説明

トルク検出装置

【課題】入力トルクを精度良く検出する。
【解決手段】回転力とスラスト力が伝達されるデフケース2の軸部22Bと、軸部22Bに装着されたスラストカム機構30と、スラストカム機構30のカム溝53を備え周方向に複数の開口OPが形成された第1のプレートと、カム部材67を備え周方向に複数の開口OPが形成された第2プレート60と、第1プレート50と第2プレート60の回転を検出するセンサSと、第1プレート50と第2プレートの開口OPが重なる初期位置となるようにスラストカム機構30に付勢力を作用させるスプリング90とを備え、スラスト力による軸部22Bの移動によりスラストカム機構30が駆動されて第1プレート50と第2プレート60の開口OPの位置にずれを生じさせ、生じたずれに応じてセンサSから出力されるパルス幅の変化を検出して伝達されるトルク量を検出する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸と一体に回転する第1の盤体と、第1の盤体に対して相対回転可能な第2の盤体と、第1の盤体と第2の盤体とを連結する板バネと、を備えるトルク検出装置が開示されている。この装置では、回転軸にトルクが入力されたときに板バネが変形し、この板バネの変形量に応じて、第1の盤体と第2の盤体との間に位相差が発生するようになっており、この位相差に基づいてトルクが検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3051492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、トルクが入力されるたびに、入力されるトルクに応じて板バネが変形する。そのため、板バネには、入力されるトルクの大きさと、繰り返される変形に耐え得るだけの強度(耐久性)が要求される。
特許文献1の装置は、小さいトルクの検出を念頭において、小さな板バネを採用している。そのため、大きなトルクが作用する自動変速機への適用が困難であった。
【0005】
ここで、バネ定数の大きい板バネに変更して対応することも考えられるが、かかる場合には、板バネの変形量が小さくなって、第1の盤体と第2の盤体との間に生ずる位相差の検出精度が低下してしまう。
【0006】
そこで、自動変速機において入力トルクを精度良く検出できるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動歯車によって回転力と共にスラスト力が伝達される回転軸と、
上記回転軸に装着されたスラストカム機構と、
同スラストカム機構のカムとカムフォロワの何れか一方に装着され周方向に沿って所定の間隔を在して複数の開口が形成された第1のプレートと、
上記カムとカムフォロワの他方に上記第1プレートと対向するように装着され、上記第1プレートと同一開口が形成された第2プレートと、
上記各プレートの開口に対向する位置に配設され、同プレートの回転を検出するセンサと、
前記各プレートの各開口が一致する初期位置方向へ上記スラストカム機構を付勢する付勢部材と、を備え、
上記回転軸に作用するスラスト力による回転軸の移動により上記スラストカム機構が駆動されて両プレートの開口位置にずれを生じさせ、同ずれに応じて上記センサから出力されるパルス幅の変化を検出して上記回転軸に伝達されるトルク量を検出することを特徴とするトルク検出装置とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転軸に作用するスラスト力による回転軸の移動により、スラストカム機構が駆動されると、第1のプレートの開口と第2のプレートの開口とに位置ずれが生じる。そうすると、位置ずれの程度(ずれ量)に応じて、センサから出力されるパルス信号の幅が変化する。ここで、ずれ量は伝達されるトルク量に応じて変化するので、パルス幅を検出することで、伝達されるトルク量を検出できる。
また、第1のプレートの開口と第2のプレートの開口の位置ずれの発生に、バネが直接関与していないので、大きいトルクの入力にも対応できる。
さらに、従来の板バネを用いる装置の場合、大きいトルクを検出できるようにするために板バネに強度を持たせると、トルクの検出精度が悪くなるが、バネが直接関与しないようにすることで、大きいトルクを検出するために検出精度が悪くなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態にかかるトルク検出装置の概略構成図である。
