説明

トレイ案内機構

【課題】安価に量産性を確保して高品位な摺動動作を実現すると共に、ディスク駆動装置全体の奥行き寸法を小さくすることができるトレイ案内機構を提供する。
【解決手段】ディスク駆動装置1は、ディスク2を載せるトレイ10と、トレイ10を支持する筐体20と、トレイ10を筐体20に対しその奥行き方向Dに摺動させる左右一対のローラ式案内ガイド30とを有する。ローラ式案内ガイド30は、筐体20とトレイ10との間の奥行き方向Dに沿った所定形状の隙間に嵌合可能な直径を有する樹脂製ローラー31と、ローラー31をその軸回りに回転自在に支持する硬質シート材からなるローラー支持体32とを備える。ローラー32は、その軸方向が奥行き方向Dに直交又は略直交する状態で前記隙間にローラー支持体32と共に嵌め込まれる。ローラー支持体32に支持されたローラー31を介して、筐体20に対するトレイ10の摺動動作が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレイ案内機構に係り、とくにディスクを載せるトレイをその筐体に対しその奥行き方向に沿って円滑に摺動させるトレイ案内機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレイ上に載せた光ディスク等のディスクを駆動するディスク駆動装置には、トレイ上のディスクを筐体内へ搬入及び排出する際のトレイ案内機構として、トレイをその筐体に対しその奥行き方向に沿って円滑に動かす、即ち摺動させるためのトレイ摺動構造が設けられている。この例を図4及び図5に示す(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4及び図5に示すディスク駆動装置100は、ディスク110が所定位置に配置される矩形状のトレイ120と、このトレイ120を支える筐体130とを有する一般的なものである。筐体130内には、特に図示していないが、ディスク110の回転駆動機構(スピンドルモーター等)やそのピックアップ(再生ヘッド等)を含む各種構成ユニット・部品類が搭載されている。
【0004】
上記構成のディスク駆動装置100において、トレイ120を筐体130に対しその奥行き方向Dに沿って摺動させるトレイ案内機構(トレイ摺動構造)が設けられる。即ち、トレイ120側には、2つの側面外側に、所定高さの段部(凹凸部)からなる案内ガイド(上下規制用)121、121が、また底面の両端部に、所定高さの案内ガイド溝(左右規制用)122、122が、それぞれ奥行き方向に沿って形成されている。これに対し、筐体130側には、2つの側面内側に、トレイ側案内ガイド121、121の段部と対を成す所定高さの段部(凹凸部)からなる案内ガイド(上下規制用)131、131が、また底面の両端部に、トレイ120の案内ガイド溝122、122内にはめ込み可能な凸部からなる案内ガイド(左右規制用)132、132が、それぞれ形成されている。
【0005】
これによれば、図5に示すように、トレイ120を筐体130に対しその奥行き方向Dに沿って摺動動作させるときに、トレイ側案内溝122、122及び筐体側案内ガイド132、132により、筐体130に対するトレイ120の左右方向のガタ(左右ガタ)を抑えると共に、トレイ側案内ガイド121、121及び筐体側案内ガイド131、131間の機械的な寸法公差を用いて、筐体130に対するトレイ120の上下方向のガタ(上下ガタ)を抑制するようになっている。
【0006】
また、トレイの摺動動作時の上下左右方向のガタを小さくする方法として、筐体上、あるいはトレイ上に一本の金属シャフトを案内ガイドとして設けたものも知られている。この例を図6に示す。図6に示すディスク駆動装置200のトレイ案内機構は、ディスク210を載せるトレイ220側に一本の金属シャフト221を固定し、筐体230側にその金属シャフト221を挿通可能な円筒状の案内ガイド231を取り付け、案内ガイド231内に沿って金属シャフト221を案内することにより、トレイ220を筐体230に対しその奥行き方向Dに沿って摺動動作させるものである。これによれば、案内ガイド231及び金属シャフト221を用いることで機械的な寸法公差を制御しやすくして、そのガタを小さくすることが可能となっている。
【0007】
なお、ディスク駆動装置以外の分野では、一般的な摺動のための案内機構として、顕微鏡の被測定物を設置する摺動台をガタなく精密にスライドさせるものや、製造産業分野の搬送台などに用いるクロスローラー式ベアリング等も知られている。
