説明

トルクレンチ

【課題】トルクレンチが傾いた状態でねじ部に対する締め付け作業が行われても、ねじ部に作用する実際の締め付け力を正確に測定できるようにする。
【解決手段】トルクレンチ20は軸部22の先端に締め付けヘッド21を設けたものであり、締め付けヘッド21にはナット12と係合する係合部24が設けられており、この係合部24には、トルクレンチ20のナット12の軸線Aに対する傾きを検出するために、円弧状部24bに軸線A方向に3個の距離センサ25を配列して設けて、それらの距離差から傾き角検出部27でトルクレンチ20の傾きを検出して、ナット12に対する実際のトルクを検出し、予め設定されている規定トルク値をトルク補正回路30により補正して、補正規定トルク値を演算により求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ締め用の工具としての機能と、締め付けトルクを測定する機能とを有するトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ねじの締め付けを行うための工具としてはレンチが一般に用いられるが、ねじに緩みがなく、しかもねじ山等に損傷、ダメージといったものを生じさせないように、適正な締め付けを行うために、締め付けトルクを測定する機能を併せ有するトルクレンチが用いられる。そして、予め規定のトルク値を設定しておき、測定したトルクがこの設定した規定トルクに達したときに、それを作業者に認識させるように構成する。これによって、過不足のないトルクを作用させて、高精度なねじ締め作業を行うことができる。ここで、トルクレンチはハンド式、油圧式、電動式といったものが用いられるが、いずれのタイプのトルクレンチについても、同様のことが言える。
【0003】
また、ねじの締め付けを行うヘッド部の構成としては、ラチェット式、スパナ式、モンキー式等様々なものがあり、トルク測定の方式としては、歪みセンサを用いたものや、ロードセルを用いたもの等がある。
【0004】
トルクレンチとして、特許文献1に開示されているものが従来から知られている。この公知のトルクレンチは、締め付け部に起歪体を連結して設け、締め付け部により作用する締め付け力を起歪体の歪み量として検出する歪みセンサとを備え、この歪みセンサからの信号に基づいてトルクを演算し、このトルク演算部により測定したトルク値と、予め設定したトルク値とを比較し、測定トルク値が設定トルク値になると、それを表示し、またブザーやランプ等でその旨を作業者に報知する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−289535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トルクレンチにより測定されるトルク値は、その締め付け部に作用する回転時に作用するトルクであり、ねじが締め付けられる際におけるねじに作用した実際の締め付け力ではない。トルクレンチはねじ部を回転させることによって、ねじに対して軸線方向の推進力を生じさせるものであるが、締め付け力の測定を正確に行うには、トルクレンチによりねじ部を回転させた時に、ねじが軸線方向に進む力が作用し、それ以外の方向に力が及ばないようにしなければならない。このためには、トルクレンチをねじ部の軸線と直交する方向に配置する必要がある。しかしながら、特にハンド式のトルクレンチの場合に、操作力の軽減を図る等の観点から、長尺の軸部を用いることになり、ねじ部の周囲にトルクレンチの回転に対する干渉物等が存在しており、このトルクレンチをねじ部の軸線と直交する方向に延在させた状態で締め付けられない場合がある。このような状況下では、トルクレンチの規定トルク値が得られても、ねじ部が適正な状態まで締め付けられないことになる。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、トルクレンチが傾いた状態で締め付け作業が行われても、ねじ部に作用する実際の締め付け力を正確に測定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明は、ねじ部を螺回させるように係合される締め付けヘッドと、この締め付けヘッドに回転力を作用させる軸部とからなり、前記締め付けヘッドに作用するトルクを測定すると共に、前記ねじ部に実際に作用させるべき規定トルク値が設定されるトルクレンチであって、前記締め付けヘッドに装着され、前記ねじ部の外面に対向して、このねじ部の軸線方向に所定の間隔だけ離間した位置に設けられ、前記外面までの距離を測定する少なくとも2個の距離センサと、前記各距離センサからの検出信号に基づいて前記ねじ部の軸線に対する前記締め付けヘッドの傾き角度を演算する傾き角演算手段と、前記傾き角演算手段による演算結果に基づいて前記規定トルク値を補正するトルク値補正手段とを備える構成としたことをその特徴とするものである。
【0009】
