説明

トルクセンサ

【課題】バックヨークからのリング磁石の脱落を防止することができるトルクセンサを提供する。
【解決手段】第一シャフト11に固定される磁気発生部50から第二シャフト13に固定される回転磁気回路部60に導かれる磁束密度に応じてトーションバー12に作用するトルクを検出するトルクセンサ40において、磁気発生部50は、第一シャフト11に外嵌されるバックヨーク51と、バックヨーク51の端面に突出形成される環状の突出部51Bと、突出部51Bとの間に所定の隙間dを有するようにバックヨーク51の端面に設けられる環状のリング磁石52と、突出部51Bのリング磁石52と対向する側面に設けられる第一凹部51Dと、リング磁石52の突出部51Bと対向する側面に設けられる第二凹部52Aと、隙間d、第一凹部51D、及び第二凹部52Aにわたって設けられ、バックヨーク51とリング磁石52とを接着する主接着部53と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石から導かれる磁束密度に応じてシャフトに作用するトルクを検出するトルクセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを磁力によって検出する非接触タイプのトルクセンサが開示されている。このトルクセンサは、同軸上に配置される入力シャフトと出力シャフトとの間で操舵トルクを伝達するトーションバーと、入力シャフトに固定される磁気発生部と、出力シャフトに固定される回転磁気回路部と、ハウジングに固定される固定磁気回路部と、固定磁気回路部に導かれる磁束密度を検出する磁気センサと、を備える。磁気発生部は、入力シャフトに固定されるバックヨークと、接着剤を介してバックヨークに固定されるリング磁石とから構成されている。
【0003】
トーションバーにトルクが作用してトーションバーがねじれ変形すると、磁気発生部と回転磁気回路部との回転方向の相対位置が変化する。これに伴い磁気発生部から回転磁気回路部を通じて固定磁気回路部に導かれる磁束密度が変化する。磁気センサは磁束密度に応じた信号を出力する。トーションバーに作用するトルクは、磁気センサから出力された信号に基づいて検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−240496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のトルクセンサでは、リング磁石とバックヨークとの間の接着不良が発生した場合に、外部からの衝撃等によってリング磁石がバックヨークから回転軸方向に脱落するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、リング磁石とバックヨークとの間の接着不良が発生した場合であっても、リング磁石の脱落を防止することができるトルクセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同軸上に配置される第一シャフトと第二シャフトとの間でトルクを伝達するトーションバーと、前記第一シャフトに固定される磁気発生部と、前記第二シャフトに固定される回転磁気回路部とを備え、前記磁気発生部から前記回転磁気回路部に導かれる磁束密度に応じて前記トーションバーに作用するトルクを検出するトルクセンサにおいて、前記磁気発生部は、前記第一シャフトに外嵌されるバックヨークと、前記バックヨークの端面に突出形成される環状の突出部と、前記突出部との間に所定の隙間を有するように前記バックヨークの端面に設けられる環状のリング磁石と、前記突出部の前記リング磁石と対向する側面に設けられる第一凹部と、前記リング磁石の前記突出部と対向する側面に設けられる第二凹部と、前記隙間と、前記第一凹部と、前記第二凹部とにわたって設けられ、前記バックヨークと前記リング磁石とを接着する主接着部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バックヨークとリング磁石との間の接着不良が発生した場合でも、主接着部が突出部の凹部及びリング磁石の凹部に入り込んでおり、リング磁石の凹部内の主接着部がリング磁石を支持するので、バックヨークからのリング磁石の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態によるパワーステアリング装置の縦断面図である。
【図2】下部ハウジングを取り除いた状態におけるパワーステアリング装置の分解斜視図である。
