説明

トンネル掘削機に対する吹付け設備取付け構造およびこれを用いたトンネル吹付け方法

【課題】トンネル掘削機の接続設備に一体的に取り付けられる吹付け設備であっても、トンネル掘削機の掘進による影響を一切受けることなく、吹付け装置単独の移動制御のみで精度良く吹付けできるようにする。
【解決手段】トンネル掘進時において、後胴2Cを固定した状態としカッターヘッド32を備える前胴2Aを前進させることにより掘進を行うとともに、掘削機後方の後続台車5と接続され、前記前胴2Aと共に一体的に移動する接続設備11を備えるトンネル掘削機2を対象として、前記トンネル掘削機2の後方位置であってかつ前記接続設備11に対し、吹付け装置1を支持する走行基体14をトンネル長手方向に移動自在の条件の下で取付けるとともに、前記走行基体14と、トンネル掘進時に固定支持される前記後胴2Cとを移動制御用シリンダによって相互に連結する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トンネル掘削機を用いたトンネル掘削において、前記トンネル掘削機による掘削直後の地山壁面に対してコンクリート、モルタルなどを吹付けする吹付け設備の取付け構造およびこれを用いたトンネル吹付け方法に関する。
【0002】
【従来の技術】たとえば、山岳トンネルでは地山中に挿入したロックボルトと掘削壁面に沿って施工した吹付けコンクリートとを主たる支保部材とするNATM(New Austrian Tunnelling Methed)工法が主流となっている。
【0003】トンネルの掘削方法には、全断面掘削およびトンネル断面を上下に分割しトンネル上部半断面、下部半断面の順に併進して掘削を行うベンチカット工法等の爆薬によって掘削を行う発破掘削工法、TBM(Tunnel Boring Machine) と呼ばれる全断面掘削機を用いるTBM工法、さらにはブーム先端にカッター部を持ち、このカッターブーム操作によって断面を掘削する自由断面掘削機を用いた機械掘削工法など各種の方法が存在するが、いずれにしても掘削壁面の支保に際しては、鋼アーチ部材を主たる支保材とする在来工法に代えて前述したロックボルトと吹付けコンクリートとを支保材とするNATM工法が盛んに用いられている。
【0004】従来より、前述の吹付けコンクリート工事は、移動可能なクローラ式、タイヤ式またはレール式等の移動台車等に吹付けノズルを保持するブームを取付け、このブーム操作によって吹付けノズルを操作するようにした吹付けロボットを用いたり、或いはノズルホースを作業員が直接手に持って吹付け作業を行っていた。
【0005】一般的にコンクリートの吹付け作業では、吹付け面に対して吹付けノズルを垂直に保持するとともに、吹付け面との間の距離も経験的にリバウンドの少なくなる適正な距離に保持した状態でコンクリートの吹付けを行うと、吹付け終えたコンクリートを吹き飛ばすことなく、かつ付着も良好であることが知られている。
【0006】しかしながら、従来のブーム操作による吹付けロボットの場合には、複数の関節部を油圧シリンダ等によって屈曲制御し吹付け位置を確保するようにしていたため、吹付けノズルをアーチ状の掘削壁面に対して常に垂直にかつ一定の到達距離に保持することが困難であった。
【0007】他方、近年はトンネル施工の自動化、引いては吹付け作業の自動化に向けて吹付けロボットを遠隔操作する試みも行われているが、従来の多関節型の吹付けロボットの場合には、操縦箇所が多いためかなりの熟練を要しないと遠隔操作が難しいなどの問題もあった。
【0008】以上のような問題点に鑑み、本願出願人は、先の特願平10−297414号において、トンネル周方向壁面より内側にほぼ一定の離間距離をおいてトンネル周方向に沿って形成された走行レール面を有しかつトンネル長手方向に沿って移動自在とされる周方向レール部材と、この周方向レール部材に搭載され前記走行レール面に沿ってトンネル周方向回りに走行自在とされる吹付け装置を提案した。この吹付け装置によれば、吹付け面に対して常に垂直にかつ一定の離間距離を保持したまま吹付けを行うことができるようになる。また、掘削機に直接、または掘削機と後方の後続台車とを接続するズリ搬送設備などの接続設備に対して取り付け、掘進直後に壁面に対して吹付けが行えるようになり、一次支保または覆工体を迅速かつ早期に完成させることができる。