説明

トンネル内面の補強構造

【課題】補修・補強用セグメントに荷重が作用した場合、その荷重を隣接リングに分散して伝達できる補強構造を簡潔な手段で実現した。
【解決手段】トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメント1をトンネル内面に沿って千鳥または芋継ぎに配置し、セグメントリング7のトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリング7とトンネル内面との間にグラウト42などの経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補修・補強構造において、セグメントリング7の裏面に、少なくともトンネル軸方向の複数のセグメントリング7に渡って設けられている引張補強材26を配設して充填材と一体化することで、この充填材により荷重を分散して複数のセグメントリング7に伝達する梁部材を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内面のコンクリート剥落やトンネルの変状に対する補修・補強構造に係り、特に、トンネル内面に沿って設置される補修・補強用セグメントリングに外部応力が作用した場合、その力を特定のセグメントに応力集中させないで、複数のセグメントリングに分散して伝達させるようにしたトンネル内面の補修・補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した、または健全な鉄道トンネル、道路トンネル等の既設トンネルにおいて、覆工コンクリートの崩落・剥落を未然に防止し、万一コンクリートの崩落があった場合でも、トンネル内に剥落片が落下しないように保護し、さらには地山の緩みあるいは塑性圧等の荷重による変状に対して補強することを目的としたトンネル覆工内面補修・補強構造とその構築方法とこれに使用するセグメントに関しては、本出願人が先に特開2004−150072号(特許文献1)として提案している。
【0003】
特開2004−150072号の内容を図13〜図20によって説明すると、略矩形板状の補修・補強用セグメント(以下セグメントという)1におけるトンネル周方向をなす各辺4、5の複数箇所に、トンネル軸方向に隣合うセグメントリング1相互を接続するための継手材として、周方向に間隔をおいてシアキー3をトンネル軸方向に張り出すように設けられて前記トンネル覆工内面補修・補強用のセグメント1をトンネル覆工内面に沿って配置し、トンネル軸方向に隣接するセグメントリング毎にトンネル周方向にずらして千鳥に組み立て、セグメントリングの下端部は、固定手段で既設トンネルのコンクリート床版上に固定されている。
【0004】
トンネル軸方向に張り出すように突出する雄型のシアキー3は、トンネル軸方向の既設側(前部側)のシアキー3(3a)の位置と、新設側(後部側)のシアキー3(3b)の位置とは、トンネル周方向(補修・補強用セグメント本体2の円弧状周面方向)に位置をずらして設けられている。
【0005】
前記のシアキー3(3a)とシアキー3(3b)がトンネル周方向に直接または間接的に係合していると、トンネル半径方向のせん断力伝達部材としてのシアキー3をトンネル周方向のせん断力または押圧力を伝達させるシアキー(せん断力伝達部材または押圧力伝達部材)として機能させることができる。
【0006】
補修・補強用のセグメント本体2には、突っ張り部材8が設けられ、この部材8はトンネル半径方向に貫通する雌ねじ孔9と、この雌ねじ孔9に螺合された突っ張りねじ軸10とにより構成されている。この突っ張り部材8は、その先端部をトンネル半径方向に補修・補強用セグメント本体2の裏面側に突出させ、既設トンネル覆工内壁面41に押し付けることにより、周方向に直列に連続されたセグメント1によるセグメントリング7をトンネル半径方向に縮径させるように作用することにより、補修・補強用セグメントリング7にトンネル周方向に軸力を導入させて、セグメントリングによるアーチの形状が変形するのを拘束し、アーチを安定させるものである。前記突っ張りねじ軸10のトンネル内空側の基端部には、回動工具係合用凹部13が設けられている。
【0007】
また、補修・補強用セグメント本体2の裏面におけるトンネル軸方向(前後方向)両端部のトンネル周方向をなす前部側(既設側)の円弧状辺4および後部側(新設側)の円弧状辺5の近傍には、トンネル軸方向に隣り合うセグメント1相互(すなわち、トンネル軸方向に隣り合うセグメントリング7相互)を固定するためのリング間固定治具14用の治具16、17と、同じセグメントリング7におけるトンネル周方向に隣り合うセグメント1相互を連結固定するための周方向のセグメント固定治具15用の治具19、20が設けられている。
【0008】
トンネル軸方向に順次構築されるセグメントリング7(7a、7b)の両端側(図19)の下端部(図19の左端、右端側)に位置する各セグメント1を支持するための端部部材としての固定金具35が、コンクリート床版34上に設置されている。
【0009】
固定金具35としては、例えば、図19bに示すように、一対の腕片36、37により形成されたトンネル軸方向に延長する上向き開口の受け溝38を有する固定金具35でその金具35の受け溝38に、端部の補修・補強用のセグメント1が既設覆工40の内面に間隔をおいて配置され、その下端部を前記受け溝38を有する固定金具35に必要に応じてスペーサ等を介在させて嵌合させ、適宜受け溝38を有する固定金具35におけるトンネル内空側の一方の腕片36に螺合した押し付けボルト39を調整して、下端部のセグメント1の下部が固定されている。なお、下端部のセグメント1におけるトンネル軸方向に張り出すシアキー3は、セグメント1の裏面(トンネル覆工内壁面41に対向するセグメントの面)に当接して係合されている。
【0010】
周方向に隣り合うセグメント1相互は、セグメント間固定治具15により固定さえている。すなわち、図16〜図18によって説明すると、セグメントリング7を構築するべく新設のセグメント1の周方向一端側(既設側)は、端部部材としての固定金具35に配置固定されるか、または、周方向の既に組み込まれたセグメント1の新設側に配置されている。
【0011】
そして、周方向に直列に隣り合う一方(新設)のセグメント1における既設側に位置するボルト挿通孔を有する鋼製ブラケット30からなる治具19と、周方向他方(既設)のセグメント1における新設側に位置するナット33を有する雌型治具20とに渡ってボルト21を挿通螺合され、周方向に隣り合う、新設および既設のセグメント1相互の治具19、20を連結固定され、周方向に隣り合うセグメント1相互の連結固定が図られている。