【特許文献1】特開平10−134466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術では、トレイの摺動動作の軽重及びガタは、それらを構成する部材の寸法公差に負うところが大きく、特に量産性や安価に構成するために成形品を多用する民生機器においては、産業用機器のような高価な案内機構と比べると、寸法公差のバラツキや温度変化による公差変化によって一定のガタが生じ、その品位を損なうことがあり、その対策が望まれている。
【0009】
また、前述した図5に示すように、ディスクを取り出すときのトレイの開放状態では、案内機構の嵌合スパンの寸法SP(図5参照)によって、上下左右方向のガタの大きさが決まる。この嵌合スパンの寸法SPを短くすれば、トレイ収納時のディスク駆動装置全体の奥行き寸法を小さくできる。
【0010】
しかしながら、トレイと筐体との互いの凹凸形状を用いた案内機構(図4及び図5参照)や、シャフトを用いた案内機構(図6参照)では、嵌合のガタを有していることからトレイ解放状態においてトレイの上下左右方向のガタが必ず発生する。このため、寸法SPをあまり短くすると、この上下左右方向のガタが極端に大きくなってしまうので、寸法SPの選定には制約があり、ディスク駆動装置全体の奥行き寸法を小さくすることが困難となっている。
【0011】
そこで、本発明は、産業用機器のような高価な案内機構と同等の性能を有し、かつ、安価に量産性を確保して高品位な摺動動作を実現すると共に、装置全体の奥行き寸法を小さくすることができるトレイ案内機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明に係るトレイ案内機構は、ディスクを載せるトレイ及びそのトレイを支える筐体を有するディスク駆動装置で用いられ、且つ、前記トレイを前記筐体に対してその奥行き方向に沿って摺動させるトレイ案内機構において、前記筐体と前記トレイとに形成され、両者間の前記奥行き方向の隙間を所定の形状とするガイド部と、前記隙間に対して強嵌合となる直径を有するローラーと、前記ローラーをその軸の回りに回転自在に支持するローラー支持体と、を備えると共に、前記ローラー及び前記ローラー支持体が、前記隙間に、前記軸の方向を前記奥行き方向に対して直交又は略直交する方向とするように嵌め込まれ、前記トレイの前記摺動動作は、前記ローラーを介してその回転動作により行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、ローラー及びそのローラー支持体を用いてトレイ案内機構を構築し、ローラー支持体に支持されたローラーを介してトレイの摺動動作を行うようにしたため、トレイ案内機構の構成部材による寸法公差のバラツキや温度変化による公差変化によって一定のガタが生じるという事態も殆ど解消され、これにより上下左右方向のガタを排除して軽摺動でトレイを摺動動作させることができ、産業用機器のような高価な案内機構と同等の性能を有し、かつ、安価に量産性を確保して高品位な摺動動作を実現することができる。また、トレイ案内機構の嵌合スパンを短くすることができるため、ディスク駆動装置全体の奥行き寸法を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るトレイ用案内機構及びこれを用いたディスク駆動装置を実施するための最良の形態について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本実施例のトレイ用案内機構を用いたディスク駆動装置1の全体構成を示す。図1に示すディスク駆動装置1は、トレイ10上に載せたディスク2を筐体20内の収納位置で安全かつ確実にディスク回転駆動機構(図示しない)へ装着及び離脱させると共に、ユーザーによりトレイ10の挿入及び排出を簡便に行えるものである。ここで、ディスク2には、例えばCD、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RW、DVD−RAM等の光ディスクが例示される。筐体20内には、特に図示していないが、ディスク2の回転駆動機構(スピンドルモーター等)やそのピックアップ(再生ヘッド等)を含む各種構成ユニット・部品類が搭載されている。
【0016】
