説明

ドナー・アクセプターナノハイブリッド及びその製造方法

【課題】高効率な光電変換システムの材料として有用なドナー・アクセプターナノハイブリッド及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したドナー・アクセプターナノハイブリッド、並びに還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンとを反応させて、カップ型ナノカーボンをアニリンで修飾する工程(A)及びアニリンで修飾したカップ型ナノカーボンを光捕集分子と反応させて、光捕集分子でカップ型ナノカーボンを修飾する工程(B)を含む、ドナー・アクセプターナノハイブリッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光機能性材料等として用いられ得るドナー・アクセプターナノハイブリッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるナノ炭素材料と光捕集分子を組み合わせたドナー・アクセプターナノハイブリッドは、光機能性材料への応用が可能であり、特に、高効率な光電変換システムを開発するための材料として非常に注目されている(非特許文献1〜4参照)。しかしながら、これまでに報告されているナノハイブリッドでは、未だ高効率な光電変換システムは得られていない。これは、従来用いられてきたCNTのサイズの不均一性が性質のバラツキに影響しているためと考えられる。
【0003】
例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNT)は優れた化学的特性及び物理的特性を示し、その応用技術も検討されているが、SWNTは、六角網目の炭素から構成される継ぎ目のない円柱状構造からなり、強酸での処理又は激しい超音波処理なしでは可溶化/修飾が困難であるため、SWNTのサイズ、即ち、長さの微調整は非常に困難である。
【0004】
そこで、ファンデルワールス力による吸引によって積層されたカップ型ナノカーボン単位からなるカップスタック型カーボンナノチューブ(CSCNT)が、従来のカーボンナノチューブの代用として検討されており、CSCNTから分離した均一なサイズのカップ型ナノカーボンも報告されているが、ドナー・アクセプターナノハイブリッドへの適用は報告されていない(非特許文献5、6参照)。
【非特許文献1】D. M. Guldi, G. M. A. Rahman, F. Zerbetto, M. Prato, Acc. Chem. Res. 2005, 38, p.871-878
【非特許文献2】D. M. Guldi, J. Phys. Chem. B 2005, 109, p.11432-11441
【非特許文献3】T. Hasobe, S. Fukuzumi, P. V. Kamat, J. Phys. Chem. B 2006, 110, p.25477-25484
【非特許文献4】G. Pagona, A. S. D. Sandanayaka, Y. Araki, J. Fan, N. Tagmatarchis, M. Yudasaka, S. Iijima, S.; O Ito, J. Phys. Chem. B. 2006, 110, p.20729-20732
【非特許文献5】K. Saito, M. Ohtani, S. Fukuzumi, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, p.14216-14217
【非特許文献6】K. Saito, M. Ohtani, S. Fukuzumi, Chem. Commun. 2007, p.55-57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高効率な光電変換システムの材料として有用なドナー・アクセプターナノハイブリッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したドナー・アクセプターナノハイブリッド、並びに
〔2〕 還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンとを反応させて、カップ型ナノカーボンをアニリンで修飾する工程(A)及びアニリンで修飾したカップ型ナノカーボンを光捕集分子と反応させて、光捕集分子でカップ型ナノカーボンを修飾する工程(B)を含む、ドナー・アクセプターナノハイブリッドの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
サイズの均一なカップ型ナノカーボンに光捕集分子を組み合わせた本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドは、高効率な光電変換システムの材料として優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドは、カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したものであり、例えば、式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xはカップ型ナノカーボン、Rは炭素数1〜18の炭化水素基、nは500〜4000の数を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0011】
式(I)において、Rは、炭素数1〜18の炭化水素基を示し、炭化水素基としてはアルキル基及びアルケニル基が好ましく、炭素数は5〜18が好ましい。
