説明

トルクセンサ

【課題】集磁リングをより確実にハウジングにかしめ固定することができるトルクセンサを提供する。
【解決手段】集磁リング71、72に導かれる磁束密度に基づいてトーションバー12に作用するトルクを検出するトルクセンサ40において、集磁リング71、72は、軸方向の端部が中央部より薄くなるように形成された環状部材であり、ハウジング20は、集磁リング71、72を収納可能に形成されるとともに、集磁リング71、72の端部の厚さよりも深くなるようにハウジング20の内周壁に凹設される環状溝24と、環状溝24に嵌め込まれた集磁リング71、72の端部に覆い被さるように集磁リング71、72をかしめ固定するとともに内周壁に設けられるかしめ部25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石から導かれる磁束密度に応じてシャフトに作用するトルクを検出するトルクセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを磁力によって検出する非接触タイプのトルクセンサが開示されている。このトルクセンサは、ハウジングに回転自在に支持される入力シャフト及び出力シャフトと、入力シャフトと出力シャフトとの間で操舵トルクを伝達するトーションバーと、入力シャフトに固定される磁気発生部と、出力シャフトに固定される回転磁気回路部と、ハウジングに固定される固定磁気回路部と、固定磁気回路部に導かれる磁束密度を検出する磁気センサと、を備える。
【0003】
トーションバーに操舵トルクが作用してトーションバーがねじれ変形すると、磁気発生部と回転磁気回路部との回転方向の相対位置が変化する。これに伴い磁気発生部から回転磁気回路部を通じて固定磁気回路部に導かれる磁束密度が変化する。磁気センサは磁束密度に応じた信号を出力する。トーションバーに作用するトルクは、磁気センサから出力された信号に基づいて検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−244134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来のトルクセンサでは、回転磁気回路部は一対の軟磁性リングを備え、固定磁気回路部は各軟磁性リングを取り囲む一対の集磁リングを備えている。集磁リングは、ハウジングに形成された環状溝に嵌め込まれる。集磁リングは、環状溝の縁部が集磁リングの軸方向端面に当接するようにハウジングの内周壁を変形させることによって、ハウジングにかしめ固定される。しかしながら、ハウジングの内周壁に形成されたかしめ部が集磁リングの端面に当接する構成では、かしめ状態によっては集磁リングが環状溝から外れることがあり、ハウジングへの集磁リングの取付性を改善する必要がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、集磁リングをより確実にハウジングにかしめ固定することができるトルクセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持される第一シャフト及び第二シャフトと、前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間でトルクを伝達するトーションバーと、前記第一シャフトに固定される磁気発生部と、前記第二シャフトに固定される回転磁気回路部と、前記回転磁気回路部と対峙するように前記ハウジングに取り付けられる集磁リングと、を備え、前記集磁リングに導かれる磁束密度に基づいて前記トーションバーに作用するトルクを検出するトルクセンサにおいて、前記集磁リングは、軸方向の端部が中央部より薄くなるように形成された環状部材であり、前記ハウジングは、前記集磁リングを収納可能に形成されるとともに、前記集磁リングの端部の厚さよりも深くなるように前記ハウジングの内周壁に凹設される環状溝と、前記環状溝に嵌め込まれた前記集磁リングの端部に覆い被さるように前記集磁リングをかしめ固定するとともに前記内周壁に設けられるかしめ部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、集磁リングの端部に覆い被さるようにかしめ部を形成したので、集磁リングが環状溝から外れることがなく、集磁リングをより確実にハウジングにかしめ固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態によるパワーステアリング装置の縦断面図である。