【図3】(A)及び(B)は、パワーステアリング装置に設けられるトルクセンサが備える磁気発生部の斜視図及び下面図である。
【図4】トルクセンサが備える回転磁気回路部の斜視図である。
【図5】(A)は磁気発生部の縦断面図であり、(B)は(A)の破線領域における磁気発生部の拡大図である。
【図6】磁気発生部の縦断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態による車両用のパワーステアリング装置1を説明する。
【0011】
図1及び図2に示すように、パワーステアリング装置1は、ステアリングホイールに連係するステアリングシャフト10と、車輪に連係するラック軸2とを備え、ステアリングシャフト10の回転によってラック軸2を軸方向に移動させて車輪を操舵する装置である。
【0012】
ステアリングシャフト10は、ボルト21によって連結される上部ハウジング20及び下部ハウジング30によって支持される軸部材である。ステアリングシャフト10は、第一シャフトとしての入力シャフト11と、トーションバー12と、第二シャフトとしての出力シャフト13と、を備える。
【0013】
入力シャフト11は、転がり軸受22を介して上部ハウジング20に回転自在に支持される。入力シャフト11と上部ハウジング20との間はダストシール23によってシールされる。ダストシール23は、転がり軸受22の上方に配設されている。
【0014】
出力シャフト13は、上部ハウジング20の下端部と下部ハウジング30の上端部に挟持される転がり軸受31と、下部ハウジング30の下端部に設置される滑り軸受32とによって、回転自在に支持される。
【0015】
出力シャフト13の上端部には、入力シャフト11の下端部を収容可能な収容室13Aが形成されている。出力シャフト13の収容室13Aの内周面と、入力シャフト11の下端部の外周面との間には、滑り軸受14が介装される。これにより、入力シャフト11及び出力シャフト13は、同一軸上で相対回転可能となっている。
【0016】
入力シャフト11は円筒状に形成されており、入力シャフト11の内部にはトーションバー12が同軸に収められる。トーションバー12の上端部は、ピン15を介して、入力シャフト11の上端部に連結される。トーションバー12の下端部は、入力シャフト11の下端開口部より下方に突出する。トーションバー12の下端部の外周面には、セレーション12Aが形成されている。トーションバー12の下端部は、セレーション12Aを介して、収容室13Aの底部に形成された係合孔13Bに連結される。トーションバー12は、入力シャフト11に入力される操舵トルクを出力シャフト13に伝達するとともに、そのトルクに応じて回転軸Oを中心にねじれ変形する。
【0017】
出力シャフト13は、下端寄りの外周面にギア13Cを備える。出力シャフト13のギア13Cは、ラック軸2に形成されたラックギア2Aと噛合する。入力シャフト11の回転に伴って出力シャフト13が回転することで、ラック軸2が軸方向に移動し、車輪が操舵される。
【0018】
パワーステアリング装置1は、操舵トルクを補助的に付与するアシスト機構として、トーションバー12に作用する操舵トルクを検出する非接触式のトルクセンサ40と、検出された操舵トルクに応じてラック軸2に操舵補助トルクを付与する電動モータとを有している。
【0019】
トルクセンサ40は、入力シャフト11とともに回転する磁気発生部50と、出力シャフト13とともに回転する回転磁気回路部60と、上部ハウジング20に固定される固定磁気回路部70と、固定磁気回路部70に導かれる磁束密度を検出する磁気センサ81とを備える。トルクセンサ40は、トーションバー12に作用する操舵トルクを磁気センサ81の出力に基づいて検出する。
【0020】
なお、トルクセンサ40は、出力シャフト13に磁気発生部50を設け、入力シャフト11に回転磁気回路部60を設ける構成としてもよい。
【0021】
図1、図3(A)、及び図3(B)に示すように、磁気発生部50は、入力シャフト11に圧入される環状のバックヨーク51と、接着剤を介してバックヨーク51の下端面に固定される環状のリング磁石52と、を備える。
【0022】
リング磁石52は、環状の永久磁石である。リング磁石52は、入力シャフト11の回転軸O方向へ向けて硬磁性体を着磁することによって形成される多極磁石である。図3(B)に示すように、リング磁石52には、12個の磁極が周方向にわたって等間隔に形成される。つまり、リング磁石52の上端面及び下端面には、6個のN極と6個のS極が周方向に交互に配設される。リング磁石52に設けられる磁極数は、12個に限られず、必要に応じて任意に設定される。