【0012】
本発明においては、光捕集分子とは、可視光領域に吸収帯を有する色素分子である化合物をいい、可視光領域に強い吸収帯を有していることから、後述の式(III)で表されるような、ポルフィリン骨格を有する化合物が好ましい。
【0013】
式(I)で表されるカップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したドナー・アクセプターナノハイブリッドは、例えば、
工程(A):還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンとを反応させて、カップ型ナノカーボンをアニリンで修飾する工程、及び
工程(B):アニリンで修飾したカップ型ナノカーボンを光捕集分子と反応させて、光捕集分子でカップ型ナノカーボンを修飾する工程
を含む方法により製造することができる。
【0014】
工程(A)に用いられる還元したカップ型ナノカーボンは、例えば、カップスタック型カーボンナノチューブから、ナトリウムナフタレニドを用いた電子移動還元によって得ることができる。非特許文献4、5に記載された方法に従って、カップ型ナノカーボンが積層したカップスタック型カーボンナノチューブを電子移動還元によって静電的に引きはがすことにより、サイズが均一なカップ型ナノカーボンが得られる。
【0015】
ハロゲン置換アニリンとしては、4-ヨードアニリン、4-ブロモアニリン、4-クロロアニリン、4-ヨードメチルアニリン等が挙げられるが、これらの中では、多電子還元したカップ型ナノカーボンとの反応性の観点から、4-ヨードアニリンが好ましい。
【0016】
ハロゲン置換アニリンの使用量は、還元したカップ型ナノカーボン100重量部に対して、20〜40重量部が好ましい。
【0017】
還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンとの反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、ベンゼン等が挙げられ、これらの中では、還元したカップ型ナノカーボンの分散性及びハロゲン化アニリンの溶解性の観点から、DMFが好ましい。
【0018】
溶媒の使用量は、還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンが溶解し、反応が円滑に進行する程度であれば特に限定されない。
【0019】
反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、溶媒にも脱気処理されたものを使用することが好ましい。
【0020】
反応温度は20〜60℃が好ましい。反応の進行は、紫外可視吸収スペクトル等によって確認することができ、反応時間は24〜72時間程度が好ましい。
【0021】
反応混合物を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜等を用いてろ過した後、ヘキサンやメタノールで洗浄し、乾燥することにより、生成したアニリンで修飾したカップ型ナノカーボン(アニリン修飾カップ型ナノカーボン)を分離することができる。
【0022】
続く工程(B)において、工程(A)で得られたアニリン修飾カップ型ナノカーボンを光捕集分子と反応させて、カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾する。
【0023】
例えば、式(I)で表される化合物の場合、式(II):
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、X及びnは前記と同じ)
で表されるアニリン修飾カップ型ナノカーボンを、式(III):
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、Rは前記と同じ)
で表される光捕集分子と反応させて、カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾する。
【0028】
式(III)で表される光捕集分子は、式(IV):
【0029】
【化4】

【0030】
で表される、末端にカルボキシル基を導入した化合物を塩化チオニルと反応させた後、さらに式(V):
R−NH2 (V)
(式中、Rは前記と同じ)
で表されるアミン化合物と反応させて得られる。
【0031】
式(IV)で表される化合物と塩化チオニルとは、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素等の溶媒中で、反応させることが好ましい。
【0032】
塩化チオニルの使用量は、式(IV)で表される化合物1当量に対して、4〜5当量が好ましい。
【0033】
式(IV)で表される化合物と塩化チオニルとの反応は、ピリジン等の塩基の存在下で行うことが好ましい。
【0034】
塩基の使用量は、式(IV)で表される化合物1当量に対して、4〜5当量が好ましい。
【0035】
式(IV)で表される化合物と塩化チオニルとの反応は室温下でも進行し、反応温度は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0036】
式(IV)で表される化合物と塩化チオニルとの反応後、溶媒及びピリジン等の塩基を除去した残渣を、式(V)で表されるアミン化合物、ピリジン等の塩基及び溶媒を含む混合物中に再溶解させて、室温中で攪拌することにより、塩化チオニルとの反応により末端カルボキシル基を処理した化合物と式(V)で表されるアミン化合物の反応を進行させることができ、式(III)で表される光捕集分子が得られる。
