説明

ドッグフード

【課題】イヌの嗜好性が高いドッグフードの提供
【解決手段】本発明のドックフードは、メープルシロップを含有することを特徴とする。さらに、メープルフレーバーを含有することが好ましい。本発明のドッグフードは、ドライタイプ、ソフトドライタイプ又はセミドライタイプであってもよい。本発明のドッグフードによれば、例えば、イヌの嗜好性が向上したドッグフードを提供できる。また、本発明のドッグフードは、好ましくは、摂取直後の血糖値上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドッグフードに関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されているペットフードは、含有される水含有量によっていくつかのタイプに分類できる。すなわち、水含有量が約10%以下のドライタイプ、水含有量が約20〜40%のソフトドライタイプ及びセミモイストタイプ、及び、水含有量が約70%以上のウエットタイプ(例えば、缶詰類)である。この中でも、ドライタイプ、ソフトドライタイプ、セミモイストタイプのペットフードは、栄養バランスが調整しやすく、大量生産可能で、生産・流通コストも低いことから、ペットフードの主流となっている。しかしながら、一般的に、水含有量の少ないペットフードは嗜好性が低くなるという問題がある。
【0003】
ペットフードの嗜好性を向上させるために従来さまざまな試みがなされている。例えば、乳又は乳加工品のリパーゼ分解物若しくはプロテアーゼ分解物を添加する方法(特許文献1)、緑茶葉のうまみ成分であるテアニンを添加する方法(特許文献2)、酵母エキスを添加する方法(特許文献3)、魚肉の練り製品に焦げ目を入れる方法(特許文献4)、並びに、酢酸及び蜂蜜を添加する方法(特許文献5)などが開示されている。ドッグフードについても、嗜好性を向上させるため、従来から動物性油脂や内臓エキスなどを配合したり粒の表面にコーティングしたりされてきた。
【特許文献1】特開2001−145464号公報
【特許文献2】特開2001−29022号公報
【特許文献3】特開2004−121022号公報
【特許文献4】特開2004−166682号公報
【特許文献5】特開2006−136292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その一方、ペットの飼育数は世界的に増加していると推定され、ペットに対する価値観が多様化するとともにペットフードに対するニーズも多様化しており、より多くの種類の嗜好性が向上したペットフードが必要とされている。そこで、本発明は、ドッグフードであって、イヌの嗜好性が高いドッグフードの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のドックフードは、メープルシロップを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
イヌは、砂糖など甘い味覚に反応することが知られていたが、本発明者らは、鋭意研究の結果、メープルシロップはショ糖よりもイヌの嗜好性を向上できることを見出し、本発明に到達した。本発明によれば、例えば、イヌの嗜好性が向上したドッグフードを提供できる。
【0007】
また、砂糖などをドッグフードに添加するとイヌの血糖値が摂取直後に上昇し肥満の原因となることが懸念されるが、本発明者らは、さらなる研究の結果、メープルシロップであればショ糖と比較して摂取直後に血糖値の上昇度を抑制できることも見出した。本発明によれば、好ましくは、摂取直後の血糖値上昇を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のドッグフードは、さらに、メープルフレーバーを含有することが好ましい。本発明のドッグフードは、ドライタイプ、ソフトドライタイプ、及び、セミドライタイプからなる群から選択されるタイプであってもよい。
【0009】
本発明は、その他の態様として、ドッグフードの製造方法であって、原材料にメープルシロップを配合する工程、又は、原材料の成形物にメープルシロップを付着させる工程を含む製造方法を提供する。本発明のドッグフードの製造方法は、さらに、原材料にメープルフレーバーを配合する工程、又は、原材料の成形物にメープルフレーバーを付着させる工程を含むことが好ましい。本発明のドッグフードの製造方法において、前記原材料又はその成形物は、ドライタイプ、ソフトドライタイプ、及び、セミドライタイプからなる群から選択されるタイプのドッグフード用の原材料又はその成形物であってよい。
