説明

ドットプリンタのインクリボン制御方法

【課題】 連続印刷動作による温度上昇時に、ハンマ/プラテン間のギャップが各構成部品の熱膨張により変動するため、ハンマ/プラテン間のギャップ詰まりによるインクリボンへの印字負荷が大きくなり、インクかすれによる印字濃度低下の印字不良を改善することが課題である。
【解決手段】 印字ハンマの単位時間当たりの駆動回数、又はドットプリンタ筐体内に設置した温度測定手段の測定結果、又は印字ハンマと前記プラテンの隙間を測定するハンマ/プラテン間ギャップ測定手段の測定結果に基づいて、インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクリボン移動速度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4及び図5にドットプリンタの印字機構部概略の一例を示す。複数の印字ハンマ10を有するハンマバンク1は、図示しないシャトル機構部により桁方向(図中矢印A→B、B→A方向)に往復運動する。また、ハンマバンク1は、矢印Cの方向に移動するインクリボン2と印字用紙3とを間に挟み、印字力を支持する為のプラテン5と対向した状態で配置されていて、ハンマバンク1が往復運動している状態で、印字ハンマ10が適時駆動される毎にドットマトリクスの形で文字、図形等が印字用紙3に印字される。印字用紙3は、印字の過程で適時トラクタ4、紙送りモータ7を搭載した紙送り機構部6により、垂直方向(図中矢印D方向)に送られる。トラクタ4は、印字用紙3の両端に連続的に配置される送り穴にピンを嵌合させ、印字用紙3を搬送する。
【0003】
図6にインクリボンの走行を説明するための平面図を示す。インクリボン2は、一対のローラで構成されたリボンドライブローラ21及びガイドローラ22、リボンガイド23、24及びリボンブレーキ部25で支持されており、リボンドライブローラ21の回転に従い常に矢印C方向へ送られる。なおリボンドライブローラ21は図示しないモータ等により矢印E方向に駆動される。
【0004】
従って、前記インクリボン2とハンマバンク1の夫々の移動方向が同じ場合と逆の場合が交互に発生する。ハンマバンク1が矢印A→B方向へ移動する場合、インクリボン2の移動方向と逆となり、インクリボン2は印字ハンマ10による打撃すなわち印字負荷を受けながらハンマバンク1と逆向きに移動するため、インクリボン2には移動方向と逆方向の力がかかり、ハンマバンク前面部15でその走行速度が著しく遅くなるかまたは一瞬停止する。一方前記ドライブローラ21は一定速度で巻き取り続けるので、インクリボン2はドライブローラ21とハンマバンク前面部15との間で伸びを生じる。
【0005】
この伸びは、ハンマバンク1が矢印B→A方向へ反転する時実際には矢印A→B方向に移動中の印字動作が終了した瞬間、すなわちインクリボン2にかかる印字負荷が無くなった時に解放され、インクリボン2の移動速度は瞬間的に高速となる。この時、インクリボン2の移動速度とハンマバンク1の矢印B→A方向への移動速度とが一瞬同じとなり、インクリボン2は同一個所が連続して打撃され、一時的にインクリボン2のインク切れとなりインクかすれによる印字濃度低下が生じ、印字品質が低下してしまう。
【0006】
印字濃度低下防止のため、インクリボン2の移動方向をハンマバンク1の往復移動方向反転に同期させて反転する方法が提案されているが、反転させる構造が複雑で高価なものとなる。また、高速印刷が可能なプリンタでは、高速移動に追従させてインクリボン2を反転させることは困難であるという問題がある。
【0007】
同じく印字濃度低下防止対策として、ハンマバンク1がインクリボン2と反対方向(A→B方向)に移動する時に、インクリボン2の移動速度を低速とし、ハンマバンク1の移動方向がインクリボン2の移動方向と同じ(B→A方向)となった時は、インクリボン2の伸び開放による高速移動が収まるまでの所定時間t経過後にインクリボンの速度を上げて通常速度とする制御方法が提案されている。
【0008】
なお、前記インクリボン2を低速移動させるのは前記ドライブローラ5の巻き取り速度を小さくして前記インクリボン2の伸びを小さくするためである。インクリボン2を常に低速移動とした場合は、インクリボン2の単位長さ当たりの印字ハンマ10の打撃回数が多くなり、消耗されるインク量が多くなってインクかすれが発生する。また、インクリボン2の単位長さ当たりの印字ハンマ10の打撃回数が多くなると、インクリボン2の基布の傷みが大きくなり、インクリボン2の基布の破損を招き、印字品質の低下及びインクリボン2の寿命低下の原因となる等種々の問題が生じる。