【図2】下部ハウジングを取り除いた状態におけるパワーステアリング装置の分解斜視図である。
【図3】(A)及び(B)は、パワーステアリング装置に設けられるトルクセンサが備える磁気発生部の斜視図及び下面図である。
【図4】トルクセンサが備える回転磁気回路部の斜視図である。
【図5】(A)はトルクセンサが備える固定磁気回路部の第一集磁リングの平面図である。(B)は第一集磁リングの正面図であり、(C)は第一集磁リングの一部縦断面図である。
【図6】(A)は第一集磁リングをかしめ固定する前の上部ハウジングの一部縦断面図であり、(B)は第一集磁リングをかしめ固定した後の上部ハウジングの一部縦断面図である。
【図7】変形例における上部ハウジングの一部縦断面図である。
【図8】他の実施形態による上部ハウジングの一部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態による車両用のパワーステアリング装置1を説明する。
【0011】
図1及び図2に示すように、パワーステアリング装置1は、ステアリングホイールに連係するステアリングシャフト10と、車輪に連係するラック軸2とを備え、ステアリングシャフト10の回転によってラック軸2を軸方向に移動させて車輪を操舵する装置である。
【0012】
ステアリングシャフト10は、ボルト21によって連結される上部ハウジング20及び下部ハウジング30によって支持される軸部材である。上部ハウジング20及び下部ハウジング30は非磁性体のアルミ合金等によって形成される。ステアリングシャフト10は、第一シャフトとしての入力シャフト11と、トーションバー12と、第二シャフトとしての出力シャフト13と、を備える。
【0013】
入力シャフト11は、転がり軸受22を介して上部ハウジング20に回転自在に支持される。入力シャフト11と上部ハウジング20との間はダストシール23によってシールされる。ダストシール23は、転がり軸受22の上方に配設されている。
【0014】
出力シャフト13は、上部ハウジング20の下端部と下部ハウジング30の上端部に挟持される転がり軸受31と、下部ハウジング30の下端部に設置される滑り軸受32とによって、回転自在に支持される。
【0015】
出力シャフト13の上端部には、入力シャフト11の下端部を収容可能な収容室13Aが形成されている。出力シャフト13の収容室13Aの内周面と、入力シャフト11の下端部の外周面との間には、滑り軸受14が介装される。これにより、入力シャフト11及び出力シャフト13は、同一軸上で相対回転可能となる。
【0016】
入力シャフト11は円筒状に形成されており、入力シャフト11の内部にはトーションバー12が同軸に収められる。トーションバー12の上端部は、ピン15を介して、入力シャフト11の上端部に連結される。
【0017】
トーションバー12の下端部は、入力シャフト11の下端開口部より下方に突出する。トーションバー12の下端部の外周面には、セレーション12Aが形成されている。トーションバー12の下端部は、セレーション12Aを介して、収容室13Aの底部に形成された係合孔13Bに連結される。
【0018】
トーションバー12は、入力シャフト11に入力される操舵トルクを出力シャフト13に伝達するとともに、そのトルクに応じて回転軸Oを中心にねじれ変形する。
【0019】
出力シャフト13は、下端寄りの外周面にギア13Cを備える。出力シャフト13のギア13Cは、ラック軸2に形成されたラックギア2Aと噛合する。入力シャフト11の回転に伴って出力シャフト13が回転することで、ラック軸2が軸方向に移動し、車輪が操舵される。
【0020】
パワーステアリング装置1は、操舵トルクを補助的に付与するアシスト機構として、トーションバー12に作用する操舵トルクを検出する非接触式のトルクセンサ40と、検出された操舵トルクに応じてラック軸2に操舵補助トルクを付与する電動モータとを有している。
【0021】
トルクセンサ40は、入力シャフト11とともに回転する磁気発生部50と、出力シャフト13とともに回転する回転磁気回路部60と、上部ハウジング20に固定される固定磁気回路部70と、固定磁気回路部70に導かれる磁束密度を検出する磁気センサ81とを備える。トルクセンサ40は、トーションバー12に作用する操舵トルクを磁気センサ81の出力に基づいて検出する。
【0022】
