トーショナルダンパ
【課題】トーショナルダンパにおける空気の流通を向上させることにより、弾性体への熱の蓄積を有効に抑制して、防振性能の低下を防止する。
【解決手段】ハブ1と、このハブ1の支持筒部13の外周側に同心配置された環状質量体22,32と、前記ハブ1と環状質量体22,32を弾性的に連結する弾性体23,33からなるダンパ部2,3を備え、前記支持筒部13に通気切欠13aが開設され、この通気切欠13aに、前記支持筒部13の内周側かつ前記ハブ1の回転方向へ延びるフィン34が配置される。
【解決手段】ハブ1と、このハブ1の支持筒部13の外周側に同心配置された環状質量体22,32と、前記ハブ1と環状質量体22,32を弾性的に連結する弾性体23,33からなるダンパ部2,3を備え、前記支持筒部13に通気切欠13aが開設され、この通気切欠13aに、前記支持筒部13の内周側かつ前記ハブ1の回転方向へ延びるフィン34が配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンのクランクシャフト等、回転軸に発生する捩り振動を吸収するトーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンのクランクシャフトに、回転に伴って生じる捩り振動(回転方向の振動)の振幅増大による不具合の発生を防止するために取り付けられるトーショナルダンパとして、二組のダンパ部を備える、いわゆるダブルマス型のトーショナルダンパがある。
【0003】
図16は、従来のダブルマス型のトーショナルダンパの一例を示すもので、内周のボス部101aにおいてクランクシャフトの軸端に取り付けられる第一のハブ101と、この第一のハブ101の外周側に同心的に配置された環状質量体102を、両者間にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体に加硫成形された弾性体103を介して弾性的に連結した構造の第一のダンパ部100を備えると共に、第一のハブ101における軸方向一側に円周方向複数の螺子204によって結合された第二のハブ201と、この第二のハブ201の外周側に同心的に配置された環状質量体202を、両者間にゴム状弾性材料で一体に加硫成形された弾性体203を介して弾性的に連結した構造の第二のダンパ部200を備える。第一のダンパ部100と第二のダンパ部200には、互いに異なる捩り方向共振周波数が設定されている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
この種のトーショナルダンパにおいて、弾性体103,203は、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を吸収・減衰するものであり、言い換えれば、弾性体103,203は捩り振動の入力を受けて反復変形するのに伴い、内部摩擦によって発熱する。そして一般に、ダブルマス型のトーショナルダンパは、第一のダンパ部100と第二のダンパ部200の間で空気の流れが悪いため、熱の蓄積によって弾性体103,203が劣化し、所要の性能を得られなくなるおそれがある。
【0005】
したがって、この図16に示す従来技術では、第二のダンパ部200の外側(フロント側)に、第一のハブ101と第二のハブ201を結合している螺子204を利用して、複数のスペーサ301を介して羽根部材300を取り付け、回転時の羽根部材300の遠心ポンプ作用によって、フロント側から羽根部材300の筒部300aの内周空間を通って迂回して第二のダンパ部200の正面空間を外径側へ抜ける空気の流れFを惹起し、放熱を促すようにしている(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−326846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術によれば、空気の流れFが第二のダンパ部200の正面空間を外径側へ抜けるものであるため、第一のダンパ部100と第二のダンパ部200の間で空気の流れが依然として悪く、空冷効果が十分ではなかった。しかも、トーショナルダンパ本体とは別部材の羽根部材300や、これを取り付けるための複数のスペーサ301等を用いるため、部品数が多くなり、コストが高くなる問題がある。
【0008】
また、ダンパ部を一組のみ備える、いわゆるシングルマス型のトーショナルダンパであっても、トーショナルダンパとその背面側のエンジンとの間で空気の流れが悪く、弾性体からの放熱が十分ではない場合があった。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、トーショナルダンパにおける空気の流通を向上させることにより、弾性体への熱の蓄積を有効に抑制して、防振性能の低下を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトーショナルダンパは、ハブと、このハブの支持筒部の外周側に同心配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなるダンパ部を備え、前記ハブの支持筒部に通気切欠が開設され、この通気切欠に、前記支持筒部の内周側かつ前記ハブの回転方向へ延びるフィンが配置されたものである。
【0011】
また、請求項2の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1に記載された構成において、ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置され、通気切欠及びフィンが前記複数のダンパ部の間に位置するものである。
【0012】
また、請求項3の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1又は2に記載された構成において、弾性体が、ハブの支持筒部に嵌着されたスリーブと、その外周側に同心配置された環状質量体の間に成形されたものであり、フィンが前記スリーブから延在されたものである。
【0013】
また、請求項4の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1〜3のいずれかに記載された構成において、円周方向に対するフィンの勾配が、通気切欠側で大きく、先端側ほど小さくなるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るトーショナルダンパによれば、回転時には、フィンによる空気のすくい上げ作用及び遠心力によって、空気がハブの支持筒部の内周空間から通気切欠を通って外周側へ流れる顕著な気流を生じ、ダンパ部における弾性体で発生する熱が効率良く放出されるので、熱の蓄積による弾性体の劣化を防止して、初期の防振性能を維持することができる。特に、ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置されたものにおいては、各ダンパ部の間の空間を外周側へ流れる顕著な気流を生じさせることによって、各ダンパ部の弾性体で発生する熱を効率良く放出させることができる。
【0015】
また、フィンがスリーブから延在して形成されたものとすることによって、フィンの取り付けによる部品数の増加を来たさない。
【0016】