【0012】
前記のようにトンネル内面の補修・補強用セグメント1を図16〜図18に示す工程でトンネル軸方向に隣接するセグメントリング7間に千鳥に組み立て、下端部は固定手段で既設トンネルのコンクリートに固定されているトンネル覆工内面補修・補強構造は、トンネル軸方向に張り出すように突出するシアキー3によってトンネル軸方向に隣接するセグメント1の裏面に係合して、せん断力および曲げモーメントを伝達させることができ、また、トンネル周方向に張り出すように突出するシアキー3により、トンネル周方向に隣接するセグメント裏面に係合してせん断力を伝達することができるトンネル覆工内面補修・補強構造とすることができるので、既設トンネル内壁面からコンクリートが剥離してセグメントに荷重が作用しても、周囲のセグメントにせん断力または曲げモーメントあるいはトンネル周方向の軸力を伝達して構造全体に分散させて支持でき、安定した補修・補強構造とすることができる。
【0013】
また、トンネル軸方向に適宜のセグメントリング7が構築された時点で、予めセグメント本体2にグラウト注入孔を設けられたセグメント1から、セグメントリング7の裏面にグラウト42を充填すると、セグメントリング7と既設覆工内面41を密着させて、セグメント1の既設覆工面41側への変形を拘束し、セグメントリング7を安定させることができる。
【特許文献1】特開2004−150072
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示の従来技術は、セグメントを用いたトンネル覆工内面の補修・補強構造に用いられる薄肉でトンネル内面への張り出しが少なく、迅速施工が可能な優れた補修・補強構造であるが、この従来技術にもさらに解決すべき点が残されていた。すなわち、トンネル内面側は、既設覆工のコンクリートの亀裂などにより部分的な剥落が生じやすい状況にあり、その剥落片の荷重が補修・補強用セグメントの裏面に部分的な荷重とし作用することがある。この場合、補修・補強用セグメントは、セグメントリングに部分的な応力が集中しやすい。
【0015】
特に、既設のトンネル覆工内面には一時的にでも移設できない既設のトンネル内設備、例えば電化トンネルなどの、き電線や吊架線を壁に固定する治具などが設置されていることが多く、その場合、該トンネル内設備がある部位は補修・補強用セグメントが設置できず、このトンネル内設備がある部位には開口部を設けて、内面補修を回避することになるが、開口部に臨む部位のセグメントリングは不安定になり易かった。
【0016】
すなわち、トンネル内設備を避けて補修しようとすれば、略半円のアーチ状の補修・補強セグメントリングの一部をトンネル内設備のある範囲は開口部が形成されるようにセグメントを組み立てることになる。しかし、アーチ形状等をなすセグメントリングは、その両端が既設の床版コンクリートに固定されたトンネル周方向に閉合断面をなす構造であるがゆえに、外側からの応力に耐えてリング(アーチ)形状を保持できるのであるが、前記のようにセグメントリングの途中に開口部が形成されると、この開口部のある部位のセグメントリングはトンネル周方向の途中(多くの場合、天井部位)が途切れて左右側に分離した状態になり、この左右側のリングは、各々下端部のみが固定された片持ち状態でセグメントが組まれたことになる。
【0017】
この場合、開口部側のリング端は該開口部によって自由端となり、少なくともこの開口側のリング端部がトンネル周方向にスライド可能(つまり、リングが閉じていない)なため、この開口を有する部位のセグメントリングの補強効果が小さく、セグメントリングに外側から荷重が加わった場合、該片持ち状態のセグメントリングが崩壊するおそれがある。
【0018】
本発明は、前記の諸問題を解決したもので、トンネル内設備を避けるために形成された開口部のある部位のセグメントリングを補強できるだけでなく、開口部が存在しない部位のセグメントリングの補強にも適用できるトンネル内面の補強構造を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、セグメントリングにトンネルの地山側からトンネル内空側に荷重が加わったとき、その荷重を特定のセグメントリングに集中応力として伝達させないで、隣接する複数のセグメントリングに分散して伝達させるようにしたもので、簡潔な補修・補強構造によって前記の目的を実現したものである。

【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的を達成するため、本発明は次のように構成する。
【0020】
第1の発明は、トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、セグメントリングの裏面に、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って引張補強材を設置して前記充填材に埋設一体化することで、硬化した前記充填材により引張補強材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とする。
【0021】
第2の発明は、トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、セグメントリングの裏面に、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って繊維補強充填材を充填することで、硬化した該繊維補強充填材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とする。
【0022】
第3の発明は、トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、トンネル内面に沿って、且つトンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って補強部材を設置し、アンカーボルト等の固定手段を介してトンネル内面に固定することで、前記補強部材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とする。
【0023】
第4の発明は、第1の発明の引張補強材および/または請求項3に記載の補強部材を第2の発明の該繊維補強充填材に配置したことを特徴とする。
【0024】