なお、トルクセンサ40は、出力シャフト13に磁気発生部50を設け、入力シャフト11に回転磁気回路部60を設ける構成としてもよい。
【0023】
図1、図3(A)、及び図3(B)に示すように、磁気発生部50は、入力シャフト11に圧入されるバックヨーク51と、接着剤を介してバックヨーク51の下端面に固定されるリング磁石52と、を備える。
【0024】
バックヨーク51は、軟磁性体の合金によって形成される環状部材である。バックヨーク51には、回転軸O方向に貫通する嵌合孔51Aが設けられる。バックヨーク51は、嵌合孔51Aを介して入力シャフト11の外周面に圧入される。
【0025】
リング磁石52は、焼結金属によって形成される環状部材である。リング磁石52は、ステアリングシャフト10の回転軸O方向へ向けて硬磁性体を着磁することによって形成される多極磁石である。
【0026】
リング磁石52には、12個の磁極が周方向にわたって等間隔に形成される。つまり、リング磁石52の上端面及び下端面には、6個のN極と6個のS極が周方向に交互に配設される。リング磁石52に設けられる磁極数は、12個に限られず、必要に応じて任意に設定される。
【0027】
リング磁石52は、リング磁石52の上端面に塗付された接着剤によって、バックヨーク51の下端面に固定される。バックヨーク51はリング磁石52の磁界によって磁化されるので、バックヨーク51及びリング磁石52は、接着剤の接着力だけでなく、磁力によっても結合される。バックヨーク51は、リング磁石52の隣り合う磁極を結んで磁束を導く継鉄としての機能を有しており、リング磁石52の下端面である下部磁極面に磁力を集中させる。
【0028】
図1、図2、及び図4に示すように、回転磁気回路部60は、リング磁石52から出される磁束を導く第一軟磁性リング61及び第二軟磁性リング62と、出力シャフト13に取り付けられる取付部材63と、取付部材63に第一軟磁性リング61及び第二軟磁性リング62を固定する樹脂モールド64と、を備える。なお、図4においては、樹脂モールド64の記載が省略されている。
【0029】
第一軟磁性リング61は、環状の第一磁路環部61Cと、第一磁路環部61Cから下向きに突出する6個の第一磁路柱部61Bと、各第一磁路柱部61Bの下端からそれぞれ内向きに屈折してリング磁石52の下端面に対峙する第一磁路端部61Aと、を備える。また、第二軟磁性リング62は、環状の第二磁路環部62Cと、第二磁路環部62Cから上向きに突出する6個の第二磁路柱部62Bと、各第二磁路柱部62Bの上端からそれぞれ内向きに屈折して、リング磁石52の下端面に対峙する第二磁路端部62Aと、を備える。
【0030】
第一磁路環部61C及び第二磁路環部62Cは、それぞれ全周がつながった環状部材である。第一磁路環部61C及び第二磁路環部62Cは、第一磁路端部61Aと第二磁路端部62Aとが同一面上において交互に等しい角度間隔で並ぶように、回転軸O方向に間隔をあけて配置される。
【0031】
第一磁路環部61Cはリング磁石52の上方に設けられ、第二磁路環部62Cはリング磁石52の下方に設けられる。したがって、リング磁石52は、回転軸O方向において第一磁路環部61Cと第二磁路環部62Cとの間に配置される。
【0032】
第一磁路柱部61Bと第二磁路柱部62Bは、それぞれ平板状に形成され、回転軸O方向に延設される。第一磁路柱部61Bは、所定の間隙をあけてリング磁石52の外周面を囲むように配置される。第二磁路柱部62Bは、回転軸Oに沿って第一磁路柱部61Bと反対方向に延設される。
【0033】
第一磁路端部61Aと第二磁路端部62Aは、それぞれ平板状に形成される。トーションバー12に操舵トルクが作用していない中立状態では、第一磁路端部61A及び第二磁路端部62Aの各中心線は、リング磁石52のN極とS極の境界を指すように設定されている。
【0034】
図1及び図2に示すように、固定磁気回路部70は、第一軟磁性リング61の第一磁路環部61Cの外周に沿って設けられる第一集磁リング71と、第二軟磁性リング62の第二磁路環部62Cの外周に沿って設けられる第二集磁リング72と、第一集磁リング71に接続される第一集磁ヨーク73と、第二集磁リング72に接続される第二集磁ヨーク74と、を備える。
【0035】
第一集磁リング71はスリット71Aを有する略C字状の環状部材であり、第二集磁リング72はスリット72Aを有する略C字状の環状部材である。上部ハウジング20の内周壁には、上下一対の環状溝24が凹設されている。第一集磁リング71は上側の環状溝24に嵌め込まれた状態で上部ハウジング20にかしめ固定され、第二集磁リング72は下側の環状溝24に嵌め込まれた状態で上部ハウジング20にかしめ固定される。
