説明

ドットインパクトプリンター

【課題】印字音による印字内容の推定を防止する。
【解決手段】複数の機構部80を備えたドットインパクトプリンターにおいて印字データに基づく文字を記録紙に印字するにあたり、機構部80において印字用電磁石83により印字レバー82のアーマチュア部82bを吸引することで印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けて記録紙にドットを形成する印字動作を行うと共に(図(a)から図(b)への動作)、印字動作を行わない機構部80においては音発生用電磁石84により印字レバー82のアーマチュア部82cを吸引することで支点部82dと音発生用部材89とを衝突させる音発生動作を行う(図(a)から図(c)への動作)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドットインパクトプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドットインパクトプリンターとしては、先端に印字ワイヤーを有する複数の印字レバーを駆動用コイルで吸引することで印字ワイヤーをインクリボンに叩き付け、これにより記録媒体にドットを形成して印字を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−188264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成のドットインパクトプリンターでは、印字ワイヤーをインクリボンに叩き付ける際に、印字ワイヤーが用紙に衝突する音や印字レバーが他の部品に衝突する音からなる印字音が生じる。そして、複数の印字ワイヤーによって印字を行う際には同時にインクリボンに叩き付けられる印字ワイヤーの数によって異なる大きさの印字音が生じる。同時に叩き付けられる印字ワイヤーの数やそのパターンは印字される文字と相関があるため、ドットインパクトプリンターの印字音の大きさやそのパターンから印字された文字が推測されてしまう虞がある。これは、クレジットカードのカード番号など、セキュリティ上重要な情報を印字する場合に特に問題となる。例えば、ガソリンスタンドにおけるクレジットカードでの精算が可能な給油機において、伝票発行時の印字音から他人にカード番号を知られてしまうことが考えられる。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、印字音による印字内容の推定を防止するドットインパクトプリンターを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のドットインパクトプリンターは、
インクリボンと、
印字ワイヤーを有する複数の印字レバーと、
前記印字レバーを動作させることで前記印字ワイヤーをインクリボンに叩き付けて記録媒体にドットを形成する印字動作を行わせる印字用駆動手段と、
前記印字レバーと衝突することにより音を発生する部材であり、該印字レバーが前記印字動作を行っても衝突しない位置に設けられた音発生用部材と、
前記印字レバー又は前記音発生用部材を動作させることで前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けることなく該印字レバーと音発生用部材とを衝突させる衝突手段と、
印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、前記印字レバーが前記印字動作を行って該文字を記録媒体に形成するよう前記印字用駆動手段を制御すると共に、該印字動作を行わない印字レバーのうち少なくとも1つと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する制御手段と、
を備えたものである。
【0008】
このドットインパクトプリンターでは、印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、印字レバーを動作させることで印字ワイヤーをインクリボンに叩き付けて記録媒体にドットを形成する印字動作を行わせて文字を記録媒体に形成するよう印字用駆動手段を制御すると共に、印字レバー又は音発生用部材を動作させることで印字動作を行わない印字レバーのうち少なくとも1つと音発生用部材とが衝突するよう衝突手段を制御する。こうすることで、記録媒体への印字を行うにあたり、印字動作による音が発生するだけでなく印字動作を行わない印字レバーと音発生用部材とが衝突する音も発生する。したがって、印字動作による音のみが発生する場合と比較して印字音と印字内容との相関が弱くなり、印字音による印字内容の推定を防止できる。
【0009】