【0010】
本発明において「ドッグフード」とは、イヌにとって可食性のもの全般であって、特に制限されず、いわゆる、ドライタイプ、ソフトタイプ、セミドライタイプ、ウエットタイプなどの従来市販のドッグフードと同様のものを含み、また、チュアブル、ガム、栄養補助剤、医薬組成物なども含みうる。本発明において、イヌとは、イヌ科の動物であって、その品種は特に制限されない。なお、本発明のドッグフードは、イヌ以外の動物に与えてもよい。
【0011】
本発明において、「メープルシロップ」とは、カエデの濃縮又は非濃縮の樹液をいう。前記カエデとしては、特に制限されないが、例えば、サトウカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ(red maple)、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ(mountain maple)、ノルウェーカエデなどがあげられる。本発明で使用するメープルシロップのグレード、製造方法及び濃縮方法は、特に制限されないが、例えば、カナダ(又はケベック)グレードが、グレード#3(Dark)以上であって、好ましくは、グレード#2(Amber)以上である。例えば、市販のメープルシロップ;QUEBEC GRADE #2 AMBER(Citadelle社製)などを使用できる。本発明において、「メープルフレーバー」とは、メープルシロップの香り及び味の少なくとも一方をフレーバーリングするための香料、甘味料などの食品添加物をいう。その製法は特に制限されない。市販のメープルフレーバー、例えば、商品名:NATURAL MAPLE TYPE FLAVOUR 2B6A007(BSA社製)などを使用できる。
【0012】
以下に、本発明のドッグフードについて説明する。本発明のドッグフードは、メープルシロップを含むことを特徴としている。本発明のドッグフードにおいて、メープルシロップ以外の成分は特に制限されず、一般の動物、特にイヌにとって可食性のものであり、例えば、ドライタイプ、ソフトタイプ、セミドライタイプ、ウエットタイプの従来のドッグフードのその物又はそれらの成分であってよい。本発明のドッグフードの形態としては、例えば、固形、粒状、ペレット状、練り物状、ドライタイプ、ソフトタイプ、セミドライタイプ、ウエットタイプ、チュアブル、ガム、栄養補助剤、補助食、医薬組成物があげられる。また、本発明のドッグフードは、さらに、メープルフレーバーを含有することが好ましい。メープルフレーバーが添加されることで、好ましくは、イヌの嗜好性がより向上する。また、前記メープルフレーバーが添加されることで、好ましくは、イヌの飼い主であるヒトに対しても好ましい印象を与えることができる。
【0013】
本発明のドッグフードにおける前記メープルシロップの含有量としては、特に制限されないが、イヌの嗜好性を高めることができる有効量であることが好ましい。前記有効量は、当業者であれば適宜決定できるが、例えば、本発明のドッグフードの質量に対して、約0.05wt%〜約10wt%の範囲、約0.1wt%〜約5.0wt%の範囲、約0.3wt%〜約3.0wt%の範囲があげられる。
【0014】
本発明のドッグフードがメープルフレーバーを含有する場合、前記メープルフレーバーの含有量としては、特に制限されないが、イヌの嗜好性を高めることができる有効量であることが好ましい。前記有効量は、当業者であれば適宜決定できるが、例えば、本発明のドッグフードの質量に対して、約0.01wt%〜約2.0wt%の範囲、約0.02wt%〜約1.0wt%の範囲、約0.04wt%〜約0.5wt%の範囲があげられる。
【0015】
イヌの嗜好性試験の方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用できる。例えば、実験区サンプルと対照区サンプルとを同時にイヌに給餌し、各サンプルの摂取量の多寡で判断する方法などがあげられる。
【0016】
本発明のドッグフードの製造方法は、原材料にメープルシロップを配合する工程、又は、原材料の成形物にメープルシロップを付着させる工程を含むこと以外は、特に制限されない。前記原材料としては、特に制限されず、例えば、従来のドッグフードに使用されるものであって、肉類、魚介類、肉粉、肉骨粉、魚粉、穀粉類(小麦粉、コーンスターチ、大豆粉、米粉、各種澱粉類)、糟糠類(大豆粕、米ぬか、ふすま、胚芽、麦芽など)、小麦グルテン、油脂類、ビタミン類、ミネラル類、卵製品、ガム類等の増粘剤、ゲル化剤、食塩などがあげられる。例えば、前記メープルシロップは、これらの原材料をミキサーなどで混合する時に配合させることができる。メープルシロップの配合と同時にメープルフレーバーを配合させてもよい。
