説明

ドデカハロゲンネオペンタシランの製造方法

本発明の主題は、一般式(1) Si(SiR34 (1)のネオペンタシランの製造方法において、一般式(2) R3Si−(SiR2−)xSiR3 (2)[式中、Rは、Cl、Br及びIから選択され、xは、負ではない5までの整数を表す]のケイ素化合物を、触媒活性化合物(K)の存在で反応させ、この場合に形成されるテトラハロゲンシランの分離を、遊離される前記テトラハロゲンシランよりも高い沸点を有する室温で液状の化合物(L)の存在での蒸留により行う、ネオペンタシランの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及び高沸点溶剤の存在で、ペルハロポリシランからドデカハロネオペンタシランの製造方法に関する。
【0002】
ドデカハロゲンネオペンタシラン(ネオペンタシラン=テトラキス(シリル)シラン)から得られるケイ素水素化合物は、CVD法でのSi−Cの堆積のために使用される。
【0003】
ドデカハロゲンネオペンタシランの製造は、例えばWO 20080513281及びJ. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 421-425に記載されている。
【0004】
WO 20080513281では、ヘキサハロゲンジシランを、触媒として第3級アミンを用いてテトラキス(トリハロシリル)−シランを含有する混合物に反応させている。後処理のために、この反応混合物は真空中で乾燥に至るまで蒸発させるため、難揮発性の不純物(例えばペルハロポリシラン)は全く分離できないか又は完全には分離できない。この精製は、塩素原子を水素原子に交換した後に初めて、目的生成物のネオペンタシランの蒸留により行われる。この後続反応のためにアルキルアルミニウムヒドリドが使用されるため、ハロゲン含有副生成物は、この高価な出発化合物を不必要に多く消費し、従って経済的欠点を意味する。
【0005】
J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 421-425からは、トリメチルアミンを用いたヘキサクロロジシラン又はオクタクロロトリシランからのドデカクロロネオペンタシランの製造は公知である。
【0006】
さらに、ここには、ドデカクロロネオペンタシランは、副生成物として生成されるテトラクロロシランとの付加物を形成することが記載されている。真空中での固体の高価でかつ時間のかかる乾燥により初めて、結晶中に結合するテトラハロゲンシラン及び他の不揮発の不純物、例えばヘキサクロロジシランを除去することができる。
【0007】
従って、この方法は、純粋なペルハロゲンポリシランの工業的規模での製造のためには適していない。
【0008】
前記課題は、先行技術の欠点をもはや有していない方法を開発することであった。
【0009】
本発明の主題は、一般式(1)
Si(SiR34 (1)
のネオペンタシランの製造方法において、一般式(2)
3Si−(SiR2−)xSiR3 (2)
[式中、
Rは、Cl、Br及びIから選択され、
xは、負ではない5までの整数を表す]のケイ素化合物を、
触媒活性化合物(K)の存在で反応させ、この場合に形成されるテトラハロゲンシランの分離を、遊離される前記テトラハロゲンシランよりも高い沸点を有する室温で液状の化合物(L)の存在での蒸留により行う、ネオペンタシランの製造方法である。
【0010】
このテトラハロゲンシランは、本発明による方法により、簡単でかつ極めて有効な方法で、分離することができる。よって、一般式(1)の純粋なネオペンタシランを得ることができる。
【0011】
室温で液状の化合物(L)(以後、高沸点物(L)という)として、反応条件下で及び蒸留条件下でSi−Si化合物及びSi−ハロゲン−化合物と反応しない全ての化合物、例えば炭化水素、例えばアルカン(n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、パラフィン、例えばHydroseal G400H、デカリン)、アルケン(例えばシクロヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロオクテン)、芳香族化合物(例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、フルオロベンゼン)、エーテル(例えば、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、ジフェニルエーテル、フェニルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、テトラヒドロピラン)、シロキサン、特に、有利に0〜6個のジメチルシロキサン単位を有するトリメチルシリル末端基を有する線状のジメチルポリシロキサン、又は有利に4〜7個のジメチルシロキサン単位を有する環状のジメチルポリシロキサン、例えばヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン又は前記材料の混合物が適している。