説明

ドライクリーニング用組成物

【課題】現在一般的にドライクリーニングに使用されている石油系溶剤の代替物であり、かつ洗浄剤として界面活性剤を含まなくても石油系溶剤と界面活性剤とを含有する石油系洗浄剤組成物と同等以上の洗浄力を有する、ドライクリーニングに使用するための組成物を提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表される少なくとも一種の脂肪酸エステルを含有するドライクリーニング用組成物であって、
R1-O-(R3O)m-COR2(I)
(式中、R1は炭素数が1〜8のアルキル基、R2は炭素数が5〜21のアルキル基、R3は炭素数が2〜4のアルキル基、mは0〜5の数である。)
該脂肪酸エステル中の
(1)R2COの炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が50質量%以上であり、かつ
(2)R2COの炭素数が16〜22である脂肪酸エステルの含有量が45質量%以下である前記ドライクリーニング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライクリーニング用組成物に関する。詳しくは、環境に与える負荷を抑制した、動植物油脂由来の脂肪酸エステルを含有するドライクリーニング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水に浸さず、化学溶剤などを使って行うドライクリーニングは、水を使って行う洗濯に比べ、あぶら(油脂系)汚れをよく落とし、また衣類の伸縮が生じにくいという利点を持つ。一方、汗などの水溶性の汚れは落ちにくく、また物によっては色落ちしたり、素材自体を痛めたりすることがある。
ドライクリーニングは、ウールなどの天然繊維の洗浄において、水による一般的なウエットクリーニングと比較して繊維の膨潤を防ぐことで、衣類の収縮や型崩れなどを抑えることが可能であり、デリケートな衣類の洗浄に非常に有用である。しかし、その洗浄性はいまだ十分ではなく、溶剤の最適化や溶剤へ添加する界面活性剤の最適化が続けられている。
ドライクリーニング用溶剤としては、従来、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロルエタン、トリクロルトリフルオロエタン等のハロゲン系溶剤が使用されてきた。さらに近年では、ハロゲン系溶剤が地下汚染、大気汚染の原因となるという環境上の問題に対応して、油性汚れやスス汚れなどへの洗浄力が十分ではないパラフィン、ナフテン、芳香族炭化水素等からなる石油系溶剤に、界面活性剤などからなる洗浄剤を添加した洗浄組成物が使用されるようになっている(特許文献1,2)。
しかし、さらに環境上の問題に対応していくために、石油系溶剤を動植物油脂などを原料とした天然系溶剤へ転換していくことが望まれる。
他方、洗浄剤を使用しなくても所期の洗浄効果が得られれば、環境に与える負荷を低減できるだけでなく、経済的でもある。
【0003】
【特許文献1】特開2000−192085号公報(出願人ライオン)
【特許文献2】特開2000−192094号公報(出願人ライオン)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、現在一般的にドライクリーニングに使用されている石油系溶剤の代替物であり、かつ洗浄剤として界面活性剤を含まなくても石油系溶剤と界面活性剤とを含有する石油系洗浄剤組成物と同等以上の洗浄力を有する、ドライクリーニングに使用するための組成物を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、動植物油脂から誘導される脂肪酸エステルを採用した上、該脂肪酸エステルを構成する炭素鎖長を調節することにより、上記目的を達成できることがわかった。すなわち本発明は、下記式(I)で表される少なくとも一種の脂肪酸エステルを含有するドライクリーニング用組成物であって、
R1-O-(R3O)m-COR2(I)
(式中、R1は炭素数が1〜8のアルキル基、R2は炭素数が5〜21のアルキル基、R3は炭素数が2〜4のアルキル基、mは0〜5の数である。)
該脂肪酸エステル中の
(1)R2COの炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が50質量%以上であり、かつ
(2)R2COの炭素数が16〜22である脂肪酸エステルの含有量が45質量%以下である前記ドライクリーニング用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、石油系溶剤の代替物としての効果を有し、かつ界面活性剤を含まなくても石油系洗浄剤組成物と同等以上の洗浄力を発揮するドライクリーニング用組成物を得ることができる。
本発明の組成物は、特にスス汚れと油性汚れの複合汚れの洗浄性に優れる。特に、本発明においては、分子構造を特定し、かつ分子を構成する炭素数を最適な範囲とすることで、従来良好な洗浄力が得られていなかった毛織物や絹を素材としたデリケートな衣類において洗浄性を向上させることができる。
本発明の組成物を用いてドライクリーニングをすると、衣類等繊維製品の仕上がり感が良好である。特に、着用時にヌメリ感を感じず、良好な触感ないし風合いを付与することを可能とするものである。