本発明のドットインパクトプリンターにおいて、前記制御手段は、印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、いずれかの前記印字レバーが前記印字動作を行って前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けるタイミングで、該印字動作を行わない印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段としてもよい。こうすれば、印字レバーと音発生用部材との衝突音が印字動作による音と重なるため、印字音による印字内容の推定を防止する効果が高まる。この場合において、前記制御手段は、印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、いずれかの前記印字レバーが前記印字動作を行って前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けるタイミングで、該印字動作を行わない全ての印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段としてもよい。こうすれば、いずれかの印字レバーが印字動作を行う際に、常に全ての印字レバーから音が発生することになるため、印字音による印字内容の推定を防止する効果が高まる。
【0010】
本発明のドットインパクトプリンターにおいて、前記印字用駆動手段は、前記印字レバーを磁力により吸引することで前記印字動作を行わせる電磁石であり、前記音発生用部材は、前記印字レバーを挟んで前記印字用駆動手段とは反対側に位置する部材であり、前記衝突手段は、前記印字レバーを磁力により前記印字動作時とは反対の方向に吸引することで前記印字レバーを前記音発生用部材に衝突させる電磁石であるものとしてもよい。
【0011】
本発明のドットインパクトプリンターにおいて、前記印字データは、セキュリティ重要度を表すセキュリティ情報が付加されており、前記セキュリティ情報に基づいて前記印字データのセキュリティ重要度が高いか否かを判定する判定手段、を備え、前記制御手段は、前記判定手段がセキュリティ重要度が高いと判定した印字データを印字する際にのみ、該印字動作を行わない印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段としてもよい。こうすれば、セキュリティ重要度に関わらず常に印字レバーと音発生用部材とを衝突させる場合と比較して衝突回数が少なくて済むため、印字レバーや音発生用部材の寿命を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ドットインパクトプリンター20の構成の概略を示す構成図。
【図2】印字ヘッド24の断面図。
【図3】印字ヘッド24の電気的接続を示すブロック図。
【図4】機構部80の動作の様子を表す説明図。
【図5】印字処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図6】1パス分のドットを形成する様子と発生する音の大きさとを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施形態であるドットインパクトプリンター20の構成の概略を示す構成図であり、図2は印字ヘッド24の断面図であり、図3は印字ヘッド24の電気的接続を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態のドットインパクトプリンター20は、図1に示すように、例えば複写伝票などの記録紙Sに印字を行う印字ヘッド24を備えた印刷機構21と、キャリッジ22に搭載されたヘッド駆動用基板62と、記録紙Sを搬送する紙送り機構30と、ドットインパクトプリンター20全体をコントロールするコントローラー70とを備えている。
【0015】
印刷機構21は、キャリッジベルト32によりキャリッジ軸28に沿って左右(主走査方向)に往復動するキャリッジ22と、印字ワイヤー81(図2参照)を図示しないインクリボンに叩き付けてインクによる記録紙Sへの印字を行う印字ヘッド24と、インクリボンを収納するリボンカートリッジ26とを備えている。キャリッジ22は、メカフレーム39の右側に取り付けられたキャリッジモーター34aとメカフレーム39の左側に取り付けられた従動ローラー34bとの間に架設されたキャリッジベルト32がキャリッジモーター34aによって駆動されるのに伴って移動する。キャリッジ22の背面には、キャリッジ22の位置を検出するリニア式エンコーダー25が配設されており、このリニア式エンコーダー25を用いてキャリッジ22のポジションが管理可能となっている。
【0016】
印字ヘッド24は、印字ヘッド24の下面であるワイヤー突出面93aから12本の印字ワイヤー81を突出させることで、インクリボンに印字ワイヤー81を叩き付けるものである。この印字ヘッド24は、図2に示すように、印字ワイヤー81や印字レバー82を含む機構部80と、機構部80の上方を覆うヘッドカバー91と、機構部80の側方及びヘッドカバー91の上方を覆うフレーム92と、機構部80の下方に取り付けられ印字ワイヤー81を覆うノーズ93とを備えている。
【0017】