第5の発明は、第1または第4の発明において、引張補強材は異形鉄筋や金網等、表面平坦の鉄筋よりも充填材との付着効果が高いもので構成されていることを特徴とする。
【0025】
第6の発明は、第1または第4、第5の発明において、引張補強材は、セグメントの裏面に設けた支持用の治具によってトンネル軸方向に渡って所定位置に支持されていることを特徴とする。
【0026】
第7の発明は、第1または第4または第5の発明において、引張補強材は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維等の材料からなることを特徴とする。
【0027】
第8の発明は、第2の発明において、繊維補強充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鋼繊維、有機系繊維などの引張力に抵抗できる材料が混合された繊維補強モルタルや繊維補強コンクリートで構成されていることを特徴とする。
【0028】
第9の発明は、第3の発明において、補強部材は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維等の材料からなり、その断面形状は、四角形、丸、H等の曲げ剛性が高められた断面形状であることを特徴とする。
【0029】
第10の発明は、第1〜第9の何れかに記載の発明において、引張補強材や繊維補強充填材または補強部材は、トンネル内面の既設設備を回避するために形成される開口部によってトンネル周方向が開口断面となったセグメントリングにおける、少なくとも開口部のトンネル周方向に直近のセグメントの裏面に設置され、且つ少なくとも開口部のトンネル軸方向両側の直近に位置するセグメントリングに渡って設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
第1〜第3の発明によると、補修・補強用セグメントの裏面側に、引張補強材と一体化することで梁部材として機能する充填材や、梁部材として機能する繊維補強充填材や、また梁部材として機能する補強部材を少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って設けたことにより、(1)開口部がないセグメントリングに前記梁部材を設置するときは、その梁機能により、荷重が作用するセグメントリングの断面の荷重を隣接するセグメントリングに伝達できるので、セグメントの千鳥配置のみよりも、隣接リングの荷重負担が大きくできるので、一部のセグメントリングのみに荷重を集中させることがなく、結果、セグメントリングに対する変形抑制効果と大荷重対応が可能になる。
【0031】
(2)また、開口部が存在する部位のセグメントリングに前記梁部材を設置するときは、その梁機能により、開口部のあるセグメントリングの断面に作用する荷重を閉合断面(一般部)のセグメントリングに伝達させることで、少なくとも隣接リングで荷重を負担させることができ、構造的に弱いセグメントリングの開口部側の端部に荷重が集中する不具合を解消できる。
【0032】
また、梁部材を構成する繊維補強充填材は引張補強材と併用できると共に、該繊維補強充填材に繊維補強モルタルを用いた場合、この繊維補強モルタル自体が引張りに抵抗できるので、該繊維補強モルタルのみで梁機能を奏するから、前記の引張補強材を省略しまたは使用する数を低減できる。また、梁機能は、トンネル軸方向のみで十分なので引張補強材は、トンネル軸方向に平行に設置するのが望ましい。
【0033】
また、第1の発明において、引張補強材を介して充填材によりトンネル軸方向に形成される梁は、荷重が作用した場合、トンネル内空側が引張となるので引張補強材は、セグメントリングの裏面に近いのが望ましい。引張補強材の配置ピッチ、段数、断面積は設計事項であり、必要に応じて決めるとよい。また、開口部の補強として用いる場合は、引張補強材は開口を有さないリングの、圧縮場となる領域やセグメントに定着することが望ましい。
【0034】
また、前記の場合は、作用する荷重によるが、梁部材による補強範囲は、隣接1リング以上が望ましい。補強部材の設置のピッチや段数、断面積は設計事項であると共に、この発明の場合は、充填材(グラウト)を直接打設しないで、充填材を充填した袋体を使用してもよい。
【0035】
第6発明における引張補強材の支持用の治具は、引張補強材が、単に下方にずれ落ちないように乗せるだけの形状でよく、設置しやすい構造が望ましい。または、引張補強材をセグメントリングに仮固定できるように、該引張補強材をセグメントに溶接やボルトと治具などで固定してもよい。
【0036】
第3、第4および第9の発明において、補強部材は、それ自体が曲げ剛性が高いのでコンクリートの剥落などの荷重はこの補強部材に作用してトンネル軸方向に伝達できる。また、補強部材は既設覆工などのトンネル内面側に固定されるので、既設覆工などトンネル側に一部反力を取るが、残りの荷重は、補強部材の高い曲げ剛性によりグラウト等の曲げに抵抗できない充填材を介してセグメントリングの裏面を押すので、トンネル軸方向に伸びる補強部材の周辺の充填材を介して、荷重が作用した直近のセグメントリングだけでなく、これに隣接するセグメントリングにも分散して伝達できる。
【0037】
第10の発明によると、開口部があるセグメントリングの補強範囲は、開口部のあるセグメントリングに作用する荷重を閉合している断面(一般部)のセグメントリングに確実に伝達できれば、後は千鳥配置の場合はその千鳥の効果で、芋継ぎの場合は、全単一リングで荷重を受持つことでトンネル周方向と軸方向のセグメントに伝達でき、梁として機能する部材は、開口部がある断面のセグメントリングの両隣の最低1リングずつに渡って設置すればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。なお、従来例と共通部分には共通の符号を付して説明する。
【0039】
図1〜図5を参照して本発明の実施形態1に係るトンネル覆工内面補修・補強用のセグメントの施工態様を説明する。図4は、トンネルの内面に設置した補修・補強用セグメントリングの裏面側の展開図とトンネルの縦断面を関連付けて示す説明図ある。図示のトンネル43は地山11の内面に既設覆工(覆工コンクリート)40を施工した鉄道トンネルの例を示し、この内面覆工トンネル43において、該覆工内壁面材の崩落の危険がある箇所の内面が補修・補強用セグメント1で補強されている。
【0040】
