説明

トルク工具

【課題】設定トルク値を設定する場合に、設定トルク値を視認しやすく、設定トルク値の設定を行いやすいトルク工具を提供する。
【解決手段】トルク工具は、トルクリミッタを内蔵した柄部材と、前記柄部材に対して回転可能に設けたトルク値調節部材と、前記トルク値調節部材の回転操作により回転する調節ねじと、前記調節ねじの回転により、該調節ねじ上を螺進するスライド部材と、前記スライド部材と前記トルクリミッタとの間に弾装されたトルク値調節用ばねとを備え、前記トルク値調節用ばねのばね力に応じて前記トルクリミッタの作動トルク値が設定され、設定トルク値で締結部材を締め付け可能とするトルク工具であって、前記柄部材の外表面に設けられ、前記柄部材の長手方向に沿って目盛を表示した前記設定トルク値の目盛表示部と、前記トルク値調節部材の回転により、前記目盛表示部上を直進移動して目盛を指示する目盛指標部材とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定トルク値で締付を行うトルク工具において、設定トルク値を表示する表示機構の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルト等の締結部材を締め付ける締付トルクが、予め設定した設定トルクに達すると、軽い衝撃やその衝撃によって生じるシグナル音で、締付トルクが設定トルクに達したことを知らせて、設定トルクでの締付を可能とするプリセット型のトルクレンチなどのトルク工具が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなトルクレンチは、例えば、ボルト等の締結部材に嵌合するソケットが装着されるヘッドと、中空の柄部材と、作業者が握るグリップ部などで構成され、ヘッドと柄部材が柄部材に内蔵されるトグル機構によって連結された構造となっている。
【0004】
このトグル機構は周知の機構であり、トルクレンチによる締付トルクが設定トルクに達すると作動して軽い衝撃やシグナル音を発生し、それにより作業者は締付トルクが設定トルクに達したことを認識することができる。
【0005】
このようなトグル機構を備えるトルクレンチでの設定トルク値の設定は、例えば、外周にねじが形成されたねじ部材と、そのねじ部材に螺合し、ねじ部材の回転によってトルクレンチの長手方向における前後にスライドするスライダーと、スライダーに受け止められてトグル機構を押さえつけるトルク値調節用ばねなどから構成されるトルク調整機構により行う。トルク調整機構によるトルクの設定は、ねじ部材を工具を用いて、あるいは一体的に回転するように設けられた調整つまみを回してねじ部材を回転させ、スライダーを移動させることで、トルク値調節用ばねの圧縮量を変化させる。これにより、トグル機構が作動するトルク、つまり設定トルクを調整することができる。
【0006】
このようにして調整される設定トルク値は、スライダーの位置に応じて設定トルクが変化することを利用して、スライダーに目盛を形成し、その移動する目盛と設定トルク値を指示する指示線(線や矢印など)とで表示する。すなわち、柄部材やグリップに、スライダーの目盛を確認可能な開口部を設け、その開口部付近に、一致した目盛を設定トルク値として指示する指示線を形成する。そして、調整つまみを回転させるなどしてねじ部材を回転させると、スライダーに形成された目盛が指示線に対して移動し、指示線に一致する目盛が示すトルクが設定トルク値として表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−246661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のようなトルクレンチでは、上述のようにスライダーに目盛を形成してトルクを表示するため、設定トルクを調整するために用いる部品(スライダー)をそのまま利用して、設定トルクを表示することができる。
【0009】
しかし、このような表示方式の場合、スライダーの移動量が目盛の移動量となる。従って、例えば、スライダーの移動量とトルクの変化量の関係から、目盛の間隔が非常に狭くなる場合、目盛を確認しにくくなり、設定トルク値の設定操作が難しいという問題があった。