有利に、ドデカハロゲンネオペンタシランが溶解しにくい材料、特に炭化水素及びシロキサンが使用される。特に、市場での入手しやすさに基づいて及び低い反応性に基づいて、炭化水素、例えばトルエン、高沸点パラフィン及びデカリンが有利である。有利に、1023hPaで、それぞれのテトラハロゲンシランの沸点より少なくとも10℃高い、特に有利に少なくとも15℃高い沸点を有する高沸点物(L)が使用される。
【0012】
触媒活性化合物(K)として、ペルハロゲンネオペンタシラン中での線状ペルハロゲンポリシランの転位反応を促進するために適した全ての化合物が挙げられる。この化合物は、上記の文献に記載された濃度で使用される。使用された触媒活性化合物(K)のできる限り完全な分離を保証するために、本発明による方法の場合に、有利に、1023hPaで高沸点物(L)の沸点よりも少なくとも10℃低い、特に少なくとも20℃低い沸点を有する触媒活性化合物(K)が使用される。
【0013】
有利な触媒活性化合物(K)は、エーテル化合物(E)及び第3級アミン化合物(N)である。
【0014】
エーテル化合物(E)は、容易に入手可能でありかつ容易に分離できる化学薬品である。
【0015】
有利なエーテル化合物(E)は、有利に少なくとも5個の環原子及び有利に多くても30個の環原子を有する環状の有機エーテル化合物、例えば1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、[12]クラウン−4、[15]クラウン−5である。これらの環状エーテル化合物(E)は、炭化水素置換基、特に1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、有利にメチル及びエチルを有することができる。置換された環状エーテル化合物(E)の例は、4−メチル−1,3−ジオキソラン、3−メチル−テトラヒドロフラン、2,2−ジメチル−1,4−ジオキサンである。
【0016】
同様に、線状又は分枝状の有機エーテル化合物(E)、例えばモノエーテル及びポリエーテルも有利である。モノエーテルとして、1023hPaで少なくとも60℃の沸点を有するエーテルが有利であり、例えばジ−n−プロピルエーテルである。ポリエーテルとして、有利にOH基を有していない、つまりアルキルエステル又はアリールエステルを末端に有するポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール、例えばポリエチレングリコールジメチルエーテルも使用することができる。ポリアルキレングリコールの平均分子量Mnは、有利に少なくとも150、特に少なくとも500、有利に最大で10000、特に最大で5000である。
【0017】
有利な第3級アミン化合物(N)は、モノアミン又は線状、分枝状又は環状のポリアミンである。一般式(3)
N(R13 (3)
[式中、R1は、1〜20個の炭素原子を有する炭化水素を表す]のモノアミンが有利である。
【0018】
炭化水素基R1は、飽和又は不飽和であり、分枝又は非分枝であり、置換又は非置換であることができる。一般式(3)中で、異なる基又は同じ基のR1が存在することができる。
【0019】
この炭化水素基R1は、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、1−n−ブチル基、2−n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基;ヘキシル基、例えばn−ヘキシル基;ヘプチル基、例えばn−ヘプチル基;オクチル基、例えばn−オクチル基及びイソオクチル基、例えば2,2,4−トリメチルペンチル基;ノニル基、例えばn−ノニル基;デシル基、例えばn−デシル基;ドデシル基、例えばn−ドデシル基;オクタデシル基、例えばn−オクタデシル基;シクロアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びメチルシクロヘキシル基;アルケニル基、例えばビニル基、1−プロペニル基及び2−プロペニル基;アリール基、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基及びフェナントリル基、アルカリール基、例えばo−、m−、p−トリル基;キシリル基及びエチルフェニル基;及びアラルキル基、例えばベンジル基、アルファ−及びベータ−フェニルエチル基であることができる。この炭化水素基R1は、有利に1〜6個、特に1〜3個のC原子を有する。有利に、R1は、メチル基、エチル基、イソ−及びn−プロピル基、イソ−及びn−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、ベンジル基又はアリル基である。