【図2】図1における要部を拡大して示す拡大図である。
【図3】第1プレートを説明する図である。
【図4】第2プレートを説明する図である。
【図5】支持部材を説明する図である。
【図6】スラストカム機構の動作を説明する図である。
【図7】スラストカム機構の動作によるセンサの出力信号の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、自動変速機からのトルクをアスクルシャフトに伝達するデファレンシャル装置1に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0011】
図1に示すように、変速機ケース(図示せず)の下部に設けられたデフハウジング3では、デファレンシャル装置1のデフケース2が、ベアリング4を介して回転可能に支持されている。
デフケース2の外周にはファイナルギア(ヘリカルギヤ)8が固定されており、このファイナルギア8にトルク(回転)が入力されると、ファイナルギア8とデフケース2とが、回転軸X周りに一体に回転する。
この際、デフケース2には、ファイナルギア(ヘリカルギヤ)8に起因するスラスト力が作用して、デフケース2は回転軸Xの軸方向に変位する。
【0012】
デフケース2は、ピニオンシャフト5と、ピニオンギア6と、サイドギア7とを、内部に収納する中空状に形成されており、このデフケース2には、ベアリング4が外周に圧入される円筒状の軸部22が、左右方向(回転軸X方向)に延出して設けられている。
左右の軸部22(22A、22B)には、それぞれアスクルシャフト9が軸方向から挿入されており、アスクルシャフト9は、軸部22で回転可能に支持されている。
【0013】
デフケース2内において、アスクルシャフト9の先端部9aは、サイドギア7の貫通孔7aにスプライン嵌合しており、サイドギア7とアスクルシャフト9とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0014】
デフケース2の軸部22(22A、22B)のうちの一方の軸部22Bは、軸方向の長さが他方の軸部22Aよりも長くなっており、この軸部22Bの外周には、第1プレート50と第2プレート60と支持部材70とが外挿して設けられている。
【0015】
デフハウジング3の軸部22B側には、回転軸Xに直交する方向に延びる平面部3aが設けられており、この平面部3aには、センサSが取り付けられている。
センサSは、そのセンサ面Saを回転軸Xの軸方向から、後記する第2プレート60(羽根部65、開口OP)の側面に対向させて設けられている。
【0016】
図2は、スラストカム機構30の要部を拡大して示す断面図である。
図3は、第1プレート50を説明する図であり、(a)は、第2プレート60側から見た平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(a)におけるB−B断面図である。
【0017】
図2に示すように、実施の形態では、後記する第1プレート50の基部51と第2プレート60の基部61との対向面に、スラストカム機構30が設けられている。
スラストカム機構30は、デフケース2に入力されたトルクの大きさを、第1プレート50と第2プレート60の回転軸X周りの位相差に変換するものであり、基部51に設けられたカム溝53(カムフォロワ)と、基部61に設けられたカム部材67(カム)と、を備える。
【0018】
図3に示すように、第1プレート50は、リング状の基部51と、基部51の外周面51aから径方向外側に延びると共に、回転軸Xの軸方向から見て放射状に配置された複数の羽根部55と、羽根部55の外周を接続するリング状の枠部56と、を備える。
【0019】
基部51の中央部には、軸部22Bを挿通させる貫通穴52が、軸部22Bの外径に整合する径で形成されている。
第1プレート50は、基部51の貫通穴52に軸部22Bを挿通させた状態で、デフケース2に固定されている。そのため、図示しない変速機構部側からトルクが入力されてデフケース2が回転すると、第1プレート50とデフケース2とが一体に回転するようになっている。