また、フィンの形状を、通気切欠側で勾配が大きく、先端側ほど勾配が小さくなるようにすることで、回転による空気のすくい上げ作用が一層顕著になるので、放熱効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図3】図2のIII−III線で切断して示す断面図である。
【図4】図3の一部を拡大した部分断面図である。
【図5】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態におけるハブの斜視図である。
【図6】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態におけるハブと第二のダンパ部の嵌着状態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態における組み立て前の状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図8】本発明に係るトーショナルダンパの第二の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図9】図8における軸心Oと直交するIX線で切断して示す断面図である。
【図10】本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図11】図10における軸心Oと直交するXI線で切断して示す断面図である。
【図12】本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態における組み立て前の状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図13】本発明に係るトーショナルダンパの第四の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図14】図13の背面側から見た図である。
【図15】本発明に係るトーショナルダンパの第五の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図16】従来のダブルマス型のトーショナルダンパの一例を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において「正面側」とは、図2における左側であって車両のフロント側のことであり、「背面側」とは図2における右側であって不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0019】
まず第一の実施の形態によるトーショナルダンパは、図1及び図2に示すように、ハブ1と、このハブ1の外周に取り付けられ、軸方向に互いに離間配置された第一のダンパ部2及び第二のダンパ部3を備える。
【0020】
ハブ1は、金属材料の鋳造などにより製作されたものであって、図5及び図7に示すように、クランクシャフトに固定される内筒部11と、その外周から径方向へ延びる中間部12と、その外径端部から円筒状に延びる支持筒部13とを有する。なお、参照符号11aは、内筒部11の内周の軸孔に形成されたキー溝である。
【0021】
第一のダンパ部2は、ハブ1の支持筒部13のうち背面側寄りの外周面に嵌着された金属製のスリーブ21と、その外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体22と、この環状質量体22を前記スリーブ21の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体23とで構成される。弾性体23は、スリーブ21の外周面と環状質量体22の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、すなわち第一のダンパ部2はブッシュタイプの構造となっている。環状質量体22における第二のダンパ部3側の端面には、図3及び図4にも示すように、外径側へ開放された凹部22a(言い換えれば凹部22a間のリブ22b)が円周方向等間隔で多数形成されている。
【0022】
また、第二のダンパ部3は、ハブ1の支持筒部13のうち正面側寄りの外周面に嵌着された金属製のスリーブ31の外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体32と、この環状質量体32を前記スリーブ31の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体33とで構成される。弾性体33は、スリーブ31の外周面と環状質量体32の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、このため第二のダンパ部3もブッシュタイプの構造となっている。
【0023】
第一のダンパ部2と第二のダンパ部3は、環状質量体22,32の円周方向慣性質量の相違や、弾性体23,33の円周方向剪断ばね定数の相違によって、互いに異なる共振周波数が設定されている。
【0024】
ハブ1の中間部12には、円周方向等間隔で複数の開口部12aが開設されており、支持筒部13には、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間に位置して、円周方向等間隔で複数の通気切欠13aが開設されており、各通気切欠13aには、フィン34が配置されている。
【0025】
第二のダンパ部3のスリーブ31は、その背面側を向いた端部31aが弾性体33の内周から背面側へ突出しており、ハブ1における各通気切欠13aに配置されたフィン34は、前記端部31aから延在されたものである。詳しくは、フィン34は、第二のダンパ部3のスリーブ31における背面側の端部31aから、通気切欠13aを通って支持筒部13の内周側かつハブ1の回転方向(図3及び図4における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0026】
このトーショナルダンパは、ハブ1の支持筒部13の外周面に、第一のダンパ部2におけるスリーブ21及び第二のダンパ部3におけるスリーブ31を嵌着することによって組み立てられる。
【0027】
ここで、図7に示す組み立て前の状態では、第二のダンパ部3におけるスリーブ31の背面側の端部31aには、軸方向に延びる部分と円周方向に延びる部分からなるL字形の切り込み31bによって舌片34aが形成されており、スリーブ31をハブ1の支持筒部13の外周面に圧入嵌着する際には、スリーブ31の舌片34aが前記支持筒部13に開設された通気切欠13aと位相上一致するように、円周方向に位置合わせを行う。そして、スリーブ31をハブ1の支持筒部13の外周面に所定の軸方向位置まで圧入して嵌着することによって、各舌片34aが各通気切欠13aに位置することになるため、各舌片34aを内周側へ打ち出し屈曲変形させることによって、図6に示すようなフィン34が形成されるのである。
【0028】