【0009】
【特許文献1】特開平3−264386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近のドットプリンタは印字速度の高速化に伴い、連続運転中の印字機構部周辺の温度上昇が大きくなる。ハンマ/プラテン間のギャップは、初期的には±10μm程度の精度で調整されるが、連続運転時の温度上昇による各部の膨張によりハンマ/プラテン間のギャップが詰まる方向に変動する。
【0011】
ハンマ/プラテン間のギャップが詰まると、インクリボン2がハンマバンク前面部15で印字ハンマ10より受ける印字負荷が増大し、ハンマバンク1がインクリボン2と反対方向(A→B方向)への移動時は、ドライブローラ21とハンマバンク前面部15との間でのインクリボン2の伸び量が初期状態よりさらに増える。これより、シャトルが反転し、ハンマバンク1の移動方向がインクリボン2の移動方向と同じ(B→A方向)となった時、インクリボン2の伸び開放による高速移動の収束時間が長くなり、インクリボン2の移動速度とハンマバンク1の移動速度が一致する状態となると、インクリボン2の同一個所が連続して打撃され、一時的にインクリボン2のインク切れとなってインクかすれによる印字濃度低下が生じ、印字品質が低下する問題が生じる。
【0012】
ハンマ/プラテン間のギャップ詰まりによる、インクリボン2への印字負荷を下げるため、プラテンを移動させハンマ/プラテン間のギャップを広げるということもなされるが、ハンマ/プラテン間のギャップが広がると、印字ハンマ1が適切な力で印字用紙3を打撃することができなくなるため、ドットが印字用紙3に印字できない(印字ドット抜け)などの問題が生じる。
【0013】
本発明は、連続運転時の温度上昇によるハンマ/プラテン間のギャップが詰まりにより、インクリボンへの印字負荷が増加するドットプリンタにおいて、印字品質を保つことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、印字ハンマの単位時間当たりの駆動時間をカウントし、駆動回数に応じて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とする。
【0015】
本発明は、ドットプリンタ筐体内に温度測定手段を設置し、該温度測定手段の測定結果に基づいて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とする。
【0016】
本発明は、印字ハンマと前記プラテンの隙間を測定するハンマ/プラテン間ギャップ測定手段を設置し、該ハンマ/プラテン間ギャップ測定手段の測定結果に基づいて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ドットプリンタのハンマ/プラテン間ギャップ詰まりによる印字濃度低下等の印刷不良を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0019】
図1(A)にハンマバンク1の往復移動時の変位を示す。図中31はハンマバンク1がBからAへ移動時の印字開始位置、32は同印字終了位置、33はハンマバンク1がAからBへ移動時の印字開始位置、34は同印字終了位置を示す。
【0020】
図1(B)に初期状態のハンマバンク1の往復移動速度曲線35、及びインクリボン2の移動速度すなわちリボンドライブローラ21の回転速度曲線36の変化を示す。
【0021】
インクリボン2の速度は、ハンマバンク1がA→Bの向きに移動している時すなわちインクリボン2の移動方向と逆の時は低速移動速度とされ、またハンマバンク1がB→Aの向きに移動している時すなわちインクリボン2の移動方向と同じ時は通常移動速度である。前記リボンドライブローラ21が通常回転速度に移るタイミングをハンマバンク1の反転開始から時間tだけ遅らせるのは、ハンマバンク1の移動方向がインクリボン2の移動方向と同じ(B→A方向)となった時、インクリボン2の伸び開放による高速移動が収まるまで待つためである。インクリボン2の高速移動が収まった後にリボンドライブローラ21の回転速度を通常速度に移せば、ハンマバンク1とインクリボン2の相対速度差は0にはならず、印字濃度低下の印字不良が防げる。前記インクリボン速度切替遅れ時間tは、漢字を毎分約400〜600行で印字するドットプリンタでは、ハンマバンク1の往復時間の半分であるTの20〜40%付近に設定した場合、印字濃度低下を防げるようになった。