【0020】
第1プレート50の中心側にある基部51では、第2プレート60側の面51b(図3の(b)参照)に、カム溝53が一体的に設けられている。カム溝53は、第2プレート60側にのみ開口しており、回転軸X周りの周方向で、所定間隔(120度間隔)で3つ設けられている。
カム溝53は、回転軸Xを中心とする仮想円Im1に沿って設けられており、平面視において、長手方向の中央側が回転軸Xから見て外側に位置するように湾曲した長穴形状を有している。
回転軸Xから見た各カム溝53の角度範囲θaは、総て同じである。
【0021】
図3の(c)に示すように、カム溝53の深さh1は、回転軸X周りの周方向で変化しており、周方向の一端53a側から他端53b側に向かうにつれて深くなっている。
【0022】
基部51の第2プレート60側の面の内径側には、貫通穴52の全周に亘って段部54が設けられている。
図2に示すように、この段部54には、スプリング90の一端90aが固定される。
【0023】
羽根部55は、基部51の外周面51aから径方向外側に延出して設けられている。
羽根部55の回転軸X周りの周方向における一方の側面55aと他方の側面55bは、それぞれ回転軸Xを通る仮想線Im2、Im3に沿って延びている。羽根部55は、回転軸Xから見て径方向外側に向かうにつれて周方向の幅Wが広がるように形成されており、回転軸Xから見た各羽根部55の角度範囲θ1は総て同じである。
実施の形態では、平面視において各羽根部55は、同一の形状で形成されている。
【0024】
羽根部55は、回転軸X周りの周方向で所定間隔で複数設けられており、回転軸Xを挟んで対称となる位置関係で、合計8枚の羽根が配置されている。
【0025】
回転軸Xから羽根部55の外周縁55cまでの距離r1は、回転軸X周りの全周に亘って同じである。
各羽根部55の外周縁25cは、平面視においてリング形状を有する枠部56により接続されている。この枠部56により、第1プレート50が回転軸X周りに回転する際に、羽根部55の外周縁55c側の振動を防止できる強度が確保されている。
【0026】
第1プレート50では、回転中心軸X周りの周方向で、羽根部55と開口OPとが交互に位置しており、各開口OPは、回転軸Xを挟んで対称となる位置関係で合計8箇所に設けられている。
平面視において各開口OPは、同一の形状で形成されており、回転軸Xからみた開口OPの角度範囲θ2は総て同じである。
【0027】
図3の(b)に示すように、基部51の回転軸Xの軸方向の厚みW1は、羽根部55および枠部56の厚みW2よりも厚くなっている。
断面視において羽根部55および枠部56は、基部51の第2プレート60側の面51bと面一となる位置に設けられている。
【0028】
図4は、第2プレート60を説明する図であり、(a)は、第1プレート50側から見た平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(a)におけるB−B断面図であって、第2プレート60を挟んで両側に位置する第1プレート50と支持部材70とを仮想線で示した図である。
【0029】
第2プレート60は、リング状の基部61と、基部61の外周面61aから径方向外側に延びると共に、回転軸Xの軸方向から見て放射状に配置された複数の羽根部65と、羽根部65の外周を接続するリング状の枠部66と、を備える。
【0030】
基部61の中央部には、軸部22Bを挿通させる貫通穴62が、軸部22Bの外径に整合する径で形成されている。
第2プレート60は、基部61の貫通穴62に軸部22Bを挿通させた状態で、軸部22Bで回転可能に支持されている。
ここで、第1プレート50は、デフケース2と一体に回転するようになっているので、デフケース2が回転する際には、第1プレート50と第2プレート60とが、回転軸X周りで相対回転するようになっている。
【0031】
さらに、第2プレート60の中心側にある基部61では、回転軸X周りの周方向で、所定間隔で3つの貫通穴63(図4の(b)参照)が設けられており、各貫通穴63には、同一径の球体からなるカム部材67が位置している。
実施の形態では、回転軸X周りの周方向で、120度間隔でカム部材67が設けられている。各カム部材67は、回転軸Xを中心とした仮想円Im1上に位置しており、第1プレート50と第2プレート60とが軸部22Bに取り付けられた状態において、第1プレート50のカム溝53に係合できるようになっている。