機構部80は、印字ワイヤー81と、印字レバー82と、印字用電磁石83と、音発生用電磁石84と、復帰用スプリング85,86と、ダンパーゴム87,88と、音発生用部材89とを備えている。印字ワイヤー81は、インクリボンに叩き付けられることで記録紙Sへの印字を行うものであり、ノーズ93に装着されたワイヤーガード93bにより長手方向に摺動可能に位置決めされている。印字レバー82は、先端に印字ワイヤー81が固着されたレバー部82aと、印字用電磁石83の磁力により吸引されるアーマチュア部82bと、音発生用電磁石84の磁力により吸引されるアーマチュア部82cと、印字ワイヤー81をワイヤー突出面93aから突出させる印字動作時に動作の支点となる支点部82dとを備えている。印字用電磁石83は、コア83aと、コア83aに巻き付けられたコイル83bとを備えた電磁石であり、アーマチュア部82bを下方向に吸引して印字レバー82を印字動作させる。音発生用電磁石84は、コア84aと、コア84aに巻き付けられたコイル84bとを備えた電磁石であり、アーマチュア部82cを上方向に吸引して印字レバー82を動作させる。復帰用スプリング85は、スプリングホルダー85a内に配置されたコイルばねであり、レバー部82aを上方向に押圧する。復帰用スプリング86は、スプリングホルダー86a内に配置されたコイルばねであり、支点部82dを下方向に押圧する。ダンパーゴム87は、レバー部82aの上方向の可動範囲を規制する部材である。ダンパーゴム88は、支点部82dの下方向の可動範囲を規制する部材である。音発生用部材89は例えば金属製であり、印字レバー82を挟んで印字用電磁石83とは反対側に位置する部材である。この音発生用部材89は支点部82dの上方向の可動範囲を規制すると共に、支点部82dとの衝突時に音を発生する。
【0018】
この機構部80は、印字用電磁石83の磁力によりアーマチュア部82bを吸引して印字ワイヤー81をワイヤー突出面93aから突出させ、印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けることで記録紙Sへの印字を行う印字動作と、音発生用電磁石84の磁力によりアーマチュア部82cを吸引して支点部82dを音発生用部材89に衝突させ、これにより音を発生させる音発生動作とを行う。印字動作及び音発生動作の詳細については後述する。なお、図2では機構部80が2つのみ図示されているが、印字ヘッド24は中心軸100を中心として周状に12個の機構部80を備えている。また、各機構部80の備える印字ワイヤー81は、印字レバー82に固着された側とは反対側の先端が搬送方向に沿って一列に並ぶように配置されている。従って、印字ヘッド24の下側からワイヤー突出面93aを見ると、印字ワイヤー81の先端が搬送方向に沿って一列に並んで見える(図3参照)。以下、この12本の印字ワイヤー81を区別する際には搬送方向の下流側に位置する印字ワイヤー81から順にn=1,2,3・・・12の印字ワイヤー81と表記する場合がある。印字ヘッド24が記録紙S上を主走査方向に1回横切る際にこの12本の印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けることで、印字データに基づく1行分の文字列が記録紙Sに印字される。すなわち本実施形態のドットインパクトプリンター20は、印字ヘッド24の1パス分の動作により1行の文字列を印字するようになっている。なお、印字ヘッド24は、アーマチュア部82c,音発生用電磁石84,復帰用スプリング86,音発生用部材89を備えている点以外は、従来のドットインパクトプリンターの印字ヘッドと同様の構成である。このような従来の印字ヘッドについては、例えば特開平2−188264や特開2002−307729に記載されている。
【0019】
リボンカートリッジ26は、図示しないインクリボンを収容するものである。このインクリボンはリボンカートリッジ26から出て印字ヘッド24のワイヤー突出面93aとプラテン29上の記録紙Sとの間を通過し再びリボンカートリッジ26内に入るようになっている。このワイヤー突出面93aと記録紙Sとの間に位置するインクリボンが印字ワイヤー81によって記録紙Sに叩き付けられることにより、記録紙Sへの印字が行われる。
【0020】
ヘッド駆動用基板62は、図3に示すように、コントローラー70からの信号により印字用電磁石83,音発生用電磁石84へ個別に電圧を印加して磁力を発生させ、機構部80に印字動作や音発生動作を行わせるものである。このヘッド駆動用基板62は、図示しないコネクタ部を介してフラットケーブル63(図1参照)に接続されており、このフラットケーブル63を介してコントローラー70と信号のやり取りを行う。
【0021】
紙送り機構30は、図1に示すように、駆動モーター33により駆動されプラテン29上を図中奥から手前へと記録紙Sを搬送する紙送りローラー35や、図示しないトレイに載置された記録紙Sをプラテン29へ給紙する給紙ローラー、プラテン29で印字ワイヤー81により印字が行われた記録紙Sを図示しない排紙トレイへ搬送する排紙ローラーなどを備えている。
【0022】