【0010】
そこで、本願発明は、設定トルク値を設定する場合に、設定トルク値を視認しやすく、設定トルク値の設定を行いやすいトルク工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るトルク工具の第1の態様は、(1)トルクリミッタを内蔵した柄部材と、前記柄部材に対して回転可能に設けたトルク値調節部材と、前記トルク値調節部材の回転操作により回転する調節ねじと、前記調節ねじの回転により、該調節ねじ上を螺進するスライド部材と、前記スライド部材と前記トルクリミッタとの間に弾装されたトルク値調節用ばねとを備え、前記トルク値調節用ばねのばね力に応じて前記トルクリミッタの作動トルク値が設定され、前記設定トルク値で締結部材を締め付け可能とするトルク工具であって、前記柄部材の外表面に設けられ、前記柄部材の長手方向に沿って目盛を表示した前記設定トルク値の目盛表示部と、前記トルク値調節部材の回転により、前記目盛表示部上を直進移動して目盛を指示する目盛指標部材とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るトルク工具の第2の態様は、(2)上記(1)のトルク工具において、前記スライド部材と前記目盛指標部材は、前記トルク値調節部材の同じ回転量に対する移動量が異なることを特徴とする。第2の態様のトルク工具によれば、設定トルク値を確認しやすくすることができる。
【0013】
本発明に係るトルク工具の第3の態様は、(3)上記(1)又は(2)のトルク工具において、前記目盛指標部材と螺合し、前記柄部材の周囲を前記トルク値調節部材と一体的に回転する筒状の環状ねじ部材をさらに備え、前記目盛指標部材は、前記トルク値調節部材の回転により、前記環状ねじ部材に対して螺進することを特徴とする。第3の態様のトルク工具によれば、柄部材の周囲を回転するねじを利用することで、設定トルク値を表示するための機構に要するスペースを小さくすることができる。
【0014】
本発明に係るトルク工具の第4の態様は、(4)上記(3)に記載のトルク工具において、前記調節ねじと、前記環状ねじ部材のねじは、互いにリードが異なるねじであることを特徴とする。第4の態様のトルク工具によれば、目盛指標部材の移動量を、スライド部材の移動量とは異なる移動量とすることができる。
【0015】
本発明に係るトルク工具の第5の態様は、(5)上記(3)のトルク工具において、前記環状ねじ部材は、多条ねじであることを特徴とする。第5の態様のトルク工具によれば、環状ねじ部材のリードをより大きくすることができ、目盛指標部材の移動量を大きくすることができる。
【0016】
本発明に係るトルク工具の第6の態様は、(6)上記(3)から(5)のいずれか1つに記載のトルク工具において、前記調節ねじと、前記環状ねじ部材とは、互いにねじの方向が逆であることを特徴とする。第6の態様のトルク工具によれば、トルク値調節用ばねを圧縮するスライド部材の移動方向とは逆の方向に目盛指標部材を移動させることができる。
【0017】
本発明に係るトルク工具の第7の態様は、(7)上記(1)から(6)のいずれか1つに記載のトルク工具において、前記目盛指標部材は、目盛を指示するカーソル部と、該カーソル部を支持するアーム部とを備え、前記目盛指標部材は、前記アーム部によって前記柄部材の軸方向にガイドされて移動することを特徴とする。第7の態様のトルク工具によれば、目盛指標部材のカーソルが確実に目盛を指示して設定トルク値を表示することができる。
【0018】
本発明に係るトルク工具の第8の態様は、(8)上記(7)に記載のトルク工具において、前記目盛表示部は、前記柄部材に対して、前記柄部材の周方向に回転不能に固定され、前記目盛指標部材は、前記アーム部が、前記目盛表示部により前記柄部材の周方向への回転が規制されてガイドされることを特徴とする。第8の態様のトルク工具によれば、設定トルクを表示するための目盛表示部を、目盛指標部材のガイドとして利用することができ、部品点数を少なくし、省スペース化できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、設定トルク値を視認しやすく、かつ、設定トルク値の設定を行いやすいトルク工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態のトルク工具であるトルクレンチの分解斜視図である。
