることもできる(請求項3)。本体の外周面のうちのストレート部分は、本体の外周の肉を落とすことによって形成するため、より一層の軽量化に寄与する。また、おむすび形状は、回り止めにも寄与する。
【0019】
ハウジングのカップ部とスリーブは、圧入、接着、スプライン等々の既知の結合手段のなかから選択したものを、単独で、または適当な組み合わせで、採用することにより、一体化させることができる。この場合、カップ部内に充填したグリースの漏れを防止するためのOリングその他の密封装置を省略することができる。
【0020】
接着剤による結合は(請求項4)、カップ部とスリーブを結合するための簡便な手段といえる。
【0021】
カップ部とスリーブをスプラインにより結合してもよい(請求項5)。すでに述べたとおり、スプラインというときはセレーションも含むものとする。スプラインは強力な回り止め手段となるが、スライドスプラインの例のように、軸方向には相対移動を許容するものもある。したがって、本体とスリーブの結合手段としてスプラインを単独で利用する場合、スプライン歯間に締め代を与えて抜け止めを図る方法や、本体のみにスプライン加工を施し、スプライン加工を施していないスリーブ内径に圧入する方法(以降、“プレスカット”という。)を行なうのがよい。
【0022】
カップ部とスリーブを接着剤とスプラインにより結合してもよい(請求項6)。接着材を併用することで、より強固な結合が得られる。
【0023】
この発明のトリポード系ジョイントのハウジングは、その内部に収容する内側継手部材の構成を問うことなく種々のタイプのトリポード系ジョイントに適用することができる。また、トリポード型ジョイントのほか、バイポッド型ジョイントにも同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、トリポード系ジョイントのハウジングのカップ部をオープンタイプのチューリップ形状とし、その外周部分をCFRP材で構成したコンポジットハウジングとしたことにより、軽量化を達成することができる。
また、この発明のハウジングを使用したトリポード系ジョイントを自動車の動力伝達装置に使用することにより、自動車の燃費削減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に従ってこの発明の実施の形態を説明する。なお、ここではトリポード型等速ジョイントのハウジングを例にとって説明する。
図1に示すように、ハウジング10は、カップ部12とステム部18とからなり、ステム部18に形成したスプライン軸部で原動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。カップ部12は本体12aとスリーブ12bとで構成されている。そして、スリーブ12bは本体12aの外側にあって、カップ部12の外周部分を構成している。
【0026】
図2に示すように、カップ部12は、ステム部18とは反対側の端面に開口した文字どおりのカップ状で、その内側に、3本のトラック溝14がマウス部12の円周方向に等間隔に形成してある。各トラック溝14の両側壁にローラ案内面16が形成してある。各トラック溝14はカップ部12の軸線Xと平行な部分円筒状である。したがって、ローラ案内面16は円筒面の一部であり、軸線Xに垂直な断面は真円の一部である。
【0027】
本体12aの材料は、ローラ案内面16およびステム部18に表面硬化熱処理を施す必要があることから、従来と同様、一般的に炭素鋼を採用する。なお、本体12aとステム部18は一体であることから、両者は同じ材料で構成される。
【0028】
図3に示すように、スリーブ12bは円筒形状で、円筒形の内周面で本体12aの外周面とはまり合う。ここでは外周面も円筒形で、本体の開口端部側に対応する位置にブーツを取り付けるためのブーツ溝が形成してある。スリーブ12bの外周面が円筒形状であると、ブーツの取付け部も円筒形状でよいので、ブーツの製造が容易であり、かつ、シール性を確保するのも容易である。
【0029】
スリーブ12bの材料にはCFRPを採用する。CFRPの比重は2以下である。これに対して炭素鋼の比重は約7.8である。CFRP材は積層して製作することができる。積層を構成するCFRPの繊維配向角を、中空シャフトの軸方向に対して0°、90°、および±45°のプライの組み合わせとすることにより、曲げ剛性やねじり剛性の調整および径方向の変形(座屈)を抑制できる。このとき、各々のプライ数についても、トリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに応じて、適宜組み合わせて積層構造体を構成することもできる。
【0030】
積層を構成する繊維は、トリポード系ジョイントのハウジングの軽量化に効力をより発揮するには、密度が小さく弾性率の高い材料が望ましい。このような繊維として、PAN系およびピッチ系炭素繊維等が挙げられる。この場合、繊維の引張弾性率は、98GPa(10000kgf/mm2)以上がよく、さらに望ましくは196GPa(20000kgf/mm2)以上である。98GPa(10000kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成しても曲げ剛性やねじり剛性が確保できない。
【0031】
また、繊維の強度は980MPa(100kgf/mm2)以上がよく、さらに望ましくは1960MPa(200kgf/mm2)以上である。980MPa(100kgf/mm2)未満では、CFRPの繊維配向角をどのように構成してもトリポード系ジョイントのハウジングに作用するトルクに対し不十分である。
【0032】
PAN系炭素繊維を使用する場合、その線径は1μm以上20μm以下がよく、さらに望ましくは5μm以上8μm以下がよい。PAN系炭素繊維の線径が1μm未満の場合、原料となるアクリル繊維のコストが高く、かつ、焼成して炭素繊維に加工する時の制御が難しくなり繊維の価格が高くなるため、低コストなトリポードジョイント外輪を成立させることができない。また、PAN系炭素繊維の線径が20μmを越えると高弾性率の繊維を製造することができない。
【0033】
ピッチ系炭素繊維を使用する場合、長繊維でかつ高弾性率のメソフェースピッチ系炭素繊維がよい。なお、CFRP材は、フィラメントワインディング法またはパイプローリング法により形成することができる。
【0034】
また、さらなる低コスト化のために、2以上の異種の繊維を組み合わせて用いてもよい。非弾性率の大きい繊維が軽量化の効果が大きいためトリポード系ジョイントのハウジングへの使用は好ましい。しかし、コスト低減の観点からこれらの炭素繊維どうし、あるいは、これらの炭素繊維とガラス繊維のハイブリッドで用いることも可能である。
【0035】