コントローラー70は、メカフレーム39に取り付けられた制御基板に搭載され、図1に示すように、CPU72を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムを記憶できデータを書き換え可能なフラッシュROM73と、一時的にデータを記憶するRAM74と、ユーザーパソコン(PC)110などの外部機器とデータのやりとりを行うインターフェイス(I/F)75とを備えている。フラッシュROM73には、後述する印字処理ルーチンなどの各処理プログラムや、各種設定値が記憶されている。RAM74には、バッファー領域が設けられており、この領域にユーザーPC110などの外部機器からI/F75を介して送られてきた印刷ジョブ(印字データや印字に関する設定情報を含む)が記憶される。このコントローラー70には、外部機器(ユーザーPC110など)から出力された印刷ジョブなどがI/F75を介して入力される。また、コントローラー70からは、印刷ヘッド24に搭載されたヘッド駆動用基板62への制御信号、駆動モーター33,キャリッジモーター34aへの駆動信号などが図示しない出力ポートを介して出力される。
【0023】
ここで、印字ヘッド24のうち、機構部80の印字動作及び音発生動作について説明する。図4は、機構部80の動作の様子を表す説明図である。図4(a)は、印字動作も音発生動作も行っていない機構部80の初期状態を示している。この初期状態では、印字用電磁石83及び音発生用電磁石84に共に電圧が印加されていない。そのため、復帰用スプリング85の押圧力によってレバー部82aがダンパーゴム87に当接するとともに、復帰用スプリング86の押圧力によって支点部82dがダンパーゴム88に当接している。
【0024】
まず、印字動作について説明する。図4(a)の状態でコントローラー70が機構部80に印字動作を行わせるようヘッド駆動用基板62に制御信号を送信すると、ヘッド駆動用基板62は印字用電磁石83に電圧を印加し、所定時間後に電圧の印加を解除する。この電圧の印加により、アーマチュア部82bは印字用電磁石83に吸引される。なお、コイル83bの巻数やヘッド駆動用基板62が印可する電圧はこのときの吸引力が復帰用スプリング85の押圧力よりも大きくなるように定められている。そのため、印字レバー82は支点部82dとダンパーゴム88との接点102を支点として回転し、スプリングホルダー85aに衝突するまでレバー部82aが押し下げられて、図4(b)に示す状態になる(図4(b)中の破線は図4(a)の状態における印字レバー82の位置を表す)。これにより、印字ワイヤー81は下方向に押し出されてワイヤー突出面93aから突出し、インクリボンに叩き付けられてプラテン29上の記録紙Sにインクによるドットを形成する。そして、所定時間後に印字用電磁石83への電圧の印加が解除されると、復帰用スプリング85の押圧力によりレバー部82aが押し上げられて図4(b)の状態から図4(a)の状態に戻る。このように図4(a)の状態から図4(b)の状態になり、再び図4(a)の状態に戻るまでの動作が印字動作である。なお、この印字動作により、印字ワイヤー81が叩き付けられることやレバー部82aがスプリングホルダー85aに衝突することによる音が生じる。
【0025】
次に、音発生動作について説明する。図4(a)の状態でコントローラー70が機構部80に音発生動作を行わせるようヘッド駆動用基板62に制御信号を送信すると、ヘッド駆動用基板62は音発生用電磁石84に電圧を印加し、所定時間後に電圧の印加を解除する。この電圧の印加により、アーマチュア部82cは印字用電磁石84に吸引される。なお、コイル84bの巻数やヘッド駆動用基板62が印可する電圧はこのときの吸引力が復帰用スプリング86の押圧力よりも大きくなるように定められている。そのため、印字レバー82はレバー部82aとダンパーゴム87との接点104を支点として回転し、音発生用部材89に衝突するまで支点部82dが押し上げられて、図4(c)に示す状態になる(図4(c)中の破線は図4(a)の状態における印字レバー82の位置を表す)。これにより、支点部82dと音発生用部材89とが衝突して音が発生する。本実施形態では、この音が印字動作時に生じる音と同じ大きさとなるように、予め音発生用部材89の材質,コイル84bの巻数,ヘッド駆動用基板62が印可する電圧の大きさが定められているものとした。そして、所定時間後に音発生用電磁石84への電圧の印加が解除されると、復帰用スプリング86の押圧力により支点部82dが押し下げられて図4(c)の状態から図4(a)の状態に戻る。このように図4(a)の状態から図4(c)の状態になり、再び図4(a)の状態に戻るまでの動作が音発生動作である。なお、図4(b)からわかるように、音発生用部材89は印字レバー82の印字動作時の動作範囲外に位置しており、印字動作時に印字レバー82と音発生用部材89とが衝突することはない。また、音発生動作時は接点104を支点として印字レバー82が回転するため、レバー部82aは印字動作時ほど押し下げられることはなく、音発生動作時に印字ワイヤー81がインクリボンに叩き付けられることはない。
【0026】
次に、こうして構成された本実施形態のドットインパクトプリンター20の動作、特に、ユーザーPC110からの印字ジョブに基づいて記録紙Sへの印字を行う際の印字処理について説明する。図5は、コントローラー70のCPU72によって実行される印字処理ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ユーザーがドットインパクトプリンター20に対して記録紙Sへの印字を指示するようユーザーPC110を操作し、その印刷指示をI/F75を介してCPU72が受信したときに実行される。