【図2】本実施形態のトルクレンチの断面図である。
【図3】本実施形態のトルクレンチの、図2に示す各矢印の位置における断面図である。
【図4】本実施形態のトルクレンチの設定トルク値を表示する目盛の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態によるトルク工具の一例としてのトルクレンチ1の分解斜視図であり、図1では、作業者が握るグリップ4側の部分の分解斜視図を示している。図2は、本実施形態のトルクレンチ1の軸方向における断面図であり、同じくグリップ4側の部分の断面図である。図3は、図2に示す各矢印の位置でのトルクレンチ1の断面図であり、(a)はA−A位置での断面図、(b)はB−B位置での断面図、(c)はC−C位置での断面図、(d)はD−D位置での断面図である。
【0023】
本実施形態のトルクレンチ1は、ボルト等の締結部材を締付ける締付トルクが予め設定した設定トルク値に達すると、トルクリミッタとしての周知のトグル機構が作動して、軽い衝撃や音で設定トルク値に達したことを知らせることにより、設定トルク値での締付が可能なプリセット型のトルクレンチである。トルクレンチ1は、締付部材に係合するソケットなどが取り付けられる不図示のヘッド部材と、柄部材2と、グリップ4と、設定トルク調整機構8と、後述する環状ねじ部材16や目盛指標部材としての設定トルク指標部材18などからなる設定トルク値表示機構30などを備える。なお、ヘッド部材は、図1に示す柄部材2の、調整つまみ6とは反対側の端部側に接続される。以下、これらの各構成を説明する。
【0024】
まず、柄部材2は、トルクレンチ1によりボルト等の締付部材を締め付ける際に、作業者がグリップ4を介して締め付ける力を加える中空の部材であり、内部に、設定トルク調整機構8が配置される。また、柄部材2とヘッド部材とは、従来トルクレンチに用いられている周知の機構である不図示のトグル機構により連結される。
【0025】
ここで、トグル機構は、締付けトルクが設定トルクに達すると作動するトルクリミッタの一種であり、トグル機構は、ヘッドから柄部材2側に延びる前作動体としての軸部と、柄部材2内に配置され、トルクを調節するためのトルク値調節用ばね14により前方に向けて付勢される後作動体としてのバネ受け部材と、前作動体と後作動体との間を連結する連結ピンなどから構成される。
【0026】
このようなトグル機構を備えるトルクレンチ1によりボルト等の締付部材の締付を行うと、締め付けるトルクの上昇に伴ってヘッドに作用する反力により前作動体がトルク値調節用ばね14を連結ピンを介して付勢し、連結ピンにより後作動体が後退する。さらに後作動体が後退すると、前作動体が連結ピンを介して揺動することで、前作動体と後作動体との剛体的な連結が解除される。その際に軽い衝撃やシグナル音が発生して、作業者は締付トルクが所定の設定トルク値に達したことを認識することができる。
【0027】
柄部材2は、さらに、後述する目盛表示部としての目盛部材20を固定するための溝として、柄部材2の軸方向に沿って形成される溝2aと、柄部材2の周方向に沿って形成される溝2bとを備える。溝2aは、図3(b)に示すように、柄部材2の軸を挟んで両側に形成される。
【0028】
グリップ4は、上述のように、締付部材を締め付ける際に作業者が握る部材である。また、本実施形態のグリップ4には、設定トルクを表示する目盛部材20を視認するための設定トルク表示窓4aが形成される。さらに、グリップ4には、例えば、目盛部材20の目盛の1/10のトルク値を示す副目盛を視認するための副目盛用窓4bが形成される。設定トルク表示窓4a及び副目盛用窓4bには、それぞれ透明なカバー4cと4dが取り付けられている。また、グリップ4の内部には、設定トルク値表示機構30を内蔵するためのスペースが形成されている。