これらの繊維は、トウ状であってもプリプレグ状であってもよいが、トウ状の場合未硬化のマトリクス樹脂に含浸しながらフィラメントワインディング法により薄肉太径に成形される。プリプレグ状の場合、パイプローリング法により薄肉太径に成形される。CFRPの繊維配向角を中空シャフトの軸方向に対して0°、90°または±45°のプライの組み合わせで積層しようとすると、プリプレグを使用したパイプローリング(またはシートラップ)法が適しており、フィラメントワインディング法では0°の繊維配向角を有することは困難である。パイプローリング(またはシートラップ)法で使用されるプリプレグとは、繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた半硬化状態のシート状のもので、糸の配列を一方向に一定に保つことができ、さらに安定して積層加工ができ、また、任意の繊維配向角で巻き付けることが可能である。ここで用いる繊維シートは、一方向以外にあらかじめ直交して織り込んだ状態のクロスを用いてもよい。
【0036】
マトリクスとして含浸する熱硬化性樹脂は、特に制限されるものではない。一般に、熱硬化性を示すエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できるが、強度上からエポキシ樹脂が好適である。マトリクスにエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ硬化後の耐熱性が60℃以上のものがよいが、さらに望ましくは80℃以上がよい。自動車の駆動軸に使用されるジョイントの雰囲気温度は60℃程度になるため、エポキシ硬化後の耐熱性が60℃未満では強度上問題があり、マトリクスに使用できない。
【0037】
エポキシ樹脂中にゴム粒子を介在させ海島構造を形成して耐衝撃性を付与した改質エポキシ樹脂や、主鎖または側鎖を化学構造的に変成した変成エポキシ樹脂を用いることもできる。さらに、含浸する繊維表面をオゾン酸化処理や紫外線の照射で表面活性化したり、シランカップリング剤またはチタンカップリング剤等で湿式処理を行なって親和性を向上させたり、反応性の高い官能基サイトを繊維表面に形成し、熱硬化性マトリクス樹脂との硬化後化学結合を有する強固な接着を付与することで、マトリクスと繊維間の界面強度を向上させることもできる。
【0038】
図1の実施例では、図1(B)および図2(B)から分かるように、本体12aの外周面の横断面は円形である。もっとも、トラック溝16に対応する部分には外周面は存在しない(オープンタイプ)。一方、図3(B)に示すように、スリーブ12bの内周面の横断面も円形である。そして、本体12aとスリーブ12bは適当なはめあい、例えば圧入(タイトフィット)によりはめ合わせる。円形であるため、本体とスリーブをはめ合わせるとき、位相合わせの必要がないため、作業が容易である。
【0039】
図4に示す実施例は、図4(B)から分かるように、本体12aの外周面およびスリーブ12bの内周面の断面形状を、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状としたものである。本体の外周面のうちのストレート部分は、本体の外周の肉を落とすことによって形成するため、より一層の軽量化に寄与する。この場合、スリーブ12bの外周面もおむすび形状とすると、ブーツの取付け部の内周面をスリーブ12bの外周面に合わせておむすび形状とする必要がある。スリーブ12bの外周面を円形とすれば、ブーツの内周面も円形とすることができる。
【0040】
本体12aとスリーブ12bは、両者のタイトフィッティングに加えて、あるいはそれに代えて、既知の結合手段を適宜選択したものを単独で、あるいは適宜組み合わせて、採用することができる。具体例としては、接着剤、スプライン、接着剤とスプラインなどが挙げられる。この場合、カップ部12内に充填したグリースの漏れを防止するためのOリングその他の密封装置を使用しなくてもよい。
【0041】
接着剤による結合は、カップ部12の本体12aとスリーブ12bを結合するための簡便な手段といえる。
【0042】
カップ部12の本体12aとスリーブ12bをスプラインにより結合してもよい。すでに述べたとおり、スプラインというときはセレーションも含むものとする。スプラインは強力な回り止め手段となるが、スライドスプラインの例のように、軸方向には相対移動を許容するものもある。したがって、本体12aとスリーブ12bの結合手段としてスプラインを単独で利用する場合、スプライン歯間に締め代を与えて抜け止めを図る方法や、プレスカットを行なうのがよい。
【0043】
カップ部12の本体12aとスリーブ12bを接着剤とスプラインにより結合してもよい。接着材を併用することで、より強固な結合が得られる。
【0044】
図5は、本体12aとスリーブ12bをスプラインにより結合した例である。本体12aの外周面にオススプラインを形成し、スリーブ12bの内周面にメススプラインを形成する。スプライン歯に締め代を与えることによって軸方向の抜け止めをすることができる。また、プレスカットによっても軸方向の抜け止めをすることができる。更に上述のとおり、接着剤を併用することでより強固な結合が得られる。
【0045】
ここに述べたトリポード系ジョイントのハウジングは、その内部に収容する内側継手部材の構成を問うことなく種々のタイプのトリポード系ジョイントに適用することができる。たとえば、トリポード型ジョイントのほか、バイポッド型ジョイントにも同様に適用することができる。また、トリポード型ジョイントであっても、図7に示した単一のスフェリカルローラを用いたもののほか、図9〜図12に示すような種々タイプにも同様に適用することができる。
【0046】
図9は、ローラの外周にフリーリングを配置したものである(特開平03−001528号公報参照)。
【0047】
図10は、上記フリーリングの外周面形状とローラ案内面の形状を変更して改良したものである(特開2000−136830号公報参照)。
【0048】
図11は、トラニオンの横断面を楕円形状とし、その外周に、複数の針状ころを介して相対回転自在のリングとローラとからなるローラアセンブリを配置したものである(特開2002−195285号公報参照)。
【0049】
図12は、トラニオンの外周面を部分球面状とし、その外周に、複数の針状ころを介して相対回転自在のリングとローラを配置したものである(特開2002−195285号公報の図11参照)。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(A)は第1の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図2】(A)は図1におけるハウジング本体の縦断面図、(B)は端面図である。
【図3】(A)は図1におけるスリーブの縦断面図、(B)は端面図である。
【図4】(A)は第2の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図5】(A)は第3の実施例を示すトリポード型ジョイントのハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図6】図5(B)の部分拡大図である。
【図7】(A)は従来例を示すトリポード型ジョイントの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図8】(A)は図6におけるハウジングの縦断面図、(B)は横断面図である。