さらに、熟練を要することなく誰にでも容易に遠隔操作が可能になるなどの効果がもたらされるようになる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記トンネル吹付け装置を、TBM本体とこのTBM本体の後方側に設けられる後続台車とを接続しているベルトコンベア、集塵装置等の接続設備に対して設けるようにした場合、TBMはスラストジャッキの伸縮を繰り返すことにより、1サイクル掘進毎に所謂スラスト推進によって掘進するものであるため、吹付け施工中にTBMの掘進によって吹付け装置の位置が変化してしまうことになる。
【0010】そこで、本発明者等は、先の特願平11−74609号公報において、トンネル掘削機のヘッド位置情報および前進速度情報をリアルタイムで取得するとともに、吹付け装置の位置情報をリアルタイムで取得し、トンネル掘削機の前進時において、トンネル掘削機の前進速度と吹付け装置の前進速度とを加算した速度が、当初設定した吹付け面に対する設定速度となるように前記吹付け速度の前進速度を制御するようにした吹付け装置の移動制御方法を提案した。
【0011】しかし、その後に自動測量システムの誤動作などでTBMの位置情報が間違っていたり、TBMの移動速度が不連続な値となる場合や、TBMのスラスト計のワイヤが外れていたなどのために異常値を示している場合などにおいて、吹付け装置がTBMの動きを誤って判断し、自らが誤動作したり、均一な吹付け面を得られないなどの状況が稀に発生した。
【0012】そこで本発明の主たる課題は、トンネル掘削機の接続設備に一体的に取り付けられる吹付け設備であっても、トンネル掘削機の掘進による影響を一切受けることなく、吹付け装置単独の移動制御のみで精度良く吹付けできるようにした吹付け設備の取付け構造およびこれを用いたトンネル吹付け方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決する本発明に係る吹付け設備取付け構造は、トンネル掘進時において、機体後部を固定した状態としカッターヘッドを備える機体前部を前進させることにより掘進を行うとともに、掘削機後方の後続台車と接続され、前記機体前部と共に一体的に移動する接続設備を備えるトンネル掘削機を対象として、前記トンネル掘削機の後方位置であってかつ前記接続設備に対し、吹付け装置を支持する走行基体をトンネル長手方向に移動自在の条件の下で取付けるとともに、前記走行基体と、トンネル掘進時に固定支持される前記機体後部とを移動制御用シリンダによって相互に連結したことを特徴とするものである。
【0014】この場合、前記吹付け設備としては、前記接続設備に取り付けられトンネル長手方向に沿って移動自在とされる走行基体と、トンネル周方向壁面より内側にほぼ一定の離間距離をおいてトンネル周方向に沿って形成された走行レール面を有するとともに、前記走行基体によって支持される周方向レール部材と、この周方向レール部材上に搭載され前記走行レール面に沿ってトンネル周方向回りに走行自在とされる吹付け装置とにより構成される設備が好適に適用される。
【0015】他方、前記吹付け設備を用いてトンネル掘削と併行しながら掘削壁面に吹付けを行うための吹付け方法は、順次、1サイクル分の掘進が完了したならば、機体後部を前記1サイクル掘進長さ分だけ前進し地山に固定した後、前記機体前部の前進によって次サイクル分の掘進を行う間に、前記機体後部の前進によって露出した掘削壁面部分を対象として吹付けを行うことを特徴とするものである。
【0016】なお、本発明における「吹付け」には、一般的なモルタルやコンクリート吹付けの他、これらを利用した各種覆工材料の吹付けを含むものである。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0018】〔装置構造〕図1は本発明に係る吹付け設備1を備えるTBMの全体図であり、図2は吹付け設備の側面図、図3はその正面図である。
【0019】吹付け設備1は、図1に示されるように、地山を掘削するTBM2と、このTBM2の後方に続く後続台車5とを接続する接続設備、具体的には後述のズリ等搬送設備11を支持体として設けられ、TBM2の掘進に追従しながら例えば円形に掘削された壁面に対し順次吹付材を吹付けするものである。