本発明の組成物はまた、体積抵抗率が低く静電気をためにくいのと引火点が高いため、引火爆発の危険性が低く安全である。本発明の組成物はまた、低温流動性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において使用できる脂肪酸エステルは、下記式(I)で表され、かつ
R1-O-(R3O)m-COR2 (I)
(式中、R1は炭素数が1〜8のアルキル基、R2は炭素数が5〜21のアルキル基、R3は炭素数が2〜4のアルキル基、mは0〜5の数である。)
該脂肪酸エステル中の
(1)R2COの炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が50質量%以上であり、かつ
(2)R2COの炭素数が16〜22である脂肪酸エステルの含有量が45質量%以下である。
【0008】
上記式(I)で表される脂肪酸エステルは、当業界で公知の方法により製造することができる。
式(I)においてmが0である脂肪酸エステルは、例えば、油脂と1価アルコールとのエステル交換による方法、廃食用油と1価アルコールとのエステル交換による方法、脂肪酸を1価アルコールでエステル化する方法、脂肪酸アルキルエステルと1価アルコールとのエステル交換による方法により製造することができる。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基の炭素数は、例えば、脂肪酸エステルを蒸留することにより炭素留分をカットしたり、所望の炭素数を有する脂肪酸エステルの炭素留分を二種以上配合したりすることにより調整することができる。
【0009】
式(I)においてmが1〜5である脂肪酸エステルは、例えば、油脂とモノ又はポリアルキレングリコールアルキルエーテルとのエステル交換による方法、廃食用油とモノ又はポリアルキレングリコールアルキルエーテルとのエステル交換による方法、脂肪酸をモノ又はポリアルキレングリコールアルキルエーテルでエステル化による方法、脂肪酸アルキルエステルとモノ又はポリアルキレングリコールアルキルエーテルとのエステル交換による方法、脂肪酸アルキルエステルに直接アルキレンオキシドを挿入反応させる方法により製造することができる。
【0010】
式(I)における基R2COは、動植物油脂由来の基であり、炭素数6〜22の脂肪酸残基である。
炭素数6〜22を有する脂肪酸は、動植物油より容易に入手でき、ドライクリーニングに必要な洗浄力を確保できる範囲の炭素数を有する。脂肪酸エステルを調製するのに使用できる油脂としては植物油及び動物油を使用することができる。植物油が好ましい。植物油としては、ナタネ油、ひまわり油、大豆油、綿実油、サンフラワー油、ヒマシ油、オリーブ油、とうもろこし油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。このうち、炭素数6〜14の脂肪酸の含有量が多い点でパーム核油、ヤシ油が好ましい。動物油としては、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
基R2COの炭素数は、6〜14であるのが好ましい。洗浄力及び風合いが良好となる。基R2COの炭素数は、8〜12であるのがより好ましい。常温で液体であることから使い勝手が良く、また、静電気をためにくく体積抵抗率が低いため引火爆発性の危険が低い。基R2COの炭素数は、8〜10であるのが更に好ましい。低温でも使用しやすく、風合いがさらに良好となる。
【0011】
基R2COを構成し得る脂肪酸としては、具体的には、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸等の総炭素数6〜22の飽和脂肪酸およびパルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の総炭素数16〜22の不飽和脂肪酸などが挙げられる。このうち、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等(特にパーム核油、ヤシ油由来がよい)が好ましい。カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等(特にパーム核油、ヤシ油由来がよい)がより好ましい。カプリル酸、カプリン酸(特にパーム核油、ヤシ油由来がよい)が更に好ましい。
【0012】
式(I)における基R1Oは、炭素数1〜8の1価アルコール由来の基である。脂肪酸では融点が高い。また、脂肪酸では酸性で繊維を傷めてしまう。よって、炭素数を1以上とする(すなわちエステルとする)ことが必要である。炭素数を8以下とすることにより洗浄性及び風合いがよくなる。
基R1Oの炭素数は、1〜4であるのが好ましい。肪酸アルキルエステルを合成する際の反応性が良好で、かつエステル化やエステル交換反応時における過剰分の回収、リサイクル使用が容易である。また、洗浄性及び風合いがさらによくなる。
基R1Oの炭素数は、1であるのが特に好ましい。洗浄性及び風合いが最も良好となる。
【0013】