【図9】他のトリポード系ジョイントの横断面図である。
【図10】他のトリポード系ジョイントの横断面図である。
【図11】(A)は他のトリポード系ジョイントの横断面図、(B)はトラニオン軸線に垂直な断面図である。
【図12】(A)は他のトリポード系ジョイントの横断面図、(B)はトラニオン軸線に垂直な断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 ハウジング(外側継手部材)
12 カップ部
12a 本体
12b スリーブ
14 トラック溝
16 ローラ案内面
18 ステム部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ部とステム部とからなる鉄鋼材料でできた本体と、カップ部の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブを具備し、
カップ部は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝を有し、
トラック溝はカップの端面に開口し、かつ、前記中空部から前記カップ部の外周面まで半径方向に貫通しているトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項2】
前記本体の外周面および前記スリーブの内周面の断面形状は円形である請求項1のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項3】
前記本体の外周面および前記スリーブの内周面の断面形状は、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状である請求項1のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項4】
前記本体と前記スリーブを接着剤により結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項5】
前記本体と前記スリーブをスプラインにより結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項6】
前記本体と前記スリーブを接着剤とスプラインにより結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項7】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維の引張弾性率が98GPa以上である請求項1から6のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項8】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維の強度が980MPa以上である請求項1から7のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項9】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維が線径1μm以上20μm以下のPAN系炭素繊維である請求項1から8のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項10】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維がメソフェースピッチ系炭素繊維である請求項1から9のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項1】
カップ部とステム部とからなる鉄鋼材料でできた本体と、カップ部の外周にかぶせた炭素繊維強化プラスチックでできたスリーブを具備し、
カップ部は、軸心部分に位置し端面に開口した中空部と、円周方向に等間隔に配置した軸心と平行な部分円筒状のトラック溝を有し、
トラック溝はカップの端面に開口し、かつ、前記中空部から前記カップ部の外周面まで半径方向に貫通しているトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項2】
前記本体の外周面および前記スリーブの内周面の断面形状は円形である請求項1のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項3】
前記本体の外周面および前記スリーブの内周面の断面形状は、円弧とストレートを組み合わせたおむすび形状である請求項1のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項4】
前記本体と前記スリーブを接着剤により結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項5】
前記本体と前記スリーブをスプラインにより結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項6】
前記本体と前記スリーブを接着剤とスプラインにより結合した請求項1から3のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項7】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維の引張弾性率が98GPa以上である請求項1から6のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項8】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維の強度が980MPa以上である請求項1から7のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項9】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維が線径1μm以上20μm以下のPAN系炭素繊維である請求項1から8のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【請求項10】
炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維がメソフェースピッチ系炭素繊維である請求項1から9のいずれか1項のトリポード系ジョイントのハウジング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−127425(P2010−127425A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304355(P2008−304355)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
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