【0032】
図4の(c)に示すように、断面視においてカム部材67は、基部61の一方側と他方側の面から同一高さhだけ突出している。
ここで、高さhは、第1プレート50が第2プレート60側に移動して、第2プレート60を支持部材70に押しつけた状態となって、カム部材67がカム溝53の他端53bまで変位したときに、第1プレート50と第2プレート60と支持部材70との間に隙間CL、CL2が確保できる高さに設定されている。
【0033】
第2プレート60が、カム部材67を介してのみ、隣接する第1プレート50や第2プレート60に接触するようにすることで、デフケース2が回転するときに、スラストカム機構30が大きな抵抗となることを防止している。
【0034】
基部61の第1プレート50側の面の内径側には、貫通穴62の全周に亘って段部64が設けられている。
図2に示すように、この段部64には、スプリング90の他端90bが固定される。
【0035】
羽根部65は、基部61の外周面61aから径方向外側に延出して設けられている。
羽根部65の回転軸X周りの周方向における一方の側面65aと他方の側面65bは、それぞれ回転軸Xを通る仮想線Im2、Im3に沿って延びている。羽根部65は、回転軸Xから見て径方向外側に向かうにつれて周方向の幅Wが広がるように形成されており、回転軸Xから見た各羽根部65の角度範囲θ1は総て同じである。
実施の形態では、平面視において各羽根部65は、同一の形状で形成されている。
【0036】
羽根部65は、回転軸X周りの周方向で所定間隔で複数設けられており、回転軸Xを挟んで対称となる位置関係で、合計8枚の羽根が配置されている。
【0037】
回転軸Xから羽根部65の外周縁65cまでの距離r1は、回転軸X周りの全周に亘って同じである。
各羽根部65の外周縁65cは、平面視においてリング形状を有する枠部66により接続されている。この枠部66により第2プレート60が回転軸X周りに回転する際に、羽根部65の外周縁65c側の振動を防止できる強度が確保されている。
【0038】
第2プレート60では、回転中心軸X周りの周方向で、羽根部65と開口OPとが交互に位置しており、各開口OPは、回転軸Xを挟んで対称となる位置関係で合計8箇所に設けられている。
平面視において各開口OPは、同一の形状で形成されており、回転軸Xからみた開口OPの角度範囲θ2は総て同じである。
【0039】
実施の形態では、第1プレート50の外径R1および基部51の外径R2は、第2プレート60の外径R1および基部61の外径R2と同じである。さらに、第1プレート50の羽根部55と、第2プレート60の羽根部65は、同一枚数設けられており、平面視における羽根部55と羽根部65の形状も同じである。
また、第1プレート50における開口OPの数と、第2プレート60における開口OPの数は同じであり、各開口OPの平面視における形状も同じである。
そのため、第1プレート50と第2プレート60とが軸部22Bに取り付けられた状態を回転軸Xの軸方向から見ると、所定の角度位置において、第1プレート50の羽根部55と第2プレート60の羽根部65と、そして第1プレート50の開口OPと第2プレート60の開口OPとが、それぞれ位置ずれなく重なるようになっている(図6の(b)参照)。
【0040】
前記したように、第1プレート50の段部54と第2プレート60の段部64とがスプリング90により接続されている(図2参照)。
実施の形態では、このスプリング90として、ねじりバネ(トーションスプリング)を採用しており、このスプリング90は、軸部22Bに外挿された状態で、一端90aが第1プレート50の段部54に、他端90bが第2プレート60の段部64に取り付けられている(図2の(b)参照)。
そして、デフケース2に回転が入力されていない状態において、軸方向からみて、第1プレート50と第2プレート60とが、スプリング90により、羽根部55との羽根部65とがズレなく重なる角度位置(図6の(a)参照)に配置されるようになっている。
【0041】
図5は、支持部材70を説明する図であり、(a)は、第2プレート60側から見た平面図であり、(b)は、(a)におけるA―A断面図である。