本発明が対象とする補修・補強用セグメントの構成は特に限定されず、例えば、図13〜図20に示す補修・補強用セグメントと同一構造のセグメントであってもよく、または、図12で後に説明する構造の補修・補強用セグメントであっても構わない。
【0041】
実施形態1の補修・補強用セグメント1では、前記した図13〜図20に示すものと同じ構成のセグメントを示している。すなわち、各セグメントは、トンネル周方向とトンネル軸方向に千鳥または芋継ぎに配置されて(図には千鳥の例を示す)、トンネル軸方向にセグメントリングの列が並設され、各セグメント間は、トンネル周方向とトンネル軸方向の各辺から突出する複数のシアキーにより着脱自在に組み立てられていると共に、セグメント間固定治具やリング間固定治具でセグメント間やリング間が結合されており、このような構成により既設トンネル内壁面からコンクリートが剥離してセグメントに荷重が作用しても、周囲のセグメントにせん断力または曲げモーメントあるいはトンネル周方向の軸力を伝達して構造全体に分散させて支持できることができ、安定した補修・補強構造とすることができる(詳細構造は、図13〜図20を援用し、重複説明を省略する)。
【0042】
図13〜図20に示した補修・補強用セグメントによるトンネル覆工内面の補修構造は、迅速施工が可能な優れた補修・補強構造であるが、この従来技術でもさらに解決すべき問題が残されていた。すなわち、電化トンネル等では、既設のトンネル覆工内面の天井部に、き電線や吊架線を壁に固定する治具などが存在する。例えば図4に示す例では、電車12に通電するための、電線支持用のブラケット22を支持する吊下げ治具23などが既設覆工40にアンカーボルトで固定されている。この吊下げ治具23等は、一時的にでも移設できない既設のトンネル内設備であり、この吊下げ治具23を回避するため、千鳥配置の補修・補強用セグメント構造には、この吊下げ治具23を取り囲んでトンネル周方向とトンネル軸方向の所定の範囲に渡りセグメントリング7を設置しないことにより矩形の開口部24が形成されていて、この開口部24内に吊下げ治具23が位置している。
【0043】
図4において、矢印Aがトンネル軸方向であり、矢印Bがトンネル周方向である。図4の場合、複数のセグメント1がトンネル周方向に連結して構成されるセグメントリング7の列がトンネル軸方向に11列並設された状態が示されており、この11列のセグメントリング7のうち、5列分のセグメントリング列7cのトンネル周方向の一部をトンネル軸方向に所定数分のセグメントを欠く(設置しない)ことにより開口部24のトンネル軸方向の2辺とトンネル周方向の2辺からなる矩形の開口部24が形成される。図4では、5列分のセグメントリング列7cにおいて、トンネル周方向に3個半のセグメント7を切り欠くことにより矩形の開口部7が形成されている。
【0044】
開口部24が形成される部位以外の各セグメントリング7では、各セグメント1が、一方のセグメント下端部25から他方のセグメント下端部25aまでアーチ状に連続して設置された閉合断面となっている。この閉合断面によりセグメントリング7は両端が固定された剛構造をなし既設覆工側からのコンクリート剥落等による荷重に対して、アーチ形状を保持できる。これに対して、開口部24の形成された5列分のセグメントリング7cでは、開口部24のトンネル円周側の2辺によって左右に分断されることで、片持ちリング状態になっており、左右それぞれの片持ちリングにおける開口部24の側は自由端であって固定されていない。このためセグメントリング7cでは、開口部24側の端部がトンネル周方向にスライド可能(つまり、リングが閉じていない)なためセグメントリング7cの断面の補強効果が小さく、このセグメントリング7cに外側から力(荷重)が加わった場合、開口部24に位置する側のセグメントリング7cの端部に応力が集中し該セグメントリング7cが崩壊するおそれがある。
【0045】
本発明の実施形態1では、セグメントリング7cの開口部24のある側に地山側から荷重が加わった場合、トンネル軸方向に位置している隣接の閉合断面をなすセグメントリング7に応力が分散して伝達され、セグメントリング7cの開口部24側に応力が集中しないようにしたもので、簡潔な補修・補強構造で前記の構成を実現したものである。
【0046】
前記のための具体的構成を、実施形態1として示す図1を参照して説明する。図1(a)は、補修・補強用セグメント1が設置された開口部24周辺のトンネル周方向の断面図、図1(b)は、図1(a)のセグメントリング列の裏面の展開図である(なお、図1では説明の便宜のため、トンネル軸方向に2列のセグメントリング7cによってトンネル軸方向に沿う開口部2辺が形成された開口部24の例を示す)。この開口部24周辺には、補修・補強用セグメント1の裏面側にトンネル軸方向に延びる引張補強材26が設置され、かつセグメント1と既設覆工40との間に充填されるグラウト42に埋設されている。グラウト42は、セグメント1の裏面(背面)に充填することにより、セグメントリング7と既設覆工40の内面を密着させて、セグメント1の既設覆工面への変形を拘束し、セグメントリングを安定させるものである。引張補強材26は鋼棒(材料の具体例は後述する)などからなり、グラウト42と一体化させることでグラウト42が梁機能を奏する。
【0047】
すなわち、引張補強材26が一体化することでグラウト42の強度が向上して引張補強材26が存在するトンネル軸方向に渡ってグラウト42自体が梁として機能し、覆工コンクリートの剥落等により荷重が掛かったとき、グラウト42を介してその荷重をトンネル軸方向に分散して伝え、開口部24の周辺に集中させない。したがって、開口部24によって左右に分断されていて、他と比べて強度が低下しているセグメントリング7cの開口部側の端部に応力集中させないようにできる。
【0048】
さらに説明すると、既設覆工40のコンクリートに亀裂が生じて部分的に崩落するようなとき、その剥落コンクリートの荷重はグラウト42を介して引張補強材26に掛る。このとき引張補強材26は荷重が掛かった部位で曲がろうとするが、引張補強材26はその両端部を含めてグラウト42に埋設されて固定されているので、引張補強材26は剛性の高い材料の場合は勿論、剛性の低い部材であっても前記荷重によって曲がることがなく共同して梁となり、それに対応してグラウト42も引張補強材26で剛性が向上した梁機能を発揮する。結果、このグラウト42を介して引張補強材26の両端部が位置する全長に荷重を分散して伝達できる。
【0049】