【0020】
有利な線状の第3級ポリアミン(N)は、エチレン−又はプロピレンジアミン単位を有するN−アルキル基を有するポリアミン(N)又はその混合物である。有利に、ポリアミン(N)は1〜20、特に1〜10個のエチレンジアミン単位又はプロピレンジアミン単位を含有する。
【0021】
特に有利な第3級アミン化合物(N)は、トリメチルアミン及びトリエチルアミンである。
【0022】
一般式(2)のケイ素化合物100質量部に対して、有利に少なくとも0.1、特に有利に少なくとも0.5、殊に少なくとも2質量部の触媒活性化合物(K)、及び有利に最大で50、特に有利に最大で20及び殊に最大で10質量部の触媒活性化合物(K)を使用する。
【0023】
一般式(1)のネオペンタシランは、1分子中で同じ又は異なる意味のRを有することができる。有利に、全てのRは同じ意味を有する。特に有利に、RはClを表す。xは、有利に0又は1の値を表す。
【0024】
一般式(2)のケイ素化合物から一般式(1)の目的生成物への変換は、触媒の添加により開始される。この反応を促進するために、本発明による方法の場合に、この反応の際に生成される副生成物のテトラハロゲンシランは初めから留去される。これは、真空中で、大気圧で又は加圧で行うことができる。有利に、この反応は大気圧下で行われる。この反応は、有利に少なくとも−10℃、特に有利に少なくとも50℃、及び殊に少なくとも100℃で、かつ有利に最大で300℃、殊に最大で250℃で行われる。この反応は、有利に少なくとも1時間、特に有利に少なくとも3時間、殊に少なくとも10時間で、かつ有利に最大で10日間で実施される。
【0025】
できる限り高い空時収率の観点で、高沸点物(L)を蒸留底部に有利に反応の完了後に初めて、つまり生成されたテトラハロゲンシランの大部分の量は留去され、蒸留気泡中に相応して十分な空間が提供される場合に添加する。引き続き、有利にこの高沸点物(L)の沸点までで蒸留する。この高沸点物(L)の比較的高い沸点のために、この場合、遊離した及び結合したテトラハロゲンシランは除去される。この蒸留塔底物はその後冷却され、テトラハロゲンシラン不含の目的生成物が生じ、濾過、沈殿又は遠心分離により有利に純粋な固体として単離するか、又は懸濁液の形で直接更なる処理を行うことができる。
【0026】
本発明による方法の他のあまり有利ではない変法の場合に、生成されたテトラハロゲンシランは反応の間に既に留去するのではなく、反応の完了の後に初めて留去され、その後に高沸点物(L)が添加され、引き続き残りの(遊離した及び結合した)テトラハロゲンシランを留去する。
【0027】
使用した又は他の高沸点物(L)中に又は他の溶剤中にこの固体を新たに溶解させ、引き続き溶解しない成分を濾過、沈殿又は遠心分離により分離し、生成物をさらに精製することができる。これを次に溶液としてさらに処理することができるか、又は新たに濃縮又は冷却により再結晶化させ、固体として単離することができる。
【0028】
高沸点物(L)の添加される量は、第1に、目的生成物の溶解度に依存し、つまり、可能な限りわずかな高沸点物を添加する。有利に、高沸点物量は、目的生成物が温熱下でできる限り完全に溶解され、かつ冷却時に十分に沈殿するように算定される。高沸点物(L)の有利な量は、一般式(2)のケイ素化合物の使用量に対してそれぞれ、少なくとも2、殊に少なくとも5質量%、有利に最大で20、殊に最大で50質量%である。この最適な量は、個々の場合に、沸騰温度で、目的生成物がちょうど完全に溶解する高沸点物(L)の量を正確に添加することにより簡単に算定することができる。
【0029】
有利に、この反応の後に、有利に少なくとも−15℃の温度に、殊に少なくとも0℃に、有利に最大で60℃に、特に有利に最大で40℃に、殊に18〜25℃の室温への冷却工程を行う。この場合、一般式(1)の目的生成物は純粋な形で晶出し、濾過、沈殿又は遠心分離により単離される。この母液は次のバッチに添加することができるが、冷却及び/又は濃縮により、つまり、揮発性成分、殊に高沸点物(L)の留去により、一般式(1)の溶解した目的生成物が沈殿し、上記のように単離することができる。この全体の方法プロセス又は個別のプロセス工程は、相互に無関係に、保護ガス、例えば窒素、ヘリウム又はアルゴンの存在又は不在で、実施することができるが、これらのプロセス又は工程は、この湿分含有量が有利に最大で10ppbwである限り空気中で実施することができる。有利に、全てのプロセス工程は、コストの理由から窒素の存在で実施される。