【0020】まずTBM2は、トンネル長手方向に前胴2Aと、中胴2Bと、後胴2Cとに分かれており、接合点は屈曲可能となっている。前記中胴2Bは前胴2Aから延在される胴体部分と、後胴2Cの前端部から延在される胴体部分との重なり部分となりTBM2が長手方向に伸縮自在となっている。前記前胴2Aの後端部と後胴2Cの前端部との間には複数本のスラストジャッキ36,36…が設けられ、前胴前進時には後胴2Cのメイングリッパ34,34…を拡張しトンネル坑壁に固定した状態で前記スラストジャッキ36,36…を伸長し、後胴前進時にはメイングリッパ34,34…の支持を開放するとともに、前胴2Aのフロントグリッパ35,35…を拡張してトンネル坑壁に固定した状態で前記スラストジャッキ36,36…を収縮させることにより、前胴2Aと後胴2Cとが交互に前進を繰り返すようになっている。所謂、スラスト推進である。
【0021】一方、前記前胴2Aの前面には複数のカッタを備えるカッタヘッド32が回転自在に設備され、このカッタヘッド32の内部には掘削土砂取り込み用のチャンバ33が形成されている。この土砂取り込み用チャンバ33に接続してベルトコンベアを内蔵するガーダ11Aがトンネル後方側に延長され、掘削された土砂を坑外に搬出するようになっている。前記ガーダ11Aの下面側にはTBM2の後方部位置を吸込み口として後方側に連続する集塵装置11Bが一体的に設けられている。本例では前記ガーダ11Aおよび集塵装置11Bが一体としてズリ等搬送設備11を構成している。
【0022】一方、吹付け設備1は、図2および図3に示されるように、前記ズリ等搬送設備11(集塵装置11B)の下面に対して、両側部にそれぞれ開口を外側に向けて配設された左右一対の溝型レール13A、13Bを有するレールフレーム13を設けるとともに、前記溝型レール13A、13Bの溝内にローラ14a、14a…を嵌合させトンネル長手方向に沿って移動自在とされる走行基体14と、この走行基体14によって支持される周方向レール部材3と、この周方向レール部材3に搭載されトンネル周方向周りに走行自在とされる吹付け装置4とから構成され、前記走行基体14と後胴2Cとが移動制御用シリンダユニット15により相互に連結され、トンネル長手方向に移動制御されるようになっている。
【0023】前記移動制御用シリンダユニット15は、トンネル後方側にピストン15aを向けた上段シリンダ15Aと、TBM2側にピストン15bを向けた下段シリンダ15Bとを組とすることにより、ロングストロークに対応させたユニット構造のシリンダで、前記上段シリンダピストン15aが走行基体14に連結され、前記下段シリンダピストン15bが連結バー18を介して後胴2Cに連結されている。本例では、前記移動制御用シリンダユニット15を所定高さ位置に保持するために、レールフレーム13の下面にシリンダ保持バー16を設けるとともに、前記移動制御用シリンダユニット15に一体的に設けられた吊り車17,17が前記シリンダ保持バー16に沿って走行可能となっている。
【0024】前記周方向レール部材3は、トンネル周方向壁面Hより内側にほぼ一定の離間距離をおいた円軌跡線に沿って走行体たる前記吹付け装置4をトンネル周方向に沿って走行させるためのもので、本例ではリング状に加工されたレール部材が用いられている。なお、本例では掘削断面形状が円形であるTBM2に対する適用例を示したため、周方向レール部材3も円形状としたが、たとえば複合円断面のトンネルの場合には、この複合トンネル断面形状に合わせてその相似縮小形状に加工された周方向レール部材が用いられる。
【0025】前記周方向レール部材3に搭載される吹付け装置4は、詳細には図4および図5に示されるように、装置本体23の走行部に、周方向レール部材3の内面側に接触する駆動ピニオンギア24と、周方向レール部材3の外面側に接触する押えローラ25A、25Bとを備え、周方向レール部材3を前記駆動ピニオンギア24と押えローラ25A、25Bとによって挟み付けることによって支持され、かつ前記駆動ピニオンギア24と周方向レール部材3の内面に形成されたラックギア3aとが歯合し、旋回用モータ26によって前記駆動ピニオンギア24を回転することにより周方向レール部材3に沿って移動自在となっている。