【0023】
バックヨーク51は、軟磁性体によって形成される環状部材である。バックヨーク51の下端面には、リング磁石52が固定される。バックヨーク51は、リング磁石52の隣り合う磁極を結んで磁束を導く継鉄としての機能を有しており、リング磁石52の下端面である下部磁極面に磁力を集中させる。
【0024】
図1、図2、及び図4に示すように、回転磁気回路部60は、リング磁石52から出される磁束を導く第一軟磁性リング61及び第二軟磁性リング62と、出力シャフト13に取り付けられる取付部材63と、取付部材63に第一軟磁性リング61及び第二軟磁性リング62を固定する樹脂モールド64とを備える。なお、図4は、樹脂モールド64を省略した状態の回転磁気回路部60を示す図である。
【0025】
第一軟磁性リング61は、環状の第一磁路環部61Cと、第一磁路環部61Cから下向きに突出する6個の第一磁路柱部61Bと、各第一磁路柱部61Bの下端からそれぞれ内向きに屈折してリング磁石52の下端面に対峙する第一磁路端部61Aと、を備える。また、第二軟磁性リング62は、環状の第二磁路環部62Cと、第二磁路環部62Cから上向きに突出する6個の第二磁路柱部62Bと、各第二磁路柱部62Bの上端からそれぞれ内向きに屈折して、リング磁石52の下端面に対峙する第二磁路端部62Aと、を備える。
【0026】
第一磁路環部61C及び第二磁路環部62Cは、それぞれ全周がつながった環状部材である。第一磁路環部61C及び第二磁路環部62Cは、第一磁路端部61Aと第二磁路端部62Aとが同一面上において交互に等しい角度間隔で並ぶように、回転軸O方向に間隔をあけて配置される。
【0027】
第一磁路環部61Cはリング磁石52の下端面より上方に設けられ、第二磁路環部62Cはリング磁石52より下方に設けられる。したがって、リング磁石52は、トーションバー12の回転軸O方向について第一磁路環部61Cと第二磁路環部62Cとの間に配置される。
【0028】
第一磁路柱部61Bと第二磁路柱部62Bは、それぞれ平板状に形成され、回転軸O方向に延設される。第一磁路柱部61Bは、所定の間隙をあけてリング磁石52の外周面を囲むように配置される。第二磁路柱部62Bは、回転軸Oに沿って第一磁路柱部61Bと反対方向に延設される。
【0029】
第一磁路端部61Aと第二磁路端部62Aは、それぞれ平板状に形成される。トーションバー12に操舵トルクが作用していない中立状態では、第一磁路端部61A及び第二磁路端部62Aの各中心線は、リング磁石52のN極とS極の境界を指すように、設定されている。
【0030】
図1及び図2に示すように、固定磁気回路部70は、第一軟磁性リング61の第一磁路環部61Cの外周に沿って設けられる第一集磁リング71と、第二軟磁性リング62の第二磁路環部62Cの外周に沿って設けられる第二集磁リング72と、第一集磁リング71に接続される第一集磁ヨーク73と、第二集磁リング72に接続される第二集磁ヨーク74と、を備える。第一集磁ヨーク73及び第二集磁ヨーク74は、ブロック状の部材である。
【0031】
第一集磁リング71及び第二集磁リング72は、上部ハウジング20の内周壁にかしめ固定される。第一集磁リング71の内周面は第一軟磁性リング61の第一磁路環部61Cに対峙し、第二集磁リング72の内周面は第二軟磁性リング62の第二磁路環部62Cに対峙する。
【0032】
第一集磁ヨーク73は第一集磁リング71の外周面に当接するように設けられ、第二集磁ヨーク74は第二集磁リング72の外周面に当接するように設けられる。第一集磁ヨーク73と第二集磁ヨーク74との間には、周方向に並ぶ一対の磁気ギャップが形成される。各磁気ギャップ内には、磁気センサ81が一つずつ配置される。
【0033】
第一集磁ヨーク73、第二集磁ヨーク74、磁気センサ81、及び磁気センサ81と接続する基板82は、センサホルダ83に設置される。樹脂製のセンサホルダ83は、一対のボルト84を介して、金属製の上部ハウジング20に固定される。
【0034】
磁気センサ81は、ホール素子を通過する磁束密度に応じた電圧を信号として出力する。磁気センサ81の出力信号は、センサホルダ83に設けられた端子83Aを介して、コントローラに送信される。なお、磁気センサ81には、ホール素子の信号を増幅する回路、温度補償を行う回路、又はノイズフィルタの回路等を設けてもよい。
【0035】
次に、トルクセンサ40がトーションバー12に作用する操舵トルクを検出する機能について説明する。