すなわち、既設覆工40からの剥離したコンクリートによる荷重は、グラウト42と引張補強材26で構成される梁→開口部24のあるセグメントリング7cの裏面のグラウト42→引張補強材26が延長するトンネル軸方向のグラウト42→開口部24を外れた位置にあり閉合断面をなす隣接のセグメントリング7へ力が分散されて伝達される。
【0050】
したがって、前記のように引張補強材26の両端部を、開口部24からトンネル軸方向に外れた位置にあって閉合断面をなしており、構造的に強いセグメントリング7に渡って設置しておくことにより、前記の荷重を開口部24のあるセグメントリング7cだけでなく、閉合断面をなした隣接のセグメントリング7まで応力を分散させて伝達させることができる。それにより、開口部24の形成により構造的に弱くなった、セグメントリング7cの開口部側の端部に応力が集中しない構造にできる。
【0051】
図1において引張補強材26は、セグメント1の裏面に設けた取り付け用治具27によって位置ずれが生じないように支持されているが、取り付け用治具27はグラウト42を充填するまでの間に引張補強材26が所定の設置位置からずれ落ちないようにするためのものであって、引張補強材26とセグメント1を固着する必要はない。また、取り付け用治具27の構造は任意であって、図1(a)のように湾曲断面の治具でもよいし、図2(a)(b)(c)に示すように逆L字形断面の治具27a、溝形断面の治具27bでもよく、さらに、図3に示すように、L字形断面で長尺の治具27cであってもよく、引張補強材26の位置を仮止めできれば断面構造は任意でよい。また、引張補強材26を溶接その他の固定手段でセグメントリング7の裏面に固定しても構わない。
【0052】
また、引張補強材26は、鉄筋、フラットバー、金網などが使用できる。特に、表面が平坦な鉄筋に比べてグラウト42との付着効果が高い、異形鉄筋や金網等で構成されていれば補強効果が大きく好ましい。また、断面形状も図2に示すように、丸断面形状または角断面形状であってもよく、また曲げ剛性は特に必要条件としない。また、引張補強材26の設置本数は開口部24のあるセグメントリング7cにおける開口部24のトンネル周方向側の直近位置のセグメント1の裏面に少なくとも1本が掛るように設けることが必要であるが、さらに開口部24からトンネル周方向に離れる方向に複数本(必要段数)配設してもよく、その間隔も任意である。引張補強材26の材質は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維など何れでもよく、また断面形状は、四角形、丸、H等の何れの形状でもよい。
【0053】
さらに、この引張補強材26のトンネル軸方向に伸びる長さも任意でよいが、少なくとも両端部が開口部24のトンネル軸方向に外れた位置で、かつ開口部24の直近のセグメントリング7の裏面にまで渡っていることが必要であり、これよりも長くトンネル軸方向に伸びていることは構わない。
【0054】
図5は、図4に示したトンネル内補修・補強構造において、図1に示す引張補強材26を設置した施工例を示すセグメントリング7列の裏面側の展開図である。図5に示すように、開口部24のトンネル周方向の両側の直近のセグメントリング1にする引張補強材26aを第1番目の補強材として、左右側それぞれトンネル周方向に18本の引張補強材26を等間隔で設置した例を示している。トンネル軸方向には、引張補強材26の長さ方向の両端部が、開口部24のトンネル軸方向の両側の直近の2列のセグメントリング7dに渡って配設されている。引張補強材26の長さや設置本数は増減して構わない。
【0055】
図6(a)(b)は、図5の変形例として開口部24が長方形の2例を示す。図6(a)では、開口部24のトンネル周方向側の2辺の(トンネル軸方向の)長さがセグメントリング7c2列分ある開口部の長さであり、トンネル軸方向側の2辺の(トンネル周方向の)長さが4枚のセグメント1分ある開口部の長さの矩形の開口部24が形成された例を示している。この開口部24のトンネル周方向両側に、間隔をあけて複数本の引張補強材26が設置されており、引張補強材26のトンネル軸方向の両端部は、開口部24のトンネル軸方向の直近の閉合断面のセグメントリング7dの1列にまで伸びる長さに設けられた例を示している。
【0056】
図6(b)では、開口部24のトンネル周方向側の2辺の(トンネル軸方向の)長さがセグメントリング7c3列分ある開口部の長さであり、トンネル軸方向側の2辺の(トンネル周方向の)長さがセグメント4枚分の開口部の長さの矩形の開口部24が形成された例を示している。
【0057】
図7は、セグメントリング7を構築していく施工手順を図示している。また、図7は、図5、図6と異なる形状の開口部24を形成したセグメントリング7を例として示している。セグメント1の千鳥配置による組立て自体は従来と同じであり、セグメント組み立ての途中に引張補強材26の配設工程が組み込まれるものである。概要を説明すると、図7の矢印A方向がトンネル軸方向であり、矢印B方向がトンネル周方向で、その中間部が天井部である。まず、トンネル軸方向先端側(図では上側)の4列のセグメントリング7eを構築し、次に開口部24のある部位の3列のリング7cとその両側の各1列のリング7f、合計5列のセグメントリング7を先端側から順に組み立てる。次に、前記合計3列のセグメントリング7c、7fの裏側に向けて、手前側(図では下側)から引張補強材26を差込んで図のように配設する。その後、一番手前側の5列のセグメントリング7gを順次組み立てて、最後に既設覆工40とセグメントリング7との間にグラウトを充填材してトンネル内補修・補強構造を構築する。
【0058】
本発明に係る引張補強材26を用いるトンネル覆工内面補修・補強構造は、トンネル内設備を回避するために開口部24が形成された部位のセグメントリング7cの補強だけでなく、開口部が存在しない閉合断面のセグメントリング(以下、一般部セグメントリングという)の補強にも適用でき、その適用例を図8に実施形態2として示す。図8は、トンネル覆工内面に配設された開口部が存在しないセグメントリング7の裏面の展開図で、矢印Aがトンネル軸方向、矢印Bがトンネル周方向であり、図のようにトンネル軸方向に伸びる所定長の引張補強材26がトンネル軸方向に3本連続して設置してあり、かつトンネル周方向にも所定の間隔をあけて多数本設置されている。図8では、結果的にセグメントリング7列の裏面の全体に渡り引張補強材26が設置された例が図示されている。引張補強材26の構造とその支持手段は図1に示す例と同じである。
【0059】