【0026】吹付けノズル40を保持するノズルホルダ28は、吹付け角制御用シリンダ27によって後端が支持され、吹付けノズル40の吹付け角度を任意角度に調整できるようになっているとともに、ノズルホルダ28の後方上面には揺動杆29が上方側に突出して設けられ、モータ30によって回転されるギア31の回転運動を前記揺動杆29の直進往復動作に変換することによってノズルホルダ28を連続的に揺動動作させ、吹付け装置4の1ライン走行によって吹付材を所定幅Sで吹付けできるようになっている。前記走行基体14の後側上部位置には前記吹付けノズル40に接続される吹付け材供給ホース39を支持するホース支持フレーム37が配設され、さらに前記走行基体14の上方側でかつ周方向レール部材3の内側には、吹付け材のリバウンドがズリ等搬出設備11に付着するのを防止するために略円筒状の防護カバー38が設けられている。
【0027】上記吹付け装置4に対しては、レーザー距離測定器6が設けられ、吹付け作業に併行してまたは吹付け後に吹付け厚の測定が行えるようになっている。前記レーザー距離測定器6は、詳細には図6及び図7に示されるように、レーザー発射口42aを開口とする収納函体42内にレーザー測距儀43を収納するとともに、エアシリンダ44によって任意時に前記レーザー発射口42aを蓋体45によって開閉自在としたものであり、前記収納函体42の後部側にエア流入口42bを設けるとともに、エア供給ホース46aを接続して、少なくとも距離測定中は収納函体42内にエアを供給するようにしている。供給されたエアは、前記レーザー発射口部42aより外部に流出する空気流れとなってリバウンドによって飛散したコンクリート・モルタル粉塵や塵埃が収納函体42の内部に侵入するのを防止し、レーザー測距儀43による計測が常に良好な状態で行われるようになっている。
【0028】前記エアシリンダ44およびエア流入口42bに対するエア供給は、エア供給元ホース46を途中で2つに分岐させ、一方のエア供給ホース46aを前記エア流入口42bに接続し、他方のエア供給ホース46bをエアシリンダ44に接続するようにし、それぞれのエア供給路中間に設けた電磁弁47a、47bによりエア供給・エア停止が制御されるようになっている。なお、前記エアシリンダ44は内設されたスプリング44aによってピストン44bが外方に付勢された構造のシリンダであり、エアを供給しスプリング44aを収縮させることにより蓋体45の閉鎖が行われるようになっている。蓋体45の開閉制御としては、たとえば吹付け作業時や水洗い作業時にはエアを供給することにより蓋体45を閉めるようにすれば、リバウンドしたモルタルやコンクリートが収納函体42内部に流入するのを完全に防止できるようになる。
【0029】実際の吹付け厚測定に当たっては、図8に示されるように、先ず測定断面毎に測定角度ピッチを制御器に入力しておき、吹付け前に掘削完了後の素掘面に対して前記吹付け装置4をトンネル周回りに旋回させて前記測定角度ピッチ位置で停止させてトンネル周回りに沿った素掘面の形状計測を行うか、または旋回移動させながら素掘面の形状計測を行うようにする。旋回移動させながら形状計測を行う場合には、測点間隔を小さく設定する事により実際の断面形状に近似した断面形状データが得られるようになるとともに、多くの計測点を短時間に計測できるようになる。
【0030】この素掘計測データは、コンピューター50に送られた後、データ処理が行われ、図9に示されるように、コンピューターモニタ50A上に素掘形状線51として描画されるとともに、この素掘形状線51に基づいてその内側に設計吹付け形状線52が描画されるようになっている。また、吹付け装置4の位置も同時にコンピューターモニタ50A上に表示されるようになっている。
【0031】上記素掘形状計測が完了したならば、次いで吹付け装置4を稼働しコンクリート、モルタル等の吹付け作業を開始する。吹付け途中の任意段階または吹付け完了段階で素掘面の計測位置と同角度位置で吹付け面に対する現吹付け厚測定を行う。この形状計測データは前記素掘形状計測と同様にコンピューター50によってデータ処理され、コンピューターモニタ50A上に現吹付け厚形状線53として描画される。