支持部材70は、平面視においてリング形状の本体部71を有している。この本体部71の中央に設けられた貫通穴72は、軸部22Bの外径に整合する内径を有している。支持部材70は、貫通穴72に軸部22Bを挿通させた状態で、軸部22Bで回転可能に支持されている。
【0042】
支持部材70の第2プレート60との対向面には、平面視においてリング形状の凹溝73が設けられている。
凹溝73は、回転軸Xを中心とした仮想円Im1に沿って等幅で形成されている。
凹溝73は、断面視において、カム部材67(図4参照)の外周に整合する曲率で形成されており、第1プレート50が第2プレート60を支持部材70に押しつけた際に、第2プレート60のカム部材67が、点でなく所定幅の面(凹溝73)で支持されるようになっている。
【0043】
支持部材70において、第2プレート60とは反対側の面には、リング状のボス部74が設けられている。
図2に示すように、支持部材70が軸部22Bに取り付けられた状態において、ボス部74の先端74aは、ベアリング4のインナレース4aに軸方向から当接しており、支持部材70は、デフケース2から離れる方向への移動が、ベアリング4により規制されている。
【0044】
第1プレート50と第2プレート60と支持部材70の軸部22Bへの組付けを説明する。
図2に示すように、始めに、第1プレート50が、例えば圧入によりデフケース2の軸部22Bに取り付けて、デフケース2と一体回転可能に設けられる。続いて、スプリング90を介して第1プレート50に接続された第2プレート60が、軸部22Bに外挿されて、軸部22Bで回転可能に支持される。最後に、支持部材70が、軸部22Bに外挿されて、軸部22Bで回転可能に支持される。
このような順番で、スラストカム機構30の軸部22Bへの組付けが完了すると、ベアリング4が軸部22Bに圧入して取り付けられて、図2に示すような位置関係で、各部品が配置される。
この状態でスラストカム機構30は、軸部22Bを支持するベアリング4とデフケース2との間の軸部22Bに外挿して設けられている。
【0045】
以下、スラストカム機構30の動作を説明する。
図6は、図示しない変速機構部からデフケース2にトルク(回転)が入力された際のスラストカム機構30の動作を説明する図であり、(a)は、トルクが入力されてデフケース2が回転した際に生じるスラスト力で、第1プレート50が第2プレート60を支持部材70に押しつけた状態にある場合を説明する図であって、第2プレート60のカム部材67が第1プレート50のカム溝53と支持部材70の凹溝73とに接している位置を周方向から見た断面図である。(b)は、(a)におけるA−A断面図である。(c)は、(a)の状態よりも大きいトルクが入力されて、第1プレート50に作用するスラスト力よりも、第1プレート50を回転させる力のほうが大きくなって、第1プレート50と第2プレート60との間に位相差が発生した場合を説明する断面図である。(d)は、(b)におけるB−B断面図である。
図7は、スラストカム機構30の動作によるセンサSの出力信号の変化を説明する図である。
【0046】
図1に示すように、実施の形態では、図示しない自動変速機の変速機構部からトルクがファイナルギア8に入力されると、デフケース2は、回転軸X周りに、例えば図中矢印D1で示す方向に回転する。
そうすると、デフケース2と一体に回転するピニオンシャフト5、ピニオンギア6、サイドギア7を介して、アスクルシャフト9に回転トルクが伝達される。
【0047】
この際、デフケース2には、回転軸X回りの回転力のほかに、軸方向に向かうスラスト力が作用するので、デフケース2と一体回転可能に設けられている第1プレート50は、スラスト力に応じた力で、第2プレート60に押しつけられる。
【0048】
ここで、第1プレート50と第2プレート60は相対回転可能に設けられている。そのため、デフケース2にトルクが入力されて、第1プレート50が第2プレート60に押しつけられると、カム溝53の深さは一端53aよりも他端53bのほうが深いので、第1プレート50および第2プレート60は、カム部材67をカム溝53の他端53bに位置させる位置関係に保持される(図6の(a)参照)。