【0022】
しかし、ドットプリンタを連続運転させると、印字機構部周辺の温度が上昇し、各部の膨張によりハンマ/プラテン間のギャップが詰まる方向に変動する。このハンマ/プラテン間のギャップが詰まることにより、インクリボン2への印字負荷が増加すると、前記初期状態のハンマバンク反転時のインクリボン速度切替遅れ時間tがTの20〜40%では、インクリボン2の伸び開放による高速移動が収まらず、印字濃度低下の印字不良が起きる。
【0023】
上記問題を解決するため、図1(C)にハンマ/プラテン間のギャップ詰まり時のリボンドライブローラ21の回転速度曲線37の変化を示す。ハンマ/プラテン間のギャップが初期設定値より大きく詰まった場合は、インクリボン2の伸び開放による高速移動が収まるまでのインクリボン速度切替遅れ時間tを延長すると良い。本発明のドットプリンタでは、ハンマ/プラテン間のギャップ詰まり時に、インクリボン速度切替遅れ時間tをTの50〜75%付近に設定した場合、印字濃度低下を防止できるようになった。
【0024】
しかしながら、インクリボン速度切替遅れ時間tを常にTの50〜75%とするとインクリボン2の移動速度が全体的に遅くなる。インクリボン速度の低下は、インクリボン2の単位長さ当たりの印字ハンマ10の打撃回数が多くなり、消耗されるインク量が多くなってインクかすれによる印字濃度低下の印字不良が発生する。更に、インクリボン2の基布破損を招き、印字品質低下及びインクリボン2の寿命低下の原因となる等種々の問題が生じる。
【0025】
上記問題を解決するため、ハンマ/プラテン間のギャップ詰まりを監視し、ギャップ詰まりが発生した場合のみ、インクリボン2の低速移動速度から通常移動速度への速度切替遅れ時間tの変更を行えば良い。なお、ハンマ/プラテン間ギャップ詰まりの把握は、筐体内にハンマ/プラテン間ギャップ測定手段を設けるか、筐体内の温度上昇測定手段を設けるか、またはドットプリンタの中で消費エネルギの一番大きいハンマバンクの印字ハンマの単位時間の駆動回数をカウントすることで判断することができる。
【0026】
図2に本発明の概略構成を、図3にハンマバンク駆動情報/筐体内の温度情報とハンマ/プラテン間のギャップ変動の相関データ示す。ハンマバンク1の発熱が単位時間当たりの印字ハンマ10の駆動回数と相関関係にあることに着目し、制御上、各印字ハンマ10の駆動回数をカウントし一定回数を超えたら、インクリボン速度切替遅れ時間tを変更することで、ギャップ詰まり時のインクかすれによる印字濃度低下を防ぎ、印字品質を保つことが可能である。
【0027】
また、プリンタ筐体内にハンマ/プラテン間のギャップ変動と相関の強いハンマバンク1付近に温度測定手段8を設けることで、温度測定結果に基づき測定温度がある一定温度を超えたら、インクリボン速度切替遅れ時間tを変更することで、ギャップ詰まり時のインクかすれによる印字濃度低下を防ぎ、印字品質を保つことが可能である。
【0028】
また、プリンタ筐体内にハンマ/プラテン間のギャップ測定手段9を設け、ギャップ測定結果に基づきギャップ値がある値より狭くなったら、インクリボン速度切替遅れ時間tを変更することで、ギャップ詰まり時のインクかすれによる印字濃度低下を防ぎ、印字品質を保つことが可能である。
【0029】
なお、ドットプリンタの印刷量低下、印刷休止等で、単位時間の駆動回数の減少、測定温度の低下、またはハンマ/プラテン間のギャップが元に戻った場合、インクリボン速度切替遅れ時間tを初期状態に変更する。すなわち、インクリボン2の単位長さ当たりの印字ハンマ10の打撃回数を平均化し、インクリボン2の基布破損等による、印字品質低下を防ぐことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例におけるハンマバンク及びインクリボンドライブモータの速度を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例におけるハンマバンク駆動情報/筐体内の温度情報とハンマ/プラテン間のギャップ変動の相関データを示すグラフである。
【図4】従来の印字機構の斜視図である。
【図5】従来の印字機構の断面図である。