以上のように構成された第一の実施の形態のトーショナルダンパは、ハブ1の内筒部11において内燃機関のクランクシャフトに取り付けられることによって、このクランクシャフトと共に回転しながら、ハブ1を介して入力されるクランクシャフトの捩り振動の振幅が極大となる周波数域で、第一のダンパ部2又は第二のダンパ部3が、入力振動と異なる位相角をもって共振し、その共振運動によるトルクが入力振動のトルクを相殺する方向へ生じることによって、クランクシャフトの捩り振動のピークを有効に低減するものである。そして、第一のダンパ部2又は第二のダンパ部3には、異なる共振周波数が設定されているため、広い回転数域で優れた制振機能を奏することができる。
【0029】
ここで、トーショナルダンパは図3及び図4における時計回りの方向へ回転することによって、第二のダンパ部3におけるスリーブ31の背面側の端部31aに形成されたフィン34が、ハブ1の支持筒部13の内周空間に存在する空気を外周側へすくい上げるポンピング機能を奏する。しかもフィン34の回転によりすくい上げられる空気には遠心力も作用するため、トーショナルダンパの正面側から、ハブ1の支持筒部13の内周空間を経てフィン34によりすくい上げられ、通気切欠13aを通過して、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間を外周側へ放出される。
【0030】
しかも、フィン34は、円周方向に対する勾配が通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されているため、フィン34の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン34の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏するものである。
【0031】
加えて、第一のダンパ部2の環状質量体22における第二のダンパ部3側の端面には、多数の凹部22aとリブ22bが円周方向交互に形成されているので、これが遠心式の羽根車のように機能して、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間に存在する空気を遠心力により外周側へ放出するポンプ作用を奏する。このため、フィン34によるポンプ作用との協働によって、図2及び図4に破線で示すような顕著な気流Fを生じる。なお、ハブ1の支持筒部13の内周空間における気流Fの一部は、ハブ1の中間部12の開口部12aを通ってトーショナルダンパの背面側からも流入する。
【0032】
そして、第一のダンパ部2における弾性体23及び第二のダンパ部3における弾性体33は、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を吸収・減衰するものであり、言い換えれば、弾性体23,33は第一のダンパ部2及び第二のダンパ部3の捩り方向共振動作に伴って繰り返し剪断変形を受けるので、内部摩擦によって発熱するが、上述のように、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間には顕著な気流Fが生じているので、弾性体23,33で発生した熱は、この気流Fによって効率良く除去される。したがって、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間に熱がこもってしまうようなことがなく、弾性体23,33に熱による材質の劣化及びこれによる特性変化が起きたり、亀裂が発生したりするのを有効に防止して、初期の防振性能を維持することができる。
【0033】
しかも、フィン34が第二のダンパ部3のスリーブ31から延びるものであるため、部品数の増加を来たさない。
【0034】
なお、フィン34は、第一のダンパ部2のスリーブ21に形成されたものとすることもできる。
【0035】
図8及び図9は、本発明に係るトーショナルダンパの第二の実施の形態を示すものである。すなわち第二の実施の形態において上述した第一の実施の形態と異なるところは、フィンをスリーブ31あるいはスリーブ21に形成する代わりにハブ1の支持筒部13に形成したことにある。
【0036】
詳しくは、ハブ1は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13及びその背面側の端部から内径側へ延びる円盤部14とからなり、円盤部14の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔14aとなっている。そしてフィン15は、ハブ1の支持筒部13の軸方向中間部分すなわち第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の部分を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって、円周方向等間隔で複数形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が開口した部分が通気切欠13aとなっている。
【0037】
フィン15は、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図9における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0038】
以上のように構成された第二の実施の形態のトーショナルダンパも、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏すると共に、第一のダンパ部2の環状質量体22に形成された多数の凹部22aとリブ22bが遠心式の羽根車のように機能するため、フィン15によるポンプ作用との協働によって顕著な気流を生じ、第一の実施の形態と同様の放熱効果を実現することができる。
【0039】
加えて、フィン15が通気切欠13aと共にハブ1の支持筒部13に一度に形成されるため、構造も一層簡素化することができる。
【0040】
図10及び図11は、本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態を示すものである。上述した第一及び第二の実施の形態はいずれも、第一及び第二のダンパ部2,3における弾性体23,33が、ハブ1の支持筒部13の外周面に嵌着される金属製のスリーブ21,31と、その外周側に同心配置された環状質量体22,32の間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたブッシュタイプの構造であるのに対し、図10及び図11に示す第三の実施の形態は、第一及び第二のダンパ部2,3を嵌合タイプとしたものである。
【0041】
詳しくは、第一及び第二のダンパ部2,3における弾性体23,33は、ハブ1の支持筒部13とその外周側に同心配置された環状質量体22,32との間に圧入嵌合されている。ハブ1は図8及び図9に示す第二の実施の形態と同様、金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13及びその背面側の端部から内径側へ延びる円盤部14とからなり、円盤部14の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔14aとなっている。また、ハブ1の支持筒部13と環状質量体22,32の内周面は、互いに対応して径方向へ起伏したうねり形状に形成されており、このため両者間に介在する弾性体23,33もこれに倣ってそれぞれ軸方向中間位置で径方向へ蛇行しており、これによって嵌合状態の安定化が図られている。