【0029】
グリップ4の後端には設定トルクを調節するためのトルク値調節部材としての調整つまみ6が配置される。調整つまみ6は、トルク値調節用ばね14の圧縮量を調節するための調節ねじであるトルク調節ねじ10とスプライン結合し、トルク調節ねじ10と一体的に回転する。具体的には、調整つまみ6の径方向中心部に、柄部材2の軸方向に沿った複数の溝を有するスプライン加工がされた軸受け穴が形成され、同じくスプライン加工がなされたトルク調節ねじ10の後端部が、調整つまみ6側の軸受け穴に嵌合することで、調整つまみ6とトルク調節ねじ10は一体的に回転する。なお、調整つまみ6とトルク調節ねじの結合は、スプライン結合に限られず、一体的に回転可能な結合であればよい。例えば、互いに嵌合する多角形軸と多角形穴で結合してもよい。
【0030】
さらに、調整つまみ6は、設定トルク値表示機構30を構成する環状ねじ部材16とも結合され一体的に回転する。調整つまみ6と環状ねじ部材16との結合の方法は、同様にスプライン結合でもよいし、多角形軸と多角形穴との嵌合でもよいし、ねじや接着剤などで固定してもよい。
【0031】
さらに、調整つまみ6には、上述した副目盛6mが形成される。副目盛6mは、目盛部材20の目盛の1/10のトルク値を示す。図1においては、0.1N・mごとの数値が示されている。この副目盛20は、副目盛用窓4bから確認することができる。従って、トルクレンチ1の場合には、目盛部材20で指示されるトルク値と、副目盛6mで指示される値によって、0.1N・m単位での設定トルク値の調整が可能である。
【0032】
設定トルク調整機構8は、トルクレンチ1の設定トルクを調整する機構であり、本実施形態の設定トルク調整機構8は、柄部材2に内蔵される。設定トルク調整機構8は、調節ねじであるトルク調節ねじ10と、スライド部材12と、トルク値調節用ばね14などを備える。
【0033】
トルク調節ねじ10は、螺合するスライド部材12をトルク調節ねじ10の軸方向に移動させて、トルク値調節用ばね14の圧縮量を調節する部材である。上述のように、トルク調節ねじは調整つまみ6と一体的に回転するため、調整つまみ6を回すと、トルク調節ねじ10も回転する。トルク調節ねじ10が回転すると、螺合するスライド部材12が移動する。また、トルク調節ねじ10にはフランジ部10fが形成されている。フランジ部10fは、スライド部材12を介して受けるトルク調節用ばね14のばね力によってトルク調節ねじ10が柄部材2から抜けないように、柄部材2の内周に固定されたストッパーナット11に当接する。
【0034】
スライド部材12は、トルク値調節用ばね14を受け止めて、押さえつけるための部材である。スライド部材12は、調整つまみ6の回転によって一体的に回転するトルク調節ねじ10に螺合し、トルク調節ねじ10の回転によってトルク調節ねじ10の軸方向(柄部材2の軸方向)における前後に移動する。スライド部材12は、筒状の部材であり、内周面にねじが形成される。トルク調節ねじ10が回転し、スライド部材12がトルク値調節用ばね14側に移動すれば、トルク値調節用ばね14の圧縮量が増大し、トグル機構を押さえる力が増大し、トグル機構が作動するトルクが上昇する、つまり設定トルクが上昇する。一方、スライド部材12が後端部側(調整つまみ6側)に移動すれば、トルク値調節用ばね14は伸びて圧縮量が減少し、トグル機構を押さえる力が減少して、トグル機構が作動するトルクが減少する、つまり設定トルクが小さくなる。
【0035】
トルク値調節用ばね14は、トグル機構を押さえる力を発生させるためのバネであり、上述のとおりスライド部材12を移動させて圧縮量を変化させることで、トグル機構が作動する締付トルクが変動する。トルク値調節用ばね14は、一端がスライド部材12によって受け止められており、他端が、トグル機構の後作動体である不図示のバネ受け部材によって受け止められる。以上が、設定トルク調整機構8の構成である。
【0036】