【0036】
トーションバー12に操舵トルクが作用しない中立状態では、第一軟磁性リング61の第一磁路端部61A及び第二軟磁性リング62の第二磁路端部62Aは、それぞれリング磁石52のN極及びS極に同一の面積で対峙して両極を磁気短絡する。そのため、磁束は回転磁気回路部60と固定磁気回路部70に導かれない。
【0037】
運転者によるステアリングホイールの操作によって、トーションバー12に特定方向の操舵トルクが作用した場合には、このトルクの方向に応じてトーションバー12はねじれ変形する。トーションバー12がねじれ変形すると、第一磁路端部61AはS極よりN極に大きな面積を持って対峙する一方、第二磁路端部62AはN極よりS極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石52からの磁束は回転磁気回路部60と固定磁気回路部70に導かれ、磁気センサ81は磁場の大きさ及び方向に応じた信号を出力する。この場合における磁気経路は、N極から第一軟磁性リング61、第一集磁リング71、第一集磁ヨーク73、磁気センサ81、第二集磁ヨーク74、第二集磁リング72、第二軟磁性リング62を経由してS極に向かう経路である。
【0038】
一方、運転者によるステアリングホイールの操作によって、トーションバー12に上記とは逆方向の操舵トルクが作用した場合には、このトルクの方向に応じてトーションバー12が逆方向にねじれ変形する。トーションバー12がねじれ変形すると、第一磁路端部61AはN極よりS極に大きな面積を持って対峙する一方、第二磁路端部62AはS極よりN極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石52からの磁束は、上記の磁気経路と逆の磁気経路にて導かれる。磁気センサ81は、磁場の強さ及び方向に応じた信号を出力する。この場合における磁気経路は、N極から第二軟磁性リング62、第二集磁リング72、第二集磁ヨーク74、磁気センサ81、第一集磁ヨーク73、第一集磁リング71、第一軟磁性リング61を経由してS極に向かう経路である。
【0039】
第一磁路端部61Aがリング磁石52のN極とS極に対峙する面積差、及び第二磁路端部62Aがリング磁石52のN極とS極に対峙する面積差が大きいほど、磁気ギャップの磁場は強くなる。磁気ギャップにおける磁場が強くなると、磁気センサ81の出力信号も増大する。
【0040】
トーションバーに作用する操舵トルクは、磁気センサ81から出力された信号に基づいて検出される。
【0041】
次に、磁気発生部50のバックヨーク51及びリング磁石52の構成について詳しく説明する。
【0042】
図3(A)、図5(A)、及び図5(B)に示すように、磁気発生部50のバックヨーク51は、軟磁性体の合金によって円環状に形成される。バックヨーク51は、入力シャフト11の外周面に対して嵌合する嵌合孔51Aと、下端面から下方に突出する突出部51Bと、外周面に形成される係合溝51Cと、を備える。
【0043】
嵌合孔51Aは、バックヨーク51を回転軸O方向に貫通する孔である。バックヨーク51は、嵌合孔51Aを介して入力シャフト11の外周面に圧入される。
【0044】
突出部51Bは、バックヨーク51の下端面に環状に形成される。突出部51Bの内径は、入力シャフト11が挿通可能なように、入力シャフト11の外径よりも大きく設定されている。突出部51Bの外周面には、凹部51Dが窪むように形成される。凹部51Dは、バックヨーク51の下端面寄りの位置において周方向に形成される。つまり、凹部51Dは、突出部51Bの外周上部において全周にわたって形成される環状溝である。
【0045】
なお、バックヨーク51では、突出部51Bの外周面の全周にわたって凹部51Dを設けたが、周方向に複数の凹部を設けてもよい。
【0046】
係合溝51Cは、バックヨーク51の外周面の下部に、回転軸O方向に沿って設けられる縦溝である。係合溝51Cは、バックヨーク51の下端面から、下端面よりも上方の所定位置まで延設される。係合溝51Cは、バックヨーク51の外周に沿って等間隔に複数設けられる。これら係合溝51Cは、ローレット加工によってバックヨーク51の外周面を凹凸状にすることで形成される。
【0047】
なお、係合溝51Cが延設される上記所定位置は必要に応じて適宜変更される。係合溝51Cとリング磁石52の係合面52Bとの連係による作用効果については後述するが、リング磁石52の周方向に加わる衝撃の大きさが大きいほど、より上方の所定位置まで係合溝51Cを延設するとよい。