トルクレンチにおける締め付けヘッドが係合するねじ部の外形は、円形等の曲面形状であっても良いが、外形が角形、特に六角形状のものが一般的である。六角形状のねじ部を締め付ける場合に、締め付けヘッドはねじ部の平行な方向に向く2つの面と係合することになる。このために、これら各面に隣接し、傾斜している2面が締め付けヘッドの内面と対面する。従って、距離センサをこれら2面に対向するように設けると、締め付けヘッドの傾きをより正確に測定できる。そして、距離センサはねじ部の軸線方向に所定の間隔だけ離間した位置、つまり締め付けヘッドの厚み方向に複数個配列する。配列される距離センサの数は最低限2個とするが、3個乃至それ以上の数設けることもできる。
【0010】
ここで、トルクレンチの傾きは、ねじ部に係合させたときに、このねじ部におけるねじの進み方向であるねじ部の軸線に」対して、前方または後方に傾倒している状態をいうものであり、傾き角はこの軸線と直交する方向に対するものである。
【0011】
トルクレンチによりねじ部に作用させる締め付け力が、このトルクレンチの傾きにより規定トルク値を補正した締め付けトルクが作用すると、その状態でトルクレンチの負荷がそれ以上ねじ部に作用しないようにする必要があり、従って作業者に報知しなければならない。この報知の方法は格別限定されないが、ブザー等の警報音とするのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
トルクレンチが傾いた状態で締め付け作業が行われても、ねじ部に作用する実際の締め付け力を正確に測定できて、ねじ部の締め付け力に過不足が生じるのを防止乃至抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ねじが締め付けられる配管接続部の一例として、ホースとパイプとの接続部を示す正面図である。
【図2】図1のホースとパイプとを分離した状態の正面図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示すトルクレンチの正面図である。
【図4】図3の右側面図である。
【図5】トルクレンチの締め付けヘッドと配管接続のためのナットとの係合部を示す要部拡大構成説明図である。
【図6】トルクレンチを傾けてねじの締め付けを行っている状態を示す作用説明図である。
【図7】図6の状態でトルクレンチを操作したときに、ねじ部に作用する力を示す説明図である。
【図8】トルクレンチの傾き検出を行っている状態を示す説明図である。
【図9】トルクレンチの傾け角と規定トルクの補正値との関係を示す線図である。
【図10】規定トルク値の補正機構の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1及び図2にトルクレンチを用いて接続される配管接続部の一構成例を示す。配管接続部は、曲げ方向に可撓性のあるホース1を所定の位置に固定的に設けた硬質のパイプ2に着脱可能に接続するものである。この配管接続のために、ホース1の先端には口金3が連結されており、パイプ2の端部は接続口部4となっている。なお、図1はホース1とパイプ2とを分離した状態が示され、図2は接続状態が示されている。
【0015】
ホース1の先端に設けた口金3は、口金本体10とナット11とから構成され、口金本体10にはナット11を締め付ける際に口金本体10が回転しないように保持するための固定用ナット部12が形成されている。ナット11は口金本体10に対して回転自在であり、しかもこの口金本体10と連結状態に保持される袋ナットである。また、パイプ2における接続口部4は、外周面にねじ溝13を形成した部位であり、この接続口部4にはロックナット14が螺合されている。
【0016】
ナット11の締め付けはトルクレンチ20を用いて行われる。トルクレンチ20は、例えば図3及び図4に示したように、締め付けヘッド21に軸部22を連設したものから構成され、軸部22の先端は握り部23となったものである。なお、トルクレンチはこれに限定されるものではない。トルクレンチ20は、ねじ締め用の工具として機能するものであり、しかも締め付けトルクを測定する機能も併せ有するものである。そして、測定された現在の締め付けトルクの値と、締め付け時に目標とする規定トルク値とが表示されるようになっており、このために軸部22にはトルク表示部23が形成されている。
【0017】
ここで、トルクレンチ20の締め付けヘッド21は、概略U字状の凹部からなる係合部24を有するものであり、この係合部24がねじ部を構成するナット11に係合することになる。ここで、ナット11の外形は概略正六角形となっており、図5に示したように、係合部24を構成する相対向する鉛直壁部24a,24aがこの六角形の相互に平行な2つの面に当接することになる。また、この平行な2つの面から一方側の頂点に向けた2つの斜辺と、他方側の頂点に向けた2つの斜辺とを有するものであるが、締め付けヘッド21をナット11に係合させたときには、一方側の組の斜辺が係合部24の内部に位置することになる。