図8の実施形態2によると、閉合断面のセグメントリング7の裏面の広範囲にわたりグラウトと一体化されて引張補強材26が存在し、これによりグラウトの梁機能が発揮されることで、広範囲にわたる閉合断面のセグメントリング7の補強効果が一層大きくなる。
尚、実施形態2では、引張補強材26と一体化したグラウトを梁として機能させるには、トンネル軸方向の異なるセグメントリングに渡って設置する必要がある。すなわち、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って設置する必要があり、崩落・剥落するコンクリート等の大きさを考えると3つ以上のセグメントリングに渡って設置することが好ましい。上限は特に規定しないが、引張補強材26として使用する部材の種類により、その製造上、長さの制約を受けることがある。
【0060】
図9は、実施形態3として、梁部材を図1の引張補強材26と一体化したグラウト42に代えて繊維補強充填材28で構成した例を示す。繊維補強充填材28は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鋼繊維、有機系繊維などの引張力に抵抗できる材料が混合された繊維補強モルタルや繊維補強コンクリートからなり、この繊維補強充填材28をRC梁部材として機能させる。
【0061】
実施形態3によると、繊維補強充填材28を、開口部24のあるセグメントリング7cの裏面および開口部24のトンネル軸方向に隣接する閉合断面のセグメントリング7の裏面に所定の範囲に渡り充填することで、該繊維補強充填材28を分散して隣接のリングに伝達させるRC梁部材として機能させることができる。したがって、既設覆工40のコンクリートが部分的に崩落しその荷重が繊維補強充填材28に掛ったとき、その荷重を繊維補強充填材28を介して開口部24のあるセグメントリング7cだけでなく、開口部24周辺の閉合断面のセグメントリング7にも分散して伝達でき、構造的に弱い開口部24の形成されたセグメントリング7cに応力が集中する不具合を解消できる。なお、繊維補強充填材28は普通のモルタルによる裏込材を兼用しており、既設覆工40と補修・補強用セグメント1を一体化させる機能及びトンネル半径方向外側への変形を拘束する機能を奏しているので、繊維補強充填材28を全てのセグメントリング7の裏面を埋めるように充填するときは、普通のグラウトの充填は不要である。また、充填範囲を開口部24の周辺などRC梁部材として機能させる一部の範囲に限るときは、それ以外の場所では普通のグラウトを充填してもよい。
尚、実施形態3では、繊維補強充填材28をRC梁部材として機能させるには、トンネル軸方向の異なるセグメントリングに渡って充填する必要がある。すなわち、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って充填する必要があり、崩落・剥落するコンクリート等の大きさを考えると3つ以上のセグメントリングに渡って設置することが好ましい。
【0062】
図10は、実施形態4を示し、開口部24の形成されたセグメントリング7cの裏面において、既設覆工40の内面にアンカーボルト31などの固定手段によってトンネル軸方向に渡って補強部材32を固定設置して梁部材を構成した例を示す。補強部材32の断面形状は、四角形、丸、H等の何れの形状でもよく、図10の補強部材32は4角断面の例を示す。また、補強部材32の材質は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維など何れでもよい。また、既設覆工40とセグメントリング7の間にはモルタル、グラウト42等の充填材が充填されている。
【0063】
実施形態4によると、例えば、図10(b)に示す既設覆工40に部分的崩落44が生じたとき、その荷重は補強部材32に曲げ変形を生じさせるが、この曲げ変形によりグラウト材42を押圧し、荷重を分散してセグメント7に伝達する。また、荷重の一部は安定した既設覆工40に支持される。すなわち、補強部材32のトンネル軸方向に延長している両端までモルタル、グラウト42を介して荷重を分散して伝達でき、実施形態1、3と同様に、荷重を開口部24のあるセグメントリング7cだけでなく、開口部24の周辺の閉合断面のセグメントリング7にも分散して伝達でき、構造的に弱い開口部24が形成されたセグメントリング7cに応力が集中する不具合を解消できる。
【0064】
図11(a)〜(c)は、補強部材32の断面形状の変形例を示す。図(a)の補強部材32aは、H形断面の例を示し、アンカーボルト31がそのフランジを挿通して既設覆工40に固定されている。図(b)の補強部材32bは、溝形断面の例を示し、アンカーボルト31がそのウエブを挿通して既設覆工40に固定されている。図(c)の補強部材32cは、中空角断面の例を示し、アンカーボルト31がその両側面を挿通して既設覆工40に固定されている。
尚、実施形態4では、補強部材32によりグラウト42を介して荷重を分散して伝達する機能を持たせるには、トンネル軸方向の異なるセグメントリングに対面する既設覆工40に渡って設置する必要がある。すなわち、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って設置する必要があり、崩落・剥落するコンクリート等の大きさを考えると3つ以上のセグメントリングに渡って設置することが好ましい。
【0065】
図12は、実施形態5を示し、補修・補強用セグメント1aの継手部の構造が図1に示す継手(すなわち、図13〜図20に示す継手構造)と異なる例を示す。実施形態7のセグメント1aは、平面が長方形のセグメント本体2を所定の厚みのある鋼板で構成し、トンネル周軸方向とトンネル周方向に隣り合う各1辺には、セグメント本体2の厚み方向の中間部を先細り状に突出させてなる嵌合鍔45を形成し、残るトンネル周方向およびトンネル軸方向の各1辺にはセグメント本体2の厚み方向の中間部を他のセグメント1aにおける嵌合鍔45が嵌合できる嵌合溝46を形成した例を示す。
【0066】
実施形態5の補修・補強用セグメント1aによっても嵌合鍔45と嵌合溝46を嵌め合わせることで、複数のセグメント1aを千鳥に組み合わせてセグメントリングを構築し、セグメントリングに作用する曲げ応力やせん断力を分散して隣り合う他のセグメントリングに伝達するように組み立てることができる。また、実施形態5のセグメントでトンネル覆工内面にリングを組み立てるときも、トンネル内設備を避けるために開口部が形成されたセグメントリングにあっては、該セグメントリングの開口部に臨むリング端部に荷重が集中しないで周辺に分散させるように先の各実施形態で説明した梁部材を使用することは、先の各実施形態と同じである。