そして、入力されるトルクが小さい段階では、第1プレート50を回転させようとする力よりも、スラスト力のほうが大きいので、第1プレート50と第2プレート60は、図6の(a)、(b)に示す位置関係を保持したままで、回転することになる。
【0049】
この状態から入力されるトルクがさらに大きくなると、デフケース2(第1プレート50)を回転させようとする力(回転力)のほうがスラスト方向に移動させようとする力(スラスト力)よりも大きくなる。
そうすると、カム部材67をカム溝53の他端53bから一端53a側に向けて移動させながら、第1プレート50が第2プレート60に対して相対的に回転して、第1プレート50と第2プレート60との間に位相差を生じさせる。
【0050】
例えば、図6の(a)において矢印D1で示す方向に第1プレート50が回転する場合、第1プレート50は、第1プレート50に作用する回転力が大きくなると、カム部材67をカム溝53の他端53bから一端53a側にスラスト力に抗して移動させながら、第2プレート60に対して相対的に回転する。この際のカム部材67の移動量は、回転力の大きさに応じて決まるので、回転力の大きさに応じた位相差が、第1プレート50と第2プレート60との間に生じることになる。
【0051】
ここで、第1プレート50は、カム部材67をカム溝53の一端53aに位置させる位置関係(図6の(c)参照)まで、第2プレート60に対して相対的に回転できるようになっている。
よって、第1プレート50の羽根部55と第2プレート60の羽根部65との位置関係は、入力されるトルクが小さいときの図6の(b)に示す位置関係から、最大で、図6の(c)に示す位置関係まで変化する。
【0052】
実施の形態では、センサSのセンサ面Saが第2プレート60の羽根部65の側面に対向するように設けられている(図2、図7の(a)参照)。
そして、センサSは、センサ面の正面に羽根部65、55が位置するか否かを示すパルス信号を出力するようになっている。
具体的には、第1プレート50と第2プレート60とが図6の(a)、(b)、図7(a)に示す位置関係にある場合、センサS側から見て、第1プレート50の羽根部55と第2プレート60の羽根部65とが一致しているので、羽根部65がセンサSの正面に位置している場合にはON信号を、正面に位置していない場合、すなわち正面に開口OPが位置している場合には、OFF信号を出力する。
よって、デフケース2が回転している場合であって、入力されているトルクが小さい場合には、図7の(b)に示すような連続するON信号とOFF信号からなるパルス信号が、センサSから出力される。
【0053】
そして、入力されるトルクが大きくなって、第1プレート50をスラスト方向(第2プレート側)に移動させようとする力が大きくなると、スラスト方向に移動させようとする力の大きさに応じて、第2プレート60のカム部材67がカム溝53内の周方向に移動する。
これにより、第1プレート50と第2プレート60とが相対的に回転し、第1プレートの羽根部55が、第2プレート60の羽根部65よりも、トルクの大きさに応じて図中矢印D1(図6の(d)、図7の(c)参照)で示す方向に変位する。
そうすると、第1プレート50の羽根部55(開口OP)と第2プレート60の羽根部65(開口OP)との周方向の位置関係がずれて、センサS側から第1プレート50の羽根部55が検出可能となる。これに伴い開口OPの範囲が狭くなる。
これにより、第1プレート50と第2プレート60とが図6の(c)、(d)、図7(c)に示す位置関係にある場合、羽根部55が検出されている時間に相当する分だけ、パルス信号のオン信号の部分が長くなる(図7の(d)参照)。
【0054】
実施の形態では、自動変速機の制御装置(例えばATCU)が、単位時間あたりのパルス数に基づいて、デフケース2(アスクルシャフト9)の単位時間あたりの回転数を求めて、自動変速機を搭載した車両の車速を算出に利用する。
【0055】
さらに、センサSのパルス信号におけるオン信号の時間とオフ信号の時間との割合(パルス信号の突部a、a’と、凹部b、b’との割合)からトルクを求める。
ここで、伝達されるトルクの大きさと、オン信号の時間とオフ信号の時間との割合(第1プレート50と第2プレート60との位相差)との間には、一定の関係がある。
実施の形態では、制御装置が有する図示しない記憶手段に、実験により予め求めたトルクの大きさと位相差との関係を規定するマップデータが記憶されている。