次に、設定トルク値表示機構30の構成を説明する。設定トルク値表示機構30は、トルクレンチ1において、調整つまみ6を回して設定される設定トルク値を表示するための機構である。本実施形態の設定トルク値表示機構30は、設定トルク値を調整するための調整つまみ6を回転させることで、トルク調節ねじ10とは異なるねじである環状ねじ部材16を回転させる。そして、環状ねじ部材16の回転により、目盛を指示する設定トルク指標部材18をスライドさせて、設定トルクを指示するものである。以下、設定トルク値表示機構30を構成する環状ねじ部材16、設定トルク指標部材18及び目盛表示部としての目盛部材20について説明する。
【0037】
環状ねじ部材16は、調整つまみ6の回転を利用して、設定トルク指標部材18を移動させるためのねじ部材である。従来は、トルク調節ねじ10に螺合するスライド部材12に形成された目盛が移動して、設定トルクを表示していたが、本実施形態の場合は、スライド部材12の移動からは独立して、調整つまみ6の回転により設定トルク指標部材18が固定された目盛に対して移動する。
【0038】
環状ねじ部材16は、調整つまみ6に結合されて一体的に回転する。環状ねじ部材16の内周面にはねじが形成されており、設定トルク指標部材18のねじ部18nと螺合する。この環状ねじ部材16の内周面のねじ(及び当該ねじに螺合する設定トルク指標部材18のねじ部18nのねじ)のピッチとねじの方向によって、設定トルク指標部材18の移動量と移動方向を自由に設定することができる。
【0039】
環状ねじ部材16のピッチについては、ねじのピッチをより大きくすれば、調整つまみ6及び環状ねじ部材16を1回転させた場合の設定トルク指標部材18の移動量がより大きくなり、逆にピッチを小さくすれば、設定トルク指標部材18の移動量はより小さくなる。設定トルク指標部材18の移動量をより大きくすれば、例えば、1N・mあたりの設定トルク指標部材18の移動量が大きくなるため、目盛部材20の目盛の幅を大きくすることができ、目盛を視認しやすいトルクレンチを提供することができる。
【0040】
次に、環状ねじ部材16のねじの方向については、本実施形態のトルクレンチ1は、上述のとおり目盛を指示する部材である設定トルク指標部材18を移動させて設定トルク値を示す。そのため、ねじを切る方向によって、調整つまみ6を回して設定トルクを大きくした場合に設定トルク指標部材18が移動する方向を選択できる。例えば、本実施形態のトルクレンチ1のように、目盛部材20の目盛を、ヘッド側から調整つまみ6側に設定トルク値が大きくなる目盛とする場合は、設定トルク値の増大に伴って、設定トルク指標部材18をヘッド側から調整つまみ6側に移動させる必要がある。この場合、設定トルク指標部材18の移動方向は、スライド部材12の移動方向とは逆方向となる。従って、この場合は環状ねじ部材16のねじは、トルク調節ねじ10のねじの方向とは逆の方向となる。
【0041】
このように、設定トルク指標部材18を移動させるための環状ねじ部材16は、トルク値調節用ばね14を圧縮するためのトルク調節ねじ10と別のねじであるため、1回転した場合に設定トルク指標部材18を進ませる量(つまり、ねじのリード)を自由に設定でき、目盛の間隔や目盛の方向などを自由に設計することができる。
【0042】
設定トルク指標部材18は、上述のように設定トルクの調整に連動して、カーソル部18cが目盛部材20の目盛上を移動して設定トルクを指示する部材である。本実施形態のカーソル部18cは、目盛を指示する矢印18yが印字された透明な帯状の板で構成される。カーソル部18cを透過して目盛を見たときに、カーソル部18cの矢印18yが指示する目盛の値が設定トルク値である。
【0043】
ここで、図4には、本実施形態の設定トルク表示機構30による設定トルク値の表示例を示す。図4は、図2に示す矢印Mの方向から設定トルク表示窓4aを介して目盛部材20の目盛を見た図である。矢印Mの方向から設定トルク表示窓4aを見ると、目盛部材20の目盛表示面の手前側に透明なカーソル部18cが存在する。そして、カーソル部18cは透明な板であるため、カーソル部18cを透過して目盛を確認できる。図4では、カーソル部18cの矢印18yが15N・mの目盛を指示しており、設定トルク値が15N・mに設定されていることを示している。