【0067】
なお、図示省略するが、請求項1記載の前期引張補強材、請求項2記載の前記繊維補強充填材、請求項3記載の前記補強部材は、各々、単独で使用してもよく、さらに補強効果を高める目的で、何れの2つの手法を併用してもよく、全てを同時に用いてもよい。
【0068】
次に、[1]開口部がある場合の補修・補強用セグメントリングの施工手順と、[2]開口部がない場合(一般部)の補修・補強用セグメントリングの施工手順とに分け、それぞれの場合において、(A)グラウトと引張補強材とで梁部材として機能させる例、(B)繊維補強充填材を梁部材として機能させる例、(C)補強部材を梁部材として機能させる例において、これらの施工手順をまとめて説明する。
【0069】
[1]開口部があるセグメントリングを補強する施工手順
(A)グラウトと引張補強材を一体化することでグラウトに梁機能を持たせる場合
1.一般部のセグメントを組み立てる。
2.開口部のセグメントを組み立てる
3.引張補強材の端になる端部まで開口部の隣の1リング(または1リング以上)を組み立てる。
4.引張補強材を設置する。
5.残りのリングを組み立てる。
6.グラウトを充填する。(なお、開口部が多い場合は、グラウト充填を最後にして、セグメント組み立てと梁部材の設置を先に繰り返す手順を実行してもよい)
【0070】
(B)繊維補強モルタルや繊維補強コンクリートなどの繊維補強充填材に梁機能を持たせる場合
1.一般部のセグメントを組み立てる。
2.開口部のセグメントを組み立てる
3.残りのリングを組み立てる。
4.繊維補強充填材を充填する。
【0071】
(C)補強部材(梁機能部材)を設置する場合
1.開口断面のセグメントリングを設置する予定の位置において、既設覆工に補強部材を配置して固定する。
2.一般部のセグメントを組み立てる(1と平行して設置することもある)。
3.開口部のセグメントリングを組み立てる
4.残りのリングを組み立てる。
5.グラウトを充填する。
【0072】
[2]開口部がない通常のセグメントリングを補強する施工手順
(A)グラウトと引張補強材を一体化することでグラウトに梁機能を持たせる場合
1.トンネル軸方向方な梁を形成して補強したいセグメントリング部分を、複数リング(例えばNリング)組んだ後、Nリングに渡るセグメントリングの裏面に受け治具を介して引張補強材を設置する。また、複数リング組んでその裏面に引張補強材を設置する。前記の手順を繰り返す。この場合、リング数は、引張補強材の長さとほぼ同じなので施工しやすい引張補強材の長さを施工性を考慮して決めるとよい。通常は3リングから10リングの範囲に施工するとよい。
2.前記のセグメントリングの組み立てと引張補強材の設置が終わった後にグラウトを充填する。
【0073】
(B)繊維補強モルタルや繊維補強コンクリートなどの繊維補強充填材に梁機能を持たせる場合
1.セグメントリングを順次組み立てる。
2.補強したいセグメントリングの設置予定の範囲に繊維補強充填材を充填する。
3.繊維補強充填材を充填する工程と並行して、補強が必要ない箇所には普通グラウトを充填する。
【0074】
(C)補強部材(梁機能部材)を設置する場合
1.補強したいセグメントリングの設置予定の範囲において、あらかじめ既設覆工に補強部材を配置して固定する。
2.セグメントリングを順次組み立てる。
3.最後にグラウトを充填する。
【0075】
本発明のトンネル内面補修・補強構造は、覆工コンクリートを有するトンネルだけでなく、素掘りトンネル、吹付けコンクリートのみのトンネルにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(a)は、実施形態1を示し、補修・補強用セグメントが設置された開口部周辺の断面図、(b)は、図(a)のセグメントリングの裏面の展開図である。
【図2】(a)(b)(c)は、図1の引張補強材の取り付け治具の断面形状の3つの変形例を示す断面図である。
【図3】図1の引張補強材の取り付け治具の4つ目の変形例を示す平面説明図である。
【図4】トンネル内面に設置した開口部のある補修・補強用セグメントリングの裏面側の展開図とトンネルの縦断面を関連付けて示す説明図である。
【図5】図4において、開口部のある周辺の補修・補強用セグメントリングの裏面側に引張補強材を設置した態様を示す説明図である。
【図6】(a)(b)は、図5の変形例として開口部が長方形の2例を示し、各開口部のある周辺の補修・補強用セグメントリングの裏面側に引張補強材を設置した態様を示す説明図である。
【図7】セグメントリングを構築していく施工手順を示す、セグメントリングの裏面の展開図である。
【図8】実施形態2を示し、トンネル覆工内面に配設された開口部が存在しないセグメントリングの裏面裏面側に引張補強材を設置した態様を示す説明図である。
【図9】実施形態3を示し、(a)は、梁部材を繊維補強充填材で構成した例を示す断面図、(b)は、図(a)のD−D断面図である。
【図10】実施形態4を示し、(a)は、梁部材を補強部材で構成した例を示す断面図、(b)は、図(a)のE−E断面図である。
【図11】(a)〜(c)は、図10の補強部材の断面形状の3つの変形例を示す断面図である。
【図12】実施形態5として、補修・補強用セグメントの継手部の構造が図1に示す継手部構造と異なる例を示し、(a)は、セグメントの平面図、(b)(c)は、図(a)のF−F断面図、G−G断面図、(d)は、図(a)のセグメントを連結した態様を示す縦断面図である。
【図13】従来例にかかるトンネル覆工内面補修・補強のセグメントを示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図14】(a)(b)(c)は、それぞれ図13(a)のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面である。
【図15】(a)は、図14(a)を拡大して示す図、(b)は、雌型固定治具付近の縦断側面図、(c)は、図14(c)を拡大して示す縦断正面図である。
【図16】従来の補修・補強のセグメントの使用態様および、セグメントリングの構成を示す説明図である。
【図17】従来の補修・補強のセグメントを使用して、新設のセグメントを既設のセグメントリングまたはセグメントに支持させるべく配置している状態を示す説明図である。
【図18】従来の補修・補強のセグメントを使用して、新設のセグメントを既設のセグメントリングまたはセグメントに支持させた状態を示す説明図である。