【0037】
式(II)で表されるアニリン修飾カップ型ナノカーボンと式(III)で表される光捕集分子との反応は、例えば、前記方法により得られた式(III)で表される光捕集分子を含む反応混合物と、式(II)で表されるアニリン修飾カップ型ナノカーボンをDMF等に懸濁させた懸濁液とを混合し、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜120℃の温度条件下で72〜96時間程度攪拌することにより行うことができる。
【0038】
反応混合物を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜等を用いてろ過した後、過剰量のピリジンや溶媒を減圧除去し、未反応の光捕集分子を透析で除去することにより、光捕集分子で修飾したカップ型ナノカーボンを得ることができる。
【0039】
本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドは、サイズが均一なカップ型ナノカーボンに光捕集分子が修飾されているため、長寿命の電荷分離状態を有し、光電変換システムの原料等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
下記の概略スキームに示す方法に従って、ポルフィリン修飾カップ型ナノカーボン[CNC-(H2P)x]を得た。
【0042】
【化5】

【0043】
即ち、J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, p.14216-14217に記載に方法に従ってナトリウムナフタレニドを用いた電子移動還元によって還元したカップ型ナノカーボン50mg及び4-ヨードアニリン10mg(46μmol)を、脱気したN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)20ml中、不活性雰囲気下で混合した後、30℃で一晩(24時間)攪拌した。反応混合物を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜(孔径:0.1μm)にて濾過した。残渣固形物をヘキサン及びメタノールでそれぞれ3回洗浄し、室温で真空乾燥し、アニリン修飾カップ型ナノカーボンを得た。
【0044】
テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン50mg(63μmol)、塩化チオニル0.20ml(2.74mmol)及びピリジン0.20mlを含むベンゼン15.0mlの溶液を、窒素雰囲気下で2時間攪拌した。過剰のピリジン及びベンゼンを減圧除去した後、残渣を、オクタデシルアミン(ODA)50.9mg(189μmol)、ピリジン0.1ml(12mmol)及びDMF 10.0mlを含む混合物中に再溶解した。混合物を室温で24時間攪拌し、次いで、アニリン修飾カップ型ナノカーボン50mgを含むDMF 10.0mlの懸濁液に添加した後、120℃で72時間攪拌した。混合物をPTFE膜(孔径:1.0μm)に通して濾過し、過剰量のピリジン及びDMFを減圧除去した。未反応のポルフィリンは、蒸留DMFに対して透析することにより除去し、ポルフィリン修飾カップ型ナノカーボン[CNC-(H2P)x]を得た。
【0045】
CNC-(H2P)xの構造を、図1に示す透過型電子顕微鏡写真にて調べた。観察された構造は、還元したカップ型ナノカーボンと実質的に同じであった。
【0046】
CNC-(H2P)xにおいて、カップ型ナノカーボンに連結されたポルフィリンの重量%を、熱重量分析(TGA)によって、大気中にて10℃/分の加熱速度で測定した。結果を図2に示す。図2より、重量減少は200℃から徐々に始まって、650℃での大きな重量減少を伴って、700℃まで生じていることが分かる。図2に併記したカップスタック型カーボンナノチューブの測定結果を考慮すると、200〜550℃及び550〜700℃の温度範囲における分解は、ポルフィリン及びカップ型ナノカーボンに帰属され、従って、ナノカーボンに連結されたポルフィリンの量は17重量%と決定される。これは、元素分析によってCNC-(H2P)xの化学式として、C640(C108H145N8O4)・28(H2O)(この式から、カップ型炭素にグラフトされたポルフィリンの量は17.4重量%と求められる)が得られたことにより裏づけられた。
【0047】
参考例1
テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン50mg(63μmol)、塩化チオニル0.20ml(2.74mmol)及びピリジン0.20mlを含むベンゼン15.0mlの溶液を、窒素雰囲気下で2時間攪拌した。過剰のピリジン及びベンゼンを減圧除去した後、残渣を、オクタデシルアミン70.0mg(260μmol)、ピリジン0.1ml及びDMF 10.0mlを含む混合物中に再溶解した。混合物を室温で24時間攪拌し、過剰のピリジン及びベンゼンを減圧除去した。得られた粗生成物を、クロロホルムとアセトニトリルの混合溶媒から析出させることにより、さらに精製し、以下の物性を有するテトラキス(N-オクタデシル-4-アミノカルボキシフェニル)ポルフィリン[ref-H2P]を得た。
IR(KBr) 3412, 3300, 2922, 2852, 1630, 1540, 1461, 1309, 1264, 1099, 1013, 794, 720 cm-1
MALDI-TOFMS(positive mode) m/z 1797 (M + H+).