【0044】
この設定トルク指標部材18は、上述のカーソル部18cの他に、環状ねじ部材16と螺合するねじ部18nと、ねじ部18nから伸びるアーム18aを備える。アーム18aは、カーソル部18cを支持する部材であり、ねじ部18nから2本、柄部材4の軸方向に延びており、一方のアーム18aの先端と他方のアーム18aの先端にカーソル部18cが目盛部材20をまたぐように配置される。また、アーム18aは、柄部材2の曲面に沿うように、ハの字型の形状である。このような形状とすることで、設定トルク指標部材18を配置するためのスペースを小さくするとともに、設定トルク指標部材18が柄部材2の外周に沿ってスムーズに移動することができる。
【0045】
目盛部材20は、設定トルクを示す目盛が印字された部材であり、調整つまみ6に形成される副目盛6mに対していわゆる主目盛である。目盛部材20は、柄部材2に形成された溝に嵌め込んで固定される。具体的には、目盛部材20は、柄部材2の溝にはめ込んで固定するために、目盛表示面から目盛表示面とは反対側にほぼ直角に曲がった鉤部が設けられる。その鉤部を柄部材2の溝aと溝bにはめ込むことで、目盛部材20は、柄部材2の軸方向及び周方向にずれなく固定される。
【0046】
目盛部材20の目盛は図4に示したとおりであり、本実施形態では最小トルク値が5N・m、最大トルク値が25N・mの目盛を例示している。このように、本実施形態のトルクレンチ1の構成によれば、調整可能な設定トルク値の最小値から最大値までのすべての目盛が表示された状態で、設定トルクを指示するカーソル部18cが移動して設定トルクを指示する。設定可能な全範囲が示された状態で、調整つまみ6を回してトルクを調整すると、カーソル部18cの動きを確認しながら設定トルクを調節できるため、設定トルク値を目的のトルク値に合わせやすい。
【0047】
また、従来のプリセット型のトルクレンチのように目盛側が動く方式の場合、表示窓から目盛の一部のみを見せて設定トルク値を表示するため、最小値と最大値は表示窓を見ただけではわからず、実際に調整つまみが止まるまで回してみるか、最小値や最大値が表示されたラベルなどを確認する必要がある。しかし、本実施形態のトルクレンチ1であれば、設定トルク表示窓4aを確認することで、設定可能な最小トルクや最大トルクを確認することができる。従って、トルクレンチ1が所望の設定トルクでの締付に使用できるか否かを容易に確認することができる。
【0048】
そして、本実施形態の目盛部材20は、上述した設定トルク指標部材18の柄部材2の周方向への回転を規制する回り止め(あるいは、設定トルク指標部材18を直進させるガイド)の機能も有する。目盛部材20は、上述のように、柄部材2の軸方向に沿って形成される2つの溝2aに嵌め込まれており、柄部材2の周方向にずれないように固定されている。そして、図1及び図3(b)に示すように、設定トルク指標部材18の、2本のアーム18aは柄部材2の周方向における目盛部材20の両側を挟むように配置される。従って、調整つまみ6の回転によって環状ねじ部材16が回転しても、設定トルク指標部材18は、どちらかのアーム18aが目盛部材20に当って回転が規制されるため、設定トルクを指示する矢印18yが印字されたカーソル部18cは必ず目盛部材20の目盛を指示することができる。換言すれば、設定トルク指標部材18は、2本のアーム18aによって目盛部材20を挟み込んでいるため、アーム18aと目盛部材20とが設定トルク指標部材18を直進させるガイドとして機能し、常にカーソル部18cが目盛部材20の目盛を指示した状態でスライドすることができる。
【0049】
一方、設定トルク指標部材18が目盛部材20によって回り止めされない場合には、調整つまみ6と一体的に回転する環状ねじ部材16の回転によって設定トルク指標部材18も回転してしまい、目盛を指示するカーソル部18cが目盛部材20の目盛表示面からずれてしまう可能性がある。カーソル部18cが目盛部材20の目盛に位置していなければ、設定トルク値を指示することができない。
【0050】