【0042】
フィン15は、ハブ1の支持筒部13の軸方向中間部分、すなわち第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の部分(弾性体23,33の嵌合位置の間の部分)を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって、円周方向等間隔で複数形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が開口した部分が通気切欠13aとなっている。そしてフィン15は、第二の実施の形態と同様、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図11における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0043】
したがって第三の実施の形態のトーショナルダンパも、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、遠心力との協働によって外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏すると共に、第一のダンパ部2の環状質量体22に形成された多数の凹部22aとリブ22bがインペラのように機能するため、フィン15によるポンプ作用との協働によって顕著な気流を生じ、第一の実施の形態と同様の放熱効果を実現することができる。
【0044】
また、このトーショナルダンパは、図12に示すように、予め通気切欠13a及びフィン15が形成されたハブ1の支持筒部13の外周に、環状質量体22,32を前記通気切欠13aの軸方向両側に位置するように同心配置して、弾性体23を、支持筒部13の外周面と環状質量体22の内周面との間に背面側から圧入嵌着し、弾性体33を、支持筒部13の外周面と環状質量体32の内周面との間に正面側から圧入嵌着することで組み立てられる。
【0045】
次に、図13及び図14は、本発明に係るトーショナルダンパの第四の実施の形態を示すものである。上述した各実施の形態は、いずれも本発明をダブルマス型のトーショナルダンパについて適用したものであるのに対し、図13及び図14に示す第四の実施の形態は、本発明をシングルマス型のトーショナルダンパについて適用したものである。
【0046】
すなわちこのシングルマス型のトーショナルダンパは、ハブ1と、このハブ1の外周に取り付けられた単一のダンパ部4を備える。
【0047】
詳しくは、ハブ1は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13と、その正面側の端部から内径側へ延びる外径側円盤部16及びその内径側に円錐筒部17を介して外径側円盤部16より背面側へ偏在して形成された内径側円盤部18とからなり、内径側円盤部18の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔18aとなっている。外径側円盤部16には、円周方向所定間隔で複数の通気窓16aが開設されている。
【0048】
ダンパ部4は、ハブ1の支持筒部13の外周面に嵌着された金属製のスリーブ41と、その外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体42と、この環状質量体42を前記スリーブ41の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料からなる環状の弾性体43とで構成される。弾性体43は、スリーブ21の外周面と環状質量体22の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、このためダンパ部4はブッシュタイプの構造となっている。
【0049】
ハブ1の支持筒部13における背面側の端部は、ダンパ部4におけるスリーブ41の背面側の端部から突出しており、この突出部には円周方向等間隔で複数のフィン15が形成されている。このフィン15は、支持筒部13の背面側の端部を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が切断された部分は通気切欠13aとなっている。そしてこのフィン15は、第二及び第三の実施の形態と同様、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図14における反時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0050】
以上のように構成された第四の実施の形態のトーショナルダンパによれば、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、遠心力によって外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏する。そしてこれに伴い、ハブ1の外径側円盤部16に開設された通気窓16aを通じて、トーショナルダンパの正面側の空気が支持筒部13の内周空間へ流入するため、図13に破線矢印で示すように、トーショナルダンパの正面側から通気窓16a、支持筒部13の内周空間、及び通気切欠13aを通じて、ダンパ部4の背面とエンジンとの間を外径側へ抜ける顕著な気流Fを生じる。
【0051】
このため、トーショナルダンパとその背面側の不図示のエンジンとの間で高温の空気が滞留することがなく、弾性体43からの放熱を効率良く行うことができる。
【0052】
図15は、本発明に係るトーショナルダンパの第五の実施の形態を示すものである。このトーショナルダンパもシングルマス型であって、ダンパ部4を嵌合タイプとした点以外は、基本的に上述した第四の実施の形態と同様の構成を備えるものである。
【0053】
したがってこの実施の形態においても、トーショナルダンパとその背面側の不図示のエンジンとの間で高温の空気が滞留することがなく、弾性体43からの放熱を効率良く行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ハブ
12a 開口部
13 支持筒部
13a 通気切欠
15,34 フィン
16a 通気窓
2 第一のダンパ部
21,31,41 スリーブ
22,32,42 環状質量体
22a 凹部
22b リブ
23,33,43 弾性体
3 第二のダンパ部
4 ダンパ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンのクランクシャフト等、回転軸に発生する捩り振動を吸収するトーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンのクランクシャフトに、回転に伴って生じる捩り振動(回転方向の振動)の振幅増大による不具合の発生を防止するために取り付けられるトーショナルダンパとして、二組のダンパ部を備える、いわゆるダブルマス型のトーショナルダンパがある。
【0003】