【0048】
CNC-(H2P)x及びref-H2PのUV-Vis吸収スペクトルを測定した。結果を図3に示す。図3より、DMF中でのCNC-(H2P)xの吸収(図3中の実線)は、ref-H2P(図3中の点線)と良好に一致していることが分かる。これは、基底状態において、連結されたポルフィリンとカップ型ナノカーボンとの間に相互作用がないことを示す。
【0049】
CNC-(H2P)x及びref-H2Pの光ダイナミクスを、時間分解蛍光分光法によって調べた。426nmにおけるDMF中でのref-H2Pの光励起の結果、650nmで最大となる蛍光発光が起こる。ref-H2P及びCNC-(H2P)xの蛍光時間プロフィールを図4に示す。ref-H2Pの蛍光減衰は単指数曲線によって良好に適合され、曲線から、蛍光寿命は14.1±0.1ナノ秒と決定された。この値は、メソ置換ポルフィリンの蛍光寿命と同等である。対照的に、CNC-(H2P)xの蛍光寿命は、3.0±0.1ナノ秒と決定され、これは、ref-H2Pよりもかなり短い。また、CNC-(H2P)xでは、90%を超える蛍光消光が観測された。ref-H2Pと比べ、CNC-(H2P)xの蛍光寿命が短いこと、及びCNCと組み合わせたポルフィリンの蛍光消光が効率的であることは、CNC-(H2P)x内でのH2P(1H2P*)の一重項励起状態からCNCへの光誘起電子移動に起因し得る。
【0050】
ナノ秒レーザー閃光光分解によって得られた過渡吸収スペクトルにより、CNC-(H2P)xの電荷分離状態の生成の分光学的証拠が見られた。DMF中でのCNC-(H2P)xのレーザー光励起の結果、図5(a)の白丸を伴う実線に示すような過渡吸収が現れる。ref-H2Pの三重項-三重項吸収は、CNC-(H2P)xナノハイブリッドと比べて、かなり異なる形状を示す(図5(b)の近赤外領域(600〜800nm)及びピーク頂点の位置を参照のこと)。従って、観測された過渡吸収スペクトルはCNC-(H2P)xの電荷分離状態(ナノハイブリッドにおけるH2Pの一重項励起状態からCNCへの光誘起電子移動によって生成する)に帰属する。図6(a)で検出された電荷分離状態は崩壊し、明白な一次速度式に従う。異なる初期CS濃度での一次プロットにより、同じ傾きの線形相関が得られる。確実とは言えないが、CNC・−からH2P・+への分子間逆電子移動の寄与があるとすれば、崩壊時間プロフィールについて二次速度式が関与し得る。従って、該崩壊プロセスは、分子間光誘起電子移動によって生成されるH2P・+とCNC・−間の分子間逆電子移動ではなく、ナノハイブリッド内での逆電子移動に起因する。過渡種の寿命は、一次プロットから0.64±0.01ミリ秒であると決定され(図6(b))、これは、電子供与体連結ナノカーボン材料について今までに報告された最も長い寿命であり、電荷離後のカップ型ナノカーボン内での効率的な電子移動によるものであり得る。
【0051】
さらに、ラジカルイオン対の形成が、153Kにおいて凍結DMF中、高圧水銀灯によるCNC-(H2P)xの光照射下での電子スピン共鳴(ESR)測定によって確認された。これを図7(a)に示す。g=2.0044において観測された等方性ESRシグナルは、脱気したクロロホルム中でトリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム(III)錯体[Ru(bpy)33+]での一電子酸化によって生成したref-H2P・+のものと一致し(図7(b))、これは、H2P・+の生成を示す。C60を除く還元ナノ炭素材料に対応する確定的なESRシグナルが、固形試料においてのみ見られ、線広がりのため溶液においては見られないという事実を考慮すると、観測されたESRシグナルは、H2P・+及びCNC・−による2つのシグナルの重複に充分帰属し得る。従って、CNC-(H2P)xの光励起の結果、DMF中で、CNC-(H2P)x内で1H2P*からCNCへの光誘起電子移動が起こり、電荷分離状態が生成する。
【0052】
本発明者らは、光捕集分子としてポルフィリンを含むナノハイブリッドの電子受容体成分として、サイズが揃ったカップ型ナノカーボンを初めて利用した。カップ型ナノカーボンは、光誘起電子移動によって一重項励起されたポルフィリン単位を効率的に消光し、0.64ミリ秒もの長寿命の電荷分離状態の生成をもたらす。非特許文献1及び2で報告されているように、これまでにカーボンナノチューブ等のナノカーボンを電子受容体成分として利用したナノハイブリッドでは、その電荷分離寿命は最長で14マイクロ秒である。このことは、本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドの電荷分離状態が溶液中でより安定に存在することを示し、その酸化還元力を利用した酸化還元反応、光触媒反応として用いる際に非常に有利である。