次に、以上のような構成のトルクレンチ1において、設定トルク値を設定するために調整つまみ6を回転させた場合の動作を説明する。
【0051】
まず、例えば、設定トルク値を増大させるように調整つまみ6を回転させると、調整つまみ6と一体的に、トルク調節ねじ10と環状ねじ部材16が回転する。トルク調節ねじ10が回転すると、トルク調節ねじ10に螺合するスライド部材12が、トルク値調節用ばね14側、つまりトルクレンチ1のヘッド側(前方)に移動する。そしてスライド部材12の移動と同時に、環状ねじ部材16に螺合する設定トルク指標部材18が、環状ねじ部材16の回転によって移動する。
【0052】
この際、環状ねじ部材16のねじのピッチ(リード)がトルク調節ねじ10のピッチ(リード)よりも大きければ、設定トルク指標部材18は、スライド部材12よりも、調整つまみ6の同じ回転角に対する移動量が大きくなる。一方、環状ねじ部材16のねじのピッチがトルク調節ねじ10ピッチよりも小さければ、設定トルク指標部材18の移動量はスライド部材12の移動量よりも小さくなる。
【0053】
スライド部材12がトルクレンチ1の前方に移動すると、トルク値調節用ばね14が圧縮され、トグル機構が作動する設定トルクが上昇する。一方、設定トルク指標部材18は、指示するトルク値が増大するように移動する。図4に示した目盛の場合には、トルクレンチ1の後端側がトルクがより大きくなるように表示するため、設定トルク指標部材18は、スライド部材12とは逆方向のトルクレンチの後端側に移動する。スライド部材12が移動して増大したトルクに対応するトルク値の分だけ設定トルク指標部材18は移動する。
【0054】
以上の本実施形態のトルクレンチ1によれば、目盛を固定して、設定トルクを指示する設定トルク指標部材を移動させて設定トルク値を指示することができる。よって、目盛が移動する従来の方式よりも、目盛を視認しやすく設定トルク値を設定しやすいという効果が得られる。
【0055】
また、本実施形態のトルクレンチ1によれば、トルク値調節用ばね14の伸縮を調整するスライド部材12を移動させるためのトルク調節ねじ10とは別のねじ(環状ねじ部材16)によって、設定トルク指標部材18を移動させることができるため、スライド部材12を移動させるための調整つまみ6の回転によって移動する設定トルク指標部材18の移動量を、スライド部材12とは異なる移動量とすることができる。従って、例えば、設定トルク指標部材18の移動量をより大きくすれば、目盛部材20の1目盛の幅を大きくすることができ、視認しやすい目盛とすることができる。
【0056】
また、目盛部材20の目盛の間隔を十分に大きくすることができれば、たとえば、目盛部材20の主目盛に副目盛6mで表示していた目盛も印字し、副目盛6mを省略することも可能である。
【0057】
また、本実施形態のトルクレンチ1によれば、設定トルク指標部材18を移動させるための環状ねじ部材16が、トルク調節ねじ10とは別のねじであるため、トルク調節ねじ10とは逆回転のねじとすることもできる。そうすると、調整つまみ6の回転によってスライド部材12が移動する方向とは逆の方向に設定トルク指標部材18を移動させることができる。従って、設定トルク値の表示方法の自由度が高い。
【0058】
なお、本実施形態においては、調整つまみ6及び環状ねじ部材16の1回転あたりに設定トルク指標部材18が移動する距離(リード)を変化させるために、ねじのピッチを変更するとして説明したが、これに限られるものではない。例えば、互いに螺合する環状ねじ部材16と設定トルク指標部材18のねじ部18nを、多条ねじとしてもよい。多条ねじとすることにより、調整つまみ6の1回転あたりに進む距離(リード)がピッチの条数倍になるため、移動量を自由に設定することができる。
【0059】
また、ピッチを大きくした場合、調整つまみ6及び環状ねじ部材16を回転させるのに要するトルクが大きくなる。そのため、例えば、環状ねじ部材16とねじ部18nのねじとして、回転させるためのトルクが比較的小さい、ねじ山の断面が正方形の角ねじなどを採用してもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、環状ねじ部材16の内周面にねじを形成し、設定トルク指標部材18の外周面に形成されたねじ部18nと螺合するとして説明したが、環状ねじ部材16の外周にねじを形成し、設定トルク指標部材のねじ部を内周面に形成してもよい。