【図19】(a)及び(c)は、補修・補強のセグメントによりセグメントリング構造を構築している状態を示す概略縦断正面図、(b)は、下端部セグメントの下部の固定構造構造を示す正面図である。
【図20】補修・補強のセグメントリングの裏面にグラウトを充填する形態を示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 トンネル覆工内面保護・補強用のセグメント
1aトンネル覆工内面保護・補強用のセグメント
2 トンネル覆工内面保護・補強用のセグメント本体
3 シアキー
4 既設側の円弧状辺
5 新設側の円弧状辺
6 鋼製板体
7 セグメントリング
7a 既設側のセグメントリング
7b 新設側のセグメントリング
7c 開口部が形成されているセグメントリング
7d セグメントリング
7e セグメントリング
7f セグメントリング
7g セグメントリング
8 突っ張りねじ軸
9 雌ねじ孔
10 突っ張り螺杆
11 地山
12 電車
13 回動工具係合用凹部
14 リング間固定治具
15 周方向のセグメント間固定治具
16 治具
17 治具
18 ボルト
19 治具
20 治具
21 ボルト
22 ブラケット
23 吊下げ治具
24 開口部
25 一方のセグメント下端部
25a 他方のセグメント下端部
26 引張補強材
26a 引張補強材
27 取り付け用治具
27a 取り付け用治具
27b 取り付け用治具
27c 取り付け用治具
28 繊維補強充填材
29 ボルト挿通孔
30 ブラケット
31 アンカーボルト
32 補強部材
32a 補強部材
32b 補強部材
32c 補強部材
33 ナット
34 コンクリート製床版
35 固定金具
36 腕辺
37 腕辺
38 溝
39 押し付けボルト
40 既設覆工
41 内壁面材
42 グラウト
43 トンネル
44 部分的剥落
45 嵌合鍔
46 嵌合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、セグメントリングの裏面に、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って引張補強材を設置して前記充填材に埋設一体化することで、硬化した前記充填材と引張補強材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項2】
トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、セグメントリングの裏面に、トンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って繊維補強充填材を充填することで、硬化した該繊維補強充填材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項3】
トンネル円周方向及びトンネル軸方向に分割された、略矩形板状の補修・補強用のセグメントをトンネル内面に沿って千鳥あるいは芋継ぎに配置し、セグメントリングのトンネル周方向の下端部は、固定手段で既設トンネルの床版に固定されており、前記セグメントリングとトンネル内面との間に経時硬化性充填材を充填したトンネル内面の補強構造において、トンネル内面に沿って、且つトンネル軸方向の少なくとも2つ以上のセグメントリングに渡って補強部材を設置し、アンカーボルト等の固定手段を介してトンネル内面に固定することで、前記補強部材により荷重を分散して複数のセグメントリングに伝達する梁部材を構成したことを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項4】
請求項1記載の引張補強材および/または請求項3に記載の補強部材を請求項2記載の該繊維補強充填材に配置したことを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項5】
請求項1または4記載の引張補強材は異形鉄筋や金網等、表面平坦の鉄筋よりも充填材との付着効果が高いもので構成されていることを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項6】
請求項1または4、5の何れかに記載の引張補強材は、セグメントの裏面に設けた支持用の治具によってトンネル軸方向に渡って所定位置に支持されていることを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項7】
請求項1記載の引張補強材は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維等の材料からなることを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項8】
請求項2記載の繊維補強充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鋼繊維、有機系繊維等の引張力に抵抗できる材料が混合された繊維補強モルタルや繊維補強コンクリートで構成されていることを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項9】
請求項3記載の補強部材は、鋼、ガラス繊維・炭素繊維・アラミド繊維などを用いたFRP、および有機系繊維等の材料からなり、その断面形状は、四角形、丸、H等の曲げ剛性が高められた断面形状であることを特徴とするトンネル内面の補強構造。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の引張補強材や繊維補強充填材または補強部材は、トンネル内面の既設設備を回避するために形成される開口部によってトンネル周方向が開口断面となったセグメントリングにおける、少なくとも開口部のトンネル周方向に直近のセグメントの裏面に設置され、且つ少なくとも開口部のトンネル軸方向両側の直近に位置するセグメントリングに渡って設けられていることを特徴とするトンネル内面の補強構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2006−291651(P2006−291651A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117062(P2005−117062)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】