【0048】
図3(A)、図5(A)、及び図5(B)に示すように、磁気発生部50のリング磁石52は、焼結金属によって環状に形成される。リング磁石52は、接着部53、54を介して、バックヨーク51の下端面に固定される。リング磁石52の内径はバックヨーク51の突出部51Bの外径よりも大きく設定されており、リング磁石52は突出部51Bを取り囲むように配置される。したがって、リング磁石52の内周面と突出部51Bの外周面とは対向する。リング磁石52の内周面と突出部51Bの外周面との間には、所定の隙間dが形成される。
【0049】
なお、バックヨーク51にリング磁石52が設置された状態で、バックヨーク51の突出部51Bの突出量は、リング磁石52の厚さの略半分となるように設定される。これにより、リング磁石52の下端面と突出部51Bの下端面の間における磁気短絡が防止される。突出部51Bの突出量は、リング磁石52の厚さの略半分に限られない。例えば、リング磁石52の厚さの3分の1や略同一の厚さ等に設定してもよい。つまり、リング磁石52の下端面と突出部51Bの下端面との間における磁気短絡を防止することのできる突出量であれば、突出部51Bの突出量を任意に設定することができる。
【0050】
リング磁石52の内周面の下部には、テーパ状に切り欠かれた凹部52Aが形成される。凹部52Aは、リング磁石52の内径がリング磁石52の下端面から上方に向かって徐々に縮径するように、すり鉢状に形成される。凹部52Aは、リング磁石52の下端面から突出部51Bの下端面に対応する所定位置までの範囲にわたって設けられる。
【0051】
なお、本実施形態では、突出部51Bの下端面に対応する所定位置として、突出部51Bの下端面より上方であり、かつ凹部51Dの下端よりも下方の位置を採用している。但し、これに限らず、突出部51Bの下端面に対応する所定位置は少なくとも突出部51Bの下端面より上方であればよい。
【0052】
また、リング磁石52の外周面には、係合面52Bが設けられる。係合面52Bは、リング磁石52の外周面の一部を切り欠いた面である。係合面52Bは、平面又は湾曲面として形成される。
【0053】
上記したバックヨーク51及びリング磁石52は、接着部53、54を介して結合される。接着部53、54は固化後の接着剤であり、この接着剤には弾性接着剤が用いられる。バックヨーク51はリング磁石52の磁界によって磁化されるので、バックヨーク51及びリング磁石52は、接着部53、54の接着力だけでなく、磁力によっても結合される。
【0054】
図5(B)及び図6に示すように、接着部53は、リング磁石52の内周面に沿って塗付された接着材が固化した接着層である。接着部53は、リング磁石52の内周面と突出部51Bの外周面との間の隙間dを通じて、突出部51Bの凹部51D及びリング磁石52の凹部52Aに到達するように設けられる。このように、接着部53は、リング磁石52の凹部52Aと、リング磁石52及び突出部51Bの隙間dと、突出部51Bの凹部51Dとにわたって設けられる。
【0055】
なお、本実施形態では、所定の隙間dは、凹部51Dの最も深い深さと略同一の長さに設定されているが、これに限られない。所定の隙間dは、接着部53が劣化する等してバックヨーク51とリング磁石52との接着不良が発生した場合でも、接着部53の凹部51Dに入り込んだ部分及び接着部53の凹部52Aの入り込んだ部分によって接着剤53がリング磁石52を支持可能な強度を有するように設定されていればよい。そのため、リング磁石52の磁力や重量、接着部53に使用する接着剤の種類等に応じて、所定の隙間dを凹部51Dの最も深い深さよりも長く設定したり、短く設定したりしてもよい。
【0056】
接着部54は、リング磁石52の外周面に沿って塗付された接着材が固化した接着層である。接着部54は、リング磁石52の上端側外周と、係合溝51Cが形成されるバックヨーク51の下端側外周とにわたって設けられる。これにより、接着部54を介して、リング磁石52の係合面52Bとバックヨーク51の係合溝51Cとが連係する。
【0057】
次に、図5(B)及び図6を参照して、リング磁石52の脱落防止機能及び回転防止機能について説明する。
【0058】
仮に、接着部53、54が劣化する等してバックヨーク51とリング磁石52の接着不良が発生した場合には、リング磁石52とバックヨーク51の接合力のほとんどは磁力によるものとなる。
【0059】