図16は、従来のダブルマス型のトーショナルダンパの一例を示すもので、内周のボス部101aにおいてクランクシャフトの軸端に取り付けられる第一のハブ101と、この第一のハブ101の外周側に同心的に配置された環状質量体102を、両者間にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体に加硫成形された弾性体103を介して弾性的に連結した構造の第一のダンパ部100を備えると共に、第一のハブ101における軸方向一側に円周方向複数の螺子204によって結合された第二のハブ201と、この第二のハブ201の外周側に同心的に配置された環状質量体202を、両者間にゴム状弾性材料で一体に加硫成形された弾性体203を介して弾性的に連結した構造の第二のダンパ部200を備える。第一のダンパ部100と第二のダンパ部200には、互いに異なる捩り方向共振周波数が設定されている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
この種のトーショナルダンパにおいて、弾性体103,203は、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を吸収・減衰するものであり、言い換えれば、弾性体103,203は捩り振動の入力を受けて反復変形するのに伴い、内部摩擦によって発熱する。そして一般に、ダブルマス型のトーショナルダンパは、第一のダンパ部100と第二のダンパ部200の間で空気の流れが悪いため、熱の蓄積によって弾性体103,203が劣化し、所要の性能を得られなくなるおそれがある。
【0005】
したがって、この図16に示す従来技術では、第二のダンパ部200の外側(フロント側)に、第一のハブ101と第二のハブ201を結合している螺子204を利用して、複数のスペーサ301を介して羽根部材300を取り付け、回転時の羽根部材300の遠心ポンプ作用によって、フロント側から羽根部材300の筒部300aの内周空間を通って迂回して第二のダンパ部200の正面空間を外径側へ抜ける空気の流れFを惹起し、放熱を促すようにしている(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−326846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術によれば、空気の流れFが第二のダンパ部200の正面空間を外径側へ抜けるものであるため、第一のダンパ部100と第二のダンパ部200の間で空気の流れが依然として悪く、空冷効果が十分ではなかった。しかも、トーショナルダンパ本体とは別部材の羽根部材300や、これを取り付けるための複数のスペーサ301等を用いるため、部品数が多くなり、コストが高くなる問題がある。
【0008】
また、ダンパ部を一組のみ備える、いわゆるシングルマス型のトーショナルダンパであっても、トーショナルダンパとその背面側のエンジンとの間で空気の流れが悪く、弾性体からの放熱が十分ではない場合があった。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、トーショナルダンパにおける空気の流通を向上させることにより、弾性体への熱の蓄積を有効に抑制して、防振性能の低下を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトーショナルダンパは、ハブと、このハブの支持筒部の外周側に同心配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなるダンパ部を備え、前記ハブの支持筒部に通気切欠が開設され、この通気切欠に、前記支持筒部の内周側かつ前記ハブの回転方向へ延びるフィンが配置されたものである。
【0011】
また、請求項2の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1に記載された構成において、ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置され、通気切欠及びフィンが前記複数のダンパ部の間に位置するものである。
【0012】
また、請求項3の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1又は2に記載された構成において、弾性体が、ハブの支持筒部に嵌着されたスリーブと、その外周側に同心配置された環状質量体の間に成形されたものであり、フィンが前記スリーブから延在されたものである。
【0013】
また、請求項4の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1〜3のいずれかに記載された構成において、円周方向に対するフィンの勾配が、通気切欠側で大きく、先端側ほど小さくなるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るトーショナルダンパによれば、回転時には、フィンによる空気のすくい上げ作用及び遠心力によって、空気がハブの支持筒部の内周空間から通気切欠を通って外周側へ流れる顕著な気流を生じ、ダンパ部における弾性体で発生する熱が効率良く放出されるので、熱の蓄積による弾性体の劣化を防止して、初期の防振性能を維持することができる。特に、ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置されたものにおいては、各ダンパ部の間の空間を外周側へ流れる顕著な気流を生じさせることによって、各ダンパ部の弾性体で発生する熱を効率良く放出させることができる。
【0015】
また、フィンがスリーブから延在して形成されたものとすることによって、フィンの取り付けによる部品数の増加を来たさない。
【0016】
また、フィンの形状を、通気切欠側で勾配が大きく、先端側ほど勾配が小さくなるようにすることで、回転による空気のすくい上げ作用が一層顕著になるので、放熱効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図3】図2のIII−III線で切断して示す断面図である。
【図4】図3の一部を拡大した部分断面図である。
【図5】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態におけるハブの斜視図である。
【図6】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態におけるハブと第二のダンパ部の嵌着状態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るトーショナルダンパの第一の実施の形態における組み立て前の状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図8】本発明に係るトーショナルダンパの第二の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図9】図8における軸心Oと直交するIX線で切断して示す断面図である。
【図10】本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図11】図10における軸心Oと直交するXI線で切断して示す断面図である。
【図12】本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態における組み立て前の状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図13】本発明に係るトーショナルダンパの第四の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図14】図13の背面側から見た図である。