基R1Oを構成し得る1価アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等があげられる。このうち、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコールが好ましい。メチルアルコールが特に好ましい。
【0014】
本発明のドライクリーニング用組成物は、炭素数6〜12の脂肪酸エステルを、組成物中に50質量%以上含有するのが好ましい。50質量%以上とすることにより洗浄性及び風合いがよくなる。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは100質量%である。炭素数6〜12の脂肪酸エステルの量が多いほど洗浄性がさらに良好となる。
【0015】
本発明のドライクリーニング用組成物は、式(I)で表される脂肪酸エステル中、
(1)炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が50質量%以上であり、かつ、
(2)炭素数16〜22である脂肪酸エステルの含有量が45質量%以下である。このような範囲内とすることにより洗浄性及び風合いがよくなる。
式(I)で表される脂肪酸エステル中、
(1)炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量は好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、かつ
(2)炭素数16〜22である脂肪酸エステルの含有量は好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。このような範囲内とすることにより洗浄力がさらに向上する。
式(I)で表される脂肪酸エステル中、
(1)炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が100質量%であり、かつ
(2)炭素数16〜22である脂肪酸エステルの含有量が0質量%であるのが特に好ましい。このような範囲内とすることにより洗浄率、風合いが向上する。
【0016】
式(I)において、mは、1〜5の数であるのが好ましい。この範囲にあると洗浄性及び風合いがよい。mが5を超えると風合いが悪くなる。mは1〜3モルであるのがより好ましい。低温流動性及び臭気が改善する。mは1〜2モルであるのがさらに好ましい。この範囲内とすることにより風合いがさらに良好となる。
式(I)において、R3は炭素数が2〜4のアルキル基である。風合いと洗浄後の乾燥性がより良好となることからR3の炭素数は2〜3であることがより好ましく、洗浄性、風合い、耐加水分解性に優れる点で炭素数は3のものがさらに好ましい。
式(I)においてmが1〜5である脂肪酸エステルの具体例としては、カプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル、カプリル酸ジプロピレン、グリコールメチルエーテル、カプリル酸トリプロピレングリコールメチルエーテル、カプリン酸プロピレングリコールメチルエーテル、カプリン酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、カプリン酸トリプロピレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸プロピレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸トリプロピレングリコールメチルエーテル、カプリル酸エチレングリコールメチルエーテル、カプリル酸ジエチレングリコールメチルエーテル、カプリル酸トリエチレングリコールメチルエーテル、カプリン酸エチレングリコールメチルエーテル、カプリン酸ジエチレングリコールメチルエーテル、カプリン酸トリエチレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸エチレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸ジエチレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸トリエチレングリコールメチルエーテル、カプリル酸プロピレングリコールエチルエーテル、カプリル酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、カプリル酸トリプロピレングリコールエチルエーテル、カプリン酸プロピレングリコールエチルエーテル、カプリン酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、カプリン酸トリプロピレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸プロピレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸トリプロピレングリコールエチルエーテル、カプリル酸エチレングリコールエチルエーテル、カプリル酸ジエチレングリコールエチルエーテル、カプリル酸トリエチレングリコールエチルエーテル、カプリン酸エチレングリコールエチルエーテル、カプリン酸ジエチレングリコールエチルエーテル、カプリン酸トリエチレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸エチレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸ジエチレングリコールエチルエーテル、ラウリン酸トリエチレングリコールエチルエーテルなどが挙げられる。