【0036】
第一集磁リング71及び第二集磁リング72は、回転磁気回路部60を取り囲むように配置される。第一集磁リング71の内周面は第一軟磁性リング61の第一磁路環部61Cに対峙し、第二集磁リング72の内周面は第二軟磁性リング62の第二磁路環部62Cに対峙する。
【0037】
第一集磁ヨーク73及び第二集磁ヨーク74は、ブロック状の部材である。第一集磁ヨーク73は第一集磁リング71の外周面に当接するように設けられ、第二集磁ヨーク74は第二集磁リング72の外周面に当接するように設けられる。第一集磁ヨーク73と第二集磁ヨーク74との間には、周方向に並ぶ一対の磁気ギャップが形成される。各磁気ギャップ内には、磁気センサ81が一つずつ配置される。
【0038】
第一集磁ヨーク73、第二集磁ヨーク74、磁気センサ81、及び磁気センサ81と接続する基板82は、センサホルダ83に設置される。樹脂製のセンサホルダ83は、一対のボルト84を介して、金属製の上部ハウジング20に固定される。
【0039】
磁気センサ81は、ホール素子を通過する磁束密度に応じた電圧を信号として出力する。磁気センサ81の出力信号は、センサホルダ83に設けられた端子83Aを介して、コントローラに送信される。なお、磁気センサ81には、ホール素子の信号を増幅する回路、温度補償を行う回路、又はノイズフィルタの回路等を設けてもよい。
【0040】
次に、トルクセンサ40がトーションバー12に作用する操舵トルクを検出する機能について説明する。
【0041】
トーションバー12に操舵トルクが作用しない中立状態では、第一軟磁性リング61の第一磁路端部61A及び第二軟磁性リング62の第二磁路端部62Aは、それぞれリング磁石52のN極及びS極に同一の面積で対峙して両極を磁気短絡する。そのため、磁束は回転磁気回路部60及び固定磁気回路部70に導かれない。
【0042】
ステアリングホイールが操作され、トーションバー12に特定方向の操舵トルクが作用した場合には、操舵トルクの方向に応じてトーションバー12はねじれ変形する。トーションバー12がねじれ変形すると、第一磁路端部61AはS極よりN極に大きな面積を持って対峙する一方、第二磁路端部62AはN極よりS極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石52からの磁束は回転磁気回路部60と固定磁気回路部70に導かれ、磁気センサ81は磁場の大きさ及び方向に応じた信号を出力する。
【0043】
この場合における磁気経路は、N極から第一軟磁性リング61、第一集磁リング71、第一集磁ヨーク73、磁気センサ81、第二集磁ヨーク74、第二集磁リング72、第二軟磁性リング62を経由してS極に向かう経路である。
【0044】
一方、ステアリングホイールが操作され、トーションバー12に上記とは逆方向の操舵トルクが作用した場合には、トーションバー12が逆方向にねじれ変形する。トーションバー12がねじれ変形すると、第一磁路端部61AはN極よりS極に大きな面積を持って対峙する一方、第二磁路端部62AはS極よりN極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石52からの磁束は、上記の磁気経路と逆の磁気経路にて導かれる。磁気センサ81は、磁場の強さ及び方向に応じた信号を出力する。
【0045】
この場合における磁気経路は、N極から第二軟磁性リング62、第二集磁リング72、第二集磁ヨーク74、磁気センサ81、第一集磁ヨーク73、第一集磁リング71、第一軟磁性リング61を経由してS極に向かう経路である。
【0046】
第一磁路端部61Aがリング磁石52のN極とS極に対峙する面積差、及び第二磁路端部62Aがリング磁石52のN極とS極に対峙する面積差が大きいほど、磁気ギャップの磁場は強くなる。磁気ギャップにおける磁場が強くなると、磁気センサ81の出力信号も増大する。
【0047】
トーションバー12に作用する操舵トルクは、磁気センサ81から出力された信号に基づいて検出される。
【0048】
次に、図5(A)〜図6(B)を参照して、上部ハウジング20への第一集磁リング71のかしめ固定について説明する。
【0049】
図5(A)〜図5(C)に示すように、第一集磁リング71は、軟磁性体によって形成される環状部材である。第一集磁リング71には、周方向にわたって所定隙間で開口するスリット71Aが形成される。