【図15】本発明に係るトーショナルダンパの第五の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図16】従来のダブルマス型のトーショナルダンパの一例を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において「正面側」とは、図2における左側であって車両のフロント側のことであり、「背面側」とは図2における右側であって不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0019】
まず第一の実施の形態によるトーショナルダンパは、図1及び図2に示すように、ハブ1と、このハブ1の外周に取り付けられ、軸方向に互いに離間配置された第一のダンパ部2及び第二のダンパ部3を備える。
【0020】
ハブ1は、金属材料の鋳造などにより製作されたものであって、図5及び図7に示すように、クランクシャフトに固定される内筒部11と、その外周から径方向へ延びる中間部12と、その外径端部から円筒状に延びる支持筒部13とを有する。なお、参照符号11aは、内筒部11の内周の軸孔に形成されたキー溝である。
【0021】
第一のダンパ部2は、ハブ1の支持筒部13のうち背面側寄りの外周面に嵌着された金属製のスリーブ21と、その外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体22と、この環状質量体22を前記スリーブ21の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体23とで構成される。弾性体23は、スリーブ21の外周面と環状質量体22の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、すなわち第一のダンパ部2はブッシュタイプの構造となっている。環状質量体22における第二のダンパ部3側の端面には、図3及び図4にも示すように、外径側へ開放された凹部22a(言い換えれば凹部22a間のリブ22b)が円周方向等間隔で多数形成されている。
【0022】
また、第二のダンパ部3は、ハブ1の支持筒部13のうち正面側寄りの外周面に嵌着された金属製のスリーブ31の外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体32と、この環状質量体32を前記スリーブ31の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の弾性体33とで構成される。弾性体33は、スリーブ31の外周面と環状質量体32の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、このため第二のダンパ部3もブッシュタイプの構造となっている。
【0023】
第一のダンパ部2と第二のダンパ部3は、環状質量体22,32の円周方向慣性質量の相違や、弾性体23,33の円周方向剪断ばね定数の相違によって、互いに異なる共振周波数が設定されている。
【0024】
ハブ1の中間部12には、円周方向等間隔で複数の開口部12aが開設されており、支持筒部13には、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間に位置して、円周方向等間隔で複数の通気切欠13aが開設されており、各通気切欠13aには、フィン34が配置されている。
【0025】
第二のダンパ部3のスリーブ31は、その背面側を向いた端部31aが弾性体33の内周から背面側へ突出しており、ハブ1における各通気切欠13aに配置されたフィン34は、前記端部31aから延在されたものである。詳しくは、フィン34は、第二のダンパ部3のスリーブ31における背面側の端部31aから、通気切欠13aを通って支持筒部13の内周側かつハブ1の回転方向(図3及び図4における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0026】
このトーショナルダンパは、ハブ1の支持筒部13の外周面に、第一のダンパ部2におけるスリーブ21及び第二のダンパ部3におけるスリーブ31を嵌着することによって組み立てられる。
【0027】
ここで、図7に示す組み立て前の状態では、第二のダンパ部3におけるスリーブ31の背面側の端部31aには、軸方向に延びる部分と円周方向に延びる部分からなるL字形の切り込み31bによって舌片34aが形成されており、スリーブ31をハブ1の支持筒部13の外周面に圧入嵌着する際には、スリーブ31の舌片34aが前記支持筒部13に開設された通気切欠13aと位相上一致するように、円周方向に位置合わせを行う。そして、スリーブ31をハブ1の支持筒部13の外周面に所定の軸方向位置まで圧入して嵌着することによって、各舌片34aが各通気切欠13aに位置することになるため、各舌片34aを内周側へ打ち出し屈曲変形させることによって、図6に示すようなフィン34が形成されるのである。
【0028】
以上のように構成された第一の実施の形態のトーショナルダンパは、ハブ1の内筒部11において内燃機関のクランクシャフトに取り付けられることによって、このクランクシャフトと共に回転しながら、ハブ1を介して入力されるクランクシャフトの捩り振動の振幅が極大となる周波数域で、第一のダンパ部2又は第二のダンパ部3が、入力振動と異なる位相角をもって共振し、その共振運動によるトルクが入力振動のトルクを相殺する方向へ生じることによって、クランクシャフトの捩り振動のピークを有効に低減するものである。そして、第一のダンパ部2又は第二のダンパ部3には、異なる共振周波数が設定されているため、広い回転数域で優れた制振機能を奏することができる。
【0029】
ここで、トーショナルダンパは図3及び図4における時計回りの方向へ回転することによって、第二のダンパ部3におけるスリーブ31の背面側の端部31aに形成されたフィン34が、ハブ1の支持筒部13の内周空間に存在する空気を外周側へすくい上げるポンピング機能を奏する。しかもフィン34の回転によりすくい上げられる空気には遠心力も作用するため、トーショナルダンパの正面側から、ハブ1の支持筒部13の内周空間を経てフィン34によりすくい上げられ、通気切欠13aを通過して、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間を外周側へ放出される。
【0030】
しかも、フィン34は、円周方向に対する勾配が通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されているため、フィン34の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン34の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏するものである。
【0031】