このうち、カプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル、カプリル酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、カプリン酸プロピレングリコールメチルエーテル、カプリン酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸プロピレングリコールメチルエーテル、ラウリン酸ジプロピレングリコールメチルエーテルといったモノ、ジプロピレングリコール付加体が洗浄性や風合いの観点で特に好ましい。
【0017】
本発明のドライクリーニング用組成物は、水分を100〜10000ppm含むことが好ましい。このような量で水分を含むことにより、本発明の組成物中に静電気をためにくくなる。100ppm未満であると静電気がたまりやすくなり引火爆発の危険性がある。水分量は300〜5000ppmであるのがより好ましい。この範囲にあると、水が組成物中で均一に存在しやすくなる。1000〜5000ppm含むことがさらに好ましい。
【0018】
任意成分
本発明のドライクリーニング用組成物は、上記脂肪酸エステルに加えて、添加剤、例えば界面活性剤(ソープ)、静電防止剤、流動点降下剤(例えば、アルキルメタクリレート系ポリマーおよび/またはアルキルアクリレート系ポリマーが挙げられ、好ましくは質量平均分子量が5千〜50万程度で、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基のポリアルキルメタクリレートまたはアルキルアクリレート系ポリマーを好適に用いることができる。具体的には、三洋化成工業(株)製アクルーブ100シリーズ(132、133、136、137、138、146、160)が、エステル化物の流動点低下作用およびハンドリング性の点でよい。)、酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール系酸化防止剤;2,2’−メチレンビス(4−メチルー6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール系酸化防止剤;テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トコフェロール類などの高分子型フェノール類;ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネートなどの硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイトなどのリン系酸化防止剤等。中でも、酸化防止効果の高い2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β―(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール系酸化防止剤や、植物油脂に含まれ人体への安全性が高いトコフェロール類が好ましい。金属腐食防止剤(例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、チアゾールなどが用いられる。中でも、流動帯電防止剤としても作用するベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体が優れている)、有機キレート剤、ハイドロトロープ剤等;及びその他ドライクリーニング溶剤、例えば石油系溶剤、テトラクロロエチレン、エタノール、バイオディーゼル、グリコールエーテル(アセテート)、シリコンなどを含有することができる。
【実施例】
【0019】
実施例及び比較例のドライクリーニング用組成物を調製するのに使用した脂肪酸エステルを以下の表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
[試料No.1〜27の調製]
表1に示した化合物を用いて、試料No.1〜22を調製した。試料No.1〜16及び22は、表1に示した化合物を単独で使用するか又は二種を混合することにより調製した。試料No.17〜21は以下のようにして合成することにより調製した。試料No.23〜27は、試料No.4, 8, 17〜19のうちの二種又は三種を混合することにより調製した。
【0022】
<試料No.17〜21の合成方法>
≪カプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料17)の調製≫