【0050】
第一集磁リング71は回転軸O方向の中央部71Bが内側に突出するように形成されており、上端部71C及び下端部71Dの径方向における板厚が中央部71Bの板厚よりも薄く設定されている。第一集磁リング71は、上端部71C及び下端部71Dが中央部71Bより薄くなるように形成された環状部材である。このように、第一集磁リング71の内周面は中央部分が内側に突出する凹凸面として形成されており、第一集磁リング71の外周面は平坦な面として形成されている。
【0051】
図6(A)に示すように、第一集磁リング71は上部ハウジング20の内周壁に沿って凹設された環状溝24に嵌め込まれる。第一集磁リング71が環状溝24に嵌め込まれると、第一集磁リング71のスリット71Aの開口幅は狭まり、スリット71Aに起因して生じる磁気ギャップの影響が低減される。
【0052】
上部ハウジング20の環状溝24の溝深さは、第一集磁リング71の上端部71C及び下端部71Dの板厚よりも大きく設定されている。そのため、環状溝24に第一集磁リング71が嵌め込まれた状態では、第一集磁リング71の上端部71C及び下端部71Dの内周面は上部ハウジング20の内周壁よりも環状溝24側の奥まった位置にあり、第一集磁リング71の中央部71Bの内周面は上部ハウジング20の内周壁と面一になる。第一集磁リング71の中央部71Bの内周面は、第一軟磁性リング61の第一磁路環部61Cの外周面に所定の隙間をあけて対峙する。
【0053】
図6(B)に示すように、環状溝24に嵌め込まれた第一集磁リング71は、上部ハウジング20の内周壁に形成されるかしめ部25によって、上部ハウジング20にかしめ固定される。
【0054】
かしめ部25は、環状溝24よりも下方の上部ハウジング20の内周壁に、周方向に沿って6個形成される。本実施形態ではかしめ部25を6個形成したが、かしめ部25の個数は必要に応じて任意に設定される。かしめ部25は、図6(B)の矢印の位置においてかしめ工具を上部ハウジング20の内周壁に打ち込んで、上部ハウジング20の内周壁の一部を変形させることによって、第一集磁リング71の下端部71Dに覆い被さるように形成される。
【0055】
このように第一集磁リング71は6個のかしめ部25によって上部ハウジング20にかしめ固定されるので、第一集磁リング71が環状溝24内でがたついたり回転したりすることがない。かしめ部25は第一集磁リング71の内周面の下側を係止し、第一集磁リング71の径方向への移動を規制するので、第一集磁リング71が環状溝24から外れることを防止できる。
【0056】
かしめ部25は、第一集磁リング71の薄肉の下端部71Dに覆い被さるように形成されるため、上部ハウジング20の内周壁よりも内側に突出することがない。また、かしめ固定された状態では、第一集磁リング71の中央部71Bの内周面は上部ハウジング20の内周壁と面一になる。つまり、第一集磁リング71の中央部71Bの内周面と上部ハウジング20の内周壁とは同一円筒面上に位置している。したがって、トルクセンサ40の組み立てにおいて、回転磁気回路部60が固定された出力シャフト13を上部ハウジング20内に挿入する場合に、回転磁気回路部60の構成部材と第一集磁リング71及びかしめ部25との衝突が防止される。
【0057】
なお、第一集磁リング71の中央部71Bの内周面は上部ハウジング20の内周壁と略面一に設定してもよい。つまり、トルクセンサ40の組み立てにおいて、回転磁気回路部60の構成部材と第一集磁リング71及びかしめ部25との衝突が防止されるのであれば、第一集磁リング71の中央部71Bの内周面を、上部ハウジング20の内周壁よりも僅かに高く又は低く設定することができる。
【0058】
本実施形態では、第一集磁リング71が嵌め込まれる環状溝24の下方位置にかしめ部25を形成したが、かしめ部25の形成位置はこれに限られない。例えば、図7に示すように、第一集磁リング71の下端部71Dに覆い被さるかしめ部25とは別に、第一集磁リング71の上端部71Cに覆い被さるかしめ部25を形成してもよい。この場合には、第一集磁リング71をより確実に上部ハウジング20にかしめ固定することが可能となる。
【0059】
なお、第一集磁リング71の上端部71Cに覆い被さるかしめ部25のみによって、第一集磁リング71を上部ハウジング20にかしめ固定してもよい。
【0060】