加えて、第一のダンパ部2の環状質量体22における第二のダンパ部3側の端面には、多数の凹部22aとリブ22bが円周方向交互に形成されているので、これが遠心式の羽根車のように機能して、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間に存在する空気を遠心力により外周側へ放出するポンプ作用を奏する。このため、フィン34によるポンプ作用との協働によって、図2及び図4に破線で示すような顕著な気流Fを生じる。なお、ハブ1の支持筒部13の内周空間における気流Fの一部は、ハブ1の中間部12の開口部12aを通ってトーショナルダンパの背面側からも流入する。
【0032】
そして、第一のダンパ部2における弾性体23及び第二のダンパ部3における弾性体33は、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を吸収・減衰するものであり、言い換えれば、弾性体23,33は第一のダンパ部2及び第二のダンパ部3の捩り方向共振動作に伴って繰り返し剪断変形を受けるので、内部摩擦によって発熱するが、上述のように、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の空間には顕著な気流Fが生じているので、弾性体23,33で発生した熱は、この気流Fによって効率良く除去される。したがって、第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間に熱がこもってしまうようなことがなく、弾性体23,33に熱による材質の劣化及びこれによる特性変化が起きたり、亀裂が発生したりするのを有効に防止して、初期の防振性能を維持することができる。
【0033】
しかも、フィン34が第二のダンパ部3のスリーブ31から延びるものであるため、部品数の増加を来たさない。
【0034】
なお、フィン34は、第一のダンパ部2のスリーブ21に形成されたものとすることもできる。
【0035】
図8及び図9は、本発明に係るトーショナルダンパの第二の実施の形態を示すものである。すなわち第二の実施の形態において上述した第一の実施の形態と異なるところは、フィンをスリーブ31あるいはスリーブ21に形成する代わりにハブ1の支持筒部13に形成したことにある。
【0036】
詳しくは、ハブ1は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13及びその背面側の端部から内径側へ延びる円盤部14とからなり、円盤部14の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔14aとなっている。そしてフィン15は、ハブ1の支持筒部13の軸方向中間部分すなわち第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の部分を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって、円周方向等間隔で複数形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が開口した部分が通気切欠13aとなっている。
【0037】
フィン15は、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図9における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0038】
以上のように構成された第二の実施の形態のトーショナルダンパも、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏すると共に、第一のダンパ部2の環状質量体22に形成された多数の凹部22aとリブ22bが遠心式の羽根車のように機能するため、フィン15によるポンプ作用との協働によって顕著な気流を生じ、第一の実施の形態と同様の放熱効果を実現することができる。
【0039】
加えて、フィン15が通気切欠13aと共にハブ1の支持筒部13に一度に形成されるため、構造も一層簡素化することができる。
【0040】
図10及び図11は、本発明に係るトーショナルダンパの第三の実施の形態を示すものである。上述した第一及び第二の実施の形態はいずれも、第一及び第二のダンパ部2,3における弾性体23,33が、ハブ1の支持筒部13の外周面に嵌着される金属製のスリーブ21,31と、その外周側に同心配置された環状質量体22,32の間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたブッシュタイプの構造であるのに対し、図10及び図11に示す第三の実施の形態は、第一及び第二のダンパ部2,3を嵌合タイプとしたものである。
【0041】
詳しくは、第一及び第二のダンパ部2,3における弾性体23,33は、ハブ1の支持筒部13とその外周側に同心配置された環状質量体22,32との間に圧入嵌合されている。ハブ1は図8及び図9に示す第二の実施の形態と同様、金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13及びその背面側の端部から内径側へ延びる円盤部14とからなり、円盤部14の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔14aとなっている。また、ハブ1の支持筒部13と環状質量体22,32の内周面は、互いに対応して径方向へ起伏したうねり形状に形成されており、このため両者間に介在する弾性体23,33もこれに倣ってそれぞれ軸方向中間位置で径方向へ蛇行しており、これによって嵌合状態の安定化が図られている。
【0042】
フィン15は、ハブ1の支持筒部13の軸方向中間部分、すなわち第一のダンパ部2と第二のダンパ部3の間の部分(弾性体23,33の嵌合位置の間の部分)を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって、円周方向等間隔で複数形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が開口した部分が通気切欠13aとなっている。そしてフィン15は、第二の実施の形態と同様、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図11における時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0043】
したがって第三の実施の形態のトーショナルダンパも、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、遠心力との協働によって外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏すると共に、第一のダンパ部2の環状質量体22に形成された多数の凹部22aとリブ22bがインペラのように機能するため、フィン15によるポンプ作用との協働によって顕著な気流を生じ、第一の実施の形態と同様の放熱効果を実現することができる。
【0044】
また、このトーショナルダンパは、図12に示すように、予め通気切欠13a及びフィン15が形成されたハブ1の支持筒部13の外周に、環状質量体22,32を前記通気切欠13aの軸方向両側に位置するように同心配置して、弾性体23を、支持筒部13の外周面と環状質量体22の内周面との間に背面側から圧入嵌着し、弾性体33を、支持筒部13の外周面と環状質量体32の内周面との間に正面側から圧入嵌着することで組み立てられる。