【0018】
締め付けヘッド21の係合部24をナット11に係合させた状態で、トルクレンチ20の握り部22aを手で把持してねじ溝13の周囲に回転操作を行うと、ナット11は、それが螺合されているパイプ2の接続口部4のねじ溝13に沿って移動する結果、接続口部4の端面に口金本体10の端面が圧接される方向に向けて移動する。このナット11と接続口部4との間の相対移動の方向は軸線Aであり、トルクレンチ20を回転させることにより締め付け動作が行われる。
【0019】
以上のように、トルクレンチ20によりナット11の締め付けが行われるが、ナット11の締め付けは、ホース1側の口金3における口金本体10の端面と接続口部4の端面とを圧接させて、その間に介装されるシール部材(図示せず)を撓めるようにする。その結果、ホース1とパイプ2との間に気密が確保され、しかも外力の作用等によりホース1とパイプ2との連結部分が分離しないようにする。
【0020】
ここで、口金本体10に回転自在に設けたナット11を設けることによって、ホース1をパイプ2に連結する際には、図6に示したように、口金3の口金本体10に設けた固定用ナット部12に固定用レンチ18を係合させ、この状態でナット11にトルクレンチ20を係合させて、トルクレンチ20の軸部22を回転操作する。これによって、ホース1とパイプ2とを接続する操作時に、それらが共回りすることはない。
【0021】
トルクレンチ20によりナット11を回転させるときに生じるトルクは、このトルクレンチ20に内蔵させた歪みセンサ等により検出される。そして、ナット11に作用するトルクが所定の設定値となったときに、ねじ締め作業が終了したことになる。ここで、トルクレンチ20を軸線Aと直交する方向に配置して締め付けを行うと、ナット11に対して最大のトルクを作用させることができる。しかしながら、配管接続部の近傍に障害物Sがある等によって、図6に仮想線で示したように、トルクレンチ20を接続口部4の軸線Aと直交する方向に延在させることができず、軸線Aの前後方向に向けて角度θ分だけ傾いた状態となっていることがある。
【0022】
トルクレンチ20が傾いたままでもナット11の締め付けを行うことができる。しかしながら、ナット11の直進方向への移動が阻害されることになり、その分だけ余分な締め付け力を作用させなければ、ナット11に必要な締め付けトルクが得られない。即ち、図7に示したように、ナット11の締め付け力は、軸線Aと直交する方向F1に働いている時が最大のものとなる。ただし、トルクレンチに作用する締め付け力は、トルクレンチ20が角度θだけ傾いていると、ナット11に作用する力は斜め方向F2となって、ナット11を回転させる方向への力の伝達が阻害される。その結果、トルクレンチ20の測定トルク値としては、予め設定された規定トルクが作用しているにも拘わらず、実際の締め付け力は目標とするトルク値にΔFだけ足りないという事態が発生する。
【0023】
そこで、図8に示したように、トルクレンチ20には、予め規定トルク値Tsetを設定しておく。この規定トルク値Tsetは、トルクレンチ20が傾斜していないとき、つまりナット11の軸線Aと直交する方向に延在されている状態で締め付けを行った時における最終的に目標とする締め付け力が作用するためのトルク値である。従って、トルクレンチ20の軸線Aに対する傾きがあると、その角度θの大きさに応じて、ナット11に作用するトルクの値Trealは、規定トルク値Tsetより小さくなり、目標とする締め付け力を作用するのではなく、締め付け力が不足する状態で規定トルク値Tsetが生じたことになる。そこで、トルクレンチ20が傾いた状態で締め付けを行っている際には、規定トルク値Tsetを目標とする締め付け力を発揮させるために、補正規定トルク値Tcomを目標とするように設定する。これによって、トルクレンチ20によるねじの締め付け作業を高精度に行うことができ、締め付け力不足といった事態を生じることはない。
【0024】
従って、トルクレンチ20の傾き角を検出する。即ち、図9から明らかなように、トルクレンチ20の係合部24において、その鉛直壁部24a,24a間の部位は円弧形状部24bとなっており(図5参照)、この円弧形状部24bには、距離センサ25が装着されている。距離センサ25は、締め付けヘッド20の厚さ方向に、つまりトルクレンチ20をナット11に係合させたときの軸線Aの方向に向けて複数箇所、本実施の形態では3箇所設けたものを組として、これら距離センサ25の組は2箇所設けられている。そして、それぞれ3個の距離センサ25は締め付けヘッド21の係合部24における左右の鉛直壁部24aをナット11の相互に平行な2つの面と係合させたときに、円弧状部24bが対面する2つの斜辺に対面するようにして設けられている。
【0025】
ここで、3箇所の距離センサ25を2組設けているのは、距離測定をより正確に行うためのものである。距離測定は、例えば光学的測定手段を用いて行うことができ、この場合には、距離センサ25はナット11の表面から離間していなければならないが、ナット11の1つの頂点の部位が円弧形状部24bに当接しても、距離センサ25の配設位置はナット11の外面とは非接触状態に保持されることになる。