図5に示すように、第二集磁リング72も第一集磁リング71と同じ構成を有しており、上端部72C及び下端部72Dの径方向における板厚が中央部72Bの板厚よりも薄く設定されている。第二集磁リング72は、第一集磁リング71の下方において環状溝24に嵌め込まれ、第一集磁リング71の場合と同様に、上部ハウジング20の内周壁に形成されたかしめ部25によって上部ハウジング20にかしめ固定される。第二集磁リング72のかしめ固定は第一集磁リング71のかしめ固定と同じであるので、第二集磁リング72のかしめ固定についての説明は省略する。
【0061】
上記したトルクセンサ40によれば、以下の効果を得ることができる。
【0062】
第一集磁リング71及び第二集磁リング72の内周面の下部をかしめ部25によって係止することで、第一集磁リング71及び第二集磁リング72を上部ハウジング20にかしめ固定するので、第一集磁リング71及び第二集磁リング72が各環状溝24から外れることを防止できる。これにより、第一集磁リング71及び第二集磁リング72は上部ハウジング20により確実にかしめ固定される。
【0063】
また、かしめ固定された状態では、第一集磁リング71及び第二集磁リング72は、上部ハウジング20の内周壁よりも内側に突出することがない。したがって、回転磁気回路部60が固定された出力シャフト13を上部ハウジング20内に挿入する場合に、回転磁気回路部60の構成部材と第一集磁リング71及び第二集磁リング72とが干渉することを防止できる。これにより、トルクセンサ40の組み立て作業性を改善することが可能となる。
【0064】
次に図8に示す他の実施形態を説明する。図8は、上部ハウジングの一部縦断面図である。これは基本的に図1〜7の実施形態と同じ構成を有し、相違する部分のみを説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0065】
上部ハウジング20の内周壁には、環状溝24と軸方向に並んで上下のかしめ促進溝26がそれぞれ凹設される。各かしめ促進溝26にかしめ工具が打ち込まれることによって、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dに当接するかしめ部28が形成される。
【0066】
上下のかしめ促進溝26は、軸方向について環状溝24に所定の距離(例えば0.5〜1.0mm)を持って並ぶ環状に形成される。かしめ促進溝26は、その断面が矩形をしたスリット状に形成される。
【0067】
上部ハウジング20の内周壁には、かしめ促進溝26と環状溝24の間に、環状のかしめ用壁部27が残される。このかしめ用壁部27は、その断面が矩形をしたリブ状に形成される。
【0068】
第一集磁リング71の取付時に、第一集磁リング71を環状溝24に嵌め込み、かしめ工具をかしめ促進溝26に打ち込んで、かしめ用壁部27の先端部(内周端部)を第一集磁リング71に向けて倒すように曲げ変形させ、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dにそれぞれ覆い被さるフック状のかしめ部28を形成する。
【0069】
ところで、前記実施形態では、第一集磁リング71の取付時に、かしめ工具が上部ハウジング20の内周壁に打ち込まれ、上部ハウジング20の内周壁が部分的に盛り上がることによってかしめ部25が形成される。このため、かしめ部25は、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dに乗り上げる部位の肉厚を大きくすることが難しい。
【0070】
本実施形態では、上部ハウジング20の内周壁には、環状溝24と隣り合って形成される(凹設される)かしめ促進溝26と、このかしめ促進溝26と環状溝24の間に残されるかしめ用壁部27と、が形成され、かしめ促進溝26に押し付けられるかしめ工具を介してかしめ用壁部27が曲げ変形することによってかしめ部28が形成される構成とした。このため、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dに乗り上げる部位の肉厚が前記実施形態のかしめ部25に比べて大きくすることが可能となる。これにより、かしめ部28は、第一集磁リング71を保持する力が大きくなり、第一集磁リング71が上部ハウジング20に固定される強度を高められる。そして、かしめ用壁部27が変形することによってかしめ部28が形成されるため、かしめ部28の形状にバラツキが生じることを抑えられ、品質の向上がはかれる。