【0032】操縦者は、コンピューターモニタ50A上に表示された3本の形状線、すなわち素掘形状線51,設計吹付け厚形状線52および現吹付け厚形状線53により現吹付け状況を把握することができるようになる。
【0033】図9に示されるように、吹付け作業のほぼ完了時点で、設計吹付け厚に対して余掘、剥落などの不連続箇所が存在するため、部分的に吹付け厚が足らないような状況が生じているならば、コンピューターモニタ50A上に描画された設計吹付け厚形状線52と現吹付け厚形状線53とを比較しながら設計吹付け厚に足らないエリア部分を増厚するように吹付け装置4を移動制御して吹付けを行い、トンネル周方向の全周に亘って設計吹付け厚通りにコンクリートまたはモルタル等の吹付け作業を行う。
【0034】〔吹付け手順〕以下、具体的に図10を参照しながらトンネル掘削と併行しながら行う吹付け手順について詳述する。
【0035】先ず、TBM2の後方側に連行するずり鋼車に連結したリフトタンク(吹付材料運搬車)をTBM後続台車最後部付近で切り離し、坑内に配置しているバッテリーロコにて先頭の後続台車位置まで移動させる。
【0036】吹付け装置1は、TBM2のスラストジャッキ36,36…の全伸び時(1サイクル掘進の完了時)には溝型レール13A、13Bの最後部位置に待機させておく。この状態が図10(A)である。この状態からTBM2はスラストジャッキ36,36…を収縮させ、すなわち後胴2Cを前進させて次のサイクル掘進の準備に入る。一回のストローク伸縮長さは、本例では1サイクル掘進長に相当する1200mmである。図10(B)に示されるように、後胴2Cが1200mm分だけ前進したならば、この前進長に相当する1200mm長さ範囲に亘って掘削素掘面が露出することになり、この範囲を1回の吹付け対象区間として吹付けが行われる。具体的には、後胴2Cを前進させ、次サイクルのために後胴2Cを地山に固定した後、前記前胴2Aの前進によって次サイクル分の掘進を行っている間に行われる。なお、TBMテール部との間には干渉防止のために、常時300mmのクリアランスが確保されるようになっている。
【0037】吹付け装置1の制御器は「前回の吹付け完了位置」を座標として記憶しており、この位置まで自動的に前進するとともに、TBM2からテール部位置情報を受け取ることにより、これから吹付け可能な距離を自動判断するようになっている。また、TBM2の位置情報の取得に基づいて吹付け装置1の自己座標を補正することにより、TBM2の掘進により吹付け装置1に位置変化があっても前回の吹付け終了座標位置から常に吹付けを開始できるようになっている。
【0038】掘削完了後の素掘面には、掘削による掘削カスやヘドロが付着しているため、吹付けポンプにより吹付材の吹付けを行う前に素掘面の水洗いを行う。掘削面の水洗いを終えた吹付け装置1は、吹付け対象区間(前記1200mm区間)の略中央位置、または複数断面位置にて吹付け装置1を周方向レール3に沿って旋回させ、所定の角度ピッチ間隔でまたは旋回移動させながら素掘面形状の測定を行う。測定断面位置数は、均一断面の場合には測定箇所は1断面でもよいが、不連続断面などの場合には複数断面を計測するのが望ましい。この素掘面形状計測のデータは前述したように、コンピューター50によって処理され、モニタ50A上に素掘形状線51として描画されるとともに、設計吹付け厚形状線52がその内側に描画される。
【0039】水洗いおよび素掘面形状計測を終えたならば前回の吹付け完了位置に戻り、この位置からコンクリート、モルタルなどの吹付材の吹付けを開始する。
【0040】吹付けに当たっては、基本的には吹付吐出量を一定とし一定速度の前進速度および旋回速度の条件の下で吹付けを行うことにするが、本吹付け設備1の場合には、掘進のために前胴2Aが前進し、かつ前胴2Aに連結されている接続設備11が前進しても、吹付け装置4の位置は掘進の影響によって変化することがないため、吹付け装置4の前進速度は吹付け装置単独で制御を行えば良い。なお、吹付けは、一回の走行により設計厚の吹付けを行う1層吹きとするよりは、仕上がり面の平滑さを考慮して2層吹きまたは多層吹きを基本として行うようにするのがよく、また余掘、湧水や剥離によって生じた吹付け面の不連続壁面に対しては旋回移動速度を調整することにより吹付け面が均一になるように吹付けするようにする。
