説明

トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】良好な耐摩耗性、ウェットスキッド性能、低燃費性、操縦安定性が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制できるトレッド用ゴム組成物、及び該トレッド用ゴム組成物をタイヤのトレッドに用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分、芳香族ビニル重合体、硫黄及び下記式(I)で表される化合物を含有し、前記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、前記ゴム成分100質量部に対して、前記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物に関する。
[化1]


(式(I)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、窒素原子を含む1価の有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤに要求される性能が高くなってきており、トレッド部の耐摩耗性やウェットスキッド性能の向上が要求されている。これらの性能を満足させる方法として、カーボンブラックを微粒子化し、耐摩耗性を向上させる方法が知られているが、タイヤの使用末期にはゴムの硬度が高くなり、ウェットスキッド性能が低下するという問題があった。
【0003】
また、特許文献1には、シリカを配合し、転がり抵抗、耐摩耗性を悪化させることなく、ウェットスキッド性能を向上できるタイヤ用ゴム組成物が開示されている。しかし、これらの性能をバランスよく改善する点については、未だ改善の余地がある。また、上述のカーボンブラックの場合と同様に、タイヤの使用末期にはゴムの硬度が高くなり、ウェットスキッド性能が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−31244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、良好な耐摩耗性、ウェットスキッド性能、低燃費性、操縦安定性が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制できるトレッド用ゴム組成物、及び該トレッド用ゴム組成物をタイヤのトレッドに用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴム成分、芳香族ビニル重合体、硫黄及び下記式(I)で表される化合物を含有し、上記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物に関する。
【化1】

(式(I)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、窒素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0007】
上記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン若しくはスチレンの単独重合体又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体であることが好ましい。
【0008】
上記トレッド用ゴム組成物は、更に、シリカを含有することが好ましい。
【0009】
上記硫黄、上記式(I)で表される化合物の含有量が下記式を満たすことが好ましい。
硫黄の含有量<式(I)で表される化合物の含有量
【0010】
上記ゴム成分100質量部に対して、上記硫黄の含有量が0.1〜2質量部、上記式(I)で表される化合物の含有量が0.1〜2質量部であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム成分、特定量の芳香族ビニル重合体、硫黄及び上記式(I)で表される化合物を含有し、上記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であるトレッド用ゴム組成物であるので、良好な耐摩耗性、ウェットスキッド性能、低燃費性、操縦安定性(特に、耐摩耗性、ウェットスキッド性能)が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制でき、該ゴム組成物をタイヤのトレッドに使用することにより、上記性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分、特定量の芳香族ビニル重合体、硫黄及び上記式(I)で表される化合物を含有し、上記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂である。
上記芳香族ビニル重合体を配合することにより、良好なウェットスキッド性能、操縦安定性、耐摩耗性が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制でき、長期にわたりこれらの性能を高い次元で維持できる。
また、上記式(I)で表される化合物を配合することにより、結合エネルギーが高く、熱安定性が高いCC結合をゴム組成物に保有させることができるため、良好な操縦安定性、耐摩耗性が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制でき、長期にわたりこれらの性能を高い次元で維持できる。
ゴム成分と共に、上記芳香族ビニル重合体、硫黄及び上記式(I)で表される化合物を併用することにより、上記性能を相乗的に向上できる。特に、上記式(I)で表される化合物を配合することにより、ウェットスキッド性能が低下してしまうが、上記併用により、上記式(I)で表される化合物を配合せずにゴム成分、硫黄と共に芳香族ビニル重合体を配合した場合よりも優れたウェットスキッド性能が得られる。
【0014】
本発明で使用できるゴム成分としては、特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、イソプレンブタジエンゴム等のジエン系ゴムが挙げられる。ジエン系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性、ウェットスキッド性能、低燃費性、操縦安定性を高度に両立できるという理由から、SBR、BRが好ましく、SBRとBRを併用することがより好ましい。
【0015】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0016】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%未満の場合、ウェットスキッド性能が悪化する傾向がある。また、SBRのスチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。なお、SBRのスチレン含有量は、H−NMR測定によって算出される。
【0017】
本発明のゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。50質量%未満であると、充分なウェットスキッド性能が得られないおそれがある。該SBRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、充分な耐摩耗性、低燃費性が得られないおそれがある。また、シリカを配合する場合、シリカが分散しにくくなり、ウェットスキッド性能と耐摩耗性のバランスが悪化する傾向がある。
【0018】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、良好な耐摩耗性が得られるという理由から、シス含有量が95質量%以上のBRが好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。50質量%を超えると、充分なウェットスキッド性能、耐カット性が得られないおそれがある。
【0020】
本発明のゴム組成物は、特定の芳香族ビニル重合体、即ち、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂を含有する。なお、上記芳香族ビニル重合体は、ゴム成分には含まれない。
【0021】
上記芳香族ビニル重合体では、芳香族ビニル単量体(単位)として、スチレン、α−メチルスチレンが使用され、それぞれの単量体の単独重合体、両単量体の共重合体のいずれでもよい。上記芳香族ビニル重合体としては、経済的で、加工しやすく、ウェットスキッド性能に優れていることから、α−メチルスチレン若しくはスチレンの単独重合体又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。
【0022】
上記芳香族ビニル重合体としては、たとえばArizona chemical社製のSYLVARES SA85、SA100、SA120、SA140、eastman chemical社のR2336などの市販品を好適に用いることができる。
【0023】
上記芳香族ビニル重合体の軟化点(Softening Point)は、好ましくは100℃以下、より好ましくは92℃以下、更に好ましくは88℃以下であり、また、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは75℃以上である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K 6220に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0024】
上記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは800以上であり、また、好ましくは10000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めたものである。
【0025】
上記芳香族ビニル重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。5質量部未満であると、上記芳香族ビニル重合体の添加による効果が充分に得られないおそれがある。また、上記芳香族ビニル重合体の含有量は、100質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。100質量部を超えると、耐摩耗性、操縦安定性、低燃費性が悪化する傾向がある。
上記芳香族ビニル重合体量を上記好ましい範囲内で増量すると、優れた低燃費性、ウェットスキッド性能が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴うウェットスキッド性能の低下を抑制できる。
【0026】
本発明のゴム組成物は、硫黄を含有する。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
【0027】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。0.1質量部未満であると、加硫速度が遅くなり、生産性が悪化するおそれがある。硫黄の含有量は、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは0.7質量部以下である。2質量部を超えると、耐熱老化性が低下するおそれがある。
【0028】
本発明のゴム組成物は、下記式(I)で表される化合物を含有する。
【化2】