また、このようなドナー・アクセプターナノハイブリッドを電極材料として色素増感太陽電池へと応用する際には、光照射により生成する電荷分離状態の安定性が非常に重要である。本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドはこれまでに報告されているナノハイブリッドよりも長寿命の電荷分離状態を生成することから、効率的な光電変換システムの材料として好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のカップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したドナー・アクセプターナノハイブリッドは、光励起により長寿命の電荷分離状態を生成する。このような特性を有するドナー・アクセプターナノハイブリッドは、様々な用途に使用することが可能である。例えば、本発明のドナー・アクセプターナノハイブリッドを電極材料として色素増感太陽電池へと応用することで、効率的な光電変換システムの材料として好適に用いることができる。また、ドナー・アクセプターナノハイブリッドの電荷分離状態の酸化還元力を利用して種々の基質を酸化・還元することができるため、様々な光触媒反応を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で得られたポルフィリンで修飾されたカップ型ナノカーボンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】カップスタック型カーボンナノチューブ(a)とCNC-(H2P)x(b)の熱重量分析(TGA)結果を示す図である。
【図3】DMF中でのCNC-(H2P)x(実線)及びref-H2P(点線)のUV−Vis吸収スペクトルを示す図である。
【図4】650nmにおけるDMF中でのCNC-(H2P)x(白丸を伴う実線)及びref-H2P(黒丸を伴う点線)の蛍光減衰プロフィールを示す図である。励起波長は426nmである。挿入図は一次プロットの図である。
【図5】(a)は、426nmでレーザー励起した後、20μ秒(白丸を伴う実線)及び1.8ミリ秒(黒丸を伴う実線)で計測した298Kにおける脱気DMF中でのCNC-(H2P)xの過渡吸収スペクトルの図である。(b)は、426nmでレーザー励起した後、100μ秒(白丸を伴う実線)及び1.6ミリ秒(黒丸を伴う実線)で計測した298Kにおける脱気DMF中でのref-H2Pの過渡吸収スペクトルの図である。
【図6】(a)は、減衰時間プロフィールの図である。(b)は、異なるレーザー出力(5、4、3、2及び1mJ/パルス)での470nmにおける一次プロットの図である。(a)、(b)のいずれにおいても、5本の実線は、上から順に5、4、3、2及び1mJ/パルスのレーザー出力を示す。
【図7】(a)は、153Kにおける脱気DMF中での光照射下のCNC-(H2P)xのESRスペクトルを示す図である。(b)は、153Kにおける脱気したクロロホルム中でのRu(bpy)33+での化学的酸化によって生成したref-H2P・+のESRスペクトルの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ型ナノカーボンを光捕集分子で修飾したドナー・アクセプターナノハイブリッド。
【請求項2】
光捕集分子がポルフィリン骨格を有する化合物である請求項1記載のナノハイブリッド。
【請求項3】
還元したカップ型ナノカーボンとハロゲン置換アニリンとを反応させて、カップ型ナノカーボンをアニリンで修飾する工程(A)及びアニリンで修飾したカップ型ナノカーボンを光捕集分子と反応させて、光捕集分子でカップ型ナノカーボンを修飾する工程(B)を含む、ドナー・アクセプターナノハイブリッドの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−251581(P2008−251581A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87334(P2007−87334)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者〕大阪大学〔刊行物名〕平成18年度 大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻 物質生命工学コース 修士論文発表会 要旨集〔発行日〕平成19年3月5日(刊行物等)〔発行者〕社団法人日本化学会〔刊行物名〕日本化学会第87春季年会 ―講演予稿集 I〔発行日〕平成19年3月12日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】