【0045】
次に、図13及び図14は、本発明に係るトーショナルダンパの第四の実施の形態を示すものである。上述した各実施の形態は、いずれも本発明をダブルマス型のトーショナルダンパについて適用したものであるのに対し、図13及び図14に示す第四の実施の形態は、本発明をシングルマス型のトーショナルダンパについて適用したものである。
【0046】
すなわちこのシングルマス型のトーショナルダンパは、ハブ1と、このハブ1の外周に取り付けられた単一のダンパ部4を備える。
【0047】
詳しくは、ハブ1は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、支持筒部13と、その正面側の端部から内径側へ延びる外径側円盤部16及びその内径側に円錐筒部17を介して外径側円盤部16より背面側へ偏在して形成された内径側円盤部18とからなり、内径側円盤部18の内径が、クランクシャフトを挿通する軸孔18aとなっている。外径側円盤部16には、円周方向所定間隔で複数の通気窓16aが開設されている。
【0048】
ダンパ部4は、ハブ1の支持筒部13の外周面に嵌着された金属製のスリーブ41と、その外周側に同心配置され金属材料の鋳造などにより製作された環状質量体42と、この環状質量体42を前記スリーブ41の外周面に弾性的に連結するゴム状弾性材料からなる環状の弾性体43とで構成される。弾性体43は、スリーブ21の外周面と環状質量体22の内周面との間にゴム状弾性材料で一体的に加硫成形(加硫接着)されたものであり、このためダンパ部4はブッシュタイプの構造となっている。
【0049】
ハブ1の支持筒部13における背面側の端部は、ダンパ部4におけるスリーブ41の背面側の端部から突出しており、この突出部には円周方向等間隔で複数のフィン15が形成されている。このフィン15は、支持筒部13の背面側の端部を内径側へ舌片状に打ち出すといった方法によって形成されたもので、フィン15を打ち出すことによって支持筒部13が切断された部分は通気切欠13aとなっている。そしてこのフィン15は、第二及び第三の実施の形態と同様、支持筒部13(通気切欠13a)の内周側かつハブ1の回転方向(図14における反時計回りの方向)へ延びており、円周方向に対する勾配が、通気切欠13a側で大きく、先端側ほど小さくなるような緩やかなS字形の曲面状に形成されている。
【0050】
以上のように構成された第四の実施の形態のトーショナルダンパによれば、回転に伴って、フィン15の先端がその回転方向にある空気を切り裂いて、漸次勾配が大きくなるフィン15の中腹部の曲面に沿ってすくい上げ、遠心力によって外周側へ投げ出す顕著なポンプ作用を奏する。そしてこれに伴い、ハブ1の外径側円盤部16に開設された通気窓16aを通じて、トーショナルダンパの正面側の空気が支持筒部13の内周空間へ流入するため、図13に破線矢印で示すように、トーショナルダンパの正面側から通気窓16a、支持筒部13の内周空間、及び通気切欠13aを通じて、ダンパ部4の背面とエンジンとの間を外径側へ抜ける顕著な気流Fを生じる。
【0051】
このため、トーショナルダンパとその背面側の不図示のエンジンとの間で高温の空気が滞留することがなく、弾性体43からの放熱を効率良く行うことができる。
【0052】
図15は、本発明に係るトーショナルダンパの第五の実施の形態を示すものである。このトーショナルダンパもシングルマス型であって、ダンパ部4を嵌合タイプとした点以外は、基本的に上述した第四の実施の形態と同様の構成を備えるものである。
【0053】
したがってこの実施の形態においても、トーショナルダンパとその背面側の不図示のエンジンとの間で高温の空気が滞留することがなく、弾性体43からの放熱を効率良く行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ハブ
12a 開口部
13 支持筒部
13a 通気切欠
15,34 フィン
16a 通気窓
2 第一のダンパ部
21,31,41 スリーブ
22,32,42 環状質量体
22a 凹部
22b リブ
23,33,43 弾性体
3 第二のダンパ部
4 ダンパ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、このハブの支持筒部の外周側に同心配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなるダンパ部を備え、前記ハブの支持筒部に通気切欠が開設され、この通気切欠に、前記支持筒部の内周側かつ前記ハブの回転方向へ延びるフィンが配置されたことを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置され、通気切欠及びフィンが前記複数のダンパ部の間に位置することを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
弾性体が、ハブの支持筒部に嵌着されたスリーブと、その外周側に同心配置された環状質量体の間に成形されたものであり、フィンが前記スリーブから延在されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
円周方向に対するフィンの勾配が、通気切欠側で大きく、先端側ほど小さくなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトーショナルダンパ。
【請求項1】
ハブと、このハブの支持筒部の外周側に同心配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなるダンパ部を備え、前記ハブの支持筒部に通気切欠が開設され、この通気切欠に、前記支持筒部の内周側かつ前記ハブの回転方向へ延びるフィンが配置されたことを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
ダンパ部が互いに軸方向に離間して複数配置され、通気切欠及びフィンが前記複数のダンパ部の間に位置することを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
弾性体が、ハブの支持筒部に嵌着されたスリーブと、その外周側に同心配置された環状質量体の間に成形されたものであり、フィンが前記スリーブから延在されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
円周方向に対するフィンの勾配が、通気切欠側で大きく、先端側ほど小さくなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトーショナルダンパ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−53744(P2013−53744A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119283(P2012−119283)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
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