【0027】
この印字処理ルーチンが実行されると、CPU72は、まず、I/F75を介してユーザーPC110から1ページ分の印字ジョブを受信し、受信した印字ジョブをRAM74のバッファーに記憶する(ステップS100)。この印字ジョブには、ユーザーが印字を指示した印字データの他に、印字データのセキュリティ重要度の高低を表すセキュリティ情報が含まれている。セキュリティ重要度は、印字データのページ単位で高低が設定されていてもよいし、1ページ中の所定の領域内の印字データのみセキュリティ重要度が高く設定されていてもよい。
【0028】
続いて、CPU72は、駆動モーター33やキャリッジモーター34aを制御して、キャリッジ22のホームポジションからの移動及び記録紙Sの搬送を開始する(ステップS110)。なお、本実施形態では、キャリッジ22のホームポジションはキャリッジ22の主走査方向の可動範囲の右端の位置として予め定められているものとしたが、例えば左端など他の位置としてもよい。そして、CPU72は、変数p,sを初期値0に設定し(ステップS120)、変数pを値1インクリメントする(ステップS130)。
【0029】
次に、CPU72は、ステップS110で開始したキャリッジ22の移動及び記録紙Sの搬送により、印字ヘッド24の印字ワイヤー81が記録紙Sのpパス目の印字開始位置に到達したか否かを判定し(ステップS140)、肯定的な判定をするまでステップS140の処理を繰り返す。例えば変数pが値1でれば、CPU72は、記録紙Sの1パス目の印字領域がプラテン29上に位置するよう記録紙Sを搬送すると共に、1パス目の印字開始位置に印字ワイヤー81が位置するようキャリッジ22を移動させ、これらが完了したときにステップS140で肯定的な判定をする。そして、ステップS140で肯定的な判定をすると、変数sを値1インクリメントして(ステップS150)、pパス目のs列目の印字データのセキュリティ重要度が高いか否かを判定する(ステップS160)。具体的には、ステップS110でRAM74に記憶した印字ジョブに含まれるセキュリティ情報を調べ、pパス目のs列目の印字データに対応する領域のセキュリティ重要度が高低いずれに設定されているかを調べることによって判定する。なお、印字ジョブにセキュリティ情報が含まれていない場合には、常にセキュリティ重要度が高いと判定してもよいし、常にセキュリティ重要度が低いと判定してもよい。
【0030】
そして、ステップS160でセキュリティ重要度が低いと判定すると、CPU72は、印字動作のみを行ってpパス目のs列目の印字データに基づくドットを形成するようヘッド駆動用基板62を介して印字ヘッド24を制御する(ステップS170)。具体的には、CPU72は、pパス目のs列目の印字データをRAM72のバッファーから読み出し、読み出した印字データに基づいて12個の機構部80のいずれに印字動作をさせるかを判定し、判定した機構部80が印字動作を行うようにヘッド駆動用基板62に制御信号を送信する。ヘッド駆動用基板62は、CPU72からの制御信号により印字動作を行う機構部80の印字用電磁石83に電圧を印加して、印字動作を行うよう制御する。これにより12本の印字ワイヤーのうち印字動作を行った機構部80の印字ワイヤー81がワイヤー突出面93aから突出してインクリボンに叩き付けられ、記録紙S上にpパス目のs列目の印字データに基づくドットが形成される。このとき、印字動作を行わない機構部80は印字動作も音発生動作も行わない。したがって、ステップS170では印字動作を行う機構部80の数に応じた大きさの音が発生する。
【0031】
一方、ステップS160でセキュリティ重要度が高いと判定すると、CPU72は、印字動作を行ってpパス目のs列目の印字データに基づくドット形成すると共に音発生動作を行うようヘッド駆動用基板62を介して印字ヘッド24を制御する(ステップS180)。このステップS180の処理では、上述したステップS170と同様の処理を行うと共に、印字動作を行わない全ての機構部80が音発生動作を行うようにCPU72がヘッド駆動用基板62に制御信号を送信する。ヘッド駆動用基板62は、CPU72からの制御信号により印字動作を行わない全ての機構部80の音発生用電磁石84に電圧を印加して、音発生動作を行うよう制御する。したがって、ステップS180の処理では印字動作を行う機構部80から印字動作による音が発生すると共に、印字動作を行わない全ての機構部80から支点部82dと音発生用部材89とが衝突することによる音が発生する。すなわち、pパス目のs列目の印字データがどのようなデータであっても全ての機構部80から同時に音が発生する。
【0032】