【0026】
このように、ナット11の軸線A方向に位置を違えて3箇所(2箇所であっても良い)の距離センサ25設けることによって、トルクレンチ20のナット11の軸線Aに対する傾きの検出を行うことができる。即ち、図8に示したように、トルクレンチ20の締め付けヘッド21に3箇所設けられている距離センサを順に符号25L,25M,25Rとしたときに、この締め付けヘッド21を含むトルクレンチ20が軸線Aに対して角度θだけ傾いていると、距離センサ25Lがナット11の表面に最も近く、次いで距離センサ25Mで、距離センサ25Rは最も遠い位置となる。そこで、これらの距離差を演算することによって、傾き角θを演算することができる。
【0027】
以上のようにして、トルクレンチ20の傾き検出が行われるが、このトルクレンチ20の傾きに応じて、規定トルク値Tsetを補正した補正規定トルク値Tcomを演算し、この補正規定トルク値Tcomを最終締め付けトルクとして設定している。規定トルク値Tsetとトルクレンチ20の傾き角θとから補正規定トルク値Tcomを演算により求めるが、このために、図10に示した規定トルク値の補正手段が設けられる。即ち、トルクレンチ20の係合部24に3個が組になった距離センサ25からの信号は、距離演算部26に入力されて、これら各距離センサ25におけるナット11の表面までの間の距離差に基づいて、傾き角検出部27によりトルクレンチ20の傾き角θを演算して、この傾き角θのデータがメモリ部28に取り込まれ、これと共にトルクレンチ20に内蔵している歪みセンサ等からなるトルク検出手段29で測定したトルク値の検出信号もメモリ部28に取り込まれる。さらに、メモリ部28には規定トルク値Tsetに関するデータも記録されている。これらの各データはトルク値補正回路30に取り込まれて、補正規定トルク値Tcomが演算される。
【0028】
今、ナット11に規定トルク値Tsetを作用させるとして、トルクレンチ20の長さをLであり、このトルクレンチ20をナット11の軸線Aに対して直交する方向としたときに、力Fを作用させると規定トルク値Tsetとなるとすれば、Tset=F×Lとなる。しかしながら、トルクレンチ20が角度θだけ傾いていると、ナット11に作用するトルクT1はF×Lcosθとなってしまう。従って、1/cosθを補正係数として乗じれば、T1=F×(Tset×1/cosθ)×Lcosθ=F×Lとなる。つまり、ナット11に作用するトルクは、トルクレンチ20が傾いた状態では、cosθ分だけ減少して小さくなるので、(1/cosθ)分だけトルクを大きくすることによって、つまり、図9において、トルクレンチ20が傾いたことによりナット11に対する締め付け方向として直接作用するトルクTrealに補正係数1/cosθを乗じたTcomとすることによって、ナット11にはTset分のトルクを作用させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ホース 2 パイプ
3 口金 4 接続口部
10 口金本体 11 ナット
20 トルクレンチ 21 締め付けヘッド
22 軸部 22a トルク表示部
24 係合部 24a 鉛直壁部
24b 円弧状部 25 距離センサ
26 距離演算部 27 傾き角検出部
28 メモリ部 29 トルク検出手段
30 トルク補正回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部を螺回させるように係合される締め付けヘッドと、この締め付けヘッドに回転力を作用させる軸部とからなり、前記締め付けヘッドに作用するトルクを測定すると共に、前記ねじ部に実際に作用させるべき規定トルク値が設定されるトルクレンチであって、
前記締め付けヘッドに装着され、前記ねじ部の外面に対向して、このねじ部の軸線方向に所定の間隔だけ離間した位置に設けられ、前記外面までの距離を測定する少なくとも2個の距離センサと、
前記各距離センサからの検出信号に基づいて前記ねじ部の軸線に対する前記締め付けヘッドの傾き角度を演算する傾き角演算手段と、
前記傾き角演算手段による演算結果に基づいて前記規定トルク値を補正するトルク値補正手段と
を備える構成としたことを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
前記締め付けヘッドが係合するねじ部は六角部を有するものであり、前記距離センサは2個または3個を組として、前記六角部の異なる面に2以上対向するように配置する構成としたことを特徴とする請求項1記載のトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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