上記構成のディスク駆動装置1において、トレイ10を筐体20に対しその奥行き方向(摺動方向)Dに沿って摺動させるトレイ案内機構として、ローラー式案内ガイド30が採用されている。
【0017】
図2は、ローラー式案内ガイド30の詳細を説明する斜視図、図3は、トレイ10及び筐体20間の隙間でのローラー式案内ガイド30の嵌合状態を示す断面図である。
【0018】
図2及び図3に示すローラー式案内ガイド30は、左右一対で使用されるもので、4つの円筒状のローラー31…31と、これら各ローラー31…31をその軸回りに回転可能に支持するローラー支持体32とで構成される。
【0019】
ローラー31は、図2に示すように、樹脂材料で構成され、トレイ10の凸部11と筐体20の溝部21との間の奥行き方向Dに沿った隙間G(図3参照)に、強嵌合で嵌合可能な外径(直径)Rを有する。
【0020】
ここで、隙間Gを成すトレイ10側の凸部11は、図1に示すように、トレイ10の幅方向の両側面の外側にその奥行き方向Dに沿ってそれぞれ形成され、トレイ10の高さ方向の中心部に位置する頂部と、その頂部から両端側に位置する底部にわたって所定角度で断面テーパ状に傾斜した両側斜面とで構成される。また、隙間Gを成す筐体20側の溝部21は、図1に示すように、筐体20の幅方向の両側面の内側にその奥行き方向Dに沿ってそれぞれ形成され、筐体20の高さ方向の中心部に位置する底部と、その底部から両端側に位置する開口縁部(肩部)にわたって所定角度で断面テーパ状に傾斜した両側斜面とで構成される。従って、トレイ10側の凸部11と筐体20側の溝部21とが成す隙間Gは、凸部11の頂部及びその両側斜面と、溝部21の底部及びその両側斜面とに挟まれた空間に位置しており、その奥行き方向に直交する断面形状は、V字を右回り又は左回りに90度回転させてなる左右の山カッコ(「<」又は「>」)のいずれかに対応したものとなっている(図3参照)。
【0021】
ローラー支持体32は、図2に示すように、ローラー31の外径Rよりも小さい厚さTを有する板状部材からなる。この板状部材は、例えば硬質シート材で構成される。ローラー支持体32は、例えば矩形状本体の長手方向に沿った中心線を中心に所定角度、即ち上記隙間Gの断面形状に沿った角度で、折り曲げてなる2つの斜面を有し、この両斜面のそれぞれの長手方向の両端部に、ローラー31の軸方向に平行な断面形状より大きい矩形状の開口32a…32aが形成されている。即ち、ローラー支持体32には、4つの開口32a…32aが設けられている。各開口32a内には、ローラー31の両端側からその中空軸内に嵌め込んでそのローラー31を軸回りに回転自在に支持する一対の開口内凸部32b、32bが、ローラー31の軸方向に沿って互いに対向する状態で内向きに凸設されている。
【0022】
このように、ローラー式案内ガイド30は、樹脂製のローラー31及び硬質シート材からなるローラー支持体32を用いて構成することができるため、特殊な部材を必要とせず、量産性を確保して低価格に構成することが可能である。
【0023】
ここで、本実施例のローラー式案内ガイド30の組み立て及び取り付け方法とその摺動動作について説明する。
【0024】
まず、上記の樹脂製のローラー31…31及び硬質シート材からなるローラー支持体32を用いて左右一対のローラー式案内ガイド30を組み立てる。この組み立て作業では、4つのローラー31…31をローラー支持体32の4つの開口32a…32a内に嵌め込み、各開口32a…32a内でその一対の開口内凸部32b、32bにより回転可能に支持させる。
【0025】
次いで、組み立てた左右一対のローラー式案内ガイド30を、トレイ10及び筐体20間のトレイ案内機構として、トレイ10側の凸部11及び筐体20側の溝部21間の隙間G内に取り付ける。この取り付け作業では、ローラー31を、その軸方向が隙間Gの奥行き方向Dと互いに直交又は略直交する状態で、その隙間Gにローラー支持体32と共に嵌め込む。嵌め込まれたローラ式案内ガイド30は、図示しない摺動方向の移動範囲規制手段により隙間Gから摺動方向に抜け落ちないようにされている。
【0026】
これにより、筐体20に対するトレイ10の摺動動作は、トレイ案内機構として取り付けた左右一対のローラー式案内ガイド30、即ちローラー支持体32により支持されたローラー31を介してその回転動作と共に行われることになる。このとき、ローラー式案内ガイド30は、筐体20に対するトレイ10の案内ガイド機能を実現するために一定の与圧を必要とするが、この与圧は隙間G内での嵌合を寸法公差的に強嵌合とすることで与えられると共に、軸のないローラー31を用いているため、その与圧によって摺動の軽重が左右されない。