よって、センサSのパルス信号におけるオン信号の時間とオフ信号の時間との割合が求まると、このマップデータを参照して入力されたトルクの大きさが求められるようになっている。
【0056】
以上の通り、実施の形態では、車両に装備されて変速機構部(図示せず)からのトルクが入力されるデファレンシャル装置1において、
駆動歯車によって回転力と共にスラスト力が伝達されると共に、デフケース2に一体化されアスクルシャフト9(ドライブシャフト)が貫通する中空軸である軸部22B(回転軸)と、
軸部22Bに装着されたスラストカム機構30と、
スラストカム機構30のカム溝53(カムフォロワ)を備えて構成され、回転軸X回りの周方向に沿って所定の間隔を在して複数の開口OPが形成された第1のプレートと、
カム部材67(カム)を備えて構成され、回転軸X回りの周方向に沿って所定の間隔を在して複数の開口OPが形成されると共に、当該開口OPが第1プレートの開口OPと同一形状である第2プレート60と、
第1プレート50および第2プレート60の開口OPに対向する位置に配置され、第1プレート50および第2プレート60の回転を検出するセンサSと、
第1プレート50と第2プレート60とが、軸方向から見て第1プレート50の開口OPと第2プレートの開口OPが重なる初期位置となるように、スラストカム機構30に付勢力を作用させるスプリング90と、備え、
デフケース2の軸部22Bに作用するスラスト力による軸部22Bの移動によりスラストカム機構30が駆動されて第1プレート50と第2プレート60の開口OPの位置にずれを生じさせ、生じたずれに応じてセンサSから出力されるパルス幅の変化を検出して回転軸に伝達されるトルク量を検出する構成とした。
【0057】
このように構成すると、軸部22B(回転軸)に作用するスラスト力による軸部22B(回転軸)の移動により、スラストカム機構30が駆動されると、第1プレート50の開口OPと第2プレート60の開口OPとに位置ずれが生じる。そうすると、位置ずれの程度(ずれ量)に応じて、センサSから出力されるパルス信号の幅が変化する(図7参照)。ここで、ずれ量は伝達されるトルク量に応じて変化するので、パルス幅を検出することで、伝達されるトルク量を検出できる。
また、第1プレート50の開口OPと第2プレート60の開口OPの位置ずれの発生に、バネ(スプリング90)が直接関与していないので、大きいトルクの入力にも対応できる。
さらに、従来の板バネを用いる装置の場合、大きいトルクを検出できるようにするために板バネに強度を持たせると、トルクの検出精度が悪くなるが、バネが直接関与しないようにすることで、大きいトルクを検出するために検出精度が悪くなることがない。
【0058】
スラストカム機構30は、デフハウジング3内において、軸部22Bを支持するベアリング4とデフケース2の間で、軸部22Bに装着されている構成とした。
【0059】
このように構成すると、従来のデフハウジング3内の空間をそのまま利用してスラストカム機構30を設けることができる。
【0060】
カム溝53(カムフォロワ)が第1プレート50の中心部近傍の基部51に一体的に形成され、カム部材67(カム)が第2プレート60の中心部近傍の基部61に一体的に形成され、第1プレート50および第2プレート60では、基部51、61の径方向外側に、羽根部55、65と開口OPとが設けられている構成とした。
【0061】
このように構成すると、センサSの検出対象である羽根部55、65と開口OPが径方向外側に位置することになる。ここで、回転中心軸X(軸部22B)から径方向外側に位置するほど、位置ずれの程度が大きくなるので、センサSから出力されるパルス信号の幅の変化量大きくなる。
すなわち、デフケース2の軸部22Bに作用するスラスト力による軸部22Bの軸方向の僅かな移動が、第1プレート50と第2プレート60の開口OP(羽根部55、65)の周方向の大きな位置ずれとなる。
よって、センサSから出力されるパルス幅の変化を検出して回転軸に伝達されるトルク量を検出する場合、トルクの検出精度が向上する。
【0062】