ステップS170又はステップS180の処理を行うと、CPU72は、RAM74のバッファーに記憶された印字データに基づいて、pパス目の全印字データを印字したか否かを判定し(ステップS190)、否定的な判定をするとステップS150に進んでステップS150〜S190の処理を繰り返す。このステップS150〜S190の処理を繰り返すことによりpパス目の印字データについて列毎にステップS170又はS180の処理が行われて、pパス目の全列の印字データに基づくドットが順次形成される。そして、pパス目の全列の印字データに基づくドットを形成すると、ステップS190で肯定的な判定がなされる。続いて、CPU72は、RAM74に記憶された1ページ分の全印字データの印字が完了したか否かを判定し(ステップS200)、否定的な判定をするとステップS130に進んでステップS130〜S200の処理を繰り返す。このステップS130〜S200の処理を繰り返すことにより、1ページ分の全パスの印字データに基づくドットが順次形成される。そして、全パスの印字データに基づくドットを形成すると、CPU72はステップS200で肯定的な判定をする。ステップS200で肯定的な判定をすると、CPU72は、駆動モーター33やキャリッジモーター34aを制御して、キャリッジ22をホームポジションに戻すと共に記録紙Sを排紙し、本ルーチンを終了する。
【0033】
ここで、印字処理ルーチンを実行して印字を行う様子を図6を用いて説明する。図6は、1パス分の印字データに基づくドットを形成する様子と発生する音の大きさとを示す説明図である。なお、図6ではインクリボンの図示は省略している。図6では、印字データの1パス目が「4646」の文字を表すデータであり、1パス目の1列目〜22列目までの領域(1パス目の前半の2文字「46」を含む領域)のセキュリティ重要度が低く、23列目〜42列目まで領域(1パス目の後半の2文字「46」を含む領域)のセキュリティ重要度が高く設定されたセキュリティ情報が印字データに付加されている場合を例示した。このため、CPU72は、1パス目の1列目〜22列目ではステップS170の処理により記録紙Sにドットを形成して「46」を印字し、1パス目の23列目〜42列目ではステップS180の処理により記録紙Sにドットを形成して「46」を印字する。すなわち、例えば1パス目の1列目の印字を行う際には、CPU72は、n=7〜9の印字ワイヤー81に対応する機構部80が印字動作を行い、他の印字ワイヤー81に対応する機構部80は印字動作も音発生動作も行わないよう制御する。また、例えば1パス目の23列目の印字を行う際には、CPU72は、n=7〜9の印字ワイヤー81に対応する機構部80が印字動作を行うと共に、n=1〜6,10〜12の印字ワイヤー81に対応する機構部80が音発生動作を行うよう制御する。
【0034】
ここで、図6に示す印字の際の音の大きさについて説明する。1パス目の1列目〜22列目まではセキュリティ重要度が低くステップS170により印字を行っており、同時に印字動作を行う機構部80の数に応じた大きさの音が発生する。そのため、例えば「4」を印字する場合には1列目〜9列目までのうち6列目〜7列目の印字の際に他の列と比べて大きい音が発生している。同様に、「6」を印字する際には12列目〜20列目のうち12,13,19列目の印字の際に他の列と比べて大きい音が発生している。このように、セキュリティ重要度が低く設定されている領域では、印字する文字に応じて音の大きさのパターンが異なる。したがって、この音の大きさのパターンにより、印字された文字が推測される虞が生じる。一方、セキュリティ重要度の高い1パス目の23列目〜42列目では、ステップS180により印字を行っており、同時に印字動作を行う機構部80の数に関わらず全ての機構部80から音が発生する。したがって、本実施形態では印字動作による音と音発生動作による音とは同じ大きさであるため、発生する音の大きさは印字する文字に関わらず常に一定となる。これにより、セキュリティ重要度が高く設定されている領域では、印字音による印字内容の推定を防止することができる。
【0035】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のインクリボンが本発明のインクリボンに相当し、印字ワイヤー81が印字ワイヤーに相当し、印字レバー82が印字レバーに相当し、印字用電磁石83が印字用駆動手段に相当し、音発生用部材89が音発生用部材に相当し、音発生用電磁石84が衝突手段に相当し、コントローラー70及びヘッド駆動用基板62が制御手段に相当し、コントローラー70が判定手段に相当する。
【0036】
以上詳述した本実施形態のドットインパクトプリンター20によれば、印字データに基づく文字を記録紙Sに印字するにあたり、印字レバー82を動作させることで印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けて記録紙Sにドットを形成する印字動作を行わせて文字を記録紙Sに形成するよう印字用電磁石83を制御すると共に、印字レバー82を動作させることで印字動作を行わない印字レバー82のうち少なくとも1つと音発生用部材89とが衝突するよう音発生用電磁石84を制御する。こうすることで、記録紙Sへの印字を行うにあたり、印字動作による音が発生するだけでなく印字動作を行わない印字レバー82と音発生用部材89とが衝突する音も発生する。したがって、印字動作による音のみが発生する場合と比較して印字音と印字内容との相関が弱くなり、印字音による印字内容の推定を防止できる。