このような状態において、リング磁石52の軸方向に衝撃力が加わった場合には、リング磁石52がバックヨーク51から脱落する可能性がある。しかしながら、接着部53が突出部51Bの凹部51D及びリング磁石52の凹部52Aに入り込んでいるので、接着部53自体が突出部51Bから抜け落ちることが防止され、この接着部53を介してリング磁石52がバックヨーク51から回転軸O方向に脱落することが防止される。つまり、リング磁石52はリング磁石52の凹部52Aに入り込んだ接着部53によって支持されるため、バックヨーク51からのリング磁石52の脱落が回避される。このように突出部51Bの凹部51Dに引っ掛かった状態の接着部53がリング磁石52の脱落を防止するストッパとして機能する。バックヨーク51からのリング磁石52の脱落が回避されることによって、トルクセンサ40の検出精度の悪化が防止される。
【0060】
また、リング磁石52の周方向に衝撃力が加わった場合には、リング磁石52のバックヨーク51に対する固定位置が回転軸O周りにずれる可能性がある。しかしながら、接着部54はリング磁石52の係合面52Bとバックヨーク51の係合溝51Cとを連係するように設けられているため、バックヨーク51に対するリング磁石52の回転が防止される。バックヨーク51の係合溝51Cに入り込んだ接着部54によって接着部54自体のバックヨーク51に対する回転が規制され、リング磁石52の係合面52Bに位置する接着部54によってリング磁石52のバックヨーク51に対する回転が規制される。このようにバックヨーク51の外周に係止された状態の接着部54がリング磁石52の回転を規制するストッパとして機能する。バックヨーク51に対するリング磁石52の回転が回避されることによって、トルクセンサ40の検出精度の悪化が防止される。
【0061】
上記したトルクセンサ40によれば、以下の効果を得ることができる。
【0062】
バックヨーク51とリング磁石52との間の接着不良が発生した場合でも、接着部53が突出部51Bの凹部51D及びリング磁石52の凹部52Aに入り込んでおり、リング磁石52は凹部52Aに入り込んだ接着部53によって支持されるので、バックヨーク51からのリング磁石52の脱落を防止することができる。また、接着部54がバックヨーク51の係合溝51Cとリング磁石52の係合面52Bとを連係するように設けられるので、バックヨーク51に対するリング磁石52の回転を防止することができる。
【0063】
接着部53はリング磁石52の内周面の一部を覆うように設けられるので、接着部53に覆われた部分においてリング磁石52に割れ等が発生しても、割れたリング磁石52が飛散することを抑制することができる。
【0064】
接着部53、54は弾性接着剤からなるので、リング磁石52に作用する衝撃力を低減することができる。
【0065】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0066】
本実施形態では、バックヨーク51の内周寄りの下端面に突出部51Bを形成したが、バックヨーク51の外周寄りの下端面に突出部を形成してもよい。この場合には、リング磁石52の外径を突出部の内径よりも小さくし、リング磁石52は突出部の内側においてバックヨーク51の下端面に固定される。突出部の内周上部には環状溝としての凹部が形成され、リング磁石52の外周下部にも凹部が形成される。リング磁石52の凹部は、リング磁石52の外形がリング磁石52の下端面から上方に向かって徐々に拡径するようにテーパ状に形成される。バックヨーク51とリング磁石52とを結合する接着部は、リング磁石52の凹部と、リング磁石52と突出部51Bとの隙間と、突出部51Bの凹部とにわたって設けられる。このように構成することによっても、リング磁石52の凹部に入り込んだ接着部によってリング磁石52を支持でき、バックヨーク51からのリング磁石52の脱落を防止することができる。
【0067】
本実施形態では、バックヨーク51の外周面に沿って係合溝51Cが設けられ、リング磁石52の外周面の一部に係合面52Bが設けられる。このような構成の代わりに、突出部51Bの外周面に沿って縦溝としての係合溝を設け、リング磁石52の内周面の一部に切欠面としての係合面を設けてもよい。この場合には、リング磁石52の内周側に設けられる接着部53が、突出部51Bの係合溝とリング磁石52の係合面とを連係するように設けられる。このように構成することによっても、バックヨーク51に対するリング磁石52の回転を防止することができる。
【0068】