センサSは、回転軸Xの軸方向から第2プレート60の羽根部65の側面にセンサ面Saを対向させて設けられており、センサSの出力信号は、第2プレート60の羽根部65または第1プレート50の羽根部55がセンサ面Saの正面に位置するときに出力されるオン信号と、位置しないとき(開口OPが位置するとき)に出力されるオフ信号とからなるパルス信号であり、パルス信号に基づいて第1プレート50と第2プレート60の位相差を求める構成とした。
【0063】
このように構成すると、センサから出力されるパルス信号におけるオン信号とオフ信号の比率を求めるだけで位相差を簡単に求めることができ、求めた位相差から伝達されるトルク量を検出できる。
【0064】
前記した実施の形態では、デフハウジング3に設けられて出力軸(アスクルシャフト)の回転を検出する従来のセンサSをそのまま用いて位相差を求めるようにした。
これにより、位相差を求めるためにセンサを別途用意する必要がないので、部品点数の増加によるコストの上昇を防止できる。また、従来用いられているセンサなので、ユニットに対して外付けとされており、さらに配線の引き回しが複雑になることがない。
さらに、従来は、センサにより、回転のみしか検出できなかったが、トルクも検出できるようになるので、パワートレインの保護制御や有限寿命設計の実現など、強度部品の設計最適化が可能になる。
【0065】
前記した実施の形態では、第1プレート50にカム溝が、第2プレート60にカム部材が、それぞれ設けられているスラストカム機構30の場合を例示したが、第1プレート50にカム部材が、第2プレート60にカム溝が設けられているスラストカム機構としても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 デファレンシャル装置
2 デフケース
3 デフハウジング
3a 平面部
4 ベアリング
4a インナレース
22(22A、22B) 軸部
30 スラストカム機構
50 第1プレート
51 基部
52 貫通穴
53 カム溝
54 段部
55 羽根部
56 枠部
60 第2プレート
61 基部
62 貫通穴
63 貫通穴
64 段部
65 羽根部
66 枠部
67 カム部材
70 支持部材
71 本体部
72 貫通穴
73 凹溝
74 ボス部
90 スプリング
S センサ
OP 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動歯車によって回転力と共にスラスト力が伝達される回転軸と、
上記回転軸に装着されたスラストカム機構と、
同スラストカム機構のカムとカムフォロワの何れか一方に装着され周方向に沿って所定の間隔を在して複数の開口が形成された第1のプレートと、
上記カムとカムフォロワの他方に上記第1プレートと対向するように装着され、上記第1プレートと同一開口が形成された第2プレートと、
上記各プレートの開口に対向する位置に配設され、同プレートの回転を検出するセンサと、
前記各プレートの各開口が一致する初期位置方向へ上記スラストカム機構を付勢する付勢部材と、を備え、
上記回転軸に作用するスラスト力による回転軸の移動により上記スラストカム機構が駆動されて両プレートの開口位置にずれを生じさせ、同ずれに応じて上記センサから出力されるパルス幅の変化を検出して上記回転軸に伝達されるトルク量を検出することを特徴とするトルク検出装置。
【請求項2】
前記回転軸は、車両に装備されたデファレンシャル装置のケースに一体化され、ドライブシャフトが貫通する中空軸であることを特徴とする請求項1に記載のトルク検出装置。
【請求項3】
前記スラストカム機構は、上記中空軸を支持するベアリングと前記ケースの間の前記中空軸に装着されたことを特徴とする請求項2に記載のトルク検出装置。
【請求項4】
上記両プレートの何れか一方のプレートの中心部近傍に上記スラストカム機構のカムフォロワが一体的に形成され、他方のプレートの中心部近傍にカムが一体的に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のトルク検出装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−215471(P2012−215471A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81245(P2011−81245)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)