【0027】
従って、本実施例によれば、トレイ案内機構として、上記のような特徴をもつローラー式案内ガイド30を採用したため、従来例のようにトレイ案内機構の構成部材による寸法公差のバラツキや温度変化による公差変化によって一定のガタが生じるという事態も殆ど解消され、その結果、上下左右方向のガタを排除して軽摺動でトレイ10を摺動動作させることができ、これにより高品位かつ堅牢さを有するトレイ案内機構を簡便な構成で安価に実現できる。
【0028】
また、本実施例によれば、トレイ案内機構として左右一対のローラー式案内ガイド30を用いることにより、嵌合のガタがないので、トレイ解放状態においてトレイの上下左右方向のガタも生じない。従って、案内機構の嵌合スパンの寸法SP(前述の図5参照)を短くすることができるため、ディスク駆動装置1全体の奥行き寸法を小さくすることができる。
【0029】
なお、上記実施例では、ローラー支持体32及びその開口32aの形状を矩形状に形成しているが、本発明は必ずしもこれに限らず、ローラー31を支持可能であれば、いずれの形状でも適用可能である。また、ローラー31の数量は4つの場合を例示しているが、本発明は必ずしもこれに限らず、トレイ10の摺動動作が可能であれば、いずれの数量でもよい。さらに、トレイ10の凸部11と筐体20の溝部21との間の隙間Gの断面形状は、上記実施例で説明したものに限らず、ローラー式案内ガイド30を嵌め合い交差で嵌合可能なものであれば、いずれの断面形状でも適用可能である。
【産業上の利用分野】
【0030】
以上のように、本発明は、トレイ上のディスクを駆動するディスク駆動装置及びそのトレイ案内機構等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例に係るトレイ案内機構を用いたディスク駆動装置を示す斜視図である。
【図2】ローラー式案内ガイドの詳細を説明する斜視図である。
【図3】ローラー式案内ガイドの嵌合状態を示す断面図である。
【図4】従来例のディスク駆動装置を示す斜視図である。
【図5】図4に示すディスク駆動装置の摺動動作時の上下左右方向のガタを説明する斜視図である。
【図6】他の従来例のディスク駆動装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ディスク駆動装置
2 ディスク
10 トレイ
11 凸部
20 筐体
21 溝部
30 ローラー式案内ガイド
31 ローラー
32 ローラー支持体
32a 開口
32b 開口内凸部
100 ディスク駆動装置
110 ディスク
120 トレイ
121 トレイ側案内ガイド(上下規制用)
122 トレイ側案内ガイド溝(左右規制用)
130 筐体
131 筐体側案内ガイド(上下規制用)
132 筐体側案内ガイド(左右規制用)
200 ディスク駆動装置
210 ディスク
220 トレイ
221 金属シャフト
230 筐体
231 案内ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを載せるトレイ及びそのトレイを支える筐体を有するディスク駆動装置で用いられ、且つ、前記トレイを前記筐体に対してその奥行き方向に沿って摺動させるトレイ案内機構において、
前記筐体と前記トレイとに形成され、両者間の前記奥行き方向の隙間を所定の形状とするガイド部と、
前記隙間に対して強嵌合となる直径を有するローラーと、
前記ローラーをその軸の回りに回転自在に支持するローラー支持体と、を備えると共に、
前記ローラー及び前記ローラー支持体が、前記隙間に、前記軸の方向を前記奥行き方向に対して直交又は略直交する方向とするように嵌め込まれ、
前記トレイの前記摺動動作は、前記ローラーを介してその回転動作により行われることを特徴とするトレイ案内機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−40418(P2006−40418A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219589(P2004−219589)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】