また、本実施形態では、突出部51Bの突出量をリング磁石52の厚さの略半分に設定したため、リング磁石52の下端面から突出部51Bの下端面に対応する所定位置までの範囲にわたって凹部52Aを設けたが、これに限られない。突出部51Bの突出量をリング磁石52の厚さと略同一に設定した場合には、リング磁石52の下端面側の外周角部及び上端面側の内周角部に形成されているいわゆる面取りを、リング磁石52の下端面側の内周角部に形成し、この面取りを凹部52Aとして採用してもよい。
【0069】
さらに、本実施形態では、リング磁石52の外周とバックヨーク51の外周とにわたって接着部54が設けられているが、接着部54は必ずしも設けられる必要はない。接着部54を備えていなくても、トルクセンサ40は所期の目的を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、車両のパワーステアリング装置に設けられるトルクセンサとして用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 パワーステアリング装置
11 入力シャフト
12 トーションバー
13 出力シャフト
20 上部ハウジング
30 下部ハウジング
40 トルクセンサ
50 磁気発生部
51 バックヨーク
51A 嵌合孔
51B 突出部
51C 係合溝
51D 凹部(第一凹部)
52 リング磁石
52A 凹部(第二凹部)
52B 係合面
53 接着部(主接着部)
54 接着部(副接着部)
60 回転磁気回路部
61 第一軟磁性リング
62 第二軟磁性リング
70 固定磁気回路部
71 第一集磁リング
72 第二集磁リング
81 磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置される第一シャフトと第二シャフトとの間でトルクを伝達するトーションバーと、前記第一シャフトに固定される磁気発生部と、前記第二シャフトに固定される回転磁気回路部とを備え、前記磁気発生部から前記回転磁気回路部に導かれる磁束密度に応じて前記トーションバーに作用するトルクを検出するトルクセンサにおいて、
前記磁気発生部は、
前記第一シャフトに外嵌されるバックヨークと、
前記バックヨークの端面に突出形成される環状の突出部と、
前記突出部との間に所定の隙間を有するように前記バックヨークの端面に設けられる環状のリング磁石と、
前記突出部の前記リング磁石と対向する側面に設けられる第一凹部と、
前記リング磁石の前記突出部と対向する側面に設けられる第二凹部と、
前記隙間、前記第一凹部、及び前記第二凹部にわたって設けられ、前記バックヨークと前記リング磁石とを接着する主接着部と、
を備えることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記リング磁石は、前記突出部の外周を取り囲むように設けられ、
前記第一凹部は、前記突出部の外周に沿って形成され、
前記第二凹部は、前記リング磁石の内周に沿って形成されることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記第一凹部は、前記バックヨークの端面寄りの位置に設けられる環状溝であり、
前記第二凹部は、前記リング磁石の内径がリング磁石の端面から前記突出部に向かって縮径するようにテーパ状に形成されることを特徴とする請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
前記バックヨークの外周に沿って設けられ、軸方向に沿って延設される係合溝と、
前記リング磁石の外周の一部を切り欠いて設けられる係合面と、
前記係合溝と前記係合面とを連係させるように前記バックヨークの外周と前記リング磁石の外周とにわたって設けられ、前記バックヨークと前記リング磁石とを接着する副接着部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれか一つに記載のトルクセンサ。
【請求項5】
前記係合溝は、前記バックヨークの外周面に沿って複数設けられ、
前記係合面は、平面又は湾曲面として形成されることを特徴とする請求項4に記載のトルクセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−194143(P2012−194143A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60226(P2011−60226)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)