【0017】
あるいは、本発明のドッグフードは、前記原材料の成形物にメープルシロップを付着させることで製造できる。前記原材料の成形物としては、例えば、前記原材料を混合した後に、必要に応じて適宜形を整えたり加熱したりしたもの、例えば、ドライタイプ、ソフトタイプ、セミドライタイプなどのような固形飼料があげられる。前記固形飼料は、例えば、チュアブル、ガム、栄養補助剤、補助食、医薬組成物を含んでもよい。メープルシロップとともにメープルフレーバーを付着させてもよい。メープルシロップ及び/又はメープルフレーバーを付着させる方法としては、特に制限されないが、例えば、メープルシロップ及び/又はメープルフレーバーの水溶液を前記固形飼料の表面にスプレーしたり、刷毛などで塗布したりする方法があげられる。
【0018】
したがって、本発明は、さらにその他の態様として、嗜好性向上ドッグフード用組成物であって、メープルシロップを含む組成物を提供する。前記嗜好性向上ドッグフード用組成物は、例えば、水溶液又は前記水溶液用粉末の形態をとることができる。嗜好性向上ドッグフード用組成物は、水溶液の形態として、前記固形飼料、例えば、前記市販のイヌ用固形飼料(ドッグフード)にスプレー又は塗布して前記固形飼料に対するイヌの嗜好性を向上させる用途に使用できる。前記嗜好性向上ドッグフード用組成物は、さらに、メープルフレーバーを含むことが好ましい。
【0019】
以下に実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0020】
嗜好性の確認
小麦粉、コーングルテン、鶏肉、コメ及びキャノール油を配合して焼き上げたビスケット風の固形飼料にメープルシロップ溶液をコーティングしたものを使用して嗜好性の確認をした。前記固形飼料の表面に、メープルシロップ(商品名:QUEBEC GRADE #2 AMBER、Citadelle社製)15%(w/v)、メープルフレーバー(商品名:NATURAL MAPLE TYPE FLAVOUR 2B6A007、BSA社製)2%(w/v)、マルトデキストリン15%(w/v)、及び、水68%(w/v)からなるメープルシロップ溶液を10wt%の割合でコーティングしたものを実験区とした。また、前記固形飼料にコーティングしないものを対照区とした。
【0021】
前記実験区及び前記対照区のサンプルを20頭の被検体(ビーグル犬)に1日1回、それぞれ150gずつ与えて2日間観察した。1日目は対照区サンプルを左側にセットし、2日目は実験区サンプルを左側にセットした。給与時間は20分とし、それ以前にどちらか一方のサンプルがなくなった場合はその時点で終了とした。それぞれの被検体が摂取したサンプル量をまとめた結果を下記表1に示す。下記表1の1回目及び2回目の結果において、被検体が最初に食べ始めたサンプルを太字で示す。
【0022】
【表1】

【0023】
上記表1に示すとおり、サンプルの摂取量は、実験区:対照区=94:6となり、実験区サンプルの摂取量が非常に多かった。また、被検体が最初に食べ始めたサンプルも圧倒的に実験区サンプルが多かった。したがって、固形飼料にメープルシロップ溶液をコーティングすることにより、イヌの嗜好性が著しく向上したといえる。
【実施例2】
【0024】
嗜好性の確認
実施例1と同様のビスケット風の固形飼料に、さまざまな成分からなるコーティング溶液でコーティングし、下記表2に示す成分を含有する1区〜8区の実験区サンプルを調製した。1区のサンプルは水以外の成分が添加されないサンプルであり、2区のサンプルは、1.5wt%メープルシロップ、0.2wt%メープルフレーバー及び1.5wt%マルトデキストリンが添加されたサンプルであり、3区のサンプルは、0.375wt%メープルシロップ、0.05wt%メープルフレーバー及び1.5wt%マルトデキストリンが添加されたサンプルであり、4区のサンプルは、1.5wt%メープルシロップ及び0.2wt%メープルフレーバーが添加されたサンプルであり、5区のサンプルは、1.0wt%ショ糖及び1.5wt%マルトデキストリンが添加されたサンプルであり、6区のサンプルは、1.0wt%ショ糖が添加されたサンプルであり、7区のサンプルは、1.5wt%メープルシロップが添加されたサンプルであり、8区のサンプルは、0.2wt%メープルフレーバーが添加されたサンプルである。