【0041】吹付け範囲区間に亘って吹付けを完了したならば、次に素掘面の形状計測と同じ要領により吹付け面に対する形状計測を行う。その結果、設計吹付け厚に足らない箇所や不連続な仕上がり面が発見されたならば、その部位に対して重ねて吹付けを行い、最終的にトンネル全周に亘って設計吹付け厚または円滑な仕上がり面になったことが確認されたならば、吹付けを完了し、一旦吹付け完了位置に戻り、吹付け完了位置を記憶した後、図10(A)に示されるように、最後部位置まで下がり次回の吹付けに備え待機する。
【0042】
【発明の効果】以上詳説のとおり本発明によれば、トンネル吹付け時において、TBMの掘進による影響によって吹付け装置が相対的に移動することがなくなるため、吹付け装置の移動制御は吹付け装置単独の制御のみで足りるようになる。その結果、位置計算の複雑なプロセスが不要となるとともに、吹付け装置を精度良く移動制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本吹付け設備1を一体的に備えるTBMの全体図である。
【図2】本吹付け設備1の全体側面図である。
【図3】その正面図である。
【図4】吹付け装置4の拡大側面図である。
【図5】吹付け装置4の拡大背面図である。
【図6】レーザー距離測定器6の拡大側面図である。
【図7】レーザー距離測定器6のエア供給系統図である。
【図8】吹付け厚管理フロー図である。
【図9】コンピューターモニタ上への吹付け厚測定結果の描画要領図である。
【図10】TBM掘進に併行した吹付け手順図である。
【符号の説明】
1…吹付け設備、2…TBM、2A…前胴、2B…中胴、2C…後胴、3…周方向レール部材、4…吹付け装置、5…後続台車、6…レーザー距離測定器、11…ズリ等搬送装置(接続設備)、32…カッターヘッド、33…土砂取り込み用チャンバ、34…メイングリッパ、35…フロントグリッパ、36…スラストジャッキ、42…収納函体、42a…レーザー発射口部、42b…エア流入口、45…蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】トンネル掘進時において、機体後部を固定した状態としカッターヘッドを備える機体前部を前進させることにより掘進を行うとともに、掘削機後方の後続台車と接続され前記機体前部と共に一体的に移動する接続設備を備えるトンネル掘削機を対象として、前記トンネル掘削機の後方位置であってかつ前記接続設備に対し、吹付け装置を支持する走行基体をトンネル長手方向に移動自在の条件の下で取付けるとともに、前記走行基体と、トンネル掘進時に固定支持される前記機体後部とを移動制御用シリンダによって相互に連結したことを特徴とするトンネル掘削機に対する吹付け設備取付け構造。
【請求項2】前記吹付け設備は、前記接続設備に取り付けられトンネル長手方向に沿って移動自在とされる走行基体と、トンネル周方向壁面より内側にほぼ一定の離間距離をおいてトンネル周方向に沿って形成された走行レール面を有するとともに、前記走行基体によって支持される周方向レール部材と、この周方向レール部材上に搭載され前記走行レール面に沿ってトンネル周方向回りに走行自在とされる吹付け装置とにより構成される設備である請求項1記載のトンネル掘削機に対する吹付け設備取付け構造。
【請求項3】前記請求項1〜2いずれかに記載の吹付け設備を用いてトンネル掘削と併行しながら掘削壁面に吹付けを行うための吹付け方法であって、順次、1サイクル分の掘進が完了したならば、機体後部を前記1サイクル掘進長さ分だけ前進し地山に固定した後、前記機体前部の前進によって次サイクル分の掘進を行う間に、前記機体後部の前進によって露出した掘削壁面部分を対象として吹付けを行うことを特徴とするトンネル吹付け方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2001−227291(P2001−227291A)
【公開日】平成13年8月24日(2001.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−42436(P2000−42436)
【出願日】平成12年2月21日(2000.2.21)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】