【図6】インクリボンの走行を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0031】
1はハンマバンク、2はインクリボン、3は印字用紙、4はトラクタ、5はプラテン、6は紙送り機構部、7は紙送りモータ、8は温度測定手段、9はギャップ測定手段、10は印字ハンマ、15はハンマバンク前面部、21はリボンドライブローラ、22はガイドローラ、23はリボンガイド、24はリボンガイド、25はリボンブレーキ部、26はリボントレイ、31はハンマバンク1がBからAへ移動時の印字開始位置、32はハンマバンク1がBからAへ移動時の印字終了位置、33はハンマバンク1がAからBへ移動時の印字開始位置、34はハンマバンク1がAからBへ移動時の印字終了位置、35はハンマバンク1の往復移動速度曲線35、36は初期状態のリボンドライブローラ21の回転速度曲線、37はハンマ/プラテン間ギャップ詰まり時のリボンドライブローラ21の回転速度曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の印字ハンマを搭載したハンマバンクと、該ハンマバンクを往復移動させる為のシャトル機構と、印字用紙を送るための紙送り機構と、前記印字ハンマの印字力を支持するプラテンと、前記印字ハンマと前記プラテンの間に前記印字用紙と印字行方向に沿って常に同一方向に移動するエンドレスインクリボンを配置して、印字ハンマの移動方向の違いにより前記インクリボンの移動速度を低速移動速度と通常移動速度に変更可能なインクリボン駆動手段を有し、前記ハンマバンクの往復運動の過程で前記印字ハンマを適時駆動し、前記インクリボンを介して前記印字用紙に文字、図形等を印字するドットプリンタにおいて、前記印字ハンマの単位時間当たりの駆動時間をカウントし、駆動回数に応じて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とするドットプリンタのインクリボン制御方法。
【請求項2】
複数個の印字ハンマを搭載したハンマバンクと、該ハンマバンクを往復移動させる為のシャトル機構と、印字用紙を送るための紙送り機構と、前記印字ハンマの印字力を支持するプラテンと、前記印字ハンマと前記プラテンの間に前記印字用紙と印字行方向に沿って常に同一方向に移動するエンドレスインクリボンを配置して、印字ハンマの移動方向の違いにより前記インクリボンの移動速度を低速移動速度と通常移動速度に変更可能なインクリボン駆動手段を有し、前記ハンマバンクの往復運動の過程で前記印字ハンマを適時駆動し、前記インクリボンを介して前記印字用紙に文字、図形等を印字するドットプリンタにおいて、ドットプリンタ筐体内に温度測定手段を設置し、該温度測定手段の測定結果に基づいて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とするドットプリンタのインクリボン制御方法。
【請求項3】
複数個の印字ハンマを搭載したハンマバンクと、該ハンマバンクを往復移動させる為のシャトル機構と、印字用紙を送るための紙送り機構と、前記印字ハンマの印字力を支持するプラテンと、前記印字ハンマと前記プラテンの間に前記印字用紙と印字行方向に沿って常に同一方向に移動するエンドレスインクリボンを配置して、印字ハンマの移動方向の違いにより前記インクリボンの移動速度を低速移動速度と通常移動速度に変更可能なインクリボン駆動手段を有し、前記ハンマバンクの往復運動の過程で前記印字ハンマを適時駆動し、前記インクリボンを介して前記印字用紙に文字、図形等を印字するドットプリンタにおいて、印字ハンマと前記プラテンの隙間を測定するハンマ/プラテン間ギャップ測定手段を設置し、該ハンマ/プラテン間ギャップ測定手段の測定結果に基づいて、前記インクリボンの低速移動速度、通常移動速度の切り替え時間を変更することを特徴とするドットプリンタのインクリボン制御方法。
【請求項4】
前記インクリボンの低速移動速度及び通常移動速度の切り替え時間を、前記印字ハンマの一方向に移動に要する時間の半分以下より、半分以上へ変更することを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のドットプリンタのインクリボン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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