【0037】
また、印字データに基づく文字を記録紙Sに印字するにあたり、いずれかの印字レバー82が印字動作を行って印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けるタイミングで、印字動作を行わない印字レバー82と音発生用部材89とが衝突するよう音発生用電磁石84を制御している。そのため、印字レバー82と音発生用部材89との衝突音が印字動作による音と重なるため、印字音による印字内容の推定を防止する効果が高まる。
【0038】
さらに、印字データに基づく文字を記録紙Sに印字するにあたり、いずれかの印字レバー82が印字動作を行って印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けるタイミングで、印字動作を行わない全ての印字レバー82と音発生用部材89とが衝突するよう音発生用電磁石84を制御している。そのため、いずれかの印字レバー82が印字動作を行う際に、常に全ての印字レバー82から音が発生することになるため、印字音による印字内容の推定を防止する効果が高まる。
【0039】
さらにまた、印字データには、セキュリティ重要度を表すセキュリティ情報が付加されており、セキュリティ重要度が高いと判定した印字データを印字する際にのみ、印字動作を行わない印字レバー82と音発生用部材89とが衝突するよう音発生用電磁石84を制御する。そのため、セキュリティ重要度に関わらず常に印字レバー82と音発生用部材89とを衝突させる場合と比較して衝突回数が少なくて済むため、印字レバー82や音発生用部材89の寿命を長くできる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0041】
例えば、上述した実施形態では、ステップS160でセキュリティ重要度が高いと判定したときのみステップS180に進んで印字動作と音発生動作を行うこととしたが、セキュリティ情報に関わらず常にステップS180により印字を行うものとしてもよい。
【0042】
上述した実施形態では、印字用電磁石83と音発生用電磁石84とは、印字レバー82を反対の方向に吸引するものとしたが、同じ方向に吸引するものとしてもよい。例えば、アーマチュア部82cを印字レバー82から見てアーマチュア部82bと同じ側且つアーマチュア部82bよりも印字ワイヤー81から離れた位置に形成し、印字用電磁石83の吸引方向と同じ方向にアーマチュア部82cを吸引するように音発生用電磁石84を配置し、復帰用スプリング86,音発生用部材89を印字レバー82から見て印字用電磁石83と同じ側に配置し、ダンパーゴム88を印字レバー82を挟んで印字用電磁石83とは反対側に配置するものとしてもよい。このようにしても、印字動作と音発生動作とを行うことができる。これに限らず、印字動作と音発生動作とが可能であれば機構部80をどのような構造にしてもよい。また、印字用電磁石83により印字動作を行い音発生用電磁石84により音発生動作を行うものとしたが、電磁石以外の手段により印字レバー82を動作させて印字動作や音発生動作を行うものとしてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、ステップS180において印字動作を行わない全ての印字レバー82と音発生用部材89とが衝突するよう制御するものとしたが、これに限らず、少なくとも1つの印字レバー82と音発生用部材89とが衝突すればよい。例えば印字動作を行わない印字レバー82のうちランダムに決定した数の印字レバー82のみ音発生動作を行うよう制御するものとしてもよい。このようにしても印字動作による音のみが発生する場合と比較して印字音と印字内容との相関を弱くでき、印字音による印字内容の推定を防止できる。
【0044】
上述した実施形態では、印字レバー82と音発生用部材89との衝突音が印字動作による音と重なるように、いずれかの印字レバー82が印字動作を行って印字ワイヤー81をインクリボンに叩き付けるタイミングで、印字動作を行わない印字レバー82と音発生用部材89とが衝突するよう音発生用電磁石84を制御しているが、他のタイミングで音発生動作を行うものとしてもよい。例えば、ある列の印字動作を行うタイミングと次の列の印字動作を行うタイミングとの中間のタイミングで音発生動作を行うよう音発生用電磁石84を制御するものとしてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、音発生動作は、印字レバー82を音発生用部材89に衝突させることで行うものとしたが、音発生用部材89を印字レバー82に衝突させるものとしてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、音発生動作時に生じる音が印字動作時に生じる音と同じ大きさとなるように、予め音発生用部材89の材質,コイル84bの巻数,ヘッド駆動用基板62が印可する電圧の大きさ,電圧を印加する所定時間が定められているものとしたが、音発生動作時の音の大きさと印字動作時の音の大きさとが異なっていても良い。