窒素導入管、温度計、攪拌機、留出管のついた4つ口フラスコに試料2(カプリル酸メチル)を100質量部、プロピレングリコールメチルエーテル(ダウ・ケミカル日本製「ダワノールPMグリコールエーテル」)を120質量部入れ、窒素を流しながら攪拌した。そこへテトライソプロピルチタネート(松本製薬製「オルガチックスTA−10」)を1.1質量部添加した。その後、100℃まで昇温し、5時間反応させ、さらにその後180℃まで昇温し5時間反応させた。その後130℃まで冷却し、130℃にて減圧(減圧度3.0kPa)し、未反応の試料2、プロピレングリコールメチルエーテルを除去した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水を7質量部添加し、テトライソプロピルチタネートを死活させ、105℃、減圧度2.0kPaにて脱水した。得られた粗製物に80℃にて酸吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業製)を3質量部、ろ過助剤ハイフロスーパーセル(セライト社製)0.5質量部、KCフロック(日本製紙ケミカル製)0.5質量部を加え、2時間撹拌し酸価低減した後、ろ過することでカプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料17)を得た。カプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル濃度(エステル交換率)は99.9%であった。
なお、カプリル酸プロピレングリコールメチルエーテル濃度は、試料17を0.1gバイアル瓶に採りアセトン10gに溶解させ、以下の条件でガスクロマトグラフィー(GC)分析を行うことで定量した。定量は、あらかじめ既知の濃度で作成した検量線にて行った。
【0023】
GC:島津製作所製、製品名:GC6A。
カラム:DEGS(ジエチレングリコールサクシネート20質量%)。
カラム温度:50℃、2分保持→250℃(10℃/分で昇温)
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
RANGE(10n):n=3
キャリアガス:N2、50mL/min
検出器:FID
注入器:1μL
【0024】
≪カプリン酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料18)の調製≫
窒素導入管、温度計、攪拌機、留出管のついた4つ口フラスコに試料3(カプリン酸メチル)を100質量部、プロピレングリコールメチルエーテル(ダウ・ケミカル日本製「ダワノールPMグリコールエーテル」)を100質量部入れ、窒素を流しながら攪拌した。そこへテトライソプロピルチタネート(松本製薬製「オルガチックスTA−10」)を1.0質量部添加した。その後、100℃まで昇温し、5時間反応させ、さらにその後180℃まで昇温し、5時間反応させた。その後170℃まで冷却し、170℃にて減圧(減圧度3.0kPa)し、未反応の試料3、プロピレングリコールメチルエーテルを除去した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水を7質量部添加し、テトライソプロピルチタネートを死活させ、105℃、減圧度2.0kPaにて脱水した。得られた粗製物に80℃にて酸吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業製)を3質量部、ろ過助剤ハイフロスーパーセル(セライト社製)0.5質量部、KCフロック(日本製紙ケミカル製)0.5質量部を加え、2時間撹拌し、酸価低減した後、ろ過することでカプリン酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料18)を得た。カプリン酸プロピレングリコールメチルエーテル濃度(エステル交換率)は99.8%であった。
【0025】
≪ラウリン酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料19)の調製≫
窒素導入管、温度計、攪拌機、留出管のついた4つ口フラスコに試料4(ラウリン酸メチル99.5%)を100質量部、プロピレングリコールメチルエーテル(ダウ・ケミカル日本製「ダワノールPMグリコールエーテル」)を85質量部入れ、窒素を流しながら攪拌した。そこへテトライソプロピルチタネート(松本製薬製「オルガチックスTA−10」)を0.9質量部添加した。その後、100℃まで昇温し、5時間反応させ、さらにその後190℃まで昇温し、5時間反応させた。その後190℃にて減圧(減圧度3.0kPa)し、未反応の試料4、プロピレングリコールメチルエーテルを除去した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水を6質量部添加し、テトライソプロピルチタネートを死活させ、105℃、減圧度2.0kPaにて脱水した。得られた粗製物に80℃にて酸吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業製)を3質量部、ろ過助剤ハイフロスーパーセル(セライト社製)0.5質量部、KCフロック(日本製紙ケミカル製)0.5質量部を加え、2時間撹拌し、酸価低減した後、ろ過することでラウリン酸プロピレングリコールメチルエーテル(試料19)を得た。ラウリン酸プロピレングリコールメチルエーテル濃度(エステル交換率)は99.5%であった。
【0026】
≪カプリル酸ジプロピレングリコールメチルエーテル(試料20)の調製≫