(式(I)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、窒素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0029】
Aのアルキレン基(炭素数2〜10)としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のものがあげられるが、なかでも、直鎖状のアルキレン基が好ましい。炭素数は4〜8が好ましい。アルキレン基の炭素数が1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、炭素数が11以上では、−S−S−A−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0030】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−A−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0031】
及びRとしては、窒素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から同一であることが好ましい。
【0032】
式(1)で表される化合物としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0033】
上記式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは1.2質量部以上である。0.1質量部未満であると、式(1)で表される化合物の添加による効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.8質量部以下である。2質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、耐摩耗性が悪化するおそれがある。また、破壊特性が悪化する傾向がある。
上記式(1)で表される化合物量を上記好ましい範囲内で増量すると、優れた低燃費性、操縦安定性、耐摩耗性が得られる。
【0034】
硫黄、上記式(I)で表される化合物の含有量が下記式を満たすことが好ましい。これにより、本発明の効果が好適に得られ、特に、優れた耐摩耗性が得られ、更に、タイヤ使用に伴う耐摩耗性の低下を好適に抑制できる。
硫黄の含有量<上記式(I)で表される化合物の含有量
【0035】
硫黄、上記式(I)で表される化合物の含有量の質量比(硫黄の含有量(質量部)/上記式(I)で表される化合物の含有量(質量部))は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上である。また、該質量比は、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.5以下である。
該質量比が上記範囲内であると、本発明の効果が好適に得られる。
【0036】
本発明のゴム組成物は、シリカを含有することが好ましい。シリカを配合することにより、ウェットスキッド性能、耐摩耗性、低燃費性が向上する。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0037】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましく、150m/g以上が更に好ましい。50m/g未満では、補強性が低く、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られないおそれがある。また、シリカのNSAは、500m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。500m/gを超えると、ゴムへの分散が困難となり、分散不良を起こし、耐摩耗性、ゴム強度、低燃費性が低下するおそれがある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0038】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは70質量部以上である。20質量部未満であると、充分な低燃費性、ウェットスキッド性能、耐摩耗性が得られないおそれがある。また、充分なゴムの強度が得られず、耐摩耗性が低下するおそれがある。上記シリカの含有量は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。120質量部を超えると、硬度が過度に増大し、ウェットスキッド性能が低下するおそれがある。また、シリカの分散が不均一となり、耐摩耗性、ゴム強度が低下するおそれがある。
シリカ量を上記好ましい範囲内で増量すると、優れたウェットスキッド性能、耐摩耗性が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制でき、長期にわたりこれらの性能を高い次元で維持できる。
【0039】
本発明では、シランカップリング剤が使用される。シランカップリング剤を配合することにより、ゴムとシリカの結合が生じ、耐摩耗性、ゴム強度、ウェットスキッド性能、低燃費性が向上する。本発明で使用されるシランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。
【0040】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部未満では、カップリング効果が不充分であり、ウェットスキッド性能が充分に得られないだけでなく、耐摩耗性も低下するおそれがある。また、シランカップリング剤の含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が20質量部をこえると、硬度が過度に増大し、ウェットスキッド性能が低下するおそれがある。
【0041】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、クレー等の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを配合することが好ましい。これにより、良好な耐摩耗性、ゴム強度が得られる。カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。50m/g未満では、充分な補強性が得られず、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られない傾向がある。カーボンブラックのNSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下である。200m/gを超えると、カーボンブラックが分散しにくくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定される値である。
【0044】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満の場合、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られないおそれがある。カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。50質量部を超えると、ゴムが硬くなり過ぎ、ウェットスキッド性能が低下する傾向があり、また、カーボンブラックが分散しにくくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0045】
本発明で使用できる加硫促進剤としては、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)等が挙げられる。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、TBBSが好ましく、TBBSとDPGを併用することが好ましい。
【0046】
本発明のゴム組成物は、オイルを配合してもよい。オイルを配合することにより、加工性を改善するとともに、ウェットスキッド性能を高めることができる。オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。