【0030】
上記式の記載された全ての記号は、それぞれ相互に無関係に上記記号の意味を有する。全ての式中で、ケイ素原子は4価である。
【0031】
他に記載されていない限り、次の実施例は、周囲雰囲気の圧力、つまり約1000hPaで、室温、つまり、約23℃、並びに約50%の相対空気湿度で実施される。
【0032】
実施例1
温度計、35cm充填塔及び磁気撹拌機を備えた窒素を導入した2リットルのフラスコ中に、ヘキサクロロジシラン(Wacker Chemie AG、ドイツ国)2254g及びテトラヒドロフラン(Merck KGaA、ドイツ国)145gを装入した。この混合物を沸騰するまで加熱した。この場合、56℃の塔頂温度が生じた。この反応混合物を最大143℃に後加熱することにより、絶え間ない留出物流を維持することができた。5時間の間に、留出物1014.3gが取り出され、この留出物はGCによると89%のテトラクロロシラン及び11%のTHFを含んでいた。この蒸留塔底にはこの場合、白色の固体が沈殿していた。トルエン216gの添加後に、この反応混合物を新たに沸騰するまで加熱した。90分間に、合計で102.7gの留出物が、107℃の塔頂温度にまでで取り出された。GCによると、この留出物は次の組成を有していた:テトラクロロシラン66%、トルエン29%、ヘキサクロロジシラン4%、THF0.8%。白色の懸濁液を室温に冷却した後にガラスフリットで濾過し、トルエンで洗浄し、窒素を導通しかつ水流真空の適用により乾燥させた。無色の結晶の固体506.5gを単離し、この1H−及び29Si−NMRは、目的生成物のドデカクロロネオペンタシランの他に、微量のテトラクロロシラン、トルエン及びヘキサクロロジシランが存在するだけであることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
Si(SiR34 (1)
のネオペンタシランの製造方法において、
一般式(2)
3Si−(SiR2−)xSiR3 (2)
[式中、
Rは、Cl、Br及びIから選択され、
xは、負ではない5までの整数を表す]のケイ素化合物を、
触媒活性化合物(K)の存在で反応させ、この場合に形成されるテトラハロゲンシランの分離を、遊離される前記テトラハロゲンシランよりも高い沸点を有する室温で液状の化合物(L)の存在での蒸留により行う、ネオペンタシランの製造方法。
【請求項2】
室温で液状の前記化合物(L)は、炭化水素、エーテル、シロキサン及びこれらの混合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
室温で液状の前記化合物(L)の1023hPaでの沸点が、それぞれのテトラハロゲンシランの沸点より少なくとも10℃高い、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
一般式(2)のケイ素化合物の使用量に対して、化合物(L)2〜50質量%を使用する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記触媒活性化合物(K)は、エーテル化合物(E)及び第3級アミン化合物(N)から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記触媒活性化合物(K)はテトラヒドロフラン、トリメチルアミン又はトリエチルアミンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
一般式(2)のケイ素化合物100質量部に対して、触媒活性化合物(K)0.1〜50質量部を使用する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
xは、0又は1の値を表す、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2012−530669(P2012−530669A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516647(P2012−516647)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058430
【国際公開番号】WO2010/149547
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】