【0071】
かしめ部28は、周方向に沿って所定の間隔を持って複数個(例えば6個)形成される。なお、これに限らず、ローラ状のかしめ工具をかしめ促進溝26の全周に渡って押し付けることによって、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dに乗り上げるかしめ部28を環状に形成してもよい。
【0072】
また、かしめ促進溝26は、環状に形成されるものに限らず、かしめ部28の近傍に位置する複数箇所に形成される凹部としてもよい。
【0073】
また、第一集磁リング71の上端部71C、下端部71Dのそれぞれに当接する上下のかしめ部28を形成する構成に限らず、上下のかしめ部28のうちいずれか一方のみを形成して、第一集磁リング71を上部ハウジング20にかしめ固定する構成としてもよい。
【0074】
第二集磁リング72も、第一集磁リング71と同様に、かしめ固定される構成とする。
【0075】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0076】
例えば、上部ハウジング20が樹脂材料によって形成される場合には、第一集磁リング71及び第二集磁リング72は、熱溶着かしめによって形成されたかしめ部25、かしめ部28によって、上部ハウジング20に固定される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、車両のパワーステアリング装置に設けられるトルクセンサとして用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 パワーステアリング装置
11 入力シャフト
12 トーションバー
13 出力シャフト
20 上部ハウジング
24 環状溝
25 かしめ部
26 かしめ促進溝
28 かしめ部
30 下部ハウジング
40 トルクセンサ
50 磁気発生部
60 回転磁気回路部
70 固定磁気回路部
71 第一集磁リング
72 第二集磁リング
81 磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持される第一シャフト及び第二シャフトと、前記第一シャフトと前記第二シャフトとの間でトルクを伝達するトーションバーと、前記第一シャフトに固定される磁気発生部と、前記第二シャフトに固定される回転磁気回路部と、前記回転磁気回路部と対峙するように前記ハウジングに取り付けられる集磁リングと、を備え、前記集磁リングに導かれる磁束密度に基づいて前記トーションバーに作用するトルクを検出するトルクセンサにおいて、
前記集磁リングは、軸方向の端部が中央部より薄くなるように形成された環状部材であり、
前記ハウジングは、
前記集磁リングを収納可能に形成されるとともに、前記集磁リングの端部の厚さよりも深くなるように前記ハウジングの内周壁に凹設される環状溝と、
前記環状溝に嵌め込まれた前記集磁リングの端部に覆い被さるように前記集磁リングをかしめ固定するとともに前記内周壁に設けられるかしめ部と、を備えることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記集磁リングの中央部の内周面は、前記ハウジングの内周壁に対して略面一となるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記かしめ部は、前記集磁リングの少なくとも一方の端部側において、前記内周壁に沿って複数設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
前記ハウジングの内周壁には、
前記環状溝と隣り合って形成されるかしめ促進溝と、
前記かしめ促進溝と前記環状溝の間に残されるかしめ用壁部と、が形成され、
前記かしめ用壁部が変形することによって前記かしめ部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のトルクセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211887(P2012−211887A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193793(P2011−193793)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)