窒素導入管、温度計、攪拌機、留出管のついた4つ口フラスコに試料2(カプリル酸メチル)を100質量部、ジプロピレングリコールメチルエーテル(ダウ・ケミカル日本製「ダワノールDPMグリコールエーテル」)を140質量部入れ、窒素を流しながら攪拌した。そこへテトライソプロピルチタネート(松本製薬製「オルガチックスTA−10」)を1.2質量部添加した。その後、140℃まで昇温し、5時間反応させ、さらにその後220℃まで昇温し、5時間反応させた。その後140℃まで冷却し、140℃にて減圧(減圧度3.0kPa)し、未反応の試料2、ジプロピレングリコールメチルエーテルを除去した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水を9質量部添加し、テトライソプロピルチタネートを死活させ、105℃、減圧度2.0kPaにて脱水した。得られた粗製物に80℃にて酸吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業製)を3.5質量部、ろ過助剤ハイフロスーパーセル(セライト社製)0.6質量部、KCフロック(日本製紙ケミカル製)0.6質量部を加え、2時間撹拌し、酸価低減した後、ろ過することでカプリル酸ジプロピレングリコールメチルエーテル(試料20)を得た。カプリル酸ジプロピレングリコールメチルエーテル濃度(エステル交換率)は99.9%であった。
【0027】
≪カプリル酸トリプロピレングリコールメチルエーテル(試料21)の調製≫
窒素導入管、温度計、攪拌機、留出管のついた4つ口フラスコに試料2(カプリル酸メチル)を100質量部、トリプロピレングリコールメチルエーテル(ダウ・ケミカル日本製「ダワノールTPMグリコールエーテル」)を200質量部入れ、窒素を流しながら攪拌した。そこへテトライソプロピルチタネート(松本製薬製「オルガチックスTA−10」)を1.5質量部添加した。その後、140℃まで昇温し、5時間反応させ、さらにその後220℃まで昇温し、5時間反応させた。その後190℃まで冷却し、190℃にて減圧(減圧度3.0kPa)し、未反応の試料2、トリプロピレングリコールメチルエーテルを除去した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水を10.5質量部添加し、テトライソプロピルチタネートを死活させ、105℃、減圧度2.0kPaにて脱水した。得られた粗製物に80℃にて酸吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業製)を4.0質量部、ろ過助剤ハイフロスーパーセル(セライト社製)0.8質量部、KCフロック(日本製紙ケミカル製)0.8質量部を加え、2時間撹拌し、酸価低減した後、ろ過することでカプリル酸トリプロピレングリコールメチルエーテル(試料21)を得た。カプリル酸トリプロピレングリコールメチルエーテル濃度(エステル交換率)は99.6%であった。
【0028】
[脂肪酸組成分布の測定方法]
上で調製した試料No.1〜22の脂肪酸エステルをそれぞれ0.02g採取し、ヘキサン1gで希釈して脂肪酸組成分布測定用サンプルを調製し、以下の条件でガスクロマトグラフィー(GC)分析を行った。定量は、あらかじめ既知の各脂肪酸濃度で作成した検量線にて行った。得られた結果を表2〜表4に示す。
(分析条件)
機種:HEWLETT PACKARD製、製品名:5890A GAS CHROMATOGRAPH
カラム:J&W Capillary Column DB−5HT(製品名;内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm;J&W Scientific製)
温度:50→350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアガス:He、30cm/sec
注入口:350℃、Split ratio 50:1、1μL
検出口:FID、350℃
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表2〜表4に示した試料No.1〜27を用いて実施例及び比較例の組成物を調製し、各組成物の低温流動性(流動点)、引火爆発性(引火点)、洗浄率、風合い(ぬめり感)を測定ないし評価した。評価は以下のようにして行った。
<低温流動性の評価>
JIS K2269(石油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠した方法により各組成物の流動点を測定した。
<引火爆発性の評価>
引火点をJIS K2265 クリーブランド開放式に準拠した方法により測定した。
【0033】
<スス汚れと油性汚れの複合汚れの洗浄性の評価>
5cm四方の人工汚染布(EMPA社(スイス)製、EMPA107、カーボン/オリーブオイル/ウール)5枚とドライクリーニング用組成物100mLを容量220mLのガラス容器に入れ、振とう器(Shaker SA300 ヤマト科学(株)製)を用いて、20℃で250rpmの速度で10分間上下方向に振盪させ、洗浄布を回収後に、アイロン(スチームアイロン NI−SF30)にて中温(毛)の温度で布1枚当たり15秒間乾燥する工程を3回繰り返した。乾燥後に反射率計(SE2000、日本電色製)にて反射率Rを1枚ずつ測定し、下記Kubelka-Munk式に従って計算した5枚分の結果を平均した値を洗浄率とした。