【0025】
【表2】

【0026】
上記表2の実験区サンプルを用いて、下記表3に示す組み合わせで嗜好性試験(試験No.1〜7)を行った。すなわち、試験No.1では1区と2区とを、試験No.2では1区と3区とを、試験No.3では1区と4区とを、試験No.4では1区と5区とを、試験No.5では1区と6区とを、試験No.6では1区と7区とを、試験No.7では7区と8区とを比較した。
【0027】
各試験において、組み合わせの2サンプルを5頭の被検体(ビーグル犬)に1日1回、それ250gずつ与えて2日間観察した。1日目は一方のサンプルを左側にセットし、2日目は他方のサンプルを左側にセットした。給与時間は20分とし、それ以前にどちらか一方のサンプルがなくなった時点で終了とした。それぞれの試験におけるサンプルの平均摂取量をまとめた結果を下記表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
上記表3の試験No.1〜3及び6が示すとおり、メープルシロップが固形飼料に含まれることによりイヌの嗜好性が高まることが確認された。また、試験No.1〜3と試験No.6とを比べると、メープルシロップにメープルフレーバーが加わることで一層、例えば、相乗的に、嗜好性が高まることが確認できる。一方、試験No.7からは、メープルシロップのほうがメープルフレーバーよりも嗜好性の向上に貢献していることが確認できる。さらに、試験No.1〜3、6と試験No.4、5と比べると、メープルシロップは、ショ糖よりも嗜好性を高めることができることが確認できる。さらにまた、試験No.1と試験No.3との比較、及び、試験No.4と試験No.5との比較からは、マルトデキストリンが添加されない場合に嗜好性が向上することが認められた。
【実施例3】
【0030】
血糖値への影響
実施例2において調製した1区、4区、6区及び7区のサンプルを使用し、これらのサンプルを給与する前後の血糖値を測定した。上述したとおり、1区のサンプルは水以外の成分が添加されないサンプルであり、4区のサンプルは、1.5wt%メープルシロップ及び0.2wt%メープルフレーバーが添加されたサンプルであり、6区のサンプルは、1.0wt%ショ糖が添加されたサンプルであり、7区のサンプルは、1.5wt%メープルシロップが添加されたサンプルである。
【0031】
健常ビーグル犬3頭を被検体として上記4サンプルを250g/日で給与し、給与直前、給与後30分後、1時間後及び2時間後に採血して血糖値を測定した。給与直前の血糖値を基準にした血糖値の変化を平均した結果を図1に示す。図1に示すとおり、ショ糖を含む6区のサンプルでは、給与後1時間後における血糖値の上昇が著しいが、メープルシロップを含む4区及び7区のサンプルでは血糖値の上昇が抑制されていた。これらのサンプルでは、血糖値の上昇率が緩やかであると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したとおり、本発明は、例えば、ペット関連産業の分野、ペットフードの分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、サンプル給与前後の血糖値を測定した結果の一例を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メープルシロップを含有することを特徴とするドッグフード。
【請求項2】
さらに、メープルフレーバーを含有する請求項1記載のドッグフード。
【請求項3】
前記ドッグフードのタイプが、ドライタイプ、ソフトドライタイプ、及び、セミドライタイプからなる群から選択されるタイプである請求項1又は2に記載のドッグフード。
【請求項4】
ドッグフードの製造方法であって、原材料にメープルシロップを配合する工程、又は、原材料の成形物にメープルシロップを付着させる工程を含む製造方法。
【請求項5】
さらに、原材料にメープルフレーバーを配合する工程、又は、原材料の成形物にメープルフレーバーを付着させる工程を含む請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記原材料又はその成形物が、ドライタイプ、ソフトドライタイプ、及び、セミドライタイプからなる群から選択されるタイプのドッグフード用の原材料又はその成形物である請求項4又は5に記載の製造方法。

【図1】
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