【0061】
また、設定トルク指標部材18直進移動させるための構造としては実施形態に例示した構成に限られず、調整つまみ6の回転をギアなどによって伝達して調節ねじとは異なる別のねじを回転させ、その回転により設定トルク指標部材18を直進させる構成としてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、設定トルク値を表示する目盛を柄部材2に固定する目盛部材20として説明したが、これに限られるものではなく、柄部材2に直接目盛を印字したり刻印してもよい。また、目盛が表示されたシールなどを貼り付けてもよい。ただし、この場合には、設定トルク指標部材18をガイドする部材を別途設ける。
【0063】
また、本実施の形態においては、トルク工具の例としてトルクレンチについて説明したがこれに限られるものではなく、トルクドライバーなどのその他のトルク工具についても適用することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1 トルクレンチ
2 柄部材
4 グリップ
6 調整つまみ
8 設定トルク調整機構
16 環状ねじ部材
18 設定トルク指標部材
20 目盛部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクリミッタを内蔵した柄部材と、前記柄部材に対して回転可能に設けたトルク値調節部材と、前記トルク値調節部材の回転操作により回転する調節ねじと、前記調節ねじの回転により、該調節ねじ上を螺進するスライド部材と、前記スライド部材と前記トルクリミッタとの間に弾装されたトルク値調節用ばねとを備え、前記トルク値調節用ばねのばね力に応じて前記トルクリミッタの作動トルク値が設定され、前記設定トルク値で締結部材を締め付け可能とするトルク工具であって、
前記柄部材の外表面に設けられ、前記柄部材の長手方向に沿って目盛を表示した前記設定トルク値の目盛表示部と、前記トルク値調節部材の回転により、前記目盛表示部上を直進移動して目盛を指示する目盛指標部材とを有することを特徴とするトルク工具。
【請求項2】
前記スライド部材と前記目盛指標部材は、前記トルク値調節部材の同じ回転量に対する移動量が異なることを特徴とする請求項1に記載のトルク工具。
【請求項3】
前記目盛指標部材と螺合し、前記柄部材の周囲を前記トルク値調節部材と一体的に回転する筒状の環状ねじ部材をさらに備え、
前記目盛指標部材は、前記トルク値調節部材の回転により、前記環状ねじ部材に対して螺進することを特徴とする請求項1又は2に記載のトルク工具。
【請求項4】
前記調節ねじと、前記環状ねじ部材のねじは、リードが異なるねじであることを特徴とする請求項3に記載のトルク工具。
【請求項5】
前記環状ねじ部材のねじは、多条ねじであることを特徴とする請求項3に記載のトルク工具。
【請求項6】
前記調節ねじと、前記環状ねじ部材とは、ねじの方向が逆であることを特徴とする請求項3から5のいずれか1つに記載のトルク工具。
【請求項7】
前記目盛指標部材は、目盛を指示するカーソル部と、該カーソル部を支持するアーム部とを備え、
前記目盛指標部材は、前記アーム部によって前記柄部材の軸方向にガイドされて移動することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のトルク工具。
【請求項8】
前記目盛表示部は、前記柄部材に対して、前記柄部材の周方向に回転不能に固定され、
前記目盛指標部材は、前記アーム部が、前記目盛表示部により前記柄部材の周方向への回転が規制されてガイドされることを特徴とする請求項7に記載のトルク工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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