Kubelka-Munk式
洗浄率(%)=(汚染布のK/S−洗浄布のK/S)×100/
(汚染布のK/S−標準白布のK/S)
K/S=(1−R/100)/(2R/100)
【0034】
<風合い(ぬめり感)評価>
乾燥後の被洗布の風合いについて、ヌメリ感として官能評価を用いて評価を行なった。
洗浄性の評価に関して記載した方法によって洗浄を行った後の汚染布について、5名の専門家によりヌメリ感に関する触感の官能評価を行った。以下の基準に準じて評点を付け、5名の平均値から以下の基準に基づき評価を行った。
評点
5点:標準白布と同等
4点:僅かに標準白布と異なる
3点:ややヌメリ感を感じる
2点:はっきりとヌメリ感を感じる
1点:非常にヌメリ感を感じる
評価基準
◎:4点以上〜5点以下(特に好ましい範囲)
○:3点以上〜4点未満(好ましい範囲)
△:2点以上〜3点未満(問題となる範囲)
×:1点以上〜2点未満(特に問題となる範囲)
評価結果を表5〜表8に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
【表7】


【0038】
【表8】

【0039】
参考例
現在ドライクリーニング洗浄剤として使用されている石油系溶剤(エクソールD−40、エクソン化学製)に洗剤(リパールDX、ライオン製)1%を配合したものは上記評価方法によると、洗浄率=56%、ぬめり感○であった。
なお、エクソールD−40はn−/iso-パラフィン約50質量%・ナフテン系約50質量%のドライクリーニング溶剤であり、単独では洗浄力が不足するため通常洗浄剤成分として界面活性剤を添加して使用している。
【0040】
<静電気抑制評価>
上に示した試料のうち、以下の表9に示した試料(試験No.1〜6)を用いて、試料中に溶解している水分量が体積抵抗率に与える影響を検討することにより、各ドライクリーニング用組成物の静電気のためにくさを評価した。
試料中の水分量は以下のようにして調整した。
〔試験No.1〜4の水分量の調整〕
試験No.1〜4の水分量は飽和量とした。すなわち、2L蓋付きガラス瓶に試料1kgと蒸留水1kgを入れ、上下に100回振とうした。その後24時間静置し二層分離させた。試料は上層で水は下層になる。上層の試料に溶解した水分量をJIS K0068カールフィッシャー法に準拠した方法により測定し、測定値を飽和量とした。なお、室温22℃、湿度60%の居室において実験を行った。
〔試験No.5〜6の水分量の調整〕
2L蓋付きガラス瓶に試料1.5kgとモレキュラーシーブス4A(純正化学製試薬)150gを入れ、上下に100回振とうした。その後、2週間静置し、試料中の水分量を低減させた。試料に溶解した水分量をJIS K0068カールフィッシャー法に準拠した方法により測定した。
このようにして水分量を調整した試料の体積抵抗率を、JIS C2101電気絶縁油試験方法に準拠した方法により測定した。得られた結果を表9に示す。







【0041】
【表9】

【0042】
石油系溶剤使用のドライクリーニング機械の引火爆発の可能性は、石油系溶剤の体積抵抗率が1010Ωcm以上(@80℃)であると静電気をためやすく、引火する可能性があるとされている。そのため、通常、石油系溶剤は体積抵抗率が1014〜1015Ωcm(@80℃)程度であるため、洗剤を添加することで体積抵抗率を1010Ωcm以下(@80℃)にしている。一方、本発明の脂肪酸エステルによれば、洗剤を添加しなくとも体積抵抗率が1010Ωcm(@80℃)であり、更に水分量を増やすことで体積抵抗率を低くすることができるため、引火爆発の危険性を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される少なくとも一種の脂肪酸エステルを含有するドライクリーニング用組成物であって、
R1-O-(R3O)m-COR2(I)
(式中、R1は炭素数が1〜8のアルキル基、R2は炭素数が5〜21のアルキル基、R3は炭素数が2〜4のアルキル基、mは0〜5の数である。)
該脂肪酸エステル中の
(1)R2COの炭素数が6〜12である脂肪酸エステルの含有量が50質量%以上であり、かつ
(2)R2COの炭素数が16〜22である脂肪酸エステルの含有量が45質量%以下である前記ドライクリーニング用組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸エステルが、式(I)においてmが1〜3である脂肪酸エステルである請求項1記載のドライクリーニング用組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルが、パーム核油またはヤシ油から導かれた脂肪酸エステルである請求項1記載のドライクリーニング用組成物。

【公開番号】特開2008−248104(P2008−248104A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91542(P2007−91542)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】