【符号の説明】
【0047】
20 ドットインパクトプリンター、21 印刷機構、22 キャリッジ、24 印字ヘッド、25 リニア式エンコーダー、26 リボンカートリッジ、28 キャリッジ軸、29 プラテン、30 紙送り機構、32 キャリッジベルト、33 駆動モーター、34a キャリッジモーター、34b 従動ローラー、35 紙送りローラー、39 メカフレーム、62 ヘッド駆動用基板、63 フラットケーブル、70 コントローラー、72 CPU、73 フラッシュROM、74 RAM、75 インターフェイス(I/F)、80 機構部、81 印字ワイヤー、82 印字レバー、82a レバー部、82b,82c アーマチュア部、82d 支点部、83 印字用電磁石、83a コア、83b コイル、84 音発生用電磁石、84a コア、84b コイル、85,86 復帰用スプリング、85a,86a スプリングホルダー、87,88 ダンパーゴム、89 音発生用部材、91 ヘッドカバー、92 フレーム、93 ノーズ、93a ワイヤー突出面、93b ワイヤーガード、100 中心軸、102,104 接点、110 ユーザーPC、S 記録紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクリボンと、
印字ワイヤーを有する複数の印字レバーと、
前記印字レバーを動作させることで前記印字ワイヤーをインクリボンに叩き付けて記録媒体にドットを形成する印字動作を行わせる印字用駆動手段と、
前記印字レバーと衝突することにより音を発生する部材であり、該印字レバーが前記印字動作を行っても衝突しない位置に設けられた音発生用部材と、
前記印字レバー又は前記音発生用部材を動作させることで前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けることなく該印字レバーと音発生用部材とを衝突させる衝突手段と、
印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、前記印字レバーが前記印字動作を行って該文字を記録媒体に形成するよう前記印字用駆動手段を制御すると共に、該印字動作を行わない印字レバーのうち少なくとも1つと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する制御手段と、
を備えたドットインパクトプリンター。
【請求項2】
前記制御手段は、印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、いずれかの前記印字レバーが前記印字動作を行って前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けるタイミングで、該印字動作を行わない印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段である、
請求項1に記載のドットインパクトプリンター。
【請求項3】
前記制御手段は、印字データに基づく文字を記録媒体に印字するにあたり、いずれかの前記印字レバーが前記印字動作を行って前記印字ワイヤーを前記インクリボンに叩き付けるタイミングで、該印字動作を行わない全ての印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段である、
請求項2に記載のドットインパクトプリンター。
【請求項4】
前記印字用駆動手段は、前記印字レバーを磁力により吸引することで前記印字動作を行わせる電磁石であり、
前記音発生用部材は、前記印字レバーを挟んで前記印字用駆動手段とは反対側に位置する部材であり、
前記衝突手段は、前記印字レバーを磁力により前記印字動作時とは反対の方向に吸引することで前記印字レバーを前記音発生用部材に衝突させる電磁石である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のドットインパクトプリンター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のドットインパクトプリンターであって、
前記印字データには、セキュリティ重要度を表すセキュリティ情報が付加されており、 前記セキュリティ情報に基づいて前記印字データのセキュリティ重要度が高いか否かを判定する判定手段、
を備え、
前記制御手段は、前記判定手段がセキュリティ重要度が高いと判定した印字データを印字する際にのみ、該印字動作を行わない印字レバーと前記音発生用部材とが衝突するよう前記衝突手段を制御する手段である、
ドットインパクトプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167879(P2011−167879A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32146(P2010−32146)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】