ただし、オイルを配合すると、タイヤの使用に伴いゴムが劣化して硬度が上昇し、性能が低下する傾向があるため、オイルを配合することにより得られるウェットスキッド性能の向上効果と、オイルを配合することにより被る耐熱老化性の低下との兼ね合いから、オイルの含有量は、5〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0047】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどの混練機を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0048】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0049】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0050】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:JSR(株)製のSBR1502(E−SBR、スチレン含有量:23.5質量%)
BR:宇部興産(株)製のBR130B(シス含有量:97質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(NSA:114m/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
アロマオイル:(株)JOMO製のX140
芳香族ビニル重合体:Arizona chemical社製のSYLVARES SA85(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃、Mw:1000)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
KA9188:ランクセス社製のVP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
加硫促進剤NS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0051】
実施例1〜7及び比較例1〜9
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、KA9188、および加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で3分間混練りした。さらに、オープンロールを用いて、硫黄、KA9188、および加硫促進剤を添加し、60℃の条件下で4分間混練りして未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物を厚さ10mmのトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、170℃で15分間加硫することにより、試験用タイヤ(タイヤサイズ:215/45ZR17)を製造した。
【0052】
(劣化条件)
上記にて作製した試験用タイヤを80℃のオーブンで168時間熱劣化(老化)させた。得られたものを劣化サンプル(熱劣化後の試験用タイヤ)とした。
【0053】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤ、熱劣化後の試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(転がり抵抗指数)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各加硫ゴム組成物のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗性に優れ、低燃費性に優れる。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)X100
【0055】
(ウェットスキッド性能)
試験用タイヤ又は熱劣化後の試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。比較例1のウェットスキッド性能を100として、下記計算式により指数表示した。また、熱劣化後のウェットスキッド性能については、実施例1の熱劣化後のウェットスキッド性能を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほどウェットスキッド性能が良好である。なお、熱劣化後のウェットスキッド性能が良好とは、タイヤ使用に伴うウェットスキッド性能の低下を抑制でき、長期にわたりウェットスキッド性能を高い次元で維持できることを示す。
ウェットスキッド性能=(比較例1の制動距離)/(各配合の制動距離)X100
熱劣化後のウェットスキッド性能=(実施例1の制動距離)/(各配合の制動距離)x100
【0056】
(操縦安定性)
試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行し、ドライバーの官能評価により操縦安定性を評価した。10点を満点とし、比較例1の操縦安定性を6点としてそれぞれ相対評価を行った。数値が大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。
【0057】
(耐摩耗性)
試験用タイヤ又は熱劣化後の試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行し、30000km走行前後のパターン溝深さの変化を求めた。結果は、比較例1を100として指数表示した。また、熱劣化後の耐摩耗性については、実施例3の熱劣化後の耐摩耗性を100として指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好である。なお、熱劣化後の耐摩耗性が良好とは、タイヤ使用に伴う耐摩耗性の低下を抑制でき、長期にわたり耐摩耗性を高い次元で維持できることを示す。
【0058】
【表1】

【0059】
特定量の特定の芳香族ビニル重合体、硫黄及び上記式(I)で表される化合物を含有する実施例は、良好な耐摩耗性、ウェットスキッド性能、低燃費性、操縦安定性(特に、耐摩耗性、ウェットスキッド性能)が得られ、更に耐熱老化性も向上し、タイヤ使用に伴う耐摩耗性、ウェットスキッド性能の低下を抑制できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、芳香族ビニル重合体、硫黄及び下記式(I)で表される化合物を含有し、
前記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記芳香族ビニル重合体の含有量が5〜100質量部であるトレッド用ゴム組成物。
【化1】

(式(I)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、窒素原子を含む1価の有機基を表す。)
【請求項2】
前記芳香族ビニル重合体が、α−メチルスチレン若しくはスチレンの単独重合体又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体である請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
更に、シリカを含有する請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記硫黄、前記式(I)で表される化合物の含有量が下記式を満たす請求項1〜3のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
硫黄の含有量<式(I)で表される化合物の含有量
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記硫黄の含有量が0.1〜2質量部、前記式(I)で表される化合物の含有量が0.1〜2質量部である請求項1〜4のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−1805(P2013−1805A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134338(P2011−134338)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】